〈記者の眼〉 介護保険見直し案
要支援者切り捨ての懸念
政府は先月、社会保障改革の工程をまとめたプログラム法案の骨子を決めた。皮切りとなる介護保険の見直しには、介護を必要とする高齢者の「切り捨て」につながりかねない項目が含まれる。社会保障充実のための消費税増税ではないのか。
2007年冬、重度の認知症の91歳の男性が愛知県内の駅で線路に入り、列車にはねられて死亡した。JR東海は男性の遺族に、列車の遅れなどによる損害約720万円の支払いを求め提訴した。名古屋地裁は先月初め、遺族側に支払いを命じる判決を出した。
この判決に、介護関係者から「認知症の人は鍵をかけて家の中に閉じこめておけということか」と怒りの声があがっている。
認知症高齢者の介護を担う家族の負担は重い。進行すると、暴言や妄想、家から出て歩き回る徘徊(はいかい)などの症状が出る。家族は目が離せない。
厚生労働省によると、65歳以上の高齢者のうち、認知症の人は12年度で460万人。認知症になる可能性がある人も合わせると、高齢者の4人に1人が認知症とその「予備軍」だ。
介護保険の制度見直しの中で懸念されているのが、予防のためのサービスを受けている要支援の約150万人を保険の対象から外し、市町村の事業に委ねる案だ。
介護保険の給付費は、制度が始まった00年度から2.3倍の8兆円余に膨らんだ。市町村の事業に移し、専門家を使わずにNPOやボランティアを活用すれば、安くあがるという発想だ。現在1割の利用者負担をいくらにするかも市町村に任されるため、負担が跳ね上がる地域も出かねない。
案が公表されると、市町村や有識者、福祉関係者から「市町村で格差が生じる」「人材確保が難しい」などの懸念の声が相次いだ。
「認知症の人と家族の会」の勝田登志子副代表理事は「初期、軽度の人たちがサービスを使いにくくなる。認知症の初期対応重視というこれまでの方針とも矛盾する」と批判する。
厚労行政に詳しい民主党議員は「要支援の人を『軽度』というが、果たして本当に軽いのか。要支援の中には認知症の人も多い」と指摘する。同省によると、要介護・要支援者の6割が認知症。要支援者が予防サービスを受けられない事態になれば、かえって症状は重篤化しかねない。
プログラム法案には介護保険だけでなく、国民に「痛み」を強いる改革が並ぶ。政府は消費税率を5%引き上げる分のうち、1%分(2兆7千億円)は「社会保障の充実」に充てると説明するが、詳しい中身は明らかにしていない。これでは増税への理解は得られない。(政治部・上坂修子)
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