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~原子番号3番 リチウム (ボス討伐)~ 
 ハヤテ達は扉を開け、ボスが待ち構える部屋の中に入っていった。
 そこは…、

「…あれっ?フィリア、ここは本当にボスのいる部屋なのか?真っ暗でなにも見えないんだが…」
「そうですね。まさかこの状態で戦えというわけじゃ無いのでしょうけど…」

 このように真っ暗な闇に包まれており、2人にはなにも見えない状態だった。
 ほんとにこのままなのだろうか?と訝しく思っていると、数秒後にハヤテ達が入ってきた扉の左右にあった松明に光が灯った。
 その光は円形のその部屋の周りにある松明へと、ハヤテ達の所から奥の方へと流れるように次から次へと灯っていき、とうとう部屋全体が明るくなった。

「なるほど、こんな演出があるわけか。綺麗だな…」
「ですがハヤテさん、ここはボス部屋だと思うんですが、誰もいませんよ?」

 そう、明かりがついたことで初めて分かったのだが、その空間にはボスどころかアイテムやモンスターもなにも無かった。
 どういう事だろうかと2人が訝しく思って、奥に向かって数歩歩いてみると…。

『バタン!』

 ハヤテ達の背後で大きな音がした。

「「!!!」」

 2人がその音に驚いて反射的に後ろを振り返って見てみると、開けたままにしておいた扉が閉まっていた。

(何かイヤな予感がする…)

 そう思ったハヤテが急いで扉に駆け寄り、扉を開けようとしてみたのだが…。

「開かない…。おいおい嘘だろ?閉じこめられた!?」
「えっ!本当ですか!?」

 フィリアも扉を開けようと、必死になって押したり引いたりしていたが、それはびくともしなかった。
 2人が途方にくれていたその時、部屋の中央の方で5つの光が集まっていって人型…いや、ゴブリン型を形成していった。

「何かくるぞ!フィリア、注意!」
「了解です!」

 光が完全に集まり切った時それがはじけ、中からそれぞれ一体ずつ、計5体の人間と同じサイズのゴブリンが出現していた。

『ウガァァァァァァァァァッッッ!!!!』

 そのゴブリン達は獲物を前にした高揚なのか、戦闘開始の産声なのかはわからないが、天に向かって大きく吠えた。
 ハヤテはパッシブスキルですぐにそのゴブリン達のステータスを確認した。

――――――――――――――――――――――――――――――

 ゴブリンエリート Lv.15 
  ―ゴブリンの中でもエリートと言うべき上位個体。その強さは普通のゴブリンとは比較にならない。

――――――――――――――――――――――――――――――

「フィリア、相手はゴブリンエリートが5体。普通のゴブリンとは桁違いに強いみたいだし、どうやらこの部屋から出られないみたいだから倒すしかない。攻撃を食らうな!」
「その言葉そっくりそのまま返しますよ!」

 ここで、ゴブリンエリート達がハヤテ達に向かって突撃してくる。
 こうしてボス戦が始まった。

「フィリア。まずは今まで通りで頼む!」
「はい。駆けろ雷!『サンダージャベリン』!」

 まずはフィリアの魔法『サンダージャベリン』が、ゴブリンエリートに殺到した。
 が、

「くっ!やっぱり効果が薄いですか…」

 ゴブリンエリート達が麻痺したのは5体中2体。今まで普通のゴブリンに対しては全員を確実に麻痺させることが出来たことを考えると少々厳しくなる。
 麻痺させることが本来ならばそうそう上手くいくわけが無いと知りながらも、これがハヤテ達のメイン戦略の中核を担っているのだからそれを余計に感じているのだといえる。

「まぁ、しょうがないだろう。こっちも先にやっておくぞ?『ヘリウム生成』!」

 そうしてフィリアが麻痺させた2体のゴブリンエリートをハヤテは膨らませ始めた。
 ここで、とうとうゴブリンエリート達がハヤテ達の所に来たのでハヤテがフィリアを一歩下がらせてゴブリンエリートと相対する。

「くっ!流石エリート。攻撃を避けるだけでも精一杯だ。フィリア、出来るだけ早く援護を頼む!」

 ハヤテの少ないAgiでは、攻撃を避けるのでもひと苦労。普通のゴブリン達と戦っていたときには、なんとか当たらなかった攻撃がゴブリンエリートの攻撃では掠る。
 そのたびに少しずつ、だが着実にハヤテのHPは減っていく。
 その時、詠唱を終えたフィリアが叫ぶ。

「ハヤテさん!」
「おう!」

 そう言ってハヤテはゴブリンエリート達から急いで離れた。

「いけっ!『サンダージャベリン』!」

 フィリアの生み出した雷撃がゴブリンエリート達に至近距離で炸裂した。
 フィリアとゴブリンエリート達との間の距離が少ない分威力は十分。
 今度はその分が効いたか、残った3体のゴブリンエリート達を全員麻痺状態にさせることが出来た。

「よしっ!やったな、フィリア!後は…『ヘリウム生成』!」

 ハヤテは残りのゴブリンエリート達を膨らませ始める。
 程なくして、最初に麻痺をしたゴブリンエリート達が膨らみきって宙に浮いて破裂。
 残りのゴブリンエリート達も少したってから破裂した。

「お疲れ様、フィリア。ボス戦といってもゴブリンよりちょっと強いのが5体くらい。意外と簡単だったな」
「ですね。ダンジョンのボスをこんなにも簡単に倒すことが出来るなんて、やっぱりハヤテさんのおかげですね!」
「いやいや、フィリアの魔法のおかげだろう」
「ハヤテさん、謙遜は良くないですって」

『…………(ドスン)…………』

 2人はそんな風に戦果を称え合っていたが、そこでハヤテがあることに気づいた。

「ところでフィリア。ダンジョンってボスを倒したら壊れるんだよな?」
「まぁ、ボスのドロップを取ってからになりますけど、そのはずですよ?」

『………(ドスン)………』

「だろう?だが、ボスドロップどころか…」

 そこでハヤテが何かに気づいた。

「…経験値すら入っていないみたいなんだが?」
「えっ?そう言えば経験値を取得した時のアナウンス無かったですね。普通は戦闘が終わった段階で経験値が入るものなんですが…」

『……(ドスン)……』

 フィリアも何かおかしいと疑問に思った。
 そこでハヤテはフィリアに聞いてみた。

「なぁフィリア。さっきから何か重たい音が聞こえないか?」
「えっ?重たい音?」


『…(ドスン)…』

「ほら、今の!さっきからこの音、こっちに近づいて来ているみたい何だが?」
「本当ですね。今のは聞こえました」

『(ドスン)』

 そこで、ハヤテは今の状況から、とうとうある仮説に行き着いた。

「フィ、フィリア?」
「どうしましたハヤテさん?」
「俺達にはまだ経験値が入って無いじゃないか?」
「はぁ、そうですね?」

『…ドスン』

「もしも、もしもだ。さっき倒したゴブリンエリート達は余興で、本当はボス戦がまだ終わっていなくて、この近づいて来ている音の主が本物のボスだと言うことは無いだろうか…」
「まさか、そんなこと…っ!」

『ドスン』

 とうとうフィリアも何かに気付いたようだ。

「この音、明らかにデカいよな…。逃げるか?」

 そう言ってハヤテは元来た扉を開けようとしてみたのだが、

「やっぱり開かない…」
「だ、大丈夫ですよハヤテさん!さっきのゴブリンエリートも余裕を持って倒せたんです。どうにかなりますって!」

『ドスン!』

 その音は、いや、ハッキリ言うと何か重たいものが地面を踏み鳴らして歩くような音は、とうとうハヤテ達の頭上で止まった。
 そして、

『ドンッ!ドンッ!ドンッ!』 

 天井の上から天井を破るかのように叩くような音がした。

「フィリア、来るぞ!やられにように注意しろよ!まぁ今までの感じからどうにか勝てるだろうとは思うが(・・・・・・・・・・・)」
「分かってます。大丈夫ですって!私達は強くなりました。このくらいのダンジョンのボスなんてへっちゃらです!」

 そうして2人で自信を確かめ合っている所、

『ドンッ!ガラガラガラ……!!!』

 とうとう天井が砂埃をたてて崩れ、このダンジョンの本当のボスが姿を現した。
 自信は慢心へと容易に変わり、無知は実力の過信へと容易に結びつく。
 まるでダンジョンを訪れたもの達にそれを冥土の土産に教え込むかのような存在が、とうとう来た、来てしまった。

『ギヤアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!』

 その存在、このダンジョンのボスは今まで仲間を殺されて来た恨みを込めたかのように激しく雄叫びを上げた。
 ハヤテは砂埃の舞う中、そのボスのステータスを確認する。

―――――――――――――――――――――――――――

 ゴブリンキング Lv.62 (Boss)
  ―ゴブリンの王。その王たる名に恥じることがない圧倒的戦闘能力と、体長5メートルを越す巨体でダンジョン挑戦者達を惨殺する。

   スキル:身体能力強化 Lv.2
       メイスの心得 Lv.3
       短剣の心得  Lv.5

 ――――――――――――――――――――――――――

(やばい…!勝てる気がしない………、いや、どうにかなるはずだ。今までも格上相手にどうにかなってきたじゃないか!)

 ハヤテはそう思うことによって自身を鼓舞した。

「フィリア、相手はゴブリンキング。正真正銘のボスだ。レベルは…62だが、格上を相手にするという点ではいつも通りだ。気にするな」
「分かりました」
「作戦はいつも通りだ。いくぞ!」

 そう言うやいなや、ハヤテはゴブリンキングに向けて飛び出した。
 多少の恐怖心はあるものの、後衛であるフィリアが狙われないようにするためのハヤテの配慮である。
 いつもならフィリアが多少下がった位置に構えるだけで事足りるのだが、今回は体長が約5メートルあるゴブリンキングのデカさがデカさなので、そのリーチをフィリアに届かせないようにする為にハヤテは前に出たのだった。

「いきます!駆けろ雷『サンダージャベリン』!」

 フィリアがまずは先制する。
 雷の槍がゴブリンキングに文句なしに命中したが、

「やっぱり無理ですか…」

 麻痺どころか、ダメージもドット単位でしか削れていなかった。

「なら、先にこっちはいけるか?くらえ!『ヘリウム生成』!」

 そうしてハヤテは遠くから様子をみていたが、一向にゴブリンキングのお腹の中にヘリウムが溜まって膨らむ気配が無かった。

「何っ!どういう事だ?…そうか、相手の器官が一つ一つデカすぎて、人間サイズだったら問題が無いほどすこしの隙間でも、これだけデカいと大きな隙間になって、そこから気体が漏れだしているのか!」

 これに気付いたハヤテは困った。今までと作戦を変えなければならない。
 その間にも、フィリアは攻撃速度の速い『サンダージャベリン』でゴブリンキングに応戦し続けていた。
 攻撃を受けたゴブリンキングはそのヘイトからフィリアの方へとターゲットを絞ろうとするが、

「お前の相手はこっちだ、デカブツ!」

 ハヤテがそう叫び、

「『鉄生成』!シェイプ:“刀”!」

 手元に刀を生み出しゴブリンキングに切りかかる。
 これはハヤテが前回の失敗から改良したものである。
 前回はシェイプ、つまり形に“剣”をイメージして鉄剣を作り出し、剣の切り方の『叩き切る』という性質上の観点からゴブリンの肌に簡単に弾かれたのだった。
 それを踏まえて、今回は“刀”をイメージして鉄刀を作り出し、その『切り裂く』という性質を利用してダメージを与えられないかと考えたのだ。

「はぁっ!」


 ハヤテはかけ声とともにゴブリンキングを切り裂き、見事にダメージを与える事に成功。
 血がでる代わりにゴブリンキングにダメージエフェクトを少し付ける事が出来た。
 ゴブリンキングのHPも、フィリア程では無いが、多少は削る事が出来た。
 一度切っただけでは、フィリアをターゲットとしたままだったが、ハヤテが続けざまに何度か切りつけると、とうとうゴブリンキングはハヤテの方を向いた。

「そうだ、お前の相手はこの俺だ!」
『ギィァァァァァァァ!』

 ゴブリンキングは叫び声と共に、ハヤテに持っていた巨大なメイスを振り下ろした。
 それを食らっては一溜まりもないハヤテはメイスを間一髪避けたが、

「なっ!」

 ゴブリンキングがメイスで地面に叩きつけた衝撃で地面が揺れ、すぐ側にいたハヤテはまともに立っていられなかった。
 そのままゴブリンキングが動けないハヤテにもう一度メイスを振り下ろそうとした。

(マズイ!)

 ハヤテがそう思った時だった、

「かのものを闇で包め、『シャドウカーテン』!」

 フィリアの闇系統魔法で生み出した黒いもやのようなものがゴブリンキングの視界を奪った。
 ゴブリンキングは視界を奪われてハヤテのことが見えないはずだが、それでもハヤテが体勢を崩していて、すぐには動けないことが解っているのだろう。お構いなしにメイスを振り下ろそうとした。
 その時にまたもやフィリアが動いた。

「『シャドウカーテン』解除!」

 そうすると、ゴブリンキングの目の前にあった黒いもやがなくなり、

「ハヤテさん、目を閉じて下さい!」

 ハヤテが言われるがままに、とっさに目を閉じると、

「光よ、彼の闇を照らせ、『ホーリーフラッシュ』!」

 大量の光がハヤテの瞼越しにもかかわらず感じられた。
 ハヤテが恐る恐る目を開けると、目の前にいるゴブリンキングはフラッシュの影響で一時的に視界を潰されていた。

「さぁ、ハヤテさん早く!」
「悪い、フィリア。助かった」

 そうしてハヤテは、戦略上の安全性から、ゴブリンキングの後ろに回り込みながらもゴブリンキングを一太刀、二太刀と、次々に入れていった。

「フィリア、麻痺させる作戦は厳しいみたいだが、今の組み合わせで連携していったら勝てるんじゃないか?」

 ハヤテはゴブリンキングに攻撃しながらも、フィリアにそう聞いたのだが、

「無茶言わないで下さい!闇系統魔法と光系統魔法はこう見えて少々特殊で、他の基本属性の魔法に比べると燃費が悪いんです。後2・3回はどうにかなりますが、なるべくピンチに追い込まれないように気をつけて下さい!」

 フィリアからそんな注意が返って来た。
 まぁ、目潰しの為に消費の激しい魔法を使うべきでは無いよな、とハヤテは納得し、フィリアにもう一度感謝を告げ、戦闘に意識を戻した。
 少々ヒヤッとはしたが、ゴブリンキングのメイスによる揺れは危ないためどうにかする方法はないかとハヤテは模索し、すぐに思いついた事があった。
 ゴブリンキングの視界が回復してきたのか、ゴブリンキングが後ろ、つまりハヤテの方を向き、ハヤテをその目に正確に捉えると、またメイスを振りかぶった。
 ここでハヤテは動く。

「『水素生成』!加えて『燃焼』!」

 そうするとハヤテの目の前で大量の水素が発生したと思いきや、それがいきなり爆発を起こし、その爆風でハヤテは後ろに飛ばされた。
 後には霧と、地面には水溜まりが出来ていた。
 少々荒っぽいが、これでハヤテはゴブリンキングの攻撃をかいくぐったのだった。

「しかし、ゴブリンキングの視界が潰れてないと、俺にターゲットがある間は刀で攻撃するのは難しいな…近接戦闘だとどうしても攻撃をくらいそうだしゃあない。今のヤツを今度はゴブリンキングに当ててダメージを与えるか」

 ハヤテはそう考え、ゴブリンキングの周りに水素を発生させ、ハヤテがひと手間加えて意図的に燃焼させる事もあれば、遠距離から応戦しているフィリアの『サンダージャベリン』や『ファイヤー・アロー』によって燃焼したときもあった。
 だが、ゴブリンキングのHPは膨大で、2人の攻撃をたたみかけて10分ほど経った時に、ようやくそのHPの1/5が削れた程度だった。
 このまま行けば確かに倒せるのかもしれない。実際に、時間はかかるが、これまでハヤテもフィリアもダメージを負っていない。
 しかし、世の中、そう甘いものではなかった。
 とうとうハヤテとフィリアが恐れていた事が起こってしまった。

「炎の矢よ、焼き尽くせ!『ファイヤ……っ!」

 しかし、炎の矢の攻撃は発動しなかった。
 それはフィリアが20回ほど魔法で攻撃したときだ。
 魔力の使いすぎによる魔力欠乏状態。
 つまりフィリアのMPが0になったのだ。
 無理をしなければ後遺症が残るような者ではなく、多少の体長不良と手足の痺れがMPが回復するまで続くといった程度なのだが、問題はそこではない。
 2人でやっとどうにかなっていた敵への攻撃の、1人人数が欠けたことによる半減。
 コレはやってみるまでもなく明らかな問題であったのだが、ここまではフィリアもハヤテも戦闘中に使うMPが、魔法が初期レベルであることと、ハヤテのエレメントテイムが一撃で敵を潰していたため、次の敵を探している間に2人の絶対量MPが全回復出来ていた為、そこまで気にする事は無かった。
 だが、この大事な局面でそれが起こってしまったのだった。
 フィリアの魔法が途中で来なくなったため、ハヤテは急いでフィリアのステータスだけざっとチェックした。

―――――――――――――――――――――――――

 フィリア・F・モデラート  Lv.18 (女)
 職業:魔法使い(一次職)Lv.5

   HP:159/159
   MP:0/341
   Str:56
   Vit:51
   Int:91
   Rst:79
  Agi:54 
  Dex:87

  スキル
 火系統魔法 Lv.4
 水系統魔法 Lv.1
 風系統魔法 Lv.1
 土系統魔法 Lv.1
 雷系統魔法 Lv.2
 光系統魔法 Lv.1
 闇系統魔法 Lv.1
 無系統魔法 Lv.1

――――――――――――――――――――――――――

(やっぱりフィリアはMPが切れたか…キツくなるがしょうがない。休んでおいて貰うか)

 ハヤテはそう思い、フィリアに言った。

「フィリア、大丈夫だ!無理をしないで攻撃に巻き込まれないように休んでおいてくれ!」
「すみません、そうさせていただきます…」

 そうして、フィリアは一時的に戦闘を離脱した。
 さて、フィリアの援護射撃が無くなって多少キツくなったハヤテは、ゴブリンキングが作った一瞬の隙に自分のMP残量などを確認するためにステータスを見た。

――――――――――――――――――――――――――

 神崎ハヤテ  Lv.18 (男)
 職業:エレメントマスター (一次職)Lv.5

   HP:90/90
   MP:23/371
   Str:31
   Vit:53
   Int:41
   Rst:49
  Agi:37
  Dex:79

  スキル
 エレメントテイム Lv.5

――――――――――――――――――――――――――

「うわっ、俺もMPギリギリかよ。確認しておいて良かった」

 しかし、フィリアがMP切れ、ハヤテのMPも残り僅かなこの状況で、ハヤテに出来ることはもう余りない。

「しゃぁない、ちょっと危ないけど、こうしますかね。『鉄生成』!シェイプ:“刀”」

 ハヤテはまた刀を生み出し、ゴブリンキングに切りかかる。
 MP切れが間近なハヤテは、フィリアを攻撃対象にされないためにも、ゴブリンキングを自分に引きつけることが必要で、それを十分に満たすには、多少危なかろうと何であろうとゴブリンキングに鉄刀で勝負を挑むしかない。
 ハヤテはゴブリンキングに接近し、とにかくやたらめったらに切り刻み、メイス攻撃をどうしても避けられないと思った時だけ水素を生み出して爆発させ、ノックバックによる強制回避をしてMPを節約しながら戦った。
 そこからは本当にギリギリの戦闘が続いた。
 ハヤテがゴブリンキングの足元を斬り、ゴブリンキングのメイスを紙一重で避ける。
 その時に何度か直撃こそ無かったが掠りもした。
 そのたびにフィリアは小さく悲鳴を上げる。
 ハヤテは攻撃が掠った所の、じんわりと広がる痛みをこらえながらも攻撃の手を緩めない。
 それはもう執念といっても差し障りの無いほど鬼気迫るものを感じた。
 しかし、そのおかげで、あれだけあったゴブリンキングの体力がとうとう1/5を切ろうとしていた。

「ハヤテさん、もう大丈夫です!行けます!」
「ハァ、ハァ、ハァ…、すまない。助かるよフィリア!」

 フィリアのMPが完全回復し、ゴブリンキングと対峙したその時だった。

「ゥガアアアアァァァァァァァッッッッッ!」

 ゴブリンキングは今まで持っていたメイスを放り投げ、腰に差していた巨大な短剣を抜いたのだ。

「まじかよ…。HPが二割になったら本気モードになるのか、ボスってのは?」

 そこで思い出されるのは、“短剣の心得 Lv.5”のスキルをゴブリンキングが持っていたことだ。

「フィリア!アイツは短剣の心得 Lv.5のスキルを持っている。今までよりも強いはずだから、気をつけてくれ。その代わりHPは残り二割だ。勝つぞ!」
「はいっ!駆けろ雷『サンダージャベリン』!」

 ハヤテとフィリアは攻撃を再開した。
 しかし、その時、短剣の刀身が輝き出し、ゴブリンキングはそれを腰だめに構えた。
 そしてハヤテに向かって突進攻撃を仕掛けて来た。
 ハヤテは避けようとするも、スピードがさっきまでとは段違いで短剣は避けたが、ゴブリンキングの体に当たってそのまま吹き飛ばされた。

「ハヤテさん!」

 それを見たフィリアは心配して声を張り上げて叫んでいた。
 しかし、ハヤテはそれどころではなかった。

(痛い…、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
 何で俺は今こんな思いをしなくちゃならない!どうしてこんなゲームのような環境で死ぬような痛みを味わわなくちゃいけない?)

 ハヤテは痛みによるショックから宙を舞っているときにそんな混乱した思考をした。
 宙に舞ったハヤテの体が地面に落ちてくる。
 そして、ハヤテは受け身もとれずに地面に激突した。

「ぐはっ!」

 ハヤテは自分でHPがみるみる減っていくのが実感できた。体感で残り三割だろうか。
 本来そこまで持っただけでも暁光なのだが、ハヤテはそれどころではなかった。

(クソッ!痛ぇ…。何で俺がこんな目に会わなくちゃならない…。何で俺は一筋縄ではいかないダンジョンのボスに挑もうとか思ったんだ……)

 ハヤテは痛みにのた打ち回りながらも、そんな事を考えていた。
 その時フィリアの方はハヤテの方を気にしながらも、そちらに近づけないように必死になって攻撃をしていた。
 だが、ハヤテはそんなことを意識に入れる余裕は無かった。
 一撃入れられただけで全身が悲鳴をあげるように痛い。
 そんな“現実の痛み”がハヤテを襲っていた。

(あぁ、俺はバカか?このゲーム“みたいな”世界だということに浮かれて大事なことを見落としていたんだ…)

 ハヤテの自己分析は、はある結論に至っていた。
 フィリアは攻撃を頑張って続けていたが、自力の差が顕著に現れ、とうとうゴブリンキングに押されだしていた。

(これは間違いなく現実なんだ。俺もフィリアも、おそらくモンスター達も生きてる。俺はそれを本当の意味で分かっちゃいなかったんだ。心のどこかでゲーム設定だから死ぬことは無いだろうなんて思っていた。だが、ここで死んだら間違いなく死ぬ。俺はその覚悟を棚上げにしてここまでフィリアを突き合わせて、とうとうかなり危険な目に会わせてしまった……)

 その時、フィリアが魔法を詠唱している間にゴブリンキングがフィリアの近くまで移動し、左手で掴まれ、なすすべなく捕らえられてしまった。

「キャァァァァァ!」

 フィリアは捕まったことの恐ろしさと、ゴブリンキングの握力が体を締め上げてくる痛みから思わず悲鳴を上げていた。

(ここでもう一度問うぞ、俺。
 この世界を現実のものとして受け入れる覚悟はあるか?―――ある。
 お前にいざとなったら死ぬ覚悟はあるか?―――あぁ、もう大丈夫だ。いざとなったら、覚悟は出来ている。
 じゃあ、フィリアの為に命を懸ける覚悟はあるか?―――分かってんだろ?)

 そうしてハヤテはふらりと立ち上がって叫んだ。

「あるに、決まってんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」

 ハヤテのその瞳には以前よりも鋭さが増し、闘志の炎が宿っていた。

「フィリアを離せ!このクソ野郎!」

 そうしてハヤテは鉄刀を生み出しゴブリンキングの足元に切りかかった。

「ハァァァァァッッッ!」

 ハヤテの気合いの入った渾身の一撃は、今までハヤテが斬り続けていたダメージもあって、ゴブリンキングの左脚を切断した。

「ギィィィッ!」

 ゴブリンキングは左脚を部位欠損したその痛みからうめき声を上げ、片足ではバランスを取りきれなくなって転倒した。
 その時に地面とぶつからないようにフィリアを掴んだままの左手を地面に付いた。
 その結果フィリアに衝撃と、更なる握力がかかり、

「ッグッ!」

 と、声にならない悲鳴を出した。
 しかし、ハヤテも無策でこんな事をした訳ではない。
 今まではゴブリンキングの体長がデカすぎて、その腕に届かなかったが、これで届くようになったのだ。
 ハヤテはゴブリンキングの左手首の所へと走っていき、

「くらえっ!」

 振りかざした刀の切っ先を思いっきりその手首に突き刺した。

「ギィィィァァァァァァァッ!」

 ゴブリンキングは短刀を投げ出し、思いっきりハヤテを殴りつけたが、ハヤテは刀を抜かない。
 そして、ハヤテはとうとうゴブリンキングの手首の腱を切ることに成功した。
 ハヤテは、腱を切った事により力の入らなくなったゴブリンキングの左手からフィリアを助け出し、急いでゴブリンキングから距離をとった。

「あっ、あの…。ありがとうございます」

 フィリアがハヤテにお礼を言ってきたがハヤテは、

「俺もフィリアに言いたい感謝と謝りたい事が沢山あるんだ。だが、まずはコイツを仕留めてからだ」

 フィリアはハヤテの雰囲気が少し変わった事を敏感に感じとったが、今は戦闘中だと言うことから思い直し、ボスの方に集中した。
 ハヤテは、ゴブリンキングの周りに戦闘で水素を燃やしたときに出た水溜まりが溜まっているのを見て行動に移った。

「いけっ!『リチウム生成』!」

 リチウムは原子番号3の元素。元素記 号はLi。アルカリ金属元素の一つである。
 常温常圧では銀白色の柔らかい金属で、ナトリウムより硬い。常温で安定な 結晶構造は体心立方格子(BCC)。融点は180℃、沸点は1330℃であり、その融点および沸点はアルカリ金属元素の中で最も高い。また0.534という比重は全金属元素の中で最も軽く、水より軽い3つの金属元素のうちの1つ(残りの2つはナトリウムおよびカリウム)でもある 。そして、3,582J/(kg・K)という比熱容量は全固体元素中最大である 。その比熱容量の高さから、リチウムは伝熱用途において冷却材としてしばしば利用される 。
 炎色反応においてリチウムおよびその化合物は深紅色の炎色を呈する。主な 輝線は波長670.8 nmの赤色のスペクトル線であり、他に610.4 nm(橙色)、460.3nm(青色)などにスペクトル線が見られる。
 同じアルカリ金属のナトリウム、カリウムと比べて反応性は劣り、イオン半径が小さいため電荷/半径比がアルカリ金属としては高く、化合物の化学的性質は、アルカリ土類金属、特にマグネシウムと類似。乾いた空気中ではほとんど変化しないが、水分があると常温でも窒素と反応し窒化リチウム (Li 3 N)を生ずる。また、熱すると燃焼して酸化リチウム(Li 2 O)になる。このため金属リチウムはアルゴン雰囲気下で取り扱う必要がある。
イオン化傾向が大きいが、水との反応性はアルカリ金属中では最も穏かである。それでも多量のリチウムと水が反応すると発火する。


 ハヤテはこのリチウムを水溜まりにバラまいた。
 すると即座に反応してリチウムの炎色反応の赤色の炎を上げて燃焼を開始した。

「オマケだ。『水素生成』!」
 更にハヤテは水素をゴブリンキングの周りに出し、リチウムの燃焼によって爆発させ、更に水を作り出し、反応速度をあげるとともに、ゴブリンキングの周りを水蒸気だらけにした。
 コレは別にダメージを与えたかったわけでも、ゴブリンキングを水蒸気で不快にしたかった訳でもない。
 真の狙いは、

「フィリア、今だ!ゴブリンキングに向かって『サンダージャベリン』を撃て!」
「えっ?分かりました。駆けろ雷『サンダージャベリン』!」

 そうしてフィリアの雷撃がゴブリンキングに殺到して、

「えっ!?」

 ゴブリンキングに当たるとフィリアが驚くほどの電撃となった。
 水は電気をよく通すと言うが、あれは水に不純物を多く含むからであって、本来ならばほとんど通さないのだ。
 だからハヤテはリチウムをイオンにして溶かし、それを電気を運ぶ物質キャリアとして電撃を運ばせたのだ。
 このため電撃はかなりの威力でゴブリンキングを襲い、とうとう麻痺状態にする事にも成功した。

「よし、これで終わりだ!『鉄生成!シェイプ:ソード』。加えて更に鉄生成!生成!生成!生成!生成!生成!」

 そうするとハヤテの生み出した鉄剣が高さ20メートルほどの高さがある天井に届きそうなほどの巨大な剣が出現した。

「いけっ。『断頭の大剣』!」

 ハヤテはその大剣を当然持てないので、麻痺して動けないゴブリンキングの方向に倒しただけだった。
 だが、その効果は絶大。
 巨大な鉄剣のその重さに任せた一撃がゴブリンキングを襲い、その体を真っ二つに切り裂き、残り1割強だったそのHPを派手に散らせた。
 そして、真っ二つになった、ゴブリンキングはポリゴン状になって砕け散ったのだった。

「…終わったな」
「…終わり、ましたね」

 ハヤテとフィリアはボスのゴブリンキングを倒した事への喜びよりも、強敵との長い戦闘のダメージと疲労で満身創痍となり、ボスを討伐したことを知らせるファンファーレのアナウンスが流れ終わった後も、しばらく何も言えなかった。

(Congratulations! ボスを討伐しました。
 Lv.24になりました。
 ボスドロップを獲得しました。
 討伐報酬を獲得しました。
 称号を獲得しました。
 ボスが討伐されたため、ダンジョンが崩壊します。
 ダンジョン内部の人間は外に転移します。
 ボス討伐、お疲れ様でした!)

―――――――――――――――――――――――――

 ステータス(ボス戦終了直後)


 神崎ハヤテ  Lv.24 (男)
 職業:エレメントマスター (一次職)Lv.6

   HP:25/132
   MP:3/425
   Str:53
   Vit:82
   Int:72
   Rst:79
  Agi:52
  Dex:91

  スキル
 エレメントテイム Lv.6




 フィリア・F・モデラート  Lv.24 (女)
 職業:魔法使い(一次職)Lv.6

   HP:54/206
   MP:71/341
   Str:72
   Vit:74
   Int:132
   Rst:92
  Agi:78 
  Dex:124

  スキル
 火系統魔法 Lv.5
 水系統魔法 Lv.1
 風系統魔法 Lv.1
 土系統魔法 Lv.1
 雷系統魔法 Lv.4
 光系統魔法 Lv.1
 闇系統魔法 Lv.1
 無系統魔法 Lv.1

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