主演舞台「放浪記」などで知られる女優の森光子さんが10日午後6時37分、肺炎による心不全のため都内の病院で死去した。92歳だった。14日に近親者のみで密葬を済ませた後に発表された。1961年に初演の「放浪記」は前人未到の上演2017回を達成。女優として初めて国民栄誉賞を受賞した。また、少年隊の東山紀之(46)と“永遠の恋人”を印象づけるなど、最期まで変わらぬ若さを貫いた。後日、本葬を行う。
森さんが80年近い女優人生に幕を閉じた。東宝演劇部を通して書面でコメントした甥(おい)の柳田敏朗氏によると、森さんは最近、栄養管理のために短期間入院することがあり、9月から大事を取って入院。そのまま帰らぬ人となった。「静かに眠るように息を引き取った」という。
この日、親族のみで密葬が行われた。生前からの本人の希望だった。柳田氏は「これまでは仕事柄、ゆっくりと時間が作れなかったので、家族とともに、この最期の時を一緒に過ごすことができましたこと、ありがたく存じております。本人にとっては大変に幸せな人生であったと存じます」とつづった。
森さんは61年に女流作家・林芙美子の半生を描いた芸術座「放浪記」に初主演し、芸術祭文部大臣賞を受賞。舞台女優としての地位を築いた。同舞台への出演はライフワークとなり、おなじみの、でんぐり返しは87歳で封印するまで続けた。09年5月の公演で前人未到の上演2017回を達成。同7月に史上17人目、現役女優としては初めて国民栄誉賞を受賞した。
しかし、翌2010年5~6月の公演は、4時間超の舞台を2か月続けることが困難との医師の診断を受け、中止。自身で下した決断だったが、その後も舞台復帰への意欲は衰えず、日課となっている1日100回のスクワットを続けていた。
同5月に日テレ系の番組に出演した際には、このスクワットを実際に披露。2017回の公演を振り返り、「苦労は覚えていません。忘れちゃうんです。それが長く続ける秘けつかもしれません」と説明した。夢をつかむためのアドバイスを問われると、「ひとつのことをやり遂げるのに絶対にあきらめない、そして飽きないこと」と語っていた。
公の場は10年2月の舞台「新春 人生革命」が最後となったが、今年1月22日に撮影された近影が、同2月に公開された。ミュージカル「Endless SHOCK」に主演する「KinKi Kids」の堂本光一(33)を激励するためで、同作のポスターを以前と変わらぬ笑顔で掲げているものだった。
森さんは35年にデビュー。58年に梅田コマ劇場「あまから人生」を観劇した劇作家・菊田一夫さん(故人)に見いだされ、上京。「花のれん」で芸術座の舞台に立った。テレビ出演も多く、TBS系「時間ですよ」で風呂屋のおかみさんを演じ、庶民的なイメージが定着。62、78、84年と3度、紅白歌合戦の司会を務めた。
芸能界の「ゴッドマザー」としても存在感を発揮し、ジャニーズ事務所のアイドルと親交が深いことは有名。少年隊・東山とは、永遠の恋人を貫いた。交友関係は幅広く、多くの著名人から慕われていた。
◆森 光子(もり・みつこ)本名・村上美津。1920年5月9日、京都府生まれ。35年に芸能界デビュー。代表作「放浪記」には、61年から2009年まで2017回出演しており日本最多記録。大衆演劇の第一人者としての地位を確立した。テレビでは「時間ですよ」や「3時のあなた」「NHK紅白歌合戦」の司会などで活躍。84年紫綬褒章、92年勲三等瑞宝章、05年文化勲章。09年国民栄誉賞。血液型B。プライベートでは、46年に日系2世の米兵リチャード・ウエムラと結婚するも、1週間後にウエムラは帰国。以後再会せず。59年にはテレビディレクターの岡本愛彦氏と結婚。63年に離婚した。
[2012/11/15-06:05 スポーツ報知]