これがいかに異常なことか、痴漢事件に詳しい清水勉弁護士が解説する。
「一般の方は誤解していることが多いですが、痴漢事件の場合、被害者の女性や目撃者も逮捕権を持っているのです。いわゆる私人による現行犯逮捕ですね。警察はそれを追認する形で、身柄を引き取る。
ですから今回の場合、女子高生によって『逮捕』された容疑者を警察が釈放するには、痴漢被害がデタラメだという確証がなければならない。ところが当の女子高生にも事情聴取をしていないわけだから、高島平署の判断はまったくわけがわからない」
なぜこのような事態になったのか。謎を解く鍵はこの男の素性にある。男は、捜査員たちの先輩に当たる人物だった。そう、彼は警視庁の元スゴ腕刑事だったのである。
痴漢の容疑者が警視庁の大物OB—。それだけでも高島平署の捜査員たちは仰天したに違いない。さらにもう一つ、捜査の行方を決定づける重大要素があったのだが、それについては後述する。
ノンキャリながら異例の出世
その男、高田徹(仮名・64歳)はノンキャリながら、警視庁生活安全部参事官(副部長にあたるポスト)まで勤め上げ、'08年に退職。退職後は大手デベロッパーに天下りしているから、警察官としては相当の「勝ち組」と呼べるだろう。
「彼が名を上げたのは『耐震偽装事件』です。'06年当時、警視庁生活安全部保安課長を務めていた高田が捜査の指揮を執りました。姉歯秀次被告ら8人の逮捕にこぎつけたことで、警視庁内での評価が上がった。逮捕を発表する会見も仕切り、『(捜査開始後に)7kgも痩せたよ』と満足そうに語っていました」(全国紙警視庁担当記者)
しかし、この手柄話にも落とし穴があったことを忘れてはならない。逮捕当初は「耐震偽装は組織的な犯行。すべての事件は複合的につながっている」と意気込んでいたのに、後の裁判では偽装に関しては姉歯被告の単独犯であることが露呈している。
「他の被告に関しては逮捕当時に『別件』と批判された容疑で有罪に持ち込んでお茶を濁した、という経緯がありました」(前出・警視庁担当記者)
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