簡単に生産できるようになった分、中級車市場向けの製品をつくってもほとんど利益が上がらなくなった。その元凶として労働組合をやり玉にあげることもできる。たしかに車1台を生産するのに組合労働者の賃金が1500ドルもかかっているようでは、いずれ時代に取り残されるのはまちがいない。だが、労働者が組合員であろうとなかろうと、中級車はすでに時代遅れのイノベーションなのだ。
まさに時代遅れのイノベーションだからこそ、この分野では才能や投資を集められるだけの利益が上がらないのだ。誰にでも故障しない車がつくれるのであれば、この業界にとどまる意義がどこにあるだろう? 高品質のハイソックスやつまようじ、ゼムクリップをつくろうと決めれば、もちろん米国の製造業者はつくれるにちがいない。だが、誰もがつくれる製品をつくる理由があるだろうか? 同じ製品を誰もがつくれるのであれば、当然、利益率は縮小していく。いまや自動車は「誰もがつくれる」カテゴリーに転落してしまい、この「誰もがつくれる」という事実がデトロイトの衰退を何よりも雄弁に物語っている。
■「誰もがつくれる」製品にしがみついたデトロイト
「誰もがつくれる」という点ではパソコンも同じではないかという読者もいるかもしれない。だがビッグスリーとは異なり、シリコンバレーのIT企業は以前から製品の生産を海外にアウトソーシングしてきた。IT産業の巨人アップルは「デザインド・イン・カリフォルニア(開発はカリフォルニアで)」という広告スローガンを掲げて、デトロイトの抱える問題をあざやかに浮き彫りにしてみせた。
簡単に言えば、自動車産業発祥の地として名高いミシガン州とデトロイトは、自動車生産という、とうの昔にすたれた事業にしがみついているにすぎない。誰もがつくれるパソコンを米国の労働者だけに頼って生産していたら、シリコンバレーのIT企業は行き詰まっていたにちがいない。同じように、デトロイトが破綻したのは、市の最大の雇用提供者が「誰もがつくれる」車を単にデザインするのではなく、生産し続けていたからである。
訳知り顔の評論家たちは、デトロイト破綻の原因として、労働組合の存在や犯罪の多さ、税金の高さを挙げるかもしれない。だが本当の根深い原因は、自動車が誰でもつくれる時代になり、デトロイト最大の雇用主が自動車メーカーであるという簡単な事実にある。市の最大の雇用主が、簡単にはつくれないものをつくるようになれば、デトロイトは息を吹き返すことだろう。
By John Tamny, Forbes Staff
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