ひと:坂東元さん=ボルネオ島の熱帯雨林に日本から「恩返し」
毎日新聞 2013年07月11日 東京朝刊
◇坂東元(ばんどう・げん)さん(52)
年間200万人近くが訪れる人気動物園で、動物を生き生きと見せるプロ。なのに野生のオランウータンを見たことがなかった。5年前、マレーシア・ボルネオ島の熱帯雨林を初めて訪れ、「たくさんの命が守られている」と圧倒された。
その熱帯雨林が、パーム油生産のためのアブラヤシ農園に姿を変えている。野生動物はすみかを追われ、互いに距離を置いて暮らすボルネオゾウは農園に迷い込み、害獣として時に殺される。「だから森林破壊はいけない、と言うのは簡単ですが、日本がパーム油を年間約60万トンも輸入していると知ったら?」
野生動物が人と衝突せずに移動できる「緑の回廊」作りを目指すNPO「ボルネオ保全トラスト・ジャパン」の理事として、「恩返しプロジェクト」を率いる。売り上げの一部が寄付される専用自動販売機の設置を呼びかけ、集まった寄付金でゾウの一時保護施設を計画した。大成建設などの協力で秋にも開所式の運びだ。
地元の北海道旭川市では、小学生が自分の暮らしとボルネオのつながりを1年かけて学ぶ。「現地に恩返ししたい」という言葉が子どもから自然に出てくる。「即席麺、菓子、粉ミルク、洗剤。パーム油の恩恵を受ける僕らが、ボルネオから奪ったものを何かの形で返せる仕組みを作りたい」
まずはONGAESHIを国際語にしたい。「ぴったりの英語がないんです」。アイデア園長の発想は休む暇もない。<文と写真・元村有希子>
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■人物略歴
旭川市生まれ、獣医。2009年から旭山動物園長。プロジェクト概要はhttp://www.bctj.jp/project/rescue.html