打ち上げ機会増加の方策は不明確
その一方で、イプシロンの打ち上げ機会をどうやって増やしていくかの方策は、必ずしも明確ではない。計画を検討していた段階では、主に科学衛星を年2回、打ち上げることを目指していた。しかし、予算が逼迫したことからその後年1機になり、2010年度にイプシロンの開発を開始した時点では「5年に3機」にまで後退した。H-IIAで打ち上げる中型科学衛星2機を含め、科学衛星を年1機のペースで打ち上げるという意味である。
ところが、JAXA・宇宙科学研究所が立ち上げた小型科学衛星シリーズは、2番目のジオスペース探査衛星「ERG」が大幅な予算超過を起こしたために頓挫してしまった。JAXA・宇宙研は予算を組み替え、年内にも3番目の衛星を公募するとしているが、少なくともシリーズとして小型科学衛星をコンスタントに打ち上げる体制の構築には失敗してしまったわけである。
ERGを搭載するイプシロン2号機「E1」の打ち上げは、2015年度を予定している。打ち上げペースは、Mロケット時代よりも遅い。
国が開発する科学衛星以外では、汎用小型衛星システム「ASNARO」と、イプシロンによる打ち上げをセットにして販売できないかという構想もある。「ASNARO」は、経済産業省が小型衛星市場への販売を目指し、NECと共に開発しているものだ。この構想を実現するためにはまず、イプシロンによるASNARO打ち上げの実績を国費を投じて作り、「こんなに便利ですよ」と市場にアピールする必要がある。ところが、ASNAROとイプシロンの開発のタイミングが合わずASNARO初号機の打ち上げは、ロシアの「ドニエプル」ロケットで行うことになってしまった。
発展途上国には、雲を通して地上を観測できるレーダー地球観測衛星に強い需要がある。ASNAROはレーダー搭載が可能な設計となっている。ところがレーダーを搭載したASNAROは550キログラムと重く、極軌道打ち上げ能力が450キロのイプシロン「EX」では打ち上げることができない。「E1」が必要になる。
ここで見えてくるのは、経済産業省主導のASNAROと、文科省のプロジェクトであるイプシロンのすり合わせ不足だ。縦割りの弊害であり、内閣府・宇宙戦略室がどのように調整能力を発揮するかが、今後の焦点となる。
さらには、国が開発する衛星を打ち上げることで、成功の実績を積み上げていったとしても十分ではない。今のところ、商業打ち上げをどのような事業形態で行うかが未定だ。最低でも海外営業を担当する営業会社は必須である。