~原子番号5番 ホウ素~
***
~ハヤテが入浴中の応接室にて~
「アナタ、あんなにあっさりハヤテ君をモデラート家に受け入れて良かったの?」
「なんだ、心配してくれているのかい、リーナ?」
フィリアは自室に戻り、ハヤテが風呂場へとメイドさんに案内されていっている間に、ヴァイスとリーナはハヤテのことについて話していた。
「心配ってほどじゃ無いけどね。むしろ私は賛成よ。フィリアがお世話になっただけじゃなくて、性格も変えてくれたし、そして何より、ハヤテ君は平民とは思えないくらい言葉使いや性格がいいわ」
「確かにそうだなぁ。モデラート家に養子として欲しいくらいだ。フィリアもあんな子と婚約してくれるとありがたいんだがな……」
「あら、アナタのことだから、てっきり『娘は誰にも渡さん!』くらいのことを言うと思ったのに」
「俺はそんなに親バカじゃないさ」
そんな会話をしていたのだが、やがてその雰囲気がガラッと変わった。
「それでアナタ。彼は何者なの?」
「…やっぱり気になるか?」
「それはもちろん。だって、どうせアナタハヤテ君のこと『視て』らしたんでしょう?」
リーナがそう言うと、ヴァイスは小さく笑った。
「そりゃな。もしどっかの貴族の使いだったり、他国のスパイなんかが娘についたりしたらぞっとしない話だからな。だが、安心していい。アレは間違いなくシロだ」
ヴァイスの発言によって、2人ともその緊張した雰囲気を和らげた。
「だけどアナタ、アナタのその『眼』だって、全てが視えてるわけでは無いから、万が一っていう可能性も無きにしもあらずでしょう?シロだと言い切れる根拠はあるの?」
「ああ。ハヤテ君のステータスを、俺の、相手の大雑把なステータスを視れるこの魔眼で視てみたんだが、ハヤテ君にはまず出身地がなかった」
「無かったって……」
リーナは多少困惑した表情をヴァイスに向けた。
「普通はこんな事は有り得ない。ただ、唯一可能性が有るとしたら、どこかの国が勇者召還をしているときにトラブルがあって失敗して、ハヤテ君はどこかに放り出されていたところを、偶々フィリアが見つけて拾ったのかもしれないってことだ。コレだとハヤテ君とフィリアの言動に矛盾もしないからな…」
「それって……」
「あぁ。もしこの仮説が会ってたとしたら、召還した国は間違いなくハヤテ君を探し回る。ひょっとしたら、近々国同士で戦争が始まるかもしれない」
その事にリーナは息を呑んだ。
それを見たヴァイスはリーナを安心させるように言った。
「だが、勇者と一般人を見分ける方法なんざスペックの差以外は無いんだ。突き止めるにしても強者を見つけて自己申告させるくらいしか方法は無いだろうよ。俺はハヤテ君が自分が召還された勇者であることを知っていて、召還した国に行きたいと言っても引きとどめるつもりもないし、もし知らなかったとしても、タイミングを見つけて教えてやって、自分で判断させて好きなようにさせるさ。俺はハヤテ君が気に入ったんだ。だからこそ、彼を国や、俺たちの勝手な利益のために利用する気なんて毛頭ないからな」
「やっぱり、アナタったら優しいのね」
「自分に選択させなければならない状況に追い込むヤツのどこが優しい?」
「選択を与えてあげるからこそよ。その時は悩むかもしれないけど、それは自分で選んだ道なら後々それを納得出来るもの。でも、強制的に彼を縛ってしまっては、ただ周りに従うしかできなくなるわ」
「……考えすぎだ」
ヴァイスは照れ隠しをするようにそっぽを向いた。
「うふふっ。そんなアナタだからこそ私は好きよ。たとえモデラート家が他の貴族から『平民と仲良しこよしの甘ちゃん貴族』と言われて目の敵にされていてもね」
「……知ってたのか」
「ええ、アナタと付き合う前から。でも、私は貴族と平民の垣根を無くして共に歩んでいける、そんな風に考えられるアナタに惚れたのよ」
「ありがとうな、やっぱりお前は最高の妻だよ、リーナ」
「アナタも最高の夫よ、ヴァイス」
そんな会話が、ハヤテが風呂から戻るまでずっと続いたという……。
***
「ハヤテ様、ここがお風呂場でございます。何かあったらいつでもお呼び下さい。それではどうぞおくつろぎを」
「すみません。わざわざ案内していただきありがとうございました」
ハヤテが応接室からお風呂場まで案内してくれたメイドさんにお礼を言うとハヤテは早速入っていった。
まず日本の風習に倣って日本の銭湯がそのまま抜き出たような造りの脱衣所で服を脱ぎ(この脱衣所が銭湯に迫る勢いで広いのにハヤテは驚いたが…)籠に入れる。
そして、タオルが分かりやすい位置に畳んで置いてあったのでそれを一枚取りだし、早速風呂場へと行くドアを開いた。
そこには…、
「さっきから、なんか嫌な予感しかしなかったんだが…やっぱりか……」
見渡すと日本の銭湯で見慣れた泡風呂、水風呂、岩風呂、サウナ、露天風呂などなど、そしてなぜかシシオドシまで付いていた。
「外見が外人チックな人しかいないし、街並みも西洋っぽいのに、なんでここだけ日本風!?世界観ぶち壊しだよっ!」
ハヤテは本気で突っ込んだのだった。
「……さて、気を取り直して、まずは掛かり湯をして体を洗いますかね」
ハヤテはもう諦めて銭湯のように風呂に入ることにした。
いきなり湯船に浸かるのはマナー違反なので一週間ほど拭くだけで済ませていた体を丁寧に洗おうとするが、
「石鹸、石鹸っと……あれっ?石鹸がないぞ?」
ハヤテが周りを見回してみてもどこにも石鹸が無かった。
異世界だから、どんなにそっくりでもお風呂への入り方は違うのだろうかと思ったが、目線の先に洗いダオルなど石鹸以外のお風呂場グッズを見つけたので、多分一緒なのだろうと思った。
実はこれ、この数日前からモデラート家で雇った新人メイドさんが、掃除の時に石鹸を置き忘れたのである。
ハヤテはどうしようもなく、この状況でメイドさんを呼ぶのも絵的に危ないので、結局自分で作ることにした。
「少々非効率的だが、あんまり時間をかけても風邪引くからな。一気に行くか!『エレメントテイム:炭素、水素、酸素』そして『化合!:グリセリン』さらに、『ナトリウム、炭素、水素、酸素を化合!:高級脂肪酸ナトリウム』仕上げに『ホウ素生成、グリセリンと高級脂肪酸ナトリウムを鹸化して、ホウ素で調整』」
ハヤテは自分の単体から石鹸を作るときに、『エレメントテイム』で時間短縮のために、ざっくりとした手順を踏んでしまっている事によるMPの少々の浪費には目をつぶって石鹸を精製していく。
「よしっ!出来た。石鹸だ」
ハヤテは自分のスキルで石鹸を作り出したのだった。
ここで、今使われたホウ素について説明したいと思う。
ホウ素は、原子番号5の元素。元素記号はB。第13族元素のひとつである。
αボロン(α-B 12 )、βボロン (β-B 105 ) などが単体安定構造として存在する。
単体は黒みがかっていて、非常に硬く、単体元素としてはダイヤモンドに次ぐ硬度9.3を示し、半導体の性質を持つ。
比重は、αボロンが2.54、βボロンが2.37である。
βボロンの融点は2180℃、沸点は3658℃である。
水や塩酸などには不溶。硝酸には溶ける。
常温でフッ素と反応し、空気中では表面が酸化される。
水素とはボラン(ホウ化水素ともいう水素化物)を形成する。
ホウ素が単体で使用されることは少ないが、化合物や合金の形で様々に利用されていて、身近な用途で使用される場合は、ホウ砂やホウ酸の状態であることが多い。
ホウ砂はガラスの原料や防腐剤、金属の還元剤、溶接溶剤や研磨剤、火の抑制剤などに使われ、教育の現場では、ホウ砂と洗濯糊などを用いてスライムを作成する子供向けの科学実験工作がしばしば行われる。
ホウ酸は目の洗浄剤、石鹸、うがい薬や鼻スプレーなど口腔衛生のための医薬品として使われる。
今回ハヤテが使ったのはこの性質があるために、石鹸に加えたのだ。
他にホウ酸団子としてゴキブリ駆除などに使われる。
ホウ素は密度が小さく、ヤング率が大きく、音の伝わる速さが16,200m/sとアルミニ ウムの約2.6倍以上であることから、音響材料としてはベリリウム以上に理想的な素材として知られているが、技術的に加工が難しい素材であった。実際に音響機器の応用商品が流通し始めたのは1980年代からである。
ホウ素は半導体としての用途があり、単体でも電流電圧特性を示すが、半導体素子においては多くがケイ素へのドーパントとして使用されている。
ケイ素はそれ自身では真性半導体であるが、ホウ素を微量添加することでP型半導体が作製でき、ダイオー ドやトランジスタに欠かすことができない材料となる。
また、ホウ素系薬品で処理をした古新聞紙が、「セルロースファイバー」という名称で断熱材として使用される。
吸湿性を持つ天然繊維系断熱材として注目されている。ホウ素系薬品で処理することにより、撥水性、難燃性、駆虫作用 が得られる。
日本の大手ハウスメーカーで採用例は少ないが、アメリカでは家庭用断熱材の40%前後のシェアを占めるそうだ。
充填工法で施工されるために、専門の吹き込み用機器が必要なこと、改築の際に壁・天井に充填されたセルロースファイバーが障害になる、吹き込み後の沈み込みの可能性、などの問題を指摘する声があるが…。
鍵の潤滑剤としても使われる。鍵穴にホウ素の粉末をスプレー注入することによって抜き差しや回転の滑りを良くするという用途がある。
有機化学の分野においても、ホウ素の有機化学への利用はH・C・ブラウンによって系統的に研究が行われ、ブラウンはその業績によって1979年にノーベル化学賞を授与された。
還元剤としての水素化ホウ素ナトリウムやヒドロホウ素化は、現在でも有機合 成上、盛んに利用されている。
有機ホウ素化合物は鈴木・宮浦カップリングによって多用な変換が可能なため、複雑な化合物の前駆体として利用されている。
トリエチルボランは自己発火性を持つために、点火剤として使用される。
植物にとっても必須元素の一つであり、98 %は細胞壁に存在することから、細胞壁の合成、細胞膜の完全性の維持、糖の膜輸送、核酸合成、酵素の補酵素などに関係していると予想されているが、まだ解明されてはいない。植物中でホウ素輸送を行う物質は2002年 (平成14年)に初めて同定された。
一方、高濃度のホウ素は植物の成長を阻害するため、土壌中のホウ素含有量が高いオーストラリア南部などでは農業が困難となっている。
植物の遺伝子を改変することで、ホウ素耐性を持たせる研究が進められている。
と、いろいろ述べたが、実はこのホウ素、単体のままでは非常に用途が狭いのだ。そのために、ほとんどが化合物として用いられている。
ハヤテは石鹸を作り出した後、気づいた事があった。
「うーん…。ちょっと作りすぎたか?」
ハヤテの目の前には石鹸の山が出来上がっていたのだった。
「まぁ、いいか。後でメイドさんに言ってどうにかしてもらおう」
ハヤテはこの件をメイドさんに丸投げをしたのだった。
ハヤテは体を作った石鹸で綺麗に洗い、湯船につかった。
そこは懐かしくもあり、なんだかんだいって異世界に来てからずっと張っていた気を緩めることが出来る落ち着ける場だった。
ハヤテがお風呂から上がり、着替えて外に出るとメイドさんが待機していたから石鹸のことを伝えると、メイドさんが恐縮した感じの表情を示し、ハヤテの作った石鹸を回収して閉まっていった。
因みにメイドさんはずっと外で待機していた訳ではなく、それまで別の仕事をしていたが、ハヤテが上がるタイミングを感知してそこに戻ってきたらしい。
怖い?いやいや、これはメイドさんの持つ感知魔法である。
これは、魔法の素養が少しあれば誰でも使えるようになる初等魔法だそうだ。
それからハヤテはメイドさんについて行くと、今度は晩餐会場のような所へと案内された。
そこには既にヴァイスとリーナ、そしてフィリアのモデラート家の面々が揃っていた。
ハヤテは先んじて言った。
「すみません。お風呂、先に貰いました。気持ちよかったです」
「くつろいでくれたようで何よりだよ」
ヴァイスがそう言うと、メイドさんが告げた。
「ヴァイス様、ハヤテ様から石鹸を頂きました」
「石鹸?確かに在庫が少なくなっていたな。でも、いいのかいハヤテ君、そんな高価なものを貰っても?」
ハヤテはそこで、またもや認識の齟齬を感じた。
「えっ?石鹸ってそんなに高価なものなんですか?」
「そりゃあそうだろう。石鹸は数少ない錬金術師ギルドの連中が多大な時間と労力を費やして作っているからな」
「あれっ?そうなんですか?」
「ハヤテ君が石鹸を買うとき、それなりの値段がしただろう?」
「いいえ。石鹸なんか買ってませんよ?今作りましたけど?」
「はぁ?今作った!?それはどういうことだ?」
ハヤテとヴァイスが問答を繰り返しているのを見かねて、フィリアがそこに割って入った。
「はいはいお父様、そのくらいにして、詳しい話は食事をしながらでも出来るでしょう?」
「しかしだなフィリア…」
「お父様、この程度のことでハヤテさんのしたことに驚くことが間違ってますよ。この人そんなレベルじゃないですから…」
「そうなのか?」
それを聞いていたハヤテが言った。
「フィリア、なんか俺、エラくハードル上げられてない?」
「いえ、事実ですので」
「……マジで?」
「マジでです!」
その空気を打ち壊すようにリーナが言った。
「ハヤテ君のことは食事でもしながらゆっくり聞きましょう。だから、みんな席に着いた着いた!」
ヴァイスは、ハヤテの良くも悪くも常識外れな事に呆れ、そして水に流す事を覚えたのか、それから和やかな雰囲気で晩餐会が始まった。
料理の見た目はどこぞのフランス料理っぽかった。
その食事の最中の会話である。
「それでハヤテ君、これから入学式までの間はどうするつもりだね?」
ヴァイスはハヤテの事を憂慮してそう聞いた。
「とりあえず、試練の時に手に入れた、余っているドロップアイテムなんかを売って、後はゆっくりしようと思います。レベル上げに出ても良いんですが、フィリアは行きたくはないでしょうし」
「あら、フィリアに構ってあげなくてもいいのよ?1人で行ってきたら?」
そんな風にリーナが言ったが、
「いえ。俺はこの辺の地理を全く知らないので、下手にそんなことをしたら入学式の日までに帰って来られなくなりますよ。というわけで、ご迷惑かもしれませんが、入学式までの3週間ほどお世話になってもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ!なぁ、リーナ」
「えぇそうね、アナタ」
「もう、ハヤテさんの前でイチャイチャしないでくださいよ!」
その日ハヤテもモデラート一家も、話すとマズいかもしれないことは隠しながらも、色んな話をしながら夜が更けていったのだった……。
明くる日、ハヤテはドロップアイテムを売るために街へと繰り出した……フィリアを連れて。
「フィリア、アイテムを売るのくらい俺1人で行こうと思うんだが?」
「ハヤテさん、買い取って貰える場所知ってます?」
「ギクッ!」
「ぼったくられないように相場を知ってます?」
「グサッ!」
「ほら、私がいないと全然ダメじゃないですか?」
「わ、悪かったな!」
意気込んでモデラート家を出てきたハヤテは初っ端から出足を挫かれたのだった。
「もう、しょうがないですね、ちゃんと付いて来て下さいよ?」
ハヤテがフィリアについて行っているとき、すぐにに異変に気づいた。
「フィリア、なんか昨日よりも人が多くないか?」
「今日は祭だからでしょう。その……私達が一番で試練から帰って来たことを祝う……」
「あ、あぁ、そう言えばそうだったな……」
ハヤテはなぜか自分達が帰って来たことによって始まった祭であることを意識すると、少し恥ずかしく思ったのだった。
街は昨日の街並みや人が並ぶ姿もまるで、それでも自重していましたよと言わんばかりの賑わいを見せていた。
「なんか、照れくさいですね」
「そうだな……。俺達がこの祭りが開かれる事になった原因だもんな……」
「それにしても、これだけ人が多いと、真っ直ぐ前に進むのも苦労しますよ」
実際ハヤテとフィリアはなかなか前に進めずにあくせくしていた。
「まぁ、急いでるんじゃ無いんだ。祭りの雰囲気を楽しみながら行こうと」
「目的地も分かって無い人がそれを言いますか?」
「ウグッ!一言余計だフィリア……」
それから10分くらい経っただろうか、ハヤテとフィリアはとある建物の正面にいた。
「フィリア、ここは?」
「ここはギルドといって、主に冒険者に仕事を斡旋するところです」
フィリアの説明に、ハヤテは……、
「ギルドキタァァァーーー!」
テンションが上がっていた。
「ハ、ハヤテさん!?」
突然のハヤテの叫声にフィリアは唖然としていたのだった。
「フィリア、ここはギルド、ギルドなんだよな!?」
「え、ええ……」
「冒険者なんかも職業としてあるんだよな!?」
「何を言ってるんですか?あるに決まってるじゃないですか?」
「ックゥゥゥ!」
ハヤテはファンタジーと言えばこれ!と言うべきものに出会って、心底感激していた。
ハヤテの好んで読んでいた小説では、良く主人公はギルドに行って冒険者登録をし、そこで何らかの形で実力を見初められ、チートのようなその能力で異世界での地位を築き上げる。そんなストーリーが多かった。
だからハヤテはついギルドと聞いて嬉しくなったのだ。
「あ、あのっハヤテさん、大丈夫ですか?」
フィリアの心配そうな声に対してハヤテは安心させるように言った。
「すまない。これでようやく念願のチート主人公的物語……が……?」
ハヤテはそこで肝心なことに思い当たった。
「……俺、そんな無双出来るようなチート持って無いじゃん……」
ハヤテはガックリとうなだれて、5分ほど横でオロオロしているフィリアに申し訳なく思いながらも、無双したいという夢が叶わないというショックから立ち直る事が出来なかった。
しかし、このときのハヤテはまだ、超とは言えないまでも、ほんのちょっっぴりはチート無双出来ているのだと言うことに気付いていなかった。
それからハヤテが立ち直り、
「すまない、フィリア。もう大丈夫だ!」
と言った。
フィリアもまた、
「はい。と言うかハヤテさんにいつまでもうなだれてもらっていては全然ギルドにも入れませんし、もう、頼みますよ!」
と、多少怒った様子を装いながらも返したのだった。
「あぁ、気をつけるよ……。というわけで、ギルドに入るか!」
ハヤテのその一言を引き金として、2人はギルドの中に入っていった。
「こんにちは……」
ハヤテは意気込んではみたものの、恐る恐るギルドに入った。
ハヤテはこういった時はテンプレートな展開として、誰か怖そうな冒険者がいて突っかかってきて揉め事が起こるので、今回もそういったことが起こるのだろうと予想していたため、それを少しでも避けようとしてあまり人に見つからないようにギルドに入っていたのだが、そこには予想に反して人がほとんどいなかった。
「あれっ?いませんね?」
後ろから付いて来たフィリアも、人がいないことが直ぐに目についたのだった。
しょうがないのでハヤテが、
「すみません、どなたかいませんか?」
と言うと、カウンターのような作りになっているギルドの奥から、
「はーい!」
という女性の声が聞こえてきた。
その声の主は急いで出てきた。
声の主はハヤテ達よりも年上だが、高校生くらいの年に思えるの見た目で、それでいて大人っぽい魅力ではなく、まだまだ発展途上の可愛らしさと美しさの微妙な均衡を持っている美人なお姉さんだった。
「ようこそミルバード王国ギルドへ!」
そのお姉さんは恐らく営業スマイルなのであろう笑みをハヤテ達に返しながら、お決まりなのだと思わせるセリフを言ったのだった。
しかし、ハヤテはその事にどぎまぎしてしまい、若干フィリアに睨まれた。
お姉さんはそれをまるで見ていなかったかのようにスルーして続けた。
「こんにちは。初めての方ですよね?本日はどういったご用件でしょうか?」
お姉さんがそう言ったので、まずフィリアが答えた。
「あの、私達が入手したドロップアイテムをいくらか売却したいんですが……」
「かしこまりました。ギルドカードはお持ちですか?」
そこでハヤテがすぐに聞いた。
「売却にはギルドカードがいるんですか?」
「いえ。そういう訳では無いんですが、ギルドに所属している方ならギルドランクに関わるポイントが多少付きますので、その分ランクが早く上がってお得なんですよ。そう言えば見ない顔ですね。ギルドは初めてですか?」
「お恥ずかしながら…」
「それではどうしましょうか?そのまま売却なさいますか?それともギルドに登録しましょうか?」
ハヤテとフィリアは少しの間だけ考えた後、
「ギルド登録をお願いします」
と言った。
ハヤテはギルドへの純粋な憧れから。
フィリアは学園で自分のような弱者が上手くレベルを上げて成功するには、ギルドに登録しておいてクエストをこなした方が良いという効率を考えた結果であった。
「かしこまりました。ギルド登録ですね。この用紙にご自身の氏名やジョブなどを書かれている所定の欄に従って書いて下さい。字が書けない時は呼んで下さい。代筆致しますので」
ハヤテは一応異世界なので、自動翻訳によって会話は出来るが、字の方は書けるだろうか不安に思ったが、問題なく出来たのでほっとした。
フィリアとハヤテが用紙の指定の欄を埋め終わると(ハヤテは書いたらまずそうな所は適当にでっち上げたが…)、ギルドの受付嬢にその紙を渡した。
「…はい、オッケーです。それではこちらの水晶に1人ずつ手をかざして下さい」
「あの、これは?」
ハヤテが聞くと、受付嬢の人は嫌な顔ひとつせずに答えた。
「これはその人のレベルなどを確認することが出来る水晶です。流石にレベルなどを自己申告制にしますと詐称する方が出てきますので、この点に関してだけは私達もレベルに見合ったクエストを提供出来るようにこの水晶を使って確認しているのです」
「なるほど。分かりました」
ハヤテは、確かに書くだけならいくらでも偽装しほうだいだからなと納得した。
その説明が終わると、まずはフィリアから手を翳した。
「はい、良いですよ。…あれっ?あなた達、先ほどの表記ではまだ、12歳ではなかったですか?」
「そうですが?」
フィリアがそう答えると、受付嬢は目を見開いた。
「だっ、だって12歳と言えばLv.10、高くてもLv.15が最高でしたよそれがLv.24って…」
「それじゃ、次は俺ですよね」
ハヤテはいい加減慣れてきているので、受付嬢の驚愕を無視して水晶に手をかざす。
すると、水晶はフィリアと同じLv.24を指した。
「あなたもですか…12歳でこれって、今年は化け物が2人も…んっ?12歳?今年?あれっ?あなた達、試練はどうしたんですか?」
「「もちろん、終わらせて来ましたよ?」」
「と言うことは、今日の祭の主役は…」
受付嬢の疑問にハヤテは答えた。
「いや、まぁ。そういうことです…」
「『そういうことです…』じゃ無いでしょう?こんな所であなた達は何をやっているんですか!?毎年一番乗りで帰って来た人たちはワザと目立つようなところに行って自分を宣伝して回りますよ?そうすれば貴族でも平民でも名前を売れますからね。ですが、何であなた達は、いつもならまだしも、祭りでこんなに人気のないギルドにいるんですか!?」
「だって、名声とか興味ないですし…」
ハヤテはどうせ自分の元いた世界に帰るつもり満々だったので、この世界での名声だの何だのは、本当に心底どうでも良かったのだ。
「興味無いって…。これ、ギルドカードです…」
ギルドカードが出来たので、受付嬢が疲れを見せながらもハヤテとフィリアにそれを渡した。
それからハヤテ達は本題のドロップアイテムの売買に入った。
「それじゃぁこれ、今回売りたいアイテムです」
ハヤテはそう言うと、アイテムボックスから(実際はカムフラージュで腰にしているポシェットのようなものから取り出しているように見せかけて、アイテムボックスから取り出していたのだが)アイテムをとりだした。
そのアイテムの出ること出ること。
ハヤテは必要ないので、ボス戦の時に手に入ったドロップアイテム以外は全て売り払ったのだった。
全部取り出した頃にはアイテムは机に収まりきらないほどに山積みになっていた。
「こっ、これ…」
受付嬢はまたもや驚き、開いた口が塞がらないようだった。
「こんなにアイテムを手に入れるのにさぞや時間がかかったでしょう。どのくらいかかりました?」
「大体、一週間くらいですかね?」
「一週……!?」
受付嬢は失神してしまいそうな心境だったのだが、気を取り直して言った。
「少々お待ちください。今、査定して参りますので…」
「あっ、待ってください!」
ハヤテは受付嬢を呼び止めると、
「これもこんなにいらないので、引き取って下さい」
ハヤテはそう言って『ゴブリンエリートの短剣』を2本渡したのだった。
「はい、了解しました」
それから受付嬢はギルドの奥に消えていった。
ハヤテとフィリアが待つこと10分。
「お待たせしました。今回の売却額、しめて3,265,200クランです」
クランとはこの世界のお金の単位で、大体1クランが1円である。
繰り上がり方も日本と同じで、
1クラン=錫貨1枚
10クラン=鉄貨1枚
50クラン=小銅貨1枚
100クラン=中銅貨1枚
500クラン=大銅貨1枚
1000クラン=銀貨1枚
5000クラン=大銀貨1枚
1万クラン=金貨1枚
だった。
こうして、ハヤテは一気に大金持ちになったのだった。
受付嬢が差し出した袋には主に金貨が沢山入っていて、かなり重たかった。
しかし、ハヤテはこのときはまだお金のだいたいの価値を把握出来ていなかったので、どのくらい儲けたのかも知らなかったが……。
「後で渡されたゴブリンエリートの短剣が高く付きまして、それが1本100万クランでしたのでこうなりました。これに伴ってギルドランクも上げさせて頂きます」
ハヤテは受付嬢が妙に事務的で、一々驚かなくなっていることに違和感を覚えたが、そんなこともあるかと自分を納得させた。
実はこれ、受付嬢の驚愕がゴブリンエリートの短剣を鑑定したあたりで一周回って体の防衛本能も働いた事から冷静になっただけなのだが。
「ギルドランクはFから始まってアルファベット順にAまで上がり、その上にSまであるのですが、今回の売却によりFランクが一気にDランクまで上がります。詳しくはこちらのギルド案内書をお読み下さい」
そう言って受付嬢はちょっと分厚いカタログのような本をハヤテとフィリアに差し出した。
「あの、私もハヤテさんと同様のものを売却したいんですが宜しいでしょうか?」
フィリアがそう言ってハヤテと同じアイテムをだすと、
「はい、もちろん」
と言って受付嬢は奥に下がり、確認してきた後、フィリアにも同額のお金とギルドランクをアップさせたのだった。
ハヤテ達はギルドでの用事が済んだので、ギルドを後にする事にした。
「またのご利用、お待ちしております!」
背後から掛けられた受付嬢の挨拶を聞きながら。
書いておきたいところまで長くなりそうなので、やっぱりここから分割します。
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