IS-Guardiano del Neve (Acqua)
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プロローグ1
その頃の日常は幸せな日々だった。
友人である少年と出会えば、
「宗司ー!今日こそはお前に勝つぜ!」
「ふはははは!返り討ちにしてやるぜ!」
共に通う剣道を学ぶライバルとして、互いを鼓舞しあう。
同じく友人である女子と出会えば、
「宗司!アドバイスありがとう!おかげで少し一夏と近付けた気がするぞ!」
「おう、そりゃ良かった(悪いが、それは幻想だろうなぁ……)」
先程の少年の鈍感さに歯噛みしながら、彼に寄せる恋心を応援する。
先程の少年の姉に出会えば、
「まだだ、宗司!今日は私が勝つまでやるぞ!」
「いや、今の勝利はたまたまだからな、チー姉!?だからもう鬼の百連撃は勘弁!!」
負けを認めない彼女の理不尽から逃れる。
女子の姉に出会えば、
「見て見て、そーくん!次はこんなの考えてみたぜい!」
「見せられても俺は分からん。でも、タバ姉の凄さは十分伝わるよ」
『天災』と呼ばれる頭脳は理解できなくても、彼女の頭脳の素晴らしさは理解できる。
誰もが彼と共に笑顔を浮かべる。
少年も、周りの人間につられるように笑顔を浮かべる。
どちらが最初に笑顔を浮かべたかなど分からない。
そもそも、そんなことを考える必要すらない。
そこに笑顔があるだけで、人とは幸せを感じられるのだから。
幸せな日々。
それが続くのが当然だと思っていた。
だが――――
……………………………………………………
『――――イタリアのヴェネツィア、サン・マルコ広場で爆発が起こり、多くの死傷者・行方不明者を出しました。
現地の警察はこれをテロと考え、事件解決に務めています。また――――』
多くの死傷者。
その中にあった名前は、
そして、行方不明者には、
突然その幸せは終わりを告げる。
それは、あまりにもアッサリとしいて、終わりを全く感じさせないものだった。
●
「……お父さん……お母さん」
身体のあちこちに包帯を巻いた一人の少年。
彼の頬には涙がつたっているが、それはケガの痛みによるものではない。
突然失った肉親。
その事実を信じたくないと思うと同時、
「……どうしたのかね?」
唐突に、横から声を掛けられた。
涙を拭いながらそちらを見ると、高級そうなスーツを纏った老人が立っていた。
よほどの重鎮なのか、後ろには厳つい顔の護衛らしき男達を従えている。
少年が何かを言う前に、その老人は目の前に横たわる二人を見る。
「……君のご両親かね?」
コクリ、と頷くのが今の彼には精一杯だった。
老人は何も言わない。
ギュッ、と。
ただ小さな少年の身体を抱きしめた。
「……辛かったろう」
ようやく発せられた老人の言葉は、震えていた。
その目から溢れる雫が、少年の顔に落ちる。
「本当に、辛かったね。何が起きたのか分からない内に、両親を失うのは……」
ゆっくりと老人は少年を離し、その顔を見る。
「……君さえ良かったら、私と共に来ないかね?」
――――暖かい。
純粋に。
たった一言。
それだけしか、老人からは感じられなかった。
それが、ボンゴレⅨ世との出会いだった。