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Listening:<家族と司法>多様性を求めて/上 相続差別、違憲判断 「私は2分の1じゃない」

2013年09月06日

◇婚外子「早期法改正を」

 明治期に設けられ、「婚外子差別」の象徴とされてきた民法の規定が4日、100年以上を経て最高裁に「違憲」と断じられた。「子供はみな平等。当たり前のことがやっと認められた」。1995年に出された合憲判断から18年。長年にわたって差別撤廃を訴えてきた人たちは、ようやく覆った司法判断を歓迎するとともに、早期の法改正を訴えた。

 「私の生きる重みは2分の1ではない。ようやく、自分の価値を取り戻した」。相続差別を不当と訴えた和歌山県に住む婚外子の40代女性は、最高裁の決定を受け和歌山市内で記者会見し、喜びをかみしめた。「父に『お父さんが願っていた通りになったよ』と伝えたい」

 亡父が営んでいたレストランで1966年に母が働き始めた。父は結婚していたが妻子と別居。母と暮らし、婚外子として姉と自分が生まれた。

 2001年に父が他界して遺産分割に直面し、初めて差別の壁にぶつかった。死の直前、父は母に「店を任せたい」とメモを記し、弁護士を呼んだ。婚外子である自分たちにも遺産を平等に分けるよう遺言を残すつもりだったのだろう。だが、弁護士と会う予定だった日に亡くなった。

 規定に従えば相続財産は嫡出子の2分の1。「命の重みが半分」と言われたようで納得できず、05年7月に調停を申し立てた。「子供に何の責任があるのか。選んで生まれてこられるなら、この境遇は選ばない」。そんな思いに駆られた。

 それから8年を経た違憲判断。「一日も早く法改正され、社会から差別の意識がなくなることを望みます」。背筋を伸ばし、前を向いて語った。

 代理人の岡本浩弁護士は上京し、最高裁の前で「憲法違反」と書かれた紙を高く掲げた。記者会見で「婚外子の無念の思いが、ようやく解消される時を迎えた」と語り、「全員一致の結論は、立法府に法改正を早くやれというメッセージだ」と訴えた。

 一方、嫡出子は「私たちは幸せな家庭を壊され、家から追い出された。違憲判断は日本の家族形態や社会状況を理解しておらず、絶望した」と無念のコメントを出した。

   ◇  ◇

 最高裁が規定を合憲としたのは95年。だが、その2年前に別の家事審判で東京高裁が示した初の違憲判断は確定している。その高裁判断を勝ち取った東京都の女性ピアノ教師(59)は「本来はここまで待つことなく、法改正されるべきだった」と語った。

 幼い頃から、女性は母と姉の3人暮らしだった。母には離婚経験があり、姉は前夫との間の子。一方、女性の父は別に妻子がいた。小学生の時、姉が少し意地悪に言った。「私たちはお父さんが違う」。姉は嫡出子だが、自分は婚外子。境遇を少しずつ理解し、20代で差別規定も知った。

 80年に母が息を引き取った。姉から母の遺産の全容を知らされぬまま、不動産の一部だけを相続した。87年に父が他界すると、父の親族が言い捨てた。「あなたが生まれて周りがどんなに不愉快だったか」。遺産は渡さないという態度だった。

 存在が無視されたようで、遺産分割の調停を申し立てたが、調停委員からも心ない言葉を浴びせられた。「婚外子は(周囲に迷惑な)加害者なんだ」

 女性はずっと独身で過ごしてきた。就職でも積極的に前に進めなかった。それでも、20年前の違憲判断に誤りはなかったと信じている。「法律が子供を差別してはいけない」と思うからだ。【和田武士、川名壮志、竹内望、石川淳一】

    ◇

 家族制度の根幹をなす民法の規定に最高裁が違憲判断を示した。家族の形と司法の関わりを探った。

 ◇欧米諸国はすでに撤廃

 婚外子の相続差別規定は、家族の多様性を認める1960年代以降の国際的な機運の中、欧米諸国では相次いで撤廃された。先進諸国の中で規定を残すのは日本だけとされ、国連は繰り返し是正を求めている。

 欧州では婚姻を尊重するキリスト教思想もあり、夫婦関係を守るために規定を設けたとされる。だが、女性の社会進出や「子どもの権利条約」制定などに伴って法改正が加速。日本の法制審議会が相続格差規定の撤廃を含む民法改正を答申した96年には、独と仏が規定を残していたが、独が98年、仏も2001年に撤廃した。

 国連は93年以降、日本政府に規定撤廃などを再三求めているが、政府は「法律婚の尊重と婚外子の保護との調整を図ったもので、不合理な差別規定ではない」と反論してきた。

 日本弁護士連合会「両性の平等に関する委員会」の道(みち)あゆみ委員長は「日本が取り残されている原因には、国会の保守性や司法の消極性が挙げられる。違憲判断を機に、家族の多様性や子供の権利、女性の社会的地位を広く認め、法改正につなげるべきだ」と話す。【石川淳一】

 ◇戸籍法、改正も検討 現状は婚外子記載義務付け

 最高裁決定を受け、法務省は民法改正と併せ、出生届に婚外子かどうか記載することを義務付けた戸籍法も改正する方向で検討を始めた。戸籍法49条は、出生届に記載しなければいけない事項の一つとして「嫡出子または嫡出でない子の別」と規定。実際の出生届には、「嫡出子」「嫡出でない子」のいずれかにチェックする欄が設けられている。

 市民団体などからは規定撤廃を求める声が上がり、昨年4月の東京地裁判決も「規定は差別を助長するとの見方があり、憲法上の疑義がある」と指摘していた。【伊藤一郎】

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