ーーレディアの家
「ここが私の家だよ!」
言ってたどり着いた所は、花屋でした。
いや、よく見ると店先には斧や鈍器など、武器値が値札をつけて並べられている。
「花屋なのか武器屋なのか、どっちなのだ?」
「両方、お花も武器も大好きだからね」
おいおい。
こんな店で大丈夫か?と思いながら店内に入ると、そこそこ繁盛はしているようだ。
ちゃんと武器目当ての客と、花目当ての客がいる。
花と武器、互いが良質なオブジェとなっていて、奇妙なコラボレーションを醸し出している。
店内配置の妙だろうか。
「いらっしゃいませー!いらっしゃいませー!」
レディアは元気よく挨拶しながら店内に入って行く、レディアに付き従い、店の奥まで入っていこうとすると、一人の大きな中年のがカウンターから声をかけてきた。
「おかえり、レディア」
「ただいま、お父さん」
前掛を突き出た腹で押し出した、横にも縦にも大きい親父さん。レディアも背が高いがこっちはさらにでかい。
やはり親子か。
「ん?その子は?」
「あぁ、彼はゼフ君。こう見えて冒険者なんだよ」
「初めまして」
親父さんは軽く会釈をするワシをじっと見定め。
「……彼氏か?」
「ばっか!あるわけないでしょ!」
べーっと舌を出し、ワシと自分の頭上に手をかざして身長差をアピールする。
行こ、とワシの手を引き、家の奥に連れていかれる様子を、後ろで親父さんがワシを見てニヤニヤと見ていた。
連れていかれた先は小さな溶鉱炉や、釜、鉄鋼材などが積まれた作業場。
「ここで武器を作るのよ」
「すごい設備だな」
「ってもお父さんが全部揃えたんだけどね」
素人目だがこれだけの設備を揃えようとしたらかなりの金がかかるはずだ。
一人でそれだけの金を稼いだという事は、親父さんもかなりのやり手なのだろう。
「ところで念のため聞くけどゼフ君って魔導師だよね?しかも結構強い」
「……なぜわかった?言ってないと思ったが」
「いや、カンなんだけどね。カマかけただけ」
警戒の目を向けたワシの問いを、すっとぼけた答えではね返す。
うーむ……食えない奴だ。
「でもねー強い魔導師特有のオーラっての?出てるのよねぇ、多分お父さんも気付いたんじゃないかな?」
親子そろって鋭い事だ。
魔導師の纏う魔力は、魔力を持たぬ者には感じ取ることは出来ないが、熟練の冒険者などは「感覚」でそれをわかるという。
レディアもその父親も、優秀な冒険者だということだ。
「それで話っていうのはね」
ワシの思考を遮り、すぐ自分の話に持っていく。
おしゃべりなヤツだな。
「今日の夜、海辺の洞窟でニッパが大量発生するの。これを狩るのを手伝って欲しいのよ」
ニッパとは赤い甲羅と大きなハサミを持った魔物である。
経験値自体は大した事はないが、ニッパが時折落とすレアアイテム「海神の涙」という宝石がかなり高値で取引される為、よく狙われる魔物だ。
基本的にそこまでたくさんいる魔物でもないが、産卵か潮で流れてきたか、年に何度か大量発生の時期が来る。
「私一人じゃ狩れる数に限度があるし、やっぱ魔導師のゼフ君に魔道でどーん!てやっつけて欲しいのよね」
「成る程な、確かにニッパ狩りは金銭効率がよい。大量発生とくれば尚更だ。しかし他の冒険者も恐らくたくさん来るのだろう?狭い洞窟でワシの魔道を使うと横殴りをしてしまう恐れがあるぞ?」
横殴りとは、他の冒険者が戦闘中の魔物を攻撃する行為である。
魔物を倒す事で得られる経験値やアイテムは、与えたダメージが最も多い冒険者に与えられる。
つまり他の冒険者が戦っている魔物を横から強力な攻撃で倒す事と、安全に経験値やアイテムを手に入れることが出来るのだ。
これを悪用した冒険者の横行が後を絶たなかったため、故意の横殴りは法律で禁じられている。
ただしボスに関してだけは、強力な敵であるため、横殴りによる共闘は黙認されているが。
魔道は強力で範囲も広い為、よく横殴りが発生する。
故意ではないので大抵の場合は謝れば許してもらえるが、それでもトラブルが起こりやすい為、魔導師たちは人の多い狩場を嫌う傾向にある。
ワシも然り。
「それに関しては大丈夫。誰も知らない秘密の場所があるんだ」
「そうなのか?」
「私、小さい頃からあの洞窟を遊び場にしてたからね、色々穴場も知ってるワケよ。あ、でも広めちゃダメだからね?」
「わかってる。稼ぎはどうする?」
「折半でいいかな?私は案内役も兼ねてるし」
「もちろん構わない」
ワシ一人では道も分からない、袋に入るアイテムの量も限界があるしで、この話は美味しい。
「今晩すぐ、と言うなら今から準備にかからねばならない。露店もしないといけないしな。夜にまた来ればいいか?」
「あーそうね。ゼフ君がよければウチの店で、アイテム売ってもいいけど、どうする?」
「本当か?それは助かる」
露店と店ではやはり店の方が売れる可能性は高いからな。武器を求めて来る客は冒険者が多い、アクセサリーを欲しがる客層と重なるし。
「値段は……っとこんなもんでどう?」
「……少し安くないか?」
「そんな高くしても売れないって。そこまで需要あるアクセサリーじゃないし、相場よりちょい下くらいじゃないと」
「むぅ、ではそれで頼む」
レディアはプロだからな。
やはりプロの意見は聞いた方がいい。
その方が効率的だ。
「じゃあ晩飯を食べたらまた来る事にしよう」
「あまり遅くだと汽車が動いてないし、ご飯ならウチで食べてってもいいんじゃない?打ち合わせもしないとだしさ」
「む、確かに打ち合わせは大事だな……」
「おっけー!じゃ、そういうことで!」
ーーそういうことで今は夕暮れ、レディアのウチで晩ご飯をご馳走になることになってしまった。
エプロンをつけたレディアが包丁を振るっている。
トントン、とリズミカルな音と、レディアの鼻歌と重なり、心地のよい音楽となって台所に響いている。
ワシは一度テレポートで家に帰り、母さんに夜は遅くなると伝えた。
その時聞いたがミリィが何度かウチに来ていたらしい。
悪いことをしたかな、謝っておかねば……
「おっまたせー!」
エプロン姿で鍋を持ってくるレディア。
丈の短い服を着ているので、見た目はまるで裸の上にエプロンを着ているかのようだ。
……正直目のやり場に困る。
「ふふふ、どうだい?ゼフ君、ウチのレディアは、いい身体してるだろ?」
そう言いながら、親父さんはレディアの胸を、エプロンの上から揉みしだく。
大きな手の動きに応じて、白い布に覆われた丘がいやらしく形を表情を変えてゆく。
ついでにレディアも怒りの様相に表情を変えてゆく。
鍋を持つ手をプルプル震えながらも、鍋敷きの上までなんとか持っていった。
切れてる切れてる。
コト……とテーブルの上に鍋を置いた瞬間。
レディアの鉄拳が親父さんの顔面に突き刺さる。
腰の入ったいいパンチだ。
しかし親父さんは特に堪えている様子もない。
鼻血流してるけど。
「ふふふ、まだまだだな。レディアよ」
「ふつーお客さんが来てる時にそーいうことする!?」
「男は状況には流されないのだ」
「大人は空気を読むもんでしょーっ!」
……二人はテーブルから離れ、凄まじい取っ組み合いを始めた。
金が取れそうなレベルのバトルだ……
こんな環境で育ったならそりゃ強いわな。
レディアとの狩りか。
なんとも頼もしいことだ。
