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~原子番号4番 ベリリウム~
(それでは、ダンジョン外部へと転移します)

 そんな機械音声のような無機質なアナウンスが聞こえたかと思うと、ハヤテとフィリアは白い光に包まれ暫くたってその光が弱まったと感じた時には2人ともダンジョンの外にいた。

 2人はボスを倒した事による実感のなさと、精神と体力の疲れから暫く放心状態だった。
 その状態でどのくらい経っただろうか?
 最初に話かけたのはフィリアだった。

「…やりましたね」
「…あぁ」

 ハヤテの返事も弱々しいものではあるがそれはしょうがないだろう。
 ゴブリンキングとの戦いは最後の一瞬まで気を抜けるものではなく、なおかつ、HP的にも本当にぎりぎりの戦いだったのだ。

「…疲れましたね。とりあえず一休みしましょうか」
「…そうだな」

 今の状態では2人とも使い物にならないことが分かっていたので、簡易テントを張って仮眠をとった。
 そして、2人とも一眠りした後、少しは体力的にも精神的にも回復した状態で話し始めた。

「おはようございます、ハヤテさん。そして、ダンジョンクリア、やりましたね!」
「ああフィリア、やったな!」

 そうして2人は一度ハイタッチを交わした。

「まさかボスがあんなに段違いに強いなんて思いませんでしたし、ましてやそのボスを倒したなんて。今でも実感が湧きませんよ」
「ははっ。まぁ俺も似たようなもんだ。一時はどうなるかと思ったがな」

 フィリアは素直にボスを倒し、生きて帰ってこれたことに対して嬉しそうにはにかみ、ハヤテもそれを見て愉快な気分になったのだった。

「それで、アナウンスによるとレベルアップやダンジョンクリアの報酬とかを手に入れたみたいですから一度確認しておきませんか?」
「それもそうだ。よし、そうしようか」

 すると2人は早速鑑定紙を取り出し、ステータスを確認した。
 その時ハヤテは、鑑定紙で確認すると同時にステータス画面を開いてチェックしていた。


―――――――――――――――――――――


 神崎ハヤテ  Lv.24 (男)
 職業:エレメントマスター (一次職)Lv.6

   HP:132/132
   MP:425/425
   Str:53
   Vit:82
   Int:72
   Rst:79
  Agi:52
  Dex:91

  スキル
 エレメントテイム Lv.6

  称号
 異世界からの探索者:全ステータスにプラス補正
  ダンジョン討破者:全ステータスにプラス補正(小)
   ゴブリンキラー:ゴブリン系統の魔物との戦闘時、全ステータスプラス補正(大)

   成長タイプ
   晩成


 フィリア・F・モデラート  Lv.24 (女)
 職業:魔法使い(一次職)Lv.6

   HP:206/206
   MP:341/341
   Str:72
   Vit:74
   Int:132
   Rst:92
  Agi:78 
  Dex:124

  スキル
 火系統魔法 Lv.5
 水系統魔法 Lv.1
 風系統魔法 Lv.1
 土系統魔法 Lv.1
 雷系統魔法 Lv.4
 光系統魔法 Lv.1
 闇系統魔法 Lv.1
 無系統魔法 Lv.1

  称号
 ダンジョン討破者:全ステータスにプラス補正(小)
  ゴブリンキラー:ゴブリン系統の魔物との戦闘時、全ステータスプラス補正(大)

―――――――――――――――――――――

「おぉ!やっぱりボスを倒したからだな。レベルが相当上がってるな。Lv.24か」
「はい。私もLv.24になっていました」

 ハヤテはもれなくフィリアのステータスもステータス画面で見て知っていたので、フィリアのレベルの自己申告をもらう必要は無いのだが、それでもここでそれを言ってしまうのは野暮だろうと思い、ハヤテはなにも言わなかった。
 とりあえずはレベルアップと、プラス補正のかかる称号を得られたことをハヤテは喜んだのであった。

「じゃあ、今度はドロップアイテムの確認な?」

 ハヤテがそう言ってアイテムボックスを開いた。

そこには今まで倒してきたモンスターのドロップアイテムがたくさん入っており、その中で今回新しく増えていたのが…

――――――――――――――――――――

  ゴブリンエリートの短剣×4:ゴブリンエリートの持っていた短剣。Str+25の攻撃力上昇。
 ゴブリンキングの皮(素材):ゴブリンキングの皮。重いが、大きく、丈夫で、加工すると強力な防具になる。
   ゴブリンキングのメイス:ゴブリンキングの使うメイス。Str+65の攻撃力と、Int+50の魔法攻撃力を上昇させる。
   迷宮走破者の証(素材):迷宮を走破した者だけが持つことを許される宝玉。素材として使うことにより、様々な付与効果を生む可能性を秘めている。

――――――――――――――――――――

「やっぱりボスを倒した報酬はランクが一味違うな。良いものばっかりだ」
「ですね。ボスは伊達じゃないと言うことですね」

 ハヤテは、フィリアに確認をとってみると、ハヤテと同じアイテムを同じ数だけ手に入れているようだった。

「それでどうするんだ、フィリア?まだどこかのダンジョンに行ってレベル上げするのか?」
「それなんですけど、ちょっとワガママを言っても良いでしょうか?」

 ハヤテは、まだこの世界の常識も何も知らないため、先に当面の課題として必要になりそうなレベルアップを行って来たが、あくまでもフィリアあっての旅路なのでここでフィリアのお願いを、よっぽどのことが無い限りは何でも聞いてあげようと思った。

「分かった。それで、フィリアのワガママと言うのは?」
「ハヤテさんはもっとレベルを上げたいと思うかもしれませんが、私のレベルはもう充分過ぎるくらい上がりました。ですから、大分早いと言うか、私が家を出てから一週間も経っていませんが、ここで切り上げて街に戻り、学校への入学までゆっくりしたいなぁ…なんて」

 フィリアの言い分はもっともであるが、フィリアが多少レベルが上がったとは言え、同レベル帯はおろか、レベル的には遥かに下であろう同級生と比べでもステータス的に勝てるかどうか微妙なところだとこれまでの話から何となく察していたので、レベルアップする事に超したことは無いはずだ。
 そう言った事情が会ったので、ハヤテは違和感を覚え、フィリアに聞いてみた。

「本音は?」
「…ボス戦を味わって、自分が死ぬかもしれないギリギリの勝負をして疲れてしまいました。私は一時はダンジョンに行きたくは無いです………」

 それがフィリアの本音だった。
 要するにボス戦がちょっとしたトラウマになってしまったようなのだ。

「そうか。……まぁいいだろう!レベル上げはここで一時中断だ」
「本当で…」
「ただし、条件がある!」

 ハヤテが条件があると言ったことにフィリアは思わず唾を飲んだ。
 フィリアは一応貴族の娘。
 ハヤテにもちろん目一杯お礼をしたいと思っていたフィリアだが、それ以上の要求、例えば誰かの命であったり、モデラート家の没落を望まれたりでもしたら、それに答えることはできないからだ。条件と言うからには決して簡単にフィリアの考えが及ぶような甘いものではないだろうと思ったからだった。
 構えるフィリアに向かってハヤテは、こう言ったのだった。

「俺、この辺の街はおろか、地理も全く知らないんだ…。その、……ついて行って、街まで案内して貰ってもいいか?」
「……………………へっ?」

 フィリアの考えは、ムチャな要求をふっかけられるかもしれないという所は外れて、考えつかなかったという点では当たっていたのだった。


   ***


 そういうわけで、ハヤテとフィリアは今、猛烈に揺れる馬車に揺られていた。
 乗り心地はガタガタして最悪である。

「(ガタゴトゴト……ガタン!)あいたっ!(ゴトゴトゴトゴト…ゴトン!)いでっ!?」

 ハヤテは、ここまで揺れる乗り物に当然乗り慣れているはずも無いので、コツが掴めず、大きく揺れる度にどこそこに頭や体をぶつけてしまい、相当苦労していた。
 一方フィリアはハヤテの隣で多少乗り心地が悪そうにしながらもどこそこにぶつけることなく平然と座っていた。
 それを見て、ハヤテ達の前方で御者をしていた頭のはげたいかにも屈強そうなオジサンが話しかけてきた。

「ガハハハッ!ボウズ、馬車は初めてかい?」
「ええ。まぁ……(ガスッ)あだっ!……ナダルさん、どの馬車もこんなに揺れるものなんですか?」
「おうよ!これでも今は急ぐ必要がないからスピードを抑えてる。その分だけ乗りやすいぐらいなんだぜ?」

 そう言って豪快に笑っているこの強面のオジサンは、武器商人のナダルだ。
 ハヤテとフィリアが街、つまりフィリアの住む王都へ行こうと三十分ほど歩いたところで運良く王都に向かって馬車を進めていたナダルに出くわし、2人はそれに便乗して乗せてもらったのだった。
 ナダルがこれでもましな方だと言っていた事をハヤテは訝しく思い、ハヤテがフィリアに初めて会った時、フィリアが爺やとやらに馬車で送ってもらっていた事を思い出し、フィリアの方を向いたが、フィリアはナダルの言に同調するように頷いたのだった。

「マジかよ……。頭とお尻が既に痛いんだが……」
「まあ、心配すんなよあんちゃん。後少ししたら休憩にしてやるからよ!」

 そうしてハヤテは、次の休憩まで必死にその痛みと揺れに耐え忍ぶのであった。



「お疲れさん!十分くらいしたらまた行くから、それまで休憩していいぜ!」

 そう言ってナダルは少し大きな湖の近くで休憩をとらせた。

「うはぁ~っ!疲れた!!」
「もう、ハヤテさんは色んな所にぶつけすぎです。馬車って大体がこんなものですよ?」
「なんかイメージしてたのと違う…。もうちょっといいものだと思ってたよ」
「このあたりは道が整備されていませんからね。これが人のいる街や村の近くになるとかなりマシになりますよ」

 そう。道が整備されて無いままの凸凹の状態だからこそここまで揺れるのであって、整備されている所では…やっぱり揺れるが、それでも大分小さくなるのだ。
 しかし、道路が整備され、衝撃を吸収する構造の粋を集めた車に慣れきったハヤテは、これに耐え難かった。
 どうにかしたいと思ったハヤテは、馬に水を飲ませていたナダルを見つけ出して言った。

「すみませんナダルさん。アナタの馬車を俺が揺れないように改造しても良いでしょうか?」
「なに?そんな事が出来るのか?」
「おそらくは…」
「ガハハ!思いつきってか?いいぜ、分かった。ただし馬車は壊さないようになっ!」

 そう言ってナダルはハヤテにサムズアップをして壊さないことを条件に了承したのだった。
 ナダルさん。つくづく豪快でいて、気持ちのいい人である。

「さて、やるか!」

 ハヤテは気合いを入れて馬車の衝撃吸収装置、つまり“サスペンション”作りに取りかかった。
 なぜこれだけハヤテが乗り気なのか?
 それだけ馬車が痛かったのだ。察して欲しい。

「サスペンションで必要なのは、やっぱり衝撃吸収の心臓部でもあるバネだよな。うっし!ちゃちゃっと作るか!」

 その光景をフィリアは遠くから、

(また変なことやりだした…)

 という、ある種、達観した面持ちでみていた。

「イメージは…、よし、バッチリだ。いくぞ!『ベリリウム生成、液体状態』!」

 ハヤテは、エレメントテイムでベリリウムを生み出し、それをすぐに固体化したりはせず、中途半端な状態で止めていた。
 そのため、液体のベリリウムがいつまで経っても重力に引かれず、空中をその球体がハヤテの思い通りの位置に漂っていた。

「次は、『銅生成、液体状態』!」

 今度は同じ状態の銅が生成され、

「『合金』!」

 ハヤテの声と共に二つの球体が混ざり合った。
 そして、

「『整形』、さらに『固定化』!」

 そうするとその二つの金属の混ざった液体がバネの形に変形し、それが固まり個体となってバネが出来た。

 ハヤテが作ったのはCu-Be合金の強力なバネである。
 Cuは銅、Beはベリリウムの元素記号だ。
 ここで、ベリリウムとは、元素記号Be、原子番号4、原子量9.012第2周期2族の典型元素である。
 マグネシウム族元素で、金属であるベリリウムは緑柱石などの鉱物から産出される。緑柱石は不純物に由来する色の違いによってアクアマリンやエメラルドなどと呼ばれ、宝石にも用いられる。常温、常圧で安定した結晶構造は六方最密充填構造である。単体は銀白色の金属で、空気中では表面に酸化被膜が生成され安定に存在できる。モース硬度は6から7を示し、硬く、常温では脆いが、高温になると展延性が増す。酸にもアルカリにも溶解する。ベリリウムの安定同位体は恒星の元素合成においては生成されず、宇宙線による核破砕によって炭素や窒素などのより重い元素から生成される。
 ベリリウムは主に合金の硬化剤として利用され、その代表的なものにベリリウム銅合金がある。また、非常に強い曲げ強さ、熱的安定性およ び熱伝導率の高さ、金属としては比較的低い密度などの物理的性質を利用して、高速航空機やミサイル、宇宙船、通信衛星などの軍事産業や航空宇宙産業において構造部材として用いられる。ベリリウムは低密度かつ原子量が小さいためX線やその他電離放射線に対して透過性を示し、その特性を利用してX線装置や粒子物理学の試験におけるX線透過窓として用いられる。

 ハヤテは、このCu-Be合金のバネを元に、サスペンションを組み立てて行き、それを馬車の主要な部分に取り付けていったのだった。

 そして、休憩時間も終わり、ナダルが馬車を進めたときだった。

「うはぁ!こりゃいいな!」

 ハヤテが取り付けたサスペンションのおかげで、馬車の中は見違えるほど揺れなくなったのが分かったのだ。

「これは凄いですね!」

 フィリアも揺れが無くなりご満悦のようだ。

「喜んで貰えて嬉しいです」

 ハヤテは、ナダルやフィリアが喜んでくれた事の嬉しさと、何より自分が安全に、楽になった事に喜んび、そう言ったのだった。

「しかしボウズ、こりゃ凄い出来だな。こんなにいいもの貰っていいのか?確かに馬車は俺のだが、揺れなくなったのはボウズの改造のおかげだろう?いったいどんな付与魔法を使ったんだ?付与代だけで本来ならかなり高く付くんだぞ?」
「馬車に乗せてくれたお礼としてですから気にしないで下さい。それにこれ、魔法じゃ無いですよ?」
「なにっ!?魔法じゃ無いのか?」

 ナダルは、魔法以外でこんな事が出来るのだという事実に相当驚いていた。

「ええ。言ってしまえばこれは装置みたいなものです。余ったものがあるので、これも差し上げますよ。壊れたときの予備や、解析して複製したりするのに使って下さい」
「お、おう…」

 そうしてハヤテがナダルにサスペンションを渡すと、ナダルはそれをもの珍しそうに見た。

「これを複製出来るのか?こりゃ結構細密だぞ?」
「そんなに難しいものでも無いですよ。どうしても無理なら俺を訪ねていただけたら新しく作りますし」
「ありがとよ。それで、ボウズ、それから嬢ちゃんも。名前は?」

 ナダルがそう聞くと、ハヤテとフィリアは答えた。

「俺は、神崎ハヤテでず」
「私は、“フィリア・F・モデラートです」
「おぉ。嬢ちゃんがあの有名なモデラート家の娘さんかい!」

 ナダルは感激したようにそう言った。
 フィリアの家ってそんなに有名なのかとハヤテは思った。

「有名ってほどでは…」
「いやいや、謙遜はいけねぇよ。モデラート家の治める領地はほかの貴族に比べて圧倒的に治安がよく、税率も凄く少ない。それでいてモデラート家の当主“ヴァイス・F・モデラート”様も一般市民と親密で素晴らしいって言うじゃないか。俺も、家を構えるならモデラート家の領地にしたいってずっと思ってるもんよ!」

 ハヤテはその話を感心しながら聞き、フィリアはそれを恥ずかしそうにしていた。
 と、そこでナダルが、

「あれっ?でも、モデラート家の娘さんって言やぁ、今年学園に入学じゃなかったか?今試練が始まったばかりで王都に帰るには大分早いんじゃ…」
「はい。……言いにくいですけど、私はもう試練が終わったんですよ」

 それを聞いてナダルは大きく目を見開いた。

「ってことはなにか!?毎年1/3は無理で来年の入学まで留年するあの短期間でLv.10まで上げろなんて厳しい試練をもう終わったって事か?」
「はい……」

 そして、ナダルはハヤテのことを見てハッとした表情になった。

「ってことはボウズ、お前も今年学園に入学する12歳ってことかい?」
「ええ。フィリアと共に入学基準くらいはクリアしてきました」

 それを聞いてナダルはサスペンションに視線を落とした。
「……学園に行く前でこんなものを作れるのか。それに、一週間経たずでの急激なレベルアップ。なにもんだよ、お前ら…………」

 ナダルは呆れるようにそう言って、

「こりゃ、モデラート家はいっとき安泰だな」

 と、呟いたという。
 後はハヤテとフィリア、ナダルの3人で雑談や冗談を言いながら王都に向かったのだった。
 その時2人のレベル上げについて聞かれた事もあったのだが、まさか本当の事を言うわけにもいかないので適当に誤魔化していた。

 こうして8時間ほどの快適な馬車の旅を経て、ハヤテとフィリアは王都へと辿り着いたのだった。
 はい、これでやっとプロローグが終わりです。
 お気づきですか?ここまで登場人物が2人で最初の街にすら行って無かったんですよ?(笑)

 次回からいよいよ本編スタートです!
 


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