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〈記者の眼〉 介護保険見直し案

(2013年9月10日) 【中日新聞】【夕刊】【その他】 この記事を印刷する

要支援者切り捨ての懸念

画像社会保障制度改革の中身を決めた国民会議であいさつする甘利経済再生相(右手前から3人目)。同2人目は清家篤会長

 政府は先月、社会保障改革の工程をまとめたプログラム法案の骨子を決めた。皮切りとなる介護保険の見直しには、介護を必要とする高齢者の「切り捨て」につながりかねない項目が含まれる。社会保障充実のための消費税増税ではないのか。

 2007年冬、重度の認知症の91歳の男性が愛知県内の駅で線路に入り、列車にはねられて死亡した。JR東海は男性の遺族に、列車の遅れなどによる損害約720万円の支払いを求め提訴した。名古屋地裁は先月初め、遺族側に支払いを命じる判決を出した。

 この判決に、介護関係者から「認知症の人は鍵をかけて家の中に閉じこめておけということか」と怒りの声があがっている。

 認知症高齢者の介護を担う家族の負担は重い。進行すると、暴言や妄想、家から出て歩き回る徘徊(はいかい)などの症状が出る。家族は目が離せない。

 厚生労働省によると、65歳以上の高齢者のうち、認知症の人は12年度で460万人。認知症になる可能性がある人も合わせると、高齢者の4人に1人が認知症とその「予備軍」だ。

 介護保険の制度見直しの中で懸念されているのが、予防のためのサービスを受けている要支援の約150万人を保険の対象から外し、市町村の事業に委ねる案だ。

 介護保険の給付費は、制度が始まった00年度から2.3倍の8兆円余に膨らんだ。市町村の事業に移し、専門家を使わずにNPOやボランティアを活用すれば、安くあがるという発想だ。現在1割の利用者負担をいくらにするかも市町村に任されるため、負担が跳ね上がる地域も出かねない。

 案が公表されると、市町村や有識者、福祉関係者から「市町村で格差が生じる」「人材確保が難しい」などの懸念の声が相次いだ。

 「認知症の人と家族の会」の勝田登志子副代表理事は「初期、軽度の人たちがサービスを使いにくくなる。認知症の初期対応重視というこれまでの方針とも矛盾する」と批判する。

 厚労行政に詳しい民主党議員は「要支援の人を『軽度』というが、果たして本当に軽いのか。要支援の中には認知症の人も多い」と指摘する。同省によると、要介護・要支援者の6割が認知症。要支援者が予防サービスを受けられない事態になれば、かえって症状は重篤化しかねない。

 プログラム法案には介護保険だけでなく、国民に「痛み」を強いる改革が並ぶ。政府は消費税率を5%引き上げる分のうち、1%分(2兆7千億円)は「社会保障の充実」に充てると説明するが、詳しい中身は明らかにしていない。これでは増税への理解は得られない。(政治部・上坂修子)

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