だが数十億ドルもの資金をタダでは出さない連邦政府に救済されたことで、GMとクライスラーは、何かと口を挟んでくるワシントンと無気力な労働組合の手先になり果てた(政治家に借りのない、利益優先の企業であれば、シボレー「ボルト」※のような車はつくらなかったはずだ)。事態がこうなれば、才能ある優秀な人材がビッグスリーへの就職を避け、さらにはデトロイトに集まらなくなるのは当然のなりゆきではないか。こうして、ドル安に次いで、企業の活力を奪う救済措置が講じられたことで、ビッグスリーとデトロイトの没落は起こったのである。
それでも衰退の最大の要因は、疑いなく米国車の品質向上にある。現在、米国車の品質が優れていることは、購入したりレンタルしたりする利用者の誰もが認めている。そしてまさにこれこそが問題なのである。米国車の品質が向上したということは、自動車そのものが簡単に生産できる製品になったことを意味しているからだ。
■年月をかけ米国産車の品質は向上
読者のなかには、1970年代のフォードが「毎日修理が必要(Fix or Repair Daily)」とあだ名されていたことを覚えている方もいるだろう。GMとクライスラーも、製品の品質の悪さでは有名だった(クライスラーは1970年代末に経営が行き詰まり救済されている)。英国政府によって1970年代に国有化されたジャガー(注:1990年、ジャガーはフォード傘下に入った)は品質が悪く、米国のリース会社のなかには国内での取り扱いを拒むところもあった。
もちろん、自動車の品質が悪いというこれらの例が示すのは、自動車産業にまだ利益の上がる余地があったということである。そして多くの大手自動車メーカーが毎日きちんと動く車を製造できないのであれば、スタイリッシュなデザインで故障しない車をつくれる自動車メーカーにとって開拓できる市場があったことも事実である。信頼性の高い生産技術という強みをもち、燃費のよい車を生産できる日本のメーカーは故障しない車をつくることに優れ、またスタイリッシュなデザインの車づくりを得意とする欧州のメーカーは、高級車市場向けに信頼性の高い車を生産した。
時が移り現在では、自動車の品質はどれも皆、向上したように見える。なかには例外的なメーカーもあるかもしれないが、現在、車を買えば、その車は明日も、1年後も、5年後も、まずまちがいなくきちんと動くはずだ。過去5年間に新車を購入した人なら、最近の車がおしなべてほとんど故障しなくなったことにすぐ気がつくだろう。要するに自動車は、構造がシンプルでありきたりの、簡単に工場でつくれる製品になったのである。
※電気とモーターで走るGMの戦略車。発火危険性の疑いで交通安全局の調査を受けたり、計画を下回る販売で生産を一時停止したりした経緯がある。米国では政府主導で電気自動車普及に力を入れていることから、各メーカーが開発を加速させている
右へ左へ旋回し、轟音(ごうおん)を立てて上昇する……。多くの若者が超音速ジェット機の操縦を夢見て空軍を目指す。しかし、その仕事がネバダ州にあるトレイラーの中で何年間も、リモコンを使って飛行機を飛ばす仕事だとしたらどうだろうか。…続き (9/5)
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