「1万時間の法則」で有名な近年のベストセラー、『天才! 成功する人々の法則』(マルコム・グラッドウェル著、勝間和代訳)より。
複雑な仕事をうまくこなすためには最低限の練習量が必要だという考えは、専門家の調査に繰り返し現れる。それどころか専門家たちは、世界に通用する人間に共通する”魔法の数字(マジックナンバー)”があるという意見で一致している。つまり一万時間である。
「調査から浮かびあがるのは、世界レベルの技術に達するにはどんな分野でも、一万時間の練習が必要だということだ」
そう述べるのは、神経学者のダニエル・レヴィティンである。
「作曲家、バスケットボール選手、小説家、アイススケート選手、コンサートピアニスト、チェスの名人、大犯罪者など、どの調査を見てもいつもこの数字が現れる。(後略)」
人間の学習とコンピュータの自動学習を単純に比較することはできないが、取り組む時間の絶対量という点ではもちろん、人間はコンピュータには勝てない。
コンピュータは1年=8760時間、休むことなく学習を続けられるわけで。
ところで、ビル・ジョイに関する同著の記述より。
最後の喩えは、わかりやすい。
1970年代はじめ、ジョイがプログラミングについて学んでいたころ、コンピュータの大きさは部屋ほどもあった。一基(いまの電子レンジほどの能力もメモリもなかっただろう)が、1970年代の価値で100万ドル以上することさえあった。コンピュータは珍しく、目にしたとしても、アクセスできなかった。たとえアクセスしても、莫大なレンタル料がかかった。
そのうえ、プログラム作りはひどく退屈なものだった。コンピュータのプログラム作成には、厚紙のパンチカードが使われた時代だ。(中略)コンピュータは一度にひとつのタスクしか処理できなかったし、大勢が順番を待っていれば、カードは数時間後、ときには翌日にならないと戻ってこない。(後略)
1960年代半ばには、その問題の解決法が明らかになった。コンピュータがようやく、同時に複数の”命令”を処理できるようになったのだ。コンピュータ科学者は気づいた。OS(基本ソフト)を改良すれば、タイムシェアリング(一基のコンピュータを共同で使用すること)が可能だ、と。数百ものタスクを同時に処理できるかもしれない。(後略)
「パンチカードとタイムシェアリングの違いは何だと思う?」。ジョイが訊ねる。
「郵送でチェスをするのと、高速で指しあうスピードチェスの違いだ」。プログラムづくりは苛立たしい作業ではなくなった。楽しいものになった。