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このルート地図は、公表された地図がデジタルで提供されなかったため、印刷した地図から再びプロットしたものです。そのため、完全に正確ではありません。
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JR東海は18日、2027年に開業を目指すリニア中央新幹線東京-名古屋間の駅の位置と路線の具体案を公表した。名古屋のターミナル駅はJR名古屋駅地下に整備。中間駅のうち、岐阜県は中津川市千旦林(せんだんばやし)のJR美乃坂本駅の北西、長野県は飯田市上郷飯沼のJR元善光寺駅の南西部に設ける。車両基地は中津川市千旦林の岐阜県中山間農業研究所中津川支所一帯に置く。
公表は、リニア事業が周辺環境に与える影響を調べる環境影響評価(アセスメント)手続きの一環。14年度中の着工に向けて計画が一歩前進し、詳細な場所がはっきりしたことで駅周辺の市街地や道路など沿線の整備が進みそうだ。
山梨リニア実験線を試験走行する新型車両L0系=8月29日、山梨県都留市で
路線距離は286キロで岐阜、長野、山梨、神奈川の各県に1カ所ずつ中間駅を設置する。名古屋から東京に向かう場合、地下30メートルに設けた名古屋ターミナル駅を出発し、愛知県内は大半が深さ40メートル以上の大深度地下を通る。
岐阜県も大半はトンネルだが、中間駅は地上でJR美乃坂本駅の北西約200メートル。3階建て駅舎とする。中間駅の北東約1キロに保守基地や工場を備えた約65ヘクタールの車両基地を設ける。リニアの本線と車両基地を結ぶ2キロの回送線は、一部が中間駅の屋上を走る。リニアは低速走行するため、路線が防音用のコンクリートの筒で覆われない見通し。地元では、見学スポットづくりが検討されている。
JR東海は11年から約2年間、騒音の予測や地質調査などを通じて路線の具体案を絞り込み、環境影響評価準備書にまとめて18日に沿線の7都県と39市町村に伝えた。工事での環境対策は、地盤沈下や水質汚染を防ぐ工法を採用し、水質や動植物の生息状況の事後調査を行う。運転時には騒音対策として防音壁や防音フードを設ける。
東京-名古屋間を40分で結び、1日平均144本、最大で1時間当たり10本運転する計画。料金は東海道新幹線「のぞみ」の指定席料金に700円を足した1万1480円を想定している。45年には大阪まで延伸する計画で東京-大阪間は67分になる。
JR東海が東京-名古屋間の詳細なルートと中間駅の位置を発表し、2027年の開業に向けて発進したリニア中央新幹線。45年に大阪へ全線開通するまで、同社が9兆円超の建設費を単独で負担する巨大プロジェクトだ。ただ、電力や地震対策など現在の日本が抱える問題と連動し、実現までには乗り越えなければならない課題もある。
(社会部・栗田晃、経済部・石井宏樹)
JR東海によると、リニアの1時間当たりの消費電力は、東京-名古屋でピーク時に約27万キロワット。1時間当たり上下計30本が運行している東海道新幹線に対し、リニアは計10本と本数は少ないが、最高時速505キロで走るため1本当たりの消費電力は新幹線よりも高くなる。
大阪までの全線開業時には上下合わせて16本に増え、さらに運行距離も延びるため、消費電力は約74万キロワットと、同区間を走る新幹線の1・4倍になる。これは、中部電力浜岡原発5号機の出力(138万キロワット)の約半分に相当する。
猛暑の今夏、中電管内の最大使用電力は、東日本大震災後で最高の2623万キロワットを記録。東京電力管内では福島第1原発の汚染水問題などで再稼働への先行きは見えない。そうした中で、安定した電力を確保できるのか。JR東海の山田佳臣社長は18日の会見で「電力がない状態のシナリオに基づいてはいない。日本が立ち直るための手段が講じられるはず」と国の政策に期待を寄せた。
太平洋沿岸に大きな被害が出ると予想されるのが、南海トラフ巨大地震だ。マグニチュード(M)9級で発生した場合、内閣府の被害想定では東海道新幹線の復旧に1カ月程度かかるとされる。1日約40万人を運ぶ大動脈のバイパスを内陸に設けることが、JR東海がリニア計画を進める大きな理由のひとつだ。
側壁に囲まれ、10センチ浮上して走るリニアは脱線の危険がなく、地震に強い構造。東京-名古屋の約286キロの9割近くが地下かトンネルとなるルートも、JRは「地震の揺れは地下深くなるほど小さい。トンネルも地上の建物より、振動の増幅が少ない」と利点を強調する。
一方、南アルプスの標高1000メートル級の地点に長さ25キロのトンネルを掘るなど、山岳部を直線で突き抜けるルートは難工事となる。工事が予定通り進むかについて、山田社長は「地質、地形も調査しているが、掘り返してみないと何とも言えない」と述べる。
JR東海で1社負担する名古屋までの建設費は5兆4千億円、大阪までで計9兆300億円を見込む。当初自治体に負担を求めていた中間駅の整備費も、自ら賄うことに決めた。同社幹部は「人の金をあてにしていたら、事業がいつまでたっても進まない」と話す。
ただ難工事で建設費が膨らむ恐れも。市民団体「リニア・市民ネット」の懸樋(かけひ)哲夫事務局長は「採算がとれなければ、税金が投入されるのでは」と危惧する。リニアの料金想定は、航空需要の取り込みを見込み、名古屋まででのぞみのプラス700円(1万1480円)、大阪まででプラス1000円(1万5050円)に抑えている。山田社長も「リニアだけでは絶対にペイしない。東海道新幹線があってこそ」と認める。
「必要か、リニア新幹線」の著書がある千葉商科大大学院の橋山礼治郎客員教授(政策評価)は「新幹線の1キロ当たりの建設費は95億円だが、リニアはその2倍。巨大プロジェクトは、いったん着工すると止められない。過去の公共事業の失敗から学べば、需要予測は厳しく行うべきだ」と指摘する。
リニア中央新幹線の今後の予定について説明する山田佳臣社長=名古屋市中村区のJR東海本社で
JR東海がまとめたリニア中央新幹線(東京-名古屋)の環境影響評価(アセスメント)準備書は、路線整備が沿線の環境や生態系に与える影響について「国の基準値以下」などと結論づけた。山田佳臣社長は18日の会見で、「さまざまな専門家の力も借りた作業の結果。客観的な検証に十分堪えられる」と自信をみせた。
準備書によると、リニアは東京-名古屋の路線約286キロの9割近くで地下トンネルを通る。最高時速は505キロ。地上走行部分は防音フードで覆うなどして、評価の指標となる新幹線の騒音の環境基準に適合させる。振動も、山梨リニア実験線の測定結果を基に、国の基準を下回るとしている。
名古屋市や東京都などでは深さ40メートル以上の「大深度地下」にトンネルを掘るが、ボーリング調査などにより地下水の水位への影響は小さいと予測。愛知県春日井市東部は1960年代まで採掘していた亜炭鉱山跡の空洞があり、着工までに安全確認の最終調査を行う。
長野県と山梨県にまたがる南アルプスを貫く約25キロのトンネル工事は地下水への影響を予測することが難しく、一部地域では着工後に影響を調べる。
走行時に発生する磁力は、沿線の一部住民から健康被害を心配する声も出ていたが、調査の結果、国の基準値を大きく下回り、人体への悪影響はないと判断した。生態系関係では、愛知県内でオオタカの生息地域と工事エリアが重なる可能性もあり、工事前後に影響を調査する。
「地形や環境影響などを考慮して、(東京と名古屋を)できるだけ直線的に結ぶ必要があると考えている」と説明してきたJR東海。長野県飯田市が国の史跡指定を進めている「恒川(ごんが)遺跡群」や、岐阜県東部に広がり、トンネル工事の残土から放射線が出ないかと住民が不安視していたウラン鉱床は、地元の要望を受けて回避するルートを選んだ。
リニア中間駅が建設されるJR美乃坂本駅(中央建物の奥)の北西部分=18日、岐阜県中津川市で
中間駅のできる岐阜県東部などでは、東京からの観光客増加に期待の声が上がる。
中津川市の北側に接する下呂市の下呂温泉。宿泊客は1990年の165万人から、2012年には100万人に減少。地元の観光協会副会長で、老舗旅館を経営する滝康洋さん(52)は「関東からの宿泊客が上向く材料になるのでは」と喜ぶ。
しかし国道が一本しかなく、駅から車で1時間かかる。冬は路面が凍結する。リニア効果を生かそうと、県は有料道路の延伸を計画している。
中津川市も同様だ。05年の越境合併で、旧中山道の馬籠宿が旧長野県山口村から中津川市に編入され、重要な観光資源になった。青山節児市長は「街道の歴史や自然が、市全体ににじみ出るようなまちづくりをしていきたい」とPRに力を入れる考えだ。
長野県飯田市では、中間駅の開業に向けた期待感が高まった。
飯田商工会議所の柴田忠昭会頭は「ルートと駅位置が決まり、地域づくりの議論が活発になる。リニア効果が地域の発展につながるような構想を提案したい」と話した。
中間駅のできる同市上郷飯沼地区の中学校3年広瀬友子さん(14)は「家が立ち退きになるかもしれないと思うと少し不安」と言いながらも、「リニアが開通したら東京や名古屋に遊びに行きたい」と夢をふくらませた。
中間駅から車で約45分の距離にある昼神温泉郷=同県阿智村=の第三セクター「昼神温泉エリアサポート」の若山和司社長は「中間駅近くの中央道座光寺パーキングエリアにスマートインターを設置すれば、アクセスが良くなる。行政や地域と一緒に要望していきたい」と力を込めた。