因果関係
意義
因果関係とは、構成要件に該当する実行行為と構成要件に該当する結果との間に必要とされる一定の原因・結果の関係をいう。
たとえば、Xが殺意をもってAに向けてピストルを撃ったが命中せず、たまたま目の前の建物が地震で倒壊したためにAが死亡した、という場合、Xの行為とAの死亡という結果との間には因果関係がないので、Xは「人を殺した」とはいえず、殺人罪の構成要件に該当しない、ということになる。
この場合、結論としては、Xには殺人未遂罪が成立することになる。たとえ結果が発生しても、実行行為とその結果との間に因果関係が認められない場合、その犯罪は未遂となる、という点に注意が必要である。
条件関係
因果関係があるというためには、まず、条件関係が認められることが必要である。
条件関係とは、その行為がなかったならば、その結果が生じなかったであろう、という関係をいう。たとえば、先に述べた、Xが殺意をもってAに向けてピストルを撃ったが命中せず、たまたま目の前の建物が倒壊したためにAが死亡した、という場合、Xの行為がなかったとしてもAは死亡していたといえるので、条件関係は認められない。
一方で、Xが殺意をもってAをピストルで撃ち負傷させたがAは運び込まれた病院の建物が地震で倒壊したことによって死亡した、という場合は、Xの行為がなければ、Aは病院に運びこまれることも病院の建物が地震で倒壊して死亡することもなかったといえるから、Xの行為とAの死亡の結果との間には、条件関係は存在することになる。
条件説と相当因果関係説
では、条件関係が認められれば、それだけで因果関係があるとしてよいのだろうか。
条件説
条件関係の有無のみで因果関係を判断する立場である。しかし、条件関係の有無のみで刑法上の因果関係を判断すると、際限なく処罰範囲が広がってしまい、妥当でないと批判されている。
判例は、被告人の行為と被害者の脳にあった高度の病的変化という特殊事情とが相まって致死の結果を生じたときは、被告人が行為当時その特殊事情のあることを知らず、また予見もしえなかったにしても、その行為と結果との間に因果関係を認める。
また、犯人の暴行によって被害者の死因となった障害が形成された場合には、その後第三者によって加えられた暴行により死期が早められたとしても、犯人の暴行と被害者の死亡との間に因果関係が認められ、傷害致死罪が成立する、としている。
相当因果関係説
条件関係が存在することを前提に、社会生活上の経験に照らして、通常、その行為からその結果が発生することが一般的であり、相当であると認められる立場である。
たとえば、先に述べた、Xが殺意をもってAをピストルで撃ち負傷させたがAは運び込まれた病院の建物が地震で倒壊したことによって死亡した、という場合は、条件関係は認められるものの、相当性が認められず、Xの行為とAの死亡との間には相当因果関係は認められない。
また、ジープを運転していたXが、過失によりAをひいてジープの屋根にはねあげたところ、同乗者が屋根からAをさかさまに引きずり降ろして道路上に転落させたため、Aが死亡した場合、このような同乗者の行為は通常予想できないことであり、Xの行為とAの死亡との間には相当因果関係が認められない。
相当性判断の基礎事情の範囲
行為から結果が生ずることが経験上相当か否かを判断するに際して、その判断の基礎となる事情を、いかなる範囲の事情と考えるか。
たとえば、XがAの頭部が破壊されてAが死亡したという場合、Aが脳梅毒を罹患していたという事実を前提として考えるならば、Xの殴打行為からA死亡の結果が生じることは社会通念上相当であるといえる。逆に、脳梅毒を患っていたという事実を前提とせずに考えるならば、相当性は否定される。
では、判断の基礎としていかなる事実までを考慮して、相当性を判断すべきか。
α 主観的相当因果関係説
行為者が行為当時認識していた事情及び認識しえた事情を基礎に相当性を判断する。
本事例では、被害者が脳梅毒にかかっていることについて、行為者が知っていたか、知りえた場合には、相当因果関係が認められる。
β 客観的相当因果関係説
裁判所における裁判官の立場に立って、行為当時におけるすべての客観的事情及び行為後における事情でも行為当時に経験則上予見可能な事情を基礎として相当性を判断する。
本事例では、被害者が脳梅毒にかかっていることは客観的事情であるため、常に相当因果関係が認められる。
γ 折衷的相当因果関係説
行為の時点において一般人が認識しえた事情をもとに判断すべきであるが、一般人に認識不可能であっても行為者がたまたま特別の事情を知っていたときはこれも考慮して相当性を判断する。
本事例では、被害者が脳梅毒にかかっていることについて、一般人が認識しえたのならば、相当因果関係が認められる。一般人には認識しえなかったとしても、行為者がそのことを知っていたのならば、相当因果関係が認められる。
ここでは、行為者が「知りえた」ときは含まれていないことに注意しなければならない。
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