憂楽帳:ネットの怖さ
毎日新聞 2013年09月14日 中部夕刊
大学生のころ、廃品回収のアルバイトをした。某有名企業の社宅から依頼され、古新聞や古雑誌の回収に向かった。トラックを運転する回収業者のおじさんは、助手席の私に向かって「今日は期待できる」と興奮気味だった。
帰ってきて荷を降ろすと、おじさんは成人雑誌の選別を始めた。「一流企業ほどいいものが出るんだ」と言って自分は「いいもの」を何冊か取り、そうでもないのを私にくれた。
「○○の社員がこんな雑誌を持っていた」。表紙の写真でも添えてネットで公開したらどうなったか。その某有名企業が廃品回収業者に苦情を言い、私の責任が追及されたかもしれない。だがツイッターもフェイスブックもない時代、某有名企業社員の秘密は私の友達数人以外には拡散しなかった。
飲食店やコンビニの店員が店での悪ふざけの様子をネットに流し、問題になっている。昔の若者だって愚行はしたが、広めるツールがなかった。ネットを活用してウケを狙った若者たちは、騒ぎになった今、ネットの怖さを実感しているだろう。【長沢英次】