ゲストブロガー:鬼軍曹
「海外投資への扉」というサイトを運営。
独立系投信会社にて長期投資家向けのFOF(ファンドオブファンズ)の運用を担当。
運用に関しては個別銘柄の分析は投資先のファンズに任せ、主にマクロ分析と投資先のファンズのリサーチ
に専念している。ファンド運用で最も気を付けている事はボラティリティーのコントロール。
WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)のワシントンDCの敏腕記者ジョン・ヒルゼンラス(Jon Hilsenrath)氏が来日され、「WSJ ワシントンDC支局シニア・レポーターが語るアメリカ経済の今後の行方」と題したセミナーが開催され参加してきたその報告です。「海外投資への扉」というサイトを運営。
独立系投信会社にて長期投資家向けのFOF(ファンドオブファンズ)の運用を担当。
運用に関しては個別銘柄の分析は投資先のファンズに任せ、主にマクロ分析と投資先のファンズのリサーチ
に専念している。ファンド運用で最も気を付けている事はボラティリティーのコントロール。
通訳の方の翻訳とつたない自分の英語力で聞き取りしての報告です。聞き取り違いがあった際はご容赦ください。
場所は、ダウ・ジョーンズ社(WSJの発行元)のオフィスのど真ん中のスペースでした。会議室かなんかを想像したんだけど。(上の写真の左がジョン・ヒルゼンラス(Jon Hilsenrath)氏、右がWSJ日本版編集長小野由美子さん)
WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)紙について
「ジャーナル」の通称で呼ばれ、全米各地や世界の経済活動、金融に関するニュース記事を掲載している。新聞の名前は、ニューヨークにある経済活動の中心地「ウォール街」(ウォールストリート)に由来する。1889年7月8日の創刊以来発行され続けており、その間にピューリッツァー賞を26回受賞している。
「ジャーナル」のニュース・ソースは一般的に信頼度が高い、との定評がある。社説や特集ページは、典型的な保守派の立場をとっている。また、経済的には、典型的な市場原理主義・新自由主義志向である。
BY ウィキペディア
アメリカの経済情報、特にNYの金融マーケットの分析情報やFRB(アメリカ中央銀行)の金融政策、企業調査、そして上記の説明にもあるアメリカの保守本流である市場原理主義・新自由主義志向を理解するには良い情報源だと思っている。
このためWSJの敏腕記者が金融経済のフリ―ジャーナリストに転身してアメリカの金融・経済を鋭く分析した書籍を数多く出していることも特徴の一つだと思う。
ジョン・ヒルゼンラス(Jon Hilsenrath)記者はWSJの花形部門FEDウォッチャー(FRBを専門に担当する記者。日本でいうと日銀担当の記者って感じですか)ですから、相当優秀なんだろうと思っていましたが、予想通りそのようですね。
新しいFEDウォッチャーの注目株 ジョン・ヒルゼンラース( Market Hack)
彼のこれまでのWSJの記事です。
米FRBの次の措置、日本の教訓活かされる可能性(2010年 10月 13日)
タブーに踏み込むFRB(2010年 11月 5日)
バーナンキ議長、FRB緩和策への批判に反撃(2011年 2月 18日)
セミナー内容
自己紹介
ジョン・ヒルゼンラス(Jon Hilsenrath)記者は、2年前「リーマン・ショック」の頃からFRBの担当になった。
このため、金融危機以降の経験できないような激動の2年間のFRBを担当出来たことは大変貴重な経験だった。
FRBについて
FRBは、ベン・バーナンキ議長になってから透明性や情報公開(議事録の公開やTVでの国民への説明etc)が進んだ。(前議長であるアラン・グリーンスパン氏は解りにくい表現や明言しない、メディアの前で説明をしたがらなかった事とは対照的)
バーナンキ議長は言行一致しており、記者として行間を読むのに苦労する必要性はなくなった。
バーナンキ議長について
スタンフォード大学、プリンストン大学で教鞭をとったこともある学者出身のFRB議長。
冷静沈着でプライドが高く、FRB及び自分達が行っている金融政策が正しい行動だと示したいと考えている。世界恐慌及び日本のバブル崩壊後のデフレ不況の研究の大家でもある。
プリンストン大学時代のバブルやデフレ研究の際の学者としての過激な言動
「デフレを克服するには、ヘリコプターから現金をばら撒けば良い」
「日銀は買うものがなければケチャップを買えばいい」
といった発言が独り歩きし、現在、FRB議長となって揶揄されている事はについては、かなりやりにくく失敗だったと思っているらしい。
QE2(金融緩和第2弾)について
リーマン・ショック後の金融危機に立ち向かうため早い段階で金利を引き下げゼロ金利にしたが、金融システムが流動性の危機(金融機関の信用不安から資金繰りが詰まってしまい、あらゆる資産が投げ売りになる状態)に陥ったため、非伝統的金融政策である量的緩和策(QE1と呼ばれる)CP(企業が発行する短期の借入証文)やMBS(住宅担保証券)などあらゆる証券を買取りを行い金融市場に経済の血液である資金を注入した。
そして1年前から出口戦略として危機的な対応を正常化しようとしたが、春以降に景気対策が息切れし景気の二番底懸念が生まれたため再度量的緩和策QE2(2011年6月にかけて6000億ドル(約50兆円)の米国債を追加購入する計画)を実施した。
QE2(金融緩和第2弾)の目的及び狙いについて
FRBはアメリカが日本のようなデフレスパイラルに陥ることをもっとも懸念していた。(デフレに陥ると通常の金融政策が効かなくなるため 多分)
6000億ドル(約50兆円)の米国債を購入する事で長期金利を引き下げるとともに、市場参加者のアニマル・スピリットに火を付けて、デフレ期待でなくインフレ期待を持たせることで、リスクのより高い資産の購入を促すことが大きな目的。
QE2(金融緩和第2弾)の成果及び今後について
バーナンキ議長は昨年8月までにQE2の実施を決めていた。(実施の3カ月前)8月のジャクソンホールのカンファレンスで構想を発表してから11月まで実施をまったのはFRB内でのコンセンサス形成や市場へのアナウンス期間が必要だと考えていたから。
現段階で、FRBはQE2が成功を収めた と考えている。
株価上昇、アニマル・スピリットが市場に戻った事、インフレ期待を醸成できたことによってデフレリスクはコントロール可能な状態 になったと判断している。
懸念しているのは、失業率が十分下がらない、景気が浮上しない状態で、アメリカにインフレの芽が発生する事
・QE(金融緩和)3について
ヒルゼンラス記者によるとバーナンキ議長はFRBがQE2が終了する6月までに6000億ドル相当の国債買い入れを最後まで行う、との明瞭なシグナルを送っているとのこと。6月以降も金融緩和的なスタンスは続けるが、これ以上の国債の買取を行う旨の発言はない。問題はいつ金利を引き上げて金融の引き締めに入るのかだ。失業率が下がり切らず、景気が十分回復しない中で引き締めを行うことも考えられる。しかし、FRB幹部はデフレリスクを抑え込み、雇用や個人消費にも回復の兆しが出てきていることから米景気に関しては昨年に比べると楽観的に見える。
WSJ記事「米FRBはQE3に踏み切るか?」
対談&質疑応答
・G20について
FRBのQE2は、発表直後に開催された20カ国・地域(G20)首脳会議で、中国やそのほかの新興国から通貨戦争、過剰流動性の供給でインフレ圧力が高まると容赦ない批判を浴びた。これについて小野編集長が話をヒルゼンラス記者に振ると、バーナンキ議長は新興国特に中国からの批判に非常に立腹しており、FRBは中国が元を切り上げることで米中の不均衡の問題を解決するように考えている。新興国に対してはもっと景気をクールダウンさせて世界経済全体の成長を持続可能にするべきだと考えているとのこと。
中国について
・中国及び元について
ヒルゼンラス記者から会場参加者に中国の元の切り上げ問題についてどう思うか質問あり。
中国関係の金融機関のエコノミストが「為替政策で中国を説得するのは困難」とし、「中国は通貨切り上げを自殺行為とみており、かつて為替政策で日本が犯した過ちを自国は犯すまいと考えている」と発言をした。
それに対して自分は、「中国は90年代の通貨切り下げによる国民の労働力や購買力を押さえつけた形で輸出主導でテイクオフした。しかし、そのような経済モデルを中国の10数億の人口で行うのは持続不可能であり、好景気時にはインフレを不景気時には莫大な不稼働設備がデフレを招く。速やかに元の切り上げを行い労働力と購買力を回復させないと様々な弊害を中国社会に招く。国民が豊かになる前に経済成長が終焉してしまう。」と反論したが
ヒルゼンラス記者は、安い労働力でグローバル経済に参加した中国は、労働力を輸出して世界にディスインフレを招いたが、今後中国経済が成熟していけば消費経済化してインフレを呼ぶと話し
いま一つ議論はかみ合わなかった。(残念)
・アメリカ経済について
ヒルゼンラス記者からの質問、米国に移住すると仮定して、居住する州を1つ選ぶとする。いったいどこを選ぶか?
彼によると、ニューヨーク、フロリダ、それともカリフォルニアか 、こうした州はバッド・チョイス。選ぶべきはノースダコタ州とのこと。詳しくは「米国移住ならノースダコタ州がおすすめ、商品価格上昇で恩恵」参照
「米国移住ならノースダコタ州がおすすめ、商品価格上昇で恩恵」
この話は冗談めかしているが、今回のアメリカの景気回復の状況を表している。アメリカにおいて通常の景気回復の中心は個人消費だが、通常はITや住宅、金融などの業界の活況がその端緒になるケースが多いが、今回は明らかに農業(最近の農産物価格の高騰)や鉱業(石油や石炭の価格高騰、新しい天然ガスの採掘)が牽引している。このためノースダコタなどの内陸部の鉱業・農業州は失業率が低く4%程度、カリフォルニアやフロリダは12%と大きく異なる。第二次世界大戦前のアメリカは工業と農業・鉱業がバランスしていたが、今回は皆が予想していない第1次産業からの景気回復になるかもしれない。
・FRBの政治リスク、Gゼロについて
参加者からの質問として、
「QE2によて農産物価格の高騰から中東にジャスミン革命が引き起こることで、アメリカ政府からの圧力がかかることはないのか?」
「G20の国が協調できないGセロの状態で世界的に有効な政策は打てるのか?」
といった質問が出た。
前者に対しては、
前に述べた通り、現在のインフレは新興国の急成長がもたらしており、新興国は金利を引き上げるなどしてインフレの芽を摘み、世界経済全体が持続的に成長できるようにするべき。
後者に対しては
中央銀行は、自国にのみ責任を負う。2008年のリーマン・ショック以降は危機的な状況だったため、各国・各中央銀行の利害が珍しく一致したため協調できただけ。危機を脱し、景気や雇用、インフレに対して世界でまだら模様な状況のため一致した行動はとれないだろう。
QE2はアメリカ自国経済の救済のために行われており究極は他国の事情が関係ない(少し意訳しすぎか)とのこと。
これにてセミナーは終了。
自分は、ヒルゼンラス記者との名刺交換の際にいくつかの質問をぶつけてみた。
ヒルゼンラス記者への質問
・QE2は実質的な準備通貨ドルの切り下げが目的ではないか?
Q(自分):世界の外貨準備の中心となる準備通貨であるドルを発行しているFRBとしては口が裂けても言えないことかもしれないが、今回のQE2は実質的な、資産(住宅・株・債券)や他国通貨に対するドルの切り下げを狙ったものではないのか?(リスクのより高い資産の購入を促すというのはそういう意味だと思う)と質問。
A(記者):QE2実施からドル価値はむしろ上昇しており他国通貨に対しての切り下げというのは当てはまらないと思う。FRBは現在の世界経済の不均衡は先進国間(アメリカと日本、アメリカとEU)ではなく先進国と新興国間、特にアメリカと中国の間に存在すると考えている。このため円やユーロに対してドルを切り下げた認識はないと思う。但し、アメリカは経常収支の赤字と貿易赤字を是正する必要があるため、輸出を振興せねばならず、新興国通貨に対してはQE2の結果ドルが切り下がっても構わないと思っている。
少し広い意味で通貨価値の切り下げの話をしたのだが、通貨間の話だけになってしまった。ブラジルの中銀が通貨戦争なんて言ったから神経質になっていたのかもしれない。しかし、中国に対しては元を切り上げなければドルが切り下がっても良い。つまり中国が通貨水準を無理に維持して中国にインフレが起きてもFRBは関知しないということだろう。
・QE2はイールドカーブ操作も目的にしていたのか?
Q(自分):QE2でFRBは米国債を購入して金利低下を働きかけたが、10年債以上の金利は逆に上昇した。インフレ期待を抱かせればこうなることも予想できたはず。実際にFRBが購入したのは中期債5~6年債である。FRBは中期債金利を低下させ長短金利差を拡大(イールドカーブをスティープ化)させることも目的の一つではなかったのか?
A(記者):あくまでも市場参加者のアニマル・スピリットに火を付けて、デフレ期待でなくインフレ期待を持たせることで、リスクのより高い資産の購入を促すことが大きな目的だった。
イールドカーブをスティープ化させることで、銀行に滞留している資金が市中に流れやすくなるというロジックが理解してもらえず議論が深まらなかった。(残念)
ヒルゼンラス記者からの質問
・日銀の金融政策について
Q(記者):日本はデフレにいまだ苦しんでいる。なぜ日銀はもっと(金融緩和を行って)デフレと戦わないのか?
A(自分):日銀は世界の中央銀行と違って、通貨価値の維持に重きをおいて他の問題(デフレの解消)に重きをおいていない。そもそも日銀は金融政策に関して全て後手を踏んでいる。金融緩和にしても、QE1やQE2のようにアメリカが大掛かりな金融緩和を行う際に、お茶をにごすような緩和しか行わないから、円高、マネーサプライの不足でデフレから脱却できない。日本経済のため世界経済のためにアメリカよりも大胆に金融緩和を行ってもよかったのに出来ないのが日銀の最大の問題だ。(為替介入は非難されても、QE1の際ならば、世界経済救済のために何でもできたはずだし世界各国も何も文句は言わなかったと自分は思う)
多分、今回も日銀は金融緩和を遅いタイミングで小出しにしてデフレを脱却できない内に次の景気後退に見舞われるだろう。
Q(記者):今の早川総裁でもダメか?
A(自分):トップの能力や資質の問題ではないと思う。日銀独自の考え方を改めるには、日銀法の改正か日銀の考え方に染まっていない政治家出身の日銀総裁が登場するなどしてようやく政府と日銀の足並みがそろって財政出動と金融緩和を大規模に行う本格的なデフレ対応が行われると思う。
Q(記者):日本の国債残高の水準からは財政出動する余地はなくなってきているが?
A(自分):多分、次の景気後退時ないしは金融危機の際は日本政府の財政出動分の国債発行分を全額日銀が引き受けるだろう。実質的な通貨の希薄化(マネタリゼ―ション)が行われる可能性が高い。このような形でデフレ脱出に向けての調整が始まるのだと思う。
日銀のデフレ対応及び白川総裁について結構しつこく聞かれた。多分その後、白川総裁とのインタビューが入っていたからでしょう。
「特集:白川日銀総裁インタビュー」
アメリカのWSJでも大きく記事になったようですね。(自分の答えが質問になっている気がするが・・気のせいですよね)
しかし、この時期に、WSJが日銀に取材にきた意図って何なんでしょう?
まとめ
QE2は6月まで6000億ドルの米国債を買い取る事は間違いないようだ。(メディアやエコノミストの間では色々と憶測を呼んでいるが)QE3については様々な形でシグナルを出す形で継続か、QE2で終了か、明らかになるようだ。後、昨今中東で政治危機に発展している新興国のインフレ問題についてFRBは一切関知しないといことも確認できた。
■元エントリー
WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)セミナー 1
WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)セミナー 2 (バーナンキ議長の人柄 QE2とは?)
WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)セミナー 3 QE3は実行されるのか?
WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)セミナー 4 日銀の怠慢
「ジャーナル」の通称で呼ばれ、全米各地や世界の経済活動、金融に関するニュース記事を掲載している。新聞の名前は、ニューヨークにある経済活動の中心地「ウォール街」(ウォールストリート)に由来する。1889年7月8日の創刊以来発行され続けており、その間にピューリッツァー賞を26回受賞している。
「ジャーナル」のニュース・ソースは一般的に信頼度が高い、との定評がある。社説や特集ページは、典型的な保守派の立場をとっている。また、経済的には、典型的な市場原理主義・新自由主義志向である。
BY ウィキペディア
アメリカの経済情報、特にNYの金融マーケットの分析情報やFRB(アメリカ中央銀行)の金融政策、企業調査、そして上記の説明にもあるアメリカの保守本流である市場原理主義・新自由主義志向を理解するには良い情報源だと思っている。
このためWSJの敏腕記者が金融経済のフリ―ジャーナリストに転身してアメリカの金融・経済を鋭く分析した書籍を数多く出していることも特徴の一つだと思う。
ジョン・ヒルゼンラス(Jon Hilsenrath)記者はWSJの花形部門FEDウォッチャー(FRBを専門に担当する記者。日本でいうと日銀担当の記者って感じですか)ですから、相当優秀なんだろうと思っていましたが、予想通りそのようですね。
新しいFEDウォッチャーの注目株 ジョン・ヒルゼンラース( Market Hack)
彼のこれまでのWSJの記事です。
米FRBの次の措置、日本の教訓活かされる可能性(2010年 10月 13日)
タブーに踏み込むFRB(2010年 11月 5日)
バーナンキ議長、FRB緩和策への批判に反撃(2011年 2月 18日)
セミナー内容
自己紹介
ジョン・ヒルゼンラス(Jon Hilsenrath)記者は、2年前「リーマン・ショック」の頃からFRBの担当になった。
このため、金融危機以降の経験できないような激動の2年間のFRBを担当出来たことは大変貴重な経験だった。
FRBについて
FRBは、ベン・バーナンキ議長になってから透明性や情報公開(議事録の公開やTVでの国民への説明etc)が進んだ。(前議長であるアラン・グリーンスパン氏は解りにくい表現や明言しない、メディアの前で説明をしたがらなかった事とは対照的)
バーナンキ議長は言行一致しており、記者として行間を読むのに苦労する必要性はなくなった。
バーナンキ議長について
スタンフォード大学、プリンストン大学で教鞭をとったこともある学者出身のFRB議長。
冷静沈着でプライドが高く、FRB及び自分達が行っている金融政策が正しい行動だと示したいと考えている。世界恐慌及び日本のバブル崩壊後のデフレ不況の研究の大家でもある。
プリンストン大学時代のバブルやデフレ研究の際の学者としての過激な言動
「デフレを克服するには、ヘリコプターから現金をばら撒けば良い」
「日銀は買うものがなければケチャップを買えばいい」
といった発言が独り歩きし、現在、FRB議長となって揶揄されている事はについては、かなりやりにくく失敗だったと思っているらしい。
QE2(金融緩和第2弾)について
リーマン・ショック後の金融危機に立ち向かうため早い段階で金利を引き下げゼロ金利にしたが、金融システムが流動性の危機(金融機関の信用不安から資金繰りが詰まってしまい、あらゆる資産が投げ売りになる状態)に陥ったため、非伝統的金融政策である量的緩和策(QE1と呼ばれる)CP(企業が発行する短期の借入証文)やMBS(住宅担保証券)などあらゆる証券を買取りを行い金融市場に経済の血液である資金を注入した。
そして1年前から出口戦略として危機的な対応を正常化しようとしたが、春以降に景気対策が息切れし景気の二番底懸念が生まれたため再度量的緩和策QE2(2011年6月にかけて6000億ドル(約50兆円)の米国債を追加購入する計画)を実施した。
QE2(金融緩和第2弾)の目的及び狙いについて
FRBはアメリカが日本のようなデフレスパイラルに陥ることをもっとも懸念していた。(デフレに陥ると通常の金融政策が効かなくなるため 多分)
6000億ドル(約50兆円)の米国債を購入する事で長期金利を引き下げるとともに、市場参加者のアニマル・スピリットに火を付けて、デフレ期待でなくインフレ期待を持たせることで、リスクのより高い資産の購入を促すことが大きな目的。
QE2(金融緩和第2弾)の成果及び今後について
バーナンキ議長は昨年8月までにQE2の実施を決めていた。(実施の3カ月前)8月のジャクソンホールのカンファレンスで構想を発表してから11月まで実施をまったのはFRB内でのコンセンサス形成や市場へのアナウンス期間が必要だと考えていたから。
現段階で、FRBはQE2が成功を収めた と考えている。
株価上昇、アニマル・スピリットが市場に戻った事、インフレ期待を醸成できたことによってデフレリスクはコントロール可能な状態 になったと判断している。
懸念しているのは、失業率が十分下がらない、景気が浮上しない状態で、アメリカにインフレの芽が発生する事
・QE(金融緩和)3について
ヒルゼンラス記者によるとバーナンキ議長はFRBがQE2が終了する6月までに6000億ドル相当の国債買い入れを最後まで行う、との明瞭なシグナルを送っているとのこと。6月以降も金融緩和的なスタンスは続けるが、これ以上の国債の買取を行う旨の発言はない。問題はいつ金利を引き上げて金融の引き締めに入るのかだ。失業率が下がり切らず、景気が十分回復しない中で引き締めを行うことも考えられる。しかし、FRB幹部はデフレリスクを抑え込み、雇用や個人消費にも回復の兆しが出てきていることから米景気に関しては昨年に比べると楽観的に見える。
WSJ記事「米FRBはQE3に踏み切るか?」
対談&質疑応答
・G20について
FRBのQE2は、発表直後に開催された20カ国・地域(G20)首脳会議で、中国やそのほかの新興国から通貨戦争、過剰流動性の供給でインフレ圧力が高まると容赦ない批判を浴びた。これについて小野編集長が話をヒルゼンラス記者に振ると、バーナンキ議長は新興国特に中国からの批判に非常に立腹しており、FRBは中国が元を切り上げることで米中の不均衡の問題を解決するように考えている。新興国に対してはもっと景気をクールダウンさせて世界経済全体の成長を持続可能にするべきだと考えているとのこと。
中国について
・中国及び元について
ヒルゼンラス記者から会場参加者に中国の元の切り上げ問題についてどう思うか質問あり。
中国関係の金融機関のエコノミストが「為替政策で中国を説得するのは困難」とし、「中国は通貨切り上げを自殺行為とみており、かつて為替政策で日本が犯した過ちを自国は犯すまいと考えている」と発言をした。
それに対して自分は、「中国は90年代の通貨切り下げによる国民の労働力や購買力を押さえつけた形で輸出主導でテイクオフした。しかし、そのような経済モデルを中国の10数億の人口で行うのは持続不可能であり、好景気時にはインフレを不景気時には莫大な不稼働設備がデフレを招く。速やかに元の切り上げを行い労働力と購買力を回復させないと様々な弊害を中国社会に招く。国民が豊かになる前に経済成長が終焉してしまう。」と反論したが
ヒルゼンラス記者は、安い労働力でグローバル経済に参加した中国は、労働力を輸出して世界にディスインフレを招いたが、今後中国経済が成熟していけば消費経済化してインフレを呼ぶと話し
いま一つ議論はかみ合わなかった。(残念)
・アメリカ経済について
ヒルゼンラス記者からの質問、米国に移住すると仮定して、居住する州を1つ選ぶとする。いったいどこを選ぶか?
彼によると、ニューヨーク、フロリダ、それともカリフォルニアか 、こうした州はバッド・チョイス。選ぶべきはノースダコタ州とのこと。詳しくは「米国移住ならノースダコタ州がおすすめ、商品価格上昇で恩恵」参照
「米国移住ならノースダコタ州がおすすめ、商品価格上昇で恩恵」
この話は冗談めかしているが、今回のアメリカの景気回復の状況を表している。アメリカにおいて通常の景気回復の中心は個人消費だが、通常はITや住宅、金融などの業界の活況がその端緒になるケースが多いが、今回は明らかに農業(最近の農産物価格の高騰)や鉱業(石油や石炭の価格高騰、新しい天然ガスの採掘)が牽引している。このためノースダコタなどの内陸部の鉱業・農業州は失業率が低く4%程度、カリフォルニアやフロリダは12%と大きく異なる。第二次世界大戦前のアメリカは工業と農業・鉱業がバランスしていたが、今回は皆が予想していない第1次産業からの景気回復になるかもしれない。
・FRBの政治リスク、Gゼロについて
参加者からの質問として、
「QE2によて農産物価格の高騰から中東にジャスミン革命が引き起こることで、アメリカ政府からの圧力がかかることはないのか?」
「G20の国が協調できないGセロの状態で世界的に有効な政策は打てるのか?」
といった質問が出た。
前者に対しては、
前に述べた通り、現在のインフレは新興国の急成長がもたらしており、新興国は金利を引き上げるなどしてインフレの芽を摘み、世界経済全体が持続的に成長できるようにするべき。
後者に対しては
中央銀行は、自国にのみ責任を負う。2008年のリーマン・ショック以降は危機的な状況だったため、各国・各中央銀行の利害が珍しく一致したため協調できただけ。危機を脱し、景気や雇用、インフレに対して世界でまだら模様な状況のため一致した行動はとれないだろう。
QE2はアメリカ自国経済の救済のために行われており究極は他国の事情が関係ない(少し意訳しすぎか)とのこと。
これにてセミナーは終了。
自分は、ヒルゼンラス記者との名刺交換の際にいくつかの質問をぶつけてみた。
ヒルゼンラス記者への質問
・QE2は実質的な準備通貨ドルの切り下げが目的ではないか?
Q(自分):世界の外貨準備の中心となる準備通貨であるドルを発行しているFRBとしては口が裂けても言えないことかもしれないが、今回のQE2は実質的な、資産(住宅・株・債券)や他国通貨に対するドルの切り下げを狙ったものではないのか?(リスクのより高い資産の購入を促すというのはそういう意味だと思う)と質問。
A(記者):QE2実施からドル価値はむしろ上昇しており他国通貨に対しての切り下げというのは当てはまらないと思う。FRBは現在の世界経済の不均衡は先進国間(アメリカと日本、アメリカとEU)ではなく先進国と新興国間、特にアメリカと中国の間に存在すると考えている。このため円やユーロに対してドルを切り下げた認識はないと思う。但し、アメリカは経常収支の赤字と貿易赤字を是正する必要があるため、輸出を振興せねばならず、新興国通貨に対してはQE2の結果ドルが切り下がっても構わないと思っている。
少し広い意味で通貨価値の切り下げの話をしたのだが、通貨間の話だけになってしまった。ブラジルの中銀が通貨戦争なんて言ったから神経質になっていたのかもしれない。しかし、中国に対しては元を切り上げなければドルが切り下がっても良い。つまり中国が通貨水準を無理に維持して中国にインフレが起きてもFRBは関知しないということだろう。
・QE2はイールドカーブ操作も目的にしていたのか?
Q(自分):QE2でFRBは米国債を購入して金利低下を働きかけたが、10年債以上の金利は逆に上昇した。インフレ期待を抱かせればこうなることも予想できたはず。実際にFRBが購入したのは中期債5~6年債である。FRBは中期債金利を低下させ長短金利差を拡大(イールドカーブをスティープ化)させることも目的の一つではなかったのか?
A(記者):あくまでも市場参加者のアニマル・スピリットに火を付けて、デフレ期待でなくインフレ期待を持たせることで、リスクのより高い資産の購入を促すことが大きな目的だった。
イールドカーブをスティープ化させることで、銀行に滞留している資金が市中に流れやすくなるというロジックが理解してもらえず議論が深まらなかった。(残念)
ヒルゼンラス記者からの質問
・日銀の金融政策について
Q(記者):日本はデフレにいまだ苦しんでいる。なぜ日銀はもっと(金融緩和を行って)デフレと戦わないのか?
A(自分):日銀は世界の中央銀行と違って、通貨価値の維持に重きをおいて他の問題(デフレの解消)に重きをおいていない。そもそも日銀は金融政策に関して全て後手を踏んでいる。金融緩和にしても、QE1やQE2のようにアメリカが大掛かりな金融緩和を行う際に、お茶をにごすような緩和しか行わないから、円高、マネーサプライの不足でデフレから脱却できない。日本経済のため世界経済のためにアメリカよりも大胆に金融緩和を行ってもよかったのに出来ないのが日銀の最大の問題だ。(為替介入は非難されても、QE1の際ならば、世界経済救済のために何でもできたはずだし世界各国も何も文句は言わなかったと自分は思う)
多分、今回も日銀は金融緩和を遅いタイミングで小出しにしてデフレを脱却できない内に次の景気後退に見舞われるだろう。
Q(記者):今の早川総裁でもダメか?
A(自分):トップの能力や資質の問題ではないと思う。日銀独自の考え方を改めるには、日銀法の改正か日銀の考え方に染まっていない政治家出身の日銀総裁が登場するなどしてようやく政府と日銀の足並みがそろって財政出動と金融緩和を大規模に行う本格的なデフレ対応が行われると思う。
Q(記者):日本の国債残高の水準からは財政出動する余地はなくなってきているが?
A(自分):多分、次の景気後退時ないしは金融危機の際は日本政府の財政出動分の国債発行分を全額日銀が引き受けるだろう。実質的な通貨の希薄化(マネタリゼ―ション)が行われる可能性が高い。このような形でデフレ脱出に向けての調整が始まるのだと思う。
日銀のデフレ対応及び白川総裁について結構しつこく聞かれた。多分その後、白川総裁とのインタビューが入っていたからでしょう。
「特集:白川日銀総裁インタビュー」
アメリカのWSJでも大きく記事になったようですね。(自分の答えが質問になっている気がするが・・気のせいですよね)
しかし、この時期に、WSJが日銀に取材にきた意図って何なんでしょう?
まとめ
QE2は6月まで6000億ドルの米国債を買い取る事は間違いないようだ。(メディアやエコノミストの間では色々と憶測を呼んでいるが)QE3については様々な形でシグナルを出す形で継続か、QE2で終了か、明らかになるようだ。後、昨今中東で政治危機に発展している新興国のインフレ問題についてFRBは一切関知しないといことも確認できた。
■元エントリー
WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)セミナー 1
WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)セミナー 2 (バーナンキ議長の人柄 QE2とは?)
WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)セミナー 3 QE3は実行されるのか?
WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)セミナー 4 日銀の怠慢