今国会で審議入りが予定されていた定住外国人に地方選挙権を付与する法案が審議延長となった。またこれに対抗する目的で提案された「特別 永住者等の国籍取得の特例に関する法律案」も継続審議となった。この二法案は私たち在日コリアンにとって、その将来を左右する重大な事案であると同時に、日本社会が多民族多文化共生社会へと転換する上で岐路をなす重大な懸案である。私たちはそのように重要な、在日コリアン社会と日本社会のあり方を左右する二法案に対して、以下のように見解を明らかにするものである。
1.国籍取得特例法案に断固反対する
昨年7月に公明・保守両党が「永住外国人地方選挙権付与法案」を提出して以降、一部右派政治家・マスコミを中心に地方参政権に反対する動きが顕在化し、今年1月には与党3党で「国籍等に関するプロジェクトチーム」が発足、そして4月には「特別 永住者等の国籍取得の特例に関する法律案」が発表された。同法案は民族名の使用を可能にするなど、これまでの帰化制度を部分的に改正したようにしているが、非常に重大な問題をはらんでおり、私たちは断固反対するものである。
(1)当事者不在の法案に断固反対する
まず何よりも問題なのは同法案が当事者を排除したまま一方的に提案されたことである。特別 永住資格を持つ在日コリアンは、日本の植民地時代には日本国民(帝国臣民)とされ、解放後は1952年のサンフランシスコ講和条約発行時に、日本政府の内部通 達により日本国籍を喪失した。日本籍として扱われようが、外国籍として扱われようが、在日コリアンの国籍は日本政府の「都合」によって、当事者不在で一方的に変えられてきた。それがまたもや繰り返されようとしているのだ。私たちは「国籍取得特例法案」が在日コリアン社会の将来に大きな影響を及ぼすことが明らかであるにも関わらず、在日コリアンをはじめ在日外国人コミュニティと何らの真摯な対話もなく、地方参政権付与に対抗するがために提案されてきたことに、驚きと怒りを禁じ得ない。日本政府・国会は、すぐに同法案を撤回すべきである。
(2)地方参政権潰しの法案である
そもそも「国籍取得特例法案」が提案された経緯は、「地方選挙権法案」が提案されたことに対する対抗策であった。地方選政権獲得運動の結果 、昨年7月に公明・保守両党が「永住外国人地方選挙権付与法案」を提出し、民主党も同内容の法案を提出、共産党は被選挙権を含む法案を提出するに至った。このような状況に危機感を持った自民党内反対派議員たちは「外国人参政権の慎重な取り扱いを要求する国会議員の会」を結成し、反対運動を繰り広げるとともに、「国籍取得要件緩和」を打ち出した。そして与党3党の「国籍等に関するプロジェクトチーム」はこの度の「国籍取得特例法案」を提出してきたのである。
このような経緯を見れば明らかなように、あくまで「参政権潰し」がそもそもの出発点なのである。それを如実に表すかのように、一部議員たちは「参政権が欲しければ帰化せよ」と執拗に拝外主義的な主張を繰り返している。このような趣旨から提案された法案は、「国籍取得緩和」「届け出制」とは聞こえが良いものの、権利の前に国籍のカベを設けて、外国人差別 を正当化する、現在の帰化制度の拝外主義的思想から何らの変化がないのである。
またこの法案がわずか数ヶ月の検討期間しか置かずに提案されてきたことにも憤りを禁じ得ない。参政権法案は曲がりなりにも数年以上にわたって、国会でも、日本社会でも、在日コリアン社会でも論議されてきた。その参政権法案を葬り去るために、わずか数ヶ月の期間で、論議らしい論議もなく提案されてきたのである。これは地方参政権獲得に日本社会の変化を期待してきた在日外国人に対する裏切りであり、あまりにも馬鹿にした話ではないだろうか。
(3)「国籍取得特例法案」はあくまで「帰化」法案である
当事者不在であること、参政権に対抗して提案されたこと、まともに論議すらもされていない法案であること――これだけでも撤回されるべき悪法であるが、その内容を具体的に見ても重大な問題をはらんでいる。
第一は、この法案の対象者は特別永住者に限られていることである。周知のように、現在、日本社会は多様な国籍・民族の人々が暮らす多民族社会へと変化してきている。そのような中で特別 永住者だけを対象に国籍取得の「特例」を認めても、国籍を開放したことにはならない。
第二は、当然保障されるべき民族教育をはじめ、外国人の文化を保護するための施策が何ら講じられていないことである。なぜ在日コリアン社会は韓国籍・朝鮮籍を保持してきたのか。その最大の理由は日本社会が国籍以外に「外国人らしさ」を許容しようとしない社会であったためだ。「国籍を開放する」とは、日本国籍の取得を容易にすることだけでなく、何よりも多民族性を認めることである。これまでの同化・帰化政策の反省なしには多民族多文化共生社会は実現し得ない。日本政府は「国籍取得緩和」より先に、国籍の如何に関わらず、民族性を保持するために必要な制度的措置を講ずるべきである。そうしてこそ、日本国籍者も含め国籍に関係なく、在日コリアン社会が民族的アイデンティティを育む土台を作り得るのである。
第三は、在日の傷痍軍人・軍属問題、在日高齢者の無年金者問題など、戦後補償・社会保障が伴っていないことである。このような問題は日本国籍を取得しても何ら解決しない問題ばかりであり、これらの問題解決を先行させるべきである。
2.日本社会を多民族多文化共生社会へと転換させよう!
「地方選挙権法案」と「国籍取得特例法案」の二法案ともに与党間調整がつかずに、今国会では審議入りせず、延期となった。「国籍取得特例法案」のみが成立し、「地方選挙権法案」は葬り去られるという最悪のケースは免れたものの、在日コリアン社会と良識ある日本市民はもう一度定住外国人への参政権付与が持つ意味を考え、世論化していかなければならない。
地方参政権の獲得は、在日コリアンなど外国籍住民に「参政権」という政治的権利を与えるものであるが、それは狭義の意味における「参政権」という以上に、「参世権」――日本社会・地域社会に市民として参与する――としての意義がある。いわば、これまで国籍(内実的には民族)をカベにして、人権を制限し、差別 を温存してきた日本社会の転換を画する意義があるのである。
また日本社会が多民族多文化共生社会へと転換することは、東アジアにおける平和で対等な外交関係にも寄与するだろう。98年の「共同宣言」を契機に、韓日関係はパートナーシップ関係を謳われ、かつてない規模で市民交流が広がってきた。そして韓国政府は日本政府に地方参政権の付与を求める一方、2002年までに韓国在住の外国人に地方参政権を付与する方針を明らかにしている。東北アジアの核となるべき韓日両国社会が対外的には平和秩序を求め、対内的には内外人平等・共生社会を実現する――そのような志向性が見えてきているのである。
私たちは日本社会に訴える。先般提案された「国籍取得特例法案」は、これまでの同化・帰化政策の延長にあるものであり、断固として認めることができない。即刻撤回すべきである。
そして日本社会の多民族多文化共生社会への転換の分水嶺をなす、地方参政権法案を早期に成立させるべきである。これは私たち在日コリアンの権利問題であるばかりでなく、21世紀の日本社会のあり方を左右する課題なのである。
2001年6月24日 在日韓国青年連合
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