インターネット上の批判が「浅い」理由

2013/09/18


内田樹先生が相変わらずよいことを仰っているので、ご共有です。


身体が攻撃性を抑制し、脳が攻撃性を煽っている

まず、人間の攻撃性に対する、非常に重要な指摘。

これ、よく逆に受け取られているけれども、最終的に人間の攻撃性をドライブしているのは身体じゃなくて脳なんですよ。身体っていうのは、どこかで抑制してるものです。(中略)勘違いしてる人多いけど、身体が攻撃性の培地であって、理性がそれを統御しているというのは嘘なんです。

この引用部分だけだとわからない人もいると思うので、たとえば実例を一つ。ミスター・ビーンの短編コメディ「Swimming Pool」を題材にしてみましょう。

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この作品のなかで、ビーンはプールの飛び込み台の上に立ち、全力で怯えます。ここ、マジで笑えます。

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後ろには子どもがニヤニヤと待ち構えています。

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頭では「かっこよく飛ばなければいけない」と考えているのに、どうしても身体がビビってしまう。

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オチは作品を観ていただくとして、このシーンは「身体っていうのは、どこかで抑制してるものです」という指摘を裏打ちする好例だと思います。この短編の場合は「自分に対する攻撃性」ですが、他者に攻撃を仕掛ける際にも、同じメカニズムが働きます(他人を攻撃するということは、自分も危害を受ける可能性がある、ということですから)。


インターネットは身体的な抑制を失わせる

その上で、ネットの批評についての問題が指摘されています。

僕はだから、インターネットは批評の場としてはまったく評価していないんです。あそこは自分のメッセージを発信してゆく場であって、他人のメッセージに関して批評的コメントを加えるということに関しては、まるで役に立ちません。身体が担保している抑制が効かなくなっちゃうから。

(中略)だから僕、基本的にネット上の批判は一切受け付けないですもん。返事もしません。「文句ある奴は家に来い」と。

これ、よくわかります。ネット上で「面と向かって言えないこと」を言う人って、これはもうどう考えても、身体性を失っていますよね。批判専用の匿名アカウントを用意するなんてのは、まさにその好例です。

身体性を欠如した人々からの批判って、「浅い」のが問題なんです。面と向かって対峙して批判をするなら、普通の人はしっかり準備をして、相手の顔色を見ながら、慎重に攻勢を仕掛けます。それはすなわち、「反撃が怖いから」です。

しかし、身体性を欠如した人々は、そうした「反撃への恐れ」がありませんから、自然と安易な発信になり、出てくる批判も表層的なものが中心になります。こちらからすると「批判するなら本気でやってくれよ…」とうんざりするような意見ばかりです。


ついでに、これも痺れます。

十七ぐらいの時に、吉本隆明の「自立の思想的拠点」を読んで、すごく感動したことがあるんです。文言は忘れましたけども、「自分の拳を通して表現できる思想以外を語るな」というような言葉で、強烈なインパクトがあった。

ぼくもしばしば「覚悟をもって批判せよ」と書いておりますが、こっちの方がかっこいいですね笑


身体を超えた呪いは、自分に返ってくる

さらに付け加えると、「バレたら困ることは、「匿名」だろうがネットに書いてはいけない」にも書いた通り、最近は匿名の発言が「身バレ」することも増えてきています。

身体性を失って、安全地帯から危険な攻撃を繰り返している人は、自分の身に呪詛が返ってくる危険も認識すべきです。「バレないと思って書いたことがバレてしまった」という惨めさは、想像するだけで十分でしょう。


ネットが批評空間として機能するようになるためには、「身体性」がひとつのキーワードになるのでしょう。脳と身体が分離した状態では、無責任な言葉しか出てきませんから。


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