米国:シリア化学兵器対応に一貫性なく 外交の信頼揺らぐ
毎日新聞 2013年09月15日 21時43分(最終更新 09月15日 21時58分)
【ワシントン白戸圭一】オバマ米大統領は14日、シリアの化学兵器廃棄に向けた米露合意を「歓迎する」との声明を発表し「この枠組みは透明、迅速、検証可能な方法でシリアの化学兵器を廃棄する機会を提供する」と、外交的成果を自賛した。だが米露合意は、化学兵器の廃棄に主眼を置き「使用」への懲罰的要素は希薄だ。米国内外の根強い攻撃反対論に応える形で結んだ今回の合意は、米外交に対する国際社会の信頼感を損ねかねない危険をはらんでいる。
オバマ政権がシリア攻撃の必要性を訴えてきた背景には、化学兵器使用を一度でも見過ごせば、独裁国家やテロ組織による大量破壊兵器使用のハードルが下がることへの懸念があった。
大統領は8月30日の段階で「何も行動を起こさなければ、化学兵器禁止の国際規範には意味がないとの誤ったシグナルを送ることになる」と述べ、北朝鮮やイランを念頭に置いたシリア攻撃の必要性を強調していた。
だが、大統領は米露合意を受けて発表した14日の声明で「外交努力が失敗すれば、米国は行動する用意がある」と軍事圧力をちらつかせてアサド政権に合意履行を迫る一方、アサド政権による攻撃と断定した8月21日の化学兵器使用に対する「懲罰」には言及しなかった。
ある日本外交官は、オバマ政権の対シリア政策について「北朝鮮などが『大量破壊兵器使用や大規模な人権侵害をしても、今の米国は軍事介入しない』と安心する恐れがある」と指摘する。
米露合意では、化学兵器を国際管理下で来年半ばまでに廃棄すると定めた。廃棄計画を確実に履行してテロ組織への流出を防ぐには、当面はアサド政権が安定している方が望ましい。つまり、米国は今回の合意で、退陣を求めるアサド政権の当面の「安泰」を願わざるを得ないという矛盾を抱え込んだ。
オバマ政権は、シリア内戦の政治解決に向けた国際和平会議を10月中に開催したい意向だが、シリア戦略の整合性の欠如は、米外交の大きな不安要素となっている。