一面の更地が広がっていた。
トルコ北西部に位置するブルサ県。住宅街が広がるユルデュルム郡で8月、「都市改造」事業が始まった。
対象19万人。6年計画で古い建物を取り壊し、元の場所に耐震性の高い集合住宅5万戸を建てる。
街の随所に、新しい住宅街の完成予想図を描いた看板が立っている。
国を挙げての一大事業。背景にあるのは活断層だ。ブルサには二つの断層が走り、一定の周期で大地震を引き起こす。だが、一つは1556年、もう一つは1855年から動いていない。マグニチュード(M)7クラスの地震が、いつ起こってもおかしくない。
このため、行政が危険地域に指定した場所の建物を造り替える。住民合意は可能か。街並みや近隣のコミュニティーは維持できるのか。疑問は残るが、オズデミール県知事代行は「犠牲者は地震によってではなく、建物の倒壊によって出る。古い建物を完全になくし、安全なまちをつくる」と意欲を見せる。
ブルサで約40年間、ケバブ店を営むジェンギス・チャルス(55)は「対象地域は低所得者が多い。国の政策に戸惑いもあるが、来るべき地震に対し、このままでは結局、何の対策も取らない人も多いだろう」と話す。
「国家防災戦略計画」を急ぐトルコ。都市改造もその一つだ。地震、津波、地滑り、落石の4災害について、全81県での防災計画策定を目指す。
各県の人的・建物被害は。地震の想定規模は。南海トラフ巨大地震で示された詳細な想定はトルコにはない。
トルコ政府の要請に基づき、国際協力機構(JICA)は3月、海外滞在が豊富で、土木工学と都市計画が専門の長谷川庄司(55)をトルコ内閣府災害危機管理庁に派遣した。まずブルサで被害想定と防災計画をまとめ、それを全土へ広げる。
長谷川は強調する。「阪神・淡路大震災と東日本大震災を経験した私たちが伝えるべきは『最悪の想定を持て』ということだ」。一つの断層だけでなく、二つ同時に動いたらどうなるか。「想定することから始まる。日本の教訓を注ぎたい」
人口270万人。トルコ第4の都市・ブルサは、その様相を一変させようとしている。=敬称略=
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日本と同じ地震国・トルコ。今月、JICA、人と防災未来センター(神戸市)の職員とともに訪れた。動きだしたブルサの防災対策を中心に、現地の状況を報告する。(上田勇紀)
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