記者の目:JR北海道、事故多発=遠藤修平(北海道報道部)
毎日新聞 2013年09月17日 東京朝刊
◇届かぬ亡き社長の思い
特急列車の出火・発煙事故を、今年に入り7件も起こしたJR北海道は、1日につき特急列車14本を運休中だ。お盆期間中には大雨による貨物列車の脱線事故も重なり、利用者の不信が渦巻く。なぜ、事故が相次ぐのか。背景に、役員にも社員にも、鉄道事業者としての安全意識の低さ、責任感の希薄さがあると感じている。
日本海に面する北海道石狩市弁天町の石狩浜海水浴場。2011年9月12日、社長だった故・中島尚俊氏(当時64歳)はこの近くから海に入り、命を絶ったとみられる。きっかけは4カ月前の5月27日、占冠(しむかっぷ)村の石勝(せきしょう)線で特急が脱線炎上し79人が負傷するという大事故が起きたことだった。乗客の避難誘導の遅れも指摘され、国土交通省から事業改善命令を受けるなど対応に追われていた。
今月12日未明、私はこの砂浜を訪れた。暗闇の中、砂に足をとられながら海に近づくと、波打ち際との境目がわからず身がすくんだ。海水は思いのほか冷たい。中島氏はここに立った時、どんな思いだったのだろう。「全社をあげて企業風土の改善に取り組んでいる時に、真っ先に戦線を離脱することをお詫(わ)びいたします」「『お客様の安全を最優先にする』ということを常に考える社員になっていただきたい」。中島氏が遺書にしたためた言葉を思い出した。
◇出火・発煙の原因部品紛失
今のJR北海道社員に、中島氏の悲痛な叫びが届いているとは言い難い。それを実感したのは、出火・発煙事故の原因とみられるエンジン部品を、詳しく調査しないまま紛失させたことだ。今年4月、函館線八雲(やくも)駅で停車中の特急北斗20号から出火する事故が起きた。原因はエンジン部品の破損だったと判明した。さらに7月にも函館線を走行していた特急北斗14号で出火事故が発生、乗客200人が避難した。車体部分に焼けた跡がはっきりわかるほど激しい出火で、原因は同じエンジン部品だった。