アンチコンピュータ戦略(108)

GPSが679台のPCをつないでも、679倍の強さになるわけではない。
前回の電王戦では、将棋にかなり詳しい人も含めて、その点を多くの人々が誤解していたように思う。
「あから1/100」の例に倣って、もし今度、仮にGPSが「GPS1/679」を名乗って出場した場合、世間的には前回の強さ1/679と思われないだろうか。

ところでfishとは「魚」のこと。俗語として、他にいろいろな意味でも使われる。
ポーカーなどの勝負事においては「カモ、へたくそ」の意味で、対義語はshark(サメ)。

ボビー・フィッシャー(Bobby Fischer)は幼少時、年上の相手にチェスで負けた際に、「fish」とからかわれた。
生涯にわたって、あまり上品とは言えない表現で他者を罵倒し続けたフィッシャーだったが、「fish」は自分の名前に似ているためか、使わなかった。

チェスソフトのStockfishは直訳すれば「魚の干物」。
将棋ソフトのGPSFishのネーミングは、Stockfishが使われていることから。
「弱い」という謙遜や自嘲の意味ではないようで、実際に指してみればあまりの強さに、「どこがフィッシュなんだよ」と突っ込みたくなる。

  


アンチコンピュータ戦略(107)

正確な言葉は忘れたが、強い相手と戦いたいのが棋士の本能、という趣旨の羽生善治三冠の発言があったように思う。
トップ棋士と最強コンピュータの対戦が実現しないのは、トップ棋士の意思というよりは、周囲の状況が許さないから、だろうか。

soft_187ところで187図は初心者講座用の、おそらくは頻出の問題。(1)▲2五歩の継ぎ歩が作意で、(A)△同歩ならば▲同飛で、▲2四歩の垂らしと▲5五角の銀取りが見合い。(B)△3一角ならば▲2四歩△2二歩とへこませて、先手ペース・・・と断言できるかどうかはわからず、実際には難しいが、まあ気分はよい。よって▲2五歩が正解で問題ないだろう・・・と思ったものの、念のためにといまGPSに尋ねてみた。そして(2)▲2三歩(188図)が示されて驚いた。

soft_188▲2三歩に対して(A)△3一角は▲2四飛と走って、次に飛を引いた後に▲2二歩成△同角▲2四歩の垂らしがある。(B)△2三同金は▲5五角△同飛▲3二銀(189図)。

soft_189なるほどこれは技がかかっていそうだ。自分は知らなかった筋なので、メモしておく。


アンチコンピュータ戦略(106)


そういう発言をするのは、伊藤電王か一成君か、どちらかと思って、初めてPVを見てみた。

伊藤「コンピュータはプロ棋士よりもはっきり弱いということを彼らはおっしゃっていたので、その立場が逆になったときに彼らは当然受け入れるはず」
山本「どんなに偉い人も小さい子供に負ければ敗北だし、そこが将棋の良い点なんですよね。私は勝ったし、佐藤四段は負けました。ということですね」
保木「一成君が勝ったわけじゃないよね。一成君の作ったプログラムが勝った(笑)」
山本「私じゃないです。失礼しました、ごめんなさい(笑)」

なるほど、一成君でしたか。
プロ側も開発者側も、そして観る側も、遠慮せず、言いたいことを言い合うのがいいと思う。

将棋界400年の歴史を振り返っても、真に最強の存在をはっきりさせるという試みは、そう容易に実現されてきたわけではない。
現在の電王戦の枠組みでは、どうも難しいのだろう。

よほど気前のいいスポンサーがつかないと難しそうですね。

それは見てみたい。
実現すれば、盛り上がるでしょうね。

  


打ち歩詰と角不成(2)

uchifu_03▲佐伯昌優八段-△鈴木輝彦七段戦(1993年、棋王戦)より。3図は後手玉が詰むかどうかの最終盤。実戦は(1)▲8三角成と追って、△8五玉▲8六歩△同玉▲7七銀△9五玉▲9六歩△8五玉(4図)までで後手の勝ち。

uchifu_044図では▲8六歩までの打ち歩詰が打開できない。戻って、3図では(2)▲8三角不成(5図)で先手の勝ちだった。

uchifu_05以下変化はあるが、△8五玉▲8六歩△同玉▲7七銀△9五玉▲9六歩(※△9六同馬の変化は追記参照)△8五玉と同様に追った際に▲8六歩(6図)で、打ち歩詰が回避されている。

uchifu_06△8四玉▲7三銀不成(好手)△同玉▲7二角成△7四玉▲8三馬(7図)まで。

uchifu_07

uchifu_03戻って3図、コンピュータソフトならば瞬時に正解を出すかと思われるが、そうとも言い切れないようだ。
うちのGPSに考えてもらったところ、▲8三角不成は候補手に挙げられず、先手負けという判定を下していた。

uchifu_08(※追記)▲9六歩(8図)に△8五玉ならば▲8六歩で詰みだが、△9六同馬ならば詰まないようだ。以下▲同香△同玉▲8七角△8五玉▲9七桂(▲8六歩でも同じ)△8四玉▲7三銀不成△9五玉(9図)。

uchifu_09なるほど、確かにこれも打ち歩詰で詰まない。ただし局面は▲7四角成で先手の勝ちとなる。


アンチコンピュータ戦略(105)

盤外でもアンチコンピュータ戦略を取ることができる、と胸を張ってみるのもまた、人間の強さか。

もしまたアマチュアが参加できる企画があるとしたら、検討用に事前に指せなくてもいいので、ハード・ソフトともに最善最強、本気モードの巨大クラスタGPSと対戦してみたい、と思っているアマチュアは少なからずいるのではないだろうか、とも思った。

  


アンチコンピュータ戦略(104)

soft_183本日放送のNHK杯▲森内俊之名人-△松尾歩七段戦の最終盤より。▲4五桂に対して、実戦は(1)△6七とだったため、▲3三桂不成△3二玉に▲4五角が詰めろ逃れの攻防手となって、先手の逆転勝ち。GPS先生に尋ねてみたところ、代わりに(2)△5五角が示された。仮に▲3三銀(▲5三桂不成以下の詰めろ)にはどうするか。

soft_184

soft_185GPS先生の答えは△7六馬で明快。以下▲7六同銀△8八飛▲同金△同角成▲同玉△7八金。華麗に駒を捨てて、先手玉はきれいに詰んでいる。

soft_186


アンチコンピュータ戦略(103)

クールですね。カッコいい。
レイ・チャールズみたいだ。

ところで、人間がコンピュータ将棋に対して抱く感情は、いわゆる「不気味の谷」の概念でも説明できるだろうか。


アンチ・コンピュータ戦略(102)

ガルリ・カスパロフがディープ・ブルーに敗れたのは1997年5月。
この年の10月、株式市場が暴落をした翌日、当時を代表する天才トレーダーのビクター・ニーダーホッファーが破産した。

――敗北と決まった瞬間、何を考えましたか?
ビクター 私には六人の娘がいるので、自殺はできなかった。
――今は?
ビクター 心の平安を取り戻すため、趣味に気持ちを傾けている毎日なんだ。趣味の一つはチェスのレッスンを受けることだ。損失から気を紛らわすためにね。日本ではキャリアに行き詰まると何をするのかい。ゴルフでもするのかい。
――日本にも「囲碁」とか「将棋」という日本式のチェスをする方もいますね。
ビクター そうか、日本人もチェスをするのか。
(『マネー革命』[1]NHK出版)

失意の日々を送る中、ビクターはアーサー・ビスガイアとチェスを指している。

ビスガイア 金融界の人たちはチェスが好きだねえ。ジョージ・ソロスもにも教えているんだが、ソロスの腕もなかなかのもんだよ。
(『マネー革命』[1]NHK出版)

トレード系の本を読むと、日本ならば将棋、海外ならばチェスの達人の言葉が引かれていることが多い。
ビクターは様々な分野に造詣が深く、チェスもその一つで、著作では何度もチェスによる喩えが登場する。
The Education of a Speculator』の表紙は、著者の前にチェスの盤駒が置かれている。

ビクターをはじめ、知識や経験も十分なはずの多くのトレーダーが、1997年10月のニューヨーク株式市場の暴落を予測できず、致命的な損失を被った。
しかしビクターの弟で、ビクターとは別にヘッジファンドを設立しているロイ・ニーダーホッファーは、逆にこの暴落で売り(ショート)のポジションを取り、大きく儲けている。
暴落を予測したのはロイ自身ではなく、ロイが開発したコンピュータソフトだった。

  

追記。星新一のエッセーより。

将棋のプロが、株について語る。よく見かけるが、これも、ちょっとおかしい。将棋で、プロとアマのちがいがいかに大きいか、ご当人は、よく知っておいでのはずだ。
しかし、株については、アマではないか。株のプロはどうなのか知らないが、その分野で頭を使いつづけの人以上とは、とても思えない。占い師の助言で株をやるのと、大差ないのではないかな。
(星新一「発想のもと」新潮社文庫『きまぐれ遊歩道』所収)

おっしゃることごもっともで、将棋の才能と投資の才能はもちろん別に考えるべきと思うが、筆者にはめずらしいほどの強い非難の調子なので、ちょっとびっくりした。
よほど腹立たしかったのだろうか。

軍事上の才能と、ボードゲームやカードゲームの才能もまた、別のもの。
そういえばナポレオンもチェスはそう得意ではなく、「トルコ人」に短手数で負けたんだっけ。

 


アンチコンピュータ戦略(101)

1990年4月に出版された『HOW COMPUTERS PLAY CHESS』(邦訳タイトル「コンピュータチェス 世界チャンピオンへの挑戦」)を読んだ。
そこで紹介されているチェス界の様子がちょうど、現在の将棋界のようかな、と思った。
時系列で箇条書きすると、こんな感じ。

【98年】ディープ・ブルーの前身ソフト、ディープ・ソートが史上初めて人間のグランドマスターに勝つ。
【89年】5~6月にカナダのエドモントンでおこなわれた世界コンピュータチェス選手権でも優勝。
この大会の際におこなわれたアンケート「コンピュータが世界チェスチャンピオンをいつ破るかについての予測」では、1995年から2000年までの年をあげている開発者が多かった。
【89年】10月、ディープ・ソートが世界チャンピオンのガルリ・カスパロフと対戦。2連敗。
【90年】2月、ディープ・ソートが前世界チャンピオン、アナトリー・カルポフと対戦。敗れたものの善戦。
【90年】4月、メフィストが24面指し中の1枠でカルポフと対戦し勝利。(カルポフ側から見れば、メフィストに敗れただけの23勝1敗)

ディープソートがコンピュータチェスの頂点に立ち、カスパロフと対戦したのが1989年。

チェスの実力者たちは、様々な理由でコンピュータと試合するのを度々辞退してきたが、Kasparovはそうはしなかった。こよなくチェスゲームを愛するがゆえに、そして激しいまでの闘争心ゆえに、Kasparovは世界最強のチェスマシンをむしろ喜んで相手として迎えたのであった。火星人のチャンピオンが果たし状を持って地球に乗り込んできたとしても、すぐに挑戦を受けてたつのはKasparovだろう。
(「コンピュータチェス 世界チャンピオンへの挑戦」
D.リービ/M.ニューボーン=共著
小谷善行=監訳 飯田弘之/乾伸雄/吉村信弘=共訳)

ディープブルーがカスパロフに六番勝負で勝ったのが、その8年後の1997年。

ボナンザがコンピュータ将棋選手権に優勝し、渡辺明竜王と対戦したのが2006年度。
それに8を足せば・・・。2014年度、か。