記者の目:JR北海道、事故多発=遠藤修平(北海道報道部)
毎日新聞 2013年09月17日 東京朝刊
実はこの部品が壊れて発煙する事故は、昨年9月にも起きていた。3回発生した同一部品の損傷。最初の破損部品の調査がどうなっているのかをJR北海道に問うと、「製造元に送って調査してもらっている」という説明だった。「一つの部品の調査に10カ月もかかるものなのか」。疑問に思い製造元の日本法人に取材したところ、「部品は届いていない。JRから受け取ったのは部品の写真と書類だけ」という回答だった。JR側の説明と食い違っていることに驚き、改めて問い合わせると、所在がわからなくなっていることは認めたが、「部品は発送して代理店にも届いている。弊社側に責任はない」と強弁した。
ところが、社内調査の結果、送付したことを示す書類はなく、「代理店に届いている」としていた破損部品は別のものだったことが判明した。ようやく「JR側で紛失していた可能性が高い」と認めた。乗客の生命にかかわる事故を起こしながら、原因分析がずさんなことに怒りがこみ上げた。結局、3回の出火・発煙事故が起きた原因は今も不明のままだ。
◇高速化を優先、整備なおざり
JR北海道は、多発する事故対策として、11月から札幌と函館や旭川、釧路を結ぶ特急列車の「減速減便」に踏み切ると発表した。予備車両を増やして車両運用に余裕を持たせることで点検・整備にかける時間を増やす。ダイヤ改正で乗客が年間28万人減り、16億円の減収が見込まれる。国交省によると、鉄道事業者が安全対策として「減速減便」を行うのは異例だ。
広大な北海道では、高速バスやマイカー、航空機との競争が激しい。「旅客輸送の高速化」は、1987年に発足以来、経営課題だった。時間短縮による利便性の追求は、民間企業として当然ともいえる。野島誠社長は記者会見で「特急の高速化自体に間違いはなかった」と釈明した。
だが、収益性を犠牲にしてまで整備の時間を確保しなければならなくなったのは、「効率化のため、予備車両をできるだけ減らすという観点でやってきた」からだという。安全を軽視してまで「高速化」を進めてきたと認めたも同然ではないか。