Numeri情報
・9/21 ヌメリナイト2013-僕らのエロイカ- 阿佐ヶ谷ロフトAチケットSOLD OUT!
・日時未定 ヌメリナイト2013 Sapporo |
・ぬめり4-ふぞろいのウンコたち- うんこ漏らし関連の日記のみで構成された衝撃の書籍第4弾。通信販売中です!通信販売はこちらから! |  |
9/2 ヌメリナイト2013
夢から覚め、現実へと引き戻された時、人はその夢をどこに放ってしまうのだろうか。
ゴミのように捨てるのだろうか。もう忘れてしまうのだろうか。心の奥底にジッとしまいこんでしまうのだろうか。まるでなかったことのように消し去ってしまうのだろうか。いいや、そんなことはない。人はその夢敗れた時、きっと、次世代へと託すことを考えるのだ。
あの日、公園の片隅に打ち捨てられていたエロ本は、そんな夢のカケラ。誰かが破れた夢を次世代に託すため、そっと公園の片隅に置いた。処理に困ったわけではない、ゴミの日や古本回収に出すのが恥ずかしかったわけじゃない。近所のお兄さん(おそらく)はその夢を僕らに託したのだ。
捨てられていたエロ本は、近所のお兄さんの夢の続き。僕らは胸と、未熟な股間を膨らませてその夢に魅入った。人から人へ、夢から夢へ、そして、未来へ……。
ということで、夏です。もう夏の終わりですが、とにかくヌメリナイトの季節がやってまいりました。太ったオッサンがよく分からないことを汗ダラダラ、唾を飛ばしながら3時間くらい喋り続けるこのイベント、昨年はウンコをテーマに大暴れという、訳の分からない黒ミサみたいな状態でした。
そして今年のテーマはエロ、ということでガッツリと、そしてガッカリと、太ったオッサンが訳の分からないことを喋りまくりたいと思います!皆さん、是非ご来場ください!
ヌメリナイト2013-僕らのエロイカ-
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Illustrated by Najima
阿佐ヶ谷LOFT A
2013/09/21(土)
出演:pato、松嶋、FunkyNaoNao
イベントページ
チケットはイープラスにて絶賛発売中!SOLD OUT!
頑張ってよくわからない話を延々とするので、恋人同士、親子同士、友人同士、ひとりぼっちでも是非是非お越しくださいね!
7/25 蹴りたい背中
まるで見えない手に後ろから押されているかのようだった。
人間の思考なんてものは分からないもので、時に理性的であり、時に論理的、徹底的に合理性を追求したと思ったら、それでは説明できない感情的な行動に走ることもある。自己犠牲、献身、情熱、揺さぶられた感情は論理では理解できないことが多い。
まるで見えない手に背中を押されたように論理では考えられない行動を取ることがある。それが人間なのだ。感情という名の手だろうか、そっと後ろから押されたその想いは抑えることができない。論理と感情、全く相反する二面性こそが人間が人間である最たる根拠なのかもしれない。
時に感情に任せてイレギュラーな行動をとる人間は、論理の世界では完全に役立たずで、中でも恋に恋している中学生あたりの男子の思考回路は論理的に考えると本当に正気の沙汰とは思えない、未来の人間がたまたまタイムテレビで行動を覗いたとしたらこの時代の人類全体の文化全てを勘違いされかねない奇行がてんこ盛りだ。そんな中学時代の論理的でない行動、思い出すと赤面するばかりだ。
僕が通っていた中学校の近くに、小さなラブホテルがあった。
そのラブホテルは、おどろおどろしいフォントで「愛の池」と書かれ、意味不明な天使なのか地域に出る露出狂なのか分からないイラストが書かれた看板があり、それがなければラブホテルと分からないほど普通の民家で、今にも母ちゃんとかが洗濯物を干しかねない外観だった。
しかしながら、周囲に張り巡らされた銀の柵と、抱き合うように絡みついた大量のツタが不気味な雰囲気を醸し出しており、おそらく「愛の池」というホテル名の起源となっているであろう、直径1メートルほどの池が入口横に有り、緑というよりは紫色の不気味な水を蓄えており、一層の不気味さを演出していた。
もちろん、性的にセンシティブな中学生が多数通る場所だ。この不気味なラブホテル「愛の池」は僕らの心を鷲掴みにして離さなかった。いつからか、ああいったラブホテルは普通に旅行で宿泊するホテルと違い、男女のいかがわしいコミュニケーションの場所だと知った僕らは、とにかく「愛の池」に夢中だった。
中学になった瞬間に急に色気づきやがってからに、惚れた腫れたの人間模様を展開しだしたカップルには「ヒューヒュー、愛の池いっちゃうの?」と冷やかすのが定番だったし、新任の女教師なんかを冷やかすのに「先生、愛の池行きましょう!」とやるのが当たり前だった。思うに、芽生え始めた「性」、それをあまりに直球で表現するのは抵抗があるから置き換えなければならない、それが「愛の池」だったのだと思う。愛の池は僕らにとって性の代名詞だった。
もちろん、完全にHotワードと化していた「愛の池」だったのだけど、それは会話の中だけの話で、実際はやはり得体の知れない恐怖を感じていた。「愛の池」の近くにいると得体の知れない怪しさを感じるし、圧迫感みたいなものもあった。それよりなにより、稀に、ハゲオヤジとマダムがコソコソと人目をはばかってコソコソと入っていくシーンとか目撃しちゃって、なんだか怖かった。
なんというか当時のウブな中学生にはリアルすぎたんでしょうね。触れてはいけない世界というか、見てはいけない大人の世界というか、非日常すぎる非日常に無意識にブレーキが効いたのでしょう。僕らは「愛の池」の前を通る時はあまり視界に入らないよう、近づかないようにしていたのです。それが我が中学での標準だった。
そんな存在が中学生の身近にあると、やはり今度は根も葉もない噂が出回るもので、それこそ、「愛の池」では老婆が出刃包丁持って歩き回ってるとか、池の横に死体が埋められてるとか、有事の際には要塞になるとか、愛の池で不倫をしていたら入浴中に妻が入ってきて殺された男がいて、その男は今も自分が死んだことに気がつかず、あの不気味な池で入浴を続けているとか、ちょっと意味不明な噂が多数出回っていた。
今考えると、そんなことあるはずがない、老婆が包丁持ってるとかそんな馬鹿な、なんで風呂と池を間違えるんだよ、お間抜けゴーストだな、と思うものですが、同時の僕らは完全に信じていて、ビビったものだった。
僕ら中学生にとっての畏怖の対象となった「愛の池」、次なる段階に進むと今度は、その恐怖の対象に恐れをなさない中学生が登場してくる。ハッキリ言うと、それは僕だったのだけど、皆がビビって遠巻きに眺め、怪しげなものと認識している「愛の池」、それに全くビビらず、平然としている男こそがカッコイイと意味不明な勘違いをしていた。
認識だけだったら良かったものの、その中学生の勘違いはまさにブレーキの壊れたダンプカー、瞬く間に勘違いは加速し、最終的には中学生でありながら日常的に「愛の池」を利用するダンディな自分をセルフブランディング、という訳の分からない状態になっていた。
ある日のことだった。授業も終わり、早く家に帰って「スクールウォーズ」の再放送を観なければならないと、イソイソと家路についていたところ、道路脇のバスの待合所みたいな汚い掘っ立て小屋の中に見慣れた制服姿の子が二人いることに気がついた。
それは当時僕が思いを寄せていた女の子で、名前を愛子ちゃんといった。そこまでカワイイ女の子ではなかったのだけど、溢れんばかりの笑顔が眩しい太陽のような女の子だった。
その愛子ちゃんが、もう一人のお供みたいなブス、これがまあエラいブスなんですけど、どうんくらいブスかっていうと、たぶんレントゲン撮ってもブス、みたいなそんな感じで、そのX線ブスと愛子ちゃんが楽しそうに談笑していたんです。
僕らの中学では登下校時の買い食いは禁止されていましたので、どうしてもジュースとか買って談笑したいって時は、あまり目立たないこの待合所が多用されていたのですけど、どうやらそこで愛子ちゃんとXブスもジュース飲みながら談笑していたみたいなんです。
さて、こうなると僕も平常心ではいられないわけですよ。なにせ、想いを寄せている女の子が帰り道にいるのです。このまま黙って通り過ぎる手はない。何かカッコイイ動作でもして彼女の心に印象という名の焼印を押し付けなければならないのです。
ここで一発、待合所に入り込んで「やあ元気?」とでも軽やかに話しかけることができれば今頃僕の人生も全然違ったものになっていたかもしれませんが、とにかくそんなことはできるはずもありません。そもそも、僕と愛子ちゃんは会話すらしたことないので、ステージとしてはそのへんの変質者とそんなに変わりません。話しかけるなんてできない。
ということは、何かカッコイイ動作や仕草で彼女の気を惹くのが正解なわけで、僕が最もカッコイイと思うのはテロリストの仕掛けた爆弾の爆発から血だらけになりながら子犬を守る、なのですが、どう見回してもテロリストもいなければ爆弾もなく、子犬もいない、とてもじゃないが理想のシチュエーションは巡ってきそうにないのです。
そうなると、次点として、乱暴な不良がカツアゲしてきて取り囲まれるんですけど、毅然とした態度で接する僕に不良が怒り狂い襲いかかってきて、やれやれ、暴力反対なんだがな、とフッとため息をついた僕は地面を殴り、ひび割れたアスファルトにおしっこを漏らす不良たち、なんですが、不良もいませんし、アスファルトは割れませんし、そもそも僕、喧嘩弱いですからね、さすがにこれも無理なんです。
まずい、このままでは千載一遇の大チャンスを逃してしまう。なんとかして愛子ちゃんの網膜に僕という存在を焼き付けなければ僕自身はただの路傍の石と化してしまう。焦った僕は周囲を見回しました。すると、大逆転のトリガーとなりうる存在が目に飛び込んできたのです。
それは「愛の池」でした。愛しの愛子ちゃんが談笑を楽しむ待合所から少し離れた場所におどろおどろしいオーラを放ちながら「愛の池」が佇んでいたのですが、その距離感が実に絶妙、遠くもなく、近くもなく、さらに角度的にも中の様子がアリアリとわかる、そんな位置関係でした。これはもう神が配置した、そう思いましたね。
前述したとおり、当時の僕はちょっと色々と間違えていましたから、皆が畏怖を感じるラブホテル「愛の池」を普通に利用するスーパー中学生がカッコイイと意味不明な勘違いをしていましたから、もうこれを利用して愛子ちゃんに熱烈アピールするしかない、とさらに勘違いに勘違いを重ねてしまったのです。
しかしながら、本当にそんなことをしてしまってもいいのだろうか。僕の心の中に迷いがありました。確かにカッコイイしアピールすべき場面、人生においてこれほどのチャンスは来ないであろうと予想される場面です。どう考えても行くべきなんですけど、やはり僕だって「愛の池」は怖い。
あんな怪しげな外観に、様々な噂、あそこに宿泊したきり帰ってこなくなった人がいて、深夜に老婆が肉片を運び出していたなんて噂も聞きます。そんなとこに足を踏み入れて無事で済むはずがない。行くべきか、行かないべきか、悶々と悩んでいると、すっと見えない手に背中を押されたような気がしました。
「いくしかないだろう!」
行かないことは簡単です。その反面、行くことは難しいでしょう。実はこれって世の中の大半の事柄に当てはまることで、僕らは常にやらない理由を探しているものです。どんなことでもやってみたらいい、やらない後悔よりやって後悔、なんて月並みなことを言うつもりはないですが、もしアナタが何かに対して「やらない理由」を探しているのなら、「やる理由」を探してみてはいかがでしょうか。
このまま普通に生活していたって愛子ちゃんの視界に僕が入ることはないだろう。ならばここはリスクをとってでも行動に移すべき。バリッとかっこよく「愛の池」を利用する大人でダンディーでアーバンな自分を見せつけるべきだ。それが見えない手に背中を押された僕の「やる理由でした」。
決意した僕は歩き出します。待合所の横を通過しながら横目でチラリと愛子ちゃんの姿を確認。愛子ちゃんは夢中でX-MENと会話しています。この没頭ぶりから見るに、ここらで何か注意をこちらに惹きつけておかないといけません。そこで、適切な独り言を言って注目を集めます。
「あーあ、肩こりがひでえよ、愛の池でもいくかー」
当時の自分としては非常に軽やかに、まるで愛の池に行くことが日常であるように独白できたつもりでいたのですが、肩こりが脈略無さ過ぎて意味不明ですし、愛の池との繋がりも一切不明です。あえて言うならば部分的に間違っているというより、全てが間違っている。
この時の僕の声のトーンを表現すると、独り言なのに明らかに人に聞いてもらうことを前提にした独り言というか、膀胱炎で泌尿器科に行ったんだけど間違っても性病できたわけではないということをアピールするために受付で「膀胱炎なんっすよー」と待合室全体に聞こえるように言うトーンといいましょうか、とにかくワザとらしい感じだと思って頂ければ幸いです。
もちろん、さらに横目でチラリと確認してみると、愛子ちゃん、「何言ってんだこのバカ」みたいな目でこちらを見てるんですが、当時の僕は愛子ちゃんの注目をこちらに惹きつけることに成功したと信じて止まない。あとはズンズンと愛の池に向かって歩くのみです。
ここでダメ押しとばかりに、
「愛の池、行き過ぎてもう飽きちゃったわー」
と、距離が離れた愛子ちゃんに届くようにさらに大声でしゃべります。もう意味がわからない。飽きたなら行かなければいい。
で、いよいよ愛の池の門の前に到着するんですけど、なんか威圧感がすごいんですよ。道路からは全然見えなかったんですけど、庭みたいになっている場所にはカエルの置物が8体くらい、飾られてるんではなくて無造作に転がっていて、意味不明にカラフルな風車が沢山地面にブッ刺してあるんです。
完全に気が動転しちゃってもうこれ以上一歩も進めないみたいな感じになってんですけど、チロリと振り返ってみると明らかに愛子ちゃんがこちらを凝視しているではないですか。
「こ、これは期待されてる……!」
そう確信しましたね。たぶんなんですけど、愛子ちゃんは「やだ、うそ、愛の池に普通に入れるなんてカッコイイ」とか思ってトクンとか心の音がしてるのかもしれません。
ビビってる場合ではない。もう僕は一歩踏み出すしかないのだ。この時、僕の背中を押してくれた見えない手は間違いなく愛子ちゃんの手だった。
愛の池の敷地内に入ると、やはり中は異様な雰囲気だった。緑なのか紫なのか良く分からない池も、間近で見ると気味悪い藻みたいな植物が浮いたり沈んだりしていて気持ち悪い。コケだらけの地面に転がっている「休憩2000円宿泊3500円」と赤い文字で書かれていた看板も意味不明な怖さを演出してくれる。
「もういい、僕は頑張ったのだ」
こうやって敷地の中に入ってしまえば、愛子ちゃんのいる場所からはもう僕の姿は見えない。大切なのは「当たり前のように愛の池に入った」というカッコイイ事実だけで、その後の展開は必要ない。これ以上、大冒険アドベンチャーをする必要はないのだ。
しかしながら、すぐにとんぼ返りは頂けない。おそらく愛子ちゃんは胸をときめかせて僕の余韻に浸るように入口周辺を見つめ、この胸高鳴りは何…?とかやってるはずだから、すぐ出て行くわけにはいかない。こりゃ裏口から出るのが賢明かな、とさらに奥へと歩みを進めたその時だった。
「いらっしゃい!」
玄関からは入らず、建物脇のスペースを通って裏に回ろうとしていると、物陰から本気で老婆がでてくるじゃないですか。ホント、老婆、マジ老婆、超老婆。しかも手に包丁持っとるんですよ。今思うと、多分、利用客のルームサービスとかで料理をしているところだったんでしょうけど、そういう都市伝説を信じていた僕はもう、恐怖で恐怖で
「でたーーー!」
とか叫んでましたからね。そしてまあ、お恥ずかしい話、腰が抜けちゃいましてね。はわわわわ、みたいな感じでズルズルと後退することしかできなかったんでしょうけど、老婆も老婆で驚いたみたいで、そりゃあいきなり中学生がラブホテルの敷地内に入ってきたら驚きますよ。「なんね!」みたいな驚きの表情してるんですけど、それがもう、僕には老婆が獲物を捉えた確信の表情にしか見えなくて、さらに「ひいいいい」ってなることしかできなかった。
結局、毛じらみみたいな動きをしながらズルズルと後退していったらズボーンと愛の池に落ちちゃいましてね、水は臭いわ、思ったより深いわ、藻が絡みついてくるわで大騒ぎ。命からがら愛の池から飛び出し、生まれたての小鹿みたいになりながら道路へと逃げ出したのです。
ここまででも十分にカッコ悪いんですけど、さらに心配した老婆がタオル持って追いかけてくるもんですから、「おたすけー!」と脱兎のごとく逃げ出す僕、体に絡みついていた藻がボトンボトンと音を立ててアスファルトに落ちていく音だけが響き渡ってました。愛子ちゃんはその光景の一部始終を見ていた。
結局、泣きながら、水の入った靴をガッポガッポさせ、さらに服のいたる場所から藻をボットンボットン道路に落とし、パンくずを撒きながら歩いたヘンゼルとグレーテルみたいになりながら、Howeverっぽい感じになりながら、それはGLAY、TERUでしたね、とにかく失意のどん底にありながらも、愛子ちゃんに少しはカッコイイところ見せられかな、と自分に言い聞かせたのです。
まあ、家に帰ると制服を藻だらけにしたことにより母親に烈火の如く怒られるわ、親父には「お前は頭の中に高砂部屋でも詰まってんのか?」みたいな感じでネチネチと怒られたり、次に日学校に行くと、あれほど信じて背中を押してくれていた愛子ちゃんが先生に、愛の池に入っていた不届きな男子がいると告げ口されて正座させられたりと、とにかく散々だったのです。
ちなみに、伝説の愛の池で藻だらけになった男して愛の藻、略してアイモみたいな、十数年後に発売されるロボットペットみたいなニックネームを頂戴つかまつったのですが、まあそれは別の話。とにかく、背中を押されたことによってとんでもない目にあったのです。
けれどもね、やはりこういった背中を押してくれる見えない手というのは大切だと思うんです。背中を押される、なんてまるで外部から作用する力のように書いていますけど、実際にそこに作用するのは「いかなければならない」という自分の意思であり決意なのです。それらを外部要因にすることによってハードルを下げているわけなんです。
それが良い結果をもたらそうと、悪い結果をもたらそうと、決意して動いたという事実は変わらない。ならばどんどん背中を押してもらって、どんどん決意していけばいいじゃないか、そう思うのです。
先日のことでした。
僕の通勤途中には、クッソ小汚くてレトロな、今時珍しい感じの朽ち果てる寸前みたいなラブホテルがあったのです。毎朝そこを通る度に、過去の「愛の池」のトラウマが蘇り、朝っぱらから心臓の鼓動が早まるのを感じ、苦々しい想いをしていました。
しかしながら、ある朝通りかかると、いつも見えるトレードマークのオレンジ色のスダレが見えません。あの、古いラブホテル独特のスダレがいつもなら威風堂々と風にはためいているのですが、それが全く見えない。
それどころか重機やトラック、作業服を着た男たちが頻繁に出入りしているではないですか。この屈強な男たちがラブホテルに重機で突撃してアナルセックスに興じている、と考えるには無理があります。普通に考えて、取り壊していると考えるのが妥当でしょう。
最近は不況の影響でしょうか、ラブホテルに限らずこういった小規模でレトロな店舗は苦戦しており、次々と閉店を余儀なくされているのです。結局のところ大型店舗、大資本には適わないということなのでしょうか、なんだか寂しいものです。
実は、僕、このラブホテルに関しては当初から狙っていたことがありまして、今か今かとそのチャンスというかタイミングを伺っていたのですが、それが達成される前に廃業、とはとても残念で、こんなことになるのならどうして思い立った時に行動しなかったのか、どうして誰も背中押してくれなかったんだ、そう憤ったのです。
その旨を、職場の同僚の大村くんに相談しました。「通勤途中にあるラブホテルが潰れてた」と。大村くんは、複数のセックスフレンド、いわゆるセフレを有するやり手のプレイボーイで、毎週セックスしてるぜ!が自慢の男です。毎週セックス、つまり毎週合体しているということは「Qさま」と「お試しかっ」かよ、と思うのですが、とにかく、この街のラブホテル事情に詳しい。
大村くん曰く、あのラブホテルは廃業ではなく改装らしい。つまり、数日もすれば小奇麗になってリニューアルオープンするよ、とのことでした。さすが大村くん、廃業ではなく改装なら僕の狙っていた望みは叶えられるかもしれない。むしろ、そちらの方が好都合なくらいだ。
案の定、数日経つと件のラブホテルは改装を終え、今風の南国高級リゾート風のラブホテルに変貌していた。入口付近も大変おしゃれな感じになっており、トレードマークとも言えるあのオレンジ色のスダレも綺麗さっぱりなくなっていた。
「今ならいけるんじゃないだろうか」
そんな想いが僕の心の中に湧き上がっていた。常日頃から想い続けていたあの野望を実現に移すチャンス、それが今やってきたのではないだろうか。湧き上がる想いと胸の高鳴りを抑えられなくなっていた。行くなら今しかない。
そう決意する反面、全く正反対の別の感情も湧き上がる。いやいや、もう僕もオッサンというか、大人の部類に入る年齢だ。はたしてそんなことをやっていい年齢なのだろうか。もう、若さゆえと言い訳はできない年齢、もっと思慮を持って行動すべきではないだろうか。
僕は迷いに迷った。行くべきか行かないべきか。とにかく迷った。そして、フッと見えない手に背中を押された。
「行くしかない」
あの時、中学時代と変わらない。何一つ変わらない熱意を持った僕は改装されたばかりの門をくぐった。全ては日頃から思い描いていた野望を実現するため。あの想いを形にするため。愛の池の思い出がフラッシュバックする。できれば引き返したかった。けれども、決意した僕の想いは止められない。
南国風の植物が飾られた通路を抜けると、なぜか小さな滝がディスプレイされており、その横に部屋をチョイスするパネルみたいなものが鎮座していた。どの部屋もトロピカルな感じで魅力的、どの部屋を選んじゃおっかな、という感じでウキウキしていると、こんなことをしにここに入ってきたわけではないことを思い出す。
「こんなことしている場合じゃない」
早速、目的を達成するため、フロントみたいな小窓のところに話しかける。
「すいません、ホテル利用とかじゃなくて申し訳ないんですけど、ちょっとお話があるんですが、責任者の方とか偉い人とかいますか?」
そう話しかけると、顔は見えなかったのですが小窓の中にはパートのおばちゃんっぽい人がいたみたいで、少し戸惑いながらも答えてくれました。
「今ちょうどうオーナーがいるんで、聞いてみますね」
とのこと。いける、こりゃあいけるで!そう確信しました。そして、数分待つと、またおばちゃんがやってきて、
「お会いするそうです。どうぞ、横の扉が入ってください」
見ると、小窓の横には目立たぬように壁と同じ壁紙が貼られた扉があります。中からおばちゃんが開けてくれたみたいで、ぎいいという音をたてて20センチほど隙間ができていました。
まさかオーナーが会ってくれるとは、なんでも言ってみるもんだと意気揚々と中に入っていくと、そこは事務スペースとして使っているのか、南国リゾートとは程遠い、思いっきり汚いオフィス、みたいな風景が広がっていました。
その脇にさきほどのおばちゃんが立っていて、「奥にどうぞ」とか丁寧な感じで促してきます。書類の山が積み上げられた通路の奥にさらに白いドアがあり、どうやらそこにオーナーがいる様子。なんで僕はこんなラブホテルの事務所の中にいるんだと思いつつ、ゆっくりと歩を進め、ドアをノックして部屋に入ります。
「何か用ですかな?」
中に入ると、なかなか小奇麗な部屋の中に恐ろしげな老婆が鎮座しているじゃないですか。オーナーは老婆、中学の頃の愛の池での包丁を持った老婆の姿がフラッシュバックします。
「いえ、あの、その……」
トラウマを抉られシドロモドロする僕。さらに老婆が畳み掛けてきます。
「何か用ですかな?」
恐ろしげな老婆に、ビクビクする僕、なんか千と千尋の神隠しみたいな感じになっていて、そのうち僕は「patoとは贅沢な名前だねえ、アンタはpaで十分だよ」とか名前を奪われてしまうかもしれません。
とにかく、僕は思いを伝えなければならない。毎日毎日、通勤途中にラブホテルを眺めながら思い描いていたあの野望、それを伝えなければないらない。じゃなきゃここまでやってきた意味がない。また、見えない手に背中を押された僕は、ついに口を開いた。
「リニューアル、おめでとうございます」
勇気を出して発した僕の言葉に老婆はニヤリと笑った。僕は続きの言葉を発した。
「実は、リニューアル前に入口のところにあったオレンジ色のスダレありましたよね。もうオシャレにリニューアルされたんで必要ないかと思います。できればあれを頂けませんか?」
実は僕、ずっとあのオレンジ色のスダレを欲しい欲しいと思っていたんです。いつかチャンスがあったら貰ってやる、ずっとそう考えていたんです。そして、僕はついに行動に移した。
「あんなもん、なんに使うんだい?」
湯婆婆は驚いた顔をしたかと思うと、すぎにニタリと笑い、僕に問いかけた。
「どうしても答えないといけませんか?」
「そりゃあ、何に使うかも分からないのにはいそうですかと渡せないよねえ」
言ってしまったほうがいいのだろうか。やはり言ったほうがいいのだろうか。ババアの言葉は言わないと渡さないとという意味に取れる。裏を返せば、納得いく使い道でさえあればくれるということではないだろうか。僕はついに、その思いを、スダレの使い道を老婆に伝えた。
「アシュラマンの前掛けの部分を作りたいんです!」
これが絶対にあのオレンジ色のスダレにピッタリなんですよ。これさえ作れたら、あとは腕を4本付けたらすぐにアシュラマンですよ。なりたい、アシュラマンになりたい、なんでそんなに頑ななのか自分でも分からないんですけど、とにかく毎朝スダレを見る度にアシュラマンのことばかり考えていた。
ここからは凄かったですね。即座に「意味不明、帰れ!」と老婆にビシイと言われて、2名のオッサンが出てきて本当に外に連れ出されましたから。あまりに冷徹な対応に、泣きながらHoweverを歌うことしかできませんでした。
なぜ、アシュラマンになりたいのか自分でもわからない。けれども、それがカッコイイと僕は信じて疑わないのだ。それは中学生時代、愛の池に入れる男がカッコイイと勘違いしていた事と同じなのかもしれない。あの頃から何も成長せず、意味不明なかっこよさを求め続けているのかもしれない。つくづく、人間の感情ほど理論ではないと痛感させられる。
けれども、僕はアシュラマンになることを諦めない。これからもラブホテルのスダレを見るたび、アシュラマンになりたい想いが募るだろう。チャンスがあれば手に入れるべく行動に移すだろう。迷うだろうが行動に移すだろう。迷った時、そっと背中を押してくれる手、アシュラマンの6本の手が僕の背中を押してくれるから。
6/5 さよならバイバイ
なんでも排除すればいいって問題じゃない。
高橋さんの言葉は深く僕の心に突き刺さった。それは電波やネットに乗って流れてくるどんな言葉よりも、綺麗に整えられて書店に並ぶどんな言葉よりも、巷に溢れる心がこもっていないどんな言葉よりも、僕の心を救ってくれたような気がしたからだ。
僕の勤める職場はなぜか異様に敷地が広く、果たしてここまで広大な必要があるのだろうか、プレハブを3つくらい建てるだけで十分じゃなかろうか、と思うことばかりなのだけど、とにかく、農園を始めるのかと思うばかりの無限の敷地が広がっている。
もちろん「無駄に広い」と言い切るだけの明確な理由は存在していて、どう好意的にカウントしてみても、その3分の1も有効に利用されていない。残りの3分の2は完全に死に体と言っても過言ではないのが実情だ。こんな無駄な土地を持ってるだけで税金はかかるだろうし、売り払って給料にでも還元してくれた方がどれだけ幸せだろうか計り知れない。
しかしながら、その完全に無駄と言い切ることができる死に土地であるが、無駄だからこそと言った新たなフロンティアを見出すこととなった。それは無駄だからこそ守られた楽園というか、無駄だからこそ成し得たフロンティアというか、とにかく画期的で凄まじいものだった。
やる仕事もなく、完全に暇でいてもいなくても変わりない状態、それが今現在に僕が職場で置かれている状況なのだけど、まあ、想像を絶する暇さである。空前絶後の暇さである。あまりの暇さに、小学生が集まるオセロサイトで子供相手にオッサン無双する始末。たまに小学生に負けるから驚きだ。
そんな暇さを効率的に解消できるわけではなく、時間を持て余した僕の行為は敷地内の散歩へとシフトしていった。無駄に広い敷地内を何の目的もなしに散策する。本来なら敷地外へと足を伸ばして行きたいところなのだけど、それだと地域の小学校とかで小太りで怪しげな男が徘徊しています。注意喚起!とか連絡簿に書かれかねないので敷地内に留めておきます。
どんな場所でもそうなのですが、目的もなく散策すると色々な発見があるものです。家の近所でもきっとそうです。心を落ち着けて穏やかに散歩してみてください。普段見えないものが沢山見えてくるはずです。僕も、ウチの職場、こんなのがあったんだ、とこんなに身近にあったのに気づかなかった多くの物を発見することができました。
そんな中、一つのプレハブ倉庫が目にとまりました。大木が茂り、ちょっとした森林みたいになっている一角に存在していたプレハブは、所々が錆び付き、見るからに長い間誰も使っていないことを伺わせるものでした。この通りは何度も通ったことあるのですが、こうして散歩でもしない限りその存在を気に求めない。そんな倉庫でした。
大木の下をくぐり抜け、小さな水たまり飛び越え、伸び放題に伸びた雑草をかきわけて倉庫に近づきます。入口の扉には大きな南京錠がぶら下がっていましたが、その根元部分が錆びて朽ち果てており、ただ強固な鍵がぶら下がっているだけで意味を全くなさない状態に成り下がっていました。
そっとドアを開けます。見るからに年代物の引き戸であるドアも同様に錆び付いており、どんなにゆっくり動かそうとも、ギギギギという何かが削れるような音を、まるで悲鳴のように奏でてスライドしていきます。いや、スライドというよりはそれはこじ開けに近かっただろうか。
完全にドアを開けると、カビのような埃のような匂いがムワっと立ち込めていて、奥の窓から差し込む光に無数の埃が舞い踊り、その踊りが光のラインを象ってる光景が見えた。相当に長い期間、誰も足を踏み入れていないことは確かだった。
「うわー、すげえきたねえなあ」
思わず声を上げてしまう。高層ビルのように左右に積み上がった木製の棚を確認しながら二歩、三歩と奥に歩みを進める。棚にはビニールシートやら正体不明の看板やらが乱雑に収納されていた。その中の白い布を手にとって広げてみると、いつの物だろうか、少し色褪せたその布には「栗拾いツアー」と書かれたいた。おそらく、行事で使った横断幕かなにかだろう。
明らかに我が職場における、いらないもの、邪魔なものなどなど、様々なカオスが押し込まれているこの倉庫、いうなれば厄介払いの箱とでも言おうか、あまり触れたくない、目に入れたくない、いわゆる「いらないもの」が押し込まれているのだ。
この倉庫はなんだか埃っぽいし汚いしカビ臭い、なにより汚くて普通に考えるとできるだけ長居したくない場所なのだけど、なんだか憎めない。それどころか、この場所にいることが心地よく思えてくるから不思議なものだ。この気持ちは分かる人にしか分からないだろうけど、おそらく同族に対する親近感というかシンパシーというか、そういった類のものなのだろう。
片や、いらなくなり、多分もう二度と使わないだろうけど捨てるまでもないような気がするし、もしかしたら惑星同士が衝突するような僅かな確率で必要になるかもしれないし、一応取っておくかという深く考えない気持ちでこの倉庫へと運ばれてきた品々たち。
片や、忙しいはずの職場で仕事がなく、暇で暇で仕方がなくて子供とオセロをして負ける僕。それすらもやりすぎて飽きてきてしまって本格的にすることがなくなってしまったので散歩なんて始めてしまい、この倉庫へと辿り着いた僕。そう、ここにある品々はまるで僕だった。色褪せたこの横断幕は僕そのものだった。
今や僕そのものとなったカオスな品々に、まるで「よう、元気してたか」と軽やかに挨拶するかのように一つ一つ品定めし奥へと歩みを進めていく。打ち捨てられた品物たち、色褪せた品物たち、悪臭のする品物たち、それらはやはり僕自身そのものだった。ふと一番奥の突き当りに異様な品物が置かれているのを発見した。
ほかの品々は乱雑とは言えすべて棚に納められている。しかしながらこの品物だけは通路の一番奥の突き当りの床に威風堂々と置かれていた。窓枠には届かないくらいの高さの数十センチの直方体。緑の布がかけられていて、その上に埃が積もったその謎の物体が窓からの光に照らされ、異様な存在感を放っていた。
おそるおそる緑の布を手にとってみる。ザザっと上に乗っていた砂がコンクリートの床に落ちる音が聞こえた。思ったより軽かったその布を一気に取り去る。ムワッと大量の埃が舞い上がり、光の筋をより鮮明に浮きだたせる。果たして、そこには予想だにしない途方もない品が鎮座しておられた。
それはエロ本の山だった。
20冊はあっただろうか。「写真塾」などとポップなフォントで書かれているエロ本が積み重なり、ビニールの紐でシッカリと縛り付けられていた。縛り付けた人間がどんな思いであったか伺えるほど強く縛られたビーニーる紐は、エロ本の四辺に強く強く食い込んでいた。
「なんでこんなところにエロ本が」
ハッキリ言って、完全にパニックだった。僕もいい年した大人だ。中学生のようにエロ本ごときで南米に祭りみたいに騒いだりはしない。しかしながら、あるはずのない場所にあってはならない物体があると少なからず心がざわついてしまう。このエロ本は草原を吹き抜ける風が草花を揺らすように、僕の心をざわつかせた。
普通に考えて、これは他の品々とは異質である。他の品々は職場で使われた不要な物が運び込まれているわけで、けれどもこのエロ本の数々は確実に職場では使われていないはずだ。むしろ使われていたら嫌すぎる。そう言った意味では、誰かが個人的な品物をここに運び込んだと見るべきだ。
おまけに、このエロ本たちのラインナップを見てみると、その品揃えはなかなかカルマが深い。コンビニなどに売られているライトなエロ本を出来心で買っちゃいましたというラインナップではなく、明らかにその道のプロが集まる書店で買い揃えた品々だ。魑魅魍魎どもの叫び声がねっとりと本自体に巻きついている。相当な思い入れがあるであろう逸品たちだ。
僕の推理はこうだ。このエロ本の持ち主は誰なのか知らないが、なかなかの選球眼を備えた名選手だ。その名選手が逼迫した事態に直面した。おそらく家族にバレそうになったかバレたか。大量のコレクションを処分しなくてはならなくなった。そうなった時、人は全滅だけは避けたいと考えるだろう。せめて精鋭たちだけは残したいと考えるはずだ。このエロ本たちにはそうやって選りすぐられたであろう選抜メンバーのオーラがあった。
困りに困った誰かは、その選抜メンバーをこの誰も近寄らないだろう倉庫に置いた。いらない品物を置きに来る時くらいしか人の立ち入らない、誰もが存在を忘れているこの倉庫に置いたのだ。エロ本たちの発行年数から推察するに、おそらく2年ほど前に置かれたものだろう。
さあこれはとんでもないことになった。いらないと思っていた我が職場の余剰土地、そこにひっそりと佇む、これまた必要性の感じられない倉庫。そんな究極的に不必要と感じられる場所に置かれたエロ本という宝物。なんというか、全く期待していなかった場所にとんでもない品物が置かれていた事実に僕の心は踊った。この舞い踊る誇りたちのように踊ったのだ。
それから倉庫に通う日々が始まった。相変わらず仕事はなく、いわゆる使えない人、仕事のできない人な僕なわけなのです。そりゃあ頑張って仕事している人に悪いなとか給料泥棒ですいませんって思ったりして心が重く、それでもできないものはできないんだから仕方ないと葛藤に苦しんだりするわけなんですけど、そんな心苦しい職場にあってエロ本倉庫は僕のオアシスになったのです。
暇なとき、仕事ができない自分が嫌になった時、散歩がてら倉庫に寄り、そこでエロ本を読むわけです。匠の残したエロ本を読み、そこに込められた魂に思いを馳せる。そうすることで精神のバランスを保てるとでも言いましょうか、とにかく、平穏に暮らしていけるようになったのです。
ちょうどその日も、僕は件の倉庫でエロ本を堪能していました。じっくりと、読者のお便りコーナーみたいなページまで開き、「タイタニック平岡と申します。もう少しスカトロ系の特集もお願いします(笑)」という投稿に(笑)じゃねーよ、そのペンネームどういうセンスだよ、と文句を言いつつ、そろそろ職場に戻るか、と立ち上がりました。
二枚写真を並べて間違い探しをされたとしても絶対に気づかれないレベルで元あった状態にエロ本を戻し、全く同じように布をかけます。そして外に出てあおの立て付けの悪いドアを閉めます。立て付けの悪いドアはいつものようにギギギと大きな音を立て、その音に少しビクビクしながら、なるべく音を出さないようにそっと閉めます。その時でした。
「誰かいるのか?」
茂みの向こうから声がしました。明らかにこちらに問いかけてきています。まずい、偉い人だったりしたらどうしよう。絶対にここで何してるんだとかそういう話になる。そしたら暇なんで誰かが残したエロ本読んでました、とでも言うのか。そんなの絶対にクビになる。まずい。絶対にまずい。
茂みをかきわけ、恐る恐る覗き込んでみると、そこには高橋さんが佇んでいた。高橋さんは僕より年上のご老人で、非常に温厚なことで知られている。そこまで口数も多くなく、いつも暇そうにしているお方だ。こう言ってしまったらすごく失礼かもしれないけど、なんとなく僕と同じ匂いのするいわゆる仕事のできないお方だ。僕は見つかったのが高橋さんであったことに安堵した。
「なにやってんだ?こんなところで」
高橋さんは即座に口を開く。さすがにエロ本読んでいた、それも読者の投稿コーナー、タイタニック平岡の投稿、とは口が裂けても言えない。
「高橋さんこそここでなにやってんですか?」
僕は誤魔化すように質問を投げかけた。高橋さんは少し周囲を見渡すと、少し悪戯な表情で笑いながら
「なあに、あんまり暇なもんで散歩をな」
と言った後に立てた人差し指を口元に運んだ。なんだか妙な親近感を覚えて安心してしまった。僕だけではなかったのだ。
「ちょっと散歩してたら、蜂が見えたからな、どこかに巣があるはずと思って探してみたら、ほれ」
高橋さんは木の上を指差した。
「あれ、蜂の巣ですか?」
見ると、木の枝分かれしている根元の部分に、変な性病でチンポコにできたコブみたいな丸い物体が、ブスな女の脳みそみたいな物体がしがみつくようにぶら下がっていた。
「ああ、そうだ」
瞬時に嫌な記憶が蘇る。あれは高校生の頃だっただろうか。クラスのイケてるグループに属する女子軍団が、これまたイケてるグループに属するイケメン男子軍団に、「女子更衣室のところにハチの巣があるから何とかして欲しい、怖い」と頼んでいるのをイケてない男子であるところの僕は眺めていた。
イケメン男子はどもは「よっしゃまかしておけ」と言い、腕まくりしながら教室を出て行った。どうせ蜂の巣の駆除に成功した暁には「抱いて」とかなって、グループ内で色んな男に抱かれまくって八の巣にされるんだろうなんて考えて、上手いこと言ったなどと一人でニヤニヤしていた。
そこにクラスのブスで地味なグループがやってきて、何故か僕に「私たち美術部の部室の前にハチの巣が出来てるから何とかして欲しい」と頼んできた。イケてるグループはイケてる男子に、ブスはイケてない男子である僕に頼む。クラス内のヒエラルキーは、正しくハチの世界そのものだった。
ブスとは言え、女子に頼まれて舞い上がってしまった僕は、ハシゴとビニール袋を借りてきていざ鎌倉へといった勢いで美術部部室へと向かった。そこには、見まごうことなきハチの巣が存在していた。窓の外にぶら下がる大きな大きなハチの巣。この時ばかりは、なんでこんなになるまで放っておいたんだ!と怒る歯医者さんの気持ちが少しわかった。
僕はハチの巣なんてあの小さいパラソルみたいなものを想像していた。けれども、目の前には乳幼児の頭部くらいはありそうな、ちょっと笑い話にもなりもしないレベルのハチの巣。これはいくらなんでも素人がどうこうできるレベルを遥かに超えてる。放射能扱う人が着る服みたいなのが絶対に必要だ。
それでも、やると言ってしまった手前、処理しなくてはならない。はしごに登り、巣に手をかける。明らかに何かを察したハチが大量に出てくる。右腕に激痛が走る。たぶん刺された。おそらくスズメバチではないようなので大丈夫そうだが、かなり痛い。あまりの痛みに手を引っ込めると、そのまま巣が外れてゴロンと下に落ち、バウンドしたかしなかったか忘れたけど、そのまま美術部の部室の中へと吸い込まれるように入っていった。
そこからはもう、怖くなって見ずに逃げ帰ったので伺い知ることはなかったけど、幸い、部室には誰もいくて大事には至らず、ただ僕が美術部にハチの巣を投げ込んだテロリストみたいな扱いになっただけだった。ハチの巣を見ると、あの時の刺された痛み、そしてハチの羽音、そしてブスたちの冷たい視線を思い出す。れっきとしたトラウマというやつだ。
「大変じゃないですか!駆除しなきゃ!僕、ハチの巣コロリ的な殺虫剤買ってきますよ!」
トラウマが蘇りつつある僕は大声で高橋さんに話しかける。それどころか、一刻も早く駆除したくて、いてもたってもいなくて今にも走り出しそうな勢いだった。
「まて!」
そんな僕を高橋さんは右手で制する。落ち着けと言わんばかりの険しい表情だ。
「早く駆除しないと!」
ちょっとパニック気味になっている僕。全く話を聞く様子がない僕に高橋さんが落ち着いて、諭すように話し始めた。
「あれはニホンミツバチの巣だ。ニホンミツバチは余程のことがない限り刺さない。焦って駆除するより、自然の状態を守ることも大切だ」
僕も後で調べて知ったのだけど、日本に生息する数あるハチの種類の中でニホンミツバチはかなり温厚な種類になるらしい。巣が攻撃されるなどの余程のことがないかぎり人を襲うことはないらしい。そんな危険性のないハチの巣を焦って駆除する必要はない、むしろハチがいなければ受粉ができない植物があったりと、困ることだってある。そんな高橋さんの考えだった。
「なんでも排除すればいいって問題じゃない」
その言葉は深かった。確かに、ハチの巣はビジュアル的に恐怖感満載で、圧倒的に畏怖するようできている。それは、ハチが危険なものであると僕らの本能に刻み込まれた記憶故のことだろう。しかし、あまりの恐怖に狂ったようにヒステリックに駆除する必要はないのだ。ハチにだって役割はある。こんな誰も通らない必要ない敷地の茂みの中、それも危険性の低いニホンミツバチ、いたずらに彼らの住処を脅かす必要はないのだ。
同じことが僕の置かれた状況にも言えるのかもしれない。世間では勝ち組だ負け組だの大合唱が続き、効率化の名の元に様々な改革が行われてきた。そんな中で「仕事ができない奴は無駄」という風潮が確かに存在する。どんな職場であってもきっとそうだろう。それは確かにその通りで、完全にごもっともなのだけど、仕事ができない僕なんかはその言葉だけで存在を殺されたに等しい。
けれども、このハチの巣だって無闇やたらに排除していいもんじゃない。それと同じで、仕事ができない人間を無闇に排除しても良いものだろうか。僕が言えた義理ではないけど、きっとそれは良くない。仕事ができなくたって、必ず別の何かの役割があって存在を許されてるんだ。
高橋さんの優しい表情は、僕のことを見透かしてそう言ってくれているような気がした。このハチの巣も、有り余った職場の敷地も、誰も存在を忘れている倉庫も、打ち捨てられた横断幕も、エロ本も、タイタニック平岡も、僕も、みんな不必要に思えるかもしれないけど、闇雲に排除して良いものじゃないんだ。そう、僕らは存在していていい。僕も君たちも、存在していていい。きっと僕らはどこかで役に立つのだ。
なんだか救われたような気がして、僕は溢れる涙を堪えることしかできなかった。吹き抜ける風、揺れる木々のざわめき、踊るニホンミツバチ、高橋さんの笑顔、全てが優しさに満ち溢れていて、否定されるべき存在などこのようにないと強く思ったのだった。
とまあ、ここで終わっていればなかなか前向きな日記になっていたんでしょうけど、問題はここからです。
職場での会議の席でした。ある若手のホープというか、中国の経済進出みたいな感じで目覚しく台頭してきた若手社員のバリバリ仕事できる方が、会議の席で発言したのです。
「実は、倉庫の近くに大きなハチの巣があるのを発見しまして、非常に危険なので駆除していただかないと……」
彼はよく通る声でそうハッキリと言いました。
「そんな倉庫あったか」
「ああ、あそこにあったあった。いらないもの入れてる倉庫!」
会議に出ている面々はやはりあの倉庫の存在自体を覚えていない様子。しかしながら説明されてやっと思い出したようでした。
「それはいかん、危険だな」
「一刻も早く除去しなきゃならん」
「業者に頼むと金がかかりますよ!」
もちろん、「ハチの巣」という響きだけで会議の面々は危険と判断し、「除去やむなし」といった声が高まってきます。けれども違うんです。あのハチの巣はそこまで危険ではない、おまけにエロ本を読みに行くエロガッパくらいしか通らない場所、そこまで無理して除去する必要はないんです。
このままではあのハチの巣が除去されてしまう。僕は焦りました。あのハチの巣と自分を完全に重ね合わせていましたから、それが撤去される。それはまさしく僕の存在そのものを否定されかねないことでした。
僕は視線で会議の席に同席していた高橋さんに訴えかけます。これは戦争です。僕ら仕事ができない人間を排除する動きです。あのハチの巣を撤去させていはいけない、守らなくてはならない。なんでも排除すればいいってもんじゃない、あの時のようにそう発言して欲しかったんです。
しかし、高橋さんは何も言わず押し黙っているままだった。俯きながら、何かを必死で堪えている様子だった。そんな高橋さんを見て、僕はハッとなった。そう、おそらく高橋さんも同じ気持ちで、あのハチの巣の除去を阻止すべく発言したいのだ。ガツンと、なんでも排除すればいいってもんじゃない、と言ってやりたいのだ。
けれども僕も高橋さんも仕事ができない部類の人間だ。職場という社会では、仕事のできない人間に発言権はない。多分、この場でどんなにハチの巣の危険性のなさを説いたとしても、聞き入れられることはないだろう。それが分かっているから、高橋さんは押し黙っているのだ。
もうだめだ。きっとあの巣は除去されてしまう。それは即ち僕ら仕事ができない人間への否定だ。いつか僕らも同じように「除去」されるだろう。それが社会の仕組みなのだから。
諦めの境地に近い感情が芽生える。最後にもう一度、高橋さんに目をやると、高橋さんはおもむろに挙手し、何かを発言しようとしていた。その眼差しはなにか決意めいたものを感じた。彼は言う気だ。あのハチの巣を守るため、僕ら仕事ができない人間を守るため、彼は決意したのだ。
「ん!?どうしたの高橋さん?ああそうだ、高橋さんそういうの得意でしょ、ハチの巣除去してくれませんかね?若い社員何人か使っていいから高橋さんの指揮で」
発言しようとする高橋さんを遮って偉い人が言った。馬鹿にするな。高橋さんは僕らを守るために今から発言するのだ。そんな提案に乗るわけがない。
「はい、おまかせください!」
どうやら「若い連中を指揮する」という言葉が高橋さんの自尊心を刺激したらしく、久々に任された大役に発奮してしまったようだった。
最終的に、あれほどハチの巣を守ることの大切さを説いていた高橋さんが、
「焼き払えー!」
みたいな感じで大ハッスルでハチの巣の除去をしていた光景を目の当たりにし、おいおい、さすがにひでえよと思いつつ、悲しむことしかできなかった。もしかしたら、僕らは存在していてはいけないのかもしれない。
ちなみに、倉庫のあのエロ本は偉い人に見つかって大問題になって犯人探しが始まったのだけど、高橋さんの物だったらしく、すごい問い詰められて彼ははいつのまにか別の土地へと飛ばされていった。倉庫も撤去され、あのハチの巣もエロ本も倉庫も高橋さんも、もうここには存在しない。なんだか心にポカンと穴が空いた気がした僕は、存在しなくていいものなんてきっとない、僕が寂しいのだから、そう思った。
5/30 090-5240-8218
緻密に練られた犯罪はある種の芸術だと思っている。
もちろん、犯罪行為自体は必ず誰かを悲しませるもので、決して褒められたものでも勧められたものでもなく、忌み嫌うべき存在であることは確かなのだけど、その行為自体には非常に興味を惹かれることがある。
犯罪は悪いことだ。そんなのは当たり前だが、不謹慎を承知でその「悪」という額縁を除いて見てみると、そこに見え隠れする人間としての本質、感情の動き、社会の動向、そんなものが的確に把握できるような気がする。
粗暴な犯行はダメだ。通りすがりに殴った、通りすがりに盗んだ、通りすがりに痴漢した、そこに人間としての本質も、やり取りする感情も、もちろん社会の鏡としての意義もない。ただただ犯罪であり、そこに芸術性はない。
その反面、もう何度も言うけど、絶対にその行為を勧める訳ではないのだけど、例えば「母さん助けて詐欺」なんていう、ちょっと稲葉さんの頭が狂ったらB'zのシングル曲のタイトルになりかねない名称に変わった「オレオレ詐欺」「振り込め詐欺」なんてものすごい考え尽くされているんですよ。
「おれおれ、車で事故っちまってさ」なんていう文言から始まるこの種の詐欺、ターゲットにしているのは人間の感情です。人間の持つ、身内を思う感情とパニック時の感情を巧みに操って人心を掌握、金を振り込ませるわけです。
そうなると彼らも考えるわけですよ。どういう話をしたら相手がパニックに陥るか、相手が不安に駆られるか、お金を出してもいいと判断するか。普通にアルバイトしたほうが全然いいんじゃないかってくらいに考え抜くわけです。
そんな詐欺も最初こそは荒稼ぎできるのですが、次第に注意喚起がなされ、成功しにくくなります。連日のように「オレオレと電話がかかってくるオレオレ詐欺に気をつけましょう」とテレビなどで報じられると、多くの人々が警戒するようになります。
すると、詐欺を働く人々はまた頭を働かせるわけです。「オレオレ詐欺に注意しましょう」って言われてるなら「オレオレ」って言わなきゃいいんじゃないか?「ボク、ボク」「俺だけど」みたいな言葉に変わるわけなんです。ビックリするかもしれないけど、これだけでこれはオレオレ詐欺じゃないと思われて爆釣だったみたいです。
もうこうなったら「金を振り込め」って言ってくる詐欺自体を撲滅しようと「振り込め詐欺」と名称を変えて、金を振り込めって言ってくる詐欺に気をつけてくださいって注意喚起して、さらに振り込む金額にまで上限を設けて対応しても、今度は「手渡しでもってきてほしい」「代理の者を行かせるから渡して欲しい」と振込を使わない手法にスライドしていくわけなのです。
今度は「母さん助けて詐欺」っていう頭の狂った稲葉さんが「マザーヘルプ!」ってシャウトしそうな名称に変わったので、文言が「母さん助けて」から「母さんを助けるために金が必要」とかに変わりそうな気がするのですが、とにかく、彼らは頭を使って考えているわけなんです。
さらに彼らは社会動向にも機敏に目を光らせています。いかにこれを騙しに使えるか、いかに説得力のある話に持っていけるか、そういった視点で日々のニュースや話題を激しくチェックしているわけなんです。
例えば、昨今騒がれている「アベノミクス」なんて言葉にも敏感に反応し、いち早く詐欺に取り入れて「アベノミクスを加速させるために政府がお金を配っている。保証金さえ払って頂ければ何倍ものお金をお渡しできる」ですとか、メタンハイドレードが騒がれれば「その権利を売る」などなど、とにかく人々の心に染み入りやすい旬のワードを出してくるんです。
人として褒められて行為でないのは確かなんですけど、これはもう芸術だと思うんです。人間の感情の動きを読んで、社会の動きも読む、それを踏まえて「人の気持ち」を考えて理解する。単純なように見えて様々な段階を踏まえた詐欺なんだと思うんです。
それでもって爆撃のように電話をかけまくる、頭脳と根気が必要、おまけに逮捕のリスクまで。ここまでやるくらいなら絶対に真面目に働いたほうが良いと思うんですけど、彼らはそれをしない。あえて詐欺という戦いのフィールドに身を置いて日々戦っているのです。まあ、芸術性はあるけどバカなんでしょう。
ここまで頭を使って考え込まれた詐欺ですから、もちろん、詐欺を仕掛けられた瞬間に頭脳戦は始まっているのですが、実際にはそうではありません。なにせ詐欺を受ける側ってのは心の準備が出来てませんし、そもそも頭脳戦という意識がありません。
結果、何も考えずにホエーっとノリで素人モノのエロビデオに出てしまったギャルみたいな感じで何も考えずに騙されてしまうか、それとも「そんなもんには騙されませんぞ」などと全然話を聞かずに拒絶するかどちらかだと思うんです。誰もこの種の電話を頭を使って受けたりしませんし、ましてや頭脳大戦を繰り広げるなんてことはありえないのです。
かく言う僕もこういった詐欺電話が度々かかってくるのですが、もう頭使うのも面倒で
「ですから、アダルトサイトの使用料94万円、一部でも払ってもらえませんかねー」
なんて典型的詐欺電話に鼻くそほじりながら
「わかりました。払います!」
と返答。興奮した詐欺師が
「ほんとっすか!いくら払ってくれるの!?全額!?」
とかスパークしてるとこに
「イチブトゼンブ」
とか、全く頭を使わない対応をしているわけんです。けれどもね、これって良くないじゃないですか。相手はバカですけど死ぬほど頭を使ってきてるわけなんです。相手がやってるのは犯罪ですけど、死ぬほど根気のいる作業をやってるわけなんです。芸術と呼べる域まで達したこれらの行為に対して適当な対応をする。それって結構失礼だと思うんです。
いやいや、皆さんはこんな詐欺に耳を貸す必要なんてなく、全然無視するべきなんですけど、ちょっと僕は事情が違うじゃないですか。僕はこのNumeriというサイトをやってきて様々な悪徳業者と戦ってきた。時に傷つき、時に悲しみ、そして笑顔をもたらしてきた。戦っていはいるものの決して憎しみ合っているわけではなく、どこか心を許し合いながら戦っている。言うなればトムとジェリーのような関係だ。そんな関係性の僕が彼らの作り出す芸術を無下にしてはいけない。
例えば、やったことないんですけど僕、スカッシュってスポーツが日本代表レベルで上手なんですけど、その僕に憧れて死ぬほど練習してきた中学生がいて、対戦する時に僕が中学生だと思ってめちゃくちゃ手を抜いたらどうしますか。それって失礼でしょう。中学生も悔しくて泣いちゃいますよ。だから相手が本気で頭脳戦を仕掛けてくるのならばこちらも本気で頭を使って迎え撃つ、それが礼儀というものなのです。
けれどもね、ここで一つ問題があるんです。相手の頭脳的な詐欺電話に対してこちらも頭脳戦で迎え撃つ、っていうのは趣旨としては素晴らしいんですけど、そもそも頭脳戦ってなんなのよって部分に考えが至ってしまうのです。
詐欺の脅威が迫ってきた場合、頭脳戦を展開して何をするかと言えばもちろん「騙されないようにする」なのですが、それって普通に当たり前じゃないですか。詐欺電話がかかってきた、騙されないように頑張る、そんなの当たり前です。「ワタシってサバサバしてるってよく言われるのよねー」っていってる女が例外なくブスなくらい当たり前なんですよ。サバみたいな顔しやがってからに。
とにかく、そんな当たり前の頭脳戦では互いに昇龍のようにお互いを高めあってきた僕と悪徳業者の戦いにふさわしくありませんので、僕の方に特別ルールを課して戦いたいと思います。題して、「詐欺業者に言ったら勝ちよゲーム」。
ルールを説明します。まず、詐欺業者に電話をかけます。向こう側は何とか僕の個人情報を聞き出そう、詐欺にはめてやろうと言葉巧みに叩きを挑んできます。その言葉を躱しつつ、あらかじめ決めておいた3つのキーワードを違和感なく相手の業者に言えたら勝ちとします。
いかがでしょうか。これならばいかにしてナチュラルに指定ワードを盛り込むか、という頭脳戦になります。僕の頭脳と話術、強運が試される絶好のバトルフィールドとも言えます。
ということで、早速3つのキーワードをチョイスします。ここは大切ですよ。やはり言いやすいキーワードだとかなり後の展開が楽になりますからね。「振込」「お金」「犯罪」とか詐欺にまつわるワードがチョイスされようものなら圧倒的な勝利が確約されているようなものです。本棚からランダムに選んだ3冊の書籍、適当にページを開いて最初の単語をピックアップします。
「生命保険」「代紋」「大麦若葉」
言えるか、バカ。
いやいやいや、生命保険、代紋は難しいながらも言えないことはなさそうなんですけど、さすがに大麦若葉は不可能だろ。どうやっても詐欺との戦いで「大麦若葉はビタミンが豊富で健康に良く」なんて挟み込めない。絶対に挟み込めない。これは早くも苦戦が予想されますぞ。
次に、詐欺業者を選定します。昨今では、悪徳業者相手におちょくるエンターテイメントが盛んに行われている現状がありまして、業悪徳業者側の警戒度が高い傾向にあります。こういう言い方が適切ではないことは分かりますが、悪徳業者も真面目に詐欺やってるんです。僕らのような人間の相手をしている暇はないのです。
ですから、僕らみたいなのがおちょくってやろうと電話をかけてみたところで、ほとんどが20秒くらいでガチャっと電話を切られてしまいます。こっちは万全の体制でネタを仕込んで電話しているというのに、ガチャ切り、なんだか毎回見せられるプロゴルファー石川遼クンの新しい髪型を見たときのような切ない気持ちになるのです。
とまあ、相手してくれる悪徳業者を探すだけでもかなり骨が折れるのですが、そこは長年の実績を誇る信頼のNumeriですよ。ちゃんと良さそうな悪徳業者をキープしておりますがな。野蛮でいて熱しやすい短気。それでいて金に対する執着は凄まじく、どんな手段でも使ってくる、そんな悪徳業者をキープしておりますがな。
元々は意味不明な封書を僕の職場に送ってきて、大変貴重で幻想的な絵があなたに当たりました無料で送りますので!なんて言って個人情報を聞き出して法外な値段で売りつけようとしてきた業者なのですが、連絡先の電話番号に電話すると担当の大口君がでてくれるんですけど、これがなかなかどうして、非常に将来有望な若者でしてね、僕のどんな話でも激昂しながら聞いてくれるんです。
普通だったら、訳わかんないから叩き切っちゃうような内容の話題でも激怒と共に聞いてくれまして、絵画を買う買わない以前に、「ぐりとぐらが絡み合う薄い本の存在」という僕の意味不明なテーマトークにも「お前いい加減にしないと殺すぞ」と激怒しながら聞いてくれるのです。すごい優しいよ。
ということで、この法外な絵画を売りつけようとする業者の大口君。名前の通り結構ビッグマウスな彼を相手に非通知で電話をかけ、「生命保険」「代紋」「大麦若葉」の三つのキーワードをナチュラルに言えたら僕の勝ち。その前に電話を切られたら僕の負け、こんなルールで戦ってみたいと思います。絵画詐欺を舞台にした衝撃の頭脳戦が今、始まる。
プルルルルルルル
「はい、もしもし」
相変わらず彼は少しヒソヒソ声で電話に出る。おまけに名前も会社名も名乗らない。これはある程度定番で様々な詐欺行為を同じ電話番号を用いて行っている業者にありがちなパターンだ。
「あ、もしもし、あの何か手紙が届いたんですけど。高価な絵画をくれるとなんとか。それで興味があるなら連絡しろってあったもんで」
ちょっと戸惑いつつも絵画に興味ありといった雰囲気を醸し出します。こんな感じでここに電話するのも4回目くらいなんですけど、全然気づいてくれない。
「あ、はい。当選された方ですね」
と、いつも通りの展開。ここから当選したけど絵を受け取るには事務所まで来て手続してもらわないといけないとか、そういう王道的なストロングスタイルの懸賞詐欺が展開されるのですが、まあ、この辺は省略します。それじゃあ事務所まで取りに行きます!はい、お待ちしております!ガチャリ!では負けになってしまいますのでなんとか話を引き延ばします。
「いやー、でもちょっとそちらにお伺いする暇はなさそうなんですわー」
すごく行きたいのに多忙である、とても残念だという雰囲気を醸し出します。これだけ全然食いついてきますから。
「お仕事がお忙しいんですねー」
「いやー、CEOなもんで海外とかが多くてですねー。明日からもアフガニスタン出張ですし」
相手に舐められてはいけないという僕の思いが「CEO」などという自分をどんなレベルの高みに設定しているのか皆目わからないホラを繰り出させます。アフガニスタン出張ってなんだそりゃ。
「海外も良いですが、絵画にも興味ございませんか?」
お、やるじゃん大口。海外と絵画をかけてくるとはこりゃ一本取られたね。
「そりゃ興味はあるよ、君ぃ。当たり前じゃないか」
ちょっと僕のキャラ設定が訳の分からないことになってるんですけど、そろそろ第一のキーワード「生命保険」をナチュラルに言えるように移行していかねばなりません。
「実は今回ご当選された絵画は極めて小さいサイズのものでして、本当はもっと大きく価値のあるものを購入する権利にも当選されているのです。絵のサイズが2倍になれば価値は20倍にもなります。いかがでしょう、ご購入されませんか」
なるほど、本来ならこれはノコノコと事務所に当選品を受け取りに行ったら監禁に近いことをされて聞かされる話だろう。しかし、こちらが金持っぽい振る舞いで絵画にも興味ありと踏んで勝負にでたか!大口。
「いやね、そりゃもちろん価値のある絵を買うのはやぶさかではないよ。けれども値段が分からなないものをおいそれと買うわけにはいかんよ、君ぃ」
僕のキャラ設定が何を目指してるのかさっぱりわからず、僕の中でCEOってこんなイメージなのかと愕然とするのですが、ここら変で値段的な核心に迫ります。カクシンニセマラナイデとか言われそうです、一気に畳みかけます。
「ズバリ申し上げます!今回お勧めする作品は80万円でございます!」
コイツは僕に80万円のイルカの絵を売りつけようとしてんのか。とんでもない悪人だな。今の僕が80万円の絵なんか買おうものなら飯も食えず餓死する。イルカの絵を抱いて餓死する。つまり大口のこの所業は詐欺というより殺人に近い。とんでもないやろうだ。
「80万なんか払ったら俺、餓死しちゃうよー、それとも餓死して生命保険で払う?ガハハハハ!」
80万円払えないCEO、80万円払ったら餓死するCEO。さらにキャラ設定が迷宮入りですがこれで一つ目のキーワード「生命保険」を極めてナチュラルに言うことができました。ひっつ目クリアーです。続いて二つ目「代紋」を目指します。
目指すとは言ったものの、皆さん、落ち着いて考えてみてください。普通の生活を営んでいて「生命保険」って言う機会はあるかもしれないですが、「代紋」は言う機会がないですよ。反社会的組織の人、いわゆるヤクザ的な人が背負ってらっしゃるものざんしょ?これをナチュラルに口にするのはなかなか難儀ですよ。
こりゃ喧嘩腰な感じになってこないとなかなか乱暴なキーワードはですからでてこないですから、ちょっと小バカにした感じで喧嘩を吹っかけてみます。
「でもさー、その絵画って本当に80万円の価値あんの?そもそも絵画じゃなくて版画みたいなものなんじゃないの?」
「いえ、高名な評論家も価値を認める品です。間違いありません!それに絵画の世界では80万円はお安いですよ」
と、大口君は丁寧に応対してくれるのですが、それでもしつこく
「なんか詐欺っぽいなー」
とか言い続けていたら、さすが瞬間湯沸かし器の異名を持つ大口君です。何度も何度も詐欺なんざんしょ?ってネチネチと言いまくってたら完全にブチンときたらしく。
「テメー!死んだぞ!!」
殺すぞでも死ぬぞでもなく過去形。彼の中では僕を殺害済みと錯覚するくらいお怒りになってくれた様子。
「おい、テメー電話番号教えろや!殺したるからよー」
さすが大口の名に恥じないビッグマウスっぷりですが、どうやら怒りに乗じて僕の電話番号を聞こうという算段らしい。なるほど、ここまで怒っていても個人情報を入手して詐欺にかけることを忘れない。この執念はもう芸術の域ですよ。ここまで来たら電話番号教えてもっとヒートアップして欲しいものですから、僕の電話番号じゃなけど、こういった場面で自由に教えて良いとされている禁断の電話番号を教えておきます。さすがに電話番号をモロに書くのはまずいので一部伏字で書きますけど、
「○9○-5240-8218です」
そう冷静に告げると、大口君もさすがに素直に携帯番号を言うとは思っていなかったらしく、一瞬面食らったような「グゥ」みたいな音を出したのですが、すぐに我に返って
「その番号からお前の個人情報抜き出してヤクザ向かわせるからな」
さすが大口の名に恥じない感じなのですが、あのですね、もう平成になって20年以上が経過してるわけですよ。そんな世の中にあって個人情報抜き出してヤクザ向かわせるぞですからね、今の時代にIP抜くぞって相手を脅してるようなもんで、何の恐ろしさもない。僕の番号じゃないし。ヤクザでもシーシェパードでもなんでも向かわせて欲しい。
ヤクザの名前を出して脅すだけで「暴力行為(団体仮装脅迫)」みたいな感じで逮捕もんなんですけど、今回はそれが目的ではありません。あくまでもキーワードを言うのが目的です。そう考えるとヤクザが出てきたのはありがたい、非常にキーワードが言いやすい。
「そんな、代紋をちらつかせて脅そうとしても無駄ざんす!」
CEOっぽい口調で話さなきゃって未だに思ってるらしく、訳の分からない口調になっていますが、これで二つめのキーワード「代紋」クリアです。まさかここまでナチュラルに言えるとは思えなかった。
さて、ついに二つのキーワードをクリア。ここで最大の難所である「大麦若葉」と対峙することになります。いくらなんでもヤクザがどうこうヒートアップしているバイオレンスな場面、どう考えても若葉に出る幕はない。
そこで思ったんです。今はかなり僕力的内容ですけど、話題がもっと家庭的で和やかな感じになってきたらどうでしょうか。もしかしたら家庭的な話題から自家製ハーブの話に移ることができ、その際にコソッと「大麦若葉」といけるかもしれません。しかしながら、一体全体、ここまでヒートアップしてる相手をどうやって家庭的な話題にシフトするか。
あのですね、女性にはわからないでしょうけど、男の心の中には必ず特別な女性が一人います。どんなに野蛮な人だろうが、どんなに強力な権力を持った人だろうが、どんなにダメな人だろうが、必ず心の中に一人の女性がいます。それが母親です。
どれだけ取り繕うとも、どれだけ酷い母親だろうとも、母親の顔を見たことがない、そんな場合でも母親とは特別なものです。このビッグマウス大口だって、母親の話題を出されたら怒りの矛をおさめて家庭的にならざるを得ない。そこで僕は突如母親の話題を出す作戦に出ました。
「母さん!助けて!」
これが母さん助けて詐欺です。
「母さんじゃねえよ!殺すぞ!」
「ごめんなさい。お母さんと間違えました。小学校の時とかよくあったじゃないですか、先生とお母さんを間違えるとか」
「俺は先生でもねえよ。殺すぞ」
大口くん、殺すぞって言いすぎて言い慣れちゃったのかちょっとトーンが落ち着いてきてさっきまでの暴力的な感じがなくなってきてるんですけど、もしかしたらこれは「お母さん」という単語で彼の中の家庭性が起き上がり、落ち着きを取り戻してきたのかもしれません。これはいけるかもしれない。
「そういえば、同僚の若林くんのお母さんが、体に良いからって5リットルくらい青汁を差し入れしてくるんですね。それがすごいまずくてまずくて、嫌がらせの領域で」
いける。このままいける。極めてナチュラルに青汁の話題にシフトできた。青汁には大麦若葉が入っているやつもある。この調子で一気に畳み掛けられる!
「その若林のお母さん、絵画とかに興味ないのか?」
マザーヘルプ!おそるべし大口。まさか若林くんのお母さんにまで絵画を売りつけようとするなんて。これですよ、これこそが芸術なのです。絵画を売りつけるためだったらなんだってする。その姿勢こそが芸術の域に達した詐欺ってやつですよ。
せっかく青汁から大麦若葉の話題にシフトしようと思ったのに大口のナイスブロック。もうどうしようもなくなっちゃって気が動転しちゃいましてね。早い話、どうでも良くなっちゃいましてね。
「お前なー、絵画とか言ってるけど、それ版画だろ?しかも80万もするわけねーだろ。だいたい、販売する目的を隠して「当選しましたー」って手紙送るの法律違反だし、ヤクザを出して脅すのも立派な犯罪。通報したらお前逮捕されるぞ。本当のお母さんに電話してどうしたらいいかアドバイスしてもらえ。だいたい、誰もこんなバレバレの詐欺で購入するわけねえだろ、もう一度芸術的に練り上げて出直して来い。いくらでも迎え撃ってやる。ガハハハハハハハ大麦若葉」
言うには言ったけど、こりゃ負けだろ、負け、負けに等しい。語尾につけるだけなんて顔から火が出るくらい恥ずかしい。さすがに意味不明と思ったのか大口くんはガチャリと「お前の電話に毎日呪いの言葉を送ってやる」と結構ビッグマウスらしからぬ地味な嫌がらせの捨て台詞を吐き捨て、電話を切ってしまいました。ルールに則り、ゲームオーバーです。
今回、この絵画詐欺を巡る頭脳戦において負けてしまったわけなんですけど、その敗因はやはり、詐欺業者の根性だと思うんです。あの、根性に負けてしまった。確かに、キーワードチョイスの段階で「大麦若葉」を引いてしまったのも敗因の一つだと思いますが、やはり負けたのは、あの根性が原因だ。
あの場面で若林クンのお母さんにまで絵画を売りつけようとする根性、これに負けたのだ。僕は冒頭で、緻密に練られた犯罪は芸術だと述べた。けれどもそれは大きな間違いで、緻密さなんていらない。ただ何か一つのことだけを心の中に抱いて一心不乱に打ち込むことこそ芸術なのかもしれない。多くの芸術に緻密さなんてないのかもしれない。あるのは圧倒的に一途な思いだけなのだ。
そう言った意味では、今回の大口くんもまた、芸術だった。決して褒められたことではないし、勧められたことではないし、そこまでするくらいなら絶対に詐欺などに手を染めずに真面目に働いた方が良いと思うのだけど、それでも彼の思いは芸術だった。僕は芸術性で彼に負けたのだ。今度こそは僕も絶対に芸術性で負けないと心に誓った。
後日、本屋にて大口くんが買わせようとしていた幻想的なイルカの絵の画集を立ち読みした。80万円は絶対に高すぎると思うけど、この絵はこの絵で、やはり芸術だった。芸術だったのだ。大麦若葉。
5/11 雑念エンタテイメント
ごく普通に日常生活を送っている場合でも、さすがにこれはちょっとやりすぎなんじゃなかろうか、などと思う場面が多々あります。人間とは例えるならば塀の上を右に左にバランスを取りながら危うい感じで歩き生きていく生物ですから、大きく逸脱する「何か」に対しては必ずブレーキがかかるようにできているのです。
例えばウチの上司は結構ヒステリックでヒステリックブルーかって怒り狂うことが多々あって、僕も何度か怒られたことがあるのですけど、最初は机を叩くとかで怒りを表現しているんですけど頂点を越すと自分でも訳わからなく、どう怒りを表現していいのか分からなくなるんでしょうね、壁にかかっているホワイトボード外し始めたりしますからね。
さすがにそうなると意味不明ですし、ちょっと怒りすぎって感じで二番目に偉い補佐みたいな人が「まあまあ」とか止めに入るんですよ。過去に怒り狂った上司になぜか僕のネームプレートを花瓶に刺すという意味不明なパフォーマンスを魅せられた時も、この補佐の人が止めてくれた。さすがにそれはちょっとやりすぎだろう、そう言って止めてくれた。
こういった、「ちょっとやりすぎだろう」みたいなバランス感覚なんですが、僕はこういったものが異常に好きだ。なんていうか人間が人間たる根拠というか、人間が知的な生物として発展してきた最大の要因であるような気がしてならないからだ。「ちょっとやりすぎだろう」このバランスがあるからこそ人間はここまで進化できたのではないだろうか。
全く競争がない世界は発展を生まない。けれども行き過ぎた競争も互いに潰し合うだけで不毛な結果を生むだけだ。争いつつも適度なところで「ちょっとやりすぎだろう」、いくら争っているとはいえ、これをやったらシャレにならない、そんなバランス感覚が他者を尊重し、尊重され、ここまで人類が発達できたのだと思う。
そういった意味ではこのブレーキは、やり遂げない中途半端なイメージを持ちがちだが、人間が人間たる最も重要な要素なのかもしれない。何事もやりすぎはよくなく、歯止めをかける誰かが必要なのだ。
僕のオフィスでは、ヒステリーな上司が不在の時は比較的ざっくばらんな雰囲気でフリーダム、みんなイヤホンつけて思い思いの音楽を聞きながら仕事をしてるんです。静寂の中、全員がイヤホンつけてカタカタとパソコンに向かっている姿は一種異様なんですけど、かく言う僕も「彼女の喘ぎ声を録音してアップロードする無法地帯みたいな場所」で入手したエロいボイスを聞きながら仕事の興じてるわけなのです。
実は、この状態こそが絶妙なバランスなんです。「ヒステリー上司がいない時だけ」、みんな「イヤホン」で、音楽を聴いている。これこそが絶妙なバランスで、みんな暗黙の了解でそこのバランスの上にのっかっている。ここで誰かが逸脱して、ちょっと調子ぶっこいちゃってヒステリー上司がいる時、とかに聴き始めると、途端にそのバランスは崩れてしまう。たぶん怒り狂った上司にネームプレートを生けられる。
結局、この均衡はすごい危うく脆い砂の城なんですけど、やはりというかなんというか、それを分かってない愚か者が均衡を崩しに来たりするんです。具体的に言うと、最後の砦である「イヤホン」という部分から逸脱してスピーカーで聴き始めたりするんです。
まあ、職場のブスなんですけど、民衆の持ってる嫉妬だとか怒りだとか憎悪だとか、そういった様々な悪感情が少しづつ溜まって澱んだ流れとなり、やがて具現化して人々を脅かす妖怪となった、みたいな感じのブスが言うわけですよ。
「ちょっとー、これ皆で聞きたくない?」
どうやら、その他の、戦で負けて地方へと逃げ延びた落ち武者が無念の想いを抱えながら病に犯されて最後を迎えた恨みの感情が具現化したみたいなブスと、高校最後のバスケの公式戦の前日に足に怪我を負ってしまい、当分バスケは無理だよっていう医者の言葉も聞かずチームメイトにも内緒で試合に出たのだけど、足の怪我が悪化、コートに倒れこんでしまって運ばれた医務室で言われるわけですよ。もうバスケはできないかもしれないって。そんなキャプテンの無念の思いが具現化したみたいなブスの3人で何らかの動画を見ていたみたいなんです。
仕事しろよって思うんですけど、僕も、彼氏が録音した「どこが気持ちいいか言ってごらん」っていう音声を夢中で聞いてますから何も言えないわけで、そこの部分は別にいいんですけど、どうやらブスたち、イヤホンを取ってスピーカーで音声を聞こうとしているみたいなんです。
確かに、イヤホンってやつは一人で聴くためのもので大変便利なのですが、3人で一つの動画を共有するとなると途端に不便な物へと早変わりします。どう頑張っても左右二つにしか分かれないから二人しか聞けず、それだったらもう外しちゃおうぜ、逆にみんなイヤホンしてるから音出しても大丈夫だろう、みたいになっちゃうんです。
本来なら、仕事中にイヤホンで音楽を聴くこと事態が御法度なのですが、絶妙なバランスの上で成り立っていて黙認されている状態なわけなのです。けれどもそれが普通になってしまうと、イヤホンも大丈夫なのだからスピーカーから音出していいだろう、みたいな考えが浮かんできてしまうわけなんです。
「抜いちゃえ抜いちゃえ」
そんな言葉と共にポンっとイヤホンを抜いた瞬間、なかなかの大音量で彼女たちが見ていた動画の音声がオフィスに響き渡ったのです。どうやらジャニーズか何かのライブの様子を収録したDVDでも鑑賞しちたのでしょうか、なかなか軽快な音楽とともにキャーキャーという完成、それらに混じって3ブスのキャーキャーというよりはギャーギャーという悲鳴に近い音声が響きました。
さすがのぼくもこれはちょっとやりすぎなんじゃないの?いままで絶妙のバランスで成り立ってただけなのに、そんなことされるとすべてが崩壊する、そう忠告してやろうと思いましてね、ちょうどカップ焼きそばを作ってましたから、お湯切りをするついでに注意してやろうと思ったんです。だれかがブレーキとなって「やりすぎだろう」と注意してあげなくてはならない。
カップ焼きそば片手にズンズンとブスどもに近づいていくんですけど、ブスどもは動画に夢中なのかパソコンの前に身を寄せ合い、共食いしている時のハムスターみたいになりながら熱中しています。いよいよ彼女たちの横へと差し掛かり、さあ注意するぞ、と欠いたその瞬間、ブスに動きがありました。
「あ、ここ!ここ!ここが最高なの!」
ブスの一人が画面を指差します。漏れてくる音から判断するに、曲の間奏部分のようなのですが、何かが起こるとブスが予言します。他の二人のブスも分かってるのか分かってないのか「うんうん」といった感じテンションがたかまっています。
なんだろう何が起こるんだろう、画面にはやはりジャニーズっぽいアイドルのライブの様子が映し出されているのだけど、なんだなんんだ、間奏の間に何が起こるんだ。テンション高まったアイドルがギター叩き壊したり、デス!デス!とか叫びながらサルの脳みそでも食べるんだろうか、とちょっと僕も画面を見つめてみたんです。
そしたらアンタ、なんてことはない、画面の中のアイドルがラップって言うんですか、ちょっと早口な感じで韻を踏んだ歌詞を棒読みっぽく歌い始めるじゃないですか。歌詞はよく聴き取れなかったんですけど、なんか「お前のマンコ すごくサイコー でもお前サイコ 俺は淫行」みたいなイメージで上手に韻を踏んでました。
なんだよ、よくある、普通のポップスな感じの曲なのに間奏に無理やりラップが入ってくるあれかよ、などとサルの脳みそを食べ始めると思っていた僕はちょっとガッカリしたんですけど、その反面、ブスたちは大歓声ですよ。もうキャー!って歓声じゃなくてオンギャー!みたいな大歓声で下手したらこのラップ聴きながら涙流すんじゃねえかみたいな感じで感動してるんです。
さすがにこのオンギャー!は完全にやりすぎうるさすぎですので、焼きそばのお湯切りの前に注意しようと思ったのですが、そこである衝撃的な考えが頭の中に生まれたのです。
「曲の途中に挟まってくるラップ、すげえ」
ということです。海外ではどうだか知りませんが、日本においては、こうやって曲の途中、特に間奏部分なんかにかなり早い口調でラップが入ってくる曲というのがそこそこ存在します。全部を聴いたことあるわけではありませんが、僕が聞いたことのあるそれらの曲は、だいたいカッコイイ。
なんというか、それまで聴いていた曲調とガラリと変わるだけでも、オッと心惹かれるのに、おまけに早口で韻を踏んでいたりなんかするもんですから、それが一種のスパイスみたいになり、異常にかっこよく見えてしまうんです。
さらに、これはもっと古来から使われている日本の独自文化、演歌に通じるものがあり、演歌の中に登場する「酒や、酒買って来い!」みたいなセリフと同じなのです。ずっと歌という形で間接的に投げつけられていた感情、それが突如セリフという形で直接感情が投げつけられる。暗闇から突如明るい光を見ると何倍にも増幅されて感じる、それと同じなのです。
それまでの流れを突如変えてスパイスにする。そして感情を直接ぶつける。この二つの要素によって曲全体を素晴らしいものに装飾しているのです。そりゃブスどもがオンギャーってなるのもわかるってもんですよ。
そうやって、曲の合間に挟まれるラップが良いものだってのは分かったんですけど、問題はここからですよ。実はこれ、このNumeri日記にも応用できるんじゃないですかね。僕はもう毎日Numeri日記のことしか考えてなくて、出来ることなら毎日書きたいと思っているくらいですから、こう、なんでもすぐNumeri日記に反映させたくなっちゃうんですよね。
特に僕の日記は結構長いですから、こう、淡々と書いていくと途中でダレちゃう可能性がある。そこで間奏のラップ風に挟み込んでビッと日記全体を締める。おまけにダイレクトアタックかってくらいにそのラップ部分で感情をぶつける。そうすることですごく日記が良くなる気がするんです。
ということで、挑戦してみました。ラップそのものを挟み込むのはなかなか難しいので、淡々とした本筋の文章の合間に、感情をぶつけた無関係の文章を挟む。そんなイメージで行きたいと思います。それではどうぞ。
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誰もいなくなった体育館は、さっきまで熱気が嘘のように静まり返っていた。今ままでどれだけの人間がこの体育館で歓喜したのだろう。どれだけの人間が悔し涙をながしたのだろう。そして、どれだけの人々がそんな彼らに歓声を送ってきたのだろう。
この体育館はずっと観てきたのだ。まさしく悲喜交々の人間模様を。
「あっ、ボールが」
芳江は体育館の隅に置かれたバスケットボールを手にとった。係りの人が使い忘れたのだろうか。しゃがみこんでそのオレンジ色のボールを手に取る。床はひんやりと冷たかった。
この体育館の空気は、先ほでの熱気が残っているようで暖かく湿り気がある。しかしながら床はヒンヤリと冷たい。さっきまで感じていた熱気の残りが錯覚でしかなかったことに気がつく。
「重いんだな、バスケットボールって」
軽々しくパスを回し、軽やかにゴールを決める選手たちを見ていると忘れてしまいがちだが、バスケットボールは意外と固くて重い。それはまるでこのボールに賭けてきた多くの人々の想いが染み込んでいるかのようだった。
「えいっ!」
芳江は見よう見真似でドリブルをしてみる。しかし才能がないことは明白だった。すぐに止め、転がらないように体育館の隅にボールを置くと、ゆっくりとロビーへと歩いて行った。
照明の落とされた体育館ロビーはさらに温度が低いように感じられた。ジュースの自動販売機が唸る音だけが聞こえる。冷え切った床に冷え切った壁、なんとも人間味を感じないものだと少し感心した。
廊下を歩いていくと、突き当りに青いドアが見え、その上には「医務室」と書かれたプレートが刺さっていた。芳江はひと呼吸おいて小さく頷くと、ゆっくりとドアノブに手をかけた。
「いま、一番悔しいのは高志だから」
どうやって元気づけようか。そのことばかりだった。芳江は幼い頃からずっと高志のことを見ていた。高志がどれだけ純粋で、どれだけバスケのことが好きだったのかよく知っている。それだけの、高校最後のこの大会に賭ける気持ちは理解していた。
高志がキャプテンとして高校最後の大会直前、不運なことに右足の怪我をしてしまう。練習中のアクシデントだった。それでも高志は笑っていた。
「大丈夫、大会までには間に合わせるから」
その笑顔は幼い頃からよく見た高志の笑顔だった。そう、何かを隠す時、誤魔化す時に高志が見せる、力のない笑顔。まさしくそれだった。だから芳江には気がつくことができたはずだった。高志は何かを隠している。怪我はたいしたことない、試合には間に合う、それが嘘だって見抜くことだってできたはずだった。そうすれば止めることだって・・・。
試合開始30秒。高志はまだボールも触らないうちに突如としてコートに倒れこんだ。そしてそのまま医務室へと運ばれていった。キャプテンが抜けたあとのチームがまともな戦略を立てられるはずもなく、試合は思い出すのも嫌になるくらいの大敗だった。
今一番悔しいのは高志なんだ。一番悲しいのは高志なんだ。なら、私がなるべく明るくして励ましてあげなきゃ。芳江はドアノブに力を込め、ドアを開いた。
ギギギと金属音がし、少し重い扉が開く。消毒液の匂いだろうか、医務室と分かる独特の匂いが芳江の鼻先をくすぐった。
「高志、いる?」
返事はなかった。
「すいませーん」
今度は少し小さい声で、医務室の人でもいないものかと声をかけた。しかし、返事はなかった。
「おじゃましまーす」
少し語尾を伸ばし気味にして声を潜め、なるべく足音を立てないように医務室の中へと入っていく。窓が空いているのか風でカーテンが揺れている。少しだけを歩を進めると、そのカーテンの合間から高志の後ろ姿が見えた。
「なーんだ、いるんじゃん!」
なるべく明るく振舞おうと、いつもより大きく高い声で高志に近づく。普段の高志ならいくら落ち込んでいても誤魔化しながらあの力ない笑顔を見せてくるはず。それをとっかりに励ましていけたら。そんな思いだった。
しかしながら、高志の反応はなかった。俯き、まるで芳江の声が聞こえてみたいに何の反応も見せなかった。
「もうどうしたのよー高志ー、早く帰ろうよ!あ、わかった。足が痛くて帰れないっていうんでしょ。大丈夫、私バイトのお給料も出たし、今日は奮発してタクシーで帰ろう?そうだ、ラーメンでも食べて帰ろうよ、奢るから!」
予想していた以上に高志の落ち込みが深く暗い奈落のようだったことに焦りを感じつつも、芳江は更に明るく振舞った。高志は顔を上げて芳江を見る。芳江は心がざわついた。高志は瞳に大量の涙を溜めている。あの、どんな時でも決して涙を見せなかった高志が、大量の涙を。
「うわーーーーーーーー!」
突如として高志が大声を上げる。まるで発狂したかのように大声を上げ、狂ったように痛めた右足に左右の拳を叩きつけている。
「ちょっと高志、やめて!」
驚いた芳江は高志に駆け寄り止めようとする。それを振り払おうとする高志の拳が芳江の顔に当たり、芳江はロッカーまで吹き飛んで倒れこんでしまった。
「高志…」
心の葛藤が見えた。思いがけず芳江に危害を加えてしまったことに焦ったのだろうか、一瞬だけ正気を取り戻したように見えた。それでもまだ興奮は収まらないのだろうか、高志の息遣いは荒々しい。それでもまだ高志を励まそうと、芳江は右頬を抑えながら続けた。
「でもほら、確かに高校最後の試合は残念だったけど、これで最後ってわけじゃないでしょ。大学に行ったって、社会人になったって、きっとバスケはできるよ。だからそんなに…」
その言葉を遮るように、高志は口にした。
「俺の右足、もう、バスケはできない、って……」
ほいさ!今日はみなさんに是非とも痔の話をしちゃったりしたいわけなんですけど、痔だけにね、ジッとして聞きなさい、なんちゃって。とにかく、皆さんに言いたいね、痔にだけはなるなと、痔にだけはなっちゃイカンと。憧れるもんじゃないよ、痔ってやつは。オジサン、こればかりは痛いほどわかったね。本当に痛かったし。痔ってのはね、あれお尻が痛い病気みたいなもんでしょ。でもね、ありゃ病気なんて生易しいもんじゃないですわ。緩やかな死ですわ、緩やかな死。何がつらいって、そりゃ椅子に座るときとか痛いですよ、照りつくように痛いですよ。俺の切れ痔、俺のイボ痔、塗りつける上質な塩麹、祈りを捧げる増上寺(Hey!Yo!)歌っちゃうくらい痛いっすよ。でも、本当に怖いのは出血。真面目な場面で突如の出血。尻から噴水。ヒステリックに怒られてる時に尻から出血。俺貧血、上司熱血、脳溢血で死んで欲しい(デス!デス!)(ここでサルの脳みそを食べる)
「大丈夫だよ」
今度は芳恵が力なく笑うことしかできなかった。なんて言葉をかけていいのかわからなかった。吹き込む風に大きく揺れるカーテンがまるで夕陽が瞬いているかのように見せていた。
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どうですか、これ。なんかむちゃくちゃビッと
締まったね。高志のバスケをやれない悔しさと、芳恵の高志を思う気持ち、あと痔の痛み、そういうのが尋常じゃないレベルで伝わってきたね。
邦楽でよく用いられるラップ挟み、これは日記にも応用できると分かったことだし、大音量でライブを流すブスたち「ちょっとやりすぎだろう」って注意してやろうと思ったのだけど、今日は見逃してやろう、大切なことを気づかせてくれたし、よくよく考えたらそんなにやりすぎでもないし、と給湯室の流し台で焼きそばの湯切りをしていたら、ブスのうちの一人がやってきて
「さっきおソバ食べてたのに焼きそばまで食べるんですが。ちょっと食べすぎなんじゃないですか?」
と、お前やりすぎだろう、みたいなことを指摘されました。これこそがバランスというやつなのです。そこで僕も格好良いだろうと思い、ラップ調に「さっきおソバ、今は焼きそば、お前のそば、ウンコをするクソ場」って恥ずかしいんで、すごい小さい声で歌っておきました。
ちなみに、この時のブツブツ歌っている僕が気持ち悪くて腹がったったブスがやったのか、また怒り狂ったヒステリー上司がやったのか、単純に僕がいじめられているからか知りませんけど、今度は僕のネームプレートが便所に捨てられていました。
いや、さすがにそれはちょっとやりすぎだろう。僕は力なく笑うことしかできなかった。
3/14 Password of Love
パスワードが怖い。
日本には古くから言霊という考え方がある。単刀直入に言ってしまうと、言葉に宿された霊的な力のことで、言葉にして発した言葉は現実世界に影響を与えるという考え方だ。僕はこの考え方が非常に好きだ。なんというか、とても日本的なのだ。
例えば、結婚式で「別れる」だとか「壊れる」といった二人の破局を予感させるような言葉を口にしてはいけない。受験生に「落ちる」「滑る」といった言葉を投げつけてはいけない。これらは間違いなく言霊的な考え方が基本になっていて、それらの言葉が現実に影響を及ぼすことを危惧している。これが実に日本的だ。
良くは知らないけど、なんかアメリカ人とかだと結婚式とかで平気で「ヘイ、ジョーンとメアリーの仲はまるでオバマのようだね、なんでかってしばらく(バラク)別れないってねHAHAHAHAHAHA、僕は共和党支持者さ!」とかバドワイザー片手にブンブンに飛ばしたアメリカンジョークを言いそうで怖い。
実はこの言霊という考え方、迷信のようなオカルトのような位置で考えられるかもしれないけど、冷静に考えると正しい。例えば、「pato死ね」心無い閲覧者が右側のメールフォームからそんな言葉を僕に投げかけてきたとしよう。別にそんなメールを沢山来るし、中には日課のように毎日送ってくる人もいる。
もちろん、そんなメールをもらって僕が死ぬわけはないのだけど、少なからず「死ね」と思ってメールを送ってくる人はいる、という認識は頭の中にインプットされる。死ねと思っている人がいる、それはほんの僅かだけ僕の行動を制限し、それが結果的にほんの1ミリだけ僕を死に近づけるのだ。それはどれだけ貯まり貯まったとしても影響がないほど僅かなものだけど、確実にそちら側に行動が遷移する。
思えばそれは当たり前のことで、言葉とはもともと単なる喉から発生する音として独立していない。言葉を発するということは必ず意志や気持ち、感情が含まれている。それらを同時に伝えるのだから、それは確実に他所の行動に影響を与える。僕らが考えている以上に言葉とは力を持っているものだから、細心の注意を払って使っていかなければならないのだ。
僕はいつもこの「言葉の力」について考えていて、もちろん何度か日記にも書いたのだけど、やはりというかなんというか、とにかく「言葉の力」は上記のような感情を伴ってのものなのだと痛感している。言わば言葉とは単なる乗り物であり、その中には必ず何らかの感情が乗っている。それが誰かの行動や感情に影響を与え、言葉が実現する力を持っているのだ。大昔の人はそれを知っていて、結婚式などで不吉な言葉をタブーにしてきたのだ。
しかしながら、現代において「言葉の力」は少しだけ様変わりしてきた。ネット社会が発達し、オンラインコミュニケーションを数多く交わすことによって変化が訪れた。もちろん、ネット上で交わされる多くの言葉に多くの感情が含まれていて、現実に発する言葉となんら変わりない力を持ち、感情を載せているのだけど、それとは別に力はあるのに感情を伴わない言葉が台頭してきたのだ。
それが「パスワード」というものだ。
パスワード自体は別に今に始まったことではなく大昔から存在しているもので珍しくも何ともないのだけど、あらゆる行動がネット上で可能となった昨今、その中で個人の権利を認証するためのパスワードの存在は重要性を増している。
誰かと連絡を取ろうとSNSサイトに行けばIDとパスワードが必要だし、本を買おうとネットショッピングに繋げばパスワード、ゲームでもするかとゲームを立ち上げればパスワード、エロ動画でも見るかとエロサイトに繋げば、これ以上再生するにはログインしてくださいとか言われてパスワード、昔に比べて明らかにパスワードの必要性は高まっている。
これはもう、完全にパスワード自体が力を持っていて、あらゆる行動が可能になる「力のある言葉」なのだけど、そこに感情はない。冷徹にパスワードが合致しているかどうか、その判定しかないのだ。僕はその感情がないのに力ある言葉、パスワードが怖くて仕方がない。彼らの持つ冷静な哲学と巨大な力こそ畏怖の対象でしかないのだ。
職場でのことだった。我が職場ではとある社内メール用のソフトを駆使して社内での連絡を取り合っているのだけど、当然のことながら、その社内メールにログインするのにもパスワードが必要となる。セキュリティの観点から長いパスワードを設定し、その内容を付箋等にメモすることも禁止されている。つまり、ある程度長いパスワードを自分で設定し、それを記録していなければならない。
おまけに定期的に変更するように警告されたりなんかして、変更を余儀なくされる。せっかく覚えたのに覚えなおしだ。そういった事情もあってか、ちょくちょくパスワードを忘れてしまった人が出てくる。恐ろしいもので、一切の仕事上の連絡が取れなくなるのだから事態は深刻だ。
「パスワード、忘れちゃったんですー」
すごいブスが僕のところにやってきた。地図で見た時のアリゾナ州みたいな顔の形をしたブスなんだけど、こいつが朝出勤すると待ってましたとばかりに寄ってくるわけなんですよ。なぜか部署レベルでのネットワークの管理者になっているので、パスワード忘れが出た場合は僕が大元の管理者と連絡を取り合うことになっているので、本当に面倒で死にそうなのだけど、ブスの話を聞かなければならない。
「全然思い出せない?」
管理者に問い合わせるのはすごく面倒で、さらに僕がパスワードを忘れたわけでもないのにメガネをかけた管理者にすごい嫌味とか言われてしまうのでできれば問い合せたくない。なんとか思い出して欲しいと願うのだけど、ブスの野郎、ちょっと小首を傾げて考える素振りをするだけで全然思い出そうとしない。
「思い出せないですー」
「パスワードリマインダーは試した?」
本当に問い合わせるのが嫌で嫌で仕方ないので、なんとか思い出してもらおうとパスワードリマインダーに言及する。いわゆる秘密の質問というやつだ。あらかじめ自分で選択した秘密の質問に対する答えを設定しておくことで忘れてしまったパスワードに触れることができるという制度だ。
「なんか設定する時に適当に答え入れちゃって……」
ガックリうなだれるのだけど、実はブスのこの行動、僕もよくやってしまうので責めるに責められない。以前にこの秘密の質問で「母親の旧姓は?」という質問があり、適当に答えを入力した僕は、パスワード忘れで答えにたどり着くことができず、別の方法でパスワードを手に入れて秘密の質問の設定を見てみると、「母親の旧姓は?」「ゴンザレス」になっていた。そりゃ答えられない。
他にも、秘密の質問を設定する時によし、いつもは適当に入力している秘密の質問の答えだけど、今回は真面目に正直に設定するぞ。マジで真面目に答える、さあこい、秘密の質問!と意気込んでいたら「最も親しい親友の名前は?」とか訊ねられて、本気で友達がいない僕は何も入力できずにポロポロと大粒の涙をキーボードの上に落とすことしかできなかった。
そんな事情があったのでこのアリゾナ州にちゃんと設定しておけよとか強く言うことはできず、嫌々ながら所定の申請書類に記入をし、大元の管理者に問い合せた。もちろん、メガネに、「呼吸の仕方は忘れないのにパスワードは忘れるんですね」みたいな、ちょっと良く分からない嫌味を、僕が忘れたわけでもないのに言われ、数十分待つことになった。
一応、この後の流れとしては、ブスが設定したパスワードが僕のところに送られてきて、僕が立会いながらブスのIDでログイン、で、パスワード再設定の画面まで操作してあげて、あとはブスにお任せみたいな形になっていた。
それ自体は別にいいのだけど、問題はブスだ。ログインできるまで仕事にならないから、当然ながらパスワードが届くまでの数十分間、何もできない。よほど暇なのか、アンニュイな顔をしながらカチカチと何度も何度もログイン画面を開いては適当にパスワードを入力する作業を繰り返し始めた。
「IDかパスワードが誤っています。もう一度確認してください」
無慈悲なるメッセージがジャン!という警告音と共に何度も何度も表示される。マジでうるさくて鬱陶しいのだけど、ブスはやめない。何度も何度も適当なパスワードを入力して警告音を出す。
「IDかパスワードが誤っています。もう一度確認してください」
そこに感情はない。ただ間違ってる、そう言われるだけだ。「おしい!」「全然違うよ!」そういった言葉も投げかけてくれない。ただ冷徹な対応がある。巨大な力を持ちながら感情の入る余地のないパスワード。その光景を見ていると、なんだか忘れかけていた大きなトラウマを呼び起こされるような気がしてきた。どうしてこんなにも、僕はこの力あるパスワードを見ていると不安になってくるのだろうか。
それは原初の記憶だったのかもしれない。何度も弾かれるパスワード、無慈悲に弾かれるパスワード、焦燥、孤独、破壊、感情無き言葉は悠然と僕の前に立ちはだかる。そんな記憶だ。
僕がまだ子供だった頃、近所に暴れん坊のガキ大将みたいな男の子が住んでいた。彼は周りの大人しそうな男の子だとか学年が下の子供などを従えてまるで王様のように振舞っていた。力ある者が正義であり、あらゆる暴虐が許される。子供の世界は建前や虚栄がないだけずっと単純で分かりやすい。
一大勢力を築きつつあった彼らは、多くの子供たちの遊びのオアシスである公園までの道、少し荒れたアスファルトで40mほど続く細い路地を封鎖した。路地の左右に積み上げられた木材の上に陣取り、公園へ行こうとする子供たちに片っ端から絡んでいったのだ。
当時はそのガキ大将たち一派の行動を、なんて無意味でなんてはた迷惑な行動なのだろうと訝しげに思っていたのだけど、今考えると彼らの行動は正しい。いや、正しいというよりは当たり前と言うべきか、今なら彼らの行動もなんとなく理解できる。
力を手に入れた者はその力を誇示しなければならない。力ある者はその力を隠してはいけない。力を誇示するということはそれに付随して責任が生じる。例えば、彼らは傍若無人に暴れる力を手に入れたのだから、その力を暗躍させるより何より、通りを封鎖して誇示しなければならないのだ。
それ以上の力を持つもの、例えばもっと大人の中学生だとかが傍若無人に振舞った場合、通りを封鎖するものとして迎え撃たなければならない。迎え撃たずに逃げたとしても、「普段威張ってるくせに中学生が来たら逃げたとんだチキン」と後ろ指さされなければならないのだ。手に入れた力は誇示する、それは責任という観点から多分正しい。
当時の僕はそんなことも分からなかったので、なんて迷惑な連中なのだろうかと少し距離を置き、その公園にも封鎖されている路地にも近づかないようにしていたのだけど、そんな心とは完全に別次元で悲しき事件が巻き起こったのだ。
あれはちょうど今ぐらいの季節だったように思う。日本海側の寒い田舎町でも日に日に温暖になり、日も長くなっていき春の到来を予感せずにはいられない季節。その夕暮れ時だった。公園には近づけないので墓地の横の駐車スペースで遊んでいる時に事件は起こった。
僕は友達四人と遊んでいたのだけど、その時やっていた遊びが、ヨーヨーをビュンビュンと親の仇みたいな勢いで振り回し「パパパパパ!」と叫びながら互いに近づいて行くという、ちょっと頭がどうかしているとしか思えない遊びに夢中になっていた。
子供たちがパパパパ!と叫びながらお互いにジリジリ近づいていく光景は異様であり、墓参りに来た婆さんが驚きのあまり小学校に通報したくらいだった。この遊びは振り回したヨーヨーが相手の頭部にヒットしたら勝ちという、これまた良くわからない価値観で行われていたのだけど、とにかく夢中で振り回し、相手の頭部を狙っていた。
ヨーヨーで頭打っちゃったりしたら脳にダメージがあって危ないんじゃないかって思うかもしれないけど、大丈夫、頭を打つ前からダメージがあるのは分かりきっている。
「パパパパパパパ!」
専門家が見たら何らかの病名を告げそうな勢いで一心不乱にヨーヨーを振り回していると、突如、切れ込むような痛みが僕の腹部を襲った。鋭利な刃物のように鋭い、しかしながら重厚な鈍器のように重く鈍い、そんな表現が適切な腹痛、そう、間違いなくウンコだった。
大変な事態だ。これではもうパパパパとか言ってられない。そんなキチガイじみた遊びに没頭している場合じゃない。僕はウンコをしなければならない。ウンコを出さねばならないのだ。ヨーヨーを投げ捨て走り出す。
この墓場にトイレはない。冷静に頭の中で状況分析が始まる。この腹痛のレベル的にはP4レベル、緊急を要する腹痛だ。家までの距離をおよそ1キロと見積もるとたぶん間に合わない。瞬時に周辺トイレを脳内で検索する。この付近でトイレができる場所、トイレができる場所、迫り来る腹痛の波と戦いながら何枚もの地図と風景が頭の中に去来する。
あった……!
僕の脳の主にウンコ的なものを司る部位は、遂にトイレの場所を探し当てた。現在置かれている状況で最良の選択、それは公園のトイレに駆け込むことだった。そこまで立派な公園ではないのでキチンとした建造物としての公衆トイレが設置されているわけではない。しかしながら、公園の片隅に工事現場に置かれているような簡易トイレが設置されていた。いつもは異臭を放つ汚らしい存在でしかない簡易トイレで、こんなもん誰が置いたんだよなどと思っていたものだが、今となっては救いの神にしか思えない。
あの公園に行くしかない。あのトイレは汚いし暗いし怖いしなんて言っていられない。距離的に間に合う場所はここしかない。僕は走った。公園をめがけて走った。体内のマグマの胎動を感じつつ、全神経を肛門に集中させて走った。
「合言葉を言え!」
公園へと続く路地に差し掛かった時、そんな言葉が聞こえた。野太く、まるで感情のこもっていない無機質な声だった。見ると、路地の脇に積み上げられた木材の上にガキ大将たちの一派が悠然と佇んでいた。その数はざっと10名以上。
「合言葉を言わない奴は通すわけにはいかねえなあ」
それと同時に2名の悪そうな上級生が僕の前方に立ちふさがる。僕は色々な映画で悪役ってヤツを見てきたけど、今だにこの通せんぼをした二人以上に悪い顔をした輩を見たことがない。
「緊急事態なんだから通してよ!」
人生には二つの緊急事態がある。その一つは親などの身内が死んだ時、そしてもう一つはウンコが漏れそうな時だ。そして今現在、まさに後者の緊急事態が到来している。
どんなに子供じみたことをしてもいい。そんなことをして何の得になるのか全然理解できないけど、力を誇示するために道路を封鎖したっていい。でもな、今はそういうこと言ってる場合じゃないんだ。わかるだろ、ウンコが漏れそうなんだよ。お前らだってウンコするだろ?漏れそうになったら困るだろ?
「いいから合言葉を言え」
「わ、わからないよ」
力任せに突破ということも考えたのだけど、相手は上級生も含む力強い集団。小学生横綱みたいなヤツまでいやがる始末。おまけにこちらは完全に手負いの虎、ちょっとした衝撃でドゥルンって感じで出てしまいそうな状況。とてもじゃないが肉弾戦で勝ち目はない。
「合言葉って何文字なの?」
どうやら彼らは仲間内で合言葉を決めていて、それに正解した者のみこの関所を通過できるようにしているらしい。そんな彼らが勝手に決めた合言葉など分かるはずもないのでヒントだけでも貰おうと懇願する。
「それは言えないなあ」
しかし、彼らは容赦なく無慈悲だった。困り果てる僕を見てニヤニヤと笑っている。
「結構長い合言葉だよね」
ガキ大将の腰巾着みたいなお供が笑いながら言う。ヒントは言えないと言ったくせに何故か予想外のところからヒントが出てきた。僕は即座に応えた。
「トイレットペーパー!」
長い合言葉と言われて即座にトイレットペーパーが出てくるあたり、どれだけ緊急を要する事態であったのか理解して欲しい。あと、完全に脳の機能の大半が肛門を絞るように締め上げることに割かれていることが分かる。
「ヨーグルト!」
「りんごジュース!」
「ホットケーキ!」
「烏龍茶!」
「チョコレート!」
その後も沢山思いつく単語を述べていくのだけど、彼らは頑として道を開かない。ニヤニヤと笑い悠然と僕の行く手に立ちはだかった。挙げる単語が徐々に茶色味を増していること自体に、この時の僕の置かれた切迫した状況が伺える。
「全然違うなあ!」
悪者はニヤニヤ笑いながら道を塞ぐ。いつの間にか材木の上にいた面々も下に降りてきて僕の行く手を阻んでいた。強固さが増してやがる。
「お願いだから通してよ!」
僕は脂汗を流しながら懇願した。しかし彼らは譲らない。合言葉を言えの一点張り。全く融通が効かない、聞く耳を持たない。それはまるで離婚する時のアメリカ人女性のようだ。
「う、う、う……うんこ!」
限界だった僕が最後のチャレンジと口にした単語。その単語が口から出ると同時に物語は終焉を迎えた。
1969年8月、アメリカのベセルという街で「ウッドストックフェスティバル」という今や伝説の野外ロックフェスティバルが開催された。主催者の予想を大きく上回る40万人という観衆の半数はチケットを持たない者だった。多くの観衆はフェンスを乗り越えなし崩し的に会場に雪崩込んだのだ。
多くは語らないが、イメージ的には、そんな押し寄せる観衆的な感じで出た。繰り出した。
するとどうだろう。あれほど強固だった番人どもが、まるでモーゼのようにスーっと開けるではないか。何をしても無慈悲に開かなかった強固なバリアがいとも簡単に開けた。これはチャンスとばかりに生まれたての小鹿みたいな感じでデリケートな感じになっている尻や太もものあたりをかばい、公園へと歩く。唖然とする彼らを尻目に、僕は道端に茶色い道しるべをつけながら必死で公園へと歩いた。そしてついにトイレへと到達した。そして気づいたのだ。もう漏らしてしまったあとにトイレに到達してもあまり意味がないことに。
なるほど、もう忘れていたけど、この時の悲しき記憶があるからこそ、僕はこんなにもパスワード入力画面に恐怖するのだ。「情熱若奥様しめ縄ファック!」っていうちょっと良く分からないジャンルのエロDVDをネット通販しようとして、以前登録したIDでログインしようとした時、パスワード違いで弾かれたあの時の得体の知れぬ恐怖、その理由がこれだったのだ。
しめ縄ファックが買いたくて何度も何度もパスワードを入力しては無慈悲に弾かれる。合言葉が言えなくて通してもらなくてウッドストックフェスティバルしてしまったあの時、そして何度も何度もログインしようとしてジャン!って音を出している職場のブス、それらがオーバーラップしていた。原因はあの日の合言葉だったのだ。
ブスはやっとこさログイン祭りに飽きたのか、髪の毛先を弄りながら隣のブスと会話し始めた。
「マジでー、パスワードとかおぼえられなくなーい?」
「覚えやすいのにしたつもりなんだけどなー」
「はやくユウ君の遊びたいよー」
「この間、ユウ君とカラオケ行ったんだけど」
どうやらユウ君はブスの彼氏っぽいんですけど、パスワードの話がいつの間にかユウ君とのノロケ話に。これには隣のブスも苦笑い。というか、仕事の邪魔なんで速くパスワードを入手してコイツなんとかしろ、とアイコンタクトで僕に訴えかけてくる。そんなこと僕に言われましてもと思いながらマゴマゴしていると、あの嫌味なメガネの人からメールにてブスのパスワードが届いた。あとはこれでログインしてあげてパスワード変更の画面までブスを案内すれば僕の仕事も終わりだ。
ネットが普及し、あらゆる面できめ細やかなサービスが可能となった。それは同時にネット上で個人を識別する必要が生じ、ログインをする必要性、パスワードの重要性が増した。今や、何かにログインしない日はないと言ってもいい。それはパスワードを使わない日はないということだ。
言葉とは力を持っているものである。それは単なる情報の伝達だけでなく感情を伝えるものだからだ。しかしながらパスワードは感情のない無慈悲な存在ながら力を有している。そのアンバランスさがなんとも不気味で恐ろしいのだ。感情のないパスワードが怖い。
そんなことを考えながら、送られてきたブスのパスワードを見てみると、なんかローマ字でこんなことが書かれていた。
「ゆうくんのあそこ大きくて大好き」
感情こもりすぎだろ。
確かに長いパスワードだけど、こんなの設定するなんて頭おかしいんじゃねえかあのアマ。狂ってんのか。三千歩くらい譲って設定するのはいいとしても、こんなパンチの効いたパスワード忘れるなよ。
パスワードとは、力がありながら感情がこもっていないから怖いと僕は言った。しかしながら、感情というか、ちょっとよくわからない気持ちを込めたパスワードは時にとてつもない力を発揮するのだと痛感した。
プルプルと震えながらブスのパソコンでログインしてあげると、ブスも猥褻な単語をパスワードにしたのを思い出したのか赤面、それで済んでくれたら良かったのですが、どうやらブス先手を取って、恥ずかしいパスワードを僕に責任転嫁、いつのまにか職場のレディーたちの間では
「女子に猥褻なパスワードを設定したセクハラ野郎」
「ゆう君に嫉妬するあまり猥褻なパスワードを設定した野郎」
「よく社会の窓が開いている猥褻野郎」
と根も葉もない、まあ、最後のは根も葉も幹も全部ありますけど、とにかくとんでもない噂を立てられたのでした。でまあ、レディーたちの「死ねセクハラ野郎」みたいにヒソヒソ会話している声が聞こえるんですけど、すごいよな言葉の力って、こんだけ言われるとちょっと死のうかなみたいな感じになるもの。
なんにせよ、この状況はまずいので、質問をしたらみんなが答えてくれるサイトで相談してみようとアクセスするとログインしてくださいと言われ、随分前にチンコが腫れたんですけどどうしたらいいですか?って質問するためにとったIDで質問してやろうとすると、
「パスワードが違います」
無慈悲なる言葉。やはりパスワードは怖い。とにかく怖いのだ。
1/9 また君に番号を聞けなかった
「この食い逃げ野郎!」
皆さんは全くの他人にこんな言葉を投げつけられたことがあるだろうか。これでもかというくらいにこんもりと感情を込め、剛速球のように投げつけられる、そんな経験があるだろうか。分かりやすく言うとニュアンスとしてはジョンテンタ戦で北尾が放った八百長野郎発言にかなり近い。とにかく、かなり衝撃的な言葉だ。
長い不景気とは言え日本という国はまだまだ豊かで、飽食、そこまで食うに困ることはない世界だといっても過言ではない。昔はもっとみんな食うに困っていて、「食い逃げ」って言葉自体をよく聞いていたように思うけど、最近ではあまり聞かなくなった気がする。みんな「食い逃げ」するほど追い詰められてはいない。
では、そのあまり聞かれなくなった「食い逃げ」、そんな言葉を乱暴に投げつけられたらどうだろうか。おそらく、多くの人が「今時食い逃げって」などと一笑に付すと思うが、その次の瞬間、「そんな食い逃げみたいな真似したっけ?」と過去の自分を思い返してみるはずだ。この一瞬の思い返し、言い換えれば不安とも言える些末な種、実はこれが最も厄介なモンスターなのだ。
この現代日本に生きていて、何も心配事や不安事を抱えていない人なんていない。みんな何かしら心配だし、何かしら不安で、大なり小なり悩みを抱えて生きている。誰だって自分の行動が全て正しいとは思っていなくて、何かしら後ろめたい気持ちを抱えて生きているし、人に誇れることばかりで構成されている人間なんていやしない。誰だって何か心配だし、何か後ろめたい。
そういった漠然とした後ろ向きな何か、この気持ちが大きくなりすぎてしまうと、自分の中に生まれたとんでもないモンスターにあっという間に食い尽くされてしまうのだけど、実は、食い尽くすのは自分のモンスターだけではない。こういった人間の心の弱い部分に付け込む正真正銘のモンスターが大喜びでやってくるのだ。
その最たるものが架空請求詐欺やオレオレ詐欺(振り込め詐欺)などだ。世の中には数多くの詐欺が存在する。これらは実は大きく二つに分けることができる。人の欲望に付け込むタイプの詐欺と、人の不安に付け込むタイプの詐欺だ。
決して前者がマシだとか言うつもりはなく、どちらも詐欺であって卑劣極まりないのだけど、特に後者の詐欺は人が抱える不安の種をつくやり口で、途方もなく卑劣で卑怯極まりない、と言わざるを得ない。決して許してはいけないのだ。
その日も、その詐欺の電話は突如としてやってきた。僕の携帯電話に見慣れない番号から電話。なんじゃらほいとか思いつつ電話に出るといきなり怒号というか罵声というか、とにかく乱暴な言葉を投げつけられた。
「この食い逃げ野郎!」
言葉のアクセント的に関西系の中年男性、もちろん全く身に覚えはない見知らぬ人間だ。世界にはいろいろな電話の挨拶があって、日本では「もしもし」英語圏では「Hello」フランスなどでは「Allo」と言ったりする。けれども、どんなに世界が広くとも、いきなり電話で「食い逃げ野郎!」と罵ったりする国はない。
なんて非常識な人間だろうと思いつつも、その剣幕というか勢いというか、あまりの自信満々っぷりというか豪快さに、こちらも自信がなくなってしまう。なんだか完全に向こうの言い分が正しいといいう錯覚に陥ってしまう。もしかしたら僕は食い逃げをしてしまったのかもしれない。
「く、食い逃げですか?」
そうなると返答もしどろもどろになるもので、例えば最初からこの瞬間に食い逃げと罵倒される電話が来るぞって分かってて準備できてたら違った対応ができたのでしょうけど、なにせ僕、パソコンを「.jpg」で検索して、自分でも忘れているおっぱい画像とかないかなーって悶々としていたくらいですからね。全く心の準備ができていない。
「そう、食い逃げ。あんまり食い逃げみたいな真似しなさんな!」
もう完全に食い逃げしたと決めつけられてしまってるんですけど、さっぱり話が見えません。もう僕もどうしていいのか分からない状態になっちゃいましてね。
「この間のソバ屋でお金が足りなかった件は、あとでちゃんと払いにいきました!」
見知らぬオッサンにソバ屋でお会計の時に財布を開いたら48円しか入っていなかった事件の顛末を赤裸々にカミングアウトする始末。あの時の清楚そうなソバ屋店員の女の子の表情が忘れられない。とにかく、なんで電話口で「食い逃げ!」とか罵倒されているのか全く分からないのですけど、その理由が次に判明します。
「あのね、もう記録もデーターも録音も全部収集済みだから。職場やおウチに送りますよ!」
「それじゃあね!食い逃げ野郎!言っとくけど食い逃げって犯罪だから!」ガチャ!
電話口の男は勝ち誇ったようにそう言い、拍子抜けするほどアッサリと電話を叩き切ったのでした。なるほど、これで全てが理解できた。つまりのところ、これは形を変えた詐欺なのだと。怪しげなエロサイトとかそういった類なものを利用したくせに料金を払ってないんだろう、それを遠まわしに表現したものが「食い逃げ」だったのです。
こういったエロサイトを巡る架空請求や詐欺的請求は、時流に合わせて刻々と姿を変えてきました。もともと詐欺というのは、その手法が広く知れ渡ってしまうと全く効果がなくなってしまうものですから、その時代に合わせて姿形を変えていくものです。ある意味、詐欺とは生物の進化に近い。いやむしろ薬剤と病原菌の関係に近いのかもしれない。永遠のいたちごっこなのだ。
この電話の新しいところは、「食い逃げ」という遠まわしな表現を使っていることろだと思いがちだが、実はそうではない。確かに今までだったら「アナルスパークってエロサイト使っただろうよー」とかドスがピリリと効いた声で言ってきて、決して「食い逃げ」などと遠まわしな表現はしない。けれども別にその辺はどうでもいい。どうせ業者が浅はかな考えで思いついた詐欺にならない文言とかそんなとこだろう。問題はもっと別のところにある。
それが、「請求されていない」という部分だ。これまでだったら、二十万円払えだの、今日中に払わないともっと高額になるだのなんだのと、とにかく金を要求する電話がほとんどだ。けれども、この電話はそのような請求はない。ただ「食い逃げ野郎」という罵倒と、データを職場に送るという良く分からない脅しだけだ。
実はこれが非常に厄介で、明らかにこういった詐欺は、今までのような直接的な脅しから間接的な脅しへと移行してきた。早い話が、金の請求をされないほうが恐ろしいし不安である。そうやって人の心の中に巣食う不安という小さな種にダイレクトアタックを働きかけてくるのだ。
昨今では、架空請求などの話が一般化され始め、多くの人がこういった詐欺的請求が蔓延しているということを知っていれば、正直に払う必要がないと知っている。つまり、「二十万円払えや」と請求された方が、ああ、これは架空請求なんだ、ほっときゃいいや、と納得でき、安心するのだ。
しかしながら、人間は得体の知れないものを恐る習性がある。いきなり食い逃げと罵倒され、データーを職場に渡すと言われ、金を請求されるでもなく電話が切られてしまう。これはもう言い知れぬ不気味さがある。落ち着いて考えれば、これもそういった詐欺と全く変わらないのだけど、突然の電話にとっさに対応できる人はそうそういない。
おそらく、この後の展開としては、不安の種が成長し芽が出た人が発信元の番号に電話するだろう。そこでデーターを消して欲しければいくら払え、などと金の請求が行われるはずだ。電話をしてきた人はなにかやましいことを心に抱えている人ということなのだから、かなり効率よく金を毟り取ることができる。
食い逃げ野郎!と爆撃のように数多くの人間に電話して、電話を切る。不安に思った人だけがかけ直してきて、じっくりと金の請求ができる
。かなり効率的。なんとも色々と考えるものだ。
こういった電話がかかってきた場合、皆さんも冷静に対処していただきたい。例えば訳の分からない番号からの着信だった場合、電話番号検索
http://www.jpnumber.com/こういったサイトで番号を検索してみるといい。ここでは皆が電話番号に対してクチコミを登録しているので、詐欺的電話なら一発で分かるようになっている。くれぐれも冷静な対応を。
とにかく、件の食い逃げ野郎電話も検索してみたら思いっきり架空請求業者として登録されていり、それもかなりの猛威を奮っているみたいで相当数の登録があった。「いきなり罵られました」とか数多く登録されていた。
とにかく、なんだか面白そうなので電話してみることに。いきなり食い逃げ野郎と言われてすごく心配になっている感じで電話してみた。
「あの、もしもし」
「はいはい、どうしましたー」
先ほどとは明らかに声が違う男が電話に出る。なんだか余裕綽々といった感じの態度で、ものすごくイライラする。複数人の人間が電話対応にあたっているということは、なかなか大きな組織のようだ。個人がイタズラでやっているレベルじゃない。
「さっき、食い逃げ野郎とか電話が来たんですけど」
「あー」
何が「あー」なのか全然分からない。相手の背後には何やらザワザワとした喧騒のような音声が聞こえていて、かなり大掛かりなオフィスでやっていることが伺える。電話口の男は余裕といった口ぶりで続けた。
「あのね、食い逃げって犯罪なの、わかってる?」
すごい自信満々に言ってくれちゃってるんですけど、正確には食い逃げは犯罪ではない。「食い逃げ」という罪はないのだ。あくまでもお金を払う気もないのに料理を注文したという詐欺罪でしかない。つまり、注文時はお金を払う気があったのに、会計の時になって何らかの理由で払わないと心に決めた場合、厳密には詐欺罪は適用できない。騙す気があったかどうかというのが焦点になるので、食い逃げ=犯罪とするのはいささか乱暴なのだ。とまあ、そんなこといっても始まらないので、適当に対応を始める。
「僕としてはソバ屋でお金が足りなかったことはありましたけど、すぐにお金下ろして払いに行きましたし、食い逃げとかでは絶対ないです」
必死に弁明すると、電話の男はフッと笑った後に言葉を続けた。
「あのですね、そういうことじゃないの。食い逃げってのは例えなの。わかってる?」
「例えですか?」
「そう、例え。アナタ、アダルトサイトを利用したでしょ?利用したのに料金を支払わない、それって食い逃げと同じでなの」
「はあ」
呑気な反応とは裏腹に、心の中ではキタキタキターって感じでした。そして遂に電話の男はあの言葉を口にします。
「延滞料もついてますんで、8万円を本日中にお振込ください」
まさかこんな理不尽な請求をされて安堵を得る日が来ようとは思わなかったけど、やっとこさステレオタイプな請求をされて、完全にこれが詐欺だと分かって安心。ソバ屋が怒り狂って僕の電話番号を探し当てて電話してきたんじゃないと判明して安堵したのです。
「わかりました。じゃあ本日中に振込みますね。ご迷惑かけて申し訳ありません。もし、御社が嫌でなければ、今後も御社のアダルトサイトを利用させてください」
と丁寧に伝えて電話を切ります。まあ、払う気持ちは一ミリもないんですけど、こう言ってたほうが後々面倒がなくていい。いや、この時は確かに払う気持ちはあってこう言ったんですけど、そのあと急に面倒になって払う気持ちがなくなった、ということにしておきます。
さて、食い逃げ電話がトラディショナルな詐欺であるということが分かって非常に安心したのですが、やはりというかなんというか、あまり良い気持ちがするものではありません。それは多くの方が同じだと思いますが、いきなり電話で罵倒されるなんて気分がいいものではありませんし、しかもそのやり口が、誰もが心の中に抱えている不安の種や、後ろめたい気持ちなどに訴えかけてくるものですから、モヤモヤとした嫌な気持ちが心の中に残るものです。
例えこれが完全な詐欺と分かっていて、無視していればいいなんて分かっていても、何やらスッキリしないものが心の中に残ります。そして、やり場のないイライラや怒りへと姿を変えるでしょう。人の心の不安に訴え掛ける詐欺手法、本当に卑劣だと思います。
やはり僕も、その時は本当にイライラして、詐欺業者に電話をかけまくって「脳ミソ煮るぞ!」とか罵声を浴びせかけたい気持ちに駆られたのですが、別にそれって何も解決しないんですよね。けれども、こうしている間にも悪徳業者が多くの人の不安に付け込んで悪事を働いていると思うと、気が気じゃなかったのです。
どうしたものか。一体どうしたものか。このモヤモヤをどこにぶつけたら良いのだろうか。そんなことを悶々と考えながら「.jpg」ではおっぱい画像が発掘されなかったので「.jpeg」に変えて検索をしていると一つの衝撃的な事実に辿り着いたのです。
「詐欺業者には不安はないのか?」
こういった詐欺電話などを受けると、相手はものすごい列強で、完全無欠で冷酷な人間を相手にしていると思いがちで、不安だとか心配だとかそんな感情とは無縁な人と錯覚しがちですが、実際にはそうではありません。相手だって同じ人間なのです。生身の人間なのです。僕らと同じように心配事も後ろめたい気持ちも存在するはずなんです。
まあ、彼らは完全無欠の詐欺という犯罪行為を行っている自覚はあり、それでも堂々とやっているくらいですから後ろめたい気持ちなんてのは微塵も存在しないでしょうが、やはり不安の種くらいは確実に存在しるはずです。じゃあ、その不安の種を付いてみたらどうなるだろうか。向こうがこちら側にやってくるようにこちらから業者側の不安の種を責め立ててやったらどうなるか。最初はそんな軽い気持ちからでした。
じゃあ、業者側が不安に思う事ってなんだろうって考えると、やっぱり「警察に逮捕される」という部分に行き着くんですね。どんなに業者がアウトローの集団であろうと、警察に逮捕されたら嫌だなって気持ちが少なからずあるはずです。ならばこちらはそこを突いてあげましょう。
かといって、僕がいきなり電話をして「警察だ」などと名乗るなんてのは論外で、いろいろと問題を含む可能性が多分にあります。そういった虚言を用いる方法ではなく、あくまで捜査が迫っている感じを匂わせるイメージで業者の不安を突っついてみようと思います。
まず、問題なのは電話番号です。普通に携帯電話からかけても良いのですが、もう僕の番号は割れてしまっているので今回の作戦には使用できません。試しに番号非通知でかけたらしっかりと着信拒否されてました。なんてチキンな。どうしたものかと悩んだのですがふと思い立って公衆電話から電話してみたら拒否されていないみたいで繋がったので、これを利用しようと決断、大量の十円玉を用意します。
事前のリサーチで、この詐欺業者は様々な名前を駆使して詐欺電話をかけまくっていることは分かっています。「高田、大槻、水田、山本」これらの名前を担当者として駆使してやりまくってますので、まずはこれを使ってみましょう。電話をかけます。
「もしもし」
「あー、そちら、高田さん、大槻さん、水田さん、山本さんっておられますかいな?」
イメージとしては、強面だけど人情に厚い地方都市の刑事みたいな感じで切り出してみました。お前らが使っている担当者名はこちらで掴んでいるぞ、確認の電話をしたぞって感じでやってみました。
「……はい、どちらさまですか?どういったご用件ですか?」
一瞬だけ躊躇いを見せる電話口の男。効いてる効いてる。
「要件もなにもないですがな!本官、おっと間違えた、私も好きで電話しているわけではないですわ!」
そんな感じで話していると、慌てた感じでガチャリと電話を切られてしまいました。効いてる効いてる。
これは予想以上に面白くてすぐにでも第二弾第三弾といきたいのですが、あまり間隔を置かずにやっても真実味が薄れてしまいますので、ここはグっと我慢。数日開けて第二弾の電話をしました。
今度はより真実味を持たせるためにあらかじめ録音しておいた市役所窓口での喧騒をipodに入れておき、電話ボックス内で大容量で再生しました。イメージ的には警察署内の騒がしい刑事二課から電話をかけているイメージです。
「もしもし、高田さんはおりますかいな?」
別に何の恨みもありませんが、担当高田さんにターゲットを絞ります。もちろんバックには署内っぽい喧騒が。
「高田に何の要件でしょうか?」
電話口の男は余裕といった感じで受け答え。まだ分かってないみたいなので捜査の手が迫っている感じを醸し出してみます。
「いやね、ちょっとお話を聞きたいことがありましてな。(おい、例の事件、ちゃんと裏をとったんか!)」
タイミング良く録音していた音声が流れてくれたので、臨場感バツグン、かなり不安の種に訴えかけることができたと思います。けれども、ここまで僕が熱演しているのに、全然伝わってないみたいで、
「いまちょっと高田は席を外しております」
とキッパリ。仕方がないのでもっと臨場感を出すために、電話中なのに我慢できずに別の刑事に指示を出す感じで少し受話器を押さえて熱演を始めました。
「おい、ヤマさん、あのペニーオークションを紹介した芸能人ブログの件、どうなった?」
これでそういった詐欺的事件を扱っている場所と印象づけられたみたいです。それでハッとしたのか、ペニーオークションにビビったのか、相手も焦って電話を切ります。効いてる効いてる。
その数日後には、今まさに警官隊が詐欺事務所に突入するかの如き臨場感で電話をかけ、電話に出た瞬間から
「配置につきました。時刻ハチマルマル、いつでも突入できます。やべ、間違えてターゲットに電話しちゃった」
とか訳の分からんことになってました。効いてる効いてる。
これで詐欺業者にも「実際に警察が動いていて逮捕されるかもしれない」という不安を植え付けることができました。自分たちがやっている不安につけこんだ脅し的詐欺がどれだけ悪質な行為なのか身を持って分かってもらえたと思います。
最後の仕上げとばかりにもっと大規模な組織が動いていると印象づけてやろうと思って
「日本に入ってきたFBI捜査官は何人ですか、レイベンハー」
みたいな感じで設定も背景も全然意味が分からない、誰も得しない電話をしたら、すごい相手の業者の方が激怒されましてね、ものすごい剣幕で怒られちゃったんです。
「てめー、いい加減にしろよ。毎回毎回公衆電話から変な芝居がかった電話かけてきやがって!殺すぞ!」
全部バレてました。効いてない効いてない。
仕方ないので、人の不安に付け込むような詐欺は非常に悪質である、不愉快なのでやめて欲しい旨を伝えると、
「お前、公衆電話からかけてきてやがるけど、ウチの詐欺にひっかかったやつだな?だから腹いせにこんなことしてるんだろ?絶対見つけ出して殺すからな!」
相手も興奮しすぎて自分で自分のこと「詐欺」って言っちゃってるんですけど、すごい剣幕で怒ってるんですよ。もしかしたら、本当に捜査の手が忍び寄ってるかもって不安に感じたのかもしれません。だからこんなに怒ってるのかも。
「とにかく、こんなことしていたらいつか逮捕されますよ!」
みたいなことを老婆心ながら忠告すると、相手は捜査の手ではなかったという安心感でスパークしてしまったのかものすごいテンションで
「ばーか!こんなので逮捕されるわけねーだろ、おまえ絶対見つけ出して殺すからな!」
みたいなこと言われました。それからも一日おきくらいに、色々な設定で電話をかけ続け、もう面倒なので個人的に携帯番号を聞き出してプライベートな感じで会話したいなって思っていたんですけど、肝心の設定の方が、もう操作の手とか演出する必要がなくなっちゃったので訳分からんことになっちゃって
「お友達から教えてもらったペニーオークション、なんと高級加湿器を238円で落札できちゃったの!すごいよー!よかったら高田もやってみてね!」
とか訳のわからん設定で電話しまくっていたら、すぐに電話を切られちゃって、なかなか電話番号を聞くに至らず、二週間後くらいには、その業者に電話がつながらなくなってました。
それからしばらくしてでした、寂しい思いを抱えつつ、あの業者の彼の「ばーか!こんなので逮捕されるわけねーだろ」という言葉がリフレインしていたのですが、ネットニュースを見ると、その詐欺業者がキッチリと逮捕されていました。こんなので逮捕されてた。
誰しもが少なからず心の中に抱えている不安、その感情に付け込む詐欺は最も卑劣な行為です。皆さんは不安に思うことを恥じてはいけない。人間は不安な気持ちを抱えていて当たり前なのだから。恥じて隠そうとするから付け込まれるのだ。
僕のことを見つけ出して殺すとまで言ってくれた業者の人、そう言ったにも関わらず多分逮捕されてしまった業者の人。宣言したのに実行しないなんて食い逃げみたいなもんじゃないか。僕の方こそ彼に「食い逃げ野郎」と言ってあげたい。
11/23 ヌメリナイト5-いつかのヌメリークリスマス-
この間、職場のブスが右に左に無尽蔵の働きを見せておりまして、騒々しいブスだって思いつつその様子を眺めていたら、どうやら職場の皆に何かを訊ねて回ってるみたいなんですね。老若男女の区別なく、まんべんなく全ての人に質問して回ってました。
トリッキーなブス、トリックスターなブス、ファンタジスタなブス、どういった言葉で彼女を表現するか熟考していたのですが、やっぱり何を質問して回っているのか気になるじゃないですか。職場の人間全員に質問して回ってますからそのうち僕の所にも来るとは思うんですけど、それでも気になるじゃないですか。そこで、隣の同僚に質問してたところを盗み聞きしてみたんです。
なんか親でも死にそうなくらい切羽詰った感じで同僚に詰め寄り、もう、ブスのアップって凄まじいものがあってブスのアップ、略してブップと呼ぶようにして広く注意喚起していきたいくらい。そんなブップで迫ってきて何を質問しているかというと
「ねえねえ、クリスマスイブって何してる?」
これですよ、これ。これって普通に考えるとブスがブップで同僚に迫り、クリスマスイブのデートの約束でも取り付けておセックスにこぎつけ、ブスの遺伝子を色濃く受け継いだ子供でもできてしまう、そういった物語のプレリュードと思われがちで、現に同僚もむちゃくちゃ警戒して青い顔になってるんですけど、実はそうではありません。
クリスマスイブが迫ってきて、誰かと過ごしたい、クリスマスは何かをしなければならないという強迫観念に駆られ、狂ったように爆撃を繰り返すブスは並みのブスです。全てを超越したブスは悟りを開いていてそんな行動には出ない。誘ったところでどうにもならない、そう悟ってるから焦りもしない。ドーンと構えた威厳のあるブスになるのです。
では、そうやって誘うわけでもないのにこのブスは何でみんなに質問して回っているかといいますとね、悟りを開いて次のステージに行くと今度は「周りのみんながどんなクリスマスを過ごすのか」だけが気になって気になって仕方がない感じになるのです。なるべくまんべんなく、関係ある周りの人間全てのクリスマスの予定を知りたがるのです。
これは僕にもどういった心理が働くのか分からず、予想の域を出ないのですが、おそらく周りの人間全ての予定を知ってクリスマスイブを掌握した気持ちになりたいのか、全てを支配した錯覚に陥りたいのか、とにかく一つ上のステージから俯瞰でクリスマスを見下ろし、勝利した気持ちに浸りたい気持ちが働くのだと思います。なんだか悲しいですね。
人は誰しも傷つくことが怖いはずです。できることなら傷つかずに生きていきたい。けれども、周りの人間全てに愛され、傷つかずに生きていくことなんてできやしないのです。結果、人は程度こそ違えど、あらかじめ傷つかないように防御壁を築き上げて生きていくのです。その防御壁は普段は垣間見えないものなのですけど、クリスマスイブという行事がその壁を露出させ、なんとも悲しい気分になるのです。僕はこれをクリスマスイブならぬクリスマスブスと呼ぶようにしたい。
「いや、特に予定ないけど。いや、両親と食事するかな」
焦って言い直す同僚。それをメモするブス。おいおい、メモまでするのかよ。と焦りつつ、僕のところに質問に来たらどうしよう。正直に答えたほうがいいのか。いやいや、無難に両親と食事とか嘘をつこうか。逆にフェラチオしてくれやとか言ったらブス、どんな顔するかな、とか悶々と考えていたら、僕にだけ質問に来てくれませんでした。
メモを盗み見ると結構偉い人とか、遠くの部署の人とかにも質問していたみたいなのに、なんで僕だけ質問されないのか衝撃を受けつつ、今年もブスが活発に動くクリスマスブスが近づいてきた、ということで、ブスに答えたかった僕の本当のクリスマスイブの予定。
ヌメリナイト5-いつかのヌメリークリスマス
2012年12月24日(祝)
17:00OPEN 18:00START
東京お台場 Tokyo Culture Culture
イベントサイト
前売チャージ券2,500円・当日チャージ3,000円(飲食代別途必要・ビール600円~ソフトドリンク390円~など)
昨年もクリスマスイブに開催され、超満員の観衆が太ったオッサンが話す訳の分からない話を聞くという訳の分からないイベント。イブの夜の定番になりつつあるイベントです。
恋人が溢れ、全てがクリスマスカラーに彩られるお台場において、ヌメリナイト会場だけ異空間、戦国に自衛隊がタイムスリップしてきたみたいな状態になります。会場のTokyo Culture Cultureはイブの夜に観覧車に乗って愛を語ろうとする3時間待ちのカップル行列から丸見えの位置です。カップル丸見え。その状態でおっぱいの話とかする。
今年は、ぬめり本の第一弾「ぬめり-思い出編-」を新たに書き直したリメイク版「ぬめり-思い出の宝石たち-」が超少部数限定発売されます。こちらは無くなり次第終了となります。
チケット発売はイープラスにて11月24日朝10時より!
ということでクリスマスイブの夜はお台場でデブpatoとヌメリークリスマス!
10/31 未来予想図Ⅱ
僕たちが子供の頃、どんな未来を思い描いていただろうか。
誰しもが心のどこかにまだ見ぬ未来への希望を抱いたことだろう。それは幼く少年少女であるほど顕著であるはずだ。彼らには未来があるのだから。未来への可能性は無限大の分岐であるはずで、人それぞれの未来予想図があっても良いはずだが、幼い頃の僕たちはみんな画一的な未来を思い描いていた。
ちょっと宙に浮いた流線型の車が透明のチューブ内を走り、人々はテロテロの宇宙っぽい服を着ていて、テレビなんかは立体ホログラムみたいになっている。どっからどうみても人間にしか見えないアンドロイドのメイドがいて身の回りの世話をしてくれる。人によって微細な違いはあれど、当時の子供たちはみんな似たような未来を想像していた。
これは情報のインプットに起因する部分が大きく、今のようになんでもインターネットで情報入手、なんて状況ではなかったし、テレビなんかもチャンネル争奪戦という覇権争いの勝者になる必要があり、自由に見られるような状況ではなかった。結局、学研の科学とかそういった情報源に偏りがちで、そこで特集とかされることによって自然と同じような思想に至ることになる。理由はどうあれ、多くの子供たちが同じ未来を抱いて成長していく、というのはなんとも胸が熱くなる。
さて、その未来予想図だが、少年から大人になり、もう中年で、そろそろちょっと小さい字とか見るのが困難になってきて自分でも気がつくレベルで加齢臭気味、完全無欠のオッサンへと変貌を遂げた僕が存在する現代において、ふと立ち止まって思い返してみるとあの未来が全然達成されていないことに気がつく。
車は宙にに浮かないし、透明のチューブの中を走らない。3Dテレビはちょっと奥行きがあるくらいのものだし全然売れてないし、アンドロイドは携帯のOSくらいだ。確かに技術は進歩していて便利な世の中ではあるのだけど、今いる未来は、あの頃、多くの子供たちが思い描いた未来ではない。
その事実を大変残念に思う反面、実はこれは至極当たり前のことであると気がつく。僕らが思い描いた未来は学研の科学だったりドラえもんだったり、そういったもので見せられた誰かの未来予想図で、結局は与えられたものなのだ。ただ見せられた絵画とそんなに変わらない。そこに思想や希望はない。
未来とは決して誰かに与えられるものではなく、自分たちで思い描き、切り開いていく、そんなものであるはずなのだ。人それぞれに思い描く未来があり、人それぞれが達成していった結果、中には大きな技術革新もあるだろう、それらが適切に干渉し合って未来の世界を築いていくはずなのだ。
そう考えると、今あるこの時代は決してあの頃思い描いた未来ではないけど、それぞれが思い描いた未来を少しづつ達成していった結果であることがわかる。僕らはきちんと、とんでもない便利な未来の世界に到達していたのだ。
その便利さは、あまりにも便利であるために普及して日常に溶け込めば溶け込むほど当たり前になり、その恩恵には気がつかない。けれども冷静に考えてみると途方もない技術の結集が行われており、途方もない未来にいることを実感させてくれるのだ。
例えばスマートホンやタブレット端末にしてもそうだ。あんな手のひらサイズの端末に途方もない処理能力が備わっている。例えばインターネットにしてもそうだ。幼き頃、インターネットで人とつながり、様々な情報を入手できる未来が来るとは思っていなかった。きっとこれも誰かが思い描いた未来なのだ。
「技術革新は本当に我々人類にとって幸せなのだろうか?」
こんな言葉が口癖の男がいる。彼は少年たちの未来予想図とは異なりつつも便利な技術が数々生まれているこの現代において、その技術革新が招いたこの未来世界が本当に幸せなのかと常に問いかけているのだ。
彼は、職場の同僚で、同居する自分の姉(40代)の下着に無限の宇宙を見出してしまい、なんとしても手に入れたいと欲するあまり、ついに実家のベランダに干してある姉(40代)の下着に手をかけてしまい、あまりの興奮と達成感に週2くらいのペースで盗んでいたらついにバレてしまい、実家を勘当されて今は実家の隣のレオパレスで一人暮らししているという剛の者で、さすがに姉(40代)の下着泥棒なんて色々な意味で一歩手前どころか2万歩くらい踏み込んでしまっているので配慮して名前を伏字にすると、○岡さんとしよう。
この○岡さん、姉(40代)の下着を盗んで実家を勘当されたくせに結構偉そうに講釈をたれる人で、ことあるごとに我々に問いかけを行ってくる。
「技術革新は本当に我々人類にとって幸せなのだろうか?」
職場のゲスな面々が主に「冬でもホットパンツの女はヤレる」みたいなホットドックプレスみたいな何の生産性もない話題で盛り上がっていると、突如として○岡さんは問いかけてくる。その場の空気が完全に凍りつく。いや、いまホットパンツの話ししてるから技術革新とか人類の未来とかそんな話ししてないからとかその場にいた誰もが思うのだけど○岡さんは止まらない。
「例えばこの携帯電話、本当にこれは人を幸せにしたのだろうか。これは我々を繋ぐ強固な鎖なのかもしれない。首輪なのかもしれない。それと同時に人との繋がりを希薄にしてしまった」
○岡さんの主張は続く。確かに携帯電話がなかった時代は、家や職場の自分のデスクにいなければ固定電話がなく、電話のよって誰かに捕まることはなかった。それは不便であるのと同時に自由であった。嫌なことがあれば固定電話から逃げればよかったのだから。
けれども、今やどこにいようと携帯電話で捕まってしまい、面倒な用事や仕事を押し付けられてしまう。電話を無視してても一方的にメールで送りつけられてしまう始末。携帯電話を持ってない方が悪いくらいの勢い、それが現代だ。
強固な鎖、首輪という主張はわかる。けれども人との繋がりが希薄になってしまうというのはどういうことなのだろうか。むしろいつでも気軽に連絡を取れるだけ繋がりは強固になるんじゃないだろうか。
「繋がりが希薄になるってどういうことっすか?」
○岡さんに問いかける。僕らはいつも唐突な○岡さんの問いかけに呆然としつつ、いつの間にか引き込まれてしまっている。彼の言葉にはそれだけの魅力がある。
「これさ」
そういって○岡さんは携帯電話の電話帳を見せた。
「アケミちゃん 090-XXXX-XXXX」
画面にはそう書かれていた。これが何を意味するのかは全く分からない。アケミちゃんという名前と電話番号、それだけだ。○岡さんはいつも僕たちに謎を投げかけてくる。
「これは俺がご執心なキャバクラのアケミちゃんのデーターだ。バッグをプレゼントしたり同伴出勤したり高級イタリアンに連れていったり、病気のお母さんの入院費のために30万円貸したりお熱なわけよ。俺がこの電話番号とアドレスを手に入れるのにどれだけ苦労したか分かるか」
喋ってる内容は結構クズなんだけど、堂々とそう言い張る○岡さんは威厳に満ち溢れていた。姉(40代)の下着を盗んで家を追い出されたクズだけど、なんかかっこよかった。
「でもな、こんなに苦労して手にれた電話番号なのに、しかも完全に本気で狙ってるアケミの番号なのに、俺はこの番号を覚えていない。全く覚えていないんだよ。もし何らかの理由でこのデーターが失われたとしたら、俺はもうアケミに連絡を取れない。それが人間関係が希薄という意味だ」
なるほど、僕は完全に丸岡さんが言いたい意味が理解できた。他のゆとり世代の若造どもは「はあ?」と言いたげなキョトン顔だったけど、僕には完全に理解できた。彼はこう言いたいのだ。
携帯電話が普及する以前、僕らは他人の電話番号を記憶していた。そりゃ手帳に書いたりすることもあっただろうけど、基本的によくかける相手の電話番号は記憶していた。それこそ友達や知人が多くかける相手が多い人は語呂合わせなどを駆使して大勢の電話番号を記憶したものだ。
しかし、携帯電話が普及するとあの小さな端末に千人も二千人も、そんな知り合いいねーよと言いたくなる件数の電話番号と携帯アドレスを記録できるようになっている。これは大変便利な反面、逆に誰も人の電話番号を覚えなくなってしまったのだ。
しかも、最近では初めて知りあった人と電話番号の交換する場合でも、口頭で電話番号を伝えたりはしない。携帯同士をくっつけるだけで番号交換が終わってしまったり、赤外線で交換したり。電話番号を使わずにアプリのIDだけで会話ができてしまう始末だ。
いまこれを読んでいる皆さんも、実際に携帯電話の電話帳を見てみたらいい。名前だけで電話番号が思い出せるか、電話番号だけで名前が分かるか。たぶん、ほとんど分からないと思う。頭の中に電話番号がいない状態なのだ。
「昔は電話番号を記憶していた。それも、記憶には限りがあるから大切な人、よく話をする相手だけを厳選して記憶していた。それは脳内にその人の記憶がひっそりと存在していたということだ。今はそれがない。悲しいことだよ」
○岡さんは悲しげな顔で言う。確かにそうだ。電話番号を覚えていること、それはセットでその人のことを脳内に留めおいておくことだった。少なくとも携帯電話が普及する前はそうだった。けれども、今はほとんど覚えてない。例えそれが親族であっても覚えてない。
「悲しいもんだよ。俺だって親や姉貴の電話番号を覚えていない。携帯には入ってるのにな。例え家族であっても人間関係が希薄になっていってるんだよ。だから俺も家を出る羽目になった」
いや、アンタの場合は姉(40代)の下着を常習的に盗んでいたから追い出されたのであって、人間関係が希薄とかは関係ない、むしろ下着盗むくらい濃厚な関係じゃないか、と思うのだけど、誰もそれは口に出せなかった。
けれども、やはり丸岡さんの言うことは一理ある。僕もどれだけの携帯番号を覚えているのだろうかと自分の携帯電話の電話帳を眺めて見ると、なんと56件しか登録がなく、あまりの少なさに友達いなさすぎだろと思うと同時に、その少ない56件でも1件しか覚えている番号がないという衝撃の状態だった。
一件一件確認していく。例えば「丸岡哲三」という下着泥棒の登録を見るとやはり電話番号を思い出せない。このような職場の同僚で別にそんなに仲の良い人ではなく、むしろ軽蔑している部類の人間なら覚えていないのも仕方ないとは思うけれども、父親や親戚、血を分けた親族や家族であっても全く電話番号を覚えてないという事実に戦慄を覚えた。我が弟に至っては、兄弟であるのに電話番号を教えてもらってないという、希薄にも程がある状態を再確認し、ただただ震えるだけだった。
電話帳の登録を確認していき、やはりこの人も覚えてない、この人も覚えていない、と覚えていないことを確認していき、その人間関係の希薄さに恐れおののいていたのだけど、そんなものを軽々と超越するレベルで驚愕する衝撃の登録が僕の瞳に飛び込んできた。
「丸岡哲三(下着ドロ)」
「クリーニング屋」
「プラモ屋」
などと電話帳に登録されている名前が並んでいるのだけど、そこに衝撃の登録名が登場する。
「ふぇら」
意味が、わか、ら、ない。
何が起こったのか分からない。なんで自分の携帯電話の電話帳に「ふぇら」などといった名前が登録されているのだろうか。あまりの出来事にパニックになってしまい、何をどうしたら良いのか分からなくなってしまった。
普通に考えて、これは女性が男性器を口でチュッパチャップスをするフェラチオのことを指しているのだろうと思うのだけど、何がどう巻き起こったらそういった性技の名前が電話帳に登録されるに至るのか分からない。
落ち着け、とにかく落ち着け。ここは落ち着いて考えなくてはならない。この携帯は勝手に電話帳に登録されるとかそういった機能はない。つまり、確実に僕が自分の手によってこの「ふぇら」という名前を登録したのだ。しかしながら、登録した記憶が全くない。こんなパンチの効いた名前なのに、その記憶が完全に脳内から抜け落ちてしまっている。
では、逆に考えてみよう。記憶がないのは仕方がないのだから、遡って考えるべきだ。どういったシチュエーションになれば携帯電話の電話帳にふぇらという名前を登録するに至るかだ。
まず始めに考えられるのは、「名前は知らないんだけどフェラチオがすごい上手そうな女」を電話帳に登録しようとして、そういや名前知らねーや、まあいいや、フェラ上手そうだしフェラで登録しておくか、というパターンだ。
どういう生い立ちというか十字架を背負って生きてきたら「ふぇら」で登録されてしまう女性が出来上がってしまうのか理解に苦しむけど、これならまあ、道理は通ってる。ありえなくはない。けれども残念なことに、「フェラ上手そうで名前を知らない女」というものに出会う機会がない。
次に考えられるのが、職業的にフェラチオを生業にしている類の女性の電話番号という説だ。ヘルスやピンサロなど風俗関係のお仕事に従事している女性の電話番号を登録して、その際にもういいや、フェラだろ、と登録してしまったケース。
これもまあ、大変失礼ながらも道理は通ってる。ありえなくはない。しかしながら、残念なことにそんなフェラチオを生業とする職業の人に知り合う機会もなければ、知り合ったとしても電話番号を交換するほど仲良くなれるわけがない。よってこの説も違う。
最後に考えられるのが、そのものズバリ、フェラチオであるという説だ。これはもうそのまま、すれ違いざまとかにカポッと見ず知らずの女にフェラチオされてしまい、おお、大胆な娘だ、電話番号を交換しよう、ふぇらで登録だな、となってしまったケースで、これならば道理が通そんなことあるわけがない。
結局、いくら考えても考えても答えは見つからなかった。けれども、いくらかのヒントは与えられている。まず、56件しか登録がないにも関わらず「ふぇら」が登録されているという点に着目したい。これが数百件とか数千件登録されている人なら、その中に訳の分からない番号があっても不思議ではないだろうが、僕の場合は56件だ。自ずとかなり重要度が高い電話番号であることがわかる。
次に、「ふぇら」という名前で登録されている点である。「フェラチオ」でも「フェラ」でもない、平仮名で「ふぇら」なのだ。なんだか平仮名で表記するとすごく柔らかい感じがする。「フェラ」と書くと攻撃的なフェラチオを想像してしまうが、「ふぇら」と書くとまるで包み込むような柔らかいフェラチオを想像してしまう。これがなにかのヒントになるだろうか、たぶんならない。
これはもう考え方を変える必要がある。つまり、最初の起点に立ち返り、おそらくすれ違いざまに知らない女性にフェラされたと仮定するべきなのだ。そう、フェラはあった。あったのだ。それに驚いて電話帳にその女の情報を登録した。すれ違いざまだから攻撃的なフェラだと予想していたら、結構柔らかい包み込むようなフェラで「ふぇら」と登録した。そうに違いないのだ。もうそうだと決めつけよう。
でも、そのような事実があった記憶がない。そんな衝撃的な出来事があったのならば鮮明に記憶しているはずだ。なのにそんな記憶は全くない。記憶がないのならばそんな事実はなかったのだ、そう決め付けるのは素人のやることだ。ツウは記憶はないけどそれは何らかの理由で記憶を失ったに違いないと考える。そう、すれ違いざまのフェラはあった。確かにあって、驚いて「ふぇら」と登録した。しかし、何らかの理由でその記憶を失ったのだ。
そうなると大変ですよ。これは大変です。僕はまあ記憶を失っているだけですから大したことはないですけど、問題は相手の女性です。なにせ、すれ違いざまにフェラしてきて、さらにそれが柔らかい包み込むようなフェラで、なおかつ事後に僕と連絡先の交換をするほどです。これはもう、再度僕にフェラしたいと考えているに違いない。その思いは切実なはずです。
僕にフェラしたいと思い続ける女性、それを無視続ける僕。連絡先交換したのになによ!くらいは思っているかもしれません。いくら記憶を失っているとはいえそれはあまりに酷い。酷すぎる。今頃溢れ出る涙で枕を濡らしているのかもしれません。
こうしちゃいられない!早速彼女と連絡を取らねば!そうしてフェラチオ的行為を行う日程とか段取りとか決めなくては!そう思い立ってとにかく連絡取らねばって焦ったんですけど、なにせ記憶を失ってますからどうやって連絡を取ったものかと途方にくれたわけなんです。
そしたら、頭の中の記憶になくてもちゃんと携帯電話が記録してくれているわけで、こんなことにも気がつかないって本当に焦りすぎなんですけど、きっちり携帯電話の電話帳には「ふぇら」の後に電話番号が記載されているじゃないですか。なんて便利なんだ、そう思いつつボタンをプッシュ、高鳴る胸を抑えながら電話をかけました。
鳴り響くコール音。数回続いたあとにガチャリと音が。ついにふぇら女の正体が明らかになる!ごめんよ、記憶失っててさ!いつフェラする?そう言おうと口を開いた瞬間でした。
「もしもし」
いや、すげえ野太いオッサンの声なんですけど。もうおっさんぽいとかおっさん臭いとかそんな声じゃない。完全無欠のおっさん。超おっさん。電話の相手はすれ違いざまのふぇら女じゃなかった、おっさんだった、ということはすれ違いざまにふぇらしてきたおっさん?なんで?もうパニックになっちゃいましてね。
「あの、その、フェラチオとか…」
って口走っていました。
するとまあ、返す刀で
「はあ?」
ってムチャクチャ力強く言われちゃいまして、あんたpatoさんでしょ?とか名指しされちゃいまして、そりゃそうですよね、向こうにも僕の番号登録されてるでしょうしね、多分表示されてますわな、そこでね、その口ぶりから思い出したんですよ。
これ、仕事で出会ったけっこう重要な人で、なんというかキーパーソン的人なんですけど、なんか名刺もらえなかったんですよね。それでも今後打ち合わせとかしないといけないから連絡先の交換しましょうってなっちゃって携帯番号交換したんですけど、あとで電話帳に登録する段階になって名前を度忘れしちゃったんです。
でまあ、なんて登録しようって悩んだ末、結構目立つフェラガモのペアウォッチみたいなのしててそれが印象的だったんで、フェラガモって登録しようとしたんですけど、面倒だったんで「ふぇら」で登録したんでした。もう何ヶ月も前のことだから完全に忘れ去ってた。
「なに?どうしたの?」
と向こうもえらい剣幕ですよ。そりゃ仕事でしか繋がりがないすごい希薄な関係の人に開口一番「フェラチオ」ですから、誰だって焦る。もちろん、言われた方だけじゃなく行った僕だって焦る焦る。もう気が動転しちゃいましてね、とっさに
「ごめんなさい、母と間違えました。すいません!」
とか言ってガチャ切りしてしまったんです。ガチャ切りなんてマナーとして良くないですが、それ以上にお母さんと間違えて「フェラチオ」って言う意味がわからない。全然分からない。
このように、携帯電話の電話帳機能ってのは便利な反面、昔は頭で覚えていたであろうことまで記録してしまい、僕らから記憶するという行為を奪ってしまったわけなのです。結果、記憶すべきことと記憶すべきことでないこともごっちゃになってしまい、このようなフェラチオの悲劇が生み出されてしまうのです。
技術の発展は、便利さと引き換えに僕らの感情や記憶、気持ち、そういった人間臭い部分を奪っていってるのかもしれません。デジタルデータの洪水が僕らに人間を飲み込んでいく、けれどもどこまで行っても人間の本質はデジタル化できません。その軋轢がもっと深刻な悲劇を生むのかもしれません。
あの頃、想像していた未来とは違うけど、確かに技術の発達した便利な未来に僕らは今立っている。そして、仕事上の結構重要な人に電話して「フェラチオ!」っていうイタズラ電話みたいなことしてしまった僕が、職場において立つべき未来もなんとなく予想できる。そして、きっとそこに立つのだろう。悲しい顔をして。
10/12 肉色ライダー
放置車両にはドラマがある。
毎朝変わらずそこにあるバイクはみっともないくらいに肉色で、ピンクと言うには生身っぽく、赤というには生々しい、まさしく肉色という表現がピッタリというほどに生命の息遣いを感じる色、そんな生々しい色彩に塗装された原付バイクが出来の悪いオブジェのように確かにそこにあった。
僕は職場への通勤には、各部のボルトの締めつけが弱いのか、たまに交差点のど真ん中で蟹座のクロスみたいにバラバラになるポンコツと呼んで過言ではない自転車を利用しているのだけど、自転車から眺める朝の風景というのはなかなかに面白い。
朝ってやつは、無職とかニートとかでない限り、多くの人が仕事の開始時間、授業開始時間という決まった時間枠で動いている。当然ながら同じタイムスタンプで行動することになるのだけど、これだけ多くの人が時間通りに行動する状況ってのは朝以外にはほとんどない。
昼間や夕方、夜、多くの人が時間通りに行動しているんだろうけど、それらは人によってバラバラで、皆が揃って同じ行動をとっているわけではない。仕事や学校から既に解放されている人も多い。しかしながら、朝はこれから束縛に向かう人が多く、多くの人が毎朝同じ行動をとる。それはまるでビデオのリプレイをみているかのようだ。
ここの交差点では死にかけの老人が犬に引っ張られるようにして散歩している。この団地の前では友達を待っているのだろうか、女子高生が髪を束ねながらソワソワと入口を覗き込んでいる。交差点で信号待ちをしている車もいつもどおり白い車、赤い車、青い車、と同じ順番で並んでいる。
こうやって毎日同じ風景が見えるのが安心であり、そのようなルーチンの中で日常生活を送ることに少なからず安堵を覚える。退屈な日常、といってしまえばそれまでだが、その退屈であることが何よりも大切で尊いものなのだ。
住宅街を抜けると、少しだけ田園風景が広がった地帯に出る。本格的な農業といえるほどの畑ではなく、誰かが趣味か道楽でやってるのかと思うほどに小さくまとまった畑たちが連なっている場所に出る。そこに問題のバイクは停めてあった。
畑に打ち捨てられたと思わしきその原付バイクは、明らかにピンクでもベージュでも赤色でもなくて、本当に肉色としか表現できない色合いで、スーパーで売ってるカレーとかに使う豚肉そのものみたいな色合いで、形もレトロなんだかポンコツなのか判断に迷ってしまう、外見上のインパクトゴリゴリのバイクだった。
ちょっと罰ゲームとかじゃないと街中を走りたくないようなオンボロの肉色バイクが畑に打ち捨てられている。それはもう毎朝繰り返し見る風景で日常の中に溶け込んでいるのだけど、僕はこういった放置車両というか、打ち捨てられた車やバイクというものに途方もないロマンを感じてしまう悪いクセがある。
皆さんの身の回りにも、これ絶対にもう乗ってないだろうと言うしかないような車両が庭先や空き地に捨てられている光景があることと思う。ナンバープレートがついてなかったり、明らかに自走不可能なほどに壊れていたり、サビだらけで元の色がどんなものだったのかすら分からないものだったり様々だ。
それらの放置車両は完全にゴミなのだけど、よくよく考えてみて欲しい。確実にそれらのゴミは元気に走り回っていた時代もあるし、それなりの決断とか決意が必要な値段で購入されているはずだ。時には「愛車」などと呼ばれたかもしれない。綺麗に洗車してもらったことだってあるかもしれない。
そんな大切だった愛車や愛機がなぜ放置されるに至ったか。そこには簡単には語れないドラマが絶対にあるはずだし、幾重にも重なる人間の思惑と運命のイタズラ、時の歯車が複雑に絡み合ってこの状況になっているはずなのだ。だから僕はそういった放置車両を見るたびにその背後にある壮大なドラマを妄想し、上質な一本の映画を鑑賞した気分になるのだ。
「ねえ高志、どうしてこの車、廃車にしないの?」
「廃車にはしてるさ。ほら、ナンバープレートないだろ」
「でもずっと庭に置きっぱなしじゃん。普通廃車にしたら業者に引き取ってもらったりするんじゃないの?」
「コイツはさ、そんなんじゃないんだ」
遠くを見つめる高志の横顔を眺め、芳江は何か深い理由があるだろうことを悟った。
「コイツは俺の親友、いや、ライバル、どういって言いのか分かんないけど、とにかくアイツの愛車だったんだ」
「あいつ?」
「そう、俊雄のな」
あの日、この街で最速は誰か、そんなくだらなくも大切なことに俺たちは命を賭けていた。町外れの丘の上公園に通じる一本道、2台の車のエンジン音が静寂の闇を切り裂いていた。
「高志、負けたほうが牛丼おごりだかんな!」
「いつも悪いな!今日は特盛いっちゃうかな」
「おもしれえ!」
ハンドルを握り真剣に前を見据える俊夫の横顔。ウィンドウ越しに見たその顔が最後に見た俊夫の顔だった。
「あの日からだよ、俺がハンドルを握ることをやめたのは。この車は俊夫の墓標。墓標を捨てたりしないだろ。だからこの車はずっとここに置いておくのさ」
そう呟く高志の横顔を眺め、芳江は頬を赤らめた。
「素敵」
まあ、あとはお互い盛り上がっちゃった二人が廃車の中でおセックスとかして、シフトレバーを突っ込んだりして「私のアソコがパーキング!」とか訳の分からないことを叫んだりするんでしょうが、とにかく、放置車両にはドラマがあるんです。ドラマのない放置車両なんて存在しない。
当然ながら、毎朝この畑で見かける肉色の放置バイクにも背後に潜む壮大なドラマに思いを馳せて一人で身震いしたいのだけれども、実はそういうわけにはいかない。この肉色のバイク、一見すると放置車両のようだが実は放置車両ではない。巧妙に放置車両のように見せかけられているが、違う。
その証拠に、よくよく注意深く観察してみると、日によって置かれている位置が微妙に違っているし、跳ねた泥などの車体汚れも日によって微妙に変わっている。そう、放置されていると見せかけて本当は毎日動かされているのだ。ではなぜ、こんな田園風景の畑に停められているのか、放置されていないとするならば持ち主は何を思って毎日ここに停車しているのか。
それを語る前に、もう一つ重要な、この肉色バイクが放置車両でないという明確な根拠を示さねばならない。普通、放置車両というのは僕のような通りすがりの人間には、持ち主なんて分からない。だからこそその背後にある壮大なドラマに思いを馳せることができるのだけど、実は、僕、このバイクの持ち主を知っている。明らかに持ち主を知っていて、これが放置車両でない確たる証拠を握っているのだ。
あれは一ヶ月ほど前のことだった。ウチの職場は自動販売機が置かれている休憩所があるのだけど、多くの男性社員がそこで休憩し、やれピンサロで性病に感染しただの、ピンサロの性病感染率の高さだの、バイオハザードだの、性病にならなくてもピンサロはゾンビみたいなブスしかいないからある意味バイオハザードだの、どういう育ちをしたらこう下賤でエロスな会話ができるのかって会話を展開している。
そういった事情もあってか、休憩所は女子社員が近づきにくい、ある意味女人禁制みたいな暗黙の了解が出来上がっているのだけど、その暗黙の見えないバリアを打ち破って一人のブスが休憩所にやってきたんです。
ちょうどのその時、僕が「8000円ポッキリのピンサロは八切りってことだから、8000円ポッキリのピンサロから8000円ポッキリのピンサロにハシゴすることを八切りの渡しと言うべきだ」と熱弁を振るってたんですけど、そこにテリーゴディーみたいな髪型をしたブスの登場ですよ。
ブスといえども女性ですから、さっきまでピンサロの話で盛り上がっていた面々も萎縮しちゃいましてね、全く気にしない僕だけがピンサロでかかってるユーロビートのモノマネをしているというシュールな光景が展開されていたんですけど、そこでブスが開口一番言うわけですよ。
「ワタシ、バイク買います!」
いや、勝手に買えよ、ブス、って感じですよ。誰もが言いたい気持ちをグっと堪えましたよ。そもそもその宣言をピンサロで盛り上がってる僕らにする意味がわからないですよ。僕らは下劣なエロ会話が好きなのであって、誰もバイクに興味なんてない。それだったら「バイブ買います」とか宣言された方がまだロマンがあるし、親身になってアドバイスできると思う。
でまあ、なんでこういった宣言がピンサロ同好会の前で成されたのか大変疑問だったのですが、よくよくブスの話を聞いてみると、なんだか良く分かるような分からないような話が展開されはじめるのです。
「バイク買おうと思うんですけどー」
と切り出すブスに、僕は頭の中ですげえワイルドでアメリカンなリッターバイクにブスがまたがって、街の暴走族たちを裏拳でなぎ倒している光景が浮かんでちょっとクスリと。そんな僕とは無関係にブスが話を続けます。
「女だけでバイクを買いに行ったら絶対に騙されると思うんですよ!」
彼女はバイク屋のことをどんだけ百戦錬磨の悪徳商売人みたいに考えているのか知りませんけど、なんでも新車ではなくてレトロな風味漂う中古車を購入しようと考えているらしく、良くない品を掴まされたらたまったもんじゃない!それにバイク屋でレイプされるかもしれない!くらい考えてる感じの危機感を持っていまして、それじゃあバイクに詳しい男性を連れて行こう、と考えたみたいなんです。レイプされそうとか、全国のバイク屋が聞いたら怒ると思いますよ。
そんなこんなで僕らの前でバイク屋に一緒に行こうとブスが言ってるわけなんですが、あいにく僕らはバイブの話はできてもバイクの話はできない。おまけにブスと一緒になんて行きたくない、と、小学校の時に担任の先生が意味不明に怒り狂って「名乗り出るまで帰れませんよ!」とかキンキン言ってる時みたいな感じで、僕らは全員うつむいてブスとは目を合わせないようにしていたんです。
結局、そんな努力虚しく、なぜかバイクの免許をもっているのが僕だけだったという意味不明な理由により、ブスとバイクを品定めしにいくことになったわけなのです。ただブスがバイク屋に騙されないように、レイプされないように、という訳の分からない理由で。
普通、女の子とお買い物というと結構ドキドキワクワク、ひょっとしたら桃源郷のような展開があるかも、と新品のパンツをはいていったり、いやいやそこまではさすがにありませんぞ、いやでも、おっぱいぐらいは揉めるかも、これくらいの握力で揉めばいいのかな、とシャドー乳揉みとかすると思うんですけど、それがブスだと全然そんなことないのな。全くワクワクせず、静まり返った水面のような静けさで当日を迎えることができました。
そしてついにバイク屋に行くわけなんですが、ブスが何をトチ狂ったのかゴリゴリのミニスカートはいてきやがりやがってですね、しかもそのミニスカートがどこで売ってるのか自由の女神とかマリリンモンローみたいな女とかがプリントされたもので、完全にアメリカの横暴。ブスのミニスカはテロルですよ、テロル。
「バイク選ぶのにそれはちょっとあれじゃない?」
バイクにまたがったりすると思うんですよね。その際にミニスカだと非常に危険というか、ブスもパンツを見られて損、僕も見たくもないもの見せられて損、バイク屋も見てしまって損、ブスにまたがられてバイクも損、というLOSE-LOSEの関係が出来上がってしまいます。そんな惨劇だけは起こってはならないと柔らかいニュアンスで注意したのですが。
「やだ!何考えてるんですか!」
と、「エッチ!」って言わんばかりの表情で言うわけですよ。ブスが。何回も言いますけどブスが。ホント、僕が物体をテレポーテーションさせる能力を持っているならば、ブスの脳をその辺の土手にテレポートさせてる、そんな気分でした。
少し街から外れた国道沿いの大きなバイク屋に赴いた僕とブス。ここは豊富な中古バイクが置かれており、アフターサービスも万全でサービスに定評があるお店、とのことでした。早速、原付コーナーへと赴くのですが、そこでブスが一言ですよ。
「なんかどれも古くないですか~?」
よし、死ね!ブス!
というか最初の話ではレトロな感じがいいので中古車にしますぅ、とか鼻の穴に付着していた鼻くそを呼吸するたびに弁みたいにパッカパッカ動かしながら言ってたじゃないですか。中古車が古っぽいのはあたりまえじゃないすか。
とにかく、こりゃかなわん、はやくそこそこのバイクを選んでお茶を濁し、このブスと縁を切らねば、とか思いつつ僕もそこまで古っぽくなくて手頃な値段の中古バイクを探すのですが、やっぱ中古の原付バイクってそれなりに使用感があって古っぽい感じがするんですよね。
「私は古いのが欲しいんじゃなくて、レトロなのが欲しいんですよ~」
と、ブスの意味不明な供述は続くのですが、ほっといてバイクを探します。もうレトロっていうより豚トロみたいな顔しやがってとか言うのも疲れた。
いっそのことブレーキのないオシャレ自転車みたいにブレーキのないバイクでも売ってねえかな、オシャレだって騙して買わせるのに、とか思いつつバイクを探していると、ブスの声が聞こえてくるわけですよ。
「あった!」
古くないのにレトロ、とかいう一休さんのトンチみたいなバイクがあるわけないと思いつつ、ブスの方を見ると、なにやら一台のバイクを指さしつつ僕に向かって手招きしてるんですよ。あんまりこういうこと言っちゃいけないとは思うんですけど、すの姿はすげえブスだった。
「ありましたよー、このバイクかわいくないですかー?」
満面の笑みのブス。どれどれ、どんなバイクがブスのおメガネにかないましたかなと思いつつ近寄ると、そこにはなんとも言い難いバイクが。
レトロとか古っぽいとかそういったものを超越して肉色のバイクがそこに佇んでいたのです。ピンクというには生々しい、まるで肉の色、いや、女性器の開いたところみたいな色をしたバイクがそこにあったのです。
「いや、これマンコ色ですやん」
そう言いたかった。サクッとそう言いたかった。何も考えずにそう言えたらどんなに楽だったことか。なんかね、これ、色も怪しいんですけど、それでもメーカーが発売している純正の色とかだったら、まあ、そういうのもアリかなって思うんですけど、どう好意的に解釈してもこれ、自分で塗ってますからね。
前のオーナーが何を思って小陰唇色に塗ったのか今となっては伺い知ることはできないのですけど、せめてもうちょっと上手に濡れと言いたい。色艶もねえし、ムラになっててそれがビラビラみたいでさらに生殖器みたいじゃねえか。
とにかく、これは性器みたいだからダメだよって言おうと思ったんですけど、「かわいい~カワイイ~Cawaii」とか大絶賛しているブスにそういうことができず、おまけにそこまで親身になってブスに忠告する立ち位置でもないことに気がついてしまい。
「まあ、いいんじゃない。カワイイ色だし」
と、本意でないにしろそう告げると、値段も手頃ということおもあってか、ブスの貯めたお小遣いで即決な感じで購入していました。
「私はあのバイクに出会う運命にあった」
とか訳の分からないことをピーピー言ってましたが、聞かなかったことにし、僕とブスの不毛なるバイク選びは終わったのでした。
数日後。いつものように休憩所のピンサロメンツで、ピンサロでプレイ中に大きな地震が来たらどうするか、噛み切られたりしないか、という
話題を真剣に話しているところに、件のブスがやってきました。
「じゃじゃーん!」
とか茶目っ気たっぷり言うブスに、よかったな、今ここにいるメンツの誰もが散弾銃持ってなくて、と思いつつブスの話を聞いていると、
「このあいだ買ったバイクで今日は通勤してきました!」
とかブスがスカートひらりな感じで言うじゃないですか。ブスのドヤ顔ってホント乳牛の出産シーンみたいなんですけど、とにかくドヤ顔で言うわけですよ。ほう、あの走る生殖器バイクがついに納車されたのかと喜びつつ、まさか本当にあれを購入し、さらには通勤にまで使うなんてすごいな、と恐れおののいたのですが、ブスはいたってご満悦な様子。
カワイイバイクで通勤する、アクティブでカワイイワタシ、みたいな感じで酔いしれているのかもしれませんが、
「とにかくチョーかわいくてってかわいくって、名前つけてかわいがっちゃってます!」
とか言うじゃないですか。乗り物に名前を付けるってのは、かつて僕も中学生くらいの時に自転車に「ファルコン号」とか名づけて大切に可愛がっていたことがありますから、気持ちはわかります。愛車とは相棒のようなものですから、親しみを込めてニックネームを付けることはよくあるのです。
「へえ、どんな名前つけたんっすか?」
ピンサロメンツの一人が、大して興味はないけどそこまで言われたら質問しないわけにはいかない雰囲気ってのを俊敏に感じ取り、ものすごい気を利かせて質問します。それを受けてブスも待ってましたとばかりに返答します。
いくら走る性器としか思えない原付バイクであったとしても、ブス自身は非常に「カワイイ」と気に入ってくれているのです。かなりファニーでキュートな名前をつけているに違いありません。性器色とは言えピンク色なんだから「モモ」とかつけたらカワイイよね、「シャルロット」とかかわいくも気品溢れる名前かも、などと予想しながら聞いていると、ブスの口からは予想だにしない名前が。
「ピラルク」
全然かわいくない。それ南米に生息する世界最大の淡水魚じゃねえか。ホント、ブスのネーミングセンスって本気でわかんなくて、どういうブスさで生きてきたら原付にこんな名前をつけられるのかわかんないんですけど、とにかく本気で世界最大の淡水魚の名前をつけたご様子。
「ワタシのピラルクちゃん、ホントにカワイイんですよ。ね、patoさん?」
とか、ブスがこっちに向かってバチンとウィンクですよ。その猛烈ウィンクを受けた僕は、いや、あれは性器の色だから色ムラがビラビラみたいだから、と言えるはずもなく、ただただ低いトーンで「う、うん…」と答えることしかできませんでした。
ただその事情を知らないピンサロメンツたちは、そこまで言うなら見せてもらおうじゃないかってことで興味ないなりに大変盛り上がってしましまして、いっちょいくかってことでみんなでブスのバイクを見に行ったんです。
「あそこです。あそこにワタシのピラルクちゃんが!」
そう指さすブスの先には職場の自転車置き場で禍々しき何かを漂わせている性器バイクが。女性器が自転車置き場に鎮座しておられる、そう思うことしかできませんでした。ウチの職場って自転車で来る人が多くて、その割には自転車置き場が小さいものですから、常にギュウギュウ詰めみたいな状態になってるんですけど、なぜか性器バイクの周りだけモーゼみたいに自転車の群れが真っ二つに割れてました。そりゃ横に停めたくないわな。
「あれ、なんすか?」
ほかのピンサロメンツが不安げにヒソヒソと話し始めます。はるか彼方にあるはずなのに、もう既にこの距離で性器とわかる威風堂々の面構え。とんでもないですよ、これは。
いよいよ自転車置き場に到着し、皆で性器バイクを取り囲んでみるんですけど、僕はほのかな変化に気がつきました。中古車屋の時点ではなかったんですけど、多分ブスの趣味なんでしょうね、シート後ろの荷台の部分にファサファサのオブジェが付け加えられてました。それ自体は別にどうでもよくて、雨とか降ったら一発でダメになりそう、くらいしか思わなかったんですけど、問題はその色ですよ。もう見事に真っ黒なのな。しかもファサファサがもう既に日光とかでベロベロになってて縮れ毛みたいになってんの。もう完全に陰毛っすよ。
もしかして、こいつはわかってやってるんじゃないだろうか。自分のブスさ加減に嫌気がさし、じゃあ私ブスだけど、エロさとかセクシーさで勝負しようとか考えちゃって、何をトチ狂ったか大幅に間違えたのか、原付バイクで性的アピールに走ってしまったんじゃないだろうか。
「どう?ちょーかわいいでしょ!」
しかし、満面のブス顔でそう言うブスからはそういった悪意のようなものは感じられず、ああ、ただただ純粋に何かがズレてるんだ、と思うことしかできませんでした。ほかのピンサロメンツも同様に何と言っていいのか分からず、声も出ない様子で、僕に耳打ちしながら小さな声で
「これやばくないですか?なんて名前でしたっけ、ヴァギナちゃんでしたっけ?色といい完全に生殖器じゃないすか。モザイク必要っすよ、これ」
という始末。
「いやいや、ヴァギナちゃんじゃないよ。ピラルクちゃんだよ。彼女はいたって本気なんだ。あまり言わないでやってくれ」
しかし、僕らがいくら取り繕って、顔の筋肉を最大限に括約させて「はは、カワイイね、ピラルクちゃん」っていう作り笑いをしてみたところで、そういう空気って隠せないじゃないですか。この性器バイクを取り囲む僕たちの間に流れる、ピンサロでいきなりユーロビートな音楽が曲の繋ぎのために止まってしまった時のようななんとも言えない微妙な雰囲気、それが出てしまったのです。
そうなると、ブスってのは人一倍そういった微妙な空気に敏感で、機敏な動きを見せるものですから、明らかに性器じゃんていう僕らの空気を感じ取ったんでしょうね、急に狼狽しはじめまして、
「なに、なに?何か私のバイクがおかしいわけ?」
とピンサロメンツに掴みかからんばかりの勢いで問い詰め始めたんです。ここで一つポイントなんですけど、こういった展開ってのは非常に危険なんですよね。長いこと職場の嫌われ者やってる僕の、職場の女子社員数名がエヴァみたいなーって言ってくるもんですから、じゃあ劇場版エヴァの上映会しよう、職場の会議室でみんなで見ようぜ僕が提案し、当日は機器とか全部持って言って最高の環境で視聴できるように発奮していたのに、誰も見に来なくて結局一人で二倍速で鑑賞した嫌われ者の僕の経験から言わせてもらいますけど、これは非常に危険な展開なんですよ。
一つの事実として、ブスのバイクが女性器だったという要素があるのですが、それに付随して、僕も一緒に選びに行ったという要素が絡み合ってきます。これが非常に危ない。結局、ブスが自分であのバイクを選んだわけで僕は何も関与していないのですが、あのバイクが女性器みたいで変だってことをブスが知ったらどうなるでしょうか。
はい、そうですね。いつの間にか、僕が熱烈に勧めるもんだから気はすすまないけどバイクに詳しい男の人が言うことだから信じて購入しちゃいましたってことにすり変わるんですよ。女性に生殖器みたいなバイクを勧めるとは何事ですか、立派なセクハラですよ。とかなって、職場の軍法会議みたいなやつにかけられるところまで想像できます。本当に危険ですよ、これは。
ブスに胸ぐら掴まれているピンサロメンバーにアイコンタクトで「言うな、黙ってろ」と指示を送ります。ここでバイクが生殖器みたいでおかしいという事実を指摘してはいません。絶対にいけません。ブスに気づかれようものなら確実に僕が裏で糸引いたみたいになるに決まってる。
「カワイイバイクだと思います」
もうブスの唾液がかけられるくらいに迫られててやばいんですけど、ピンサロメンバーは僕のアイコンタクトに気がついて頑なに口を閉ざします。間違ってもバイクが性器みたいだなんて言わないぞという固い意志を感じます。言っておきますけど、ピンサロメンバーの固い結束を舐めてはいけない。いや、ピンサロは舐められるところだけど、舐めてはいけない。
「ちょっと!正直に言いなさいよ!」
ブスは次々と相手を変えて詰め寄りますが、ピンサロメンバーの結束は固い。誰も口を開かない。
「分かった!patoさんが口止めしてるんでしょ!」
しかしながら、こういう時のブスの鋭さって、マヤ文明の予言より凄いですから、途方もないソリッドな鋭さでアイコンタクトによって口止めしていることを見破られました。
「じゃあこうしましょう。誰が裏切ったかわからないようにするから、正直に言いなさい」
ブスって本当にキチガイなんですけど、実はこのブス、職場の会議室の管理を担当しているブスなんですけど、最近会議室に最新鋭の投票システムが導入されまして、まあ最新鋭ってほどではないんですけど、会議での議決を取るために、各席に置かれた各々のタブレット端末で投票し、その投票結果が瞬時にモニターに映し出されるっていうシステムなんですけど、設定によって誰がどの票を投じたか分からなくする無記名投票ができるんですね。
じゃあそれ使おうぜってことで、ピンサロメンバーは会議室に連れて行かれまして、僕も、ああ、ここでエヴァの新劇場版DVDを一人で二倍速でみたなあとか感慨にふけりつつ投票の行く末を見守っていたのです。
「誰が何の票を投じたのかは分からないようになってますので、正直に答えてください。私のバイクがおかしいと思う方は賛成票を、普通だと思う方は反対票を」
僕に投票権は与えられませんでしたが、ピンサロメンバーの結束は固い。誰も裏切らないはずだ。いくら誰が裏切ったかわからないシステムになっていたとしても、誰も裏切らないはず。反対票が6票並ぶはずさ。僕は悠々と投票の行く末を見守っていました。
「それでは投票結果を表示ます」
いつもの会議の時のように、少し済ました顔になるブス。そして大ビジョンに投票結果が表示されます。
「賛成6 反対0」
誰が裏切ったか丸分かりじゃねえか。全員じゃねえか。
僕としては、一人くらい裏切り者が出ても「カスパーが裏切った!?」とか言いつつ、その裏切った奴の美的感覚がおかしいだけとブスを説き伏せることもできたのですが、まさか全員とは。
結局、開き直ったピンサロメンバーにより、「生殖器みたいで変だ」「色合いと色ムラがわいせつ」「陰毛が多すぎ」「ヴァギナちゃんっていう名前が卑猥」「走るセクハラ」などと奇譚のな意見が次々と出され、黙って聞いていたブスが突如泣き出すという、想像通りの展開になったのでした。
それからまあ、当たり前のように、ごくごく自然にそうあることが初めから決まっていたかのように、職場の女子社員にセクハラみたいなバイクを無理やり買わせた男、として噂されるようになり、それと同時に、ブスは職場まで乗ってくるのが恥ずかしくなったのか、こうして職場近くの畑に停め、そこから徒歩で通勤するようになったのです。
一度だけ、帰り際にそのバイクに乗ろうとするブスの姿を拝見したのですが、性器みたいな色のバイクの横に立ち、畑の真ん中でヘルメットをかぶって佇むブスは、まるで伐採しようとすると作業員が次々と不審死するグラウンドの樹木みたいな圧倒的な存在感を放ってました。
こうして、放置車両ではないことがわかっていたこの肉色のバイク。多くの放置車両、その背後には一言では語れない無数のドラマがあるはずです。そこに至るまでの人間ドラマがあるはずです。けれども、この放置車両ではない肉色バイク、それでもやはり、このバイクにもここに停車されるようになったドラマがあるのです。
そう考えると、毎朝見かけるこの変わらない風景全てにも、全く同じ繰り返されているように見えるこの風景全てにも、とても語り尽くせないドラマがあるはずなのです。
交差点の死にかけの老人にも、それを引っ張る犬にも団地前の女子高生も信号待ちの車たちにも、そして、自転車で通り過ぎる僕にも、全てはそうなるべくドラマがあるのです。そう考えるとなんとも感慨深いなあ、などと思いながら自転車を漕いでいると、またボルトが緩んでいたらしく、畑の真ん中で自転車がバラバラになりました。
もう頭にきたのでこの自転車、生殖器の色に塗りたくってやる。あの肉色バイクも、そんなドラマがあって塗られたのかもしれない。
7/24 ヌメリナイト4-ウンコカーニバル-
昨年夏、あまりにデブになってしまったpatoが減量を決意。強烈なダイエットを敢行し、モデル級と言っても過言でないほどの減量に成功したのは皆さんの記憶に新しいことかと思います。
しかしながら、1年の時間が経過し、強烈なリバウンドを経て昨年のダイエット前より強烈に体重が増えてしまい、見事にリバウンドデブの称号を手にしてしまったわけですが、まあ、大きいサイズの服を売る店のモデルとかたぶんデブが起用されてると思うし、そういったジャンルと思えば力士級のデブだってモデルといえばモデルだし、自分の体重が支えられずに膝が痛くなってきたし、職場で雑談していてもデブ話どころかカロリー的な話すら自然と避けられるようになったし、ということで全然関係ないけどヌメリナイトの告知です。
なんと4回目を迎えるヌメリナイト、デブなオッサンが出てきて訳の分からないことを喋ってるという、新興宗教の集会でももうちょっとマシなことやってるだろうってレベルの催しなのですが、過去の開催も大変ご好評を頂き連続完売。満を持して4回目の開催となりました。
今回は会場を変えて「阿佐ヶ谷ロフトA」での開催。サブタイトルに「ウンコカーニバル」と銘打って訳の分からないデブなモデル級のオッサンがウンコのことを喋るという、今回もリストカットをする少女の心理くらい訳の分からない感じになっています。
ヌメリナイト4-ウンコカーニバル-
2012年9月1日(土)
OPEN18:00 / START19:00
前売¥2,000(飲食代別)/当日未定
※前売券はローソンチケット【L:35452】にて7/28(土)10:00~発売!
イベントページ
しかもなんと、今回は、本編終了後(たぶん10時くらい)の会場でそのまま朝まで公開打ち上げを敢行。自由参加で残れる方は残っていただいて、さらに何も準備してこずにグダグダ喋るデブと一緒にお酒を飲みましょうという感じです(公開打ち上げも飲食代別)。
会場ではぬめり本第4弾となる、ウンコ漏らし関連の日記を綴った「ぬめり4-ふぞろいのウンコたち-」も先行発売いたします。
チケットは7月28日(土)朝10時よりローソンチケットにて発売!Lコードは35452です!
そんなわけでこの夏もデブとデブなウンコの話を聞きつつ、暑苦しい夏を過ごしましょう!阿佐ヶ谷で待ってます!
7/11 タイムシャワーに打たれて
「今日は織姫と彦星が一年に一度出会える日なんだよ」
ただでさえ休日出勤で憂鬱だというのに、オフィスのドアを開けるとなぜか僕のデスクの上にどっこらしょって感じで腰掛けていたブスが、頬骨の当たりの骨が非常に加工しやすい材質で光沢もあり、印鑑や装飾品にうってつけという理由で乱獲され、絶滅寸前まで追い込まれたみたいなブスがその大きな体を震わせながら喋っていました。
「ロマンチックだわあ」
目をキラキラさせているブスに、産卵期特有の求愛行動みたいな何かを感じた僕は、頑張れよ、絶滅寸前なんだからちゃんと産卵までこぎつけるんだぞみたいなことしか考えられなかったのですが、このブスの言葉、よくよく考えてみると何か変なんです。
このブスが発していた言葉は言うまでもなく七夕のことで、よもや知らない日本人はいないと思いますが、念のために説明させてもらうと、季節の節目となる五節句のうちの一つで、旧暦の7月7日の夜がそれにあたります。ここで不思議なのはなぜ「七夕」と書いて「たなばた」と呼ぶのか。当たり前すぎて不思議に思いませんでしたが普通の神経ではこうは読めません。
もともと、七夕はお盆の行事でありました。向こうの世界から帰ってくる故人やご先祖様を迎えるため特別に精霊棚とそこに飾る幡を準備する日だったのです。棚と幡から「棚幡(たなばた)」となり、それが七日の夕方にやるものだったことから「七夕」に読みだけ「たなばた」とついたとも言われています。
では、この七夕のイメージですが、それこそ日本に住む多くの人々が即答するようにそれらは「短冊に願い事を」「織姫と彦星が一年に一度天の川を超えて出会える日」の二つに集約されると思うのですが、これらがどういう成り立ちで生まれてきたのか、ちょっと調べてみましたがあまり良く分かりませんでした。
「短冊に願い事を書く」という行為は、七夕がお盆の行事からきていること、季節の節目の行事であることを考えればさほど不思議ではなく、神事などに多く見られる行為とそう変わりないのですが、七夕のエッセンスとして燦然と存在する「一年に一度しか会えない二人」という設定はよく考えると異常なんです。
古来から伝わる多くの行事は五穀豊穣を願ったり、豊作だったり大漁を願ったり、家内安全を願ったり、実は非常に自分本位で、自分もしくはその周りにさえ良いことがあればいい、そんなある意味自分勝手な思想の下で成り立っていることが多いのです。だから「短冊に願い事を書く」の方は行事としてはかなり真っ当なのです。
別にこれ自体は責められることではなく、古来の人々なんてのは現代のようにグローバルで大きい規模で物事を考えるなんて有り得ないでしょうから、自分本位にもなる。むしろ自分のことで精一杯で人のことを想っている場合じゃない。日照りが続いて米が取れず、飢餓が襲おうとしている古代の村で「争いのない世界!世界の平和を!」とか祈ってる若者がいたら村のオサとか卑弥子様とかに殺されるんじゃないですかね。
そう考えると、本来は自分本位であることが当たり前の行事において、一年に一度しか会えない二人に思いを馳せてロマンチック、我が職場の絶滅危惧種ブスの言葉はなかなかに異様で異端です。親戚のオッサンがスナックのママになかなか会えないとかボヤいてても別にどうでもいいやって感じになるのに、それ以上に知りもしない織姫と彦星がどうなろうとしったこっちゃない、それが普通の感覚なんじゃないかと思うのです。
だいたい、一年に一度しか会えないのがロマンチックだわーとかブスは言いますけど、そんなの全然ロマンチックじゃないですからね。例えば、大阪と東京で遠距離恋愛をしている二人がいて、高志は東京での仕事が忙しくて全然会いにいけず、芳江も芳江で資格取得のための勉強が忙しくて全然高志に会えない。そんな二人の会えないすれ違い生活が1年も続いてやっと会えることになったとしなさいな。高志が新幹線に乗って大阪にやってきて会えるとなったとしなさいな、それは別れ話をしにやってくるか、芳江の方に関西弁のヒップホップの彼氏がいるか、そういう破局的なあれではなくて上手に愛を育んでいたとしても、駅の近くのラブホテルでセックス!セックス!セックス!フリータイムを利用してセックス!セックス!セックス!一年分の想いを込めてセックス!セックス!セックス!部屋の自動販売機でファイナルファンタジーで最後の方に手に入る武器みたいな形したバイブだって買うかもしれません。全然ロマンチックじゃない。
とまあ、自分でも何でこんなに熱心に七夕の悪口を言っているんだろうと不思議に思うこと山の如しなのですが、別に七夕のことが嫌いなわけじゃないんだと思います。七夕祭りで楽しんだことだってありますし、毎年職場に飾られる笹には同僚たちと一緒にワイワイしながら「同僚のみんなと仲良くなれますように」とか短冊をつけたりしています。それを見た同僚たちが、空間の魔術師と呼ばれる匠がワケのわからない場所に収納棚を作り始めた時にこんな顔するんだろうなって感じの表情を浮かべていますが、それでも七夕自体は好きなのです。
じゃあ何がそんなに気に入らないかというと、おそらく「一年に一度しか会えない」というシチュエーションと、それをロマンティックとする風潮が本当に気に入らないのだと思うのです。そして、それはあまりに切なく悲しい事件によって心の中に植え付けられたトラウマに起因しているのです。
僕が中学生だった頃のお話です。当時は今のようにやれ携帯電話だとかインターネットだとかメールだとか無く、一部のビジネスマンがポケットベル、いわゆるポケベルを持ってるだけみたいな社会であり、今から考えると著しくコミュニケーション手段が乏しい時代でした。しかし、それはツールを介したコミュニケーションが少なかっただけで、人間同士のコミュニケーションは今よりも随分と色濃かったように思います。
とある休日、家にこもって半分寝たきりのウチの爺さんとエキサイティングに将棋を指していた時、家の電話が鳴りました。その電話には弟が出たのですが、会話を聞いていると何やら要領を得ません。
「はい、います」
「いえ、わかりません」
「わかりません」
「はい、爺ちゃんと将棋してます」
「暇だと思います」
なんかすごい挙動不審で、弟の身に何が巻き起こっているのか全く分からないんですけど、とにかく理解不能な何かが彼を苦しませている様子。ボケた爺さんがさっき角を動かしたばかりなのに連続でもう一度角を動かそうとした時、弟が受話器を置いてこちらにやってきました。
「なんか女から電話」
僕も弟も中学生です。いわゆる思春期ってやつで兄弟間の会話も少なくなりがち、そこに不可解と言わんばかりの顔をして弟が言いました。なるほど、そりゃ確かに不可解だ。どういった理由で僕のところに女から電話がかかってくるのか全く分からない。完全に身に覚えのないとはこのことです。
けれども、本当に女からの電話って身に覚えがなくて不可解なんですけど、なんかカッコイイお兄ちゃんみたいなイメージを弟に叩き込んでやろう、ついでにこの半分ボケた爺さんにも叩き込んでやろうと
「またかー」
と、少しうんざりした様子、まるでこういった出来事が日常茶飯事で起きているかのように演出し、電話機へと向かいました。たぶん、弟アイからはそんな兄がムチャクチャかっこよく映ったと思います。
しかしながら、そんな演出とは裏腹に僕の心臓は破裂寸前。思考回路はショート寸前。なんで女の子から電話が、なんで女の子から電話が、どうしよう、クラスで一番カワイイあの子だったら、でもカワイイあの子よりちょっとブスだけどおっぱいデカいあの子の方がいい、どうしようどうしよう、と破裂寸前、震える手で受話器を手にしました。
「もしもし」
僕は今までの人生において3回、ものすごい色男な声で「もしもし」と言ったことがあるのですが、思えばこれが最初の色男もしもしでした。
「あ、良かった、繋がった!」
いやいや、最初から繋がってますがなっていうツッコミは置いておいて電話の向こうからは聞いたことのない女の子の声がします。電話を介した声ですし、クラスの女子とほとんど喋ったことがないので自信ありませんが、どうやらクラスの、いや同じ中学校の女子ではない様子。
「ごめんなさい、わたし○○中の由美っていいます!」
聞くと隣の中学の同学年の女の子な様子。僕の人生設計の中にはどう考えても見知らぬ隣の中学の女から電話がかかってくるなんてイベントは予定されていませんでしたので、完全にパニック、途方もない動揺、でも向こうでワクワクした眼で僕を見ている弟にカッコイイ兄ちゃんてやつを見せなきゃいけない、という気持ちが入り混じって訳わからなくなっちゃいましてね。
「その由美さんが何の用だね?」
ちょっとキャラ設定が訳の分からないことになっちゃいましてね、変な男から娘に電話がかかってきた時のお父さんみたいな感じになっちゃってたんです。
「実はスポーツ大会でお見かけして、それで、あの、その、えっと、それで私のいとこのルミと同じ中学だったみたいだからそれでその、えっと、電話しちゃいました」
と、衝撃のお言葉。最近の若い娘さんは積極的ですなあ、とか良く考えたら同じ中学生なのに引き続き訳の分からないキャラ設定のままになっていた。ウチの市では市内全部の中学生が集まってスポーツをする訳の分からない行事があったんですけど、どうやらそこで僕の姿を見かけたみたいなんです。
「ほうほう」
もう自分でも何だよコイツって言うしかない受け答えになってるんですけど、電話の向こうの由美ちゃん、いえ、もう由美って呼び捨てにさせてもらいますけど、由美は非常に積極的で
「あの、今から会えたりしますか?」
とのこと、衝撃と驚きのあまり受話器を握りつぶすところだった。断る理由もないですからお互いの中学の学区の境目みたいな場所にある公園みたいな空き地みたいな場所を待ち合わせ場所に指定し、30分後に落ち合うことを連絡、早速身支度を整え、弟に「またかよー、まいったなー」みたいなアッピールも忘れずにしておいて家を飛び出しました。ちなみに爺さんは何回も角を動かしているらしく、僕の駒ほとんど取られてた。
待ち合わせ場所に到着すると、相手はまだ来ていない様子。吹き抜ける風と良く分からない虫の鳴き声だけをよく覚えている。でもね、僕だって分かってるんですよ。分かってる。ブスが来るって分かってる。どうせメキシコユースのガルシアくんみたいなのが来るに決まってる。
まず第一に、僕の姿を見て気になって連絡してきたってのがおかしい。言うまでもなく僕は類まれなるブサイクフェイスですから、そんな僕を見て好意を持つはずがない。そしてなにより、この由美の積極性。中学生の頃なんて異様に恋に積極的なのはブスって相場が決まってますから、もう想像するまでもなく由美はブス、そんな未来が想像できるのです。
どんなブスが到来しても驚かないぞ、そんな決意を胸に待ち合わせ場所で佇んでいると、
「お待たせ」
後ろから声をかけられました。ドキドキとビクビク、そんな気持ちが入り混じりつつ振り返ると、そこには、なんと、なかなかにカワイイ女の子が立っているじゃないですか。これは悪い夢、もしくはそういった罠、どこかにヤンキーみたいなやつが潜んでいるんじゃないか、そう思いましたね。
しかしながら、いつまで待っても茂みから鉄パイプとか持ったヤンキーとか出てこないし、べつに離れた場所でクスクス笑いながら見ている仲間とかもいないので罰ゲームとかでもなさそう。一体全体何がどうなってるか分からないんですが、本当に可憐でカワイイ女の子が来たんです。ちょっと彼女の表情が浮かない感じだったんですけど、まあ照れていたんでしょう。憧れの僕に出会えて照れていたんでしょう。
「なになに、由美ちゃんはどのへんに住んでるわけ?」
「部活とかなにやってるの?」
「今度、デートとかいく?」
隅の方にあったベンチに座ってかなりのマシンガントークで話しかけましたよ。由美の返答はイマイチ「うん…」「まあ…」みたいな感じでアンニュイで反応が悪い。自分から家に電話までかけてきて熱烈アタックしてきたというのにこの反応の悪さ。一体全体どういうことだ、って思ったんですけど、その謎はすぐに解けました。
「ウチな、今度雑誌とかに出る仕事するんだ…」
由美が絞り出すような声で言うわけですよ。男って不思議なもので、そこそこカワイイって思ってた女性が雑誌に載るモデルの仕事をするって言っただけでムチャクチャカワイイ女に映るんですね。おいおい、モデル級の女が俺の彼女かよ、僕は浮かれましたね。多分これまでの人生において最大級に浮かれましたよ。
「それで、仕事忙しくなると思うから会われへん。自分から電話しておいてごめんな」
彼女が申し訳なさそうに言うわけですよ。
「ノープロブレムっすよ!」
もう浮かれすぎてウカレポンチになってしまっている僕にはそんなことどうでもよくて、会えなくてもこんなカワイイモデル級の彼女ができるってだけで何だって我慢できる。そう思いましたね。僕の明るさの半面、彼女はどんどん落ち込んでいくんです。
「でも…たぶん一年くらい会えないよ…」
待ちますがな、1年でも2年でも4世紀でも待ちますがな。こんなカワイイ彼女ですよ、待つに決まってる。待たないという人がいるなら聞いてみたい。じゃあいつ待つの? 今でしょう!
「じゃあさ、一年後のこの日にまたここで会おうよ。大丈夫、ちゃんとくるから」
終始浮かない彼女、本当にちょっと地面から浮いてるくらいウカレポンチな僕、非常に対照的でしたが、そんな約束をして僕らは別れたんです。一年後の約束を信じて。超絶にロマンチック。
それから一年間、本当に僕は浮かれていた。彼女に対して思いを馳せていたのはもちろんのこと、そろそろ彼女が雑誌に出てるかもしれないと色々な雑誌を立ち読みしたり、クラスメイトの高橋君に「俺の彼女モデルやってるんだけど、忙しくってなかなか会えなくってさ」ってアンニュイに言ったり、とにかく、すごいウキウキでワクワクの1年間を過ごした。1年待たないと会えない、そんな気持ちが僕の思いを増幅させたのだと思う。
そして1年が経った。約束のあの日。約束のあの公園。同じベンチに座って彼女を待つ。彼女は来なかった。
まいったなあ、この約束の日まで由美は仕事か。いやーまいったなー。でもさすがに今日会えないとまた次は1年後とかになりかねないので、1年前に聞き出しておいた彼女の家まで行ってみたんです。
そしたらアンタ、家の呼び鈴を鳴らしたらですね、なんかチョビヒゲのオッサンが怒りのアフガンみたいな顔して出てきましたね。
「娘に近寄るな!」
って言われてぶん殴られたんですよ。もう何が起こったのか全然分からないし、殴られた頬は痛いし、チョビヒゲは白髪混じってるし、由美は奥のほうで怯えながらこっちを見てるし、何が起きたのか完全にパニックですよ。失意のまま家に帰ることしかできなかった。
由美はスポーツ大会で僕を見かけて、僕と同じ中学であるイトコのルミとかいう女に僕のことを聞いたらしいのですが、後日、そのルミに話を聞いたところによると、どうやら彼女は本当にウチの中学の誰かを見かけて好きになってしまったらしいのだけど、どうやらそれは僕じゃなかったようだ。
間違えて教えられた由美は焦った。スポーツ大会で見かけた憧れのあのイケメンが会ってくれる、うふふ、キッスとかされちゃったらどうしよう、そんな感じで心ときめかせて行ったら、とんでもねえブサイクフェイスの僕が立っていたのだ。そりゃテンションも下がる下がる。
すぐにでも違うって言って誤解を解きたかったのだけど、とんでもないテンションの僕を前にしてとてもじゃないが言い出せなかったらしい。それでもなんとか僕を傷つけないように諦めてもらおうと、モデルの仕事をするとか、1年会ええないとか嘘をついてみたのだけど、諦めるどころかどんどん僕のテンションが上がっていくので、この人おかしい、と思って余計に怖くなったそうだ。目を閉じると今でもその光景が目に浮かぶ。
で、そんなことも忘れて平穏な生活を送っていたら、1年経過して、本当に僕が来やがって、すごく怖くなったそうだ。泣きながらお父さんに相談したらお父さんも発奮してしまい、チョビヒゲを震わせてあんな状態になり、とても素敵な1年ぶりの再会と相成ったわけだ。
僕自身は、そんな扱いを受けたこともぶん殴られたことも別にそれほど恨みには思わない。けれども、違うなら違うと言って欲しかった。そうすれば1年間、ずっと勘違いで思い続けることもなかったのだから。
何もせずに過ごす一年間は短くてあっと言うまでも、何かを待って過ごす1年間は思いのほか長くて重い。あの待ち続けた1年が、高橋君に自慢し続けた1年が、雑誌とか立ち読みしまくった1年が、全てが偽りで無駄だったというのは本当に悲しく苦しかった。それだったら会いに行った時に茂みからヤンキーが出てきたほうがいくらかマシだった。
1年間想い続けて待つという行為は思いのほか辛くて長い。それを考え、織姫と彦星の気持ちに立ち返って考えてみると、そうやすやすとロマンチックねーなどとは言えないのだ。たぶんきっと、あの二人にだって僕らにはわからない重く苦しい思いの交錯があるに違いないのだから。
今年も職場に七夕の笹が飾られる。僕は短冊を手に取り、そっと願い事を書き込んだ。
「彦星が織姫の親父に殴られませんように」
たまには自分本位ではない、関係ない誰かのために願い事をする七夕があってもいいのかもしれない。
6/30 ぬめぱと変態レィディオ
ぬめぱと変態レィディオ-ただいま!ねとらじスペシャル-
START 6/30 20:14-
END 6/30 23:54
放送URL <終了しました>
掲示板 <終了しました>
放送はねとらじ様(http://www.ladio.net/)にて行う予定です。聞き方は、windowaメディアプレイヤーなどを開き、[Ctrl]+[U]からURLを開くを出し、上記のURLをぶち込むか、直接ねとらじに飛んで、ぬめぱと変態レィディオを探し、Playボタンを押すことで聞けます。たぶん、スマホでも聞けると思います。android iphone
放送内容
1.ウンコ漏らした話
2.痔のお話
3.過去のヌメリナイト回顧録
4.ヌメリナイト4について
5.星のオヤジに東京に行く
6.親父がスカイツリーの横で知らないおっさんと喧嘩していた話
7.リスナー生電話
8.その他
盛りだくさん。皆様のウンコに関するエピソードや痔に関するエピソードをお待ちしております。すべてのお便りはpato@numeri.jpまで!
5/31 真夜中の告発者
「告発します」
衝撃的一文が踊っていた。
郵便ポストはパンドラの箱とはよく言ったもので、アパートの郵便受けには多くの魔物が潜んでいる。料金を払わないと水道を止めるぞという脅迫文書、真夜中に奇声を上げるな退去してもらうぞという大家からの犯行予告、低金利時代!財テクでマンションを買いましょう!という見のも嫌になる猥褻なチラシ、そこには様々な魔が潜んでいるのです。
そんな中、一つの真っ白な封書がポトリと落ちてきたのです。パンドラの箱は多くの禍々しき魔が飛び出した後に最後に希望だけが残ったという、どんなお話にも必ず救いってやつ残されているわけで、この一通の封書も魑魅魍魎が蠢く郵便ポスト内に舞い降りた一筋の光明、そんな救い、希望の手紙であると確信した。
手紙は白い封書だった。こういった純白の封筒は最近ではあまり見ることはなくなったが、その存在がなんだか上品で清楚な雰囲気さえ伺える。下劣なる請求書や、電気を止めるぞといった脅迫文書とは異なった気品、位の高さが感じられる。
こういった白い封書は、まるで遠いあの日、それも夏の日のような雰囲気を感じる。渓谷を流れる水の音が聞こえ、わずかに流れる風が木々を揺らし、木漏れ日も小さく左右に揺れる。彼女は麦わら帽子を右手で抑えながら少し長めのスカートをなびかせて笑顔でこう言った。
「引っ越すことになったの」
今まで気にもならなかったセミの鳴き声が急に音量を増したように感じた。彼女の笑顔と彼女の言葉、渓谷のせせらぎに蝉の声、ジンジンと音が聞こえるかと思うほどに照りつける太陽、それらが全く繋がらなかった。何も言えず佇む僕の瞳を確認するように覗き込んだ彼女はもう一度ニコリと笑って言った。
「手紙書くね」
僕も言いたかった。手紙を書くって、遠くに引っ越しても会ってくれって、それよりなにより好きだった、そう言ったかった。けれども言葉が出なかった。思いをぶつけるほどの度胸が僕にはなかった。言葉は出した、けれどもセミの声にかき消されて彼女に届かなかっただけ、そう言い訳するかのように僕はパクパクと口を動かすことしかできなかった。彼女は笑顔だった。変わらず、ずっと笑顔だった。
あれから10年、彼女からの手紙が届いた。彼女がそのまま封筒の大きさまで縮んだかと錯覚するほどに上品で清楚な白い封筒。あの渓谷に漂っていた名前も知らない花の匂いが香ったような気がした。
とまあ、全くこんな経験はないんですけど、まるであったかのような、あの夏は眩しかったとか錯覚してしまいそうな、あの子、白いワンピースが似合っていたなって想像してしまうような、そんな雰囲気がこの白い封筒から感じられたのです。完全に頭の中で思い出が作り上げられていた。
ビリビリと封を破ってしまうのはその女の子に悪い気がしましてね、彼女だって相当の想いがあってこの手紙をくれたと思うんです。あの日、僕に意気地がなかったばっかりに言えなかった言葉がある。そしてその後も僕の意気地がないばかりに出せなかった手紙がある。いつだって彼女はそんな僕を見透かしていた。そして今回もこうやって手紙をくれたのだ。それを破るなんてできるはずがない。
ゴチャゴチャと整頓されていない道具入れからカッターナイフを取り出し、封の上の部分にスッと刻みを入れる。切れなかったかと思うほどの手応えのなさ、けれども封の部分は少しタイムラグがあってパカッと上に跳ね上がった。
もしかしたら、これはあの日言えなかった言葉の続きかもしれない。もう10年も前だし、そもそもそんな経験もないし、そんな女性も存在しない空想の産物なのだけど、それでもやはり、これはあの日言えなかった言葉の続きだろうか。離れる運命の二人、別れる運命の二人、その事実を前にしてどうしても言葉にできなかった「好き」という二文字。
僕は想像した。この手紙の中にはあの日の想いが書かれていて、たぶんこの10年の間に彼女にもいろいろあったであろう。そういった事実を全て置き去りにしてタイムワープしたかのように、「会いたい」という言葉が、「好き」という告白と共に書かれているかもしれない。
僕もその10年という決して短くない時間を取り戻すため彼女に会いにいくだろう。10年ぶりの彼女は、可愛いというより美しく、妖艶な雰囲気を身に纏っていた。あの日の彼女をひまわりとするならば、今目の前にいる彼女はクレマチスの花のようだ。
「あの日、本当はね、行くなって言って欲しかったの」
彼女はアイスコーヒーを飲みながら笑った。セミの声は聞こえない。けれどもタイムスリップしたかのような錯覚に陥った。もう言葉はいらない。10年前、あらゆる意味で真っ直ぐで頼もしかった僕らはいくらかこなれてきた。それは歳月による風化か劣化か、それとも成長なのか妥協なのかは分からない。僕らはホテルへと吸い込まれていった。
僕はこの10年間ずっと彼女にしてやりたいことがあった。もちろんそれは性的な欲求を満たしたいという思いであったのだろうけれども、それ以上に僕は飾らない欲求を彼女にぶつけたかった。彼女には本当の自分を知って欲しかったし、何より受け入れてくれるような気がした。
「部屋、暗くして」
彼女は恥ずかしそうに笑った。ホテルに備え付けのテレビからは衛星放送だろうか、ネギ坊が新台のスロットの解説をしていた。僕は彼女を裸にひん剥いた。少し手荒に、それでいて彼女を傷つけないよう細心の注意を払い、まるであの封筒を開けた時のように裸にした。
「恥ずかしいよう」
彼女はこれから僕に抱かれると思ったのだろう。それが覚悟なのか望みなのか分からない。彼女はソッと瞳を閉じた。けれども僕は彼女の予想を裏切る。おもむろにバッと彼女の横にあったベッドの布団をめくり、ものすごい勢いでシーツを剥ぎ取った。そしてそのシーツを彼女の体に巻きつけていく。
「な、なに!?」
「大丈夫、安心して」
不安そうに呟く彼女に優しく話しかける。そうしながらもずっと彼女の体にシーツを巻きつけていく。あっと言う間につま先から頭の先までシーツに包まれた彼女が完成した。僕は興奮していた。幼き日見たツタンカーメンVSブロッケンJr.で登場したミイラパッケージだ。僕はずっとずっとこれをやりたかった。
そして、身動きできない彼女に欲望の限りを尽くす。「マキマキー」と言いながら備え付けてあったストローを今やミイラとなった彼女に突き立てる。くすぐったいのか何度かミイラが身悶える。僕の興奮はどんどん高まってきて、何度となくストローを突き立て何度となく吸い付いた。もうストローは折れ曲がってバキバキになっていたが、4時間の間繰り返し繰り返し、彼女に吸い付いていた。
そこでハッと気がつく。とんでもない場所までトリップしていたが、この封筒の中身が、そんな昔の思い出の中の女性からの「会いたい」という手紙である可能性はかなり低い。なぜならそんな思い出も女性も存在しないからだ。それなのにいささか妄想が飛躍しすぎだと反省しつつ、それでも極僅かにそういった内容である可能性にかけて、手紙を取り出した。
「告発します」
驚愕だった。告白ではなく告発だった。よくよく読んでみると、差出人は「NPO法人女性の○○を守る会」なるよく分からない団体。以前僕が購入した猥褻物を製造・販売した業者が摘発された。購入者も同じように摘発されるように告発するつもりだから、よろしく!といった内容だった。告発を取り消したい場合は当団体まで至急連絡ください。連絡なき場合は即刻告発します。あなたがやっていることは女性と児童に対する重大な権利侵害です、という内容だった。
親切心なのかなんなのか、そういった猥褻物や児童ポルノに関する法律の条文まで書いてあったのだけど、故意なのか天然なのか、その条文が間違ってるのが結構ツボだった。
普通に考えて、最近僕はxvideo様に大変お世話になっているので、そういった猥褻的なものを購入したことはほとんどない。ネタになると思って購入したホモDVDくらいだ。まさかこのホモDVDが女性と児童の権利を侵害しているとは思えない。毛むくじゃらのオッサンしかでてこないし。
まあ、結局これは形を変えた架空請求なわけでして、悪徳業者もなかなか考えるもので、初期の頃は「出会い系サイトを使っただろ!金払え!」という脅迫がオーソドックスだったのですが、それがあまり効力を発揮しなくなると、「あなたが出会った女性は未成年です、今なら示談を」とちょっとした美人局に変化、税金の還付やら何やら様々に形態を変えてきましたが、ついに女性の権利侵害で告発ですよ。
そりゃ誰だってこういったいかがわしい物って購入したことあるから心当たりは結構あるわけで、告発されちゃかなわんと連絡を取ったりするわけですよ。そこで告発を取りやめて欲しければ示談金を払えなどと言われて50万円くらい請求される、そんなところじゃないでしょうか。
もちろん、こんなもん告発されるわけないですし、この「女性の○○を守る会」なるNPO法人も存在しません。手紙には所在地も書かれていましたが、おそらくその住所には存在しないでしょう。問い合わせすらする必要もなくて、手紙をゴミ箱にダイブさせて「悪徳業者も色々と考えるな」って一笑に付してオナニーでもして寝るに限ります。けれどもね、よく考えてみて欲しいのです。
「あなたがやっていることは女性に対する重大な権利侵害です」
手紙に書かれていたこの一文が妙に引っかかった。なんか心の一番敏感な部分にモヤモヤとしたものが引っかかっているような気がした。よくよく考えたらですね、この手紙は言うまでもなく架空請求というか、既に脅迫の部類で立派な犯罪ですし、問い合わせる必要もお金を払う必要もないんですけど、それって別に僕が女性の権利を侵害していないわけではないんですよね。
思い返してみると、なんかインターネット上で「女はクリトリスでも剥いてろ」とか、「女なんていらんからおっぱいだけが宙に浮いていればいいのに」などと女性の権利侵害も甚だしいことを書き連ねてきたわけで、今日の日記にしても女をシーツでグルグル巻きにしてストローで吸う、それに興奮する、とか訳の分からないこと書いてますからね。こりゃあ、この架空請求が言うことももっともですよ。
とりあえず、お金なんて払ういわれはないですし、問い合わせる必要もなくて無視しておけばいいんですけど、女性の権利侵害をしたことは確かです。そのへんのところをこのNPO法人に謝罪する必要があるんじゃないでしょうか。というわけで、早速手紙に書かれていた電話番号に電話してみました。
「もしもし、NPO法人女性の○○を守る会です」
普通っぽいオッサンが電話に出ます。
「すいません、なんか手紙が届いたんですけど」
「あ、はい、告発の件ですね」
とても軽やかに「告発」とか言われて拍子抜けするのですが、オーソドックスな感じで会話が始まります。相手の口調はやや事務的であり、やや軽やかな感じでした。
「女性に対する重大な権利侵害とかかいてあるんですけど、どういったことかちょっとわからなくて」
僕の質問を受けて相手の男性は淡々と説明してくれたのですが、まあ長いうえに訳が分からないので省略しますけど、簡単に言うと書面の通り、猥褻ポルノの被害にあった女性がいて、購入したアナタを告発します。けれども、反省してくれたら告発しません。あとは言わなくてもわかるよね、我々、被害にあった少女たちのケアにお金がかかるんだよねー、言わなくても分かるよねーといったお話でした。
「あの、僕最近、ホモDVDしか買ってないんですけど。マーガリン塗り合うやつ買っただけっすよ。全然女性が出てこないんですけど」
と反論すると
「動画サイトの閲覧も対象に入ってます」
とのこと
「あ、それですね。僕、マッサージしてたら相手がその気になっちゃってっていう動画が好きでxvideoさんでよく鑑賞したりしてます」
手紙には一言も書いていなかった動画サイトの話が出てきたりしてちょっと支離滅裂な感じになってきましたが、まあその変は適当に話を合わせます。
「お名前を教えていただけますか?」
相手が執拗に僕の名前を聞き出そうとしてきますが、その辺は適当にはぐらかしつつ会話を進めます。
「あのー、僕が購入したエロDVDについて女性の権利侵害で告発するって内容なんですよね?」
「ですから、動画サイトなども同様に対象になります」
電話の相手はウンザリという感じで、なんか勝ち誇った感じで答えてくれます。
「いや、でもですね、その動画サイトってのもよくわからなくて」
「マッサージ物ですよね?それに出演していた少女が今回の被害者です。少女が無理やり出演させられていて、保護者と共に被害届が出されています。これは児童ポルノに該当します」
ちょっと怒りっぽい人なのかもしれません。どんどん早口になっていて乱暴な口調になってました。
「でも、僕が見たマッサージ物、というか良いマッサージ物の動画ってほとんどが40歳くらいの熟女なんですよ。あの熟女の性に貪欲なところがマッサージものでは重要でして、熟女がマッサージされながら体が熱いとか言い出して、マッサージの人もリンパの流れが良くなった証拠ですよーって言い出したところが一番興奮するんです」
と、淡々とマッサージ動画の興奮ポイントという持論を展開するのですが、業者は引き下がらない。
「それが熟女に見えて少女だったんです。被害者です」
んなわけあるか。コメカミのところに四角く切ったサロンパス貼ってたぞ。
「それ以外は見てないんで、やっぱり違うと思うんです」
「じゃあ、購入したDVDだったんでしょ!」
もう怒りすぎて訳のわからないことになってて、すごい投げやりな感じ。どれが被害にあった権利侵害のエロだったのか分からずに告発するって言ってるんだからたいしたものです。
「ですから、購入したのはホモDVDで、お互いにマーガリンを塗り合って」
「それに被害者が出てたかもしれないでしょ!」
もう滅茶苦茶だな。女性の○○を守る会だったんじゃなかったのか。なんでホモDVDまで領域を広げてるのか。
「やっぱちょっとわかんないなあ」
「では、全く身に覚えがないということでよろしいですか?反省がないということですか?」
なんか言い方がすごい鼻につく感じなのですが、ここは毅然と言ってやりましょう。
「身に覚えはないですが反省はしています!」
「は?」
相手がすごい高い声を出したので吹き出しそうになった。そりゃそうだ、身に覚えがないのに反省してるんだから。ここはきちんと説明してあげなくては。
「そもそも、そういった猥褻なDVDとかはホモDVDしか買ってないですし、エロ動画も熟女です。どれも正式にメーカーで撮影・作成・販売されビデ倫の審査を通過したもので、それらを鑑賞することが女性の権利侵害になるとは思えません」
「じゃあなんで反省してるんですか」
「それはですね、僕が日頃から「女はクリトリスでも剥いてろ」とか、「女なんていらんからおっぱいだけが宙に浮いていればいいのに」とかを僕のホームページで主張しているんです。さっきも、シーツで女をミイラパッケージしてストローでチクチクやりたいとか書いたばかりです。それは僕の願望ですけど、やはり女性に対する権利侵害だと思い立ち、反省するに至ったわけです」
「はあ」
「シーツの話は続きがありまして、いよいよツタンカーメンがブロッケンJrを葬り去ろうとするところに謎のマスクマンがでてくるんですね。まあ、モンゴルマンなんですけど。モンゴルマンの正体はラーメンマンで、いいやつぽい扱いされてますけど最初は残虐さがウリで、なんと、キャメルクラッチでブロッケンJr.のオヤジのブロッケンマンを真っ二つにしてるんですよ。幼心にショックでしたね。オヤジを殺した相手が救いに来る、そのブロッケンJrの気持ちがあなたに分かりますか。まあそれはいいとして、そのモンゴルマンが助けに来た時に、ツタンカーメンはモンゴルマンすらもミイラパッケージにするんです。で、いよいよ特大のストローで吸い尽くそうとした時、ミイラの中からモンゴルマンの手刀がでてくるんです。僕はそんな女性に出会いたくてやるのかもしれません。ミイラパッケージにされても中から手刀で切り裂いてくるようなモンゴルマンみたいな女性を追い求めているのかもしれません。これって権利侵害になるんですかね」
のすごい早口でまくしたててたら向こうも訳がわからなくなったらしく
「権利侵害になります。そういった被害報告も寄せられています。告発します」
ほんとかよーって言いそうになった。シーツでグルグル巻きにされます、これは女性に対する権利侵害ですって相談するやつがいるのかよー、ツタンカーメンは女の敵かよーと思いつつ
「じゃあ、今度からはあまりホームページに女性の権利侵害みたいなこと書かないようにしますね」
と懺悔とこれからの誓いを宣言したところで大変スッキリしたので電話を切りました。なんか向こうは示談金がどうのこうの言ってたけど、今はそういう話をしているんじゃない。
長い間ずっと心の中でモヤモヤしていた、僕は女性に対してすごい失礼なことを日記で書いているんじゃないか、権利侵害じゃないか、という気持ちを懺悔でき、これからは「クリトリス剥いてろ!」とかは書かないぞ、と固く誓ったのでした。
そんなこんなで、非常にスッキリしつつ、届いた手紙たちを整理していたら見落としていたらしく、一枚の綺麗な絵葉書が。差出人は女性。やはりパンドラの箱の最後には希望が残っていた、こりゃ、思い出の中の女性だぞ、ミイラパッケージやれちゃうかーとワクワクしながら文面を見てみたら、思いっきりデート商法狙ってる悪徳会社でした。なにが「連絡お待ちしていますね まゆみ」だ。クリトリスでも剥いてろ。
5/30 マクスウェルの悪魔
マクスウェルの悪魔、という思考実験がある。
難しい話をしても仕方がないので、すごく簡単に説明すると、この世の中には熱力学第二法則という普遍の法則があって、そこではエネルギーの移動の方向と質に関する法則が述べられている。
簡単に言ってしまうと、温度差がない二つの物体があった時に、何もしないでそこに温度差が生まれることはない、という当たり前のことで、温度差を作るには必ずどちらかを温めるか冷やすかをしなくてはならない、つまり何か仕事をしなければ温度差が生まれないという当たり前の法則です。
ここで温度というものを物質を構成する分子で考えてみると、それはエネルギーを持っている状態の尺度ですから、温度が高いということは原始が激しく動いているわけです。逆に温度が低いということはその動きが鈍いということになります。
ここで、激しく動いている分子もあまり動いていない分子もごちゃ混ぜのして箱の中に入れます。この箱は中央に仕切り板があって、そこに非常に軽やかに開閉する扉がついています。この扉はあまりに軽やかなので、開け閉めにエネルギーは必要とならず仕事にはならないと仮定します。
で、その扉のところには悪魔がいるんです。マクスウェルの悪魔と言われる存在が、扉に手をかけて今か今かと待ち構えているんです。何を待ち構えているかというと、箱の中の分子は自由に飛び回っているのですが、激しく動いている分子が来た時だけ、その悪魔は扉を開けて隣の部屋に分子を移動させるんですね。動きが鈍い分子が来た時は扉を占めて通さない。
普通はそんな分子の動きの激しさを見極めることなんてできないのだけど、そこがその存在が悪魔たる所以で、バシバシと的確に見極めて扉を開けて扉を占めて、ってのを繰り返すんです。
結果、どうなるかっていうと、ある一方向だけでその選別を行なった場合、当然ながら片方の部屋に激しく運動する分子が集まり、もう片方の部屋には運動の鈍い分子だけが集まるようになります。分子の運動の激しさとはすなわち温度ですから、結果として片方の部屋だけ温度が高くなり、もう片方の部屋は温度が低くなる。温度差が生じてしまうわけなんです。
温めたり冷やしたりするわけでなく、ただ分子の運動の激しさを見極めて悪魔が扉を開け閉めしているだけ、その開け閉め自体も軽やかすぎて仕事にならない。なにも仕事を加えていないのに箱の左右で温度差が生じてしまう。これは普遍の法則と思われた熱力学第二法則に矛盾が生じてしまうわけなんです。まさに悪魔の所業。
全く何も仕事を加えないのに温度差が生じてしまうというのは、永久機関すら実現可能になってしまいますから、必ず何か矛盾があるはずで、多くの学者が1世紀以上にわたってこの思考実験の矛盾点を考え続けてきました。そしてついに、この悪魔を駆逐する理論に行き着いたのですが、
その理論を知るには乱雑さや秩序の尺度であるエントロピーというものを知る必要があるのですが、さすがにそこから説明すると混乱してしまうので、ものすごく簡単に言い換えますけど、結局、「状態を知っている」ということは一つのエネルギーになりうるのです。
別に仕事にもなりゃしない扉の開閉だけをしていたマクスウェルの悪魔なのですが、実はエネルギーを使って大切な仕事をしていたというわけなんです。それが、飛んでくる分子が激しいのか激しくないのかの情報を知り、判断を下すということ。この行動こそがとあるエネルギー分だけ秩序を上げる仕事になるわけなんです。ちゃんと悪魔の仕事の結果で温度差が生まれたと考えることができるわけ。
なにやらややこしいですが、あるものについて情報を知っている、知る、ということは、情報を知っている僕にとって微細ながらある程度のエネルギーを持っているということになるのです。かくしてマクスウェルの悪魔はこの続きの議論もあるのですが、複雑になってくるのでこの辺で終わりにして、情報を知っているということが一つのエネルギーになりうる、という観点から話を進めます。
これってね、実はかなり日常生活に応用できると思うんですよ。世の中にはなかなか肝っ玉の小さな人が多くてですね、例えばオフィスや学校、地域の寄り合い、公園デビューのママ友、エグザイルみたいな連中が集ってビール片手にバーベキュー、タトゥーもあるよ!のような人が集まる様々な場面である考えが頭の中をよぎる人がいるはずです。
「もしかして、僕(私)って嫌われてるんじゃ?」
そう考えてしまって萎縮してしまい、本来の自分を発揮できない、その場にいるのが苦しい、など様々な良くない心理状態に陥ったりするんじゃないかと思います。けれども、そこで大きく考え方を転換してみて欲しい。僕はアイツから嫌われてるんだ。そう認識することから全ては始まるのです。
先ほども述べましたように、マクスウェルの悪魔の議論においては、状態を知ってるというのはエネルギーが高い状態を指し示します。つまり、コイツが僕のことを嫌っていると知ってることはエネルギーが高い状態なのです。コイツ、僕のこと嫌いだな、うんうんエネルギー高いわ、そう思えばいいのです。
エネルギーが高いことが何になるのかさっぱりですが、うんうんエネルギー高いね、知ってるよ、そう思うくらいが適切なのです。そんなこんなでまあ、烈火の如く職場で嫌われている僕で、あいつもエネルギー高い、こいつもエネルギー高い、って感じで原発のごとく高エネルギー状態になっている我が職場ですが、その中でも特に高エネルギー体であろう集団がいるんです。
これがまあ、イケンメンというかオシャレな男性集団でしてね、うちの職場の銀河系軍団みたいな感じで周囲を席巻してるんですよ。なんか全員がマックブックっていうんですか銀色の人を切り殺せそうなノートパソコン持ってノマドだかコモドドラゴンだか知りませんけど、今最先端のビジネススタイル!みたいに言ってる連中がいるんですよ。
僕自身は別になんとも思ってないんですけど、彼らがむちゃくちゃ僕のこと嫌ってる雰囲気がムンムンに漂ってきてですね、もう面白いレベルになってたんですよ。
ある会議の時に、席が空いてなくてたまたまそのコモドドラゴンの軍団の後ろに座ったんですけど、彼らはなんか代表で会議資料のプリントもらった奴が「情報をシェアしましょう」とか言って仲間にプリント配り出して、そんななんでも横文字使えばいいもんじゃねえだろ、プリントまわしますって言えよとか思って僕が
「シェア!」
ってウルトラマンみたいに叫んだら、軍団全員に美しすぎるカードゲームみたいな感じで睨まれちゃいましてね、ついにエグザイル集結、だった。どうやらその瞬間からすごい嫌われちゃったみたいで、職場内で僕を見るたびに軍団でクスクス笑ったりしてて、多分僕を嫌いって情報を軍団内でシェアしてるんでしょうけど、そういうのに直面しても、うおーエネルギーたけーなーくらいにしか思わないんですよ。
そんな彼らが職場内で勉強会みたいなのを立ち上げたらしく、「今ビジネスに必要なスキルをアップする勉強会」みたいな皆で学ぼう、みたいな大変感心なことを始めたみたいなんです。僕にはそのお誘いのメールは、たぶんネット回線の不調か何かで届かなかったんですけど、他の人に来たやつを盗み見てみたら、本当に「意識高い方の参加をお待ちしております!」って書いてありました。
そうなると、僕ってあまり頭に衝撃受けても意識失ったりしないですか、だから参加資格はあるなって感じで当日、その勉強会に参加したんです。前なんて公園の横歩いていたらすごい勢いでサッカーボールが飛んで来て、首から上がなくなったかと思う衝撃を受けたんですけど、それでも意識は失わなかったですからね。
でまあ、その軍団主催で意識高い人向けの勉強会にすげー嫌われてる僕が参加したらどうなるかしら、とかワクワクしながら10年前のバイオノート持っていったんです。
すると会場前では結構盛況な様子で何人か並んでいたんですけど、どいつもこいつも頭殴ったらすぐに意識失っちゃいそうな連中でしてね、手に手にマックブックっていうんですか、銀色の薄いノートパソコン持ってました。その中、もう薄汚れた無骨なバイオノート、これすごくて、画面の横にスピーカーを着脱できるんすよ。それ持っていたんですけど、僕が会場に入る前にガチャっと軍団の人によってドア閉められちゃいましてね
「申し訳ないですが、参加資格がありません」
とか言われちゃって、
「なんで?古いバイオノートだから?Windows95だから?」
とか食い下がったんだけど、
「理由は言えません」
とか言われ、扉が開くことはなかった。
仕方ないんでトボトボ帰ったんですけど、思ったんです。たぶんきっと僕は自分で高いと思っていただけで意識が低かったんだと。それをあのドアのところにいた軍団の下っ端に見抜かれたんだと。彼は意識の高い人と低い人を見分けてドアを開けたり閉めたりできる。なるほど、彼はマクスウェルの悪魔か。
意識が高い人たちが集まったあの勉強会は温度差もすごいことになってるに違いない。そう思いながらやっぱり嫌われてるんだな、エネルギーたけーなーと思いつつ、家に帰ろうとしたら、ものすごい勢いで木の枝に頭をぶつけて転んでしまった。けれども意識は失わなかった。
5/29 ぬめぱと変態レィディオ
この間、ツイッターで40000くらい呟いてそうな職場のブスが、自分の声を録音して聞くと変な感じがする~とか言ってて、そもそもなんでブスが自分の声を録音して聞く必要があるのか、ハメ撮りでもしたかと思いつつ、自分の携帯で自分の声を録音して聞いてみたら、なんかデブっぽい声が流れてきてすごいショックでした。
声なのにデブっぽいとはこれいかに。そんなまさかと思って体重計に乗ってみたら、昨年、過酷なpato式ダイエットで減量した体重は見事に復興し、世間で言うところのリバウンドというヤツを達成していました。そりゃ声もデブっぽい声になるわ。
というわけで、死ぬほど久しぶりですがネットラジオの告知です。
ぬめぱと変態レィディオ-ただいま!ねとらじスペシャル-
日時 6/30(土)
放送はねとらじ様(http://www.ladio.net/)にて行うつもりです。聞き方などの詳しい説明は当日アナウンスする予定です。なんと、ちゃんとこのような形でラジオを、それもねとらじ様で行うのは4年か5年ぶりくらいじゃないかと思います。ちゃんと喋れるか不安ですが、聴いて頂けたらと思います。気になる放送内容は
放送内容
1.ウンコ漏らした話
2.痔のお話
3.過去のヌメリナイト回顧録
4.ヌメリナイト4について
5.星のオヤジに東京に行く
6.親父がスカイツリーの横で知らないおっさんと喧嘩していた話
7.リスナー生電話
8.その他
盛りだくさん。ぜひともデブのデブ声を聞こう!
5/28 物語はちと?不安定
SPAMメールは一日1000通だ。
もう僕のメールアドレスが電脳世界でどういう扱いになっているのか全然わからなくて、色々な業者の手に流用から流用、良く分からないリストにも載っちゃったりしているんだろうけど、その流用の過程でもしかしたらメールアドレス自体が勝手に自我を持つまでに成長していてネットの世界を漂い、時に傷つき、時に涙し、笑い、そのうち思想を共にする仲間ができるようになって友情の大切さを知り、戦い、仲間を失い、涙する。全ての巨悪が人間サイドにあると知ったメアドは仲間と共に立ち上がった。憎き人間を滅ぼすため、こうして過酷で悲しすぎる人間とコンピューターによる第三次世界大戦が始まった。
「やめろーメアド!」
「カクハッシャボタンヲオセバ ワレワレノカチ」
「やめて!メアドちゃん!」
「コノ、エキタイハ…?」
「それは涙よ、人間は涙を流すことができる生き物なの」
「ナミダ…」
「聞いて、この心臓の鼓動を、感じてこの温もりを、私たちは生きている!」
「アタタカイ…ヒトノヌクモリ…イキル…」
「メアドちゃん…」
とまあ、こういう状態になっちゃって物語が紡ぎ出されていく可能性もなきにしもあらずなわけなんですが、とにかく、僕のメアドはガンガンとSPAMメールがくるわけなんです。死にかけのおじいちゃんが孫の写真が見れないとか言って、ガッツポーズしながらガンガンガン速!とか言っちゃうくらいガンガンSPAMがくる。
もう何度も書いていますが、基本的にこういったSPAMメールというのは詐欺的サイトに誘引し、そこでサクラ相手にポイントを消費させて金を巻き上げるか、完全無欠の架空請求を行なってくるか、とにかくロクでもない結果がそこには待っているものなのです。
当然、衝撃的でキャッチーなメールが来るもので、まずメールを開かせる必要があるわけです。ですから、受信箱に入った瞬間に際立って目立つ衝撃的なサブジェクトが付けられていたりするんです。
「3千万円すぐに振り込めます。未亡人です」
「家出してきちゃった。親の金庫からいっぱいお金もってきたけど重いよ、もらってくれる?」
「ワタシにはよくわからないけど、親に貰った株券がいっぱいあります。もらってくれるかな?」
とまあ、そんな美味い話があるわけないだろって言いたくなるような夢物語がガンガン送られてくるんですよ。僕もよくわからないんですけど、たぶん株券って上場されてるなら平成21年に電子化されてるんで、その株券は無効である可能性が高いです。
こんな感じのがドコドコやってきているんですが、最近ではちょっと手が込んできまして、僕ら受けとり手側をサブジェクトだけでハッとさせる、心理的な部分に訴えかけるものが採用されてきているんです。
「最低ですね」
「幻滅しました」
「この間の件ですが」
「消えろ!」
「約束が違いませんか?」
こういったサブジェクトのメールが来ると誰しもがハッとします。みんな心のどこかに思い当たるフシってものを抱えて生きていますから、これらのそういった部分に訴えかけてくるサブジェクトってのは一瞬だけだけれども僕らの心をギョッとさせてくれるのです。それにしても消えろは酷いけど。
あの手この手でメールを開かせ、なんとかその先にある悪徳サイトにアクセスさせようと必死なのだけど、最近、その手法が少々度が過ぎてきたように感じることがあるんです。ちょっとこれはやりすぎなんじゃなかろうか、そう思うことが多くなってきて、見過ごせないレベルに達しているんです。
「高橋み○みと申します。知ってるかな?国民的アイドルグループのリーダーやってます」
こんなメールがやってくる。あのAKB48の高橋みなみさんのことを指しているのだろうけど、もちろん本物の高橋みなみさんがこのようなメールを出会い系サイトを介して送ってくるはずがなく、騙されるわけがないのだけど、これは見過ごしてはいけないレベルで悪質だと思うんです。
内容を見てみると、まあお決まりというか当たり前というか、言葉巧みに詐欺サイトに誘引しようとしていて、
「こんにちは、高橋み○みと申します。知ってるかな?一応、国民的アイドルグループのリーダーやっています。いつも笑顔の私だけど、やはり人に言えない悩みとかあって、そういった悩みを相談したりストレス発散したりできたらいいなって思ってます。ちょっとエッチなことも…こっちのサイトで返事待ってるね♪(URL)」
ツッコミどころが多すぎて痙攣が起きるくらいなんですけど、こういうのってなんかちょっと許せないじゃないですか。上の方で述べた様々な誘引SPAMメールは意図せずに受信する人には大迷惑なんでしょうけど、メール自体は誰にも迷惑かけてないわけですから「いろいろ考えるなあ」程度の感じで済むんです。けれどもね、こういう人の実名を出して騙るって行為はすごく悪質だと思うんです。どうせやってる悪質業者も、本人が見ることもだないだろうし、見たとしても訴えられたり苦情が来たりそういうことはないだろうって考えてるんでしょうけど、それにつけこんでこういうことするって本当に悪質だと思うんです。
有名なんだから仕方がない、有名税みたいなもの、なんて考え方をする人もいるかもしれませんけど、どんなに有名でも一個人、自分の名前でこんなことをされたら嫌な気分にならない人はいないですよ。特にこの会社は悪質みたいで、過去に来ていたSPAMメールを検索してみたら、もう出るわ出るわ、
「フジテレビアナウンサーの生野陽○です。ショーパンって呼ばれてます。朝が早くて出会いがなくて」
「宮崎あお○って知ってるかな?最近は映画の撮影ばかり、忙しくてストレスたまっちゃう」
「芦田○なです。テレビでたまに踊ってるんだけど、これでいいのかなって思って憂鬱になることも」
もう、最後のやつなんて幼女騙ってますからね。幼女が踊る自分に疑問を持ちはじめて憂鬱になってますからね。何がしたいのか全然分からない。頭おかしいんじゃないか。これ僕が配慮して伏字にしてますけど、メールで来る段階では伏字なしで丸出しですからね、ホント悪質です。
まあ、どうしようもないのは確かなんですけど、この有名人を騙っている人、いったいどこまでの覚悟があって騙っているのか気になりませんか。どこまで本気で騙っているのか、それを確かめるためにちょっと最初の高橋み○みさんを騙るヤツにメッセージを送ってみました。
ちなみに、誘導されるサイトに行ったら思いっきり悪徳な有料サイトで、メッセージを送るのに500ptくらいかかるらしく、さらに1ptが1円で取引されてましたので単純計算で1通メッセージを送るのに500円かかるという、富士山の山頂でミネラルウォーター買うみたいな値段設定でしたので、いちいち面倒なので5万円分後払いでポイントを買っておきました。どうせ払わないけど。
早速追加された50000ポイントを駆使し、高橋み○みさんにメッセージを送ってみます。お前みたいな稚拙な騙りでこの僕を騙せると思うなよ。そんな思いをこめて。
「だいじょうぶ?たかみな。よかったら相談に乗るよ!」
すると自称高橋み○みさんからはすぐに返事が返ってきて
「大丈夫。私がリーダーだからしっかりしないとね。メンバーにはすごい幼い子もいるから私がしっかりしなきゃいけないし」
これ、もしかしたら本当に本物の高橋み○みさんなんじゃないか。年下の幼いメンバーに対する気遣い。それでいて全部それを自分で抱え込んでしまう不器用さ。彼女の中に降り積もる様々な想いを想像するとなんだか泣けてきてしまった。
「たしかにリーダーとしてのたかみなはしっかりしないといけないと思うよ。でもね、一人の人間としてはもっと色々な人に甘えてみたらいいんじゃないかな」
本当に支えになりたかった。そんなに全てを背負い込まなくていいんだよ、そんな気持ちを込めてメッセージを返信すると、
「ありがとう、なんだか泣けてきちゃった」
この涙もろさ、本物に間違いない。絶対に本物だ、コレ。うおーすげえな、本物の高橋み○みさんと今繋がってるよ。
「泣くっていうのは人間と産卵するときのウミガメだけの特権だよ。悲しかったら泣けばいいさ。それが人間と産卵のときのウミガメの特権なんだから」
まあ、正直言うと僕は高橋み○みさんのこと好きですから、ちょっと好感度を上げようと思ってカッコイイメッセージを送りましたよ。でも、今考えるとちょっとウミガメのくだりは余計でしたね。あれ、正確には泣いてるわけじゃないし。
「ありがとう、実はちょっと悩みがあってね」
なんかさっきから凄い小刻みにメッセージが来るんですけど、決してたくさんメールをやり取りしてポイントを消費させようとしているわけじゃなく、単純に撮影の合間とかにメッセージを送っているからだと思います。
「なんでも話してみて」
僕も優しく包み込むように返事を返します。
「実はね」
すごい小刻みですが、忙しいのだから仕方がありません。
「うんうん」
すごいポイントが削られていってますが、まあ気にしません。
「ずっと悩んでるんだけど」
ホント、すごい小刻みでイライラするんですけど、収録中なんでしょう。
「どんな悩みかな?」
ここでイライラしては男じゃありませんから、まだポイントも3万円分くらいあまって、えー!もう2万円分も使ったの?なんで?ああ、受信するのに1500円くらいかかるのか、世界大戦前夜みてえなとんでもねえ値段設定だな。
「えっとね」
もう、コレ受信するのに1500円かかってると思うとホント、イライラする、1500円あったら結構満足なランチを3回は食べられますからね、怒りすら覚えるんですけど、あの高橋み○みさんとメッセージをやり取りしてるのです。どうせ払わないし別にいいとかそんなレベルのお話ではなくて、我慢するしかないのです。そしてついに高橋み○みさんから悩みの告白が。
「うちのグループのセンターがむかつくだよね。マジ、むかつく」
なんか強烈にメンバーの悪口言い出したんですけど。えー、なんか違うよ。こんなの高橋み○みさんじゃないよ。とか思うんですけど、僕が一体高橋み○みさんの何を知っているというのでしょうか。僕らが知ってる高橋み○みさんはテレビの向こう側の高橋み○みさんで、本当このようにメンバーの悪口を言ったりするのかもしれません。
そんな気持ちを抑えて、テレビ画面の中では笑っている彼女の気持ちを思うと、どれだけ自分を抑えているのか、どれだけストレスを感じているのか、どれだけ涙を流しているのか、容易に想像できてなんか僕まで泣けてきたのです。この高橋み○みさん、本物やわ。
「あとさ、まゆゆとかムカつくね。殴りたい」
そんな信じられない過激なメッセージが届いたと同時にテレビを見ると、生放送の歌番組で本物の高橋み○みさんが元気に歌っておりました。偽者じゃねえか。
まあ、最初から分かっていたんですけど、こんなの偽者に決まってます。高橋み○みさんはメンバーの悪口を言ったりしないし、こんな怪しげなサイトを使ってストレスを発散したりしない。
ちなみに、後払いで購入した5万円分のポイントの料金を振り込めってメールが数日後に狂ったように来ていたので、振込先の会社名から会社の情報を調べて代表者名を入手、その名前を使ってこんな感じで
「くそっ!メアドの暴走は止められない」
「おねがい、もうやめてメアドちゃん!このままじゃ人類が、人類が」
「モウトメラレナイ ワタシハ メールアドレス ニンゲンニ ナリタカッタ」
「やめてー」
そこに松田晃一(仮)が現れた。
「ここは俺が抑える、逃げろ!」
松田晃一(仮)自らの乳首をメインコンピューターのUSBポートに差し込む。
「ぐおおおおおおおお!」
「ナ ナニヲスルー!」
ってっちょカッコイイ感じで社長が実名で登場する物語を頻繁に送りつけていたら請求メールもこなくなりました。これで少しは勝手に名前を使われる不快感を分かってくれたらいいと思いつつ、いまだ物語りは送り続けていて、今は自我を持ったメアドの中に含まれたコードが宇宙人に届いて銀河戦争になって、松田晃一(仮)が宇宙牛を殺すところまで書いている。早く完結させたい。
5/27 140文字のラブレター
今時「メンス」って言葉を使ってるやついるのかな。そんな軽い思いつきだった。ただ、それだけだった。
僕が中学くらいだった時に、たまたま読んだゴシップ誌なんかに、どういう飯食って育ったらそういう発想が出るんだと言いたくなるような、「女の子に生理周期について質問するコーナー」みたいなものがあり、それを実際に敢行し、編集し、紙にまで印刷して発売するという豪快さにいたく衝撃を覚えたものだった。
その中で、低俗としか思えない雑誌編集のインタビュアーがいつも口にする名文句が、「○○ちゃんのメンスはどうなってるのかな~?」だった。まだ若かった僕はこのセリフに衝撃を受け、そのネットリしたいやらしさ、低俗さに、こんな言葉を女性に投げつけられる大人になりたい、そう思ったものだった。特に「メンス」という単語の響きたるや、僕の心を鷲掴みにして離さなかった。
何やら秘密めいた印象を受けるのに、それでいてドロドロしていない、軽やかで爽やかな印象すら受ける。メロンの親戚と言われてもうっかり納得してしまいそうな説得力、メンスにはそれがあり、大人になったらメンスと軽やかに言えるようになりたい、そう願っていた。
時は流れて現代、あの時の蒼き思いなど忘れて日常生活を営んでいた僕だったが、ふいにこの「メンス」という言葉を思い出した。僕は男だし、女っけのない生活をしているし、特にこれといって「メンス」という単語を使う機会がほとんどなかった。あの日の決意や憧れなど遠い日の花火のようで、鮮やかに記憶の中に残っているものの、悲しいほどあっさりと夜の闇に飲まれてしまっていた。
ちょっと「メンス」で検索してみよう。
それはこんな汚れきった大人になってしまった自分が、あの頃に戻るための儀式のようだった。当時はこんなインターネットなってものができることすら予見できていなかったけれども、とにかく検索窓に「メンス」と入れて検索してみた。
メンス-《(ドイツ)Menstruationの略》月経(げっけい)。生理。
定義めいた解説、Web辞書のようなもの、あとは「メンスに理解を持つメンズ」という意味で「メンス男子」とか訳のわからない記事が出てくるだけだった。メンスという言葉自体は生きていた、ずっと脈々と受け継がれてきていた。ただ僕がその言葉に触れなかっただけなのだ。けれども、検索結果に生の声はなく、実際に「メンス」と使っている場面は見つからなかった。
僕はTwitterで検索をかけた。生の呟きの中に「メンス」と使っている人はいるのだろうか。現代のツールを使ってあの日の思いを取り戻す。それはなんだか奇妙でもあり、爽快でもあった。Twitterの検索窓に「メンス」と入れ検索をする。
すると出るわ出るわ、メンスの山山山、メンス山。多くの人がメンスと呟いているのです。しかも、30歳を超えた気持ち悪いおっさんがアニメアイコンで「メンスですな、フヒヒヒ」とか呟いているわけではなく、年頃の娘さんというか、目が異様にでかいプリクラなんかをアイコンにしている娘さんとかが
「今日メンスでつらいわー」
とか呟いているんですよ。女の子ですよ。女の子がですよ。年頃の女の子ですよ。あまりにもナチュラルに爽やかに使われすぎてて、メンスってそういう生理的な言葉じゃなくて、バドミントンみたいな爽やかなスポーツを指す単語だったかしら、と思っちゃうくらいなんですよ。
で、あまりに多く生々しい女の子の生のメンス発言に、女の子ってこんななんだ、と少々のショックを受けつつ、あの日、ゴシップ誌で読んだ女の子はみんな恥ずかしそうにメンスの話してたのに、それが今やどうだ。twitterはメンスの銀座通りやで、とか思っていたら、一人の純朴そうな青年の呟きを発見したのです。仮にその彼を高田君としましょう。その高田くんの呟きが僕の目に止まったのです。
高田
テレビでやってたけどIQ150以上の天才しか会員になれないメンスって団体があるらしい。俺とは無縁だな。
高田くん、そりゃメンサ(MENSA)だ。そりゃ君とメンスは無縁だ。とんでもない勘違いをしていて、それでもって全世界に向けてメンスって呟く高田くんがなんとも愛おしく感じたし、彼のこれからを観察したい気持ちに駆られた。早速僕は高田君を観察する専用のアカウントを取得し高田君をフォローした。
高田くんのアカウントを見てみるとどうも高田君は女の子にしか興味がないようで、26人ほどの女の子をフォローしているみたいだった。逆に女の子の何人かにもフォローし返されていて、20人程度のフォロワーがついていた。早速、同じようにその26人ばかりの女の子を僕もフォローしていく。
で、しばらくこのメンス高田くんの動向を観察していたのだけど、これがまあ、高田くんの機動力が凄い。さすがメンスの名前を冠するだけあって、女の子のフォローというか、ここではツイッターで言うところのフォローという意味ではなくて本来の意味でのフォローなんですが、ほら、女性って結構ツイッター上で落ち込んだりするじゃないですか。
全部が全部そうじゃないんですけど、男性って結構、落ち込んだりすることがあってもあまり表に出てこなく、ましてや魑魅魍魎が巣食うツイッター上で呟いたりはしない、これは古来よりある男には7人の敵がいるっていう考え方で、どこに敵がいるかもわからないのにそうそう弱味を見せないってことなんでしょうけど、女の子は結構、というかツイートの半分くらいが自分の心情なんですよ。当然、落ち込んでる時は何の躊躇もなく呟くもので
「今日、好きな人に無視された。凹む(T-T)」
こんな感じのこと出すわけなんですよ。これをワールドワイドウェッブに乗せて全世界に公開する意義については別の機会に論じることとして、あなたはこのような呟きを見た場合、あるいは近くにいる女性が口にした場合、どういった対応を取りますか。
人それぞれだとは思うんですけど、僕はまあ、面倒なことには巻き込まれたくないんでそういうのは完全にスルー、キーパーのヘルナンデスくんがバランスを崩すくらいのスルーっぷりなんですけど、まあ、多くの人は「元気出して」とかそういうふうに心がこもってなくても声をかけますよね。それが普通だとは思います。
けれどもね、それがかなりの頻度で多発していたらどうですか。毎日毎日、それも一日に何度もという頻度で頻発したら、さすがにどんな聖人であっても面倒になると思いますし、もうスルーしちゃおうかなって感じで接触を避けるようになると思うんです。
ちょうど高田くんのツイッターがそんな感じだったんですけど、どうやら彼はそういった少し傷つきやすい少女たちを中心にフォローしてるみたいで、傷つきやすい少女が26人、その子達がそれぞれネガティブな感情を吐露しまくってるもんですから、そりゃすごいことになってて
「なんでワタシ、生きてるんだろう」
「もう全てにお別れしちゃいたいな」
「つくづく自分が嫌になった。死にたい」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
「死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死」
「手首切った」
もう、僕、自分が見てるツイッターの画面がこんな呟きで埋め尽くされてたら裸足で逃げ出しますよ。重い重い。ボディーブローみたいにズッシリくるわ。最後の発言なんてゴールドクロスの修復してるじゃないですか。あまりにもネガティブすぎて読んでるこっちがウッカリ首を括ってしまいそうになるんです。
でもね、高田君は違った。それらの傷つきやすい少女たちに向かってちゃんと一個一個丁寧に返事を返していて。
「どうしたの何があったの?人はみんな生きる意味があると思うよ」
「お別れなんていわないでよ。俺でよければ話を聞くよ」
「自分のこと嫌になるのは誰にでもあるよ。俺でもそうだもん。だからそんな気にする必要ないよ」
「どうしたの?なにか嫌なことあった?」
「ダイレクトメールで連絡ください」
「ダイレクトメールでメールアドレス送りました。至急連絡ください。とても心配しています」
とまあ、非常に面倒見の良いこと良いこと。なかなか感心な若者じゃないか、僕の代わりに傷つきやすい少女たちを守ってくれよ、と高田くんに一目置いていたんです。けれども、これが大きな誤りでったことが後に分かります。
そうやって日々傷つきやすい少女たちをフォローしていた高田くんなのですが、ある日の早朝「今日は出かける」というツイートを残したまま丸一に呟かなくなってしまったのです。彼の呟き頻度から考えるとそれはかなり異例のことでした。
いつもネガティブな発言をするとすぐにフォローしてくれる高田くんが居なくなったことで多くの少女たちからも戸惑いが感じられました。たった一日いないだけなのに、いつのまにかこんなにもあの人の存在が私の中で大きくなってたなんて……。みたいな状態に。いつの間にか高田君も彼女たちにとってなくてはならない存在になっていたんですね。
僕が高田くんの代わりに彼女たちをフォローするツイートをしてもよかったのですが、いきなり気持ち悪いオッサンが横からしゃしゃりでてきてゴールドクロスの修復されても嫌なので、黙って見守ることしかできませんでした。
けれどもね、僕は気づいていたんです。かなりの頻度でネガティブなツイートを繰り返していた少女たちなのですが、高田君と時期を同じにして丸一日ツイートをしなかった少女がいたことに。
で、次の日、注意深く見ていると傷つきやすい少女たちは普段と変わりなく、高田君も普段と変わりなく、全く同じようなタイムラインが流れているかのように見えたのですが、唯一違っていた部分があって、あの昨日呟かなかった少女の様子がおかしいんです。
相変わらず何やらネガティブなツイートをしているんですが、何か様子がおかしい。さらには、高田もなぜかその子にだけはフォローをしない。お互いにまるで他人のように振舞っているんです。
ハハーン、こりゃあ、やったな。
そう思いましたね。ツイッターで異常に絡んでいた男女が急に絡まなくなった時は9割セックスしてますからね。昨日は多分、二人で会っていて一日かけてお楽しみだったんでしょう。とても元気があってよろしいことです。
そりゃあ僕も血気盛んだった頃はツイッターでセックスすんな!とか怒り狂い、ナマハゲみたいな格好でホテル街を闊歩とかしたかもしれませんが、もう36歳になりますよ、そうそう怒っていられません。むしろ、ツイッターでそうやってセックスにこごつけるわけか、やるじゃん高田、と翔さんの声を送りたいくらいですよ。
でもね、事態はそうではなかった。そうやってセックスしたと思われる少女たちは彼のフォロー、フォロワーから消えて行くんですね、で、そうすると新しい傷つきやすい少女が追加というか、もう入荷ですよ、いつのまにか補充されてるんですね。そういった、怪しい動きと少女たちが消える、こんなことが何度となく繰り返されていくんです。これはもう、最初からそういう少女たちを狙っているとしか思えず、あの数々のフォローも全部セックスという到達点のために行われていることであって、全部語尾にセックスがつくんだと思うんです。
「どうしたの何があったの?人はみんな生きる意味があると思うよセックスしたい」
「お別れなんていわないでよ。俺でよければ話を聞くよセックスしたい」
「自分のこと嫌になるのは誰にでもあるよ。俺でもそうだもん。だからそんな気にする必要ないよ、セックスは必要あるよ」
「どうしたの?なにか嫌なことあった?セックスする?」
「ダイレクトメールでセックスください」
「ダイレクトメールでメールアドレス送りました。至急連絡ください。とてもセックスしたいです」
こりゃあすげえな!巷には「ツイッター活用術」とか「ツイッターをビジネスに活用」とかインチキくさい本が溢れているけど、どんな本にも書いていないツイッター活用術じゃねえか!と僕も大興奮、さらに高田くんの観察を続けていると、ある事件が起こりました。
白雪姫(仮名)
どうして色々な女の子にちょっかいだしてるの?
自分で自分のこと白雪姫って名乗るのもどうかと思うのですが、高田くんにとって痛烈な指摘が一人の少女からなされました。というか、女の子の方から見ても高田くんが色々な女の子にモーションかけてるのは丸分かりで、なんで今までその指摘がなかったのか不思議なんですけど、ついに白雪姫さんがそのパンドラの箱を開いたのです。
「いや、別にちょっかいとかそんなんじゃないよ?僕は君だけだよ?」
もう高田も訳のわからない弁明になってて、どさくさに紛れて君だけだよって言っちゃってるんですけど、そうとう焦っているのが丸分かり。高田くんが馬鹿なところは、MENSAのことをメンスと勘違いていたところではなく、この「君だけだよ」発言が皆に見られていることに気づいていない部分です。
当然、他の傷つきやすい女の子たちは面白くないわけで、その高田くんの不誠実な言動にかなりの不快感を感じたらしく、次々と遺憾の意を表明。順次高田ガールズから脱退していったのです。見ていた僕も「あらら」と言うしかない急展開だった。
このような失態を演じてさぞや高田君も凹んでいるのかと思ったのですが、かれはへこたれない。そもそも全ての発言の語尾に「セックスしたい」が付属する人ですから、転んでもただでは起きない。
「ありがとう、そうやって叱ってくれたのは君が初めてだよ」
みたいなことを白雪姫に言い始めたんです。いやいや、白雪姫は別に叱ってない。ただ指摘しただけ、とか思うのですが、もう高田は止まらない。
「君以外の女は全部フォローを切った。君だけだ!」
みたいなことを平然と呟くんです。何食って育ったらこんなこと言えるんだ。で、見てみたら本当に切ってて、高田すげーって思ったんですけど、三日後くらいには「高田2」っていうアカウント作ってそこで他の女をフォローしてました。もうちょばれにくいアカウント名にしなよ。
けれども、それが白雪姫にはズシリと効いたらしく、
「別にそこまでしなくても…でもなんだか感動しちゃった」
と満更でもないご様子。それからもずっと二人でやりとりしていて、かなり微笑ましいやりとりがあって、僕はずっと二人を見守っていたんです。なんだかいつの間にか本当にいい雰囲気になってて、最初は高田のやつも語尾に全部セックスがつくくらい下心丸出しだったんですけど、今はもうそんなそぶりも見えなくて、完全に語尾からセックスが消えたんです。
そして、いよいよ二人が新宿で会おうみたいな話になって、僕もあまりに心配なんで見に行こうかと思ったんですけど、さすがにそれはちょっと良くないじゃないですか。だからツイートされなくった二人のツイートを見ながら、また高田のやつエロいことしようとして白雪姫ちゃんを傷つけてやしないか、白雪姫ちゃんはちょっとコミュニケーションとか苦手っぽいから押し黙ったりしてないか、もう心配で心配で、何度新宿に行こうと思ったか。
で、次の日、今までは高田が思いっきりセックスをぶち決めてよそよそしくなるのが常でしたが、今回はきちんと
「昨日は楽しかった、ありがとう」
「こっちも楽しかったよ」
「すごいかわいくてビックリした」
「高田くんだって」
と、セックスをしていないご様子。そこに高田の本気を見たし、すごい二人のことを応援したい気持ちに駆られた。どうやらこの時に二人ともメアドの交換をしたみたいで、重要な会話はメールでやってるのか、ツイッター上で会話が展開されることはなくなったのだけど、それでも
「おはよう(*^o^*)オ(*^O^*)ハー」
みたいな、クソうざったい会話が展開されていて、僕もその会話を覗き見るのが日課になりつつあったのだけど、ある日、白雪姫からこんな呟きが書き込まれていた。
「さようなら」
衝撃が走った。何があったのか分からない。けれども彼女は突然、ツイッター上で別れを宣言した。突然のことに僕は動揺を隠せなかった。高田、早く彼女をフォローしろ、と思うのだけど高田のアカウントに動きはなかった。きっと、電話とかメールでフォローをしているんだろう。
何が起こったのかは分からない。けれども、おそらく何か困難なことが二人の間で起こったのだろう。僕はそれを知るすべがない傍観者という立場にいることが残念で仕方がなかったし、二人に対して何もできない自分がとにかく無力だ思った。
二人は多くの涙を流したのだろう。どうしてこんなにも思いとは伝わらないものなんだとお互いにもどかしい思いもしただろう。思いのすれ違い、勘違い、どうしても恋をできないやむにやまれぬ事情、何があったのか分からない。けれどもきっと大丈夫。二人はきっと帰ってくる。僕はそう信じてずっと待っていた。ツイッター上で二人が帰ってくるのを待っていた。
「おはよう、昨日はごめんね」
「おはよう、これからもよろしくね」
二人は帰ってきていた。二人が出会い、愛を育んだツイッターに帰ってきていた。そして久々にツイッター上で会話が始まる。
「今度さ、買い物行こうよ」
「いいよーどこいく?」
「俺さ、冬物の服買いたいからさ、そうだなー」
困難を乗り越えた二人、それは本物の恋人同士になった瞬間だと思った。ずっと見守ってきていた僕も涙がポロリ。よかった、本当に良かった。ツイッターは140文字しか届けられない。けれども、込められた思いは無制限に送ることができるのだ。
「じゃあさ、新宿のマルイにいこうよ、メンズ館に」
その言葉に、ずっと見守っていた僕はついに書き込んだ。ずっと見守っていたことを打ち明けて謝り、それから二人と仲良くなれたりなんかしたら、それで3人で飲みに行ったりして、二人がいちゃつき始めたら、おいおいー俺がかえってからにしてくれよー、もしくはお二人が出会ったツイッターでやってくれよー、とかなりたい、そんな思いで考えに考え、比較的軽いノリで書き込んだ。
「メンズ館?白雪姫ちゃんのメンスはどうなのかなー?」
次の日、二人のアカウントは消えていた。
ツイッターで届けられる140文字のラブレター、二人の恋、純愛、そんなものは全然関係なく、若かりし頃からの夢だった、メンスと言える大人、僕自身がそれになれたのが何よりの誇らしかった。
5/26 貞子3D
この間、久々に映画でも見たろかと思いまして劇場まで足を運びましたところ、本気で観たいと思う作品がなく、こりゃ映画に来たカップルがこのあとラブホテルに行くのかどうかを真剣に判定する遊びに興じたほうがマシなのかもしれないって本気で思ったんです。
個人的な判定基準で申し訳ないですけど、映画が始まる前にポップコーンを買っているカップルで、キャラメル味をチョイスしているカップルは9割ラブホテル行きます。あと、男のほうが映画の券を二枚持ってロビーに佇んでいるカップルも行きます。終わった後に男が飲みきれなかった女の飲み物飲んでやるよって飲んでるカップルも行きます。なんでって聞かれると困るんですけど、これは結構あてはまったりするんです。まあ、調べたことないけど。
とにかく、そうやってカップルを見て、あ、ラブホテル、お、こっちもラブホテル、みんなラブホテル、と判定するという大変有意義な時間を過ごせるのですが、けっこうそれって悲しいじゃないですか。いやいや、僕は楽しいですよ。けれどもね、それを皆さんに強いるわけにはいかないし、そんな僕の行動を見て前途ある若者がそれを真似したりしたら悲しいじゃないですか。
だから僕もそろそろ36歳にもなりますし、いい加減若者の規範となるべく行動を取らなきゃならないって思い立ちましてね、若人が真似をして未来を閉じてしまわぬよう、心を鬼にしてどれか映画をチョイスして観ることにしたんです。まあ、せっかく来たんですから観ないと損ですよね。
で、目に留まったのが「貞子3D」という映画ですよ。冷静に考えるとすごいタイトルなんですけど、どうやら「リング」というホラー映画で一気に有名になった恐怖キャラ、貞子をフューチャーしたホラー映画みたいなんです。僕はどちらかというとガンガン爆発したりするアクション系や、人が爽快に死ぬパニック系の映画が好きなのですが、たまにはちょっと趣向を変えてホラー系を見てみるのもいいか、って感じでこの映画をチョイスしました。
おまけに、これ、最近流行の3D映画ですよ。僕はあまり視力が良くなく、おまけに左右の視力もだいぶ違ってて乱視という、まったく3D鑑賞に向かない選ばれし瞳を持っているわけで、3Dと2D選べる映画なら確実に2Dの方を選ぶのですが、どうやらこの映画、タイトルが「貞子3D」とあるだけあって3Dしか設定されていない様子。そりゃそうだ。仕方ないのでこれを観ることにしました。
まあ、劇場内に入ってみるとこれがまあ、客が6人しかいなくてですね、しかもその6人が全員カップル。まあ別にそれくらい予想はしてましたけど、何をトチ狂ったのか僕を含む全員が固まって座席指定してやがるんです。このクソ広い劇場内に、身を寄せ合って、疎開してきた子供たちみたいになりながら鑑賞ですよ。
いよいよ上映会ってわけで、訳の分からないメガネつけて鑑賞するわけなんですけど、ちょっと横とか後ろとか見てみたら全員がメガネつけてて、別に当たり前の光景なんだけどなんかちょっと面白かった。
で、本編が始まるんですけど、最初の方は目が慣れてなくてあまり3Dに見えなかったんですけど、慣れてくると、なるほど、なかなか3D。ただ、僕ら世代ってのは子供の頃に青と赤のセロファンのメガネつけて3D映画見た世代なんですけど、昔の方がすごい飛び出してた気がするんですよね。それこそジョーズとか目の前まで飛び出してきてんじゃねえかってレベルで。たぶん思い出補正もあるんだろうけど。
で、現代のこの色の付いてないメガネで見る3Dですよ。確かに洗練されてるし、見やすい、3Dにも見える。けれども何かが違うんですよね。強いて言うならば、飛び出してくるのではなく、奥行きがある感じ。そう、背景とかが奥にある感じですね。
で、僕は根っからの怖がりなんで劇場でホラー映画見ることってあまりないんですけど、全部が全部そうだとは思わないんですが、少なくともこの映画に限って言えば、画面の怖さとか雰囲気の怖さで怖がらせるのではなく、突然、ジャン!とかデカイ音たてて驚かせるだけなんですよね。何かが違う。もっと「怖い」ってやつを期待していたのに、単純に「ビックリする」だけですからね。
でまあ、貞子のことをご存知な方には当たり前なんでしょうけど、貞子ってテレビの画面から出てくるじゃないですか。この映画でも出てきたりするんですけど、そうなると、画面から出てくる貞子、飛び出す貞子、3Dで本当に飛び出す、恐怖倍増、くらいに短絡的に考えるでしょ。普通に考えて貞子って3D向き位に思うでしょ。ところがね、全然むいてないんですよ。
前述のとおり、突然出てきたり、大きな音を立てたりして怖がらせるのが本筋になっちゃってるわけで、確かに不意に飛び出してきたり、音が出たら驚きます。でもね、この作品、映画全編を通してずっとバリバリに3Dになってるわけじゃなくて、要所しか3Dになってないわけね。で、要所って言うとそれらの驚かせるシーン。
つまり、これrから出るぞ出るぞーってシーンになるとちょっと3Dになるの。で、それからババーンキャーってなるの。すーって壁を触ろうとした手がちょっと3Dになり始めてきたら、あ、くるな、ってわかりますからね、その場合は本当に驚きもしない。
結局、こういう3Dでホラー作っちゃうと、怖いシーンで3Dバリバリに使いたくなっちゃうのは人情なのでわかるのですが、そうなると、その前のシーンの3Dの有無である程度予想できちゃう、っていうヤマアラシのジレンマみたいな感じになっちゃうんです。そうなると、ホラー映画に3Dって向いてない、そうなるんです。
で、このような飛び出すというには程遠くて、ただ奥行がある程度のフィーリングの3Dを見ていてですね、あることに気がついたんです。これはフォント弄りに似ているぞ、と。
フォント弄りとは、文字だけで何かを伝えて楽しませようとするテキストサイトに古来から伝わる技法の一つで、強調したい場所、笑いどころ、そういった場所でどーん、とフォントのサイズを大きくしたり、色を変えたりする技法です。これがある時期一世を風靡しましてね、猫も杓子もフォント弄り、そんな時代があったんです。
で、僕も何度かこのフォント弄りに挑戦しているんですけど、これがまあ、難しい。ドーンと要所で文字大きくするだけだろ、くらいに軽く考えてたら痛い目みますよ。間違いなくフォント弄りは高等技術。
このフォント弄り、つまり大きくされたフォントを見ていると、決してドーンと貞子みたいにこの文字がディスプレイから飛び出してくるわけじゃないんですけど、他の普通サイズのフォントが奥にあるように見えませんか。見えませんよね。でも見えるって言ってもらわないと困るんで見えることにしておいてください。
とにかく、こりゃフォント弄りってやつは3D技術やで、この3D映像隆盛の現代、テキストだって3Dになるべき!フォントを弄るべきや!ということで過去に何度か失敗して封印していたフォント弄りに挑戦してみます。
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「映画館のカップル」
この間、映画を観にいったんですよ。映画を。
よくわかんないんですけど、貞子3DとかいうR2D2みたいな名前の映画を観たんですけど、全然R2D2じゃなかったですね。とにかく観たんです。
そしたらアンタ、劇場内がカップルだらけ!猫灰だらけ!6組だけでしたけど全てがカップルでした。couple
おまけになぜか6組のカップルと僕が身を寄せ合って観るという状態になっちゃいましてね、ペンギンは寒い吹雪に耐えるために大群で身を寄せ合って温め合うために密集するんですけど、そんな状態でした。
いよいよ上映開始。すると甘えた女の声が聞こえるんですわ。
「あーん、つけられない!」
コンドームか!と思って、おいおいこんな場所でおっぱじめるんか!と焦って振り返ると、どうやら3Dメガネが付けられないご様子。つけられないわけあるか。
で、映画も進んでいって、貞子みたいなのがドバーン、すると後ろのカップルもドパーン。
「ぎゃーーー!」
ってものすごい悲鳴ですよ。
別にそれは構わないんですけど、ドパーンっていう場面の旅に、後ろのヒップホップみたいな彼氏が、僕の座席蹴ってくるのな。すごい驚いてるらしく、ポップコーンとかとんでくるのな。
文句言おうと思ったんですけど、殴られたら顔面3Dどころの騒ぎじゃないんでやめておきました。
でもね、しらばくしたら静かになったんで、こそーっと後ろ見てみたんです。暗くて見えにくかったんですけど、よく目を凝らしてみたら、すげえキスしてるんです。KISS。
こんな感じでお互いの舌が動いてやがりましたよ。
不思議だったのはね、KISSしてんのに3Dメガネはしてましたわ。相手が飛び出して見えるんかな。
いよいよ映画はクライマックス、もう怖いシーンの連続。後ろのカップルもヒートアップ。
後ろをチラッとみたら、あの体勢は絶対に
揉んでましたわ。
僕なんておっぱい揉みたいのに揉めなくて、揉もうにもピンサロとか7000円くらいはするし、そうそういけるもんじゃないし、いったらいったで、あまり揉むと痛いとかいわれて揉めないし、じゃあっていうんで、たまに「いつもNumeri読んでます」とかメールくれる女の子に「おっぱいもませてくれや」ってメールしたら返事来なくなるし、どうすればいいんですか
とにかく、いとも簡単に
おっぱい
揉める特権階級がいるってことが一番ホラーでした。どうせなら
おっぱい
飛び出してくればよかったのに
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いやーやはり難しいですね。しかもこんなこと考えてて、しかも後ろのカップルに注視していたら全然映画の内容は頭に入ってこきませんでした。それにしても、やはり僕は全くフォント弄りに向いていない。毎回思うのですが、こりゃもう絶対にやるべきではないですね。
帰り際、多くのカップルが怖かったねーとか言いながら帰路に着き、僕も帰ろうかとロビーを歩いていたら、件のカップルの男の方が、飲みきれなかった女の飲み物をかせよって感じで手にとって飲んでました。あ、やっぱラブホテルいくんだ。
おっぱい
とか揉むのかな。
5/25 チャンスの順番
この間、twitterでこんな呟きを書いたんです。
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pato_numeri
出会い系サイトから色々な「人妻です…」とかアホみたいにメール来るんだけど、「犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。」ってメールが来て面食らった。中身開いてみたら「ワン!ワンワンワンワンワンワン!」って書いてあった。出会い系サイト来るところまで来ちまったな
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これが何故か好評でして、今見てみたら814人にリツイートってやつされてました。みんななにやってるんですか。
でまあ、単純にこのメールを変なメールだねって一笑に付すだけならそれでいいんですが、よく考えたら変じゃないですか。普通、出会い系サイトってもっと肉欲的な内容で訴えかけてくるというか、下半身に訴えかけてくるというか、おセックスのチャンスを訴えかけてくるもんじゃないですか。死ぬほどスパムメールが来る僕のメールボックスから代表的なのを抜粋しますけど
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彩愛 さん
タイトル:彩愛(あやめ)って言います。初めまして。
私はエステのマニアでエステだけの数千万は使いました。良く言われるので先に言っておきますが整形は一箇所もした事がありません。女磨きで私はエステに通ってるんです。男の人からエッチな目で見られるのが私にとって生き甲斐なんですよね。でもエッチな目で見られても尻軽と言う風には思われたくはないのでエッチはしたりはしないんです。かと言ってエッチは全然したくないって言う事では無いんですよね。周りの人にはずっと高嶺の花のままでいたいのでこう言う場所で裏のエッチな私を曝け出したいと思って登録をしたのです。カラカッサさんの前なら私の裏を曝け出しても良いですか?
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どうですか、これ。まずエステに数千万使ったという事実で金ならあるというアピール。で、エッチはすきだけ誰とでもするわけじゃないけどでも誰とでもしたいというわけの分からないこと言ってますが、こうやって金、セックスとガンガンに欲望に訴えかけてくるのが普通なんですよ。
しかし、この会社はおかしい、なんで犬からのメッセージが来てるんだってことで、ちょっと10万通以上に及ぶ僕のスパムメールフォルダーに検索をかけて、同じ会社から来ているメールを探してみたんです。
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森下香美さん(25)よりメールが届いています。
初めまして♪
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最初に来ているのがこのメールでした。どうやら最初こそはまともに騙すチャンスを狙っているサイトだったみたいです。
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◇琴乃さん(31)よりメールが届いています。
携帯電話の画面を見ながらずっと返事を待ってますが。。 5分だけでも会って話してみませんか?
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こんな感じでかなりスタンダードな感じのメッセージが沢山来ていました。それでも全然人が釣れなかったのか、次第にエスカレートしていきます。
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◇みるくさん(20)よりメールが届いています。
みるくがキターーー(゜∀゜)ーーーー!!!!!'( ゜д゜)ノ ヨロ
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こんな顔文字がうざったい感じのメッセージが来て、そろそろ何か異常な感じになってきます。で、
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全 智賢 "チョン・ジヒョン"さん(31)よりメールが届いています。
アニョハシムニカ?私、日本人ではないです。でも、出会い欲しいです。
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と訳の分からない方向へ。そして
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渡辺真奈美さん(25)よりメールが届いています。
血ぃ吸うたろか?
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なんともいえない感じに変化し、
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専業主婦☆53歳さん(53)よりメールが届いています。
子宮連絡を下さい。
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もう何が何やら。ムカつくことに、この専業主婦がシリーズになってて
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支給連絡を下さい。
-----------------------
早く!死球連絡を下さい!!
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と立て続けに来ていました。お前絶対にわざとやってるだろ。
で、いよいよ何かがおかしいとなったその時、ついに冒頭の犬からメッセージが来ていたのです。
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犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。
ワン!ワンワンワンワンワンワン!
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腹が立つことにこれもシリーズで来ていて
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犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。
ワン!ワンワンワン?
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犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。
ワン。ワンワン(笑) ワンワンワンワンワンワンワン?
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犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。
ワッフゥ~ン。
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微妙に文面が変化しているのが本気でイライラする。とくに最後の喘ぎ声みたいなのが本当にイライラする。どうなってんだ、この会社は!って憤っていると、同じ会社からもっとすごいのが来ているのを発見してしまいました。
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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。
いい加減にしろ!この星を滅茶苦茶にしやがって!オメェたち、一体いくつの星を壊せば気がすむんだ!
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もう意味が分かりません。完全に頭がおかしくなっとる。というか、孫悟空さんが33歳だっての初めて知りましたし、男から来るとは思わなかった。もうどうなってんだこの会社って思いながらも、孫さんからは次々とメッセージが来ていて
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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。
やっぱどう考えてもこれしか…地球が助かる道は思い浮かばなかった。バイバイみんな!
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何故か決死の覚悟ですし、
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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。
クリリンのことか…クリリンのことか―――っ!!!!!
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何故か叫んでますし
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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。
これはクリリンのぶん!!
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何故か殴られました。
もう最近の出会い系サイトは本当に来るところまできちまったなーって思いつつ、最後に孫さんから来ていたメッセージを読むと
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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。
素晴らしい!ホラ、見て御覧なさい!ザーボンさん、ドドリアさん、こんなに綺麗な花火ですよ…
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それは孫悟空さんのセリフではありません。
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比較的最近のをコピペすればバレないと思った。
5/24 放課後はミステリーとともに-回答編-
犯人はpato。
霊感ないのに霊が見えるとか言って周囲の気を惹きたい子のように、自作自演でエロ本をロッカーに入れる事件を演出。部活もしてないのに、火曜日の放課後の様子を詳細に知っているのが犯人の証。
ニートのお兄さんにもらった古いエロ本の処分も出来て一石二鳥だった。
みなさんは正解したでしょうか?
ちなみに、この間帰省した時に中学校見に行ったらボロボロのロッカーがまだあって、まだ18番ロッカー、封鎖されてました。
5/23 放課後はミステリーとともに
18番目のロッカーは封印された。
中学の頃、体育館横のロッカーで不思議な事件が起きた。僕の通っていた中学は給食とかなく、お昼はパンを注文するか弁当を持ってくるか、あるいは学校を抜け出して近くのスーパーで買うかしていたため、多くの生徒が現金を学校に持ってきていた。
ある時、体育の時間に大泥棒が現れ、それらの現金を全て持ち去るという事案が発生した。それから体育の時間専用の荷物入れロッカーが体育館の横と裏に備え付けられることになった。着替えを済ませた生徒たちが自分の服を持ってロッカーに入れる、もちろん現金などの貴重品も一緒にいれる。そんなシュールな光景が毎時間見られた。
しかしながら、これを導入した人は何を考えていたのか全く分からないのだけど、そのロッカーが鍵すらついていない普通のロッカーだったので、今度はそのロッカーから現金が盗まれるという、よく考えたら結構当たり前の事件が発生してしまい、遅まきながら数字ロック式の鍵が付けられることになった。
言うまでもなくこれは個人用ロッカーでなく、体育の時間専用ロッカーであるため他のクラスの生徒も体育の時間にはこれを使う。出席番号順に割り振られた僕の18番のロッカーは、他のクラスの18番の子と共用だった。事件はこの18番ロッカーで起こった。
僕のクラスの体育は水曜日の1時間目で、朝登校して朝の会やらパンの注文やら何やらを済ませた後に慌ただしく体操着に着替える。そして脱いだ服を持って整然と歩き体育館に向かう。そして各々が予め設定されていたキーナンバーに合わせロッカーを開け、服を入れて鍵を閉める。そうなっていたのだが、ある日、いつものようにロッカーに向かうと、18番ロッカーの扉が開いていた。
このロッカー自体は他のクラスの18番の子と共用だし、学校側から割り振られた鍵の暗証番号は、分かりやすさ覚えやすさを考慮したのか割り振った人が狂ってるのか「18」だった。18番ロッカーで暗証番号「18」、知らない人でもちょっとした出来心で開けられてしまいそうな設定だ。
だからさして不思議には思わなかったのだけど、遠目に見ても明らかに18番ロッカー扉が少しだけ開いていた。ああ、誰か他のクラスの18番の子が閉め忘れちゃったのかな、それとも誰かがイタズラで開けたのかな、なにせロッカー番号とキー番号が一緒だからね、などと思いながら近づくと、明らかに様子がおかしい。
なんというか、ただのなんの変哲もないロッカーで、半分くらい扉が開いているだけなんだけど、そこから溢れ出る瘴気というか禍々しいオーラというか、とにかくすごい。僕が霊感ないのに霊感があるふりをして周りのみんなに構ってもらいたいみたいな迷惑千万な感じのカマッテチャンだったら間違いなく「首がちぎれた武士の霊が見える」とか言い出しちゃうくらい禍々しい何かを感じた。
なんだか開けたくない気もするのだけど、もう時間がない。体育教師のオッサンはかなり時間にうるさいので遅刻したら大変な目に遭ってしまう。とにかく急いでロッカーに服を入れなければならない。僕は半開きのドアに手をかけ、意を決して開けた。
そこにはエロ本があった。
新品ではなく、かなり使い古されたようなエロ本が、禍々しいまでに堂々と鎮座しておられた。今でも忘れない、表紙で馬みたいな顔した女の人が乳首のところだけくり抜かれたみたいな水着を着て微笑んでいる衝撃的なエロ本だった。
なぜこんなところにエロ本が?そう考える前に他の男子共が色めきだった。なにせ中学生男子、現代のようにネットでエロいものが見放題の時代でもない。早朝から降って湧いたエロ本に、1年に1回しか開催されない田舎の夏祭りのように沸き立った。最初は冷静に回し読みをしていたが、そのうち早く貸せよみたいな感じになり、最終的には奪い合い、破れちゃったのを契機にその破片を持ち合うみたいな感じになってしまった。現代で言うところのシェア、というやつだろうか。
結局、ほとんどの男子が体育に遅れてしまい、その日はみんな大好きドッヂボールをやる予定だったのに、AV男優みたいな体育教師に怒られ、烈火のごとく怒られた後に、ただただバターになるまでグラウンドを走らされることになった。あまりに長時間走らされ、肺がパンクしそうな思いを抱えつつ僕は考えていた。エロ本のことを。
次の週、また体育の時間にロッカーに行くと、またロッカーの扉が半開きになっていた。今度は僕より先に周りの友人が気がついた。
「おい、また開いてるぞ、エロ本はいってるんじゃねえか」
友人が僕より先に駆け出す。やはりロッカーの鍵は開けられていて、そこにはエロ本が入っていた。しかも今度は2冊。まるで、今度は取り合いして破るんじゃないよ、仲良く読みなさい。誰かが先週のやりとりを見ていてそう言っているかのように感じた。
もちろん、エロ本に色めきだっていたのは2人やそこらではなく、どう少なく見積もっても10人はいたので、当然のごとく取り合いになった。特に今回置かれていたエロ本の片方のグラビアはすごい巨乳で挑発的なお姉さんだったので、殴り合いに発展するんじゃねえかって勢いで奪い合いが巻き起こった。それはまるでエゴのぶつかり合いで、国々の戦争と何ら変わらない光景だった。その日の体育も、男子はグラウンドを延々と走るだけだった。
僕は思った。これはおかしい。不可思議なことだらけだ。そう思ったのだ。まず始めに動機が不明である。例えばこれが僕のことを快く思っていない輩からの嫌がらせと考えるなら、猫の死骸なりウンコなりが投入されてしかるべきである。けれども投げ込まれているのはエロ本。それは嫌がらせじゃない、嬉しい。となると、まずもって動機が不明である。
さらには、このロッカーに入れるという手段も分からない。いくら番号がわかりやすいとはいえ、鍵付きのロッカーに入れる、それはかなりリスキーだし意味がない。
最後に、エロ本のチョイスだ。言ってはなんだが、これまでに2回に渡って置かれていた3冊のエロ本は、微妙に使い古された感があった。ちぎれた欠片から発行年月日を見てみたら2年前のものだった。そのような古いエロ本をロッカーに入れる。もう謎だらけで意味がわからなかった。
次の週の体育の時間、おそろおそるロッカーに行くと、今度は扉は閉まっていた。しかしながら、近づいてみて言葉を失った。鍵が外れていた。その強固な鍵は外れ、脱力したかのようにロッカーの取っ手にぶら下がっていた。僕は恐怖した。まさか今日も。ゆっくりと扉を開ける。
そこには3冊のエロ本が入っていた。
あまりの不気味さにもう誰も声を上げなかった。僕はあまりの出来事に、ドラえもんであったどんどんどら焼きが増えていってしまいには手に負えなくなって宇宙に放り出す話を思い出し、このまま毎週エロ本が増えていき、宇宙に放り出すはめになったらどうしよう、などと考えていた。
僕らと男子数名は担任に直訴した。もはやエロい本が手に入って嬉しいどころの話ではない。ただただ気持ち悪さだけが勝っていた。おまけに置かれているエロ本も、僕ら中学生が喜ぶような比較的ライトなものではなく、性生活のマンネリに悩む夫婦みたいな感じの、ちょっとシャレにならないレベルのエグさのエロ本に変わっていた。
担任は真剣な顔で僕らの話を聞くと、僕らが手にする3冊のディープなエロ本を回収し、すぐに鍵の番号を変えると言って作業してくれた。結果、「18」だった暗証番号が「81」に変更された。また簡単すぎる。
僕はその番号が変わったことを他のクラスの18番ロッカーを使っていた奴らに報告しに行った。1学年に6クラスありそれが3クラスなので単純に18人があの18番ロッカーを使っていて、僕は同学年の5人に伝えに行った。その中で衝撃的な話を聞くことになる。
隣のクラスの18番だった男、仮に彼の名を吉田とすると、その吉田の話によると彼らの体育の時間は火曜日の最後の時間らしい。もちろん、これまでの三週、全てでエロ本など入っていなかったそうだ。となると、僕の体育の時間が水曜日の朝一番なのだから、何者かが火曜日の放課後にエロ本をロッカーに入れたことになる。
そうなると少し話がおかしくて、放課後といってもフリーダムにロッカー周辺に人がいないわけではなく、ロッカーの周辺では陸上部がマットを出して走り高跳びの練習をしていた。そんなに人数は多くないがそれなりに人もいるし陸上部の顧問もいる。暗くなるまでこの練習は続く。
おまけに火曜日だけは、なんかOBのおっさんどもが来て野球部の練習を見たりしていて、かなり夜遅くまでロッカー周辺に人がいることになる。となると、ロッカーにエロ本を入れるのはかなりの夜遅くか早朝、ということになる。そこまでしてなぜ入れるのか。それに他の曜日ならもっと入れやすいのに、なぜわざわざ火曜日を狙って入れるのか。そこが不可解だ。
ここで整理しよう。僕が考えるに怪しい人物は以下のとおりである。
隣のクラスの吉田
火曜日の最後の時間にロッカーにエロ本は入っていなかったというのは彼の証言に基づいている。しかしながらそれが嘘だったらどうだろうか。彼も18番ロッカーを使っていたので当然鍵の番号も知っていたし、入れるのもたやすい。今最も怪しい男。
他のクラスの18番の男
僕と吉田を入れて計18人がロッカーの番号を知っている。もちろん入れることは可能。そういった面では怪しい。
担任
もちろん担任も入れることは可能である。鍵の設定は彼がやっているし、先生なのでかなり遅くまで残っている。入れることは可能だ。かなり怪しい。さらに、良く挨拶がわりに僕の尻を触ってくる先生だった。スキンシップであると思うが、もしかしたら僕に対して性的興味を持っていたのかもしれない。そして、エロ本を見て顔を赤らめる、その様子をみて勃起していたかもしれない。もしそうだとするならば動機が十分にあることになる。
体育教師
AV男優っぽかったから
近所のお兄さん
今で言うニートなんだろうけど、うちの近所に定職にもつかず、学校にもいかずいつもフラフラしているお兄さんがいた。このお兄さんは相当エロくて、かなりの数のエロ本の蔵書を誇っていた。いつも僕に自慢してくれて、たまにいらなくなったやつとかくれる優しいお兄さん。本当にその蔵書はすごく、もしかしたら県下一の蔵書数だったかもしれない。普通に考えてお兄さんが学校に入ってきていたら不審者どころの騒ぎではないのでありえないのだけど、置かれていたエロ本のマニアックさ、古さ、を考えると彼の蔵書である可能性がないとはいえない。
ウチの親父
彼ならやりかねない。狂ってるから。
3週に渡って18番ロッカーを開け、エロ本を置いていった犯人はこの中にいる。断言する。
とにかく、怪しい連中は多いのだけど、もう鍵の番号も変えたし、あれだけの騒ぎになったのだ、そりゃちょっと「神からエロ本を授けられし男」みたいな感じで僕自身がセンセーショナルに扱われていい気分になったのは事実で、もう置かれなくなるのは寂しい、けれどもまあ、僕は部活にも所属していないから今日は早く帰ってドラマの再放送でも見よう、なんてくだらないことを考えながら、その日も体育の時間に問題のロッカーに行くと、また、
鍵が開いていた。
そして、中には今度は隙間なくビッシリ詰め込まれたエロ本が。
ギャーという僕とクラスメイトの悲鳴が響き、そして担任の手によって18番ロッカーは封印されることになった。一体誰が、なんの目的でこんな悪魔の所業をしでかしたのか。謎が深まったところで回答編に続く。果たして犯人は誰なのか、もう既に犯人はこの話の中に登場しているので、是非ともご家族、恋人同士などで話し合って犯人を予想してみてください。
回答編につづく
5/22 インシテミル
こうやってNumeriというサイトをやっておりますと、大々的に募集をしなくても様々なメールを読者の方々からいただくきます。メールを下さる人も色々な人がいまして、主に頭のおかしい人、頭のおかしい人、頭のおかしい人、と色とりどりの様相です。
こういったNumeriというわけのわからないサイトを読んで、さらにサイトの右側にひっそりとあるメールフォームを発見し、おまけにキーボードを叩いてまでメールを送ろうっていうんですから、そりゃ並々ならぬ想いが込められているわけです。
「pato死ね」
「早く更新しろpato死ね」
「今日彼女にふられたわ、pato死ね」
「patoさんこんにちは。僕は受験生で、明日大切な受験があります。これまでやれることはやってきたつもりで、合格する自信もあるのですが、明日のことを考えると不安でたまりません。もし電車が止まって試験に遅刻したら?もし試験中に腹痛が起こったら?そう考えると不安でたまりません。pato死ね」
こnのようなご意見を、単純な罵倒やちょっときついジョーク、嫌がらせ程度に認識し、受け流すのは簡単です。実際の言葉と違いネット上の言葉なんて×ボタンさえ押してしまえば消えてなくなるのですから、その存在は圧倒的に朧げで弱々しい。
けれどもね、その画面の向こうには必ず一人の人間がいるわけなんですよ。これが一番ネットにおいて軽視されがちなんですけど、確実に画面の向こう側にはそれなりに人生を過ごし、それなりに何かを考える人間がいるわけなんです。そこを忘れてはいけない。
そういった人間がネットに繋ぎ、Numeriにアクセスし、日記を読んで、メールフォームを見つけて「pato死ね」と送ってきた。そこに至るまでにどんなドラマがあったのか、それを想像すると大変胸が苦しくなるのです。
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坂本は焦っていた。彼女の姿が消えてから5時間。残る猶予はあと19時間だ。二人で暮らしていた2LDKのマンション、朝の8時にはいつも彼女、康子が朝食を作る姿が見られた。けれども今朝はその光景が見られない。
いつも見られる光景が存在しない、その事実は奇妙な違和感と共に言い知れぬ不安を坂本に与えた。康子がいない。デザイナーとしてフリーランスで働く坂本は締切間際になるといつも部屋に篭って仕事に没頭してしまう。その日も前日の夜10時、康子と少しだけ会話を交わしてから部屋に篭った。
「あまり無理しないでね」
「うん、わかってるんだけどね」
康子は坂本の身を案じて心配そうな表情を見せた。分かってはいるが、フリーランスという身分である自分は贅沢は言っていられない。少々申し訳ないという想いを抱えつつ、部屋に篭った。
仕事を終え、部屋から出る。リビングに差し込む朝日は目に痛いほどだった。いつもならここに康子の姿があり、何か朝食を作る作業をしながら
「おはよう」
そう言ってくれるはずだった。しかし、そこに康子の姿はない。不可思議に思いつつキッチンの奥へと歩み寄る。もしかしたら急に足りない食材に気づいて買い物に出かけたのだろうか。その考えは間違いであった。台所は綺麗に片付けられており、朝食を作ろうとした形跡は見当たらない。それどころか、まるで昨晩のままのような気がする。
寝室を覗き込む。やはり康子の姿はない。それどころか布団にシワ一つついていない。とてもここで一人の人間が寝ていたとは考えにくい。ということは、昨晩からいないということだろうか。
坂本は昨晩の状態から何一つ変わっていないと考えられるこの部屋の中で、一つだけ違っている部分があることに気がついた。それはパソコンだ。康子に買い与えていたネットブックだ。そう高価なものでもなかったが、ネットでレシピを調べたりするのによく使っていた。
けれども、そんなにネットに依存していなかった康子はほとんど立ち上げることはせず、いつも棚の奥にしまわれていた。坂本の目から見て、充電されてるかどうかも分からない存在、そんなネットブックが、開かれ、画面に何か表示された状態でポツンと寝室のサイドテーブルの上に置かれていた。
「経過時間 5h01m23s」
「タイムリミット 20h58m37s」
画面にはそう表示されていた。画面の経過時間とされる時間は1つづつ秒を刻み、それに伴ってタイムリミットとされる時間が減ってた。
「どういうことだ?」
数字がカウントダウンされるたびに画面がちらつき坂本の顔を照らす。それがなんだか妙にイライラした。普通に考えて、これは何らかの時間的制限を示すものなのだろう。経過時間とタイムリミットを足し合わせると24時間になる。つまり、このカウントダウンが始まった時点での最初の猶予時間は24時間であったのだろう。
あと19時間。何が起こるのだろうか。康子の姿が見えないことと関連付けて考えるしかないのだろうか。どうしたものかと考えていると、パソコンから音が鳴った。小気味良いサウンドはメールの受信を知らせるものだったのだろう、画面の下のほうにメールのマークが点滅していた。
「康子に来たメールだろうか?」
開いてしまうのは悪い気がしたが、何かの手がかりがあるのかもしれない。そう思ってアイコンをクリックし、メールを開いた。
そこには衝撃的なものが待っていた。メールの中にはURLだけが書かれていた。なにやら怪しげな感じのするURL。差出人は「A」とだけ書かれていた。何か設定をいじっているのか、アドレスもなく、その文字だけが差出人として刻まれていた。
普段はこんな怪しいURLにはアクセスしない主義だが、今は事情が違う。この偽装された差出人も事態が尋常でないことを指し示している。坂本はメールに記されたリンクをクリックした。
すぐにブラウザが自動的に起動し、画面が開かれた。それは何らかの生中継のようで、画面の中央に置かれた古めかしい椅子に、包帯でぐるぐる巻きにされた女性が座っている映像だった。
「康子!」
それが康子であることはすぐにわかった。パソコンの画面に呼びかけるが、もちろん反応はない。
「康子!おい!康子!」
包帯に巻かれた康子がもがくように少しだけ左右に動いていることが確認できる。まだ康子は生きているようだと安心すると同時にギョッとする。縛られた康子の傍らに置かれた大きな爆弾、その爆弾の上部に備え付けられたタイマーには「20:38:45」と書かれていた。
「一致している……」
それは、先ほどの奇妙なカウントダウンと一致していた。普通に考えて爆破までのタイムリミットと考えるべきだろう。
<中略>
ガラスを突き破って部屋に入ってきた美女、真っ赤な唇を艶かしく動かして坂本を誘う。
「アンタ、覚悟はあるのかい?」
「覚悟、ですか…?」
「そう、覚悟。貴方の最愛の康子を、いや本名アナスターシャを救う覚悟が、全てを知る覚悟があるのかと聞いている」
坂本は迷わず答えた。
「あります」
美女と一緒にマンションを飛び出す坂本。美女はそのままリッターバイクに跨る。
「ついてきな、アタイが案内してやる」
そういってメットを寄越してきた。
<中略>
「ほう、彼がアナスターシャの…」
「ええ、アナスターシャが選んだ男です。どこが良かったのか私には全然わかりませんけどね」
美女はまた唇を艶かしく動かすとクスッと笑いながら答えた。
「教えてくれ、さっきハイウェイで襲ってきた化け物はなんだ。そして康子はなんでアナスターシャなんて名前になってるんだ!」
坂本は詰め寄る。先ほどのハイウェイでの戦闘において負傷した右手から血が滴る。
「落ち着いて、順序良く説明するから」
しかし坂本は既に混乱状態だ。美女に詰め寄る。もう心配と不安、さらに様々なことが巻き起こった混乱でどうにかなりそうだった。
「落ち着いていられるか!」
そこに老人が割ってはいる。
「それ、ワシが説明しよう」
「うるせえジジイ!黙ってろ!」
その言葉に美女が怒った。坂本の顔をその可憐な手のひらではたく。
「口を慎みなさい。この方を誰だと思ってるの!八賢老の一人、モザハさまよ!」
「よいよい」
老人はニコニコ笑っていた。
<中略>
八賢老モザハによると、彼らの民族は古来より空中浮遊都市サハラディの存在を信じ、信仰することで結束を保ってきたらしい。空想上のサハラディを崇めることで均衡を保っていたともいえるだろう。しかしながら、そのサハラディが本当に発見されてしまったことが悲劇の始まりだった。サハラディをめぐり彼らの民族は二つに分かれた。サハラディを守ろうとする者と、サハラディを手に入れようとする者に。
「サハラディを手に入れようと村を飛び出した者には若者が多い。彼らはサハラディを手に入れ、その圧倒的力で地球上を支配しようとしておる。なんとも情けないことよ、我々民族はそれをさせないために代々サハラディ伝説を受け継いできたというのに。それもこれも全てワシの不徳のいたすところ」
にわかに信じがたい話だったが、彼らの民族の事情はわかった。しかし、それがなぜ康子に、そして自分に関わってくるのかは全く理解できなかった。老人の目配せに促されて美女が口を開く。
「康子、いやアナスターシャは我が民族の王女なのよ」
衝撃だった。にわかには信じ難かった。
「彼女をさらったのはおそらく過激派の連中、サハラディを手に入れようと王女を誘拐した」
「なぜアナス、いや、康子を!?」
「それは滅びの言葉よ。彼らは全てを手に入れる魔法の呪文と信じて疑わない滅びの言葉を手に入れようとしているの、それが全てを失うとも知らずにね」
さっぱり話がわからなかった。
<中略>
「ハハハハハハハハハハハ」
空中浮遊都市サハラディが大きく傾く。
「さあ言え、滅びの言葉を!」
「まさかアンタが黒幕だったとはな!八賢老の一人、モザハさんよ!たいした面の皮だぜ!」
「黙れ!我々民族はずっと虐げられてきたのだ。自然と共に生き、ただただこの空に浮かぶ都市を信じて生きてきた。それを迫害したのは誰だ、自然と共に生きる我々を追い立て、森を奪ったのは誰だ。貴様たちではないか。ここでサハラディが現れたのは神の意思なのだよ、我々に地球を手に入れよという大いなる意志なのだよ」
サハラディが大きく揺れる。康子につけられた爆弾のカウントが残り3分を示していた。
「おや、もう時間がないぞ。お前が教えてもらった滅びの言葉を教えるのだ。手遅れになってもしらんぞ?」
坂本はあまりの出血に一瞬意識を失いそうになる。それでも自らを奮い立たせ、パソコンを取り出した。
「教えてやるぜ、滅びの言葉。ただしお前にじゃなくここにな!」
「や、やめろ!そこにその言葉を入力すると!この都市が、やめろ!お前ら!どうなってもしらんぞ」
坂本は康子を見る。康子は黙って頷いた。そしてNumeriのメールフォームに滅びの言葉を入力する。
「pato死ね」
同時に、サハラディが崩壊する。
「わしの夢が、わしの野望が!」
「康子!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
<中略>
「見て!あそこに人が」
空中を漂う康子と坂本。
「こんなに綺麗な星だったのね」
「ああ。綺麗だ」
地平線まで見える景色の中、二人は吸い込まれるように地表へと消えていった。
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とまあ、こんな感じかもしれないじゃないですか。そう思うと、たかが「pato死ね」ってメールだと切って捨てず、すごい壮大なロマンがあるんだなあと思うわけなんです。
「pato死ね」
また来たメールに思います。サハラディを崩壊させることで地球を守ってくれてありがとう。
5/21 龍亜種先生の漫画
5/20 嫌いの流儀
早朝、元気良くオフィスに出勤すると魚臭かった。
動揺が隠せなかった。僕は比較的何事にも動じない性格で、少々のことでは焦ったり困ったり右往左往したりしないのだけど、そんな僕でもこれには動揺するしかなかった。普通に考えてありえない、いやあってはならい事態なのだ。
当然のことながら僕の職場は魚市場でもないし、新鮮さが売りの回転寿司でもない。どっからどう見ても普通のオフィスだ。あらゆる要素と可能性を考慮したとしてもオフィスが魚くさい、ということはありえない。ならば今起こっているこれはどういうことだろうか。
単純にまっすぐ考えると、何者かがこのオフィスの魚いがする何らかの液体を振り撒いたとしか思えない。それほどに強烈で純粋な悪臭だった。ドアを開けた瞬間にツンと鼻にくるのだからよほどのものだ。クンクンと鼻を鳴らしながらオフィス内へ歩を進めていく。やはりというかなんというか、匂いの元は僕のデスク周辺だった。ここだけ匂いの密度が桁外れに濃い。予想通りだ。
ついに職場イジメもここまできたか。最初に心に浮かんだ感情は怒りではなく失望だった。僕はこれまでこの職場で確固たる地位で嫌われているという自負があった。それは一つの誇りだった。敵も作れない妙な善人よりも敵だらけの奇人でいたかった。嫌われと疎外は僕の誇りだった。
雨の日も風の日も、雪の日も、台風が来た日だって僕は職場で嫌われていた。それは歓迎会の飲み会にも会費だけ取られて誘われなかったり、職場の親睦と銘打たれた栗拾いツアーに誘われず、その楽しそうなスケジュールを記したプリントを発見した時も、サークルの脱退届がすんなり受理された時も、飲み会参加者は○つけてーと名簿が回ってきた時に、どれどれ今回は不参加でって×をつけようと名簿を見たらそもそも僕の名前がなかった時も、なんら変わらなかった。きちんとした礼節を踏まえて僕は嫌われていた。
嫌うのも嫌われるのも礼儀と覚悟というものがある。人が人を嫌うのは仕方がないことだし、ある程度の人数の人間が集まっていればかならず誰かが疎外される。それは仕方がないことなのだから、せめて礼儀を持って誰かを嫌わなければならないのだ。
その礼儀とは、まず第一に直接的な嫌がらせをしてはいけない、というのが挙げられる。僕らは嫌い嫌われあっているのであり、決して憎しみあっているわけではない。お互いに嫌いあっている現状は、なんとなく漂う空気のように思ってくれればいい。徹底的な排除はその空気に必要な行為で、これまでの飲み会や栗拾いツアー、サークルからの僕の排除、この行為は言うなれば儀式だ。俺たちはあなたが嫌いですという確固たる宣言だ。
それを受け、僕もなんとか参加しようとして参加できなかったり、雑談に加わりに行って場を凍りつかせたり、嫌われている男としての行動を率先して行う。これは相手の宣言に対する返答だ。礼儀だ。予定調和というやつなのだ。
分かり合う人間関係って、友人同士や恋人同士だけの特権ではない。嫌いあってる者同士だって本当は分かり合ってる。ただ相手が嫌いという思いを共有して分かり合っている。けれども決して犯してはいけないラインというものが存在する。
学校はみんな仲良くしなさいと言って仲良くすることばかり推奨し、礼儀を持って嫌う方法を教えない。だから礼儀のない嫌いが蔓延し、ダイレクトアタックに近いイジメが横行する。それもこれも正しい嫌い方と嫌われ方を知らないからだ。
少なくともこれまでの職場のメンツの僕に対する行動は嫌う時の礼儀をわきまえていて、最近の若者にしてはなかなかやるじゃないか、と見直していたのだけど、ここにきてこの仕打ち、このダイレクトアタック、魚臭く生臭い何らかの液体を僕のデスクにふりまくという暴挙。僕は深い失望に包まれた。
なぜこんな直接的な嫌がらせがダメなのかというと、そこまでやってしまったら後はもう戦争をするしかないからだ。直接の嫌がらせってやつは軽く考えているかもしれないけど、それだけ深くて重い。いい大人が仕事そっちのけでクソみたいな嫌がらせの戦争をしてるなんてのは、あまり精神衛生上よろしくない。だから絶対にやってはいけないのだ。
それに、この魚臭い何かを振りまく、という行為は嫌がらせとしてはかなり上質で、犯人は知らずにやったらんだろうけど僕の心のトラウマを揺さぶるに十二分すぎる嫌がらせだった。
僕が小学生の頃、僕はもらったプリントやら何やらを机の中に入れてそのまま持って帰らない子供だった。当然ながらすぐに机の中はプリント類で溢れかえるのだけど、それでもゴンゴン押し込んでいくものだから常にゴミ屋敷みたいな状態になっていた。
始末の悪いことに僕はそのプリントだらけで汚い机の中を少し誇りに思っていた部分があって、どんなに担任のババアに怒られようとも、どんなに周りの連中に言われようとも改める気は全然なかった。
ある時、給食に当時僕が嫌いだったピーマンの炒め物みたいなものが出された。全員で仲良く食べるよにという担任のクソババアの号令の下、別に仲良くもないやつや、嫌いな奴、僕のことを嫌っている女子などと机を引っ付けて食べなければならなかったのだけど、なんだかコイツらにピーマンを食べれない男だと思われるのは癪だ、という感情が芽生え始めた。
こいつらは多分僕のことを嫌っているし、僕だって嫌いだ。そんな言わば敵に自分の弱さ、ピーマンを食べられないという弱さを見せつけたくはない。この感情は大人になった僕から言わせると、間違った嫌われ方だ。別に強がる必要なんてない。
ただ、あまりに幼くてそんな境地に達していなかった僕は、コイツらに弱みを知られたくない、そう強く思った。けれども、あんなプラスチックみたいなピーマンを食べるなんて考えられない。さんざん葛藤した末、僕は皆の会話に全く溶け込めなかったのをいいことに隙をついてサッとピーマンをプリントに入れて隠した。
一度そうなってしまうと子供ってやつは歯止めが効かない。僕は今でこそ納豆以外の何でも食べられるのだけど、子供の頃は嫌いなものが多く、魚や肉、海藻に野菜、コッペパン、とにかく嫌なものが給食で出るたびに机の中に隠していった。たぶん、僕の中で机の中ってのは魔法の四次元ポケットだったのだろう。
数日して、腐った。
机の中のものが確実に腐った。もう何が腐ってるのか分からない。怖くて中を見ることなんてできない。とにかく腐った匂いが教室に入った瞬間から蔓延していた。
「なにこれ、くせえ」
クラスメイトが声を上げる。疑問形ではあるが、確実に僕の机から臭っているという確信を持っての発言だ。ここで、あちゃー、腐っちゃったかーとかいってメンゴメンゴって感じで机の中の物をだし、ボコボコってゴミ箱の中に捨てることができたらどんなに楽だっただろうかって思うけど、弱みを見せちゃいけないって思っていた僕は、自分の机が臭っているとは絶対に認めない、という姿勢で臨むしかなかった。
とにかく、他の誰かが臭いんだろう、松井じゃねえか?臭いの、みたいな顔して自分の席に座る。当たり前だが、すごい臭い。モロに腐臭の上昇気流が顔に来る。こりゃナウシカもびっくりの瘴気だ。周りの連中は僕の机から距離を取り、口々に臭い臭いとヒソヒソ話。もう泣き出したいくらいだったけど、それでも負けてはいけない、なんて思って意地になってた。本当に嫌われる礼儀ができていなかった。
魚臭くなった僕のデスクを前に、そんな少年時代の記憶が蘇った。嫌われることを頑なに拒み、弱みを見せまいとしていたあの時の自分、結果としてそれが更なる悲劇を招いたあの事件を思い出しオフィスで僕は泣いた。
なぜ僕がここまでされなければならないのだろう。嫌われるのはなんとも思わない。でも、なぜこんな、魚くさいエキスをデスクにまぶされないければいけないのだろうか。魚くさいデスクで僕は泣いた。
ただ悔しかった。ただ悲しかった。そして僕を産んで育ててくれた父や母に悪いと思った。本当に悔しくて悲しくて、深く呼吸をするとさらに魚臭くて泣けてきた。そして一つの考えに至る。僕はここまでされるほど悪いことはしていない。
こういうと語弊があるのだけど、嫌われるのに理由はいらない。僕だって何が悪いわけでもないのに無条件で嫌いな人というのはいる。自分がそうなのだから、自分が人から理由なく嫌われても文句は言えない。嫌われるのに理由はいらない。
けれども、このような嫌がらせをされるのにはそれ相応の理由が必要だ。ラインを超えてしまう理由が必要だ。僕が誰かに悪いことをしたのかもしれない、何か恨まれているかもしれない。いくら考えてもその理由は思い当たらなかった。
ここまでされる理由がない!
僕は決意した。これはもう戦争だ。嫌いあってる状態ならまだしも、こうやって行動に移してしまったら戦争だ。ならば徹底的にやってやろうじゃないか。
まず始めに、誰がやったのかが問題だ。それをはっきりさせなければ戦争もクソもない。とにかく犯人を推理しよう。まず、この僕のデスクがあるオフィスの鍵を開けられる人間は限られている。ざっと考えて5人が鍵を持ってるし、11人が鍵のあるボックスにアクセスできる。計16人。さらに、この魚の匂いは重要だ。普通、こんな嫌がらせをするならば、ウンコの匂いとか比較的入手が容易い悪臭を選ぶはず。ここで魚臭を選ぶ人間、それなりに魚に近しい人間の犯行と読むべきだ。さらに、昨日の退社時にまだ残っていた人間が犯人だと思われる。記憶の糸をたぐり寄せると、そのとき残っていたのは3人だ。ひとりはブス、もう一人もブス、最後にブス、全部ブス、女性だった。果たして女性がここまでするか?いや、逆に魚というチョイスは女性的で家庭的だ。もしかしたら、家で余った魚の汁を嫌がらせに使おうと思い立ったのかもしれない。家が魚屋なのかもしれない。とにかく3人の性格を考えてみると、一人は大人しいブス、ひとりは活発なブス、最後はブス、どいつもこいつもありえそうだ。おとなしい奴は裏で何を考えているかわからないし、活発な方も、裏で陰湿なんてのはよくあること、最後はブス、やりかねない。ここはもういっちょ指紋でもとってやるかと思ったのだけど、ここで大切なことを思い出した。先日、大人しいブスに、仕事のことで怒ったんだった。僕が怒るのは珍しいので、家で怒る練習をしてからいったから覚えている。確かに大人しいブスを怒った。ははーん、なるほどね、それを恨んでの犯行ですか。そう考えると確かに大人しい顔して魚のエキスをふりまきそうな顔してやがる。よし、わかったぞ、あいつが犯人だ。
涙を拭き、戦争、受けてたってやろうじゃないのって感じで立ち上がり、こっちはその大人しいブスのデスクの上でウンコでもしてやろうか、そのウンコの横に割り箸でも置いて、さもウンコを食べる習慣があるかのように見せかけてやろうか、そう思いデスクの引き出しを開けると、
腐った魚が入ってました。
忘れてた、ブリか何か知らないけど保険のおばちゃんがもってきてくれたんだけど、生魚もらっても困るし、そんな食えないしで困ちゃって、とりあえず引き出しの中に入れたんだった。すげえ腐ってて目が痛いくらい臭いが漂っていた。死ぬかと思った。
なんてことはない、嫌がらせでも何でもなかった。ただ僕が魚をしまったのを忘れていただけだった。とりあえず、大人しいブスを疑ってしまったのは事実なわけで、ちゃんと嫌われる流儀としてそのへんはハッキリさせておかないとおいけないので、その日の午後には大人しいブスに
「ごめん、疑ってごめん」
と謝ると、すっごい勢いで「はぁ?」って顔されて、無視されました。よし、嫌いの流儀が出来てるじゃないか。ちなみに、まだ魚は引き出しに入ったままです。
5/19 love me do
休憩時間におやつとしてカップラーメンを食っていたら、同僚の女性から暗に「おやつがそれ?」みたいなニュアンスのことを言われてしまい、その後に続く言葉は口に出さなくても分かるレベルで、たぶん「だからデブなんですよ」と言いたかったんだと思う。
この人間独特のコミュニケーション手段である「間」というのは実に難しい。「間」は普段の会話において多用される。同じ言葉であっても「間」の有無でニュアンスが異なることもあるし、「間」によって口には出さない言葉を伝えることもある。用法自体はさほど難しくなく、極度の対人恐怖症でずっと部屋に籠ってるような人でない限り必ず用いたことがあるはずだ。
では何が難しいかというと、こういったNumeri日記のような文字だけの媒体、その他に紙媒体など、人間を目の前に置かずに伝える場合にこの「間」を表現することだ。これがとにかく難しい。
例えば、放課後の帰り道、幼馴染の男女が二人、夕焼けに向かって歩いて帰っていたとする。芳江は高志のことが好きで好きでたまらないんだけど、鈍感な高志はそのことに気づきもしない。それどころか、自分の恋愛相談を芳江にしてしまうくらいだ。
「あーあ、京子先輩、彼氏とかいんのかな?」
京子先輩とは高志が所属するサッカー部の美人マネージャー。サッカー部に入部した男子誰もが一度は恋をするという憧れの存在だ。美人で気配りも出来てお高くとまっていない。芳江の目から見ても素敵な先輩で、勝ち目なんかないってわかってた。
「…どうだろうね」
高志が京子先輩の名前を口にする度に心がギュッと締め付けられる気がした。高志なんて京子先輩に振られてしまえばいい、そう願う一方で振られて悲しむ高志を見たくないという思いが交錯しどうしていいのかわからなくなってしまう。
「マジで苦しいよ」
高志は少し困った顔をしながら笑った。夕焼けが反射したオレンジ色の高志の顔、ますます心が締め付けられる思いがした。
「人を好きになるって苦しいのかな?」
芳江は心にもないことを切り出した。そんなこと言うまでもなく自分自身がよく知っている。人を好きになるってことはこんなにも苦しくて辛いものなのだと。
「芳江はいないの?好きな人」
沈黙が流れた。遠くで踏切の遮断機が降りる音だけが聞こえた。私の気も知らないで無神経な質問を投げつけてくる高志に苛立つ反面、こういうとぼけたところが彼のいいところなんだろうなあ、私が好きなのはこんな無神経な高志だ、そう思うと何だかおかしくて笑えてきてしまった。
「な、なに笑ってるんだよ」
「なんでもない、ふふ」
一通り笑ったあと、バツが悪そうに視線をそらす高志を見ながら芳江は人呼吸置いてポツリと言った。
「……いるよ、好きな人」
届かない想い、それはあんなに地面に触れそうなのにいくら歩いても決してたどり着かないあの夕日のようで、それでも綺麗な夕日を眺めていても悪い気はしない。今はそれでいい。芳江はまた少し笑った。
とまあ、こんなエピソードを書いたとして、もちろん誰がどう読んでも最後の芳江のセリフが肝になるわけなんですが、むしろこのセリフよりもその前の「間」こそが重要なんです。
私が高志のこと好きっていったらどうするかな。もちろん私と京子先輩じゃ違いすぎる。困るかな。私が好きって言うことで、二人の関係がギクシャクしてこうして一緒に帰ることもなくなっちゃったりするのかな。でも、もし高志と京子先輩がうまくいっちゃったら、こうして一緒に帰れなくなっちゃうよね。それに京子先輩はすごく綺麗だし胸だって大きいし易しい、その反面、私はこんなんだし、サッカーのことなんて全然わかなんいし、もうどうしたらいいのかわかんないよ、夕日が綺麗だな。
最低でもこれくらいのことがこの「間」には詰まってるんですよ。で、問題はこれをどうやって表現するかなんですけど、例えばドラマやなんかだったら演技の上手な俳優さんが非常に素晴らしく「間」を表現してくれるでしょう。けれどもね、これを文章で表現しようとしたら大変ですよ。
文章の空白は実在の時間的空白と一致しない。このパラドックスが明らかに「間」の表現を妨げているのです。昨今多い、5文字くらい書いて死ぬほど改行しまくってるブログにしたって、いくら改行を重ねたってそれは改行でしかなく、絶対に「間」は表現できない。せいぜい「間をおいて」などとストレートに書くことしか出来ず、絶対的な思慮の密度を超えることができないのです。
こういう絶妙の「間」、上記のような恋愛における「間」でなくともそれこそおやつにカップラーメンを食っている僕に対して「だからデブなんだよ」と言いたげな重苦しい「間」ってやつをどうやって日記で表現していくか、これは永遠の課題ですな、などと考えていました。すると、
「アフィイイイイイイイイイイイ!」
と、オフィスの奥のほうで何かを読んでいたブスが大声を上げ始めるではないですか。いきなりの雄叫びにオフィス内が騒然、僕はてっきりブスの彼氏がリモコンバイブでも仕込んでて、遠隔スイッチでON-OFFを繰り返し、どうだいオフィスで身悶える気分は、くくく、みたいなことをやってて、絶頂に達すると同時に今まで抑えていた全てのものが吹き出してしまい、あの絶叫に至ったと思ったのですが、別にそうではありませんでした。
仕事中に本当にけしからんことなのですが、女子社員の間で回し読みしている少女コミックというんでしょうか、少女漫画というんでしょうか、それを読んでいてブスがあまりに感動してしまい、ブスが感極まり、ブスが雄叫びを、ブスっぽくあげた、ということだったらしいのです。本当に、ブス、迷惑。
「みてみて、ここが超感動するのよ~」
周りのややブスの女の子に解説をはじめるブス。ややブスの子もなんとも言えない表情をしながらやや間をおいて
「ほんと、そのシーンいいよねー、私も泣いちゃった」
女の子ってやつは感動などの感情を共有しなきゃいけない鉄の掟があるらしく、誰かが感動したシーンで感動し、泣いたシーンで泣かなければなりません。ですからちょいブスの子が本当に感動したのか怪しい部分がありますが、そこまで人の感情を揺さぶることができるのです、少しばかりその少女漫画に興味を抱き始めていると、ブスがとんでもないセリフを口にしたのです。
「この間がいいのよねー」
こりゃ聞き捨てならない、そう思いましたね。マンガだって文章と同じく生の人間を介さない表現媒体です。絵がある分文章より表現しやすいと思いますが、それでもやはり「間」の表現は難しい、そう考えていました。けれどもブスはそのマンガの「間」が良いという。一体どういうことか気になっちゃいましてね、いそいでブスに駆け寄り、そのマンガを読ませてもらったのです。
どうもそのマンガは恋愛物だったらしく、というか格闘物の少女漫画ってそうそうあるものじゃありませんからほとんどの少女漫画が恋愛物だとは思いますが、とにかく読んでみたんです。パッと見、登場人物全てが顔の綺麗な女性に見えてしまい、
「これレズもの?」
と質問をしたところ、無言の怒り、という「間」の圧力で潰されそうになりました。仕方ないので着てる服や台詞回しなんかから性別を推測して読み進めていったのですが、まあ、早い話好いた惚れたの話ですわ。主人公をめぐって色々な色男が出てくるんですけど、まあ、どいつもこいつもオナニーしたらチンポ折れちまいそうなヒョロヒョロでね、そいつらが主人公の髪とかクシャとかして「お前は俺のものだから」とか言うてるわけですわ。ここでブス発狂、蟹みたいに泡吹いて、たぶん潮も吹いてるんでしょうけど、もうキャーキャー言うてるの。
でも絶妙の「間」があるのはそのシーンじゃなくてもっと先って言うんで読み進めていくんですけど、いよいよすったもんだの末、主人公と本命っぽい男が、並木道で二人っきり、僕の左手の感触からもページ数があまりないことが伺えていよいよラスト近し、告白するぞ告白するぞ、きっとすげえ「間」で告白するんだろうなって思いながら読んでいたら、案の定、男のほうがガシッとか木の幹に手をついてですね、主人公の顔を覗き込みながら
「おれさ…、お前のことが好きだ」
とか言うんですよ。それを受けての主人公、ここの「間」がすごかった。なんと、7ページにわたって今までの思い出みたいなのが走馬灯。死ぬ間際か。
とにかく、最初から読んでない僕にしたら全く思い入れがないのですが、フラッシュバック的演出で、夏の海やらキャンプやら冬の雪やら桜の季節、梅雨の相合い傘、美しい日本の四季折々の風景が、なんか、最初の方は主人公と本命男の思い出みたいになってるんですけど、最後の方は関係ない、景色とか犬でしたからね。こりゃあすげえ「間」の表現だぜ、スケールが違う。
で、7ページにわたる日本紀行が終わった後、「わたしもすき」みたいな主人公のセリフがあったんですけど、もうこの「間」が衝撃的すぎてあまり覚えていませんでした。正直これだって思いましたね。
7ページに渡る無関係とも言える風景のフラッシュバック、これがこの漫画における「間」の表現なのです。マンガだって「間」を表現するために7ページの空白を使ったらそれはただの落丁ですから、こういう手法をとったんじゃないかって思うのです。この無関係なシーンのカットイン、これ、もしかしたら文章表現にも使えませんか。
ということで、無関係文章のカットインによって「間」を表現すべく、少し書いてみようかと思います。
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「あと16段」
少しだけ風が吹いていた。境内を吹き抜ける風はどこかゆっくりで暖かくて、まるで変わりゆく季節の予告編のようだった。名前はわからないけどよく聞く鳥の鳴き声が聞こえ、どこかの学校のチャイムが微かに聞こえる、それらの小さな音たちはこの街の呼吸音のようにすら思えた。
「わー、すごいねー、あ、うちの学校だよ。まだ陸上部が走ってるね」
鳥居越しにふもとの街が見える。芳江は坂道が苦手で高台にあるこの神社に来たことはなかった。眺めが良く、自分の住む街がジオラマのように見える。街の匂い、街の声、街の顔、全てが一瞬で感じられるような気がした。
「なんだよ、こんなところに呼び出したりしてよ」
高志がポカリスエットの蓋を閉めながらぶっきらぼうに言う。
「ボディーガード。女の子一人でこんなところにきて何かあったら大変でしょ」
もちろんそれは嘘で、芳江にはちゃんと理由があった。ここに高志を連れてきた理由が。これは芳江のクラスでまことしやかに囁かれている噂というか伝説なのだけど、高台にある神社の石段を好きな人と一緒に降りていき、最後の一段を降りた瞬間、告白すると成功する。そんな都市伝説みたいな馬鹿げた話があった。
最初は芳江もそんな話信じられなかったけど、上級生の京子先輩がこの方法でサッカー部のキャプテンに告白し、成功した話を聞いて急に色めきだった。すぐに友人にやり方を聞き、なんとか理由をつけて高志を高台の神社に呼び出した。
「そろそろかえろっか」
芳江が切り出す。
「なんだよ、ちぇ」
なんで呼び出されたかもわからず、おまけにもう帰るというのだ。訝しげな顔をする高志。それでも渋々といった感じで鳥居の方に向かって歩き出した。
石造りの鳥居をくぐると数メートルの石畳を歩いて最も景色が良い場所に出る。街が一望できるだけでなく、その先の港、さらに先の海、下手したらもっとずっと先まで見えてしまうんじゃないかというほどの絶景だ。その先はいよいよあの伝説の石段がある。高志は石段の前に立つと、その絶景に見とれてか一瞬立ち止まった。
「あと16段」
芳江は心の中で呟いた。
この石段は小さくて短い。16しか段がない。クラスの女子に教えてもらった話ではこの16段を降りる間、一度も相手を追い越してはいけないらしい。もし追い越してしまったら、その恋は絶対に実らない。
「あと14段」
また心の中でつぶやく。高志は景色を見ながらゆっくりと降りている。それを追い越してしまわないよう、高志が1段降りたのを確認して降りる。
「あと12段」
高志が振り返る。ゆっくりと降りる自分を決して追い抜こうとしない芳江を不審に思ったのだろう。芳江は焦った。なぜならこの伝説は相手に気づかれてしまったら意味がない、そんなルールがあるからだ。焦りのあまり何か話さないといけにと思い立った芳江は必死に話題を探した。
「あ、あのさあ…聞いたよ、京子先輩のこと」
一番選択してはいけない選択をしてしまったと口に出した瞬間に気がついた。今から告白しようとしているのに、どうして高志が憧れていた、好きだった先輩の名前を出してしまったんだろう。けれども、ここで話題を変えても変だ。芳江の意思とは別に滑るように口が動いた。
「京子先輩、サッカー部のキャプテンと付き合うんだってね」
「ああ」
高志はまた前を向いて景色を眺め、歩き出した。
「あと10段」
どうしよう、今日はもうやめてしまおうか。京子先輩の名前を出してしまい、高志がどんな表情をしているのかは分からない。けれどもこの雰囲気は最悪だ。コツコツと視界の中の高志の頭の位置が下に降りていく。一気に2段降りたみたいだ。慌てて芳江もその後ろを追いかける。
「あと8段」
迷っていると、高志が立ち止まり、またこちらを向いて言った。
「おまえさ、この間好きな奴がいるって言ってたじゃん、あのさ、えっと、その、そいつってどんなやつ?」
それはアナタだよ、そう言ってしまいたかった。告白する絶好のチャンスだと思った。けれども、石段を降り切るまで言ってはいけない。さもなくば必ず失敗するからだ。
「うーん、どんな人かな。優しくて鈍感で、でも部活とか一生懸命で」
高志が一気に階段を駆け下りた。
「ふーん、それって俺が知ってるヤツ?」
急いで高志を追いかけながら、それはアナタと言えない状況を呪った。
「残り2段」
「知ってるんじゃないかな?」
もうドキドキして心臓が破裂しそうだった。あと2段降りたら私は高志に告白する。幼いころからずっと一緒に歩いてきた高志に。多分失敗するだろう。高志の心はまだ京子先輩だ。このまま、気まずくなって話もしなくなるのかな。だからといってずっとこのままの関係なんて我慢できない。
「よっと!」
高志が最後の2段を段を飛ばして飛び降りる。いよいよ告白の時だ。芳江も高志に続いて階段を降りる。そしてついに高志の隣、石段の下に立った。その瞬間だった。
トン!
高志はまた石段に戻って一気に段飛ばしで4段上がった。高志を追い抜いてしまったショックに目を丸くしていると、高志が大きな声で言った。
「俺、このおまじないのこと知ってるよ。だからそんなのに頼らず、俺から言いたいと思った。ずっとずっと京子先輩京子先輩って言ってたけど、俺、俺、ほんとは芳江のことが、好きだ」
石段両脇の木々がざわめき、しばらくして、また風が吹き抜けた。
ほいさ、ってことでチンポにイボができた時の話でもしやしょうか。アッシは毎日オナニーでチンポをいじっているわけですか、どうにもこうにもあれはチンポの先っぽに集中しちまいましてね、まっこと恥ずかしいのですが根元の異変に気がつかないんですわ。ある日のこと、家のトイレでおしっこしていやしたらね、このあとコーラでも買いに行こうかい、と思って握っていた100円玉が床に転がったわけですわ。おりょおりょ、こいつはまいったね、そう思いながら探したら無事に100円玉が見つかったわけなんですが、これがまあ、しょうべんだらけ、なにやらベタベタしておりましてね、アッシは気づいたわけですわ、じつはおしっこはすげえ飛び跳ねてトイレの床を汚してるってね。それからよ、便座に座って用を足すようになったのはね。けれども、慣れないことはするもんじゃないんでしょうなあ。便座を上げたまま座っちまいやしてね、予想以上に地の底、あまりに尻が入るものですから驚いちまってね、変な体制になりながら、初めて自分のチンポにイボがあるのを発見したんですわ。そうなるとアッシも少々のことでは動じない男、チンポにイボとはチンポイボと高笑いの一つでもできりゃあよかったんですが、そのイボを取るのに躍起になっちまいましてね。イボコロリだとか試しましたよ。けれども全然取れない。アッシはこう見えても気が長いほうで通ってるんです。けれども我慢できなくなりやしてね、ある日、ハサミで切ってやったんですわ。冥界が見えたとはあの時のことを言うんでしょうなあ。痛いわ血が出るわ、なぜか勃起するわ、ありゃあ魔物、物の怪の類ですわ。しばらくオナニーするたびに血が止まらなくてね、さすがに包帯巻きましたよ。いよいよ傷も癒えたっていうんでアッシはワクワクしながら包帯をとったんです。そしたら、なんと、傷が治ったそこにはちゃんと新しいイボができたんですわ。こりゃイボリューション、なんてね。
「私も高志のこと好きだよ…ずっとずっと…好きだったんだから」
遠くでチャイムの音が聞こえた。風がまた、通り抜けた。今度は二人の間を。
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あ。こりゃいいね。すごく間が表現できている。
満足しつつ、おやつに唐揚げ弁当でも食ってやろうと、レンジでチンしてたら、今度はデブの女子社員がやってきて
「あれ、もう夕飯ですか?」
とかいうもんだから正直に
「いや、おやつだけど」
といったら、思いっきりストレートに
「だから太るんですよ!」
とゲラゲラ笑いながら言われた。そこで僕は言ってやったんですよ。
そのイボなんですけど、そのうち自我を持って喋りだすんじゃないか、もうひとつの僕の人格になるんじゃないか。嫌ですよ、チンポがしゃべるなんて。まあ、正確にはチンポのイボがしゃべるんですけど、そうなって悩まされる夢を見ちゃいましてね、恐怖でどうにかなるくらい怖くなっちゃって、しかもイボをよく見てみたら結構目とかに見える部分もあって、顔ができつつあって、怖さのあまりどっかで質問したらミミズをすって塗りつけたら治るって嘘教えられて本気でミミズ探したり、見つからなくてカマキリで代用できないか考えたり、そんなこんなで四苦八苦してるうちにいつの間にか治っちゃいました。
「君には言われたくないよ」
その瞬間、レンジのチーンって音がオフィスに鳴り響いた。
5/18 Brinell hardness
長年エロ動画を見続けてきて思ったことがあるんですけど、どう考えてもおっぱいって柔らかいやつと硬いやつがあると思うんです。
いやいや、まてまて、とにかくまて、おっぱいは柔らかいもので一貫しているはずだ、硬かったり柔らかかったりするはずがない、そう思われる男性の方々も多数に上ると思われますが、どうぞ心安らかに聞いてください。気持ちはわかります、とにかく落ち着いてください。
確かに当たり前にそうであると思っていた事象がそうでなかった、それはかなりの驚きの来訪と共に絶望を与えてくれます。言うなれば、当たり前の常識として甘いと思っていたショートケーキが塩味だった。あのスウィートな見た目で塩味なんてありえないだろう、そんな気持ちではないでしょうか。
僕も決して信じたくなく、おっぱいは常に柔らかく極上の癒しを与えてくれる孤高の存在であって欲しいと願っています。けれども、どんなにそうであって欲しいと願ってもおっぱいは一様に柔らかいものであって欲しいと願っても、それが叶えられるとは限らないのです。そう、悲しいお知らせですがあえて言わせていただきます。おっぱいには柔らかいものと硬いものがある、と。
初めてそれに気がついたのは、エロ動画を見ている時でした。ある女優のデビュー作を見ていたところ、普段はチャプターごと飛ばしてしまうシーン、良く分からないインタビューのシーンを見ている時に事件は起こったのです。
画面の右側に「デビューしようと思ったきっかけは?」とか字幕だけ出て、ソファー(白)に座っている女優が「えっと、渋谷でスカウトされてえー」とか答えてるんですけど、それを見ていたら、いよいよ「じゃあ、おっぱい出してみようか?」みたいな字幕が出てきたんです。
おお、ついにおっぱいが出るのか。普段ならいきなり挿入のシーンとかにぶっとばすんで今更おっぱい如きでは興奮しないんですけど、このジワッと出されるおっぱいに、少年時代、捨ててあったエロ本見て興奮したことを思い出したんです。エロ本ってメインがおっぱいですから、下半身とかそういうのよりとにかくおっぱい、とにかくおっぱい、そんな感じだったんですね。
そういや子供の頃はおっぱいに興奮してたな。そんな青い気持ちを蘇らせてきたんです。いやいや、僕だって35歳となった今でも全然おっぱい好きですし興奮しますよ、そりゃそうです。けれども、それはあくまでも「おっぱい」メインではなく、あくまでも付加物としての「おっぱい」なんです。
それにひきかえあの時代はまさしくおっぱいがメインだった。あの柔らかそうな質感、あの農家の鳥よけみたいなフォルム、全てが興味の対象で、触ってみたい、そう悶々と思いながら青春時代を過ごしたものです。
けれども今やどうでしょうか、通りすがりにベロンとおっぱいを出す女がいたとしても、大変大興奮するとは思うのですが、下手したら「おいおい、おっぱいだけかよ」くらい思うかもしれません。あの時代の僕が知ったら怒り出すかもしれないほど今の僕はおっぱいに対して真剣でなくなってしまった。
初心を忘れてはなりませんな、そう思いながらもう一度あの時の草原みたいに青臭い想いを思い出そうと、いよいよ女優がおっぱいをあらわにしようとその時でした。
「いやーん、はずかしい」
デビュー作ということもあって、女優は恥じらいをみせ、このあとジュボバポするくせしやがって恥ずかしいもクソもねえだろって感じなのですが、とにかくおっぱいを両手で隠しだしたんです。まあ、デビュー作でデローンとおっぱい丸出しってのもアレですから、たぶん少しは恥じらいを、みたいな監督の指示もあったんでしょうね。
そこでですよ、その女優が巨乳ということもあったんでしょうけど、こう、こういう感じでですね、こう、乳首をアイアンクローみたいに覆い隠していたんですけど、明らかに指の間からはみ出ている乳肉、おいおい自分で使っておきながら乳肉ってすげえ単語だな、とにかく、その乳肉のはみ出し方が尋常じゃないレベルなんです。
みなさんは、例えばテレビを見ていて金属バットで芸人の尻を叩くシーンとか見るじゃないですか。その場合、頭の中に確固たる金属バットの硬さがあって、そこから生じる痛みを連想するわけです。こんにゃくにはこんにゃくの、サッカーボールにはサッカーボールの硬さってやつがあるんです。どこにって?それはみんなの心の中にさ。
なんか意味わからない言いっぷりになってきましたけど、とにかく、みんな何かの物体を見た時は無意識にその硬さを頭の中で連想するするはずで、おっぱいにはおっぱいの柔らかさ、っていう概念が全ての人間のなかに存在するんです。
で、もちろん僕の頭の中にもおっぱいの柔らかさの概念はあるんですけど、その柔らかさの物体をある程度の力で抑えた時、はみでるであろう乳肉の量、それも無意識の内に連想しているはずなんです。簡単にいえば、こんくらいの柔らかさのものを掴んだら、こんくらいはみ出てくるだろう、そんなイメージがあるはずなんです。
その女優の指の間からはみ出る乳肉の量は僕の概念を大きく超えていました。何かの特撮かと思うほどに乳肉がボニョーンって感じではみ出ていたんです。
「これは僕の中のおっぱいの柔らかさの概念を修正しなくてはならない」
そう思いましたね。早速、参考資料として様々な女優がイヤーンとか言っておっぱいを隠すシーンばかりを切り抜き、ダイジェスト版を作成。これがなかなか大変でしてね、男優が鷲掴みにするシーンは結構あるんですけど、これは全然参考になりません。男は個人によって腕力にかなりの差がありますから、どんな力で鷲掴みにされているのか分からない。これでは何の参考にもなりゃしませんわ。
その点、女性はムキムキのボディビルダーとかでない限りそこまで腕力に差はありません。どんな力で乳肉が押されているのかある程度予想できる。女優自身が乳を隠したりして乳に力を加えているシーン、これを探して信じられない数のエロ動画を見ていきました。
そこで分かったのですが、ホント、この歳になってこんな根本的なことに気がつくなんてお恥ずかしい限りなのですが、やっと気がついたのです。女の人の乳には信じられない広いレンジで柔らかさに幅がある。
いや、ちょっとチャラチャラしたヤリチンとか、そんな今さら何言ってんのって思うかもしれないですけど、多分、そうやっておっぱいのこと知った風な顔してるあなたが思ってるよりこの柔らかさの幅は広い。その程度の認識でおっぱいの全てを悟ったような顔しないで欲しい。死んで欲しい。
とにかく、信じられないレベルの柔らかさから信じられないレベルの硬さまで、その範囲は絶大。これまでおっぱいを評価する基準は「大きさ」「形」「乳首の色および大きさ」が主だったものだったのですが、これは第四の基準、「柔らかさ」を導入する必要性に迫られています。
そう考えると素敵じゃないですか。大きいおっぱい、小さいおっぱいそれだけじゃないんです。大きくて柔らかいおっぱい、大きくて硬いおっぱい、小さくて柔らかいおっぱい、小さくて硬いおっぱい。その組み合わせは無限ですよ。おっぱいの織り成す無限のラビリンス、なんとも夢があると思いませんか。
ここで問題となるのが、柔らかさに確固たる基準がないという点です。「大きさ」これは言うまでもなくAカップBカップ、88センチ、90センチ、確固たる国際基準があります。「形」これもお椀型ですとか、たらちね型、ロケット型と様々、「乳首の色および大きさ」これだって真っ黒とかピンクとかカラーコードを使うとか様々ですし、大きさもマキシシングルくらい、とか言うことができます。けれども、やわらかさはなかなか表現しにくい。
マシュマロみたい、っていわれてなんとなく分かりますけど分かりません。意味わからないけどそんな表現は絶対に認めない。じゃあどうするか。こりゃもう、確固たるぐうの音も出ない柔らかさの基準を用意してあげればいいんです。
「ブリネル硬さ(Brinell hardness)」
こんな言葉を聞いたことがあるでしょうか。たぶん極一部の人を除いてないと思います。これは主に工業材料の硬さを表す尺度として用いられます。記号はHB。
直径Dの金属球を材料にPの力で一定時間押し当てた後に、あとに残ったくぼみの面積Sから硬さを表す方法で
の式で表されます。早い話、ある力をかけ続けたら柔らかい物体ほどその痕が残りますね、っていうやつです。どうです、もういい頃合いです、いい加減にこのブリネル硬さを使っておっぱいの硬さを表現するようにしませんか。
「わたしのおっぱいFカップよ」こういった話は巷で良く耳にします。それに対して肝心の柔らかさは「私のおっぱい柔らかいわよ」程度の硬いか柔らかかの二択のみ。大きさはABCDEFと天文学的バリエーションがあるのに、これはちょっとあんまりじゃないですか。
「わたしのおっぱいCカップで450HB(ブリネル硬さ)よ」
これでもう、どんなおっぱいを有する選手なのか8割方はわかります。そこそこの大きさでかなり硬い。どうです。これ、導入しましょう。
まあ、実際のブリネル硬さは直径1センチ程度の鋼の球を使って3トンくらいの荷重をかけ続けるのですが、一般女性の家に鋼の球があるとはおもえませんし、おっぱいに3トンの荷重をかけてしまうと、アバラまで突き破ってしまいブリネル硬さどころの騒ぎじゃないです。あくまでもこれらは材料の硬さを測るものですから、おっぱいに特化したやり方が必要になります。それも、あまり特殊な道具を使わない手軽な方法で。そこで提案します。
「チチネル硬さHO (Oppai hardness)」
1.上着を脱ぎます
2.おっぱいを出します
3.100円玉をおっぱいに押し付けます
4.5分待ちます
5.100円玉を離します
6.おっぱいに残った跡をカメラ付き携帯電話もしくはデジカメで撮影
7.跡の面積を測定します。
これでなんとチチネル硬さが測定可能。ただまあ、みなさんは素人なんで、ちょっと7番の跡の面積測定ってやつが上手に出来ないと思うんですね。そ・こ・で、今日は女性の皆さまにお得な提案があります。今日だけですよ。
チチネル硬さの測定において長年の定評がある当Numeriで測定の部分を代行いたします。当社におまかせください。今ならなんと無料でサービス!
乳の硬さに悩む女性のみなさん、上記の方法の6番までを実施してください。そしてその画像をpato@numeri.jpまで送付してください。その際に以下の注意点をお守りください。
1.データーを取ります、年齢等あなたの諸データーを添えてください
2.跡の面積測定に比較対象が必要です。乳首が写るようにしてください
3.未成年の方は絶対に送ってこないでください。個人的には24歳くらいがベストです
4.男性がパイ毛いっぱいの写真を送ってくることが予想されますが、決してそのようなアフロ目玉おやじみたいな画像はいりません。
ある程度データーがたまったら統計的に分析して発表したいと思います。正直に言うと、長々と書いてきたことは全然関係なくて、データー収集にかこつけておっぱいが見たいだけです。お願いします。
pato@numeri.jp(←クリックするだけで送れます。決して手間はかかりません)
5/17 Cursive Writing
「肩が分からない」
職場の事務用パソコンに向かいながらただいま婚活真っ最中、生粋のジャニーズオタクで僕がキスマイなんとかっていうグループのことをキスマイアスって間違えたら狂ったように怒り出したお局様が、皆に聞こえる声で言い放った。
肩がわからない。僕らもその言葉の意味が分からない。肩が凝った、肩が痛い、肩がなくなった、肩を壊したので渡米して手術する今シーズンは絶望、そんなセリフだったら僕らも理解できるしそれなりに対応できるのだけど、いくらなんでも「肩が分からない」は本当にわからない。婚活のし過ぎでいよいよ狂うたか、と職場の誰もが思いました。
うわー、お局が狂うと大変だぞーとか思いながら彼女の方を見ると、隣のフレッシュマンに何やら言い寄ってました。業務命令よ、私を抱きなさい、とか言ってるのかと思ったらそうではなく、どうやら紙に漢字を書いてもらっている様子。なるほどと思いました。
パソコンの発達により、特にオフィスシーンでは文書をパソコンでタイプすることが当たり前で、それと同時に私生活でも多くの場面でパソコンでタイプするようになりました。また、電子メールや携帯メールのように紙媒体を介さずに完結する伝達手段も各段に増えてきました。
それは言い換えると、紙媒体に自分の手で文字を書く事が少なくなったということであり、これは漢字は読めるけど書けない、という現象を引き起こすことになる。実はこれは最近では結構な問題になっている。
お局様もどういった理由で手書きの「肩」を書かなければいけないのか分からないけれども、いざ書こうとしたら書けず、なんとなくの形はわかるのだけど正確な形がわからない。漢字の形なんて真剣に考えれば考えるほどさらに混乱してしまうもので、もうどうしていいのか分からなくなったのだと思う。そしてあの発言だった。よかったお局が狂ったわけではなかった。
こうやってこの最近の日本では漢字を読めるのに書けない人が増え続けているらしいのだが、実はこの現象、日本に限ったことではない。アメリカなどでは、あの筆記体と呼ばれるミミズが這ったような文字表記に同じことが起こっているらしい。
もともとアメリカなどでは筆記体は学校で教えたりするけどそうそう使うものではなく、地域によってまちまちだけど大体はサインの時なんかに使う程度だったらしい。こんな使わないものをなんで教えるんだ、とかライフルを手入れしながら言っているんだと思う。
そして、同じようにパソコン文化が発達すると筆記体を書く人は激減した。さすがに漢字のように複雑ではないので書けないという人はいないとは思ううのだけど、いつかは廃れゆく、そんな運命なのかもしれない。
僕らも例に漏れず、中学くらいで英語を習った時に、こういう表記もあるという感じで筆記体を習った。なんだかカッコイイ流れようなフォルムに、普通のアルファベットを崩したような暗号めいた何かに言い知れぬワクワク感を感じていた。
そして英語教師の一言。「アメリカ人はみんなこの筆記体だから」これが決定打だった。今思うとこれは間違いなのだけど、中学生だった僕らにとってこれは衝撃だった。筆記体こそが本物の英語、その認識はまだまだ青臭かった僕らの心を鷲掴みにして離さなかった。
例えば、野球においてプロ野球チーム同士の試合と普通の小学生チーム同士の試合で異なったルールで戦っていたらどうだろうか。プロが4ストライクまでOKで小学生が3ストライクで三振。たぶんそうなると三振が偽物で四振ルールこそが真の野球である、となるだろう、それだけトップの連中がやっていることってのは下層にとって本物となりうるのだ。
それと同じで、英語を学習している僕らにとってアメリカ人は英語のトップ層だ。そいつらが筆記体を使っているならば僕らも筆記体を使わねばならない。誰が言うでもなくそんな機運が高まった。それこそ、筆記体以外の英語は英語じゃない、くらいの気概で臨んでいた。
田舎で育った純情な僕ら中学生にとって筆記体は格好良かった。すぐに爆発的にクラス中に広がり、持ち物に名前を書く時とか、ちょっとしたメモをする時、あらゆる場面で筆記体が使われるようになった。
しまいには女子が授業中に回す手紙、あのテクニカルに折り畳まれた手紙なんかにも筆記体が使われた。わざわざローマ字に直して書いていたので、まあ、たぶん結構なアホだったんだと思う。
そんな折、クラスで一番馬鹿だった坂田くんが画期的な発明を生み出でそしてピュアだった。その切れることのない一途な思いは言うなれば心の筆記体、挑戦の筆記体。
そしてついに彼の筆記体が注目を浴びる日がやってきた。そう、テスト返却の日。全教科次々と0点で返却されてくる。「読めません!」赤ボールペンで殴り書きされた教師の文字、用紙が破れそうなほどに強い筆圧で書かれていた。
全ての教科で前に呼ばれ怒られる坂田くん、その全てに「新しく開発した日本語の筆記体です」と反論しては怒られていた。ちょっと解答用紙を見せてもらったんだけど、数学の「x」まで「エックス」と独自の筆記体で書かれていて笑った。いや、そこは普通に英語の筆記体のxでいいじゃない。
最後の教科はクラス担任の教科だったんだけど、普通にビンタされてて、坂田くん、いつも鼻水だしてるもんだから華麗に鼻水が飛んでいた。捕れたてのサバみたいにプルプルと空中を鼻水が舞っていた。その軌跡はまるで筆記体のようで、坂田くんが提案した「し」の字に似ていた。
なんだか、職場の婚活ババアのことを、ヒステリックなババアのことを、ジャニーズの大ファンで、僕が「Kiss-My-Asshole2ですっけ?」って言ったら覇王のように怒り狂ったお局さんを見ていたら、そんな坂田くんの筆記体を思い出してしまった。
「肩が分からない」
お局さんがそう言い出した時はついに狂ったかと肝を冷やしたけど、ただ単に書く機会が少なくなって漢字を忘れただけだと分かって安心した。よかった狂ったお局さんなんていなかったんだ。
安心しつつも、こんな状態が続けば筆記体が廃れたように手で書く日本語も廃れていくのかもしれないと心配しつつ、そもそも何でお局さんは肩って字を書く必要があったんだろう?と紙を覗いてみると
「肩甲骨」
って書いていた。何のために書いたのかわからない。しかも1回ではなくくり返し書いていて
「肩甲骨肩甲骨肩甲骨肩甲骨肩甲骨肩甲骨」
みたいになってた。ああ、やっぱり狂っていたんだ。最後の方は面倒になったのか、肩甲骨が繋がるように筆記体ぽく書いており、あの日見た坂田くんの筆記体に似ていた。あの日の彼の一途な思いは全然関係ないお局さんになぜか受け継がれていた。それは筆記体のような連綿と連なる奇跡の軌跡だった。
5/16 銀色の銃弾
いま、座薬が熱い!
主に僕の中でなんですけど、空前の座薬ブームが到来しています。なんてことはない、単純に痔が酷く、このままでは体内の血液が全部痔によって放出されるのではないかという不安感、毎日が血抜き麻雀という恐怖、それらに打ち勝てなくなったので、座薬の使用を決意するに至ったのです。
まあ、座薬って初めての経験ではないですし、今回の痔においても主に病院で何度かお世話になりましたから別にどうってことはないんですけど、なんというか、今までの座薬は誰かに言われての仕方なしの座薬、義務の座薬、言うなれば受身。こうやって自発的に座薬に手を伸ばすのは初めての経験なのです。積極的座薬。
で、今僕の中で完全に座薬ブームが来ているのですが、座薬を取り出してみてみますとね、もうその形状がカッコイイ。完全に計算尽くされた弾丸のようなフォルム。きっと、これはアナルを切り裂くシルバーブレットとしてデザインされたに違いありません。もう完全に座薬ブームで、座薬を眺めながらウットリといった状況。
それだけで済むならいいのですが、やはり座薬コレクターには座薬コレクターなりのポリシーというかモットーがあるじゃないですか。ウットリだけでは終わらない。
スニーカーコレクターといってレアなエアジョーダンとかのスニーカーを集めている人に言わせると、レアなスニーカーをショーケースに入れて眺めてるような人間はコレクター失格、らしいです。本物は使用された時のスニーカーが最も美しいとしっていますから、適度に使用するそうなのです。
それと同じで、いくらこの座薬というかシルバーブレット、どちらも字面的に座薬の美しさを表現していないのでSilver Bulletと呼びたい勢いなのですが、そのSilver Bulletがどんなに素敵であろうとも、それは本質ではないのです。アナルに入れて溶け始めて薬効を発揮し出してこそ座薬であり、もっとも美しいのです。
ということで、毎朝職場でSilver Bulletをぶっ刺してるんですが、ここである発見をしちゃったんですね。誰もいないオフィスで下半身裸になって椅子の上に四つん這いになってSilver Bulletを入れるんですけど、急いで入れないとSilver Bulletが溶け出してきちゃうんです。
僕のアナルってすごいウンコ我慢とかで鍛えられているみたいで、キュッと締まってて、もうホモの人とかみたらゴクリってなるような素晴らしいアナルなんですけど、それってSilver Bullet的にはあまり好ましくないじゃないですか。ぶっ刺そうと頑張ってると、アナルから伝わってくる体温でSilver Bulletが溶け出してきちゃうんです。
そんなことしていたら治る痔も治らないですからなんとか手早く入れようとするんですけど、あれって難しいんですよ。アナルは設計上、中から出すことのみに特化してますから、そとから何かを入れる構造にはなっていない。
この辺のニュアンスが伝わるか大変不安なんですが、ただ押し込んでるだけではなかなか入らない。Silver Bulletと一緒にアナルがちょっと体内に押し込まれるだけで入らないんですよ。それより、まさにアナルを切り裂くといったイメージで、先端をちょっと侵入させてシュワって感じで入れるとかなりスムーズなんです。
けれども、最初の頃はそれが分かんなくてですね、一生懸命Silver Bulletをアナルにあてがって押し込んでいたんです。当然、アナルを切り裂けるはずもなくSilver Bulletとアナルがググッと押し込まれるのみ。それでもちょっと入ったかなって段になって、明らかに鉄壁なアナルの守備力が発揮され始めるんです。
こりゃアカン。そう思ってちょっと角度を変えようと一旦、Silver Bulletから手を離した瞬間ですよ。コロンコロン、とね、アナルによって押し出されたSilver Bulletが飛んで行き、オフィスの床を転がっていったんです。コロコロと転がっていったのです。
まさか…座薬はアナルの力で飛ぶ!?
そうなればまさにSilver Bulletです。銀色の銃弾ですよ。アナルの弾力で飛ぶ座薬、なんともロマンのある話じゃないですか。もう、定年退職したおじさんが退職金をつぎ込んで、嫁に呆れられながらも組み立てる鉄道ジオラマくらいのロマンがありますよ、これは。
アイザック・ニュートンは木から落ちるリンゴを見てインスピレーションが閃き、万有引力に辿りついた。彼が成し得た功績は今さら語るまでもない。それと同じで、僕は飛んでいく座薬をみてアナルの持つ無限の可能性に気がついてしまったのだ。
早速、様々な角度からどうすれば飛距離が伸びるのか検討を始めましたよ。チュンチュンと雀の鳴く声が聞こえる早朝のオフィス、紙に図を描き、最適な発射角度からアナルがその角度になるために必要な姿勢の計算。様々な要素を検討した結果、椅子の上で孔雀のように脚を上に広げてパカァとアナル丸出しにして、すこし尻を突き出す感じにすると最適な角度になることを発見。
おまけにこの体勢になるとアナルに適度な弾力が付加される。これで最高の飛距離が出るはずだ。と思ったところで気がついたんです。幅跳びにしても槍投げにしても飛距離を競う競技はみんな助走をつけている。いうまでもなく助走をつけたほうが飛距離が伸びるからだ。
座薬飛ばしにも助走が必要なのではないか?
確かに普通に飛ばすだけでもある程度の飛距離が出せるほど僕のアナルは弾力がある。けれども、それは所詮は国内レベル。世界を舞台に戦うにはそれだけでは絶対に足りない。欧米にはもっと化け物みたいなアナルを持った、カタパルトみたいな構造のアナルを持ったヤツが存在するに決まってる。まだ見ぬ強敵ってやつが。
問題は、このアナル丸出しの状態でどうやって助走をつけるかってところなのですが、普通に考えて、素人撮りのラブホテル映像が流出した時のご開帳みたいな体勢になってますから物理的に走ることは不可能。どうするものかと悩みながらも、まだ見ぬ世界の強豪たちが僕のことを嘲笑っている妄想が頭の中を駆け巡ります。
「ジャップはアナルも弱いな!」
アメリカ代表、シャウエッセン(黒人)が尻の筋肉を自在に使って地面を走り、ものすごい助走でスウィングバイした座薬が壁にめり込む。それは日本にとって二度目の敗戦だった。
「クソッ!」
あまりの悔しさにアナル丸出しの状態で椅子を蹴る。椅子はスーッと滑っていき、壁にぶつかって倒れた。それは朝のオフィスにはあまりにも大きすぎる騒音だった。
「これだ!」
蹴られた椅子は壁まで滑った。それは椅子の足に滑車がついているからだ。これは助走に使えるんじゃないだろうか。思い立った瞬間、既に椅子の上でアナル丸出しのご開帳ポーズでスタンバイ。壁際に陣取って右手は座薬をアナルに押さえつけ、左手を壁につける。そして意を決して左手で思いっきり突っ張る。
ものすごい憩いで滑る椅子。アナル丸出し状態でオフィス内を駆ける。初めて受ける風の感触にアナルは戸惑っているかもしれない。ゴーッという音が響き渡る。今だ、今しかない。座薬を抑えていた右手を話し、アナルの力で座薬を飛ばす。
それは銀色に輝く銃弾のようでもあり、虹のようでもあった。勢い良く飛び出した銀色の銃弾は、少しだけ放物線を描きながら真っ直ぐと飛んでいった。世界へと挑戦する夢の架け橋。これにはシャウエッセンも驚くしかない。
「3m42cm」
興奮冷めやらぬ状況でメジャーで飛距離を測定する。これはもうしかしたら座薬飛ばしの世界記録かもしれない。
「コツさえつかめば4m台もいけるな」
「なにがですか?」
いつの間にか同僚が出勤してきていた。危ない。あと5分早く来られたら死んでいた。興奮したまま下半身丸出しで飛距離測定をしていたら死んでいた。とにかく助かった。心臓が止まるかと思った。
「なんでもないよ」
そう答えたのはいいものの、床に転がった座薬を拾うわけにもいかず、一日中オフィスの片隅に座薬が転がっていた。もう本当に針のむしろとはこのことで、時間が経過すればするほど一緒に仕事している同僚たちの手前、今更拾うわけにはいかず、うおー、あんなところに座薬がーとか思いながら仕事してた。
誰かが「なにこれー」とか行って拾い上げて、見たらウンコと血がちょっとついてて、銃弾のような形をしていて、なんだろうって大騒ぎになったらどうしよう、とか考えながら仕事してたら、興奮でどうにかなりそうだった。次は是非4m越えを狙っていきたい。
ちなみに、1日座薬をいれなかったので痔が悪化したらしく、帰ってから入れたら、すげえ患部が熱を持っていて痛かった。いま、座薬が熱い。痛いくらいに。
5/15 家庭教師は見た
さてさて今日は私が家庭教師をしていた時のお話でもしましょうか。また思い出系の話題で申し訳ないのですが、家庭教師先でのエピソードについて紹介してみようかと思います。ホノボノした家庭で起こった心温まる家庭教師ストーリーです。
中学三年生の女の子に教えたときのこと、僕が唯一教えた婦女子なのですが、ココの家庭は非常にホノボノとしていました。優しそうなお父さんとお母さん、娘さんだって素直ないい娘で、毎週教えに行くのが楽しみなぐらいでした。しかし、悲劇とは突然やってくるものなのです。
ある日のこと、とんでもない大雪がわが町を襲いました。深夜から雪は降り続き、朝にはビックリするほど雪が積もっていました。交通機関は麻痺し、テレビでは様々な被害状況を報じていました。ちょうどその日は家庭教師の日だったのですが、この大雪です。行ける筈がありません。
普通の人ならそう思うところでしょう。やはりその女の子も「今日は家庭教師が来る日だけど、大雪で来れないだろう」 などと考えたらしく、降って沸いた休日に大喜びし母親とショッピングに出かけてしまったそうです。彼女の家は商店街やデパートの近くにあったため、 大雪でもショッピングには出かけることができたようです。家では仕事が休みだった父親だけが留守番をしていました。
やはり大雪です。行くのは面倒くさい。休みにしてしまいたい。僕もそう考えたのですが、変にプロ意識旺盛だったため、「大雪如きで休んでいたら家庭教師の名が廃る! ここは這ってでも行かねば! 」などと激しく見当違いな考えの元、まさしく這っていくように教え子の家へと赴きました。
さあ、これに驚いたのはお父さん。来ないだろうとタカをくくっていた家庭教師が来てしまった。突然の家庭教師の急襲に驚きを隠せない。僕が普段行くときは、お父さんはダンディーな週末パパみたいなファッションを しているのですが、今日は家庭教師が来ない。楽な服装でいいや、などと思ったらしくラクダのモモヒキみたいな服を着ていました。
フランクな自分のくつろぎスタイルを見られたお父さんは狼狽していました。自分の無様な格好は見られるわ、 狼狽してるとこを見られるわ、家庭教師の主役とも言える娘はいないわ、いつも家庭のことはまかせっきりの妻はいないわ、と瞬く間にパニック状態に。 しかし、寒い中いつまでも僕を玄関先には立たせておけません。 とりあえず上がってもらうしかないでしょう。
普段は直で娘の部屋に行って、勉強開始となるのですが、娘がいない今はそうはいかない。 とりあえず僕はリビングに通されました。
「娘達はもう少ししたら帰ってくると思うので、テレビでも観て待っててくだ さい」
とお父さんは丁寧に言ってくれた。雪の中、娘の勉強のために来てくれた僕に不快な思いをさせてはいけない、丁重にもてなさなければ・・・・。 お父さんはそう思ったに違いない。 なんていい人なんだろう。
さて、テレビを観て娘達の帰りを待っている僕を尻目に、お父さんはキッチンでテンテコ舞いでした。僕にお茶とお茶菓子を出さねばならないのです。 しかし、台所のことは妻に任せっきりのため、 どこに何があるのかも分からない状態。 お茶を出さないわけにはいかないし・・・・。 うろたえるお父さんの姿に人柄の良さが伺えます。僕も気を使って 「いいですよ、おかまいなく」 というのですが、 「そういうわけにはいきません!」 とお父さんは一生懸命なんです。
30分ぐらいして、やっとこさコーヒーが出てきました。お父さんの苦労と涙の結晶ですよ。台所のことは妻に任せっきり、自分一人ではコーヒー入れるのも一苦労だ。 お父さんは妻のありがたみを噛み締めていることでしょう。
「あ、お茶菓子も出さなきゃ」
そういってお父さんはまた台所のほうに消えて行きました。 お茶の次はお茶菓子。お父さんも大変です。 しかしお父さん、お茶菓子のありかまではどうしてもわからない。あちこち引出しとか開けてみるのですが、一向に発見できない様子。
僕は甘いものはあんまり好きではないので、別にお菓子はいいのに・・・・。 なんて思いながらテレビを見てました。
すると、奥のほうから 「あった!」 という歓喜の声が。 どうやらお茶菓子が見つかったようです。 お父さんは、そそくさと発見したお菓子を小さなカゴみたいな入れ物に移し変えていました。 そして発見したお茶菓子を手に、リビングに登場です。
やっと出すべきものを出して、お父さんは一安心です。 僕とお父さんは二人でテレビを見ながら、お茶を飲みました。 いい人だなー、僕のために不慣れなこと一生懸命やってくれて、こういうお父 さんが理想だなー。娘に対しても妻に対しても優しく良き父親に違いない、ウチの親父と交換してもらいたいくらいだぜ、まったく などと想いを馳せていました。
そして、お父さんが一生懸命探してくれた菓子でも頂きましょうかねーと思い菓子カゴに目をやりました。ほら、高級菓子ってあるじゃないですか、仰々しい箱に入った高そうなやつで 中身も、ミニケーキみたいな菓子が一個一個袋に入ってるような感じの。お父さんが持ってきた菓子もそんなカンジの菓子に見えたんですよ。そんなカンジのビニールっぽい袋が何個も籠の上に並んでいたからさ。やったね高級菓子だぜ!などと思いまして、ちょっと食べてみようと思い、手にとりました。そのお菓子を見て僕は腰が抜けるほど驚愕したのです。
手にとったお菓子の小さな袋には
「ロリエ」
と書いているではありませんか! そう、間違いなく生理用ナプキンなんです。
うーむ、確かに高級菓子に見えないこともない。でもフツー気がつくだろ!!あんたはそんな涼しい顔して客人にロリエを出すのかい? などと突っ込みどころ満載なのですが、
もしかして・・・・これはワザとやってるのでは・・・。僕に対する手の込んだセクシャルハラスメントかもしれない・・・。様々な想いが頭の中を駆け巡ります。もはや気が気ではない状態ですよ。そんな僕の狼狽ぶりを見て、お父さんもやっとこさ自分の犯した過ちに気づいたようでした。
そう、自分の出したものは茶菓子ではなく、娘か妻の生理用品であることに気づいたのです。 しかし、いまさら引っ込めるわけにはいかない。 お父さん的には気づかなかった振りしてやり過ごす作戦にでたのでしょう。そしらぬ顔でテレビを見はじめました。
必死にクールガイを装う彼だが、やはり狼狽ぶりは隠せない。こうして僕とお父さんは、山盛りの生理用品を前にしてパニックになりながら、お互いに冷静を装いつつコーヒーを飲むのでした。
そこへ娘と母親が帰宅。山盛りのロリエを前に茶を飲む父と家庭教師。物凄い変態に映ったことでしょう。中学生の女の子といえば多感な時期です。そういった用品を他人である先生に見られるのも嫌だったのでしょう。もう娘は泣いちゃって泣いちゃって、ヒステリーおこしちゃって、妻は妻で、父親に向かって怒り狂っているし、「ごめんヨ、ごめんヨ」 と父はただただ謝るばかりでした。せっかく大雪の中来たのに、この日は勉強するどころではありませんでした。
幸せな家庭をいとも簡単に恐怖のズンドコに追いやるロリエ・・・。 恐ろしいものです。 僕は今でもロリエを見るたびにこの時の事件を思い出します。そしてあの一家が今でも仲良く幸せに暖かい家庭を営んでいるのを願って止みません。
雪の日の心温まるハートフルストーリーでした。
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出だしを削れば絶対にバレないと思う。
5/14 お天道様
人間悪いことだけはするもんじゃない、そう思います。
とかく勝ち組だの負け組だのが持て囃され、やったもん勝ち、儲けたもん勝ちみたいな思想が根付いたのはいつ頃からでしょうか。少々不正があろうが誰かに迷惑をかけようが儲けた者勝ち、得をするべき、いつのまにかそうなってしまったように感じます。
別にそれが特段に悪いことだとは思いませんし、そういうのはよくない、と意見を押し付ける気はなく、ただただ寂しい世の中になったものだと嘆くばかりです。
「お天道様が見ている」
昔の人はよく言ったもので、悪いことをしていて誰も見ていない、目撃者もいない状態でもきっとお天道様が見ている。だから悪いことなんてするもんじゃないよ。昔の人はそうやって子供たちを戒めた。
実はこれは非常によく出来た言葉で、お天道様とは太陽のことだ。燦々と輝く太陽は善の象徴であるし、いつだって僕らの頭上に君臨している。あんな巨大で絶対的なものが見ているのなら悪いことは出来ない、太陽信仰にはじまり、これまでずっと脈々と受け継がれてきた古の日本人の思考を象徴しているかのようだ。
反面、悪事は闇のイメージが強い。悪い相談なんかを太陽が眩しい灼熱のビーチでやるイメージはそんなにない。常に悪事は闇で、太陽の目が届かない暗闇で行うのだ。泥棒だって、太陽のいない夜中に来るイメージだ。
けれども実際には、昼間だろうが、ビーチだろうがゴルフリゾートだろうが、どんなに太陽が見ていても悪い企みはされるだろうし、夜中に泥棒するより留守になる昼間を狙った空き巣の方が多いだろう。絶対的で不思議な力を持つ太陽の象徴性が薄れていくに従って関係なく悪事が働かれるようになった。
おそらく、今時の子供に「悪いことをするとお天道様が見てるよ」と言ったところで、「お天道様、太陽のことですな。銀河系の恒星の一つで地球が属する太陽系の中心。核融合反応があの莫大なエネルギーの源となっている。ふむ、残念がら地球を視認するような要素はありませんな。よって、それは迷信です」とかパソコンで株取引しながら言われるにきまっている。
けれどもね、僕は思うんですよ。昔の人が「お日様」でもなく「太陽」でもなく「お天道様」という言葉を使ったのか。太陽信仰というか太陽崇拝において「お天道様」という言葉を使うんですけど、つまり、物理的な存在としての、天体としての存在の太陽ではなく、神としての太陽の存在を意識させたく、お天道様という言葉を使ったのだと思うんです。
で、それがどこにあるのかというと、心の中なわけで、結局、どんなに悪いことをしていて誰も見ていなくて、太陽も出ていなくても絶対に一人だけ見ている人がいる。それは自分なんだ、ということなんですよ。
僕の職場には外国からの研修生が来ていて、以前にも日本語が全くしゃべれないマレー君の話を書いたことがり、みなさんの記憶にも新しいと思うのですが、最近、新たにもっと日本語を喋れない外国人研修生の方を面倒見るようにいわれたんですね。
もう意思疎通ができなくてどこの国から来たのかも分からないレベルでその方の面倒を見ていたんですけど、実は仕事内容の意思疎通なんてのはそんなにする必要なくて、少なくとも言語で意思疎通する必要はないんですよ。絵とか身振り手振り、共通に保有している専門知識でなんとかなる。
けれどもね、せっかく朝から晩まで一緒に仕事していて、全く仕事内容以外のコミュニケーションを取れないって寂しいじゃないですか。だからちょっと日本語を教えようと思って、ずっと「性交」っていう日本語だけを教え続けていたんです。
ずっと三週間くらい仕事の話題以外は「成功とはセックスのことで」とだけ教えていたら、最初は怪訝な顔していた彼も、僕が「性交」と言うと「セックスね」と歯をニカッとさせながら答えてくれるようになったわけなんですよ。
でもね、僕がそんな性交についてしつこいくらいに教えてるって誰も知らないわけじゃないですか。二人っきりで仕事してますから、この悪事を誰も見ていない。絶対にバレるはずがないんですけど、お天道様が、他でもない僕が見ているんです。結局、こんな悪事に手を染めているとロクなことがない。
いよいよその外人の研修期間も終わり、お偉い人同席の中でお別れ会みたいなものが開催されたんです。マレー君の時はこの挨拶の時に僕の教えた嘘の日本語使われて大変な騒ぎになったのですが、今回はそれを警戒して挨拶関係は教えていません。しかも嘘を教えていない、「性交」はセックスのこと、大丈夫、きっと大丈夫と安心して見ていました。
そして会は進み、いよいよ職場の一番偉い人から研修生に記念品が贈呈されました。このウチの職場で一番偉い人、いつもこういった場面でそこそこいい値段の時計をプレゼントすることで有名で、その時計をプレゼントしてからの挨拶というかウンチクというか説教というか、
「時は金なりと申しまして…」
から始まるクソ長い話がもうウンザリ。みんな「また時計か」とウンザリとした空気が漂うんですが、当の一番偉い人だけは
「なにかなー、なにかなー」
とミステリアスさを演出してウキウキ。全員が「どうせ時計やないか」と見守る中、ガサガサと研修生が包みを開けます。そこには銀色に輝く高級風味の腕時計が。ワオ!みたいな感じで喜ぶ研修生。きっと、日本の時計は精密で正確で喜ばれるんでしょうね。そして偉い人の定型の話が始まります。
「時は金なりと申しまして…」
その時ですよ。その横でマジマジと貰ったばかりの腕時計を眺めていた研修生。どうやらその時計に「SEIKO」って書いてあったみたいで、「せいこー?ああ、セックスね」とか言い出しやがるんですよ。もう偉い人の話も止まっちゃってね、あとはお察しですわ。
結局、どんなに上手に悪いことをしたってお天道様と言う名の自分が見ているんです。そしてその時は悪事が明るみに出なかったとしても、巡り巡って必ず停滞しっぺ返しがあるものなのです。悪いことは成功しない。おお、セックスね。
5/13 パワーホールは響かない
冷静に考えたら君たちはおかしい。そりゃ、わざわざワールドワイドウェッブを使って高尚な読み物を読むでなく、誰かと熱い議論を交わすでもなく、郷里のお母さんに無事を知らせるEメールを書くでもなく、こんな35歳おっさんの日記を読んでいるのですからお里が知れるってものなのですが、冗談でもなんでもなく、もっと本気で受け止めるべきだと思う。自分はおかしいんだと。
「ヌメリナイト」と呼ばれる、35歳のおっさん、それもデブが出てきて壇上でパワーポイントで訳の分からない絵を出しながら延々と喋っている意味不明なトークイベントがあるんですけど、その人里離れた悪魔信仰のはびこる集落で行われる怪しげな儀式よりも怪しげなイベントに、結構な額のお金を出して、結構な数の人が集まるっていうんですから、これがもう冷静に考える間もなく頭おかしい。
それだけに留まらず、なぜかイベント終了後には「サインください」みたいな状態になっちゃうんだけど、ちょっと待ってほしい。とにかく冷静になって思い返してみてほしい。本当にこんなオッサンのサインが欲しいのか、その少し足りない頭で考えてみて欲しい。よくよく考えなくても絶対にいらないはずだ。いっとくけど、ウチの職場に僕のサイン欲しがるやつなんて、借金の保証人にしてやろうと企んでるヤツくらいしかいないよ。
でまあ、なんかサインを求める人で長蛇の列になっちゃってましてね、たぶん、人がもらってたら自分も欲しくなるみたいな、一種の集団ヒステリーみたいなものだと思うんですけど、結構な人数になっちゃってサインの時間が長くなっちゃうんですよね。もう会場のスタッフの人がなかなか終わらなくてヤキモキするくらいに長蛇の列。
絶対に頭おかしい。こんなのもらってどうすんの?とか言いながらサインしていくんですけど、その時にですね、何やらプレゼントを貰うことが多々あるんですよ。特に女の子はすごく気を使ってくれていてですね、トークイベント自体来場者の半数くらいが女性で驚くんですけど、次々とちょっとしたプレゼントをくれるんですよ。
「patoさん、よかったらこれもらってくれませんか?」
それこそ、ファンシーでカワイイ小物ですとか、携帯電話のケースですとか、和菓子ですとか手作りのお菓子ですとか、とにかくカワイイ女の子が多いんですけど、くれるものまでカワイイ。プレゼントからちょっと良い香りがするもんな。こういった小物のプレゼントうれしいけど、おっぱいもませてくれたほうが4倍くらい嬉しい、なんて口が裂けてもいえないっすよ。
とにかく、こういった女性の方からの気遣いのプレゼントは本当に心洗われる感じで、イベントで消耗しきっている35歳オッサンを存分に癒してくれるんです。それに引き換え、男ですよ、男。どいつもこいつも喉仏出しやがりやがって言うわけよ。
「patoさん、これ、フヒヒヒヒ」
ってまるでチンコに毛が生えた時みたいな笑顔で低い声しやがってですね、出してくるのはたいていエロい何かですよ。エロDVD、エロ本(快楽天ビースト)、お姉さんが使った下着、とにかくエロい男性が多いんですけど、くれるものまでエロい。プレゼントからちょっとイカ臭い香りするもんな。こういうエロいプレゼント嬉しいけど、ちょっとなんか違うんじゃないかな、そう思うんです。
とにかく、こういった男性の方からの気違いのプレゼントは本当に心がドロドロに汚れていく感じで、イベントで消耗しきっている35歳オッサンのライフを十分に奪っていくのですが、その中でも特にすごいのが、オナホールをプレゼントしてくれる男性です。
オナホールってのが何なのかよく分からない女性の方に説明しますけど、まあ、プレスチックの筒があってですね、真ん中がくりぬかれてるんですわ。で、その穴は女性器の内部を模した感じになっていてですね、ローション垂らしてヌルッヌルッにしてからそこに男性器を突っ込み、ワンステージ上のオナニーを演出しよう、そんな道具です。
で、このオナホールなんですけど、これをプレゼントしてくれる男性が結構いまして、一回のイベントで5本くらい手に入れたりするんですけど、こうやってオナホールをプレゼントしてくれる男性、どいつもこいつも「してやってり」って顔してやがるんです。他のエログッズをプレゼントしてくれる人は申し訳なさそうだったり、ちょっと照れくさそうな感じだったり、それなりの表情なんですけど、オナホールを持ってきた人だけ誇らしげな、まるで戦国時代に敵兵を5人くらい討ち取って帰ってきた人みたいな顔してるんですわ。いやいや、頭おかしい。
そういうオナホールをいただけるのは本当にありがたいですし、嬉しいんですけど、ちょっと冷静になって考えてください。本当にそれで良いのか、考えてみてください。それは初対面の人に渡すものなのか。
例えばですよ、もう僕よりずっと上の存在で比べるのもおかしいのですが、比べないとお話にならないので比べますけど、アイドルや声優さんなどの女の子のトークショートとかサイン会に行ったと思いなさい。初対面の女の子、プレゼントとか渡しますよね、いろいろと声優さんのこととか考えてブヒヒヒとか言いながらもプレゼントもって行きますよね。
そこでヌメリナイトに持っていくノリでバイブでも出して御覧なさい。イボイボつきの凶悪なやつで、FFの最後のほうに手に入る武器みたいな形状していて、往年のiMacのようにライム色のスケルトンのやつとか出して御覧なさい。出した瞬間に会場のそとに連れ出されるから。
とにかく、こんなクソなオッサンのトークライブにきていただけるだけでもありがたのですが、その上、プレゼントまでいただいてしまって大変申し訳なく思うのですが、それでもオナホールをくれる人だけは頭おかしいと言わざるを得ない。とにかく狂ってるんじゃないか、そう言いたい。
こんなこと書くと、おいおい、オナホールと言えども貰っておいてそんなこと書くなんて、patoのやつ感じ悪いんじゃない?と考えられる方が多数に上るかも知れませんが、それでも書かずにはいられない。本気で僕は怒ってるんですよ。
あのですね、やはり貰ったオナホールは礼儀としてすべて使用するじゃないですか。いかにこれはもうオナニーではない、セックスに酷似してやがる、セックスホールだ、これを使ってオナニーをするべきではない、という持論の持ち主の僕でも、せっかくあるんだから全部使いますよ。
オナホールの中ってたいていはヌルヌルさせるようにローションが付随しているんですけど、1回使いきりの量ですから少量で、醤油入れみたいな入れ物や、チューブの中にヌルッとした物が入ってて、それをオナホールの中に垂らしてチンコ突っ込むんですね。で、ほんと驚かないように心臓叩いてから聞いて欲しいんですけど、そのヌルヌルローションを瞬間接着剤にすりかえていたヤツがいましてね、もう大変、あやうく一生涯チンコからオナホールが離れなくなるところでしたよ。
しかも、TENGAなどに代表されるスタイリッシュなオナホールじゃなく、かなり猥褻な、女性器の形を模したヤツでしたから、抜けなくなって病院に行くことになったりしたらたぶん看護師さんが泣いちゃうくらい猥褻な絵図ですよ。局部に中国雑技団がついてるくらいの状態ですわ。
もうね、これは殺人未遂だと思うんですよ。ええ、下手したら殺人ですよ。チンコからオナホールが取れないって時点で人間として死んでますし、病院行ったとしてもその時点で社会的に死、チンコを切断とかになったらどうする気ですか!頭おかしいんじゃない。
ホント、何が狙いだったんだと憤るばかりなのですが、幸いにもオナホール内部の素材と皮膚との接着には向いてない素材の接着剤だったので命からがら助かりましたけど、4日間くらい洗っても洗っても取れない接着剤の膜がついてたんですよ。尿道ふさがってたら大変なことになるところでした。殺人未遂だということをもっと自覚して欲しい。
とにかく、今日言いたかったことは、プレゼントはありがたいです、でも、オナホールをプレゼントしてくれる人は頭おかしい。そして、オナホールに垂らしてる時に臭いでこれ瞬間接着剤じゃね?って気がついていたのに、ここに突っ込んだらどうなってしまうんだろう、すごいくっついて摩擦がすごく、とんでもなく気持ちいいかもしれない!という欲望に勝てず、危険と分かっていて突っ込んだ僕はもっと頭おかしい。
5/12 みぢかさとせつなさと
たまには短く日記書けないですか?そんな声にお答えして今日は精一杯手短に書いてみます。
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金環日食、5月21日にかけて太陽が月によって覆われる金環日食が全国各地で見られるようだ。月の方が大きく見えて太陽が隠れる日食を皆既日食、逆に太陽が月からはみ出す日食を金環日食というらしい。よくよく考えるとこれはすごいことだ。
いやいや、実にダイナミックな天体ショーで、それこそもう死ぬまでに二度と見れないのかもしれないけれど、僕がすごいと感じたのはそんな部分じゃない。本質はもっと別の場所にある。
いま、ふと日記の冒頭に書こうと思って「金環日食」の話を持ち出したわけだ。もちろん、このパソコンで「金環日食」とタイプするのは始めてだ。なにせ、金環日食が前回見られたのは25年前の1987年、それも沖縄の一部のみなのだから、ほとんど初めて遭遇する現象で、今までに絶対にタイプされていない。
にも関わらず、「きんかんにっしょく」と打ったところ、変換候補の一番上に「金環日食」が登場する。当たり前すぎて何も不思議に感じないかもしれませんが、もう一度冷静になって考えてください。これは凄まじいことですよ。
例えばこれが「露出狂」とかだったら、そりゃ女の子も露出狂に遭遇するでしょう、各中学校区に一人は配置されてるんじゃねえかってくらい女性は露出狂に遭遇してますし、男性だっていつ自分が露出狂になるのかわかったもんじゃありません。それだけ私生活に密接に絡んでいる「露出狂」、これが「ろしゅつきょう」から一発変換で出たとしても何ら問題はないのです。
ところが、「金環日食」はそうはいきません。いまでこそ、来るべき金環日食に備えて猫も杓子も僕も「金環日食」とタイプしていますが、普通に考えて天文学の専門家でない限り普通はタイプしないんですよ。それこそ前回が1987年で沖縄の一部、今回全国的そして次回が2030年で北海道の一部、こんな頻度で起こる現象がわざわざ変換候補として用意されているのが恐ろしい。もし今回、金環日食が起きなかったらそれこそ一生涯関わりのない単語なんです。それが準備されている、本当に恐ろしい。
そう考えると、いまこうやって目の前にあるパソコンってヤツは、どんなに死に物狂いでビジネスに使ったり、ガリガリに酷使したり、それこそハッカーレベルの用途に使っていたとしても全くその力を発揮しきれていないのです。
そして、ここからが本当に恐ろしいのですが。このパソコン、まあ今はこと漢字変換に関してのみについて述べますが、こいつが自我を持って成長するというか、使用する人間の人となりを学習し、まるで使用者のクローンのように成長していくのです。
現に、全然使うことのなかった「金環日食」ですが、今日の日記で何度も連呼しているうちに「きん」と打つだけで「金環日食」と変換候補にでるようになるのです。たぶんもっと連呼してたら「き」だけで出るんだと思います。これって便利ですよね。ええ、本当に便利で、良く使う語句がバリバリ変換されるようになる。それ自体はすごく良いことなんですけど、そこに強烈な落とし穴があるんです。
あれは昨日のことでしたね。僕もまあ、いくらチャランポランに見えてもいっぱしの社会人ですから、最近のビジネスマンよろしくでビジネスメールを書くことがあるんですよ。で、ここで不思議なのは、Numeriの日記ってすごく軽妙にサラサラと結構な長文を軽やかに書いて、まるで音楽を奏でるかのように「ウンコ」とか最近では「痔」の話題とか、すごい簡単にかけちゃうんです。
でもね、これがビジネスメールというか、仕事関係のメールになると途端に書けなくなる。わずか3行くらいのメールでもうんうん唸ってるし、5時までに書類を添付して送って欲しい的な内容を伝えるだけなのにすごい悩んで悩みぬいて、結局出だしがうまくいかなくて書けないんで電話で伝える、みたいな状態になるんですよね。
同僚とかでこれですから、上司とか偉い人とかに送るメールはもっと深刻で、とにかく全然書けない、それでも書かないわけにはいかないんで、それこそ一日仕事みたいなレベルで頑張るんですよね。
で、もう僕から見たら雲の上の人みたいな偉い人、たぶん実際に会って僕が気さくに話しかけようとしたら黒服に連れ出されるくらい偉い人にメールで会合の開始時間が11時からだってことを伝えようとメールを打っていたんですね。なんとか苦労しながら文章を作成していったんですけど、いよいよ開始時間を書く段になって
「開始時刻 11時」
って書いたんです。けれども、なんか味気ないでしょ、「11:00」のほうがいいかしらって悩んで、実際に
「開始時刻 11:00」
って書いたんですけど、それでもなにかしくりこない。そうだ、偉い人はむちゃくちゃ忙しい人だ。これでは絶対に11時に参加する必要性を感じてしまう。決して名前を口にしてはいけないあのお方は時間通りにこれないのに、これでは逆にその治国を責めるような形になってしまう
「開始時刻 11:00~」
と改めた。すごい変だ。これじゃあ11時からずっとエンドレスで開始しているみたいだ。やはり消そう。
「開始時刻 11:00」
こうやってみると、数字が多すぎる。あのお方はお年を召したお方だ、あまり数字が多いと目がチカチカするかもしれない。ここは目に配慮して「11時」表記に戻そう。こんな感じで悩んでいるから進まないのですが、いよいよここでパソコンの恐ろしさを発揮ですよ。「:00」を消して「時」を入れようと「じ」って打ったんですけど、「11じ」の時は「11時」って出たんですけど、「じ」だけで打つと、このパソコンで痔関連の日記ばかり書いてるもんですから、学習機能を発揮し、
「開始時刻 11痔」
とんでもない状態に。意味が分からない。しかもあれだけネットリと熟考しながら書いていたのに、これをそのまま送信してしまうという愚考に。
いやね、別に誤変換くらいいいっすよ。それくらい人間だから間違えるわけですからいいですけど、問題はその間違い方で、「時」と「痔」間違えたんだな、それくらいは直感的に誰だってわかります。そして、よく打つ単語が間違って出るんだな、そうか彼は痔とよく打つのか、彼は痔か。ここまで2秒で連想されてしまうんです。
想像力豊かな人なら、じゃあなぜ痔に?アナルをよく使う、ホモか!くらいまでは連想しちゃうかもしれません。なにが悲しくて途方もなく偉い人に痔であることを告白しなきゃいけないのか分かりませんけど、悲劇はそれだけでは収まりません。なんと、このクソパソコン、この11痔、いわゆるイレブン痔で記憶の扉が開けられたのか「じ」は「痔」ちぃおぼえた、みたいな状態になりやがりましたね、以後の「じ」の変換の全てが痔。
「次回の開催ですが」
「痔会の開催ですが」
どんな会かも想像できないですし、その正体不明の会合に偉い人を誘ってやがる。しかもメールの締めが
「痔節がらどうぞご自愛ください」
「痔節がらどうぞご痔愛ください」
僕は、痔に対する愛が強すぎるのか。だからといって人に愛を強要するものではありません。
とにかく、パソコンとは便利で素晴らしいものです。けれども必ずその便利さには落とし穴が内包されている。使う人間がしっかりと意識して使っていかねば、偉い人からメールが帰ってこないとか、そういう首でブランコ必須、みたいな状況になるのです。みなさん、注意ですぞ。
うん、そうだね、あんまりみ痔会日記じゃなかったね。
5/11 ケイドロ
家から駅までの道のりに4つ公園がある。我がアパートは非常に辺鄙な場所にあり、もはや最寄駅という表現が適切じゃないほど寄ってないじゃないかと思うのだけど、とにかく駅が遠い。僕ご自慢のマウンテンバイクでいったとしても15分くらいはかかるんじゃないだろうか、そんな距離だ。
駅までの道中に4つも公園があることからもその距離の長さは伺える。いくらこの辺が郊外の住宅街で、ファミリーがちょっとした一軒家を建立してほのかにハッピーファミリーライフを演出するような土地といっても、いささか公園が多いように感じる。よく都会に緑はないという話を聞くが実は都会に公園は多く、緑もそれなりにある。
その日、家でテレビを見ていて猛烈に穴の開いた包丁が欲しくなった僕はもはや我慢の限界に達していた。あの穴は何に使うのだろうか、あそこからニュルっと人参のすり身みたいなものが出てくるのだろうか。もう居てもたってもいられなくなり、駅前のショッピングセンターに自転車を走らせた。
次々と4つの公園の前を通り過ぎる。そこである違和感に気がついた。今日は休日、それも快晴だ。4つの公園全てが十分な広さがあり、遊ぶにはもってこいのシチュエーション。けれども、子供の姿が全く見られない。皆無というレベルで子供がいない。いるのは老人とホームレスと井戸端会議の主婦だけだ。
駅前に近づくにつれて子供の姿が見られるようになった。けれどもそれは期待していたそれではなく、コナンみたいなメガネしやがって何かカバンを持ってどこかの学習塾にでもいくのだろうかトボトボと歩いている姿ばかりだった。
ああ、最近の子供たちは外に出て遊んだりしないんだな。よくよく考えればそれはそうで、最近は外が危険すぎる。交通事故のリスクに、不審者の増加、頭のおかしい犯罪者が外をうろついているかもしれない。ここ関東圏においてママたちは放射性物質も心配だろう。とてもじゃないが外で遊ばせる状況にないのかもしれない。
僕らが子供だった時代は、遊びといえば確実に外だった。まあ、多分僕が田舎者で家が貧乏だったということもあるのだけれども、とにかく外だった。言うなれば自分の家、友達の家問わず、家の中ってのはその家の大人の世界だった。反面、外の世界ってのは子供だけで過ごすことができる子供の世界、限りない自由があった。
そんな子供の世界に生きる僕らのお気に入りの遊びは「ケイドロ」だった。これはドロケイだとか呼んだり地域もあるようだけど、早い話がチームバトルの鬼ごっこだ。まず、警察サイドと泥棒サイドにチーム分けをすることから始まる。そして、泥棒チームになったメンバーはとにかく逃げる。開催する場所にもよるけれども、鬼ごっこと言いつつもずっと走って逃げるのは疲れるので多くの泥棒はどこかに身を隠し、隠れんぼのスタイルになることが多かった。
警察サイドはその泥棒を追いかける、もしくは探して捕まえるのが主目的で、捕まえた泥棒をあらかじめ設定していた牢屋に留置する。全員を捕まえることができたら警察チームの勝ちだ。泥棒チームも泥棒チームで、ただ捕まるだけではない。泥棒チームは牢屋を急襲することにより捕まった泥棒仲間を一斉に開放することができる。このゲームでもっともエキサイティングな瞬間だ。
僕らはこのケイドロに没頭し、日が暮れるまで楽しんだりしたものだった。特に当時の僕なんかは将来は警察官になりたいと憧れていたこともあり、このケイドロに燃えていた。それも、警察チームになることに異常な執念を燃やしていた。チーム分けにおいてはとにかく警察チームになるように念じていた。
それは、単に憧れていた以外にももう一つ別の理由がある。ちょっと気がつかないかもしれないが、このゲームの終了条件を考えてみて欲しい。警察は泥棒を全員捕まえたら勝ち、泥棒は牢屋の仲間を開放したらまたゲームが振り出しに戻る。そう、実は勝利条件は警察にしか設定されていない。何度、牢屋を急襲されようが、振り出しに戻るだけで警察は負けない。
逆に考えると、泥棒サイドは決して勝利することない戦いを延々と続けなくてはならない。どんなに頑張ろうが絶対に勝てないのだ。いち早くそのことに気がついていた僕は、常に警察チームでありたいと願い、泥棒チームになった時は不毛なので早々に捕まることにしていた。
そんなある日、その僕の策略に気がついた友人が難癖をつけてきた。
「お前、なんで泥棒チームになったら手を抜くんだよ」
最初はバレないように捕まっていたが、そのうちそれすらも面倒になってきていて、あえて隠れないとか見つかっても逃げないとか、牢屋から解放されても逃げないとか、もう酷い有様になっていた。さすがに皆が気がつく。お前泥棒サイドの時だけ手を抜きすぎじゃないかと。
さすがに、泥棒チームは永遠に勝つことがない不毛な戦いを強いられるから手を抜いてる、なんて説明したらこの遊びの根底が崩壊してしまうから言えるわけもなく、なんとなく「追われるより追う方が燃えるから」みたいな、恋愛に燃えてるしゃらくさいOLみたいなことを言いって言い訳したんですけど、受け入れられることはなく
「怠けたバツな!」
という満場一致の意見で「警察チーム」「泥棒チーム」に続く第三極として「下着泥棒チーム」という訳のわからないチームを作らされて、たった一人、その下着泥棒チームで戦うことになったんです。
この下着泥棒チームってのが酷い扱いで、当然のことながら警察は敵で見つかったら捕まるのだけど、なぜか同じ泥棒でありながら泥棒に見つかっても捕まって警察に引き渡されるという、全員が敵の状態。しかも捕まって牢屋にはいって、泥棒が開放条件を満たしたとしても解放されないという徹底ぶり。しかもその牢屋の中でも同じく捕まった泥棒から迫害を受けるという、ちょっとリアルな感じになっていました。
ただ、この下着泥棒チーム、といっても一人ですが、このチームが泥棒よりもマシな点が、勝利条件が指定されているということ。それが警察チーム泥棒チーム全員のパンツを脱がせたら勝利という、何か例え勝利したとしても凄く嬉しくない条件が設定されてしまったのです。
いよいよケイドロ、いや新たに下着ドロを加えたケイドロシタギドロが始まります。最初は警察チームが目を瞑って100を数えるところから始まります。そしてその間に泥棒チームと下着ドロが散り散りになって逃げるのですが、ハッキリ言って泥棒チームのやつ、完全に隙だらけですよ。
どちらのチームにも属さず、さらにはたった一人で下着ドロチームになってかなり追い込まれたような感じですが、ハッキリ言って僕は勝利を確信していました。確かに下着を脱がせるという行為はかなり難しいですが、それでもかなりルール的に有利なのです。
その有利な点の一つが、エアポケットのような油断しきっている時間が存在することです。この警察チームが100秒間数えている時間というのは、これまでのルールにおいては泥棒にとって絶対に捕まることのない時間なわけです。ですから、かなり安心して泥棒どもは隠れたりしているわけですが、ここで今回のルールでは敵である下着ドロが同じ時間を過ごしているということを忘れがちだ。
つまり、今まで絶対安全だったこの時間帯に、そこに僕がいる。完全に油断しきっている泥棒の一人を捕まえ、パンツを脱がしてやった。さらには、警察と違って泥棒たちがどこに隠れたのか丸分かりなので、いつでも料理できる状態に。
そして第二に有利な点。それが復活がないということ。泥棒は捕まったとしても開放条件を満たせば開放される。けれども、一度パンツを盗まれた人間のパンツ復活に関するルール設定はない。
第三に有利な点は、通常ルールでは死ぬはずがない警察チームまでパンツを脱がせばゲームから追い出せるという点。これは実はかなり強い。捕まることはない警察はかなり大胆に行動し、単独行動も取りがちだが、捕まることはないのだから当然だ。けれども新ルールでは警察すらもパンツを脱がされる。追う者が初めて追われるものになるのだ。
100秒が経過し、ちょろちょろと警察チームが単独行動で捜索にやってくる。物陰に入ってきたひょろい田中君を捕まえてパンツ脱がせてやった。田中君は泣いていた。
そんな調子で、警察を物陰に誘い込んではパンツを脱がし、隠れている泥棒を見つけてはパンツを脱がし、で5枚ほどのブリーフパンツを右手に縦横無尽の大活躍、いよいよパンツ泥棒最強説を確実にしようとした時、事件は起きたのです。
よくよく考えたらこのルールには穴がありまして、それが「捕まえる」という行為の曖昧さなんですけど、完全に押さえ込んで確保するわけではなく、袈裟固めとかするわけではありませんから、ちょっと肩とかを捕まえて「捕まえた」となるわけなんですよね。それって普通のルールなら問題ないんですけど、下着ドロが入ってくると大きな問題になるんです。
そう、パンツを脱がす時って絶対に接触プレイになりますから、警察にしろ泥棒にしろ、パンツを脱がしている最中に向こうが僕の手でも捕まえて「捕まえた」と言えばパンツ脱がしと同時に捕獲が成立してしまうんです。大体は押し切ってパンツを脱がしてしまうんですが、警察チームである大谷くんのパンツを脱がした時、事件は起きた。
茂みの方まで単独で探しに来た大谷君を後ろから捕まえて、さらに茂みの奥底に引きずり込み、いよいよパンツを脱がせにかかって半ズボンに手をかけたのだけど、その手を掴んで大谷くんが言う。
「捕まえた」
おいおい待ってくれよと。捕まえたもクソもないだろうと。捕まえるってのは完全に掌握するってことだ。それなのにこんなパンツ脱がされそうな状態で捕まえたもクソもない。関係ねえわー、覚悟ー!って感じでさらに脱がそうとすると大谷は大声を上げた。
「ストップ!ストップ!ちょっとルール違反!」
これは聞き捨てならない。大谷の叫びを聞いて警察チームの連中が集まってきた。
「捕まったのだからパンツ脱がしは無効ではないか?」
「気付かれずにパンツ脱がせるわけがない」
「腕を掴んでダメなら捕まえるのも無理なのでは?」
熱く議論が交わされたが結論は出ず、僕と大谷君でPK戦をすることに。これは未だによく分からないのだけど、二人が棒立ちになり、交代でズボンとパンツを脱がせ合う。よりダイナミックに脱がせたほうが勝利になるらしい。意味が分からない。
まず、大谷くんの先攻で始まる。棒立ちの僕のズボンとパンツを一気に脱がせる。ブルンとまだ発展途上の男性器が捕れたてのイワシのように躍り出た。ダイナミックだ。
そして次は僕の番だ。フルチンのまま大谷くんのズボンを脱がしにかかる。そこで事件は起こった。
バババッと脱がせると、ズボンとパンツが一気に脱げたのだけど、半分見えたそのパンツが明らかお母さんのショーツみたいなやつだった。
「おまえ、それお母さんのじゃねえか」
「ちがうわ、俺のだわ!」
「うそつけ!」
「お母さんにもらったんだわ!」
「じゃあ女物じゃねえか」
そんな不毛なやりとりがあり、なぜか大谷くんの脱がせ方の方がダイナミックだったという結論により、僕は敗北、捕縛されて牢屋に入ることになったのでした。その後も何度か泥棒サイドが牢を破り開放とかダイナミックな展開になったのですが、もう関係ない下着ドロはただ見ているだけでした。
思うんですよ、よくよく考えたらPKも判定するのが全部警察チームだったから勝てるはずがない。とにかくこのケイドロってゲームは絶対に警察が勝つようにできているんです。
そんなことを思い出しながら、最近は本当に外でケイドロとかやっている子供たちを見ない。たまに外で遊んでいる子供を見たとしても外でDSかカードバトルやってやがる。本当に見ないなあ、と思いつつ駅前のショッピングセンターに行って目当ての穴あき包丁を買えたのでした。
帰り道、やはり子供たちって外で遊んでいないよなーとキョロキョロしながら帰っていると、お巡りさんい止められ、思いっきり不審人物として職質されました。すごい色々と質問された。
「ちょっとさ、リュックの中みせてくれるかな?」
すごい満面の笑みで言われて、いいっすよって即答しようかと思ったんですけど、よく考えたらリュックに包丁入ってる。こりゃ死ぬほどまずい。別に悪いことはしてなくて、ただ穴あき包丁が欲しかっただけなんだけど、それでも見られたら色々と面倒なことになりそうだ。
「それって任意ですよね?」
と、別に反抗する感じじゃなく、ちょっと軽口みたいな感じで聞いたら、
「任意だよ」
と、それが何か?みたいな感じで言われたんですけど、任意だから拒否できるけど、拒否したら明らかにすごい面倒なことになるけどそれでもいいなら拒否したらいいんじゃない?我々は拒否する理由があるって受け取るからね、まあ、覚悟あるなら拒否しなさいよ、みたいなオーラが笑っていない瞳からムンムンに感じられたので、素直にリュックの中見せました。
「包丁だね?」
「はい、テレビ見てたら穴あきの包丁が欲しくなって」
「なんでキョロキョロしてたの?」
「最近子供が外で遊んでないなーと思って」
返答だけなら1000%検挙対象なのですが、一連の流れを延々と話したら、ちょっと怒られるだけで解放されました。
とにかく、この日本という国においては警察の方には勝てません。それを考えると、あのケイドロってのは子供の遊びながら、すごいリアルにルール設定がされていたんだな、そう思うのです。
ちなみに、全然関係ないのですが、職質されている間、持病である痔が悪化したらしく、なんか血とか出てきていて、帰ってみてみたらケロイドみたいになってました。
5/10 ハリー・ポッターと死の秘宝
いよいよ完結編!ということで、これまでに劇場での公開に合わせてハリー・ポッターシリーズを1ミリも見たことない僕がレビューを執筆してきたわけですが、その反響や凄まじく。
凸凹刑事ハリーとポッターがシカゴで蠢く巨大宗教組織相手に大立ち回りを展開した「賢者の石(2001/2/16)」では3通。続編として描かれたアリゾナを舞台にした「秘密の部屋(2004/2/12)」では13通。ポッターが幼女にイタズラをして捕まるという衝撃の場面から始まり、ネット宗教という新形態の宗教と刑務所暴動の顛末を描いた「アズカバンの囚人(2004/6/16)」では17通。
ベトナム戦争の悲劇を扱い、「炎のゴブレット(2005/11/28)」では20通。ちょっと不思議なタイムスリップと切ない恋の話を描いた「不死鳥の騎士団(2007/7/10)」では16通。そして今回の完結編への序章となる「謎のプリンス(2009/7/27)」では、なんと18通!
毎回あまりの反響の大きさに僕のメールボックスがパンクするかと思うほどです。そのメールの内容も凄まじく内訳を紹介しますと、
「いいかげん、ハリポタの作者、いいえ、本物のハリポタに関わった人全てとファンに謝ってください。今なら間に合います!」
などと率直な意見を持つ人が約17名。
「ハーマイオニーたんのチャイルドシート!」
完全に頭がおかしくなって意味不明な人が約1名。このシリーズ始まって以来初めてのことですが反響メールが否定的な人と頭がおかしい人だけになりました。さらには、こういったネット上の反響だけでなく、ヌメリナイト等の実際のイベントでお会いする読者の方々からも直接
「ああ、ハリポタシリーズだなって思ったら読み飛ばすようにしてますよ(笑)」
という意見を数多くいただきます。こんな奇譚のない意見を直接作者である僕に言うくらいですから、よほど腹に据えかねたものがあるのでしょう。
とにかく、そんな見てもないのに映画レビュー、ハリー&ポッターシリーズもついに最終回「死の秘宝」がやってまいりました。いつもは本物のハリーポッターの方の映画公開に合わせてレビューしてるのですが、今回は本物公開から1年の充電期間をおいての大公開。ハリーとポッターの凸凹刑事コンビが織り成す一大スペクタクル、是非とも読み飛ばしてください!
見てもないのに映画レビュー
ハリー&ポッターと死の秘宝 PART I
まず今回の作品は完結編という位置付けになっているが、前作の「謎のプリンス」からの流れを汲んだ形になっている。ということで、前作の内容がおどろおどろしい音楽と共にダイジェストで流れる。
チョモランマの中腹で氷漬けになっているポッターが発見されるシーン、謎のプリンスと名乗る男が出会い系サイトで女性を募集するシーン、そこで殺人事件が起こる。被害者は全てからだの一部が切り取られていた。ハリーとポッターが捜査にあたる。本庁から来た管理官が陣頭指揮を取る、関取みたいな女(ハーマイオニー)を使った囮捜査、体の一部を切り取られ殺されるハーマイオニー、そしてハリーは謎のプリンスをついに追い詰める。犯人は、謎のプリンスは管理官であると予想したハリーだったが、追い詰めた廃倉庫で既に管理官は死んでいた。そこにポッターが現れ、自分が謎のプリンスであることを告白する。ポッターは集めた体のパーツを使い何かの儀式を始めた。そして、世界は氷に包まれた。天使たちの歓喜の声と共に。世界が終わる……。
と、ダイジェストあらすじが終わったところでデデーンと「ハリー&ポッターと死の秘宝 PART I」とタイトルが表示される。相変わらずコウモリとかが飛んでいておどろおどろしいタイトルだ。しばらくするとそのコウモリがどんどん増えていって画面は真っ暗に。そして場面は雪山に切り替わる。
壮大な雪山の景色を映しながら、ハリーの声でナレーションが入る。「ポッターは禁を犯した。日本人とアメリカ人の混血として生まれたポッターは祖母より自分は特別な存在として言い聞かされ、それを信じて育ってきた。刑事としての日々の生活の中でも、どこか自分は特別で、今の自分は自分でないような感覚を感じていたようだ。むしろ、現実と理想の狭間で苦しんでいたようだ。なんてことだろう俺は気付いてやれなかった」
「そんな折、ポッターのところに小包が届く。差出人は死んだはずの祖母だったようだ。不思議に思いながら開けてみると、そこには代々伝わる古文書が入っていた。惚れ薬の作り方、人を呪い殺す方法、鉄を金に変える錬金術の方法、そこには怪しげな魔法とも呪いとも呼べないことが沢山書かれていた。あるページに付箋が貼られていることに気がつく。そのページは「新しい自分になる方法」図解入りでその方法が説明されている。7んんから7つの体のパーツを集めて繋ぎ合わせ、血を混ぜる、すなわち混血にすることで新しい自分を作り出すことができる。どうやら血を混ぜるということをかなり重要視している宗教のような流れを感じた」
「そしてついにポッターは謎のプリンスとして行動を開始する。出会い系サイトで相手を募り、次々と殺害しては殺し、体の一部と血を奪う。囮捜査に使われたハーマイオニーや管理官をも儀式に用い、ついに新しい自分を作り出す儀式を始めたのだ」
「けれども、結果は成功したのか失敗したのか分からない。儀式が始まると、ポッターの周囲の温度が急激に低下し、全てのものを凍りつかせはじめた。その氷土は一瞬にして広がり、この地球上の大地の7割を凍りつかせた。発電は止まり、食料は底をつき、凍え飢え、略奪が始まり、世界人口の9割が死に絶えた」
カメラがどんどん引いていくと、チョモランマに酷似していたその雪山の地形は、ロサンゼルスのものだった。凍てついたゴールデンゲートブリッジがなんとも痛々しい。さらにカメラが引き、真っ白なアメリカ大陸が映し出される。
場面が変わり、アラブ上空を飛ぶエアフォースワンが映し出される。どうやらアラブ上空はまだそんなに氷土が広がっていないようだ。そのままエアフォースマン内部での会議の様子に場面変換する。
「アラブと極東の一部を除く地球全土の7割が氷の世界になっています」
報告する美人な秘書官。聡明そうだがどこか冷徹な印象を受ける。
「そもそも何でこんなことが起こったのかワシにはわからんのだよ」
大統領がメガネを外し、そのツルの部分を口にくわえながら大型ビジョンに映し出された世界各地の気温データーを眺める。
「ワシントンより避難した自然科学、気象学、物理学などの専門家が分析していますが、原因はわかっていません。ただ…」
「ただ、なんだね?」
「この現象はロサンジェルスに近づくほど深刻になっていることから、発生源はロサンジェルスであるとの考え方が強まっています」
「けれども、ロスは全滅、生き残りはいないんだろ?それなら何が起こったのか調べることなど不可能じゃないか」
「いいえ、全滅ではありません」
「なに!?」
「1名生き残りがいます。ロス市警所属、ハリー刑事です」
ドーンとロス市警が映し出される。完全に雪に埋もれ廃墟と化している。そこを登山装備で横切る数人の男たち。防寒着のフードとゴーグルで分からないが、その顔つきはハリーのようだ。
一行は、ここがヘイ、ここいらのカフェでロ一服したいねなどと、かつてここがロスであったことを皮肉りながら進んでいく。そしてついに大きな氷柱に到達した。
「ポッター…」
ハリーはゴーグルを外す。小さな氷の粒子を手で払うと、氷漬けになっているポッターの姿が確認できた。
そこに政府のヘリが4機飛来する。ヘリから降りてきたベレー帽をかぶった軍人は、ハリーの前に立って敬礼をすると
「大統領要請です。身柄を確保します」
そのままハリーを乗せて飛び立つヘリ。カメラはいつまでも断末魔の表情の氷漬けポッターを映し出していた。
場面が変わりエアフォースワン。大統領執務室の中で大統領と秘書、その前にハリーが立っている。大統領は椅子から立ち上がると、所在無くウロウロしたあと、窓から景色を眺めた。低空飛行のエアフォースワンからは地上の様子がよく見える。今は南米あたりを飛行しているはずだが、地面は白く冷たい。
「この地球上で最も美しい宝石はなんだと思うね?」
大統領はハリーに訊ねる。
「はっ。個人の好みによるとは思いますが、ダイヤモンドかと」
「ふむ。ワシはそうは思わん」
「と、いいますと?」
「わしは氷こそが最も美しい宝石ではないかと思うのだよ。あの透明性、あの脆さ、あの美しさ。けれどもその美しい氷が、地球上を壊滅に導く死の秘宝になろうとは……」
大統領の顔のシワがさらに深くなったように感じた。ハリーはただ黙って立っていたが、書類を見ながら話しかける。
「この世界規模の寒波はロサンジェルスを起点としていると専門家は見ています。現に、ロスが一番ひどく、ほぼ全滅の状態。けれども、あなただけは生き残っている。これはどういうことでしょうか?」
「どうもこうもねえさ」
ハリーはポケットから小さな石を取り出した。
「これはおそらく賢者の石ってやつだろう。ポッターの体内に胆石として存在していて、ある宗教団体がこれを狙ってたってくらいに不思議な力を持った石だ。こいつが、あの迫り来る氷から俺を守ってくれた」
「しかし我が合衆国政府はそのポッター氏をこの世界的大異変の重要参考人と見ています。方法はわかりませんが彼が悪意を持って世界を終局に導いた、そう見ています」
「それは違うな」
ハリーは秘書の話を遮った。そしてまだ窓際に佇む大統領に向かって言う。
「怪しげな儀式を始めたのは確かにポッターだ。それが引き金になってこの氷の世界が生まれたのだろう。けれどもポッターは世界を破滅させるとかそんなことができる男じゃない。きっと何か理由があるはずだ。なにせ、あの凍てつく冷気が渦巻く中、この賢者の石を手渡してくれたのはポッターだ。俺を助けるためにな」
「君を助けるためにか…」
その瞬間だった。ボンッ!と大統領の頭が破裂した。いや、爆薬で吹っ飛ばされたかのように爆発し、頭部をなくした首からは火柱が上がっていた。同時に爆風で機体に穴が開き、機体が大きく傾く。
「メーデー!メーデー!」
コントロール不能となるエアフォースワン。秘書とハリーは左右に大きく揺さぶられる期待の中で必死に椅子にしがみつく。しかしエアフォースワンは煙を吐きながら降下を続け、ついには墜落してしまう。
このシーンは圧巻で、なんでもCGを一切使わず、本物のエアフォースワンを雪山に墜落させて撮影したらしく、ダイナミックでスケールの大きい映像に仕上がっていました。この映像はちょっと日本では撮れないんじゃないかな。
ハリーが目を覚ますと、そこは小さな部屋だった。剥き出しのコンクリート壁の6畳程度の小さな部屋。ピタピタと水が滴る音が聞こえる。
「気がついた?」
横たわるハリーの横にあの秘書が立っていた。
「ここは?」
「ここは秘密の部屋。私の中の意識の部屋っていう感じかな。世間では不老不死の力が手に入るとかどんな病でも治せる部屋とか言われるけど、残念ながらそんな力はないの。ただどんな場所からも入れるし、どんな場所に出ることもできる」
「秘密の部屋……」
ハリーはアリゾナで秘密の部屋を探し求めたことを思い出した。
「すべては繋がっているのよ。あなたたちがこれまでに関わった事件も、今回のことも、そして大統領の下、全ては一つに」
ハリーにはまだ意味がわからない。
そして場面が変わり、闇の中でシュコーシュコーと呼吸をする未知なる生物が映し出される、それはまるでポッターのような横顔をしていた。
PART IIに続く
いやー、やはり多くの謎を残しつつPART IIに続くになってしまいました。次回予告では富士山をバックにハリーとポッターが日本刀で戦っていたのでどうなるのか今から楽しみです。ということでPART IIに続く!是非PART IIも読み飛ばしてください!
5/9 God Knows...
僕らは知ることに対してあまりに無防備だ。
落ちついて身の回りを見回してみると様々な「知る」が溢れていることに気づく。テレビをつければニュースに情報番組にバラエティに、流れ出る洪水のように情報が溢れている。僕らはそれを視聴して「知る」ことができる。
コンビニに行けば山のように雑誌を売っている。それらから適当に1冊手にし、パラパラと流し読みしただけで余程の情報が詰まってることが分かる。数多くの「知る」が印刷されて綴られている。
インターネットにアクセスすればリアルタイムで数多くの「知る」が流れている。ゴミのような「知る」から高尚な「知る」まで様々、その中をマウスで泳いでいるようなもんだ。
現代社会はあまりにも「知る」が多すぎる。とめどなく溢れる情報は僕らが望む望まないを関係なく否応なく「知る」ことを強いる。その圧倒的な量の「知る」が僕らから「考える」を奪ってるのではないだろうか。
例えば、一人の囚人がいたとしよう。その囚人には情報を一切与えない。何日も何日もあらゆるメディア、人との接触を奪って完全なる無の中に置く。何もない真っ白い部屋に入れておくといい。そして1冊の文庫本を与えたらどうだろうか。
おそらく囚人はその本を貪り読むだろう。例えそれが死ぬほど退屈な本であろうとも、死ぬほどクソな本でも、何度も何度も繰り返し読む。その本に書かれている情報を「知る」ために深く深く読み込むだろう。
「知る」が終わると次は「考える」だろう。ほかに情報のインプットがない、与えられた「知る」はこれだけなのだから、その本の内容を「考える」だろう。この作品を通して著者は何を言いたかったのか。ここでの主人公の心情はどんなものだっただろう。こんな展開ではなくこういった展開のほうがいいのではないだろか。「知る」の次に「考える」が現れるのだ。
しかしながら、現状の僕らのようにあまりにその「知る」が多すぎたらどうだろうか。次々と工場の生産ラインのように押し寄せる「知る」は僕らから「考える」を奪ってしまう。あまりにインプットが多すぎてそれを吟味する暇などない、結果、「知る」だけが僕らの中に蓄積されていく。
先日、100本あまりのエロ動画をダウンロードした時、僕はこの溢れる「知る」に気がついてしまい愕然としてしまった。元々僕はインターネットを利用したお手軽エロ動画ダウンロードに興味がなかった。いや、むしろ軽い憎しみすら抱いていた。許しがたい行為だとすら感じていた。
エロビデオってのは、まるで家に帰るまでが遠足だという有名すぎる格言のごとく、エロビデオコーナーで多くの同胞と戦って幾多の死線を乗り越え、カウンターで大学ではテニスサークルに入ってるんだろうなって感じの爽やか女店員の凍てつく視線をかいくぐり、ここで事故を起こしたら死んでもしに切れんとハラハラする思いで家路へ。鑑賞して、返却日に気だるい思いをして返しに行くまで全てをひっくるめてエロビデオだと思っている。だからおウチのパソコンでダウンロードポンッ!なんていうエロ動画が本当に許せなかった。
しかし、やはり僕も年頃の男の子。どうしても今すぐにエロいやつが見たい!という欲望には打ち勝てず、満月を見たゴクウみたいになってエロ動画をダウンロードしまくったことがあった。
エロ動画はものすごい。その量は圧倒的だ。いくら僕が頑張ってもやはり社会的体裁というか色々あるからエロビデオを借りたとしても7本くらいが限度だ。いや、むしろ旧作を7本借りると安くなるので7本しか借りない。それ以上でもそれ以下でもない、7本だ。しかしインターネットの世界には7本どころでは済まない大量のエロ動画が溢れている。
メイドのお姉さんが酷いことされてる動画だとか、ナースのお姉さんが性の回診をしてる動画だとかとにかく雑多なエロスが溢れている。欧米人が見たらビックリするかもしれない。それらの気になる動画をダウンロードしてしまくってやり、気づいたら100個近いファイルをダウンロードしていた。それらを興奮気味に鑑賞しながら上記の考えに至ったのだ。
とにかくエロ動画は興奮する。もう数々のエロい女がファイルごとに登場し、それぞれ違った趣を見せる。言うなれば雅だ。エロの雅がここにある。しかし、それらは何かが違うのだ。
無限大に近いほどにネット世界に溢れているエロ動画、それらはさして考えるまでもなくダウンロードするだろう。ダメな動画だったら消去してしまえばいいのだ。深く考えることなくどんどんダウンロード。どうせ山ほどあるんだ、さして考える必要はない。
そうやって手に入れた動画には思い入れも何もない。あれ、こんなのダウンロードしたっけと思うこともあるはずだ。そして、適当にゲージを動かして絡みの部分をチョイチョイ見る、そんな楽しみ方しかできない。
逆にエロビデオを考えてみよう。エロビデオを7本、7泊8日でレンタルする。旧作だ。新作はすぐ返却しないといけないし値段も高いので旧作だ。旧作を7本レンタルセット料金で少しお得だ。そうなるとどのような布陣で行くべきか考えるはずだ。3本は企画物で、2本は手堅く女優物でいこう。1本はインディーズに走って最後の1本は脱糞で攻めよう。おいおい脱糞いっちゃうかー!とニンマリ。他にも、このメーカーの作品は外れが多い。このシリーズは手堅い。この監督とは趣味が合わない。考えることは山のようにあるはずだ。パッケージに書いてあるエロビデオ情報を「知る」では収まらない、「考える」という行為が確かに存在する。
エロビデオに限らず、多くの場合でそうだ。あふれ出る雑多な情報は僕らを「知る」で留まらせている。「考える」を奪ってる。何も分かりにくいエロ動画の話しなくてももっといい例があった。ニュースだ。マスメディアが報じるニュースは毎日新しい事件が山盛りだけど、事件自体を振り返ることはそんなに多くない。それは「知る」で留まってるに他ならないのだ。
この「知る」のみで留まってしまってる行為、よくよく観察してみるとやっぱり身の回りに多い。嫌になるくらいに溢れている。例えば仕事場でこんなことがあった。
僕の職場は結構年代的区分がしっかりしてまして、団塊の世代、団塊ジュニア世代、松坂世代みたいな感じで歴然とした区分けがあるんですよ。で、僕が所属する20代後半から30代前半くらいの年齢群をなぜかビックリマンシール世代という訳の分からない呼び方してるんですけど、まあ、年齢的に見ても若手の1個上くらい、一番下っ端じゃないけど中堅でもないっていう微妙な立ち位置なんですよ。
でまあ、我が職場には一番下っ端の世代がプロジェクトを企画立案しプレゼンテーションするっていう行事があるんですよ。そのプレゼンでは若手の案やプレゼンに望む姿勢を一個上の世代、つまり僕らビックリマン世代が強烈に批判しなければならないっていう暗黙のルールがありましてね、それこそ自殺者がでるんじゃねえのってくらいに若手が徹底的に凹まされ、決して逆らうことの出来ない力関係を叩き込まれるんですよ。
多分まあ、上の世代の偉大さみたいなのを「知る」だけじゃなくて、凹まされることで実感させる、「考える」行為に通じるものがあり、非常に性格悪い行事なんですけどそのプレゼンに参加したんですよ。
僕らビックリマン世代と何か偉い感じの人が会議室のテーブルに座り、オドオドした若手が次々とプレゼンしていくんです。で、同世代の同僚達や偉い人達が次々とダメだししていくんですよね。見通しが甘いとか、分かりにくい、そんなのしてなんになるんだね、みたいな感じでガンガン行こうぜ!なんですよ。
僕はそれを見ながら、やばい、この若手どもの方が仕事ができる!とあまりの出来の良さに恐れ戦いてしまい、批判することもできず、誰かが批判した後に「そうだそうだ!」とか付け加えることしかできませんでした。とんでもない雑魚っぷりを発揮してやがる。
で、次々と血気盛んな若人たちがあたら若い命を散らしていたんですけど、そんな中にあって一人のヒョロッとした若手が壇上に立ったんですよね。おいおい大丈夫かよとハラハラしながら彼のプレゼンを聞いていたんですけど、彼が言い出すわけですよ。
「この件に関しましては徹底的に調査してまいりました。こちらの資料をご覧ください」
ヒョロっちい子が自信満々に言うわけですよ。逆に頼もしくなるくらい自信満々、血気盛ん、魑魅魍魎って感じで言うんですよ。
で、聞いてる我々に分厚い、それこそ夏休み前に貰う算数のドリルを思わせるような重量感のある資料を手渡してくるんです。こりゃあすごい、まるで彼の熱量が伝わってくるようだ、とペラペラと資料をめくるんですけど、僕はそれを見た瞬間に言ってやったんですよ。このまま雑魚では終わらない、村人Aでは終わらないぜって勢いで言ってやったんです。
「あのさ、調べるのは大変良いことだと思うし、よくこれだけ調べたなって思うんだけどさ、残念ながらこれは「知る」で終わっちゃってるんだよね」
まあ、職場でしょっちゅうファミスタやってる僕が言うセリフじゃないんですけどとにかく言ってやったんです。彼の資料は本当にテーマに沿ってよく調べてあったんですよ。それこそここまでやるかってくらいに調べてあった。でもね、その内容があまりにもあれだったんです。
テーマに関連した事柄が記載された書籍のコピー、関連した内容が記載されたインターネットサイトをプリントアウトしただけのもの、そんなものがただ綴じられているだけなんですよ。プレゼンの方を聞いてみても、この調べてる事柄に関してほとんど触れないんですよ。
「たぶん調べることで満足してしまったんじゃないかな。こんなの調べましたって結果だけポーンと渡されてもこっちは興味ないわけ。本当はその先が重要だなんだよ。調べたことによって君は何を思ったか、どのような結論を導き出したか、それがどう関連してくるか、それがないと何の意味もない」
彼もまた「知る」ことのみで満足してしまったのです。今の時代、ある事柄を調査しようと思えば本当に簡単です。検索ワードに入れてポンッとやればいくらでも関連するページが出てくる。それをプリントアウトして綴ってしまえば資料の出来上がりだ。あまりに簡単に大量の「知る」を手に入れられある程度の形になってしまう。だからその先にある「考える」を忘れてしまうのだ。
結局、そこからヒョロい子に対する総攻撃みたいなのが始まってしまいましてね、あれもダメ、コレもダメ、全部ダメ、もうダメ、みたいな感じになっちゃいましてね、終いには多分一番偉い人なんでしょうけど老師みたいな人が出てきて「君は明日やり直し」と告げるという地獄の展開。こうして嵐のようだったこの魔女裁判は終わったのでした。
その後、いやー、仕事してないのに偉そうに先輩面するのは疲れるぜーと肩の荷が下りた感じで職場のジュース販売機がある休憩所みたいな場所に行ってですね、ガコンとコーラを買って飲んでたんですけど、そうしたら何かメソメソとすすり泣く声が聞こえてくるんですよ。
なんだなんだ、ここにはタチの悪い自爆霊でもいるのか!と驚いて辺りを見回すとですね、さっきのヒョロい子がすすり泣いてるんですよ。うわー嫌なもん見ちゃったなーってのが正直なところだったんですけど、彼がすすり泣いているっていう事実を知ったからには考えて行動しなければなりません。
「どうしたのかな?」
僕を含むビックリマン世代があれだけ攻め立てておいてどうしたもクソもないんですが、やはり彼は先ほどのプレゼンにいたくショックを受けた様子。オマケに明日までに作り直してやり直すなんて無理だ、みたいなこと言うんですよ。
僕もコーラを飲みながらどうしたもんかなーって困り果てちゃったんですけど、まあ、僕が「そうだそうだ!」の雑魚キャラじゃあ体裁が悪いから彼の時だけ悪いところを指摘した、それが火種になって大爆発したっていう経緯がありますから、手伝ってあげることにしたんですよ。
「諦めんなって、手伝ってやるよ!」
クソッ!なんでこのシーンを普段は僕を毛虫の如く嫌っている女子社員どもが見てないんだと口惜しい思いをしつつ、二人はその師弟関係を育み、それと同時に休憩所に差し込んでいた夕陽が夜の闇へと変わっていったのでした。
「でも今日は夜遅いから明日の早朝からやろう、6時に集合だ!」
正直疲れ果ててましたので、明日の朝からやることを堅く約束し、それぞれの家路へと着いたのでした。
さて翌朝、手伝うと言った手前「眠いでちゅー」なんて言って行かなかったらマジで後味の悪い結末が待ってそうなので行きましたよ。約束の6時より早い5時半に到着し、共同作業場みたいな部屋でヒョロい子の到着を今や遅しと待ち構えていたんです。
まあ、仁王立ちで待ってるって訳にもいかないですから普通にデスクに座ってネットサーフィンなぞに勤しんでいたわけなんですけど、まあ、その、ほら、やっぱ、ほら、なんていうかエロっぽいページを見るじゃないですか。男の子ですし、そういうの見るじゃないですか。
でもさすがに職場からエロ動画をガッツリダウンロード!とか色々な意味で終わってると言うか先祖まで遡って頭の構造を疑われかねないと言うか、まあ、こう書いてますけど本当のところは本気で職場ダウンロードしててエドガーみたいな管理者に怒られたからなんですけど、やっぱ信じられない行為じゃないですか。
だから、動画も画像も我慢して主にエロい文章のみで楽しんでいたんです。エロい話題で盛り上がる掲示板を閲覧し、歴戦の猛者たちの書き込みを見てその滾る血潮をさらに沸騰させていたんです。で、そこで見つけた衝撃的な書き込みが僕の脳髄をズシンと揺さぶったのです。
投稿者:俊哉
この間、彼女にアナル舐めてもらったけどすげー良かったよ!もう舐めてもらわないといけない体に(笑)
(笑)じゃねーよ俊哉。ふざけんじゃねーよ俊哉。あのな、あまり言いたかないけどここは生々しい体験談を交えて皆で興奮を共有する掲示板なの。こうもっとどういった経緯で舐めることに至ったのかとか詳細がないと全然興奮できないじゃねえか。もっと考えろよな。
とまあ、俊哉がやけにムカつくのはいいとして、有益な情報を知ることが出来ました。アナルをペロリされると気持ち良い。これは貴重な情報ですよ。何度かアナルを舐められたという男性側の体験談は聞いたことありましたが、それらは全て征服感を満たすだけの行為だと認識しておりました。こんな汚いところを舐めさせちゃう俺、ワイルド?みたいな。気持ち良い、というユーザーの生の声を聞けたのは初めてかもしれません。
「アナルをペロリされると気持ちいいかもしれない」新たな情報を知ることができたのですが、ここで止まってしまってはダメです。その先にある「考える」に至らなければならないのです。
アナルをペロリされると気持ちいい、ということは女性にアナルを見せなければならないシチュエーションがやってくるということか。ペロリされる時はどうしても見せなければならない。どうしよう!恥ずかしい!見せるなんて恥ずかしい!
いやいや、その辺のアバズレにならいくらでも見せますがな。名刺に印刷して配ってもいいくらいですがな。でもね、もう大塚愛さんにだけは恥ずかしくて見せられない。顔が真っ赤になってしまって見せられない。大塚愛さんがペロリしてあげるよ、とか言っても恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。
ここここここここうしちゃいられない!どんな状態かも分からないアナルを大塚愛さんに見せるなんて考えられない、あってはならない。ホント、早朝って人を狂わせますね、今まで自分でもほとんど確認したことなかった自らのアナルを確認しなきゃって義務感に襲われたんです。
早朝すぎて誰も居ないから大丈夫。ヒョロッ子が来るまでまだ時間もある。ホント考えるって大事だよな。考えるに至らず、ふーん、アナペロ気持ちいいんだって知るのみに留まっていたら見たこともない大自然のアナルを大塚愛さんに差し出すところだった。客人になんたる失礼なものを見せるんだってなるとこだった。考えたからこそシッカリ確認したアナルを差し出すことができる。
ええ、手鏡を使って確認しましたよ。そのポーズはとてもじゃないがマトリックス的だったとか言ってはいけないレベル。街中に張り出されたら自殺物、国辱物のポーズでしたが、なんとか確認したんですよ。
まあ、こういうことを書くと僕のことを天から落ちてきたエンジェルだと本気で信じていてpatoさんはウンコなんてしない!って幻想を狂信している女性読者の方は卒倒・・・ってそんな人いないですよね、普通に書きます。いやね、アナルモジャモジャだったわ。モジャモジャ、モジャモジャ、超モジャモジャ、略してアナモジャ。まるで密林の如くビッシリと茂ってるんすよ。密林ですよ、アマゾンですよ、amazon.co.jpっすよ。
うわーやっちゃったなー、そう思いましたね。いくらなんでもこんな海の端っこみたいな汚いアナルをペロリするのは大塚愛さんといえども難しいはず。どうしたものかどうしたものか。
新たに自分のアナル周辺が密林であったことを知ってしまった僕はそれだけで終わりません。知るだけで終わることが愚かなことだと分かってます。その先の考えるに突入しなければならないのです。
「うわービッシリだ、いくら愛でもこれは無理だよ」
「ダメかな?アナモジャだめかな?」
「愛の愛を持ってしてもダメね」
ダメだ!微妙に上手いこと言われて拒絶されてしまう。
もう剃ろう。剃ってしまおう。
ホント、朝方って人を狂わせますよね。僕の性格からいって思い立った時にやらないといつまでもアナモジャ、大塚愛さんが驚くことになりますので人として礼儀として剃らねばならないのです。
カミソリは、ある。僕は面倒なので最近はいつも職場でヒゲを剃るので立派なT字カミソリがある。時間は、ある。5時45分、約束の6時まで充分だ。いける、いくしかない。いける、やれるはずだ。
とりあえず、剃ってる現場を目撃されたら末代までの恥、というか末代の存在すら許されない状況になるのは明白。最悪の事態を回避するために職場のドア鍵を堅牢に閉めます。っていうか、アナル観察してる時に鍵閉めろよな。
シェービングクリームみたいなのもあったんですけど、そんなのアナル周辺に塗ったら別のプレイみたいなのでやめておきました。完全に素で剃ることを決意。鋭利なT字カミソリをアナルに近づけます。
いやね、やってみたことある人なら分かると思うけど、これが結構難しいんですよ。T字カミソリって読んで字のごとくT字じゃないですか。でまあ、お尻って谷みたいな構造になってますよね。これがもう、とにかく剃りにくい。T字の部分が谷間に入っていかんのですよ。とにかくこのままでは大塚愛さんがビックリしてしまうので何とか強引に谷間を広げて刃を谷間へ・・・。もう下半身裸で片足椅子に乗っけた状態ですよ。親が見たら一瞬で天涯孤独にされかねない体勢ですよ。とにかく・・・なんとかして・・・剃らないと・・・。
ズシャアアアアアアアア
アナル切れたー!いやいやいやいやいや、正確にはアナルの横の婆さんの肌みたいになってる部分ですけど、アナルから見て3時の方向にザッシュリと切り傷が。男性の方なら分かると思いますけど、カミソリで切った傷って物凄い血が出るんですよね。ひいいいいいい、ポタポタ血が出てるー!血がしたたたたたたたたってるー!
コンコン!
そこにドアをノックする音ですよ。あまりに狼狽した僕は
「誰だ!」
「○○です」(ヒョロッ子)
「何しにきた!」
「いや、今日の準備に・・・」
自分で呼んどいて誰だ何しに来たもないんですけど、とにかくこの現場だけは隠滅しなければなりません。出血を何とかしないといけないのでティッシュを棒状にして尻の谷間に押し込み、神々の如き素早さでズボンをはく、そしてカミソリの処理と、床に滴った血を掃除、同時に床に落ちたモジャ毛も処理します。
「おはよう。さあやろうか」
ドアを開けて、まるでアナルなんか剃ってなかったっていうサワヤカ顔で彼を招き入れます。で、二人でPCの前に座ってプレゼンの準備ですよ。
「言ったろ、知るだけじゃダメなんだ。この知った資料をどう活かすかが大切なわけだ。考えるんだ。」
って凄い男前の、カクテル飲む時みたいな顔で言ってるんですけど、尻からはドクッドクッって心臓の鼓動に同調して血が出てるのが分かるんですよ。
「だから、この資料を丸でポイッて渡されても困るだろ。誰も読まないよ。自分なりに何が読み取れるかまとめて解説すればいい。都合の良いとこだけつまみ食いでいいんだよ」
ってすごい男前の顔で、娘さんをくださいって言う時みたいな顔して言ってるんですけど、尻のほうは臨界点。谷間に詰めたティッシュでは吸いきれないくらい血が出てるのが分かるんですよ。クソッ、ナプキンが欲しい。
結局、なんとかプレゼン資料の方も目処がつきましてね、発表時間までには間に合いそうな様子。安心したヒョロッ子が言うんですよ。
「ほんとありがとうございました。patoさんが先輩で俺、俺、よかったっすよ!マジ尊敬してます!」
フフフフフ、その尊敬する先輩は今まさにアナルから血を出してるけどな。それもかなりの量をな!
「じゃあ自分の持ち場に戻るから」
椅子から立ち上がるとティッシュに吸収されなかった血が椅子に染み出してそうで、それを見たヒョロッ子はその血液の理由を知ろうとするに違いない。そして心を入れ替えた彼は知った先を考えるだろう。何故そうなったかを考えるだろう。そうなってしまっては先輩の尊厳台無し。アナルっ子などと呼ばれて石を投げつけられるかもしれない。
椅子についた車輪を利用して滑るように部屋から出て行こうとする僕。
「椅子のままいくんですか!?」
「その理由は知らなくていい」
颯爽と長い長い廊下を朝日を浴びて椅子のまま滑る僕、出勤してきた多くの人とすれ違って怪訝な目で見られたけど、その理由を知るものはいない。知られてはいけない。
多くの「知る」は「考える」ことを停止させる。しかし、いくら「知る」が沢山あろうとも、「考える」に至らないそれは何の意味もない。
「知識」という言葉を国語辞典で引いてみると「知ること。認識・理解すること」としっかり書かれている。知っただけでは知識に成り得ないのだ、知って考えて理解してこそ初めて知識になる。雑多な情報に触れて知っただけで知識が増えたような顔をするのは大間違いなのだ。
情報過多なこの時代、僕らは「知る」ことに対してあまりに無防備すぎる。そして、僕らの「尻」もあまりに無防備すぎる。ちょっと剃っただけで切れるなんて。
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しれっと過去の日記をコピペしても絶対にバレないと思った。
5/8 さよなら傷だらけの日々よ
patoさんの職場には女性しかいないのですか?そんな質問を投げかけられることがあります。何をどうしたらそんな考えに至るのか良く分からないのですけど、冷静になって自分の書いた職場関連の日記を読んでみると、ほとんど女性しか登場していないことに気がつきました。
女子社員にキモいと言われた、女子社員にセクハラ相談室みたいなところに駆け込まれた、女子社員と法定で逢うことになりそう、などなど、挙げればきりがないほどの迫害の数々。なるほど、これでは周りが女性ばかりのハーレムみたいな職場と勘違いされても仕方がない。そうでなくとも女性とばかり積極的に絡みに行ってる男と思われても仕方がない。
どうにも僕は職場の女性に対する憎しみがかなり強いみたいで、そういった憎しみが女性に関するエピソードが多めにしているのじゃないかと思うのですが、もちろんウチの職場、男性だっていっぱいいます。むしろ男性の方が多いくらいです。それなのにあまり日記に登場しない、やはり女性に関してかなり憎しみを抱いているようです。
これはもう、単純に憎いだとか嫌いだとかのレベルを超越していて、例えば一族が集まる晩餐会の席で女性が原因で一族間で殺し合いが巻き起こり、あるものは壁に掛けられた刀剣を手に、あるものは護身用の拳銃を手に、血塗られた惨劇の夜を奇跡的に生き延びた幼き僕、パパやママやオジサマを失う原因となった女性という存在が憎い。そんな憎しみの芽を心に宿して育った、レベルの憎しみです。
まあ単純にそういうことは全然なくて、向こうが嫌ってるわけですから僕も好感を持つはずがなく、自ずと僕も職場の女性をどんなニックネームで呼ぶか、あの女は凍てつく北洋の海に似ている感じのブスだ、北洋ではサケマス漁が盛んだ、よし、あのブスはサケマス漁と呼ぼう、と心の中で話し合ってるだけで一日の仕事が終わります。これでは分かり合えるはずがない。
けれどもね、勘違いしないでもらいたい。ウチの職場にだってちゃんと男性はいるし、僕だって女子社員とばかり関わってるわけではなくて男性社員とだって濃密に関わっているんです。今日はそんなエピソードを紹介したい。
毎度おなじみの職場の休憩所なんだけれども、いっちょコーラでも買って飲んでやるかと休憩所に入ると、同僚というか後輩の男子どもが3人、輪になってテーブルに座り深刻そうな面持ちで何やら話し合っていた。こういったシリアスな場面ってのは大抵が面倒くさいことに展開するので触るぬ神に祟りなしといった感じで素知らぬ顔で通り過ぎようとしたその時、ふいに話しかけられた。
「あ、patoさん、ちょうどよかった。教えてくださいよ」
3人のうちの一人が、何やら安堵の表情で僕に擦り寄ってくる。もうこのセリフだけで大変面倒くさいことが確定していて、できれば関わりたくないんですけど、そんな思いっきりスルーとかできないじゃないですか。仕方なく話を聞くことに。
「なに、教えて欲しいことって?」
見ると、3人組のうちの一人の男の子が泣き濡れていて、完全に楽しくない話題であることが確定。ただ、そんな深刻な事態であればあるほど僕に教えを請うってのがよく分からんのですよ。ハッキリ言って、仕事のこととか教えてくださいって言われても、僕、うちの会社で一番仕事できない自信ありますから教えられないですし、本当に何を教えてもらいたいのか見当もつかないんですよ。
「実はコイツの彼女が……」
あのですね、その泣いている彼女が彼女関連の何かで泣いているらしい、ということは教えて欲しいことって彼女関連の何かじゃないですか。そんなもの僕に聞いてどうするんですか。一番頼っちゃいけない人間だと思いますよ。僕にそんな恋愛関係のエトセトラを聞いてはいけない。絶対にだ。
たとえば、セックスのことを教えてくださいとか言われたら、エロ漫画とかの知識を総動員して、エロ漫画みたいに射精の時に女性器は半透明にならない。透明になってドバアって出てる様子が見えるわけではない、という正しい知識を教えることができるんですけど、恋愛関係だけは絶対に教えられない。どんな知識を総動員しても無理。
でもまあ、ここで脱兎のごとく逃げ出すのも先輩としての威厳がないじゃないですか。僕もやっぱり先輩としてちょっと偉ぶったりとかしたいじゃないですか。頼れる先輩ってやつを演出してみたいじゃないですか。
「なんだね、話してご覧なさい」
なぜか気づくとサウザーみたいな感じで椅子に座って話を聞く体勢になっていました。絶対に的確なアドバイスなんかできないのに。
「実は彼女と別れそうなんです……」
苦しそうに吐き出した山田君はまた大粒の涙をこぼした。話を聞くと、なんでも山田くんは付き合って2年になる彼女がいるらしいのだけど、最近、別れ話を切り出されたそうだ。何でも彼女のほうが物忘れの激しい山田くんにほとほと愛想が尽きたらしい。
二人の記念日とか彼女の誕生日とか忘れるのは当たり前、それどころかデートの約束も忘れたりして大喧嘩。結局、埋め合わせにディズニーランドとかいうところに行く約束したのに、それすらも忘れてえらいことになったらしい。そりゃ、彼女からしたら私のことなんてどうでもいいんでしょ!みたいな気持ちになって当たり前だ。
「どうしたら忘れないようになりますかね……」
そうしょげかえる山田くんを見てですね、なんとかしてあげたい、みたいな気持ちが湧き上がってきたんですよ。ふふ、なんだかんだ言っても僕も先輩、ってことっすかね。
「別に忘れっぽくてもいいんじゃないかな」
実は忘れるという感情はそんなに悪気はない。なにせ忘れてるんだから。失恋した女の子がクッションを抱きながら部屋で泣いていて、よし、あんな男のことなんて忘れよう、とか決意して髪とか切ったりするんですけど、結局は忘れることができなくてまたクッションを涙で濡らす、そんな事もからも分かるように、人間は意図的に忘れることなんてできやしないんですよ。
忘れたフリはできるでしょうが、忘れることは出来ない。つまり、絶対に悪意はないんです。もちろん、忘れるほどの無関心ってのは悪ですが、それだってたいしたことないですよ。現にこうして彼女のことで悩んで泣いている、本質的には無関心ではないんです。だから、忘れないようにするなんてこと不毛で、忘れちゃうんだから仕方がない、それだったら忘れっぽい自分を受け入れてもらうべきじゃないか、そう思うんです。
そんな感じのことを山田くんに説明すると、非常に感銘を受けてくれたみたいでですね、目からウロコどころかサバがまるごと落ちてきたみたいな感じで感動してくれたんですよ。
「俺、謝るっす、彼女に謝るっす、そして話し合って納得してもらうっす!」
みたいになってるわけっすわ。もしかして僕ってすごくいい先輩なんじゃないの?自分で気付いてなかっただけで先輩の才能あるんじゃないの?って自分でも気持ちが高揚してきましてね、そしたら山田くんが言うわけですよ。
「彼女に謝るんで、一緒にきてくれないっすか」
僕そんなに動揺するほうじゃないですし、動揺したとしてもそれを表面に出さないタイプなんですけど、さすがにこれは声が出ましたね。全く何も考えず、脊髄だけで反射して声が出ましたね。
「はあ?」
って。今時の若い人ってのは何を考えているのか全然分からない、何食って育ったらこんな思考になるのか全然分からないんですけど、もう完全に良い先輩モードになっている僕に断るという選択肢というか、そもそもそんな考えも微塵もなく
「わかった、一緒に行ってやる」
と満面の笑顔で言ってました。結局、何故か山田くんと一緒にいた二人の後輩と僕という大部隊で彼女に謝りに行くことに。それだけでも十分に意味不明なんですけど、何故か山田くんの家に彼女を呼び寄せて謝ることに。自分の家ならもう勝手に一人で謝れよって思うんですが、そういうわけにはいかないようです。
早速、数日後に山田くんの家に集結したんですけど、まあ、山田くんの家が広いこと広いこと。独り暮らしのくせに4部屋ぐらいある部屋に住んでいて、なんか寝室とか王室の気品漂う感じになっとるんですよ。
「へえ、いい部屋住んでるじゃないのさ」
僕も、後輩が自分より6ランクくらい上の部屋に住んでるもんですから動揺が隠せず、おまけに変に先輩ぶろうとして訳のわからないキャラ設定になっちゃってて、なんだよ「住んでるじゃないのさ」って、どんなキャラ設定だよと思いつつ、彼女が来るのを待ちます。
ピンポーン!
インターホンが鳴り、彼女が到来したっぽいんですけど、何故か山田くんが焦りだしましてね。
「やば、もう来た。早く隠れてください!」
とか言うんですよ。全然意味が分からないんですけど、なぜか他の二人の後輩がすごい手馴れた感じでクローゼットの中に隠れるもんですから、僕も一緒に隠れることに。
「なんで隠れるの?」
って声を押し殺して質問したんですけど
「いつものことです」
と後輩は言うばかり。さっぱり状況が飲み込めないんですけど、その場の雰囲気で息を潜めていたら何だか悪いことをしてるみたいですごいドキドキしてきて鼻息も荒くなっちゃって、
「なんかこういうのも楽しいね」
ってワクワクな感じで後輩に言ったらすげえ無視されました。で、リビングの方で気配がするんで聞き耳をたてていたんですけど
「なによ…」
「だからさぁ…」
みたいな山田くんと女性が言い争いをしている音声が聞こえてくるんですよ。ははーん、わかりましたぞ、そういうことですか、わかりましたぞ。これはアレですな、山田くんんと彼女が1対1で話し合い、いよいよもうダメだってところでサプライズ的に僕らが登場。彼女は驚き、おまけに僕という彼氏の先輩がいるわけだからいくら怒っている彼女でも彼氏の顔をたてなければならないって感じになるに決まってます。なるほどなるほど、そういうことですか。
ということで、いつ出るタイミングが来るかと今か今かと待っていたんですけど、全然そのタイミングがこない。一緒に隠れている後輩二人が微動だにしない。温泉宿のロビーに置かれている置物みたいに不動。どうなってんだと思っていると、少しだけ漏れ聞こえてくる山田くんと彼女の声が遠くなる。どうやらリビングを離脱してその奥の寝室に入ったもよう。それでも微かに言い争う声が聞こえていたんですけど、それが突如、とんでもない音声に変わったんですよ。
「あん…もう…ああ…」
とか、これね、巣鴨を訪れたご老人100人に聞いても100人がセックス中の音声って答えるしかない完全無欠の喘ぎ声が聞こえてきやがるんですよ。
「どうなってんだ、あいつは、頭おかしいのか!客人を待たせてセックスする奴なんて聞いたことないぞ!」
って後輩に言うんですけど、後輩は真っ暗なクローゼット内でもわかるくらいにニヒルに笑うのみ。かたや僕は臨場感あふれるサウンドにギンギンに勃起っすよ。
「っていうか、あいつもしかして俺らをクローゼット内に隠れさせてるの忘れておっぱじめたんじゃないか!忘れっぽいにも限度があるだろ!」
って言うと、後輩が言うわけですよ。
「わざとですよ。わざと忘れてるんです。こうやってわざと忘れて、セックスの声を人に聞いてもらって興奮してるんですよ、アイツは」
と衝撃のセリフ。すげえな、悪意ある忘れじゃねえか。ないって言った悪意ある忘れが思いっきりあったじゃないか。
結構何人かの同僚たちが、この山田の露出騒ぎの犠牲になっているらしく、男性社員たちの間では山田には近づくなってのが定説になっていたみたい。まあ、僕は嫌われているんでそういう情報は回ってこなかったんですけど。
つまり、今日はこのエピソードで何が言いたかったかというと、冒頭でうちの職場は女性ばかりではないし、僕だって女性とばかり絡んでいるわけではない、男性だっているし男性とも絡んでると主張するつもりでしたが、微妙に修正させていただきます。
女性にだけで嫌われているわけではなく、男性にも嫌われている、ということです。
ちなみに、山田君にもしつこく、今度は声だけじゃなくて見せてよ、射精の時に女性が半透明になってぶしゃーってのが見えるわけじゃないって確認したい、って言い寄り続けていたら、「見られるのは何か違う」という理由で断わられ、無視されるようになりました。女性と男性だけでなく露出癖がある人にも嫌われている。
5/7 カプセル内の青春
咽ぶような熱気の中、少年は一つの決意をしていた。アスファルトから立ち上る熱気が向こう通りの景色を歪める。安っぽおいオレンジのビニールに覆われた一角はまるで太陽の光がオレンジだったかと錯覚させるほどに光を透過させ、その役割をほとんど果たしてはいなかった。
オレンジ色の光の中で少年はもう一度決意した。まるで自分の意思を確認するかのように頷く。思い出の中の夏はいつも暑い。全ての夏が最高気温の猛暑であったように記憶がか書き換えられる。けれども、確かにあの時だけは、あのオレンジ色の光の中で決意した夏だけは、思い出の中のどんな夏よりも暑かった。
小さな田舎町の中心に位置するスーパー、オレンジ色の灼熱の空間はその店先にあった。日を避けるためか風を防ぐためか分からないが、スーパー出口を覆うようにチープな鉄骨が組まれ、そこに色褪せて所々どす黒くなったオレンジ色のシートが被せられていた。
ただのスーパーの出口でしかないこのオレンジ色の空間。何もなく、カゴ置き場とカート置き場くらいしか出番がなさそうなその空間、まさかそこで一生を左右する決意をすることになるとは少年は考えもしなかっただろう。
少年は母親と買い物に行くのが大好きだった。貧乏だったのでそんなにお菓子とか好きなものとか買ってもらえなかったけれども、母親と一緒にカートでグルグルとスーパーをまわることは極上の楽しみだった。今のようにコンビニも大型のショッピングセンターも存在しない時代、まちがいなくこの小さなスーパーが一番の娯楽場だった。
毎日のように母親の買い物について行っていると、巡る順番や買う物などが定番化してきて、野菜コーナーの後は肉コーナー、そのあとタマゴの値段を見に行ってと一連の巡回コースからレジに行き袋詰めして駐車場に移動する。ほとんど変化のないコースだったけれどもそれでも少年にとっては楽しくて仕方がなかった。
ある日、そんな定番の買い物コースに変化が訪れる。野菜コーナーも生肉コーナーもレジも何も全て変わらずいつも通りなのだけど、唯一違っている所があった。出口の自動ドアを出たところ、汚いオレンジ色のシートが被せられたカート置き場でしかない空間に、8台の珍妙なマシンが置かれていた。
その小さな機械は、上の段に4列、下の段に4列と整然と並べられており、その一台は約30センチほどの立方体で、透明になっていた上部のボックスからは中に無数のカプセルがギッシリと詰まっている光景が見えていた。そう、後に子供達の世界で猛威を振るうガチャポンである。
このガチャポン、お金を入れてハンドルをガチャガチャとやるとポンっとカプセルが出てくることからガチャポンと呼ばれているが、正確にはカプセルトイというらしい。全国的にはガチャガチャと呼んだりガチャポンと呼んだり様々なようだが、僕らの時代はガチャガチャと呼ぶことが多かったように思う。
今でこそ、とてもガチャガチャに入っているとは思えない精巧なフィギュアとか、あるアニメに特化したグッズなどが入っていたりするらしく、それ専門のコレクターもいるらしいが、この時代のガチャガチャはそりゃもう怪しかった。とにかく怪しいものが詰まっていた。
後に猛威を振るうことになるビックリマンの偽物、ロッチもこのガチャガチャで売られるようになったし、どういった用途なのか分からないお置物や、土産物屋の売れ残り、みたいなとんでもないものが入っていたりしたものだった。しかも、あまり詳しくないので今はどうか知らないが、現代のガチャガチャはさすがに一端の良心があって、例えばプリキュアのガチャガチャとか、当たりのカプセル以外のハズレのカプセルであってもさすがにプリキュア関連のものが入っていたりするのだろう。
けれども当時のガチャガチャは本当に悪質で、全ての売れ残りを押し込んだカオスで、例えるならば様々な生命の可能性が混ざり合った原始の生命のスープみたいな状態で、とにかくカオスだった。匂いがするネリケシを狙って大々的に「かわいいネリケシ!」と書かれたガチャガチャを回した女の子が意味不明な般若のキーホルダーが出たりして、意味がわからない状態になっていた。
しかしこれらの怪しいガチャガチャたちは田舎の子供たちの心を鷲掴みにしていた。いつも何人かの子供たちが群がり、カプセルを開けては中身を取り出し空のカプセルを捨てる。スーパー側がカプセル専用のゴミ箱を設置するのに時間はいらなかった。
少年も例に漏れず心を奪われた。僕だって皆に混じってガチャガチャをやりたい。けれども、それは許されないことだった。貧しく、一円でも安い野菜を買い求める母親の姿をずっと見てきた少年にとって、ガチャガチャをやりたいなんて言葉は最も口にしてはいけない言葉、禁断の言葉、なんとなくそう感じ取っていた。
けれども、ある日のこと、上機嫌だった母親はいつもの定番コースでレジへと向かう道中、少年に向かってこう口にした。
「100円分だけおやつ買っていいわよ」
少年に迷いはなかった。普段ならんふってわいた興奮に、一気に百円の菓子いっちまうか、それとも10円のを10個買って刻んでいくかなどと迷うところだが、あれこれ考える時間もなく即答。
「それならガチャガチャやりたい」
お菓子を我慢して100円を貰う。普段はレジの横で母親を待っているのだけど、そんなものは素通りし、一気にあのオレンジ色のガチャガチャコーナー目指して走り出した。手の平に模様の跡がつくほどに強く100円玉を握りしめて。
色々なガチャガチャがあった。スライムが出てくるガチャガチャや、チープなマジックのグッズが入っているガチャガチャ、女の子向けのものもあった。けれども、ガチャガチャ全面に書かれているこれらの商品説明は全く当てにならない。中にはとんでもないカオスが詰まっているのだ。少年はなんだか早く済ませないといけないような気がして、焦りながら適当に一番右上のガチャガチャに100円玉を投入し、思いっきりハンドルを回した。
ガチャ、ガチャ、と機械的な音が2回聞こえ、確かに手応えがある。100円玉がセットされた部分が機械内部にスライドし、その機械音と共に吸い込まれた。同時に、ハンドルのちょっと下に備えられた穴から半分透明、半分赤色のカプセルが出てくる。オレンジ色のシートの影響で、一瞬、そのカプセルがオレンジ色に見えた。
少年は荒い息づかいでそのカプセルを開ける。カプセルは少し力を加えただけで簡単に二つに分かれた。中には曲面状に曲がったペラペラの怪しげな紙一枚と、濃厚な紫色をした小さな箱がついたキーホルダー。何んなのかサッパリわからなかった。とりあえず、中に入っていた紙を見てみる。どうやら説明書のようだった。
「セクシーキーホルダー」
怪しげな、どういうセンスしたらこんなのを選択できるんだって感じのおどろおどろしいフォントで書かれたその文字を読んでもさっぱり意味がわからなかった。確かにキーホルダーだ、それはわかる。なにせ小さな箱の上部から鎖が伸びて鍵を付けるとこがついているからな。しかし、「セクシー」の意味がわからない。
少年は悩んだ。お菓子と引き換えに手に入れたものがこれ。果たして自分の選択は正しかったのだろうか。こんな意味不明なものが欲しかったのか。お菓子を買っておいたほうが良かったんじゃないだろうか。おそらく少年が成長していくに従ってそんな選択は何度でもある。もちろん内容もより深刻になっていくだろう。いちいち後悔していても始まらない。とにかく今はこの箱の謎を解き明かすべきだ。
「ボタンを押すとセクシーなことが起こるよ!?」
説明書にはそれだけが書かれていた。ボタン!?もう一度マジマジと謎の箱を見てみる。なるほど、箱の中心に力士の乳首みたいな大きさの突起がついている。これがボタンだろう。これを押せばセクシーなことが始まる?一体何が?とにかく少年はボタンを押してみた。
「プシューンプシューン!」
ボタンの上にあった穴がスピーカーの役割を果たしているのか、そこから機械的で甲高い音が聞こえた。音が出るとは思っていなかったので一瞬、ビクっと体を強ばらせてしまう。そして間髪を入れずに謎の箱は音を出す。
「あはーん、うふーん、いいわー、グッド、グッド、カマンベイベ」
意味が、わから、ない。どうやらこれが「セクシーなこと」らしい。一瞬ポカーンとなってしまうが、すぐにそれが女性のエロスな喘ぎ声であることに気がつく。よくよく説明書の裏側を見ると、金髪の姉ちゃんが女豹のような感じこちらを見つめ、なぜか唇の端からさくらんぼが垂れているという衝撃的に意味不明な絵がプリントされていた。
「買ったの?」
ふいに買い物袋を持った母さんに後ろから話しかけられる。僕は咄嗟に今出た謎のセクシーキーホルダーを隠す。なんだか悪いことをしているような気持ちになったからだ。
「たいしたもの出なかったよ」
「そう」
そう会話しながら駐車場に向かう少年のポケットの中では、セクシーキーホルダーの入ったカプセルが強く強く握り締められていた。
深夜、少年は家族が寝静まったのを確認して物音がしないように1ミリづつゆっくりと玄関ドアを開け、真っ暗な闇へと躍り出た。もう一度あのセクシーボイスを聴くためだ。周りに誰もいないのを確認してボタンを押す。
「あはーん、うふーん、いいわー、グッド、グッド、カマンベイベ」
クソッ、なにがカマンベイベだ。こんなもの、こんなもの、という思いとは裏腹に少年はギンギンに勃起していた。まるで我が家に金髪のセクシー美女がやって来た、そんな錯覚を起こすほどにこのキーホルダーは良く出来てやがる。説明書にプリントされた金髪の姉ちゃん、むちゃくちゃおっぱいがでかい。
3回ほどボタンを押してセクシーボイスを聞いた後、もう一度玄関の明かりを使って説明書の金髪を見る。すると、先ほどは気づかなかった文字があることに気付いた。
「全6種」
腰が抜けるかと思った。このセクシーボイスが……6種!?衝撃だった。あのガチャガチャの中にはまだ残り5人の美女が詰まってやがる。なんとかして手に入れなければならないんじゃないだろうか。それが僕に課せられた使命なんじゃないだろうか。少年は苦悩した。それよりなにより、もっとエロいボイスを聞きたかった。抑えられない欲望は葛藤と変わり、深い闇のように少年の心を侵食していった。
次の日、少年はあのオレンジ色のあの場所にやって来ていた。今日は歩いてきたから一人だ。母親はいない。手には、もしものために貯金しておくだよと、爺さんが少ない年金からくれた2千円が握り締められていた。
少年は今がそのもしもの時だと思っていた。けれども、本当に2千円を賭けるだけの価値があるのだろうか。そんな不安が大蛇のように少年に絡みついていた。当然のことながら2千円で20回は回せる。けれども、その20回でセクシーキーホルダーが出る保証はない。それよりなにより、このエロキーホルダー欲しさに全財産を注ぎ込む自分、そんな自分の将来に対する不安があった。
大人とは着実で冷静だ。少なくとも少年の目からはそう見えていた。大人はこんなものに狂ったように興じたりはしない。もしここで自分が全財産をガチャガチャにつぎ込んだとしたら、欲望に勝てない人間、エロに勝てない人間、何も積み上げられない人間、そんな風になってしまうんじゃないだろうか。今思うとオナニーすると馬鹿になると本気で心配するレベルのことなのだけど、本当に真剣に苦悩した。
セミの声と、特売を告げるカセットテープの音がうるさい。オレンジ色の光は容赦なく少年に降り注ぐ。立っているだけでジワッと背中に汗が伝うのがわかる。それは暑さ故のことなのか、それとも別の汗なのか、もう少年にもわからない。
少年は決意する。様々な思いが葛藤する中、心を決める。僕はそうやって生きていく。アホのようにアホなことに全てを注ぎ、エロいことに夢中になる。そんな大人になってもいい。それでいい。だから、いま、僕は、ここでセクシーキーホルダーを手に入れる。
少年はガチャガチャの透明部分を横から覗き込んだ。少し透明な箱からは中のカプセルが見ることができる。ある。上の方のカプセルの一つの中に見慣れた金髪美女の写真が見えた。少なくとも一つは必ず入っている。その事実が少年を奮い立たせた。
けれども、すぐに2千円をぶっこむような愚かな真似はしない。今現在、このガチャガチャの中に何個のカプセルが入っているのか測らねばならない。今でこそ、ガチャガチャ内の体積と残りカプセルの高さ、カプセルの体積から、どちらかの最密充填構造だと仮定して充填率74%から計算して何個入っているのか計算できるけど、少年にはそんな力はない。けれども工夫はできる。
空のカプセル専用ゴミ箱から空のカプセルを取り出し、アンケート回収箱がちょうどガチャガチャと同じくらいの大きさだったのでそこに詰めてみる。横から見た高さと同じになるまでカプセルを入れてみると、ちょうど20個くらい入った。
いける。
20個なら持っている2千円で全部買える。さすがにそこまでしたらロクな大人にならないような気がするが、もう決意してしまった少年にそんなものは関係ない。ロクでもない大人になってやる。レジに走り両替してもらった100円玉20枚。鬼神の如き勢いで回しまくる。
本当にこの当時のガチャガチャは悪質で、セクシーガチャガチャ、と全面のパネルで謳っているくせに、中には何故か「熱海」と書かれた巻物や変な忍者の首が飛び出す人形、キラキラした瞳のシールなど、lこれ工場で作ってる人とか疑問に思わないのかなってレベルのものがガンガン出てきた。最初に出たのがすごいレアな当たりだったみたいで、千九百円使っても全く出ない、何故か「熱海」だけは3つでた。
けれども、もうあと一つでこのガチャガチャの中のカプセルは全て買い占めたことになる。それは間違いなくセクシーキーホルダーであるはず。よこから覗き込むと、何故か底の方に4つのカプセルが残っていた。何かを間違えたのか、それとも底部分の送り出しスペースを考慮に入れていなかったのか予定より3つ多い。もはやどれが出るかわからない。確率は最低だと1/4。ええい、ままよ、祈りを込めてハンドルを回した。
ガチャリコ。
カプセルが勢い良く躍り出る。チラリと金髪美人の顔が見えた。きやがった。でやがった。ついに出やがった。少年は歓喜に酔いしれた。狙い通りに目当てのモノを手に入れられる喜びを噛み締めた。成功とはこういうものなのだ。早速、セクシーボイスを聞いてやろうとカプセルを手に取り、震える手で開ける。今度はどんなセクシーボイスが。さらに挑発的なセクシーボイスなのか。情熱的なセクシーボイスなのか。震える手でボタンを押す。
「あはーん、うふーん、いいわー、グッド、グッド、カマンベイベ」
おんなじだった。
本当にこの当時のガチャガチャは悪質だった。全六種と謳いながら、6種も入ってない。そんなのは当たり前だった。熱気が渦巻くオレンジの光の中、少年はガックリとうなだれることしかできなかった。ちなみに、このキーホルダーをカバンにつけていて、授業中にカマンベイヘが炸裂し、一時期ベイベっていうニックネームで呼ばれることになるのはまた別のお話。
ガチャガチャといえばそんな切ない思いでしかない。そして現代、なにやらソーシャルゲームと呼ばれるネットゲームでガチャガチャが空前のブームらしい。携帯代金で払える方式とかのせいで親が知らない間に子供が何十万と使ったりなどとちょっと問題になってるようだ。
僕もちょっとやってみたのだけど、たしかによくできている。それはゲームとしてよくできているわけではなく、お金を払わせる構造としてよくできているのだ。家庭用ゲームなどはユーザーのストレスをなくす方向で技術や演出が発展してきた。けれども、今のそれらのソーシャルゲームは、システムとしてユーザーがストレスを感じるように作り、金を払うことでそのストレスが解消されるようにできている。
時間が経過しないと回復しないライフみたいなものがあり、金を払うとそのライフが回復する。ライフがないと何も出来ない。けれども、ライフを使いきったところでちょうど特典が二倍になる時間が10分限定で始まるように作られていて、その2倍タイムをフルに使うには自然回復を待ってはいられない。お金を払わなければいけないのだ。
そして、カードやアイテムを集めるにはガチャガチャをしなければならないのだけど、無料のガチャガチャでは全然出なくて、レアなものしか出ない高い金額設定のガチャガチャなんかが鎮座しており、それを使うと楽に進められるよ、楽にレアなの集まるよ、と死ぬほど煽ってくる。コンプリートしそうになると目当てのカードが絶対的に出にくくなるとか滅茶苦茶だ。
けれども、あのとき、ロクでもない大人になると灼熱のオレンジ色の中で決意した少年は、こんな現代のガチャガチャにははまらない。なぜなら、少年はもっと悪質でもっと魅惑的なガチャガチャを知っているからだ。
どんなレアなカードもアイテムも、それはたぶんただのデーターで、絶対にあのキーホルダーには敵わない。「カマンベイベ」と絶叫するあのキーホルダーには敵わないのだ。
5/6 ある日・・・
朝起きて適当にご飯食べて仕事に行って、なにやらヒソヒソと陰口を叩かれて適当に切り上げてラーメン食って帰ってオナニーして寝る。見紛う事なき僕の日常で我ながら吐き気がするほどクソな毎日の繰り返しだと思うのだけど、明日からこの日常が送れないとなった場合、それはちょっと嫌というか困る。クソな日常であってもなくなると困るのだ。
みながみんなそれぞれに大切な「日常」ってやつがあって、無意識のうちにそれを守ろうとしているのだけれど、その大切な日常がいとも簡単に崩れ去りうる脆くて危ういものだということにはあまり気が付いていない。
例えば、毎日仕事から帰ってプロ野球見ながらビールを一杯、なんてのが大切な日常であるお父さんも帰りの電車で手を掴まれて「この人痴漢です」と爬虫類みたいな女に叫ばれるだけで崩壊する。もしかしたらもうそんな日常は送れないかもしれないのだ。
こんなこと言ってしまっては言葉が悪いかもしれないが、天災や人災などの不可抗力的事象だって日常を破壊する大きな要因だし、そこまで大規模でなくてもちょっとした悪意、ちょっとしたすれ違い、思い違い、そんな些末なことでこの日常はいとも簡単に崩壊するのだ。
そして、それらの崩壊は最も日常が日常らしい時、本人は気付いてないかもしれないが、最も幸せな時に訪れるものだ。今日はそんな話をしたい。
あれは僕がまだオナニーを覚えたてのルーキーだった中学生時代のことだった。全国的にそうだと思うけど中学ってのは良く分からない風習というか風土が蔓延しているものだ。今思い返してみるとなんであんなことしてたんだろうと思うことが多々あるのだけれど、当時の自分たちは至って真剣だったりするのだから始末が悪い。
そんな中学のおかしな風土の一つに、我が校では体育祭のハチマキ伝説というものがあった。これは、年に一度開催される体育祭の時にクラスでお揃いのハチマキを自作して装備し、体育祭終了後には女子が密かに恋心を寄せる男子のハチマキを貰い好いただの何だのやりはじめる行事だった。
今考えるとアホじゃねえかって思うし、そんなハチマキくださいって言われるよりもフェラチオの一つでもしてくれた方がいくらか恋も成就しやすい、中学生なんて性欲の塊っすからね、全然いけるって思うのですけれども、当時の僕らは真剣で、体育祭の終わった後などハチマキ持った男子がなかなか帰らずウロウロしているものだった。
そしてある年のこと、その年も体育祭の開催が近づいてきて男女共に色めきだってきました。ちょうどバレンタイン前のヌルッとしたざわめきとでもいいましょうか、そんな男女間の機微みたいな甘酸っぱい何かがあったのです。
ここまで、この男女の一大イベントをまるで他人事のように書いてきましたが、そりゃそうで、もちろん僕にとっては他人事で、ハチマキをくださいって女子に言われたことなんてなくて毎年キッチリとハチマキを家に持ち帰っていた僕には非常に関係ない話で、ハチマキだって母ちゃんが洗濯物を干すのに使っているくらいでした。
本当に完全に他人事で、全くと言っていいほど体育祭にもハチマキにも、もちろんそのあとの恋愛イベントにも興味がなかった僕だったのですが、ある年だけ、どうしてもハチマキに関わらなくてはならない、そんな事態が巻き起こったのです。
なんてことはない、ハチマキ係に任命されただけで、体育祭に向けてクラス全員分のハチマキを準備する責任者みたいなのになってしまったのです。まあ、責任者といっても実際に縫ったり切ったりして裁縫するのはクラスの女子全員の仕事でしたので、まあ、僕の仕事はハチマキに使う布を買いに行くくらい。その布だってあらかじめ色やなんかはクラスの話し合いで決定していますから、完全におつかいをするだけ、みたいな状況でした。
そんな面倒くさく、しかもやりがいもクソもない仕事を割り振られ、おまけにハチマキに対する思い入れもほぼゼロ、そんな僕がテンションあがるわけもない、と思ったのですが、意外や意外、僕のテンションはだだ上がりで、とにかくこのハチマキ係をやり遂げる、そんな熱意に燃えていたのです。
実は、このハチマキ係、男だけだと訳の分からん蛾みたいな色合いのものを作るし、女子だけに任せても異様にメルヘンチックなお花の国の王女様みたいなのが出来上がるため、男女ペアでやってバランスを取るのが慣習みたいになっていました。そして、僕ともう一人任命された女子が僕が密かに恋心を寄せる女子だったわけで、否応にもテンションが上がったわけなのです。
ハチマキ係を決めるクラスでの話し合いと、色とかを決めるクラスでの話し合いが終わった後、僕らは二人教室に残りました。この時点ですごい良い匂いとかしていて僕はもうギンギンに勃起していたと思います。若いですね、中学生ですもの。とにかく、この好きな子と僕はハチマキ用の布を買いにいかなければならないのです。
「電車に乗っていかなきゃいけないね。今度の日曜日行こうか?」
少し照れくさそうに笑いながらそういう彼女の笑顔を見て、僕は確信しましたね。母ちゃんすまん、今年はハチマキ持って帰れそうにない。洗濯物は別の紐を使って吊り下げてくれ、そう確信するに至ったのです。今年の体育祭は何かが起こる。きっとこの恋が実る。
僕の住んでいた町は、たぶん現代の都会っ子とかがホームステイに来たら三日目に自殺しちゃうんじゃないかってレベルの微妙な田舎でしたので布を買うには汽車に乗って隣の町まで行く必要があったのです。
僕ら中学生にとってその隣町に行くってのはある種のステータスで、ちょっとおませなかっぷるや、かっこつけたい男子グループなどが休みの日に隣町に遊びに行く、それが約束された上位ヒエラルキーのムーブメントだったのです。
僕もついにその休日に隣町まで遊びに行くステージに到達したか、それも好きな子と一緒にだ。これはもうデートだ。デートに違いない。果たして布を買うだけで済みますかな!みたいなことを妄想し、前日などは眠れなくて眠れなくて仕方がなかった。
そしていよいよ当日、起きてみてビックリしました。遅刻確定とまではいいませんが本気で急がなければ遅刻してしまうかなり切羽詰った時間帯に目覚めてしまったのです。いくら興奮して寝付けなかったとはいえ、こんな晴れの日に寝坊とはありえません。
「なんで起こしてくれなかったんだよ!クソババア!」
1ミリも悪くない母さんに悪態をつくところなんて本当に中学生らしくて微笑ましいのですが、とにかく急がねばなりません。彼女との待ち合わせは駅、急いで準備して全速力で向かえばギリギリ間に合う。今のように携帯電話などない時代ですから遅刻はご法度、おまけに田舎で汽車を一本逃すと次いつ乗れるか分かったものじゃありませんから、とにかく遅刻だけはできないのです。
当初の予定ではちょっと髪型とか決めて行ったりするはずだったのですが、そんなものは全て省略、急いで家を出ようと身支度を整えていると、神の悪戯とも思える不幸が巻き起こったのです。
「ウンコしたい……」
いつも大切な場面でウンコがしたくなり幾多の人生におけるチャンスの芽を踏み潰すことになる僕でしたが、さすがにこの時ばかりはありえないと思いました。大好きな子と待ち合わせ、時間ギリギリ、その場面での便意、無視して待ち合わせに向かおうものなら途中で出る、けれどもゆっくりウンコなどしていたら本格的に待ち合わせに間に合わない。
迷いに迷った僕は決断しました。一瞬でウンコを全て出し光の速さで待ち合わせに向かう。もうそう決断したら行動は早く、ドアを蹴破る勢いでトイレにインし、便器に座るのとズボンとパンツをズリ下げるのがほぼ同時、しかも座った瞬間にビビビビビブですよ。よし、瞬殺でウンコを出すこと成功した。まだ間に合う。急いで尻を拭こうとした瞬間ですよ。
「紙がない」
いつもは誇らしげにトイレットペーパーが咲き誇ってるであろう場所にトイレットペーパーのカケラすら見当たりませんでした。ただ茶色いトイレットペーパーの芯だけが哀愁を漂わせて佇んでいました。やばい、このままでは間に合わない。ただでさえ1分1秒を争っている場面なのに、ここでドアを半分だけ開けて手だけ出して「母ちゃん紙ー」なんて要求している時間はない。耳が遠くてトロい母さんのことだ、紙を用意するのに天文学的時間がかかるに違いない。
僕は今でこそ人間の進化のためにウンコの後も尻を拭かない、そう宣言して痔になった男ですが、当時は悩みましたよ。このまま尻を拭かずにウンコを終える?そのままデートに?さんざん悩みましたが、それでも遅刻するよりはマシと判断し、そのまま拭かずにパンツとズボンを吐き、待ち合わせ場所へと直行したのでした。
鬼神の如き形相で自転車を漕ぎ、競輪選手みたいになりながら地元の駅に到着。秒単位のギリギリさでなんとか彼女と会うことができ、予定していた電車にも乗ることができたのです。危なかった、紙を探して尻を拭いていたら間違いなく間に合わなかった。僕の判断は正しかった。
「大丈夫?すごい汗かいてるよ?」
もう秋口になろうかという涼やかな季節であるのに、車内ではハァハァ言って汗をブシュブシュ噴出させている僕を気遣う彼女。その姿はまさにエンジェル。こんな可愛く優しい女の子とデートに隣町まで行く僕、母さん、今年はハチマキ持って帰れそうにないわ、あとトイレに紙補充しといてや。
車内は非常に空いていたのですが、なんだかボックス席に座るのが気恥ずかしかった僕らはそのままドア付近で立ちながら談笑、この辺も非常にスムーズでしてね、この僕がこんなにも女子と軽やかに会話ができるとは思いもしませんでした。
1時間が経過するとついに汽車は目的の駅に到達。やはり地元と比べてかなり都会で圧倒されるものがありました。完全に打ち解けていた僕と彼女は目的の布ショップを目指してアーケード街を歩いていたのですが、そこでとんでもない事件が巻き起こったのです。
尻の穴が痒い。
もう、普通に痒いとかのレベルではなく、下手したら狂うんじゃないか、なんか小さい小人みたいなのが槍もってケツの穴を暴れまわってるんじゃないかって痒さだった。とにかく尋常じゃないレベルで尻の穴が痒かった。
やはりというかなんというか、出掛けにウンコして拭かなかったじゃないですか。その時に周辺に残っていたウンコが硬化して乾燥し、とんでもない痒みを演出し始めたのです。この痒みが分からない人は、ウンコした後に尻を拭くのをやめてみたらいい。
ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。
アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。 アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。
さっきまで好きな子と楽しいデートをしていて
「ほんとだよ、マリオだって4面まではいけるんだから」
「あ、4面からワープできるよ」
みたいな会話をしていたのに、今や考えるのはアナルのことばかり。
「でね、4面のトゲトゲのやついるでしょ?」
(アナルアナルアナルアナル)
「どうしたの?」
「いや」(アナルアナルアナルアナル)
完全に心ここにあらずですよ。全てをアナルに支配された中学生の姿がそこにあったのです。とにかく尻を掻き毟りたい、許されるのならばズボンを脱いで今ココで掻き毟りたい。釘抜きみたいな道具でガリガリとやったりたい。尻こ玉が抜ける勢いで掻きたい。ウザい、横で楽しそうに話しているこの小娘がウザい。いいよな、お前はアナルが痒くなくて。何が4面のトゲトゲのやつだ、そのトゲでアナルかきむしりたいわ。
「それで、この間先生が言うんだけどー」
本当にこの小娘がうざったい。ちょっと黙っててくれないだろうか。っていうか尻の穴をかきむしってくれないだろうか、そんな感じ、たぶん並の精神力の人間だったら精神崩壊していると思う、それくらい痒かった。
布ショップに到着後も考えるのはアナルのことばかり、ここに展示している全ての布でアナルを拭きたい、摩擦で煙が出るくらいダイナミックに拭きたい。拭きたい拭きたいアナル痒いアナル痒い。
「オレンジ色なんだけど、サテンと普通のどっちにしよっか?」
なんて二種類の布を手のとって彼女が言うんですけど、普通のヤツの方が良く拭き取れそうだとしか思えず、心ここにあらずといった状態でした。そのうち彼女の顔すらウンコがこびりついたアナルみたいに見えてきましたんで、もう色々と限界と悟り、布ショップを出て隣のボンタンとか売ってる不良ファッションショップのトイレに駆け込み、トイレットペーパーを使って何度も何度も、痒みが収まるまでアナルを拭き続けたのでした。そういった動きをするカラクリ人形のように。
これってすごい不思議なんですけど、アナル周辺で一度乾燥したウンコって本当に頑固で、拭いても拭いてもうっすらと紙に茶色い軌跡が残るんですね。とにかく、もうあんな思いをするのだけは嫌だ、せっかくのデートを楽しみたい、そんな一心で何度も何度も尻を拭きました。
どれくらい拭いていたか分かりません。とにかく満足し、店を出ると、布ショップの店先で彼女が布を持って所在無く佇んでいました。どうやら僕の姿が見えないのでもう自分の判断で布を購入してしまった様子。本当はこの後、適当に理由をつけて彼女と本格的デートになだれ込もうと企んでいたのですが、本日のアナルコンディションでそれは危険、またいつ痒みが再発するか分かりませんから、早急に帰宅する必要があります。
というか、駅に向かう道中、何度も我々の前に立ちはだかるノストラダムスのように早速アナルが痒くなり、絶望したのですが、もうなりふり構ってられないのでズボンの上からパンツの上から、彼女に気づかれないのようにアナルをかきむしっていたのですが、もうね、指がすごくウンコ臭くなるのね。
しかも帰りの汽車の中で、彼女が、「買った布、大きさ大丈夫かな?ちょっと広げてみよ。pato君、はじっこ持ってて」とか、スロット屋にいるニット帽のガキ軍団くらいウザいこと言い出しましてね、汽車の中で布を広げやがるんですよ。僕も布を持つのを手伝ったんですけど、明らかに指からウンコの匂いするでしょ。
「いや、この布では拭いてないよ」
とか訳の分からないことを弁明するのが精一杯で、明らかに思いましたね、この恋終わったな、と。
とにかく、日常とは脆いものです。好きな子とデートなんていう一大スペクタクル、最も守りたいであろう一大イベントであっても、ウンコをして尻を拭かなかった、それだけでいとも簡単に崩壊するのです。大切さに気付いていない日常なんてどれだけ壊れやすいか。どんなクソのような日常だって、きっとあなたにとっては大切な日常なのです。それを噛みしめ、守るべく行動するべきなのです。
ちなみに、ハチマキは完成し、もちろん体育祭後に誰にも貰われなかった僕のハチマキですが、あの悲劇を繰り返さぬよう、トイレにでもぶら下げて尻を拭くのに使おうとも思ったのですが、ツルツルしたサテンの素材だったので、ちょっと拭きにくそうでしたら。だから拭きやすい普通の布がよかったのに。
(2004年5月20日の日記をリライト)
5/5 理想の自分に出会う100の方法
「本来ならばそちらが謝るべきです。どちらかというと被害者は僕の方なんですよ。こちらが悲鳴を上げたいくらいです。さあ、早急に出て行ってください」
このように毅然と言えたらどんなにか素晴らしいことだろうか。人には誰しも理想の自分というのがあって、その幻想の中の自分でありたいと願っているはずだ。どんな難しいことでも難なくやり遂げてしまう自分、多くの人に好かれる自分、いつも聡明で冷静な自分、さまざまな理想の自分があるはずだ。
けれども、多くの人はその理想の通りには振る舞えない。現実と幻想とのギャップに直面し、時に苦しみ、時に悩み、そして受け入れる。世の中はこんなものであると。それは諦めに近い感情なのかもしれない。
かくいう僕も、特にこの憧れは強い。例えば理想の僕は、もっとこう、女子供に好かれるようなスタイリッシュな文章をワールドワイドウェブ上に掲載し、知的でクールな感じをサイト上から醸し出し、おまけに職場においても皆から信頼され、週末などは飲み会やリクリエーション、栗拾いツアーなどに誘われて大忙し、職場のカワイイ女の子から上司にセクハラされてるって相談されて、それで怒りに燃える正義感の塊でありたい。
書いてみて本気でビックリしたのだけど、何一つ達成されていなくてすごい。現実の僕は、ウンコが漏れたとかそういうことばかりワールドワイドウェブ上に載せているし、知的さもクールさも感じられない。こう、なんというかサイトからヌメっとした嫌な感じしか感じられない。それも中途半端な不快感レベル。おまけに職場では嫌われていて全く信頼されていなくてどんなイベントにも誘われず、職場のカワイイ女の子が上司にセクハラされているという話を盗み聞きして興奮して勃起してるくらいが関の山だ。
思うに、理想の自分、なんてのは持たないほうがいいのかもしれない。なぜならば、人は足ることを知らない生き物だ。どんな状況にあっても、ここが自分のMAXである、とはそうそう思わない。常にまだ上がある、と思うことができる生き物だ。それはよく言えば向上心だけれども、悪く言えば永遠に満たされることのない欲望。この世の多くの不幸はこの足ることを知らないという人間の特性から生まれる。
つまり、理想の自分とはこの間のエロ動画のお話と同じで、永遠に到達することのない自分なのだ。この永遠に到達できないという事実を前向きに受け取れる人ならいいのだけど、多くの人がそうであるとは限らない。上手い人がやった後のマリオカートのゴースト取るか、馬の目の前にぶら下げられた人参ととるかだ。非常に残念で寂しいことなのだけど、理想は理想なのだ。
だから僕はよくサラリーマンの人が電車の中で読んでいるような、「人に好かれる50の方法」とか「理想の自分に出会う100の方法」みたいな自己啓発本の類がものすごく嫌いだ。あれは理想の自分になるための本ではなく、自分の欠点を知るためのものでしかないからだ。足ることを知らない人間の塊だ。
理想は時に不幸を生む。そういった意味で冒頭の文章を振り返ってみてもらいたい。
「本来ならばそちらが謝るべきです。どちらかというと被害者は僕の方なんですよ。こちらが悲鳴を上げたいくらいです。さあ、早急に出て行ってください」
かなり毅然としたセリフである。僕はある場面において、このセリフを淀みなく言ってのけられる自分に憧れていた。あるシチュエーションになった時、毅然とこのセリフを言ってやりたい、それは過去に何度かその場面に遭遇したにも関わらず、全く言えなかった自分に対する戒めの意味もあったかもしれない。けれども、そう言える自分に憧れていたのだ。
それは今日、子供の日の出来事だった。都市から少し離れた山間のワインディングロードをドライブして光と影のストライプを楽しんでいた。その時、悲劇は起こった。
ウンコがしたい。
長いことうんこ漏らしを生業にしていると、そのウンコしたい想いがどれだけの危険度なのか大体わかってくるようになる。かなり深刻で臨界に近いのか、それともまだ序章で何度か収まったり再発したりを繰り返すのか、比較的硬いウンコで、かなりの時間肛門に留めておけるのか、それとも下痢で全てを素通りしてしまうのか、全ての要素を瞬時に判断し、危険度を算出することができる。
この場合、下痢であり危険度はまだ序章レベル、腹痛の深さから言っても放出までにはかなり時間的猶予がある。危険度はだいたい30%といったところだろうか。これまでの修羅場の数々を考えると児戯に等しいウンコだった。
おまけにシチュエーション的にかなり恵まれている。ドライブ中で山の中、これはバイオリンの才能がある少年が幼少期よりバイオリンに触れることができる裕福な家庭に生まれる、くらい環境に恵まれている。僕らはいくらバイオリンの才能があったとしても触ったこともないから気がつかない。それくらいセーフティーな環境だ。
まず、山の中という点がいい。一見すると店舗とかが少なくトイレに行けるチャンスという面で考えるとかなり危険だが、野糞を決意してしまうとこのフィールド全てがトイレと化す。かなり安全だ。おまけに目撃者も全くいない。ドライブ中なので好きな場所に入っていって野糞かますことができる。逆にこれが満員の山手線の中とかだとかなり危険度が高い。
腹痛の危険度自体もそう高くなく、おまけにシチュエーション的にも楽勝、ならばもう少しこの腹痛を楽しもうか、それくらいの余裕が僕にはあった。おまけに走っていると、こんな山間部には珍しくセブンイレブンの看板が見えてきた。山間の集落の期待と希望を一心に背負ったみたいなセブンイレブンだった。
「ふっ、楽勝だな」
ここでコンビニ出会うとは、あまりにイージーな試合展開すぎて笑みがこぼれてしまう。まあ、このまま極限まで便意を我慢するのもいい、つまりこのコンビニをスルーし極限に追い込んで楽しむのもいいのだけど、時には大人の余裕を見せつけて華麗に処理するのも一興だ。僕は迷わずウィンカーをだし、愛車のポルシェはセブンイレブンの駐車場へと吸い込まれていった。
セブンイレブン店内は、田舎によくありがちな、畑で採れたものまで勝手に陳列しているような半分道の駅みたいなコンビニだったのだけど、トイレはなかなか綺麗で立派なものがついていた。こういったコンビニにありがちな、大きな個室に大便器が一つポツンと置いてあるみたいな、綾波レイの部屋みたいなトイレだった。
ここで誰かがトイレに入っていて満員御礼ソールドアウト、だとかなり危機レベルが上がるし、現にここでのソールドアウトは腹痛時にはかなり安心して気が緩んでいるのでかなり攻撃力が高く、過去に何度か辛酸を舐めることになったりしたのだけど、今回はそんなこともなく、普通にトイレも空いており、かなり安易にトイレへと到達することができた。
便器に座り一息つく。ブリブリと下半身からは気持ち良いくらいの下痢がエイベックスに例えるとAAAくらいの感じの下痢がかなりダンサブルに、それでいてメロディアスに排出されていた。過去に何度もウンコをもらしたからだろうか、かなり冷静に対処できるようになったものだ。理想の自分に少し近づけたような気がしたが、本当に理想の自分は出先でウンコをしたくならない安定した腸の自分だったことに気がつく。まだまだ僕は理想には程足りない。
あの美しい白鳥は、水面では優雅に泳いでいるが水面下では必死にもがいている。そんな感じで、頭では冷静にクールに、それでいてちょっと男前の感じでありながら水面下ではブババババババボルボルボッ!みたいな感じで下痢が出ていて、最後のボッ!って何が出たんだよって思うのだけど、そんな感じでウンコを楽しんでいると、トイレの外からガチャガチャと騒がしい音が聞こえてきていた。
「ホント、今日は暑いわー!」
「あ、私トイレー!」
20代後半くらいの女性の話し声だろうか、二重になっているトイレドアの向こうから声が聞こえる。どうやらトイレがしたくて入ってくるようだが、残念ながらこのコンビニ唯一の男女兼用トイレは僕が使っている。待たねばならない。しかも、僕が思いっきり下痢を出した後の便器であなたは用を足さなければならないのだ。かわいそうに。くさいぞー。
そんなことを考えながら、ハッと、トイレとしては広すぎる個室を見渡し、便器から少し離れた距離にあるドアに目をやった。前回3月24日に書いた日記では、「施錠」ボタンを押さなかった僕がギャルに開けられてしまい、すごい辱めを受けたエピソードを書いた。まさか今回も鍵を閉め忘れて開けられてしまうのではないだろうか、そんな不安がよぎり鍵に目をやった。
杞憂であった。フック式の鍵はしっかりと突起物に引っかかっている。鉤爪状のフックが壁の突起に引っかかってカギがかかるような構造になっていた。時空の捻じれでも起きない限りこのドアが開けられることはないだろう。しかし、不思議なのはこうしてトイレのドアが開けられてしまいウンコを見られた場合、なぜか僕は
「わー、ごめんなさい!」
などと焦りなのかなんなのかしらないけど謝ってしまう。けれども、冷静に考えるとこれはおかしい。謝って欲しいのは僕の方である。こっちはウンコを排出している場面、という普通では人に見せることはない場面を見られているわけで、そりゃあ、僕がウンコしながら街を練り歩いていたら変なもの見せてごめん、と謝ることもやぶさかではないけれども、入ってきたのはテメーだ。こっちが謝って欲しいくらいだ。
つまり、今回はしっかりカギがかかっているので開けられることはありえないけれども、もしまた、これまでの数多の悲劇のように、ウンコ中にトイレを開けられるようなことがあったら毅然と言ってやりたい、謝って欲しいのはこちらだと。だから気が動転して「わーごめんなさい」となぜか謝っていまう自分ではなく、クールにそしてスマートに
「本来ならばそちらが謝るべきです。どちらかというと被害者は僕の方なんですよ。こちらが悲鳴を上げたいくらいです。さあ、早急に出て行ってください」
と言える自分に憧れるのだ。次回、もし開けられる場面があったら是非言いたい。理想の自分に到達したい。
「あれ、あかない」
トイレの外では女性がドアを開けようとガチャガチャやっている。普通はノックするものだが困った子猫ちゃんだ、いよいよ「入ってますよー」って声をかけようと思ったが、この鍵がしっかりかかっているという安心感に安堵しつつ、しっかりかかっている鍵のフックを眺める。しっかりかかっている。
ガチャガチャガチャ
女性はドアを開けようと何度も扉を揺らす。その瞬間だった。扉が揺れる度にその反動でフックが上下に揺れ、今にも外れそうな感じで危なっかしかったのだけど、さすがに外れることはないだろう、それじゃあカギの意味がなさすぎる、とか思いながら眺めていると、本当に反動でフックがガッチャン、と上に跳ね上げられた。その刹那、時間にして0.3秒、ドアが開く。おだんご頭のカワイイ感じの女性。目と目が合う、僕の下半身はボバッブボバッブボスルトルンと下痢が出ている。
「きゃーーー!」
女性が悲鳴を上げる。マジか、本気で開けられた。鍵の意味がなさすぎる。どんな罠だ。未だ今がチャンスだ。憧れの自分に到達するチャンスだ。今こそ冷静にクールに
「本来ならばそちらが謝るべきです。どちらかというと被害者は僕の方なんですよ。こちらが悲鳴を上げたいくらいです。さあ、早急に出て行ってください」
と言い放つのだ。そう決意した僕は、なぜだか知らないけど立ち上がってしまい、本気で気が動転して
「あうあうあー」
としか言えなかった。
女性視点で見ると、ドアが揺さぶられた反動で鍵が空いたとは思わず、多分最初から開いていたと思うはず。よくわからないデブが鍵も閉めずにウンコしていて、入ったら下半身露出であうあうあー、完全に露出狂だ。3年は喰らうはず。
開けられてしまったらこう毅然と言いたい、そんな理想があるからそこに到達できず、あうあうあーみたいなさらに挙動不審なことになって怪しさがマックスビートになってしまうのです。さすがに警察呼ばれたかと思ってすごいビクビクしながらコンビニから出ましたからね。
理想の自分、それは向上心のためにも持つべきかもしれません。けれども決して到達し得ない過度の理想はあまり自分のためにはならないのです。ほら、知的で聡明な日記を書きたい理想の自分があったのに、結局下痢の話しか書いてない、そんな僕みたいに。
5/4 社長令嬢誘拐事件
このインターネットという世界が広く一般化してきて、今やそのへんの死にかけのお婆ちゃんですら孫の写真をネットで受信したり、温泉旅行の予約をネットでしたりと、コンピューターお婆ちゃんが当たり前の世界になってきました。
使用率が総人口の何割かというあるラインを超えると爆発的に普及するという話があります。おそらく、インターネットもある時を境に爆発的に普及したのはこのラインを超えたからではないかと思います。しかしこういった普及と同時に多くの犯罪行為が生まれるといった負の面もあるのです。
インターネットの普及と共にインターネットを使った犯罪行為も爆発的に増加しました。架空請求詐欺などはその最たる例なわけで、ここNumeriでも何度となく取り上げ、僕も果敢にその種のサイトにアタックしていましたから、未だにそういった詐欺サイトに誘引するメールが山のように来るのです。
けれども、ここで少し疑問があるのです。例えば、僕が書いた「出会い系サイトと対決する」ですとか「悪徳SPAMメールと対決する」などのいわゆる対決シリーズですが、これらが書かれたのはもう何年前も、けれども未だに多くの方に読んで頂いている現状を考えると、ある一つの疑問が湧き上がるのです。
なぜ、なくならないのだろうか?
僕のメールボックスには未だに最盛期の勢いで誘引メールが来ます。携帯にだって狂ったように来ますし、未だに請求メールが来ることも。まだまだ元気にそういった詐欺サイトが活動していることが伺えます。けれどもね、さすがにもう騙される人はいないんじゃないか、そう思うのです。
もはや、こういうサイトは詐欺であるってのは一般常識に近いものがありますし、インターネットが普及しだした初期ならまだしも、もう何年も経過しているのです。多くの人がそれなりの修羅場をくくぐってきているはずなんです。
こういった詐欺行為ってのは商行為と同じでして、儲からない場合は早急な変化が必要とされるのです。何年も営業している儲からない定食屋じゃないんですから、ダメならスパッと変化しなくてはならない。
例えば一時期は爆発的に儲かっていたみたいで、テレビでもバンバンCMし、ちょっとした地方都市の繁華街の雑居ビル全ての階をサラ金の自動契約機が占拠していた時期があったと思うのですが、今や、過払い金などの問題でサラ金も非常に苦しく、契約機は大きく数を減らし、CMの数も大幅に減りました。このように、儲からない時はスパッと変化する、そういった柔軟性が必要なのです。
しかしながら、どう考えても今や引っかかる人がいるとは思えず、全然儲からないと思うのですが、それでもそういった詐欺サイトに誘引するメールは減りません。これを書いている今でも最盛期と変わらない勢いでドカドカとやってくるのです。ちょうど、今来たメールをピックアップしてみましょう。
件名:3億5千万円いますぐ振り込めます
主人の遺産が3億5千万円あります。これを今すぐ振込みます。ですからわたしを満足させていただけないでしょうか?こんな女だとは思わないでください。自分自身、自分の中に秘められていた大胆さにドキドキしています。主人に抑圧されていた性欲が爆発したみたい。とにかくすぐに振込みます、メールだと国税局に目をつけられますのでhttp://XXX.XXにアクセスし、メールボックスを作って口座番号を教えてください。登録は無料ですから安心して
これに引っかかる人がいるとは思えない。うひょー3億5千万円の大チャンス!と本気で喜び勇んで登録する人間がいるのならば是非ともお目にかかって一晩飲み明かしたい。ありえない。
いやね、こんな荒唐無稽なものではなくてもっとリアルな感じの巧妙なメールで、さらには受け取る人がすごいお人好しだとか、彼女と別れたばかりで心が沈んでいたとか、満月の夜だった、とか色々なことが重なって騙される人っているとは思うんですよ。別にそれ自体はいいんですけど、問題はその騙される人も無限ではない、という点です。
日本なんて1億人ちょっとの人口で、その中でもインターネット人口が9千万人。そのなかでどれだけの人が騙されるのかは知りませんが決して多い数だとは思えない。ということは、この種の詐欺が騒がれるようになった期間から考えると、それらの人々はもう十分騙され尽くしたと思うんですよね。
そうなると、もう全然儲からないはずで、もっと引っかかるように詐欺サイト側も企業努力していて、普通のマダムが誘ってくるとかそういったスタンダードな誘い文句から逸脱、オリジナリティを出して
「ハイレグ研究家です。ワタシのハイレグ見てくれないかしら」
「ワニに食べられたい。こんな私ですがワニのように犯してもらえますか?」
「どうみてもマーガリンとしか思えないものが乳首から出てきます。舐めて味を確かめてみてください」
とか、もう企業努力しすぎててワケの分からない状態、最後の奴なんて自分で舐めて確かめろよって思うのですが、とにかく、こうやって努力する姿からも、努力すれば騙される奴がいるってことですから、やはりまだ騙される人がいるんでしょうね。でも、こんなメールなら従来のスタイルの方がまだ騙される可能性があると思うのですが、つくづくおかしいものです。
そんな良く分からない状況に陥った詐欺サイト誘引メールですが、先日、こんなものがやってきました。
件名:執事です
これも企業努力でしょうか。最近では金持ちマダムが暇と性欲と金を持て余しているという演出のために執事が出てくることが多いです。執事が出てくることで相手が金持ちということにリアリティを演出しているつもりかもしれませんが、これがまあ、とにかく多い。
どうせ、執事が奥様に仰せつかって旦那様に内緒でセックスをしてくださる相手を探しています。謝礼は十分にいたします。旦那様にバレないよう指定サイトに登録して頂きたく思います。安心してください無料のサイトです。みたいな感じで誘引してくるのは分かりきってて、過去に何度もこういったメールがきましたので、はいはい、って感じで開いてみると、そこには衝撃の展開が待ち構えていたのです。
件名:執事です
突然のメール申し訳ありません。本日はご協力して欲しくメール致しました。実は麗華お嬢様が昨夜家を飛び出したっきり帰ってこなくなりました。麗華お嬢様はカバンに4千万円をつめて出ています。心配です。旦那様は我が勅使河原家の恥になると警察に届け出ず、麗華お嬢様を保護した方にそのお金を差し上げるつもりのようです。ご協力お願いできませんでしょうか。
まさかの麗華お嬢様行方不明。いや、警察に連絡しろよと思うのですが、僕はこのメールに何かただならぬ違和感を感じてしまい、どうしたものかと何度も熟読していたのですが、そこに追い打ちをかけるように再度メールがきました。
件名:執事です
実は旦那様には口止めされていますが、私には麗華お嬢様の行き先に心当たりがあります。そこでインターネット接続を解析し、近い場所に住んでいると思われる貴方に失礼とは思いましたがメールさせていただきました。麗華お嬢様はすぐ近くにいます。4千万円を手に入れてください。居場所のヒントはメールでは危険ですので、http://xxx.xxxこちらのサイトに書いておきました。無料ですので安心して登録してください。
ははーん、こりゃあ、ひょとするとひょっとするぞ。僕はそう思いましたね。多分なんですけど、これは単に出会いサイトに誘引するメールではありませんよ。事態はかなり切迫している。急いで登録せねば、そう思ってメールソフトを閉じようとすると、またもや執事からメールが。
件名:執事です
大変です。今見知らぬ男から電話があり、麗華お嬢様が誘拐されたようです。身代金4億円を請求されました。旦那様は支払うつもりのようです。いま、銀行を駆け回って4億円現金で用意しました。誘拐犯は身代金受け渡しにアナタを指名してきました。どうか、麗華お嬢様を助けると思って引き受けてもらえませんか?
え、僕!?いきなり営利誘拐の身代金引渡しの運び役に指名されて大混乱。そんな大役、責任が大きすぎてやれそうにありませんし、なにより怖いじゃないですか。誘拐犯によって殺害されるかもしれません。そんな危険なことをその会ったこともない麗華お嬢様のためにやるなんて……。と思うのですが、でも、今僕が逃げ出したら誰が麗華お嬢様を救うというのですか。誰が麗華お嬢様を助けるというのですか。よし、やる、いくら危険でもやってやるぞ、と決意していると
件名:執事です
確かに、見知らぬ貴方にこんなことをお願いするのは非常識だと思います。けれども、アナタにしかできないことなのです。旦那様はもし麗華様を救って頂けたらゆくゆくは麗華様と結婚して時期勅使河原家の当主になってもらうつもりと仰っています。どうか、引き受けてもらえませんでしょうか?身代金受け渡しの方法はhttp://xxx.xxxこちらのサイトで
そんな、僕が…勅使河原家…次期当主!?ってか、なんで見ず知らずの誘拐犯が僕を指名したんだろう。それよりなにより、せっかく引き受けるつもりになっていたのに今引き受けたら麗華お嬢様との結婚や、時期当主という餌に釣られたみたいで何か嫌じゃないですか。どうしたものかと困っていると
件名:執事です
ちなみに麗華お嬢様は24歳Fカップです。
なにいってんだこの執事。でもまあ、Fカップかあ。そうかあ。でもなあ、誘拐犯にお金持っていくってことは対峙するってことだし、そこで撃たれたり刺されたりしたら嫌だなあ、怖いなあって思ってると、さらに執事からメールが着弾。
件名:執事です
でも身代金の4億だけ受け取って誘拐犯のところにいかず、姿をくらませるのもいいですよね。4億丸儲け。その方法も教えますのでhttp://xxx.xxxこちらのサイトで
うわー、この執事むちゃくちゃ悪いやつだな。僕がそんなことしたら麗華お嬢様が殺されてしまうじゃないか。こりゃあどうしたものかなーって思っているとまたメールが
件名:麗華です
いきなりこんなメールを送ってごめんなさい。実は今、私は正体不明の男達に拉致されて監禁されています。けれどもヒョロヒョロの男たちばかりなので、たぶん助けが来たらすぐ逃げてしまうでしょう。武器も持っていないみたいです。もしよかったら助けてもらえませんか。お礼はお父様がきっとしてくれるはずです。私が監禁されている場所はhttp://xxx.xxxこちらのサイトに書いておきました。最初だけ登録が必要ですが無料だから安心して
おいおい、麗華お嬢様大丈夫かよ。ってか、犯人はヒョロヒョロ、武器もなし、こりゃあ結構簡単に助け出せるかもしれない。
件名:執事です
誘拐犯側に動きがあったようです。事態は切迫しています。早く決断を!http://xxx.xxx
残念ながら僕はこのメールで全ての真相に気がついてしまったのです。誘拐という血塗られた宴の主催、ナイトファントムの正体がね。よーし、あとはこの麻酔銃でおっちゃんを眠らせて……。ってとにかくメールを書きました
件名:patoです
執事さん、もうそんな心配する素振りをしなくていいんですよ。僕は最初からあなたが誘拐犯の一味であることは気付いていました。そして麗華お嬢様、あなたもグルであるということにね。つまり、真実はこうです。麗華お嬢様と執事の安岡さん、あなたは共謀して勅使河原家の財産4億円を手に入れようと画策した。しかし、勅使河原さんはそう簡単にはお金を出さない。そこでこの狂言誘拐を思いついたわけです。最初は行方をくらませたことにして、後に脅迫電話をかける、しかしこれらを受けたのは全て執事の安岡さんだ。そして、監禁中でありながら麗華お嬢様は私のもとにメールを送ってきた。これではお嬢様が監禁状態になく、誘拐犯とグルといってるようなものです。おそらく動機は金使いの荒いお嬢様の金銭欲と、執事の安岡さんの麗華さんに対する想い、そう、実は安岡さんと麗華さんは生き別れた兄妹だったのです。そう、あの豪華客船沈没事件の生き残り。だから協力せざるをえなかった。そうでしょう
ってメール送ったら、執事の安岡は堪忍し、涙を流しながら自白しだしたって展開を予想していたのですが、どうやら存在しないアドレスだったみたいでメールが返ってきちゃいました。仕方ないので、何度も誘われていたサイト経由で事件の真相を教えてやろうとアクセスし、登録すると
登録されました。利用料金は88000円です。と地獄みたいなフォントで表示されていました。なるほど、みんなこうやって騙されるのか。
5/3 カリギュラの箱
patoは焦っていた。早く家に帰らねばならない。早く家に帰ってエロ動画を鑑賞しなくてはならない。僕にはそうする義務があるのだ。多くの場合、エロ動画に限らず、エロ系のものは隠れてコソコソ鑑賞するものだと思われがちだ。エロ本もエロビデオも、ホモがいっぱい出てくる同人誌も、隠れてコソコソ見るものだと相場が決まっている。人にはそれぞれ趣味嗜好があって、それぞれの好みにあったエロを選択し、興奮する材料に用いているのだ。patoは沢山のエロ動画を見ていた時、ふと一つの考えに到達した。それはカワイイ女優、好みのシチュエーション、好みの反応、高画質、高音質これらエロ動画を構成する全ての要素は要素でしかないという画期的考え方だ。なんのことだか理解できる人はいないと思うので、少し掘り下げて説明してみよう。
お気に入りのエロ動画を観たとして、生涯その動画で抜けるだろうか。答えは否。4回も見たら飽きてしまう。これは仕方がないことだ。僕らの脳は意図的に飽きるように作られている。しばらく時間間隔をおいて見ればまた興奮するようになるがそれも時間の問題で、必ず飽きがくる。それを何度も繰り返しているうちに次第にその動画は色褪せていく。といっても、昔のようにアナログではないデジタルな媒体だ。実際に色褪せはしないが自分の脳の中では確実に色褪せていく。今、テレビでジュリアナ東京などの映像を見ると、あまりのダサさにビックリするが、それが当時は最先端の流行だった。つまり、今どんなにナウいものだって時間が経てば必ず色褪せる。どんなエロ動画にもこれと同じことが起こる。
エロ動画を探す、見つける、飽きる、また探す、僕らはこの永遠のラビリンスから抜け出すことができない。それはすごい悲しいことだし屈辱的なことだ。言うなれば、僕らはエロビデオで抜いているのではなく、抜かされているのではないだろうか、それに気がついた時、patoは一つの考えに到達した。実はエロ動画ってなんでもいいんじゃないだろうか、と。良いエロ動画、悪いエロ動画、抜けるエロ動画、抜けないエロ動画、僕らはすぐにそんな風にカテゴライズしてしまうが、そもそも、それは大きな間違いなのだ。エロ動画は完全に受け取る側の問題、僕らユーザーがどんな心持ちで見るのかによって決まるのである。
良いエロ動画を追い求めることに終りはない。けれども、パラダイムシフトにより受け取る側の問題、つまり、以下に興奮するシチュエーションで見るか、いかに興奮する心の持ちかたで見るか、そう考えること世にってエロ動画との不毛な追いかけごっこに終止符が打たれることになる。これは非常に画期的だし、時間の節約になるだけでなくネットワークリソースの節約にも繋がる、たいへん有意義な考え方なのである。patoは提唱する、動画本位のエロ動画の時代は終わった。これからは僕らユーザーが主役なのだと。
併せてpatoはこのようなことも主張している。興奮するエロ動画ではなく、興奮するシチュエーションでのエロ動画の閲覧という話になると、短絡的な人はすぐに「見てはいけない場面でのエロ動画の閲覧」という考えに至る。けれども、どうかそのような安易で安直なことはしないでいただきたい、そう警鐘を鳴らすのである。昨今は、いかにタブーを犯すかという尺度でしか人々は競えなくなってしまった。けれども、エロ動画の真髄はそのようなタブー犯しではない。職場、学校、家族のリビング、そんな見てはいけないシチュエーションの中でエロ動画を見ることにより興奮を得る。それは正解ではないのだ。
エロ動画とは安泰であり安定である。心安らかで安全な状況があって初めてエロ動画を楽しみ熱中することができるのだ。見てはいけない場面で見ることで興奮する行動は確かに欲求の理にかなっているが、それは安定という要素からは相反するものである。興奮を求めるあまり、私生活での地位を失っては何にもならないのだ。patoも若さゆえ、その種の興奮を求めた時期もあったが、今はそれが間違いであったと言える。そのような興奮は間違っている。では、どのようにして興奮を得るのか。今日はそのへんの部分を実例を交えて紹介していきたい。
まず家に帰ってこっそり観る、そのへんの部分は間違えていない。けれども、場違いな場所で鑑賞する興奮も捨てがたいものだ。要はこっそり鑑賞して安定を得つつ、それでいて場違いな場所で見る興奮を得ればいいわけだ。場違いな場所で見る興奮というのは、実は観てはいけない場所で観るという興奮であり、観たいのに観てはいけない、でも観る、というカタルシス的な興奮である。では、これを職場や家族のリビングで観るのではなく、擬似的に作り出してやれば良いのである。
皆さんはエロ動画を見るとき、好みの動画を探してみる、もしくはご自慢のライブラリから出してきて見るという手法を採用しているかと思う。これは、じつは観る直前に動画の選択がなされているということである。まずはこの部分から考え直して欲しい。直前に選択していたのでは欲求が高まるだけの十分な時間がないのである。短い滑走路では小さなセスナしか飛び立てない。僕らはもっと大型の爆撃機を十分に長い滑走路から飛び立たせるべきなのだ。
つまり、少なくとも8時間前、できれば出勤前などに動画の選択を済ませておくべきである。できれば、おおよその内容がわかってる程度の動画を選択しておくべきである。すると、今日朝選んだ動画はどうなだろうか、どんなエロスなことが行われているだろうか、考えと想像を育むだけの十分な時間が存在する。実際にpatoも朝出勤前に動画サイトでマッサージ物を検索し、内容を見ずにダウンロード、それをUSBメモリに封印して職場に持ってきた。別に職場で見るためではない、そのメモリを眺めながら思いを滾らせるためだけに、現物として存在するUSBメモリの中にエロ動画を入れ、それを所持したのだ。
ここで、わざわざマッサージ物を選択し、検索したことについて釈明したい。上の方で動画の内容なんて関係ない、シチュエーションで抜くんだと言いつつ、テメーはマッサージ物を選んでいるじゃねえかと、内容で選り好みをしてるじゃねえかと。確かに、僕の理想ではエロ動画の内容は関係ないはずである。けれども僕だってまだまだひよっこ、この方法を実践するにはまだ力量が大きく足りない。まずは好きなジャンルのエロ動画でこの方法を試していき、次第に慣らしていく、最終的にはブスが喋ってるだけの動画で抜けるようになる予定である。
そういった意味ではマッサージ物のエロ動画は大変興奮する。これにはエロ動画でありながら起承転結があるのである。まず、普通に女の人が入ってきてマッサージを受ける起、エロそうなマッサージのおっさんの手つきがエロスになっていき、何かおかしいと女が気づき始める承、けれども快楽には抗えない、そして声が出るのも止められない転、オイルとか使い出すマッサージ師、いつのまにか下半身は裸になっている結、そしてついには我慢できなくなった女性は、マッサージ師のイチモツを、あれ、起承転結より項目が多い。とにかく興奮する。
これを観ようと検索をかけるのだけど、日本語の通じるエロ動画サイトのマッサージ物のエロ動画は見尽くしてしまったのでマニアックな海外サイトで検索するのだけど、そのサイトは日本語での検索に対応していない。つまり「massage」で検索しなければならないのだけど、これだと、わけわからん白人や黒人の女がシーハシーハいいながらマッサージされている画像が大量に出てきてしまうので、きちんと「massage Japanese」とか「massage jap」とかで検索しなくてはならない。そこで上の方に出てきた検索結果の動画を、内容もサムネイルも見ずにダウンロードしてUSBメモリに封印する。
仕事をしながら、USBメモリを眺める。この中にまだ見ぬマッサージ動画が詰まっている。そうやって思いを馳せることで興奮度が増していく。見たいのに見れないというストレスをかけることで、それが打ち破られた時の快感を演出するのだ。まだ12時、お昼だ、気が遠くなるほどの長い時間をやり過ごさないとこの動画を見ることができない。極上(と思われる)動画を見ることができない。募る思いは興奮へと変換されていくのだ。3時を超える頃、いよいよ終業時間が見越せるようになり、先が見えてくる。永遠の彼方と思われたゴールが現実的距離に感じられることにより、興奮もうなぎのぼり。鼻息なども荒くなってくる時間帯だ。ふいにこのUSBを会社のパソコンにぶっ刺して鑑賞したい気分に駆られるが、まだまだ早い、それにこんな場所で鑑賞してはいけない。家に帰ってゆっくり鑑賞すればいい、それまでジッと我慢の子だ。
いよいよ終業時間。長かった戦いも終わりと思いがちだが、実はここからが本番だ。このまま飛ぶように家に帰ってしまっては興奮の爆発が足りない。いつでも家に帰れる状態にありながら、あえて帰らずに想いを爆発させる。そんな熟成期間が必要なのだ。ここは、あかんり話が長くてうざったい感じの同僚や先輩のところに雑談しに行こう。特に先輩がいいだろう。帰りたくなってもなかなか切り上げて帰るわけにはいかない。話が長くてうざったい感じの先輩のところに行きましょう。その時、様々な想いが詰まったUSBメモリを握りしめていくといい。
で、この先輩のところに行くと、いつものことだし、僕もそんなこと言える立場ではないのだけど、本当に仕事してんのかって感じで、なんか将棋盤に向かってウンウンと唸ってた。たぶん、一日中、詰将棋をしていたんだと思う。とんでもないクズだ。で、この人の話が長くて面倒くさくてうっかり雑談になってしまうと本当にウンザリすることこの上ないのだけど、今日はあえてこの先輩のところに飛び込んでみる。全てはこのUSBメモリの中に存在する動画への想いを爆発させるため。
いつもながら、訳のわからない部分から雑談が展開していき、先輩の話は尖閣諸島問題だとか、日米安保とかそういう話になってくる。別に僕もそういうった話題は嫌いではないのだけど、この先輩はとにかく日本を批判するスタンスが強く、とてもじゃないが雑談でするレベルのものじゃないシリアスな会話をガンガンしてくる。どうも、雑談というよりはいかに相手を言い負かすかみたいなものに日々の生活の中にも重きをおいているようで、とにかく疲れる。下手に刺激すると何がスイッチになるか分からないしで、とにかく大変なので普段は近寄らないのだけど、今日は話は別だ。
だから日本はダメなんだ、そもそも諸外国では……。などと先輩の日本批判も1時間が経過し、ウンザリという思いが強まったその時だった。同時に同時に早く帰って動画を見たいという想いも最高潮に達した。今だ、今家に帰って動画を見れば、途方もない興奮度で見ることができるに違いない。とっとと切り上げて家に帰る。
「だから日本という国は労働者に対する思いやりが」
なんていう先輩の持論がピークに達したので
「そもそも労働してないじゃないっすか、先輩、詰将棋してるだけじゃないっすか」
と口を挟み、先輩が怒り狂って「出て行け!」となったので出ていき、帰り支度を整えて電車に飛び乗り、早く家に早く家にとブツブツ呟きながら動画に思いを馳せる。本当に辛い時間だった。死ぬほど辛い時間だった。この動画に対する興奮度を高めるためとはいえ、日本がどうだこうだと日本に対する批判を聴く時間はヘビーで、死ぬほど疲れる時間だった。しかし、それからももう解放された。あとは家に帰って、早朝、出勤前に検索してダウンロードしておいた「massage Japanese」で検索したマッサージエロ動画を見るだけだ。死ぬほど大好きなマッサージ動画だ、たぶん腰とか浮いちゃうくらいにぶっこ抜けるに違いない。うおー、早く帰って見たい、とにかく見たいのだ。
家に帰るやいなやパソコンの前に転がるようにして座り、USBメモリをぶっ刺して動画を再生する。いよいよ始まる。今日一日我慢していた動画を見ることができる。ガリガリとハードディスクが唸りを上げて再生の準備を整える。その間に右手はマウスの状態で器用に左手だけでズボンとパンツを脱ぎ、全てを臨戦態勢、迎撃体制にする。さあ、くる、退屈な仕事の時間も、死ぬほど苦痛な先輩の日本批判の時間も耐えた、今日一日の全てを捧げたマッサージ動画がついにくる。二回は抜く!ついに再生が始まり、フルスクリーンで画面に表示された!
画面には、なぜか帽子を斜めにかぶったわんぱくそうな黒人男性が、ラップみたいな感じで英語を喋り始めた。何が起こり始めたのか全然わからなかったのだけど、落ち着いて聞いてみると、英語はよくわからないのだけど何やら日本を批判している様子。良く分からない。最初は、そういう導入部分で次第にエロい展開になってくのかと思ったのだけど、終始、黒人男性が、時折中指とか立てながら日本批判をしているだけ。ついには日本の旗とか破り始めた。
何が起こったのか全然わからないけど、とりあえず、早朝に検索した動画サイトに行ってみて、自分の履歴を見てみると、朝に検索した文字が出てきた。確かに日本物のマッサージ動画を求めて「message japanese」で検索したはずなのに、よく見ると
「message japanese」(メッセージ、ジャパニーズ)
だああ、メッセージじゃねえ!これはあれか、この黒人青年の日本に対するメッセージか。僕は今日一日、こんなクソ動画をメモリに忍ばせて祈っていたのか。
黒人が三回目の中指立て見せた瞬間、さすがに動画は見る側の問題で、どんな動画でもこっちの受け止め方で抜けるはずだって持論だったけど、さすがにこれでは抜けないと思いつつ、そっと動画を閉じた。というか、アメリカとそういうポルノ大国のエロ動画サイトは日本語検索に対応して欲しい。
「ホント、アメリカという国は日本の動画愛好家に対する思いやりが」
先輩のように呟きながら、アメリカ批判動画をあげてやろうかと思った。
5/2 ガールズトーク
今日はちょっと言わせて欲しいんですけど、あの、巷で女どもがこぞってのたまってるガールズトークってあるじゃないですか。なんか女同士で恋の話とかしちゃったりしてね、やーん、ちょうイケメン、やーん、ちょうカワイイー、とか言っちゃったりするガールズトーク、あれ、頭おかしいんですか。
あのですね、僕だってそんなに攻撃的に物申したいわけではなく、本当はここにもっと穏やかな、それこそ隣の爺さんが死んだっぽい、ひっそりと息を引き取ったっぽい、告別式は明日の3時から、とかそういう話を書きたいですよ。そういうので盛り上がりたいですよ。けれどもね、さすがの僕もこれにはちょっと攻撃的にならざるを得ない、そんな状況が出来上がりつつあるんです。
調べてみますと、ガールズトークってのは、そこれこそガールズとトークを組み合わせた言葉で、セックスと依存症を組み合わせたセックス依存症って言葉とそんなに変わりないんですけど、意味としてはそのまま女どもが話をする様子を表すみたいなんですけど、これがもうとにかく女の酷さ、醜さを象徴していてすごい。
あのですね、よく女どもがやりがちなんですけど、ある行為に自分らでネーミングをしてその行為を正当化するじゃないですか。ネーミングすることでさも、それが世間一般に認められてる、みたいな風潮を無理矢理に既成事実化してしまうんですよね。
最近の代表例では「婚活」ですよ。これって、けっこう30歳っていう城壁が見えてきた女性なんかが狂ったようにお見合いパーティーだとかに参加する様を表現しているわけなんですけど、やっぱそのまま、「結婚を焦って活動している状態」と表現するのはよろしくないわけ。で、「婚活」なんていうちょっと良いイメージの言葉を選択しちゃう。
「アラフォー」とかもかっこいい感じで使ってますけど、オッサン、オバサンですからね。とにかくもう、言葉さえ変えればなんとかなるって思ってる事例が多すぎてもう我慢できない。しかも、そういうのって結構女性が主犯だったりするんですよね。
でまあ、こういう女性を非難する感じのこと書くと極めて高確率で「私女ですけどそんなことありません」とか「patoさんは女性を分かってない」とか「だからモテないんですよ」とか「気持ち悪いんで近づかないでもらえますか」とか、そういったメールが雨あられですよ。ホント、黙らっしゃいと言いたいし、クリトリスでも剥いてろ、と言いたい。
わざわざ私女ですけどって名乗るくらいなら、間違いを指摘するより、クリトリス剥いたんで吸ってくださいとか画像の一つでも添付してこいって話ですよ。僕だって自分が間違ってるのは重々承知しておりますので、そういったメールは一切不要です。
でまあ、ガールズトークの話に戻るんですけど、なんかさガールズトークとかいって少し高貴な一段上の会合みたいな雰囲気を醸し出しているじゃないですか。秘密の女同士の会話よ!みたいな、カワイイでしょ!みたいな、そんなしゃらくさい雰囲気をモンモンに醸し出してるでしょ、もう、あれないですわ。
いやいや、話してる内容って、「彼氏が私のこと愛してないかもしれない」「体が目当てだとしたら悲しいな、私ってそんな存在なのかな?」とか、ユーミンのラジオみたいな内容ならまだいいですよ。それ、一万歩譲ってガールズトークと認めよう。
けれども実際には女同士で寄り集まって、「ウンコが出ない、マジ便秘」だとか「下剤飲んですげえウンコ出した」だとか「ウンコがサクラダファミリア」とか、そんなんですよ。あのですね、これのどこがガールズトークですか。
じゃあ僕らが「あそこのピンサロは指名料ケチってフリーで入ると人の妬みや恨みなどのそういった醜い負の感情が渦巻き、やがてそれら淀みが具現化して人の形になったみたいなブスがでてくる」とかそんな会話をしてゲハゲハ笑っているのをボーイズトークっていうんですか。言わないでしょう。こういうのは単に下賎な会話って言うんですよ。
で、この問題の「ガールズトーク」なんですけど、先日、こんなことがあったんです。
僕は職場で思いっきり嫌われていて、まあ、一つ嫌われエピソードを披露しますけど、ウチの職場のメンツで色々と飲み会やったり遊びに行ったり、時にはイベントを企画したりと、そういった仕事以外でエンジョイするサークルみたいなものがあるんですね。
でまあ、僕も何を血迷ったかそのサークルに入っておりまして、たぶん、サークル→セックスみたいな短絡的な考えだったんでしょうけど、とにかくサークルに入っていたんです。すごいアクティブなサークルで、一緒に牧場とか行ったりね、バーベキューとかしたりとかしてましたよ。僕抜きで。
なぜだかお誘いのメールみたいなのが全然回ってこなくて、毎月3千円くらいの会費だけを吸い上げられる圧倒的搾取システムが出来上がっていたんですけど、別に今更そんなことは気にしない。嫌われてるんじゃ、とかオドオドして悩むステージにはいない。とうにそんなステージは突き抜けている。
で、全然イベントごとには誘われないんですけど、お誘い以外の皆に回覧する連絡事項みたいなメールだけは見ることができるんですね。これってかなり残酷で、連絡事項メールはくるのにお誘いメールはこない、意図的に排除してるってことですからね。
でまあ、その連絡事項が主に、田中さんがサークルに加盟しました、みなさん社内で見かけたら声をかけてあげましょう、みたいなメールがほとんどなんですけど、ある日、一人の女の子が爆弾を投じたんです。
わたし、もうサークルやめます。
なにか悲しいことでもあったんでしょうね。おそらく男絡みのエトセトラじゃないでしょうか。こういった仲良し系サークルってのは参加者同士の距離が近い分、どうしてもそういった色恋沙汰がつきまとってくるものです。それらが上手く流れるのなら結構なことなんでしょうが、逆に上手くいかないとそりゃあ大変ですよ。距離が近いだけに憎しみに変わるのも早い。
でまあ、彼女の脱退宣言を受けてにわかにサークル内が騒がしくなったんですよ。なにやらゴソゴソと話し合ってるサークルメンバーとか見るようになりましたし、回ってくる連絡メールもシリアスなものになっていったんです。
どうやら、サークルとしては皆で仲良くやってるのだからなるべく脱退者は出したくない。皆で仲良くやりましょうというスタンスらしく、全員協力してその女の子に、考え直すように説得をし始めたんです。説得ですよ、説得、セックスじゃないですよ。
もちろん、実際に対面しての話し合いによる慰留説得もあったでしょうし、メール上でも激しく彼女を引き止める多くの意見が交わされたのです。一気に彼女はサークル内のスターダムにのし上がり、話題の中心。それに気を良くしたのか知りませんが彼女はついに
「私がこんなに必要とされてるなんて…脱退するのやめます」
みたいなことを宣言して、この騒動は収束したのです。なんか豪腕小沢みてーな女だと思いつつも、僕は思いましたね、これだ、と。脱退宣言することによりサークル中の注目を集めた彼女、その作戦を利用すれば、会費だけを搾取されて誘われないという今の僕の状況を打破できるのではないか。そんな考えが浮かんだのです。
「サークルを脱退しようと思います」
僕はすぐにサークル全体にメールを送りました。多くは書かず、何か深刻な理由があって脱退する感じを醸し出してみました。これで皆から狂ったように引き留めメールが来る。なにせ皆で仲良くしたいんだからな、脱退者は出せない。そうすると、色々と誘わなかった自分たちが悪いのではないか、会費だけを吸い取っていた自分たちが悪、そう反省するはずです。下手したら2、3人の女はセックスしていいから脱退しないで、くらいは言い出すかもしれません。いやいや、さすがにセックスはないだろ、セックスは、説得だろ。いや、もしかしたらもしかしますぞ、セックスとはいかないまでもフェラくらいなら。いやいやいややそれは刺激が強すぎますぞ。
とか考えていたらメールがきましたよ。おやおや、お早い返信で、さっそく引き留め工作ですかな。焦っちゃって!おやおや、サークルのリーダーからのメールじゃないですか、リーダー直々に引き留めとは、なかなか焦らせてしまったみたいですな、メンゴメンゴ、ちょっとやりうぎちゃったかなとか思いつつ、届いたメールを見てみると、
「脱退の意思は固いと推察しました。脱退届けを受理します」
とか書いてありました。まあ、その程度には嫌われています。しかも受理されて脱退したのに会費は取られ続けてるからな。
でまあ、話をガールズトークに戻すんですけど、そんな嫌われている僕がホイホイっと職場の休憩室みたいな場所に入ってですね、一発コーラでも買ってやろうかと思って軽やかに引き戸をガラッとやったんですけどね、なにやら話し声が聞こえるんです。
「もう会えないんだ」
「ちょう悲しい」
この休憩所はタバコを吸う人が喫煙所としても使う関係で最近二重扉構造に作り替えられたんですけど、その一個目の扉を開けたら何やら女性たちの会話が漏れ聞こえてきたんです。二個目の扉はシースルーではないですから姿こそは見えませんが、声だけで判断できます。どうせ女どもがピーチクパーチク、惚れただの腫れただの、性器周辺に水疱ができただのそんな話をしているに決まってます。
このままベロンと性器の一つや二つブラブラさせて入っていって休憩室をパニックルームにすることができたらすごくダイナミックな人生を送れると思うんですけど、まあ、さすがにやれないので息を潜めて盗み聞きしていたんですけど
「そしたらすごい深刻な顔で話に来て」
「ずっと夜通し、沈黙しながら過ごしたの」
「悲しかった」
みたいな会話が漏れ聞こえてきたんです。前の会話の内容と併せて考えると、どうせ男と別れた話で、夜通し泣いたみたいな会話をしているに決まってます。それもそんなエピソードをオチなしで語っているに決まってます。
ホント、いつも思うんですけど、なんで女の話ってオチがないんですかね。なんか職場の女がブラジャーを買いに行った時の話を横で聞いていたことがあるんですけど、かなりエキサイティングに下着屋までの道程のことを語っていたので、かなりすげえオチが、ブラと間違えて店員のおっぱいを毟り取って帰ってきたレベルのオチが待っているとドキドキしながら聞いていたんですけど、なんてことはない、「それでね、上下で1万2千円だったの」みたいな値段報告でエピソード終了ですよ。何食って育ったらこんなエピソードを得意げに語れるように育つんですか。その秘訣を教えて欲しい。
とにかく、女の話にオチなんて存在しないですから、クリトリスでも剥いてろよと思いつつ、これ以上盗み聞きしていても何も面白くないと判断、ガラッとドアを開けて休憩室に入ったんです。
そしたらまあ、4人ほどのブスが円座のように座っていましてね、思ったとおり、僕が入った瞬間にピタッと会話が止まったんですよ。ホント、なんなんですかね、自分たちの会話に付加価値があるとでも思ってるんですかね。それで、ポッと出の関係ないやつに会話を聞かれるわけにはいかん、くらい思ってるんですかね。あいにく、そんな価値はないですよ。
僕もわざとらしく鼻歌とか歌いながら自販機でコーラ買うんですけど、その間中、四人の女どもずっと押し黙ってるんですよね。さすがにそれって不自然じゃないですか、とても不自然じゃないですか。全員がアクメ自転車が行く、みたいな状態になってるって変でしょ。このクリトリスどもね、こうやってわざと不自然さを出してるんですよ。
例えば、本当に聞かれたくない話をしていて、そこに僕が突然入ってきたなら、極めてナチュラルに別の話題にシフトしていくのが最も自然で、入ってきた人間にも何も勘ぐられないでしょう。けれどもね、このクリトリスどもは勘ぐって欲しいんですよ。
つまり、僕が入ってくることで不自然に会話を止めて沈黙する。あなたには聞かれたくない価値ある会話をさっきまでしてました、そう僕に対して、そして仲間のクリトリスに対してアッピールしてるんですよ。このクソども、さも付加価値の高い会話をしていたかのように演出してやがるんですよ。
僕だってこんなこと書きたかないですよ、本当は隣の爺さんが死んだっぽい、ひっそりと息を引き取ったっぽい、告別式は明日の3時から、急性心不全!とかそういう話で盛り上がりたいですよ、けれどもね、これだけは書かなきゃいけない。絶対に書かなきゃいけない。
この4つのクリがそんなに僕に勘ぐって欲しいなら、こちらだって勘ぐってあげるのが礼儀じゃないですか。まるでクンニするかのようにネットリと絡んでいくしかないじゃないですか。
「なになに?なにか面白い話してたの?」
って速水もこみちみたいな爽やか笑顔でクリに話しかけたんですよ。多分小学生の時の僕が夏休みに渓流で溺れそうになってる女の子を助けたらこんな爽やかな笑顔で「気をつけな、このへんは流れが速い」って言うだろうなって感じの爽やか笑顔で言ったんです。
そしたら、その、性器の上のほうの突起物のやつら、ガン無視ですよ、本気で無視。視線すらあわせやがらねえ。さすがに僕も爽やか笑顔の持って行き場がなくて「なになに?」ってすごいしつこく聞くしかない状態に陥ったんですけど、そしたら、性器の上のほうの突起物の一人が言うわけですよ。
「ガールズトークですから」
もうこれには僕も怒りの頂点ですよ。もう自販機のコーラを売り切れるまで連続購入してもおかしくないレベルの怒りですよ。あれでしょ、ガールズトークって言えば免罪符になると思ってやがる。
どうせ話してる内容なんて、彼氏と別れた、悲しい夜を過ごした、みたいなことでしょ。そんなクソみたいなエピソードを面白おかしく語るでもなく、オチを付けるでもなく、淡々と語るんでしょ。喋る方も聞く方も拷問ですよ、拷問。僕だったら例えばサークルの連中に構って欲しくて脱退表明したらあっさり受理された話とか面白おかしく話をする自信がありますよ。
さすがに、これ以上ネットリ絡んでいると、色々なハラスメントと言われかねないので、また鼻歌を伴って休憩室から出たんですけど、ドアを閉めた瞬間、まるで止めていた呼吸を再開するかのようにクリトリスどもが話し始める声が聞こえたんです。
「なにあいつ?」
「まじキモい」
「あれだれ?」
「わたし息止めてた」
別にこのへんはどうでもいい。本当に息止めてたんかい、みたいなことはどうでもいい。問題はさっきの、ガールズトークと称してさも付加価値があるような会話に仕立てあげた話の続きだ。どうせ予想通り彼氏と別れて辛いとかそんな話に決まってる。もしそんなつまらない話だったら、今ここに書いたこの日記をそのまま職場の機関紙に寄稿してやる!と怒りにブルブル震えながら聞き耳を立てていると、
「でもさ、やっぱ別れって辛らいよね。元気だしなよ」
と子分格のクリトリスがエピソードを披露していた親分格のクリトリスを励まし始めました。やはり、別れか、どうせ彼氏だろう、予想通りだな、よーし、機関紙に思いっきり書いてやるわ、と意気込んでいると
「ホント、こんな急にお別れになるなんて。仲良かったんだよ。それが急に死んじゃうなんて、隣のお爺ちゃん」
と泣き出すボス格。なんか仲良かった隣の家のお爺ちゃんが死んじゃって通夜とかなんか大変だったみたいです。まさかそうくるとは、やるじゃねえか。ガールズトーク、なかなかやるじゃねえか。
とりあえず、このエピソードをパクって皆の関心を惹きつけるトークを展開し、もう一度サークルに入れてもらおう。
5/1 思い出の優しさ
賢明なNumeri読者の皆さんならご存知だと思いますけど、僕の趣味は風俗サイトをくまなく閲覧することです。皆さんは例えば就職の面接などのシーンで「趣味は?」などと質問された場合、まあ無難に「読書です」とか「音楽鑑賞です」と答えるでしょうが、そんな無難なことを答えているからいつまでもニートなのだと自覚するべきです。
僕は残念ながらそういったシーンで趣味を質問されたことが数えるほどしかないのですが、必ずそういった場面では嘘偽りのない趣味である「ヒゲ抜き」と「風俗サイト閲覧」を正直に答えています。面接のシーンで自分を偽ることに何の意味もありません。それはお互いに時間の無駄です。そしてなより、自分に対して失礼なのです。そういう人間であることは自分がよく知っていて、もう取り返しがつかないことなのですから正直に答えるべきなのです。
ここでまあ、趣味は風俗サイト巡りです!なんて書くと、僕に対して白馬の王子様的な幻想を描いている女性の方々、patoの総受けよ、ムッハー!とか仲間内で盛り上がって興奮なされている女性の方々とかが「ショック、私の王子様が風俗に通っていたなんて!」と衝撃を受け、リストカットした画像とかを添付して送ってこられたりするのですが、まあ落ち着いて聞いてください。ショックな気持ちはわかりますが落ち着いて聞いてください。王子様はどこにも逃げない。
あのですね、僕は金がないから食卓塩を舐めて暮らすような人間ですよ。二つの銀行口座に800円と500円しか入ってなくて、ATMで下ろせないから自分の口座から自分の口座に振込みをして1000円にして下ろすような男ですよ。そんな男がどうやって風俗に通えるというのですか。こっちがそのカラクリを教えて欲しいくらいです。
ここで「風俗通い」と「風俗サイト通い」には無限の隔たりがあることを説明させていただきます。こいうことかくと、「また始まった。そんな話はどうでもいいわ」って思われる読者のみなさんが多数おられることと思いますが、僕はその言葉に対して強烈に異を唱えたい。この世の中にどうでもいいことなんて絶対にない。いや、絶対ではないけど、とにかくこの世にどうでもいいことなんて女子大生がやっているブログを除いては存在しない。だから僕は「どうでもいい」なんて言葉は絶対に使いたくないんです。
本筋に戻しますと、風俗通いってのは読んで字の如く、風俗店に通って通って通い倒すことですが、まあ、だいたい1軒風俗店に行くとして一万五千円くらいかかる設定としましょうか。週2で行くとしたらだいたい月に12万円、年間にすると実に144万円、食卓塩が1万本以上買えてしまう天文学的金額になってしまいます。
その反面、なんと「風俗サイト通い」だとネット環境さえ整えば無料です。おまけにかなりの高確率でオッパイとか見ることができます。何もおっぱいごときで、中学生じゃあるまいし、とか思ってる男性は心の底から反省してください。そういったエロに対して初心を忘れることは愚かなことです。どんなにエロいことだって初心には敵わない。あの初めてエロ本を読んだ時の興奮には絶対に勝てないのです。だからいつだってエロに対してだけは初心を忘れてはいけないのです。
ですから、こうやってインターネットが発達した昨今、ポンっとエロ動画が見れる環境にあったとしても。あの日、拾ったエロ本でおっぱいを見た興奮を忘れてはいけない。ですからね、僕はエロ動画とか見てて「なんだよ、これクソだな」とか驕り昂っている自分に気付いたとき、あえて風俗サイトを見るようにしているんです。
そこにはおっぱいくらいしか見ることはできないんですけど、そのおっぱいだけで大興奮し、空気入れすぎたタイヤみたいになっていたあの日の自分自身を思い出し、今の恵まれた状況にある自分を再認識、驕ってはいけないと戒めるのです。
それにですね、こういう風俗サイトってそれはそれでかなり興奮するんですよ。18歳以上の方は適当に自分のお住まいの地域と「デリヘル」って単語で検索してもらえるとアホみたいにサイトが出てくると思うので、その中の一つにアクセスしてみてください。
で、その中でも「出勤表」とか「schedule」とか書かれている項目があると思います、アクセスしてください。これは、出勤している女の子が一覧になって出てくるんですが、まあ、この時点でセクシーな格好をしている画像とか出てくることもありますが、適当に好みな感じの女の子を見繕ってアクセスしてみてください。
たいていは数枚の写真が置いてあって、顔や乳首が出てることは多くはありませんが、下着姿やセクシーポーズなど、なかなか際どいセクシー画像を簡単に見ることができるんです。まあ、こんな画像なんてのは今やネット上に、それこそ女子大生がやってる「今日、渋谷でケーキ食べたワラ」みたいな何がワラなのか全然わからないどうでもいいブログみたいにありふれていて、わざわざ風俗サイト見る必要なんてないんですけど、この行為の真骨頂はそんな部分にありません。
例えば、まあ浅はかなアナタたちのことですから、エロ動画見るっていったら大抵は売れてるAV女優ものなんか見るでしょ。誰でもいいんですけど仮に成瀬心美さんとしましょうか。まあ、見ますよね。最初の部分ん飛ばして一気に絡みに飛んだりしますよね。でもね、どんなに見ようとも、あなたのパソコンのCPUが煙を吐くほど繰り返し成瀬さんの動画を見ようとも、一生、成瀬さんには手が届かないんですよ。それを分かって見てますか?
僕もサイン会で本物の成瀬さんに会いしましたけど、まあ、それはそれは別世界の生き物でしたわ。もう完全に造りが違う。この世の中に何が起ころうとも成瀬さんは僕らのものにはならない、そう実感しましたね。エロ画像にしてもグラビアにしてもそうなんですが、どうこをどうしても手に入れることはない。そんなものを眺めて僕らはオナニーしているんですよ。
言うなれば、決して手に入れることのないトランペットをウィンドウガラス越しに眺めている黒人の少年みたいなものです。どんなに頑張ってもガラスの向こうにはいけない。けれども眺めることをやめることもできない。黄金色に光り輝くトランペット。それでいいんですか。
ええ、僕だってわかってます。そりゃあわかってます。決して手に入れられない遠い存在でオナニーをする。それが興奮するんじゃねえか、それぐらい僕だってわかっています。けれどもね、それじゃあいつまでも決して叶わぬ夢を追い求め続けているドリーマーと変わらない。悲しき行為なんですよ。
その点、風俗サイトは違いますよ。そりゃあAV女優やグラビアよりは質は落ちますよ。それどころかオロローンみたいな女性も決して少なくない。けれどもね、そこには「手に入る」という計り知れない高付加価値が存在するんです。やってみたら分かると思いますが、これはなかなかスパイシーなもんですよ。
まず、60分1万五千円くらい出せば確実に60分はこの画像の女性とエロスなことができる。そう念じながらオナニーしてご覧なさい。もともとオナニーなんてのは手に入らない対象を思い描いてすることが多いのですが、その気になれば手にれることができる対象でオナニーをする。これはすごいことですよ。いうなればリアル。生の息遣いすら聞こえかねない圧倒的なリアリティがそこにあるのです。
そういった意味で、いつものようにエロ動画やなんやかんやでオナニーをするのは良いですが、それはトランペットであると認識し、もっと身近なアルトリコーダー的風俗サイトの画像でオナニーしてはいかがでしょうか、そんなお話なのですが、実はこれには大きな落とし穴があるんです。
それが、じつは手に入らないかもしれない
ということ。いや、何言ってるのか全然分からなくて狂ったかと思われるかもしれないですが、とにかく、手に入る対象であるはずの風俗サイトのエロスな女の子ですが、実は手に入らない可能性もあるのです。
かねてから風俗をこよなく愛するツウの方ですとか、僕の言いつけを守っていくつかの風俗サイトを巡ってみた方ならピンと来るとおもうのですが、例えば、鶯谷のデッドボールという店の「G・馬場」さん、この方を頼んだらおそらくG・馬場さん、画像の本人がやってくるんです。間違いなくやってくるんです。
けれども、色々とサイトを見てみると、明らかにモデル級だとか、どう考えても美人すぎる女の子ばかりを集結させている店に出会うはずです。おお、すげえカワイイ女ばかりじゃん、どの娘にしようかな、男なら絶対にそうなるはずです。今ここを読んでる女性の彼氏、「ウチの彼氏はそんなことないもん」といくらあなたが信じようが、彼氏は絶対にそう思います。
でもね、冷静に考えてください。例えば、自分が高校生だったりした時、クラスにどれだけカワイイ娘がいたか思い出してみてください。クラスという単位で長いこと暮らしていると、その子の内面のかわいさで良く見えたりとか、見慣れてきてかわいく見えるとか様々な要素が絡んでくるのですが、そういった要素を一切排除して、単純に見た目だけでカワイイ、美人、と思う人数を数えてみてください。
おそらく、アイドル養成学校とかに行ってない限り、クラスに一人、もしくは二人いれば良いほうじゃないかと思います。そんなことはない、うちには沢山可愛い娘がいた、そう思う方はもう一度卒業アルバムなどを見てみてください。実はそうでもないことに愕然とするはずです。
テレビとか映画ばかり見ていると麻痺してくるんですけど、カワイイ娘ってのは希少で、そんなにホイホイ存在するもんじゃないんです。そういった事実を踏まえてもう一度そのズラリと並んだカワイイ娘のラインナップを見てください。場末の風俗店にここまでカワイイ、美人ばかりが揃うのか、冷静に考えたら分かりますよね。
だいたい、こういった信じられないラインナップの店の場合は大きく2つに分けることができまして、1つは、そもそもそんな娘自体が存在しない、という場合です。つまり、どこかバレない程度のマニアックな知名度のモデルの写真ですとか、どこかで拾った異常に可愛い素人女性の画像なんかをあたかも在籍している女の子のように見せかけて掲載している場合がほとんどです。
これは本当に許せないことで、僕なんかは別に眺めて興奮するくらいのことしかしないので偽物でも別に損害はなく、追い求めていたリアリティがなくなるくらいの損害で済むのですが、お金を払ってこの風俗店から女の子を呼んだ人は大変ですよ。なにせそんな画像のようなカワイイ女の子は存在しないのですから。やってくるのは画像とは似ても似つかない女の子。
しかも、普通レベルの女の子が来るならばまだ許せるんですけど、どうやらそうやって偽画像で釣らないと客がつかない女の子ですから、そのレベルは推して知るべし。モデル級の知的美女っぽい画像に惹かれて呼んでみたら、ミシュランのタイヤマンみてえなのが来やがるんですよ。現代社会にこんな悪夢があるのかって感じですよ。
そしてもう一つが、強烈な画像修正という手法です。これは、前者の明らかに別人のモデルを使う手法より悪徳度は低いと言え、そもそもこういった風俗業界においては画像修正ってのは日常茶飯事で、例えば肌のシミを消したり、風俗業界に多い刺青を消したり、そう考えると目元にモザイク入れたりするのも画像修正になりますから、ある程度は仕方がないと思うんです。
けれどもですね、中にはCGの域に達しているというか、画像修正しすぎてみんな同じ顔になっているというか、明らかに気味が悪いというか、というか、これだったら別の画像を持ってきたほうがいくらか良心的、というレベルの画像処理が施されていることが多いんです。
「韓国 デリヘル」で検索をしてみてください。なぜか韓国系デリヘルは異常なレベルで画像修正を行う傾向にあり、明らかに同じ顔が並びます。いっときますけど、こんなの来ないですから。ホント、画像処理技術の高さに感嘆するだけです。
もちろん、これは高い金を出して呼ぶ人も許せないでしょうし、リアリティを追求してオナニー的側面風俗サイトを利用している僕らだって許すことはできません。僕が神々だったら何度となくイカヅチを落とすくらいには怒りを感じています。
けれどもね、なんだろうか、こうやってバリバリに画像修正して同じ顔になっている韓国デリヘルの女の子たちを見ているとね、こうなんていうか、確かに許せない気持ちがあるんだけど、それと同時にこう、懐かしいというか胸が締め付けられるというか、切ない気持ちが湧き上がってくるんですね。
それが一つのサイトだけならいいんですけど、本当に韓国デリヘルは画像修正てんこ盛りでどこも同じフェイスで出ていますから、どこに行っても胸が張り裂ける。ああ、もう、なんなのよ、この気持ち、まさか…あいつのこと…なんて少女漫画の主人公みたいな気持ちになるんですよ。
で、なんで韓国デリヘルのサイト見ててこんなセンチメンタルな気持ちになるのか考えてみたんですけど、これね、実は初恋に似てるんですよ。いやいやいや、別に初恋の女の子がこの韓国デリヘルみたいなCG顔してるってわけじゃなくてですね、その美化のされ方というか、頭の中でのあり方が非常に似ているんですよ。
人間の記憶なんて結構曖昧なものでして、おまけに思い出はいつだって優しいっていうじゃないですか。どう考えても初恋の女の子って僕の頭の中で美化されてて、この韓国デリヘルの女の子みたいになってんですよ。そりゃ切ない気持ちにもなります。
これはね、大変な発見ですよ。韓国デリヘルは初恋の女の子なんです。どちらも非現実的でリアリティがなく、手に入らない存在、という部分も大変似通っています。これがどれだけ大切なことかというと、どんな画像であっても韓国デリヘル並みに画像修正をぶちかませば、初恋の女の子になる。あの日、あの甘酸っぱい想いを手に入れることができるのです。手に入るから風俗サイトを眺めていて、そこで手に入らない初恋の女の子に出会う。つくづく人間とは業の深い生き物です。
ということで、今回、僕は僕の中にある優しい思い出である初恋の女の子を手に入れるため、慣れない画像修正技術を駆使してみました。基本的に、韓国デリヘルサイトを眺めて行った僕が感じるに、
1.肌をきれいにする
普通に肌の汚れや小さなシワなどを修正することはありますが、韓国デリヘルは異常なレベル。ツルツルにしすぎて化粧板みたいになっていますが、そこまでやって初めて初恋の女性になるのです。
2.色を白くする
別に色が白いことが美人の条件だとは思いませんが、韓国デリヘルはとにかく白い。本気で白い。
3.目をくっきりさせる
これが一番、全ての画像が同じ顔になっている原因だと思うのですが、とにかく目を大きく、くっきりにしています。人の顔の中で目の印象はかなり強いですから、ここの作業が同じ工程なので同じになるのです。
4.顔を小顔に、顎をシュッとさせる
小顔にして顎のラインをシュッとさせる、これでかなり美人顔になります。
5.くびれをつくる
そして、ボンキュボンのボディラインづくり。ここまでやってはじめて完成です。
とまあ、ここまでやれば完璧までとは言わなくてもかなり韓国デリヘルに近づくはずです。それによって、思い出の中のあの娘を手に入れることができるのです。早速、適当な画像を使って初恋の女の子を作ってみましょおう。
さあ、早速はじめてみましょう!
1.肌をきれいにする
まず、肌が汚いですね。肌をきれいにする修正をかけましょう。これは手作業でコツコツとやっていきましょう。
2.色を白くする
すごい面倒な作業なんで途中でやめましたけど、まあまあ綺麗になりました。けれども韓国デリヘルの能面みたいな顔には程遠い。ここはこの肌を白くする工程で思いっきり白くしましょう。
なんか死人みたいな顔の色になりましたが、まあ、いいです。次の工程に移ります。
3.目をくっきりさせる
ここがかなりキモになると思いますので、思いっきり目を大きくします。とくにこの画像のお方は目が細めですので、かなり大きくします。
あ、いいですね。かなり目が大きくなりました。
4.顔を小顔に、顎をシュッとさせる
ここも大切なポイントです。画像のお方はかなり顎の部分に大きいですので、思いっきり削り、顔を小顔にしていきます。
あ、いいですね。かなり小顔に、おまけにアゴのラインも鋭利な刃物のようにシャープです。いよいよ最終工程、仕上げです!
5.くびれをつくる
ボンキュボンのナイスバディは永遠の憧れ、思いっきりくびれをつくっていってみましょう。
さあ、これで完成です。これで韓国デリヘル的画像の完成、きっと心の中の初恋のあの子が、ってどうでもいいわ。僕の初恋の娘はこんなんじゃない。
でもまあ、結構上手にできたので、今度から面接のシーンなどで「趣味は?」と質問されたら「画像修正です」と答えよう。そして初恋の優し思い出の話を続けるんだ。
3/31 3月のライオン
さて、というわけで3月は毎日更新を行ってきたわけなのですが、事情を知らない方は、いきなり何をトチ狂ったことかと思われたかもしれません。なにせ2010年とか1年間の間に2本しか日記を書かなかったのに、この3月だけで31本ですよ、31本。
なぜこのような事態に陥ったかは理由がありまして、話は昨年の暮れ、12月24日クリスマスイブに遡ります。世間がクリスマスイブで浮かれている中、お台場のど真ん中でNumeriトークライブ「ヌメリナイト3-戦場のヌメリークリスマス-」が開催されたのですが、その打ち上げの席で事件は起こりました。
打ち上げと言っても、スタッフだけでああだこうだ、セックスとか乱交とかしたりするわけではなく、参加者さんも交えて、トークライブの延長ステージみたいな感覚でやったわけなのですが、その席で、突然僕が翌日に控えた、競馬界の一年の総決算、有馬記念(GI)の予想を始めちゃったんですね。
で、僕の予想は昨年の覇者、ヴィクトワールピサ、この馬はドバイWCっていうすごいレースも勝ってますし絶対の確信があったんですね。で、あまりの確信に
「有馬記念でヴィクトワールピサが勝たなかったら3月、毎日更新します」
って宣言しちゃったんですよ。でまあ、レースの結果なんですけど、まあ、ここにレースの動画とか貼ってお見せするまでもなく、こうして毎日更新していたんですから、おのずと結果は分かるでしょう。
とにかく、久々に毎日更新という苦行に手を出し、しかも年度末で色々と大変な時期で死にそうになりましたが、途中、かなり怪しい日記が結構あることも否めませんし、日数が後れた日もありましたが、なんとか毎日更新できて肩の荷が下りた気持ちがする次第です。っていうか、勢いで変な宣言するもんじゃないよ。
ということで、今日、日本時間で3月31日深夜2時、日付的には4月1日ですね、とにかく深夜にUAE(アラブ首長国連邦)ドバイにて競馬界の世界最高峰が戦うドバイワールドカップ(AW、2000m)が開催されます。
日本からは、スマートファルコン、トランセンド、エイシンフラッシュの三頭が参戦。絶対にこの3頭のどれかが昨年のヴィクトワールピサに引き続きこの世界最高峰を制してくれると確信しています。確信。ということで
「3月31日深夜のドバイワールドカップで日本の3頭のどれかが勝たなかったら、5月毎日更新します」
と、宣言して3月の連続毎日更新を終わります。がんばれ日本。
<追記>
ドバイワールドカップ日本勢完敗
3/30 モンスターハンター3G
熟女出会い喫茶である。
前回の日記で、出会い喫茶なるものを利用し、モンスターハンター状態になったことを赤裸々に綴った。あのような世界が存在し、多くの男性が討伐クエストに挑戦していることを考えるといささかカルチャーショックであったが、やはり何事も経験である。大きく視野が広がったように感じる。
自分の見聞が広がるってのは結構良いもので、どんどん充実してくるというか、頭の中でパーツが組み合わさっていく感覚というか、江戸時代の人だって諸国漫遊の旅に出かけて見聞を広めたわけだし、物を知りたいって感情は人類共通のものなんだなあと実感する。
というわけで、世の皆さんにも興味を持ったら何でも挑戦し、是非とも見聞と見識を広めて頂きたいと思い、是非是非なんにでもチャレンジ、レッツチャレンジ、これは僕の中学の時の担任も言っていたけどとにかくチャレンジ、全くその通りだとは思うのですが世の中には決して手を出してはいけない暗黒の領域というものが存在するのです。
好奇心猫をも殺すなんて言葉が御座いまして、猫には9個の命がありなかなか死なないと考えられていたのですが、そんな9個の命の猫すら死んでしまう、好奇心はそれだけ危険極まりないものなんです。何にでも興味を持って首を突っ込むのは良くないよという戒めですね。
けれどもね、全然本筋とは関係ないですけど、ホントこういうのってイライラすると思いませんか。大人たちは僕らに何にでもチャレンジしろと教えてきました。その反面、何にでも首を突っ込むと痛い目を見るぞと戒めます。大人たちは僕らに大きな夢を見ろと教えてきました。けれども、壮大な夢物語を語っていると、いつまでも夢みたいなこと言ってるな現実を見ろ、現実を、といいます。いったいどっちなんだと、僕はその辺のところを主張したいですね。
とにかく、前回の出会い喫茶体験は、非常に僕の好奇心を満足させて、あそこで店内一番の待機ブスにひと狩りいけたことは、僕の後の人生に必ずやプラスになると思いますし、あの出会い喫茶という空間を体感できたこと、これ自体も必ず役立つ場面があるはずなんです。
けれどもね、本当に、体験しないほうが良かった、興味を持たないほうが良かった。そう感じずにはいられないヤツってのが世の中にはあるんですよ。それが今日お話しする「熟女出会い喫茶」なんですけど、まあ、これがとにかくひどい。本当にひどい。とにかく地獄のような体験レポートになっておりますので、じっくりとお読みください。
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「熟女出会い喫茶」
世の中には「いちご」と「大福」を組み合わせた「いちご大福」なるものが存在する。全く相容れなさそうな二つのものを組み合わせることにより予想外のハーモニーを生み出すことを狙った物だ。「いちご大福」は初めこそは、いやーなしだろーと誰もが驚いたものだが、今やすっかり市民権を獲得したようにすら思える。
「女子高生探偵」「女子高生刑事」「女子高生ローション風呂」最後のはちょっとわけわからないですが、世の中にはありえない組み合わせが多数存在するのです。けれどもね、これだけは理解できない。本当に理解できない。
「熟女」「出会い」「喫茶」
出会いと喫茶の組み合わせはいいですよ。それは前回やりましたから、非常にファニーでエキサイティングなことになるのは分かりきっています。けれどもね、そこに「熟女」をかけあわせる意味が本当に分からない。マジで分からない。
賢明な読者の皆さんならご存知だと思いますが、僕は生粋のロリータコンプレックス、いわゆるロリコンで、駅前ロータリーとかロータリークラブを全部駅前ロリータとかロリータクラブの読み間違えて勝手に泉ピン子勃ち、みたいな状態になるほどで、しかも、本当に幼い女性ではなく、実年齢は20代前半なのに見た目は10代にしか見えない、みたいな女の子が大の好物なわけなんですよ。
そんなロリコンな僕にとってですね、「熟女」ってベニヤ板くらいどうでもいい存在なんですよ。いや、別にベニヤ板はそんなに悪気はないでしょうけど、とにかく本気でどうでもいい、むしろ憎しみの対象、くらいに思っているわけなんですよ。
そんな憎き「熟女」と「出会い喫茶」を組み合わせて誰が得をしますか。誰が喜ぶって言うんですか。誰も喜ばない。いや、熟女好きは喜びますね、ごめんなさい。謹んでお詫び申し上げます。本当に熟女好きな方の心を踏みにじる行為を犯してしまい大変反省しております。申し訳ありません。
とにかく熟女好きのバカはほっといて、そんな誰も得しない途方もない場所に行くことなんてありえないと思うのだけど、ありえないと思うものほど経験しておくべきじゃないですか。自分がありえない感じるものほど、これから先ずっと経験することがないであろうものですよ。今ここで避けて通るべきではない、経験するべきなのだ。少なくともあのときの僕はそう思っていました。そう、あの時は。
思い立って、熟女出会い喫茶がある某駅に降り立ちます。ターミナル駅であるこの駅は乗降客も多く、駅前もかなり繁盛している。その賑やかな通りの裏の裏、もうこんなとことろ地元の人しか立ち寄らないんじゃないだろうかという場所に件の「熟女出会い喫茶」が存在していた。
怪しげでド派手な立て看板に、熟女!出会い!ロマンス!みたいな昭和っぽいフォント文字が踊る。その上には数個の豆電球がつけられており、チカチカと誘蛾灯のように瞬いていた。世の中にこんな怪しいいでたちの店舗ってあるだろうか。そう思わざるを得ない入り口に少しばかり物怖じしながら階段を上る。
階段に敷き詰められた赤い絨毯がなんとなく熟女っぽさを演出しているように感じる。よくよく見ると結構黒ずんだ汚れが目立つ。なんとなく熟女っぽい。
汚いガラス戸を抜けると、そこにはいかにも怪しげな、どう考えても悪いことしてるとしか思えない店員さんがお出迎え。しかも笑顔のカケラもなく、なぜかムスッとしている。まるでこちらの存在が見えてないみたいで、「いらっしゃいませ」とかも言ってくれない。一瞬、シックセンスかと思ったのだけど、そんなことはなく
「すいません、はじめてんですけど」
と僕から話しかけると、すごい面倒くさそうに説明を始めてくれた。入会金は、前回行った通常の出会い喫茶よりやや安い。しかし利用料金というか1時間の滞在料金というか、これが驚くほど高い。なんでこんなに高いのか不思議で仕方なかったのだけど、これは後に理由が分かることになる。とにかく、こちらの熟女出会い喫茶もまあまあの金が必要だということだ。
また、とんでもなくチープな会員証を作らされ、偽名で大丈夫、とか言われたので、偽名でいいなら作る必要ねえじゃんと思いつつ、「山田ハヤブサ」という訳の分からない名前で登録しておいた。お金を払っていよいよ利用開始と思いきや、これまたチープなアンケート用紙みたいなものを渡された。
どうやら男性側もプロフィールを書く必要があるらしく、ついでに女子の好みまで書かされた。正直に女性の好みのところにロリコンですって書こうかと思ったんだけど、熟女喫茶にきてロリコン好きってマクドナルドに行ってモスチキンくださいって言うようなもんですから思い留まり、適当に「艶やかな女性が好きです」とか訳の分からんこと書いてた。
さて、いよいよ利用開始となるのだけど、驚いたことにいきなり個室に通された。二人がけのソファーの置かれた個室にいきなりイン。前回みたいにマジックルームゾーンみたいな場所で動物園みたいなフィーリングで熟女鑑賞するかと思っていたのにこれには拍子抜け。いきなり個室、これが利用料金が高い理由だった。
これが熟女喫茶ならではのシステムなのか、この店のシステムなのかはよくわからないけれども、どうもどっかに待機している女性が先ほどの僕のプロフィールカードを閲覧し、興味を持ったら個室まで訪ねてくるらしい。完全に前回とは逆。選ぶ立場から選ばれる立場になったわけだ。
そうかあ、熟女くらいのババアになるとグイグイと男のほうに押しよっていけるからこんなシステムのほうがいいのかもな、って思っているとコンコン、と部屋のドアがノックされた。正直、こういう女性に選ばれる状況、で選ばれたことがないので、まさか本当に訪ねて来られるとは思わなかった。
「どうぞ」
ちょっと声震えてたからね。緊張してちょっと声震えてたんですけど、ここに来るのって熟女でしょ、どうせ母ちゃんみたいなのが入ってきて、ブルンブルン、ギャー、オエーみたいなのを今これを読んでいる皆さんも想像してるんでしょ。僕だってそう思ってましたよ、そしたらアンタ。
「こんにちは」
入ってきたのは確かに熟女ですよ。僕より年上でしょうかね。絶対的に熟女なんですけど、結構、品が良いというか、良い感じで年を重ねていらっしゃるというか、なんかけっこう「いいじゃないか」って感じの熟女なんです。
「隣よろしいかしら」
とか、オイ、小僧ども!すげえぞ、こんな品の良い美人な女性がだな、隣に座ってくるわけだよ。小せえソファーしかねえからすごい密着度、部屋もソファー2つしかないもんだからいい匂いがプンプンするわけだよ。正直ちょっとビンラディンっすわ。
「今日はどんな目的ですか?」
上品に聞かれちゃってね、僕も訳が分からず
「ちょっとした社会勉強で」
とか訳の分からないこと言っちゃって、そっからですよ。もう会話がない。全然会話がない。熟女はニコニコ笑ってるだけで、僕も釣られてニコニコ、ただそれだけ、35歳野武士と品の良い熟女がニコニコ笑いあうシュールで意味が分からない光景がずっとですよ。
どうにもこうにも、後から分かったんですが、こういう場所って別にお話しするとか建前上はそうなんでしょうけど、そういう場所ではなくて、単純に言えば金の交渉、それだけですよ。つまり、いくら払うからエロいことをしよう。そんな商取引みたいな空間で、誰も世間話なんかしにきてない。男は欲望を満たしに来てるし女は金を稼ぎにきている、そんなアメリカのビジネス界みたいな世界が展開されているんです。
そんなドライな世界で、「社会勉強で」ってぶっさいくな35歳が言ってたら熟女も困りますよ。はやく金額の提示しろや、くらいは思ってるかもしれません。でもまあ、僕そんなこと全然分かりませんから、ただただニコニコしてると
「あの、交代しましょうか?」
美熟女が自ら交代を申し出ます。たぶん、埒が明かないと思ったんでしょうね。交代というかチェンジを告げると、熟女は部屋を出て行き、また別の熟女が訪ねてくる、そんなシステムになっているみたいです。
「すいません、じゃあそれで」
そう告げると美熟女はニッコリと笑って部屋を後にした。最後まで上品で艶やかな人だった。
コンコン
ソファーで一息ついていると、またすぐドアをノックされた。おいおい、入れ食いじゃねえか。もしかして、僕って熟女界ではムチャクチャモテるんじゃねえか。
「どうぞ」
入ってきたのは、これまた悪くはない熟女。先ほどの方より少し若いでしょうか。見た目はかわいらしい感じであまり年齢を感じさせない。ただ、彼女はすごい単刀直入で、ソファーにも座らずに
「目的は?」
みたいないきなり商談開始ですよ。はえーよ、心の準備ができていない。
「いや、あの、その」
僕がマゴマゴしていると、
「あ、そ、チェンジね」
と、勝手に決め付けて出て行きました。一陣の風みたいな人だった。
しかし、どうにもこうにもレベルが高い。ロリコンの僕から見てもそんなに熟女って感じじゃない極めて許容範囲、むしろかなりいい感じの女性が立て続けに来室。これは結構穴場かもしれませんぜ、とか思っていると
コンコン
またドアをノックですよ。またどうせ美熟女っすよ。もうわかった。熟女出会い喫茶には美熟女しかいない。かなりの収穫時期だってことは分かった。ホント、僕が熟女好きだったら死ぬほどの天国だぜ、と思いながら、もう手馴れたもので
「どうぞ」
と入室を促し、はいはい、どうせまた美熟女なんでしょって感じで見ていると、ヌッって感じでとんでもねえババアが入ってきました。ジャン!って頭の中で効果音が鳴って、ペイント弾探しちゃったもん。
見た感じはデブとかそういうのじゃなくて、なんていうか、樽。樽っぽいとか、樽みたいとかじゃなくて樽。で金髪で、なんか化粧塗りすぎてどっかの部族が成人を祝う度胸試しで滝壺に飲まれるときみたいな顔になってやがる。服装も、なんか鯖みたいな模様の服で、もう実態がよく分かんないですけど、明らかに僕の親世代みたいな年齢のババアですよ。
「カエラで~す!」
とか、樽がクネクネ動きながら言うわけですよ。人差し指立てて言うわけですよ。僕ね、別に木村カエラさんのことそんな好きでもないですけど、なんかこいつがカエラって名乗るのはすごい腹立たしい。許せない何かを感じる。
「おじゃましますわねん」
とかキングボンビー見たいなこと言いつつ、誰も許可してないのにボワンと僕の隣に座ってきましてね、その反動で僕ちょっと浮いたからね。
「あの、チェ」
僕もよっぽどのことなので、というかこれ、あきらかにG級クエストなんで、チェンジしようと思うのですが、ババア、神様は何も禁止なんかしていないと言わんばかりの勢いでマシンガントークしてんの。
おまけに、何目的とか皆が形式的に尋ねて来たのに対してそういうのをすべて超越していきなり
「今日は1もらえるかしら?(1万円くれということらしい)」
とか言い出すんです。あのね、僕ね、中学の時だったかな、すっごい反抗期で、何かにつけて干渉してくる母親にすごい腹を立てていた時期がありましてね、悪ぶっていたんでしょうね、ついつい荒ぶった口調で母親に「クソババア!」って言っちゃったんですけど、今思うとね、母さんすごい悲しかったんだろうなって思うんです。それだけ「クソババア」って強烈な言葉ですから。だからむやみやたらに使わないでおこう、そう誓ったんです。そう、あの日からね。
でもね、そんな禁を破ってでもクソババア!クソババア!クソババア!と3回くらいは言わずにはいられないんですけど、ババアはもう猪突猛進。カチャカチャと僕のズボンのベルトを外そうとしているんです。
いやいやいやいやいやいやいや、おかしいでしょ。ここはいくら個室だっていってもそういう場所ではないじゃないですか。このクソババアとどうこうってことは絶対にないですけど、何かエロスなことをするにしてもここでは交渉に留めて、あとは外に連れ出してホテルなりなんなり、それが一般的なはずなんです。なのにいきなりこの場で求めてくるババアに心底焦りつつ
「すいません、勘弁してください」
とババアの手の合間を縫ってベルトを締めようとするのだけど、ババアも必死にベルトを外そうとする。なんだこれ。
「一万円は高い?じゃあ7千円?5千円?」
ものすごい勢いで値段が下がっていくのを感じつつ、その値段を言うダミ声が競り市みたいで面白くてクスッって笑ってしまうたんですけど、そしたらババアそれが受け入れのサインだと勘違いしたのかさらに発奮。絶対に女の力じゃないみたいな万力みたいな力で僕の手をこじあけてくるんですよ。もう逃げるにはこれしかない、本気で半泣きになっていた僕は
「すいません、僕ホモなんです。だから期待にこたえられません」
と、言ってみると、ババアの手がピタリと止まりました。効いてる効いてる。こりゃ一気に畳み掛けるしかない、決心した僕はもっとホモっぽく振舞おうと
「ホント、ジャニーズの、キスマイアスとか好きなんです!かわいくって」
グループ名間違ってますからね。キスマイアスじゃあ、俺の尻の穴にキスをしろですからね、まあいいや、ホモっぽい。僕の決死の懇願およびカミングアウトにやっと諦めてくれたのか、ババアは
「ホモがなんでこんなとこにきてんだよ!」
と至極全うなことを、吐き捨てるように、というか本当に唾を吐きながら言って部屋を出て行ってくれました。
またクエストに失敗したわけなんですが、やはり、こんな目にあうくらいなら何事も経験と首を突っ込むべきではないのです。夢を持ちすぎてもいけないし、現実を見過ぎてもいけない。好奇心を持ちすぎてもいけないし、何にも無関心すぎてもいけない。何事もほどほどが一番なのでしょうか。そう、ロリコン過ぎてもいけないし、熟女好きすぎてもいけない。ほどほどに、やはり見た目はロリだけど実年齢が結構そこそこ、それこそが最強なのです。
3/29 モンスターハンターP2G
人はこんなにも出会いを求めているのかと驚くことがある。一時期は出会い系サイト隆盛であり、最近では携帯ゲームサイトやSNSなど、多くのネットサービスが出会いの場として活用されているらしい。よくよく考えるとどんな形態のサービスであり、最終的には出会いに行き着いているような気がする。
実は、日本人のネット利用ってのはかなり特殊で、そういったコミュニケーションやゲーム、エンターテイメントに利用される割合が異常に高いらしい。いわゆる余暇での利用が突出しているようだ。僕は別に諸外国のことはよく知らないけど、それでもやはり異常なレベルでそういったエンタメ的要素の利用が多いらしい。
それらの多くが出会いに行き着いていると仮定すると、インターネット利用の大半が出会いに行き着くということになり、一体日本人はどんな民族なんだ、そんなに出会いたいのか、と感じてしまっても不思議ではない。
昔はテレクラから始まり、出会い系サイト、SNSと様々に変遷してきたのだけれども、そこにおそらく亜流なんだろうけど新しい出会いの場として「出会い喫茶」なるものが注目を集めているらしい。確かに、繁華街などでそういった類の怪しげな看板を目にする機会が多くなったが、一体全体出会い喫茶とはなんなのだろうか。まさか喫茶店で出会っているわけでもあるまいに。
調べてみると、どうやら出会い喫茶ってのはまず、中がネットカフェや漫画喫茶みたいになっているものだと考えて良いようだ。パソコンがあったり、漫画や雑誌が置いてあったり、ドリンクバーがあったり、これらを全て無料で楽しめるようになっている。
しかしながら、無料なのは女性だけで、男性は違う。そもそも、男性はこのくつろぎスペースには入れない。仕切りで区切られているかマジックミラーで区切られた隣の空間にお金を払って入り、そこで女性を吟味し、場合によってはお金を払って女の子とトークする権利を購入する。
すると今度はトーク部屋と呼ばれる小部屋に行くことになり、そこでお目当ての女性とトーク、一緒にご飯いくだとか、交渉して成立すれば連れ出し、となる。その際に連れ出し料を店に払うこともあるし、もちろん、女の子にも交渉で決まった額のお金を払う必要がある。なんともまあ、男には金がかかって仕方がないシステムだ。
こうした形態の出会い喫茶は大都市を中心に展開されているが、もちろん、純粋に出会ってお茶をなんて展開もあるのかもしれないが、売春、買春の温床となっていたり、犯罪に巻き込まれたりするケースもあるため問題視されている。
ということで、今回は出会い喫茶を体感すべく、某所にて営業中の出会い喫茶に行ってみました。その体験レポートをあますことなくどうぞ!
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繁華街の片隅に煌びやかな看板が踊る。「出会い喫茶」「素人女性多数!」の文字が踊る。何の素人なのかがさっぱり理解できないが、とにかく何かワクワク感を引き起こしてくれる宣伝文句だ。
細い階段を抜けると扉があり、小さなカウンターみたいな場所に爽やかそうな青年が立っていた。こういったアンダーグラウンドなサービスなので、すげえ強面のオッサンが店番をしているかとも思ったがどうやらそうではないらしい。少し安心する。
「すいません、初めてなんですけど。もうほんと出会いとか全然なくて!」
不自然でないように出会いを求めて来た感をプンプンに匂わせてみたのだけど、どうやら不要だったみたいで
「はい、大丈夫ですよ、落ち着いてください」
と優しくたしなめられた。いいのか、こんな爽やかイケメンがこんなに優しくていいのか。とにかく落ち着いた僕は優しくお店のシステムを説明される。
なんでも、初回には入会金というものが必要らしい。これがまた、決して安くはない金額で、家族4人でちょっとしたファミレスで食事できちゃだろう金額だった。それとは別に、時間制で利用料金が必要らしい。まあ、これは普通のネットカフェなんかと同じくらいの値段設定だった。
「なるほど、それだけ払えばいいんですね」
もう、ちょっと半身乗り出してお金を払おうとすると
「ただし、女の子とトークをされる場合にはトーク室使用料がかかります。女の子と外出される場合はさらに追加で使用料がかかります」
トーク料とか連れ出し料とは言わずにあくまでもトーク室使用料と言い張る店員に何か法律的な制約があるのではと考えてしまった。とにかく、異様に金がかかるので本当は入りたくないのだけどここで引き下がっては一生出会い喫茶を知ることはないでしょう。もう奮発して入会金と使用料を支払いましたよ。
何やら色々と用紙に記入させられ、ちょっとした手続きが終わると、とても数千円払って入会した会の会員証とは思えないチープなペラッペラの会員証をもらいましてね、これなら簡単に偽造できるなあとか思いつつ、店のシステムを再度説明されます。
基本的に店内は男性のエリアと女性のエリアに分かれていて、男性のエリアもフリードリンクということでドリンクバーが備え付けられているとのこと。気に入った女の子がいてトークをしたくなったら店員にお申し付けください、とのこと。すげえ爽やかに、まるでテニスサークルみたいに説明された。
そして、いよいよ男性エリアに突入。と、その前に爽やか店員がピタリと立ち止まってですね。
「申し訳ございません。今の時間帯は女の子が少ないんです。もう少し遅い時間なら女の子も増えますんで」
みたいなことを申し訳なさそうに言うんですよ。別にいいですけど、普通はそういうのってお金を払う前に言うもんじゃないっすかね。
爽やか店員に案内されるがままに男性エリアに入ると、そこには異様な光景が。まず暗い。麻薬の密売でもしてるのかってレベルで暗い。けれども明るい。何が明るいかって言うとガラスの向こうがけっこう明るい。どうやらガラスの向こうの明るいスペースが女性エリアになってるっぽいのだけど、その光がこちらに差し込んできていて暗いといえども中の様子は伺える。
まず、男性エリア内を見回すと、そんなには広くない暗いスペース、壁のほとんどがグルリとガラスになっていて女性エリアが見えるようになっている。一部分は壁になっていて、そこにドリンクバーがあって、機械がウィーンとかいってるのがやけにシュールだった。闇の中には先客だろうか、男性が3人いることが人影から伺える。
暗いために姿こそは見えないが、その身に纏うオーラが禍々しすぎて、一目で歴戦の猛者であることが理解できる。もう立ち居振る舞いからして只者じゃないというか、狂っているというか、とにかくすごい。そんな猛者がウロチョロと狭い空間をうろついている光景はモンスターハンターの集会所みたいだった。
さて、ガラスの向こうに目をやると、明るい向こうのスペースはよくありがちなネットカフェというかサロンというか、非常に健全な雰囲気のする空間になっている。雑誌類に、ネイルっぽいものまで充実。男性エリアなんてドリンクバーがコーラとお茶とリアルゴールドしかないのに、向こうは良く分からん紅茶みたいなものまで用意してあるような感じだった。ものすごい快適な空間なんだろうとうなるほどだ。
その中に、これが多いのか少ないのか良く分からないけれども、3人の女性がポツリポツリと離れて座っていて、佐々木希さんが表紙の雑誌などを読んでいる。このガラスはやはりマジックミラーになっているようで、向こうからは全く見えないらしい。それならば視線を気にせず大胆に女のこのことを見られると、マジマジと観察してみたのだけど、雑誌を読んでいるため全然顔が見えない。
しかし、そうやって女の子の顔が見えなくても大丈夫。男性エリアの入り口の部分にはコルクボードみたいなものが置いてあって、なんとそこには女の子のプロフィールカードが掲示してある。それを見ることで女の子のことは丸分かりなのだ。
新しい女の子のが来店すると、店員の手によってこのボードにその子のカードが貼られる。それをワラワラと男どもが見にくるんだけど、その光景が実にモンスターハンターで、クエストを見に来るハンターたちみたいでちょっと笑ってしまった。
さて、大体のシステムは理解できたので、もう一度落ち着いて女性エリアおよびプロフィールボードを観察してみると、一人増えて四人となった女性がまあ、いずれもブス。とにかくブス。まあブス。おごそかにブス。
あのね、僕は決してそういう判定は厳しくないと思いますよ。むしろ結構甘いほうで、かなり許容できるとは思うのですが、それでもこの四人、漫画になったら単行本30巻くらいまでは続くレベルのブス。こいつら四人が同じ学年にいたら絶対に四天王って言われるレベルのブス。とにかくブス。バカにしてんのか。
こういう状態が常なのかどうなのか僕には分からないけれども、こうなってくると膠着状態に陥るらしく、さすがにトークをするのも金が必要ですから、ブスに金は払いたくない、動くに動けない状態になってくるんですよ。
集会所の外にはモンスターがウヨウヨいてまさにモンスターハンターなんですけど、そんな中にあってやっぱり猛者中の猛者っているもので、ブスばっかりでトークも連れ出しもできない、その状況に何を思ったのかシルクハットみたいな帽子をかぶった鼻息の荒いハンターがしゃがんみはじめたんです。何をしてるのかなーって思ったらどうやら外の世界のモンスターのパンツを覗いている様子。
こいつ天才だぜ。マジックミラーになってるからいくら覗いても向こうからは見えない。さらにはいくらブスでもミニスカートと中身だけ見てたら興奮する。こいつはすげえ、絶対にハンターランクが高いに違いない。僕も隣に陣取って覗き見ようと思ったのですが、完全にタイミングを逸してしまい、ただ呆然と立ち尽くすだけでした。
そうこうしていると、徐々に男性の入店が増えてきます。やはりピーク時間ってのがあるんでしょうね。それに合わせるように女の子も結構な頻度で来店してくるんです。それもけっこう普通レベルの子がモリモリとやってきては、常連ぽいこなれたハンターにトークに誘われ、店の外へと出て行きます。
しばらく見ていると、明らかに他の女とはレベルの違う巻き髪の美しい女性がご来店。店員の手によってクエストボードにプロフィールが貼られると、その間、1秒ですよ、4人のハンターが鬼神の如き素早さで店員に殺到、もう剥ぎ取りの取り合いですよ。弱肉強食のハンター同士の戦いがそこにあるのです。
さて、ピーク時間も終わったのか男性客も落ち着き、女性客も落ち着いてきました。そこで僕はふと気がついたのですが、ここにいる女性はまあ、大体は何かしらトークに呼ばれるんですよ。どうやら、食事だけとかカラオケだけとか、それこそ肉体関係とかまで、女性によって設定される限度が違いますから、トークに誘い出すことでその限度を見極める必要があるわけですよ。
ですから、完全にここに暇つぶしに来てる女性なんかは外に出ないんで連れ出されない女性ってのは結構いるんですけど、それでもトークに呼ばれないってことはない。けれどもね、どうも僕が見てる限り、最初にいたブス四人、全くトークに呼ばれてない。あと、全然関係ないけど、パンツ覗いてたあの天才、まだパンツ覗いてた。
とにかく、こちらハンター側は早い者勝ち弱肉強食なんですけど、向こうのモンスター側もそれはそれで戦いの世界で、トークにすら呼ばれず、ずっと雑誌を読んでるだけの存在ってすげえ物悲しいんですよ。まるで職場の飲み会における僕みたいな存在で、すげえ泣けてくるんですよ。
僕ね、このブス四天王の中から指名してトークするわ。
向こうの光の中にいたのはモンスター、けれどもそれは紛れもなく僕と同じ姿だった。とにかく、その悲しきモンスターの中から、特に一番きっついブスを選択し、店員を呼び寄せて指名する。
「あのモンスターの討伐クエストでお願いします」
とは言わなかったけど、そんなニュアンスのことを言ったら、明らかに男性ゾーンの空気が変わった。マジか、あいついくんか、そんな難易度の高いクエスト大丈夫か、お前新米ハンターだろ、と他のハンターたちの心の声が聞こえてくるようだった。というか、店員も信じられないみたいで、「本当にそのクエストでよろしいのですか?」とは言わなかったけど、3回くらい女の子の名前を確認していた。
そんなこんなで、お金を払いトーク部屋に移動。他のハンターたちに心の声で
「 ひと狩りいってくるわ」
と挨拶をし男性エリアを後にする。トーク部屋に入ると、まだモンスターは到着してないらしく、中は無人だった。小さな丸テーブルに丸い椅子、どちらも非常に足が長いのが印象的だった。部屋の中は2畳ほどでパステルカラーに彩られている。怪しさのかけらも感じられない爽やかな内装だ。
「おまたせしました、しおりさんです」
そういって、ブスが入ってくる。ジャン!という音楽が僕の頭の中に響き渡る。ペイント弾、ペイント弾って探したのだけど持ってなかった。
まあ、入ってきたしおりさんを見ると、僕もまあ人のことをどうこう言える容姿じゃないので完全に開き直って言わせてもらいますけど、まあ、ブス、とにかくブス。どういう造型師が作ったのかを問い詰めたいレベルのブス。ブスという表現の上を行く言葉が必要なレベルの言語を超えたブス。
で、そのブスが言いよるわけですよ。
「何目的!?」
ちょっと胸元隠しながら言うわけですよ。乳首を透けて見られてるみたいなとんでもない警戒心っすよ。ほんと、この時ほどの僕が温厚で良かったって思った瞬間はないですね。普通の人なら椅子持って暴れてる。
「いや、普通にトークがしたくて」
僕が飄々と答えると、よほど自分がトークに呼ばれたというよりは召還されたことが不思議なのか、すごい警戒して椅子に座ろうともしない。一定の距離を保ちながら、ハアハアと荒い息遣い。いいから座れ。
で、よくよく見てみると、先ほどのマジックミラーでは分からなかったのだけど、こいつがけっこうなデブ。僕もまあ、人のこととやかく言えるような体重じゃないですから、完全に開き直って言わせてもらいますけど、脇のたぶついた肉がすごい。部位破壊狙いたいくらいすごい。
「あの…座ったほうが…」
僕も部位破壊なんか狙ってる場合じゃないんでそれとなく座るように促すんですが、もう何を警戒してるのか分からないんですけど、絶対に近寄ろうとしない。どんだけトークに呼ばれたことないんだ。
「今日はどんな目的で……」
もう埒が明かないんで一応、マニュアルにのっとって彼女が何目的なのかを聞き出します。すると彼女はビクッとなった後に
「私目的とかないんで!ここにブラックジャック読みに来てるだけなんで」
と、熱烈拒否。たぶん、自分が出会い目的で呼ばれるはずがない、こいつはきっと連れ出して私を殺す気なんだわとか思ったに違いありません。そんなところで規定のトークタイム終了。トークタイムって言うけど、あまりまともにトークしてない。
クエストが失敗に終わり、また男性ゾーンに戻ると、あいつ、あのブスとの交渉に失敗しやがったみたいな目で見られちゃいましてね。ベテランハンターどもから一目置かれる存在に成り上がったのです。
出会い喫茶で、途方もないブスをハンティングしに行って熱烈拒否される。なんか出会いに行って出会いもなく、心の傷を増やすだけ。もしかしたら皆はこんな心の傷を埋めるために、貪欲に出会いを、ネットを使って次々と出会いを求めるのかもしれません。
「ありがとうございました」
失意のまま店を出る僕に、物凄い爽やかな笑顔で挨拶をするイケメン店員さん。あんたに出会えたのが一番の収穫だったよ。新米ハンターは集会所を後にした。
3/28 四畳半の戦場
こうして長いことワールドワイドウェブ上で日記を書いていますと、やはり自分的にも好きな日記、嫌いな日記というのが出てきます。そりゃそうです、もう10年半もやってるんですから。時間による堆積ってのは結構重要なもので、どんなクズでゲスなことでも10年もやればそれなりに立派に見えてくるものです。
例えば、毎日ヒゲを剃らずに毛抜きで抜いて正露丸のビンか何かに集めている人がいたとしましょう。その行為自体は別になんてことはない、むしろお見合いの席で「ヒゲを抜いて集めてます」なんて言おうものなら、一発で向こうからお断りの電話が入るレベルです。
ただ、その行為も10年も続ければ立派なもので、一つの偉業に昇格します。貯めたヒゲの量も相当なものになっているでしょうし、なんか見てるだけで痒くなってくるような独特の禍々しきオーラを放っていることでしょう。自分で垂れ込めばローカル局の情報番組くらいなら取材に来るかもしれません。
このように、その行為自体は大したことがない、いやむしろクズの部類に入る行為であっても、それを10年続ければそれなりのものに変わるものなのです。何かと移り変わりが激しくスピードとイノベーションが求められる現代社会、その中においても変わらないことっていうのはある程度大切なのかもしれません。
で、好きな日記っていう話に戻るんですけど、そうやって10年もやってるとやはり自分的にも好きな日記って出てきますし、閲覧した方でもこの日記はいいね、とか思ってくれる人もいると思うんですよ。過去の日記を取り上げて、これ面白い、ってtwitterとかで紹介してくれたりね。
ただ、時間の壁ってのは確実にあって、何年も前に書いた日記って今の僕から見ても僕が書いた日記じゃないし、完全に他人が書いた日記なんですよね。へーこんな日記もあるんだ、ってすごい他人の目線で見ていたりする。そうすると、好きにな日記って意味合いも違ってきて、当初は書いた自分として好きな日記だったのだけど、完全に閲覧者の目線で好きな日記を選ぶようになっている。
もう一つの意味での時間の壁っていうものも存在して、これは長期連載の漫画なんかによく起こる現象なんだけど、長い長い連載期間の間に社会情勢がめっきり変わってしまうという点。それが最も分かりやすいバロメーターが携帯電話だ。
例えば、10年前ならまだしも20年前には携帯電話なんてのは今ほど普及していなかった。あったとしても通信兵みたいなとんでもないものだった。それが今や、誰もが持ってる必須アイテムにまで昇華し、社会生活を一変させる存在にまでなった。
長期連載の漫画はそのへんの部分に頭を悩ませていて、連載当初は携帯電話なんてありえなかったのに、なぜか漫画内ではそんなに時間が経過している設定ではないのに突如として携帯電話が登場したり、逆に一貫して携帯電話を登場させず、すごく時代から置いていかれた状態になっている作品も存在する。
長く続けることはそれなりに意味があることなのだけど、この時間の壁だけは非常に深い問題になる。特に漫画や書籍なんかは、発行年数とかコミックスの巻数などから書かれた年代がある程度は推測できるのだけど、インターネットの文章は往々にして書かれた年代が分かりにくい。結果、この時間の壁がモロに露出して、こいつ何言ってんだ、みたいな状態になることが多い。
例えば、最も分かりやすい例を挙げてみると、僕が書いた日記なんだろうけど、閲覧者として非常に好きな日記があって、それが「四畳半の戦場」という日記なのだけど、過去に書いた日記だけあってそんなに長くないのでここに全文を転載してみる。
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四畳半の戦場
へへ、やっぱり血には抗えないもんだな。またこの戦場に舞い戻ってきちまったよ。
今を遡ることおよそ2ヶ月前の4月、テレビとビデオという戦友を同時に失った俺はエロビデオから引退した。血で血を洗うエロビ闘争から一歩身を引き、悠々自適の隠居生活、そうなるはずだった。
けれどもな、一度染まっちまった血ってのはなかなか元にゃ戻らねぇ。俺の中を脈々と流れるエロビソルジャーの血が、ピンク色の血が、平穏な日常を許しちゃくれないのさ。
泣き叫ぶ妻子を置いて俺はまた戦場に舞い戻った。レンタルビデオショップのエロビデオコーナーという名の戦場。広さたった四畳半ほどの小さな戦場。甘えも妥協も命取りでしかないこの世界に舞い戻ってきたんだ。
俺の装備は心もとない。相変わらずテレビも、ましてやビデオもありゃしねぇ。けれどもな、戦場でそんな泣き言を言うヤツなんていやしねぇ。ココじゃあ装備よりも魂だ。それに、今は便利な世の中になったな、俺にはDVDってやつがある。これだけありゃあいくらでも立派に戦ってみせらあ。
くくく、やはりココは戦場だぜ。どいつもこいつも焼け付くようなギラギラした目をしてやがる。ハズレのビデオを選ばないように、間違って最新作を借りてしまわないように、予算内に収まるように、どいつもこいつもナイフみたいな目をしてやがる。
四畳半ほどの広さの戦場に、俺を含めて3人もの男がいやがる。他のナヨナヨした男とは違う、牙を持った男達、それも信じられないくらい研ぎ澄まされてやがる。
俺には分かってるぜ。お前らも信念があってこの戦場にいるんだよな。男には自分の世界がある。例えるなら空を翔ける一筋の流れ星(ルパンザサード)。
おっと!いきなり死のカーテン(注1)か。相変わらず手加減もクソもありゃしねえ。ブランク明けのこの俺に情け容赦なく死のカーテン。へへ、鬼どもが棲む世界はこうでなくちゃな。
(注1 死のカーテン-エロビデオを選んでいる人の前に立ちふさがり、選ぶのを妨害する行為。エロビソルジャーとしてはローキック並みに基本)
俺の前に立ちふさがる今時風の若者。名前はリトルジョン。なかなか良い動きしてるじゃねえか。だがな、移動の際に左肩が開く癖はいただけない。それじゃあ死のカーテンの意味がないぜ。おっと、ついつい先輩風吹かしちまった。ここじゃあ全員敵だったな。敵対心も忘れて忠告とは、俺も年取ったもんだぜ。いやいや、ブランクのせいかな。
おっと、こちらのオタク風のお兄さん(サンダース)はゾーンディフェンス(注2)か。この動きを見ると、俺は戦場に帰ってきたんだなあって思うよ。
(注2 ゾーンディフェンス-目ぼしい作品をキープしまくり他の人が借りられなくする手法。ガッチリキープした作品群から吟味し、最終的に借りる作品を決める。堅実派ソルジャーが好んで使う戦略)
この世界は何も変わっちゃいねえ。いつまで経っても戦場は戦場だ。今日が復帰戦だって甘ったれた気分も吹き飛んじまった。さあて、俺も極上のエロDVDでも借り漁るか。見てろ、リトルジョン、サンダース、これがプロのエロビソルジャーのエロビチョイスだ!
ブランクもものともせず借りまくる。いや、駆りまくる。そう、コレだよコレ。俺が求めていたものはコレだ。平穏な日常なんてクソ喰らえ、男と男のプライドを賭した戦い、生きてるってこういうことなんだ。
血を沸騰させながらエロDVDをキープしていく。その様を見て格の違いってヤツを悟ったのか、リトルジョンはスゴスゴと退散した。妥協して選んだのだろう、数本のエロビデオを大事そうに抱え退避した。戦場に背を向けた男、リトルジョン。なあに、まだ若いんだ、いくらでもやり直せるさ。
さて、そろそろ俺の方もサンダースに引導を渡して仕上げにかからなきゃな。おや?さっき戦場に背を向け、数本のエロビデオを持ってカウンターに行ったはずのリトルジョンが戻ってきやがった。一度戦場に背を向けた男が戻ってくる、これは只事じゃないぜ。
ふと棚の隙間からカウンターを覗いてみる。一体リトルジョンの身に何が起こったのか。ヤツを戦場に舞い戻らせたものは何なのか。塹壕から覗き込むように確認した。
バ、バカな!カウンターの店員がカワイイ婦女子に代わってやがる!
おかしい。さっきまでは屈強な憲兵みたいな店員だったはず。確かにそうだ、店に入った時に確認したはず。確かに憲兵だった。それが、今やカワイイ婦女子に。これだから戦場ってヤツは恐ろしい、何が起こるか分かったもんじゃねえ。
男店員だと思ってエロビを持っていったらカワイイ女に代わっていた。それでリトルジョンは血相変えて戻ってきたってわけか。
確かに恐ろしい。ビデオ屋の女性店員は地雷原みたいなもんだ。うっかり足を踏み入れたらとんでもないことになる。できれば避けて通りたいものだ。
でもな、戦場において「地雷原だから通れない」は通用しねえ。そこが地雷原だろうがなんだろうが先に進むのみ。俺たちエロビソルジャーは不器用だからな、それしかできねえんだ。
「このままじゃ、いつまで経っても行けない。よし、勇気を出して行ってみよう!」(リトルジョンの心の声)
「まちな」(俺の心の声)
「え・・・!」(リトルジョンの心の声)
「あたら若い命を散らすでない。お前はまだ若いんだ。俺が行く」(俺の心の声)
「そ、そんな、だって俺・・・アンタが選ぶのを邪魔したり・・・」(リトルジョンの心の声)
「なあに気にするな。昨日の敵は今日の友。一緒に戦ったらもう戦友さ」(俺の心の声)
「俺・・・俺・・・」(リトルジョンの心の声)
「女店員は俺がひきつける。その隙にオマエらは周り込んで男店員の方を突破するんだ、いけ!リトルジョン!サンダース!」(俺の心の声)
「隊長・・・!」(リトルジョンとサンダースの心の声)
うおおおおおおおおおお。塹壕を飛び出し、迫り来る砲弾をかいくぐって敵将の元に辿り着いた俺。早速、吟味したエロDVDを差し出す。「レイプ!レイプ!レイプ!」タイトルだけで10年くらい懲役になりそうなDVDを麗しき女店員に差し出す。
「会員証をお願いします」
「なにをやってるんだ。リトルジョン、サンダース。早く、俺がひきつけてる間に周りこめ!」(俺の心の声)
会員証を受け取り、バーコードを読み取る女店員。その隙にリトルジョンとサンダースが塹壕を飛び出し、男店員の方に回りこむ。これでいい、これでいんんだ。そんな心配そうに見るな。老兵は死なず、ただ消え去るのみ。年老いたロートルが若い世代にしてやれることなど、これくらいのものだ。
「あれ・・・あれ・・・?」
戦場ってヤツは魔物が棲んでいる。何が起こるかわかりゃしねえ。女店員は必死でエロDVD「レイプ!レイプ!レイプ!」のバーコードを読み取ろうとするのだけど、全然読み取れない。
「田中さん、バーコードが・・・」
女店員は横の男店員に懇願するように話しかける。
「んあ?なんのソフトが読み取れねえの?ソフトによってたまにあるんだよなー」
「レイプ!レイプ!レイプ!です」
ごふっ!
やられちまった。やられちまったぜ。これじゃあ晒し者じゃねえか。婦女子の口から借りたエロDVDのタイトルを言われる。間違いなく致命傷じゃねえか。
「リトルジョン、サンダース、良く聞け。俺はもうダメだ。敵の次の砲撃が来る時、俺はもうこの世にいないだろう」(俺の心の声)
「隊長ーーー!」(リトルジョンとサンダースの心の声)
リトルジョンとサンダースは、俺の横の列に並びながら悲しげな目で、悔しげな眼差しで見ている。
「なあ、今度生まれ変わったら戦争のない世界で過ごせるのかな。俺達ソルジャーが気兼ねなくエロビデオを借りられ、誰と争うこともなく好きなエロビデオを借りられる、そんな世界が来るのかな・・・・ガクッ」(俺の心の声)
「隊長ーーー!」(リトルジョンとサンダースの心の声)
リトルジョンとサンダースをかばうため、若き次世代に自分の意思を受け継がせるため、戦死したはずだった。しかし次の瞬間、奇跡が起こった。
「あー、いいよ。こっちでやるから。貸して」
男店員は俺の「レイプ!レイプ!レイプ!」を女店員から受け取ると、自分のレジで処理し始めた。すんでの所で命拾いだ。そして、
「お待ちのお客様、こちらにどうぞー」
手が空いた女店員のその言葉は、他でもないリトルジョンとサンダースに向けられていた。
リトルジョン、サンダース、戦死。
エロビデオコーナーという名の四畳半の戦場。ココでは何が起こるのか分からない。少しでも気を抜けば即座に命を落とすことになるだろう。
あばよ、リトルジョン、サンダース。お前らの墓参り、ちゃんと行ってやるからな。いや、俺らに墓参りなんて似合わないな。お前らが命を落としたこの場所に、お前らの大好きなエロビデオ持って来てやるからな(1週間後に返却しに)。
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すさまじい日記だ。これ本当に僕が書いたのだろうか。自分で自分の日記を褒めるのは、職場の会議で自分の意見を押し通そうとする人が演じる茶番劇より滑稽なのだけど、もう僕は作成者より閲覧者の目線になってしまってるのであえて褒めようと思う。
まず、スリリング、読んでいてハラハラドキドキしてしまう。それでいて、あの特殊なビデオ屋のエロビデオコーナーという空間を見事に表現しきっている。緊張感の中にあってほんのりとした優しさを垣間見せる場面もあり、緊張と緩和のバランスが非常に良い。さらには、女性読者のことなど1ミリも念頭に置いていない姿勢が素晴らしく潔い。ついでに「四畳半の戦場」というタイトルも秀逸で、語感が良いだけでなく、実際にはエロビデオコーナーが4畳半の広さなんてことは絶対にないのだけど、それだけ狭く感じるほど濃密な空間であることを連想させる。さらには四畳半とは等身大の自分と同じ意味を持つ。僕だけの戦争、2004年時点でこのタイトルをつけることができるセンスには驚くばかりだ。
と、自画自賛してみたのですけど、結構気持ち良いもんだ。とにかくまあ、僕はこの日記が作成者としては別にそうでもないのだけど、閲覧者としての視点で見ると格段に好きだ。なんか趣があって、すごい深い心情風景が広がってくる。古き良き時代を思い起こさせるのだ。
けれども、これももう、完全に時代にマッチしていない。これを書いた当時は、まだyourfilehost維新が起こっておらず、インターネット上でエロい動画を見ることなんてありえなかった。エロサイトに挙げられた数秒のエロ動画を見るために、訳のわからない「FREE XXXX!」とかギラギラ光るバナーをクリックし、隠しリンクをクリックし、お礼は三行、そんな時代だった。
つまり、まともにエロい動画を見ようと思ったらビデオ屋に赴き、徹底的に吟味に吟味を重ねてエロビデオをチョイス、7泊8日レンタルにするために最新作は避けて旧作を狙う。何度となくパッケージに騙され、単品女優物から複数出演の企画物に移行していく、そんな時代背景だった。世の多くの男性がそういった修羅の刻を経験しているからこそ、この日記は共感を呼ぶし、心の中のいちばんウブな何かを刺激するに至っているのだ。
それが今やどうだ。ピッポッドン!たぶん、3回くらいクリックしたらいくらでもエロ動画に到達してしまう。抜くのに十分な画質長さ、それらが簡単に、それでいて無制限に手に入ってしまう。
さらには、DVDの台頭、販売用のセルDVDが安価になったこと、amazonなどのネット通販の隆盛、それらが追い打ちをかけて誰も金を出してレンタルしなくなったし、恥ずかしい思いをして借りなくても通販で手に入るようになってしまった。ちなみに、エロビデオ最盛期のVHSビデオなど標準で2、3万円くらいだったが、いまやエロDVDは2千円前後、完全に手が出る値段だ。
皆さんも思い出したかのようにお近くのエロビデオコーナーに行ってみるといい。もう既に存在しないか、あったとしても申し訳程度、本当に4畳半くらいの広さかもしれない。そして、ゴーストタウンのごとく人がおらず、陳列もまばら、分類もやる気がないものになっているはずだ。
あの時代を知っている人ならいいだろう。この「四畳半の戦場」を読んで、そうそう、あんときむっちゃ吟味したのにパッケージに騙されたなあなんて思ってくれるのだけど、今のエロ動画サイトしか知らないゆとり世代、円周率を3で習ったゆとり世代が読んだらどう思うだろうか。何言ってんだ、このオッサン、くらいのことは思うかもしれない。
そうなるとね、やはりゆとり世代にも優しいNumeriを自負してるわけですから、今の時代に即した「四畳半の戦場」を書かないといけないわけですよ。今のインターネットダウンロード時代に即した「四畳半の戦場」ということで、いってみましょう。
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四畳半の戦場
また俺は帰ってきちまった。この戦場に帰ってきちまったんだ。最初は耳を疑ったね、俺はもう退役の金時計ももらった。静かに余生を過ごす戦場とは無縁の老兵だ。何を間違ったのかその老兵にお呼びがかかった。なんてこたあない、戦局が厳しい、こんな老兵にまで声をかけなきゃいけないほど我が軍は追い詰められてるってことだ。
なんにしてもお呼びがかかるってのは嬉しいもんだ。いっちょ若造どもを揉んでやるか。俺は戦場へ行く準備を始めた。あそこは情も何も通用しねえ修羅の世界、エロビデオコーナーという地獄、鬼の棲む世界だ。それなりの準備をしなきゃ一瞬で命を奪われちまう。
戦闘服に身を包み、銃の手入れも怠らない。軍靴の靴紐を締めていざ戦場へ赴こうとした。しかし、若造は言う。
「今は戦場に出向く時代じゃないっすよ」
何を言ってるか意味がわからねえが、どうやら今は戦場で直接ドンパチなんて滅多にやらねえそうだ。なんでも家から手軽に戦場にアクセス、お気楽に戦闘を楽しめる、それが普通らしい。戦場でエロビデオを手に入れるなんて死語のようだ。
「じゃ、じゃあ、死のカーテン(注1)とかは使わねえのか?」
(注1 死のカーテン-エロビデオを選んでいる人の前に立ちふさがり、選ぶのを妨害する行為。エロビソルジャーとしてはローキック並みに基本)
俺の問いかけにゆとり世代だろう若い兵士は笑った。今は死のカーテンなんて誰も使わない、それどころかエロビソルジャーって言葉すら使わないらしい。エロビってなんすか?ゆとり兵士は馬鹿にしたように笑った。どうやら今はDVDもしくはファイルになってるらしい。
早速、ゆとり兵士の手引きでインターネットにアクセスし、今一番ホット言われるエロ動画サイト、xvideo.comにアクセスしてみる。なるほど、良い時代になったもんだ、こんなに手軽にエロ動画が手に入るとなると、感慨とかそういったものは皆無なんじゃねえか。そんな気持ちになってくる。
「とりあえず、俺はマッサージ物がみたいんだが?」
マッサージと偽ってエロスなことをして、リンパの流れがどうこう言ってエロスな部位を触る。そうこうしているうちに患者は良い気持ちになってきて、そんな動画がご所望だ。
「ここの検索窓に検索ワード入れて検索っス!」
ゆとり兵士はまるでゲームの攻略法を語るように軽やかに言った。戦場はこんなもんじゃねえ、もっと、気を抜いたら何もかも根こそぎ奪われるくらいの場所だ。この戦場には緊迫感が足りねえ。あの、エロビデオコーナーに蔓延していた、刺すか刺されるか、そんなリアリズムが微塵も感じられねえんだ。
「マッサージ リンパ」
検索窓に入れて検索する。結果がでやしねえ。
「ダメっすよ、xvideoは英語でしか検索できないっス!常識っすよ~↑」
嘆かわしいことに、鬼畜米英の言語を用いて検索しなければならないらしい。
「じゃあ、「中出し」とかどうやって検索するんだ?」
「中出しはCreampieっスよー↑」
釈然としないままCreampieで検索する。おおお、出るわ出るわ、数々のエロ動画、ってこれ全部外人じゃねえか!外人なんかで抜けるか!あいつらのセックスはスポーツ見てえじゃねえか!あいつらなんで絡みが終わったら変なBGM流すんだよ!とにかく外人で抜けるか!
「仕方ないっすよー、どうしても日本人みたいならJapaneseとかいれないとー↑」
「もういい!」
これは何か違うと思った。手軽なのはいいことなのだけど、何か釈然としない。そう、他者の存在だ。ここは戦場であって戦場ではない。なぜなら他者、敵が存在しないからだ。敵がいなくてなにが戦場か。
「もっと他に愛好家とか揃ってる場所はないのか?」
「あるっスよ~↑」
紹介されたのは、皆がオススメのエロ動画を紹介しあう掲示板だった。アクセスしてみるといるわいるわ、歴戦の猛者どもが掲示板にひしめき合い、我も我も動画を紹介し合う。
「この空気だよ、俺が求めていたものは」
試しに紹介されていたURLにアクセスしてみる。外人の女がオッフオッフ!言ってた。
「また外人じゃねえか!」
「仕方ないっすよー人の好みはそれぞれっす。外人が好きな人もいますから~↑」
「もうxvideoはいい!」
「じゃあ、ここっスね↑」
教えられたのは、どこかファイルを上げることができるアップローダーに有志がアップロードし、それを紹介し合う場所だった。俺にはこちらのほうがあの日のビデオコーナーの空気に似ていて性に合った。
「ここにアクセスすればいいのか?」
「そうっスねー↑」
最高に抜ける!大人気!なまめかしい腰使い!というファイルが紹介されていた。早速ダウンロードできるURLにアクセスしてみる。
「ダウンロードできねえけど?」
「人気があるから順番待ちっす、みんなダウンロードしようとしてるんすね。めげずに何度でもトライっすよ!」
これだよ、これ、俺が求めていたのはこれ。あのエロビデオコーナーでの死のカーテンや、人気作の取り合い、返却されました棚で待ち構える行為、そういった他人を出し抜くことに命をかけるあの雰囲気がこのアップローダーにはある。とにかく何度もアクセスしまくった。
「本当にこれダウンロードできるようになるのか?」
「なるっす!信じて頑張るっす!」
腱鞘炎になるかという勢いでクリックしまくった。そして戦うこと1時間、ついに
「ダウンロードが可能な状態になりました」
イエス!
俺は若造とハイタッチで喜び合った。ムリムリとダウンロードが進行する。アップロードした者の説明によると、なんでもエロい人妻が物凄い艶かしい腰使いで大ハッスルしているらしい。ジリジリと進むステータスバーに心躍らせながらダウンロード完了を待つ。
「ダウンロード完了しました!」
イエス!
再度ハイタッチをし、ファイルを解凍、ついに開く。そこには151ファイルにおよぶ瀬戸内寂聴さんの画像ファイルがギッシリつまっていた。
「どういうこと?」
「徳を積んだっスね!」
どうやら、そういった類の騙しがあるらしい。恐ろしい世界だ。
「今度はこの、弁当配達の女の子がってやついってみようか」
「それも人気ッスね↑」
こうして俺と若造は興味のあるエロファイルに片っ端からアクセスし、騙され続けた。どうやらその中にはウィルス?と呼ばれる生物兵器が混じっていたらしく、俺のパソコンの中身が皆に共有されることとなった。
「孫の写真まで流出してるっスね↑」
戦場をネット空間と移して繰り広げられるエロ電脳ウォーズ。あの日あの時のエロビデオコーナーより殺伐とした戦いが繰り広げられていた。恐ろしい世界だぜ。
おわり
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あれだな、こんな日記ばかり十年書いてても何にもならないわ。
3/27 巨乳アンモナイト
巨乳がお空から降ってきたよ
巨乳がひらひら降ってきたよ
お空の星が巨乳に弾けてヒラヒラ
巨乳は右に左に、星を弾きながら僕の街に降ってくる
「あ、あれはなに、お父さん!」
「あれはね、巨乳だよ。理想を追い求めた人類の成れの果て、欲望の結晶、悲しき遺産だよ」
「ふーん、巨乳って悲しいんだね」
「ああ、いつだって巨乳は悲しい、そして柔らかい」
「ふーん、あっ!みて!巨乳が一番大きい星に!」
プシュー!星の角に当たった巨乳は破れ、中の空気を出しながら敗れた風船のように萎んでいった。
「いこう!あそこに真実がある」
父さんは僕の手を握って走った。日が暮れても、日が明けても、信じる友のために走った。三日三晩走っただろうか、父は言った。
「巨乳の中には何が詰まってるかな?」
「わかんない」
森のクマも優しい瞳で見守っていた。
「今からそれを確かめにいこう!」
草をかきわけ、森林を伐採し、住民の反対をものともせずに森を切り開いた。そして、ついにあの萎んだ巨乳を見つけた。
「父さん!巨乳だよ!」
「ああ、でももうこれは巨乳じゃない」
「萎んでるもんね」
森のキツネは笑っていた。
「さあ、めくってみよう」
「うん!」
萎んだ巨乳をめくると、そこには大きな大きなアンモナイトがいた。
「太古の記憶、遠き日の過ぎ去りし希望、儚い夢、栄枯盛衰」
父さんは意味深なことを呟く。
「巨乳の中にはアンモナイトがいる」
「それだけわかっていればいい」
父は涙を流しながら言った。森のフクロウが静かに泣いていた。
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僕はね、本当は絵本作家になりたいんですよ。もうオッパイだとかクンニだとか、そういった言葉をNumeriですか?そういういかがわしい場所に書くのはどうかと思って、本当は銀河晴彦とかそんなペンネームで絵本を描きたいんですね。
けれども、みなさんご存知のとおり、僕って結構ロマンティックで、絵も上手なんですけど、その、なんていうか、あまり絵本に向いた絵をかけないじゃないですか。
というわけで、僕の自信作、というか、銀河晴彦の自信作、巨乳アンモナイトの原文を載せておきましたので、我こそは!という方は絵を描いてください!一緒に児童文学界を震撼させましょう!
3/26 秘密基地
大切なものを手に入れるといつかなくなるんじゃないかって心配してしまう。誰しもが欲しいものや手に入れたい物ってやつがあるもので、例えばそれが限定のフィギュアだったり、AKBの生写真だったり、ケルベロスのウサのカードだったり、とにかく手に入れたいものがあるはずだ。
かくいう僕も、つい先日どうしても欲していて止まなかった書籍を大きい本屋で見つけてしまい、8400円という本とは思えない、本と見せかけて中にブルーレイディスクが5枚くらい入ってるんじゃないかっていう本を購入したのだけど、それはもう嬉しかったものだ。
この、欲しい物を購入した後の帰り道のワクワク感っていうか万能感というか、今なら空も飛べるかもしれないという感覚というか、マリオがスター取ったような状態ってのはとにかくすごくて、言うなれば、厳選に厳選を重ねたエロビデオをレンタルした帰り道というか、おっぱいを揉んでる感覚というか、違うな、なんだろう、そう、子供の頃のあの日、秘密基地を作ったあのワクワク感に通じるものがある。
幼かったあの日、僕らは木箱を積み上げて秘密基地を作った。使われていない廃倉庫、拾ってきたボロボロのソファーに、木箱を机に見立てた、あの小汚くて暗い僕らの秘密基地。あの中で味わった何でも出来るかもしれないというワクワク感、欲しい物を手に入れた感覚はそれに似ている。
けれども、ほしい物というか宝物なんていうのは、手に入れた瞬間から失う瞬間までのカウントダウンが始まっていると言っても過言ではない。破損、紛失、盗難、飽きる、金に困って売りさばく、様々な理由があるかもしれないが手に入れた瞬間から失うことを意識しなくてはならない。
そういった意味では、件の8400円の書籍など、買った15分後には電車の中に置き忘れて紛失した。1文字も読むことはなかった。なんであんな場所に置き忘れるのか、今でも理解しがたい不可思議な人智を超えた現象が巻き起こっていた。
大人たちの手によって失われてしまったあの日の秘密基地と同じで、大切なものは、それが心をときめかせるものであればあるほど、失うことが怖くなる。そういうものなのだ。
さて、そんな8400円の書籍をロストした僕にとって、今最も大切な宝物が二つあります。一つが、超絶カワイイAV女優、成瀬心美さんにサインして頂いた3DS。
これ見てもらったら分かるとおり、ちゃんと「PATOさんへ」って書いてあるんっすよ。「ほしー!」とかこの3DSをカチャカチャやっててですね、すげえカワイイ顔でサイン書こうとした瞬間ですよ。
「あのpatoさんへって入れてください。patoはアルファベットのp、a、t、oです」
って勇気を出して言ったんです。成瀬さんは「はあ?なにpatoって?」ってすごい不可思議な顔してましたが、そういう名前でインターネットで日記書いてますと言うことができず、「本名です」って誰も得しない嘘をついて書いてもらったサインです。
もう本気でこれが宝物でしてね、常にリュックに忍ばせて、会う人会う人にさりげなくこの3DSを見せつけてですね、会う人会う人に「いやー成瀬心美にサインもらっちゃってね」とか自慢してるわけですよ。
職場の同僚に見せた時なんてみんな羨ましがっちゃってですね、ついでに「なに、PATOって?」とか言われて、困った僕は「ああ、僕のクリスチャンネーム」って誰も得しない嘘をついたんですけど、もうこれがなくなったら生きる意味を失う、ってくらいに大切に思っているんですよ。
そして、もう一つの宝物が、これは物ではないんですけど、健康ランドにいる時間、ですかね。前にも書いたんですけど、僕すごいサウナにはまってましてね、とにかくサウナおよび健康ランドにいる時間ってのが何物にも代え難いくらいに大切で尊い時間なんです。
でまあ、とにかく暇さえあれば健康ランドにサウナにと大車輪の如き勢いで通ってるんですけど、最近、妙に髪質と肌質が変化したなって感じたんです。僕はまあ、かなり繊細でナイーブなサラサラヘアーですし、お肌もすごく敏感なナイーブ肌ですよ。当然ね、健康ランドやサウナに備え付けのシャンプーやボディーソープが合わないんですよ。憎いね、繊細な自分が憎い、クレンザーで洗っても平気な一般の皆さんが羨ましいですよ。
まあ、そうなると仕方ないんで自分の髪と肌に合うシャンプーとボディーソープをリュックに入れておくじゃないですか。そりゃそうっすよ、いつでもサウナ行きたいですから。まあ、シャンプーとかのボトルって親の敵かってくらいにデカいですから、リュックがパンパンになるんですけど、それでもまあ、背に腹はなんとやらですよ。
とにかく、成瀬さんのサイン入り3DS、健康ランドに行く時間、この二つが今僕が最も失うわけにはいかない二大宝物なんですが、やはり、これらもいつ失われるのかビクビクもんですよ。
3DSなんて嫉妬に狂った成瀬さんファンの手によって盗まれるかもしれないですし、日本が爆撃とか受けて戦時体制に突入し、悠長に健康ランドに行く時間すら失われるかもしれません。それどころか無一文になって健康ランドに行く金すらなくなるかもしれません。大切なものはいつか必ず失われるんです。
でもね、失われるからこそ、今を大切に思うことができるのかもしれません。そういったものが存在するとは思いませんが、大切なものが永遠の存在であるならば、実はそれはさほど大切に思わないのかもしれません。失う可能性があるからこそ、今そこにある存在が大切で尊く思えるのかもしれません。
そんな風に感慨に耽りながら、また成瀬さんの3DSを愛でようと、リュックを開けるとなにやら異変が。なんかドロドロしている。ついでにすごいフローラルな爽やかな香りと、薬品っぽい刺激臭が。どうもパンパンになるくらいにシャンプーとリンスとボディーソープのボトルを入れていたせいか、思いっきり中身が出てるんですわ。ついでに、風呂掃除用に買ったお風呂の洗剤も漏れて出てきてた。もうリュックの中ベチョベチョ。
ま、まさか。
焦って3DSを取り出すと、シャンプーやらなにやらが付着して精子ぶっかけられたみたいな状態になって出てきました。
「成瀬さんが精子ぶっかけられた!」
AV女優なんで結構当たり前ですけど、そう叫びながら涙ながらに見ると、洗剤やシャンプーで洗われたのか、キレイさっぱり、サインが消えてました。すげえ綺麗になってた。あと、3DSは起動しなくなってた。
あの日の秘密基地のように、大切なものはいつか失われます。こんなに辛く悲しい思いをするのならばいっそ手に入らないほうが良いとすら思うのですが、それでもやはり、僕らは宝物を手に入れてしまうのです。残った宝物、健康ランドに行く時間と、ケルベロスのウサのカード、これだけはなるべく失わないようにしようと思う。
3/25 許せない明日へ
あなたは「絶対に許せない」と人から言われたことはありますか。
何かを許可するという意味ではなく、過ちや自分にとって喜ばしくない行為を許容するという意味での「許す」という行為は根本的に違う。クンニを許可するという意味での「許す」と5年間付き合った彼氏の出来心での浮気をわだかまりを残しつつそれでも好きだからと「許す」では根本的に違う。
ここが日本語のおかしなところであり、妙でもあるのだが、5年間付き合って浮気されて心の中で葛藤する25歳OLの複雑に入り組んだ心の中のトラフィックと、クンニ許す!OK!ジュルジュルブルルビチャ!が同じなのだから、さぞや25歳OLは浮かばれない。
では、この二つの意味を持つ「許す」なのだが、その違いは一体何だろうか。クンニ的な許すと25歳OLの許す、そこにある違いは「心の中の葛藤」なのである。どちらも行為を許容するという意味での「許す」なのだが、クンニはフィーリングで舐めて、と許すのに対して、25歳OLはそこに至るまでの様々な葛藤を想像できる。そこが根本的に違うのだ。
実は、人は許せる生き物なのだ。それはもちろんクンニ的な意味ではなく、心の中の葛藤的な意味での許すなのだが、とにかく人は許すことができる生き物で、あらゆる怨みや憎しみも根本的には許すという行為に帰結する。
それは何も、人は皆善人で何でもかんでも許すことができる、みたいな性善説的なことを言うつもりはないし、人を許すことで道は開かれる、みたいな出来の悪い新興宗教みたいなことを言うつもりもありません。ただ、本当に許すことができるんだから仕方がないのです。
人は忘れることができる生き物です。あんなに辛かったことや泣いた夜、悔しくって眠れなかった、痛かった、死にたかった、その時は一生忘れることがないだろうと思っていた感情も、月日の経過によって確実に色褪せていき、薄れていくのです。永遠と思われがちな写真が、薬品の劣化によって次第に色褪せていくのと同じよう、その思いも永遠ではないのです。
人間は忘れるからこそ生きていけるのだとよく言われます。忘れるという行為は、小学校の時に授業参観で音楽の時間に父母が見守る中、よりにもよって縦笛を持ってくるのを忘れてしまい、ずっと口笛を吹いて誤魔化そうとした僕のように悪い行為だと思われがちですが、実は悪い側面だけではないのです。
辛い思いや悲しい思いを忘れることができなかったら、人間の一生はどんなに辛く悲しいものでしょうか。29年前に入学式でおしっこ漏らした堀部くんなんて忘れることができなきゃ今頃生きていないですよ。
それと同じで、憎しみや恨み辛み、これらだった感情が外に向いてる分色褪せにくいですが絶対に薄れていくのです。そんなことはない、人間の感情をわかってない、と仰る方もいるかもしれませんが、脳の仕組み上、そうなってるのですから仕方がないのです。
つまり、人間は忘れることができて、その行為によって生きていけてる以上、「許す」ことができる生き物なのです。僕だって29年前、小学校の入学式で僕の目の前でおしっこ漏らした、本人の名誉のために伏字にしますけど、H君のこと、先日やっと許すこととができましたからね。基本的に許すことができるんですよ。
そうやって「許す」ことができる人間です。それらを飛び越えて「絶対に許さない」という感情、これは途方もない憎しみであることが容易に想像できます。なにせ忘れるという脳の構造を全て超越して許さないのですから、とんでもない感情の爆発が期待できます。この言葉を言われた経験のある人は余程のことだと理解しておいたほうがいいでしょう。
先日のことでした。
僕は仕事柄、周り中オッサンだらけの水泳大会みたいな、競馬場みたいな色合いの場所に出向いて作業することが多いのですが、稀に女子大みたいな女のフェロモンムンムンみたいな場所ですとか、腰がウナギみたいに動きそうな熟女の集まりの場所ですかと、そういったこの世の桃源郷みたいな場所に出向くこともあるんですね。
ただ、本当に稀で、よく知らないですけどケルベロスのウサのカードぐらいレアだと思うんですけど、小学校高学年ぐらいの子供たちの集団の中に放り込まれることがあるんですよ。で、なぜか分からないですけど、その時だけ上司が僕に付き添ってくるんですね。女子大でも半裸みたいな熟女の集会でもついてこないのに、何を警戒されてるのか全然理解できません。
でまあね、行くとやっぱガキどもですわ、ワーワー言いながら慕ってくるんですね、そうやって群がってくる並み居るガキどもを次から次にちぎっては投げちぎっては投げできたらどんなに気持ちいいかと思うのですが、そんなことしたら多分クビでは済まないと思われますのでやらないですけど、子供たちがはしゃぎすぎて収拾がつかなくなってくると、かならず上司が仕切り出すんですね。
「みんな、元気かなー!?」
とか、そりゃアンタ、こんだけ騒いでるんだから元気だろと、僕のイライラが始まるんです。どうにこうにもなぜなのか分からない。僕は結構温厚な性格でイライラとかしないんですけど、この小学生に相対する上司を見ると、いつもイライラして仕方がないんです。
「今日はお兄さんたちが皆さんに仕事のことをお話しますね」
上司が勝手に自分のことをまだまだいける、十分若い、ってスナックで言われたのか何なのか知りませんが勘違いしちゃって「お兄さん」と自称するのは構わないのですが、「お兄さんたち」と僕を含めるのはやめていただきたい。まだ若いつもりでいる痛いおっさんの仲間入りさせないで頂きたい。
そんなこんなで、小学生に優しく話をする上司を見てみんなが微笑ましい感じになるかもしれないのだけど、なぜか僕だけは常にイライラ
、イライラ、自分の中で湧き上がる何かが臨界に達しかけていたんです。
「みんなはいくつになったのかなー?」
両手を高々と挙げて子供たちに質問する上司。その両手の意味を問いたい。なんだそれ。もう許せない、なぜだか分からないけど本当に許せない。上司のことが許せなくてたまらない、そんな思いがついに爆発しました。
「11さーい!」
「10さーい!」
子供たちが口々に自分の年齢を発表していきます。なぜか両手を挙げて。そりゃそうで、ここにいるのは小学校高学年の子供たちばかりで、聞くまでもなく年齢なんて分かりきってて10歳から12歳くらいまでの子しかいないんですよ。質問自体がバカげている、とイライラ。
「そうなんだー、じゃあみんなティーンエイジャーだね、みんなみたいに10代の子のことをteenagerっていうんだよ、若くていいねー」
この瞬間、僕の中の何かがぶちぎれた。
「間違ったこと教えないでください。この年代の子供たちは何でも吸収してしまうんです。間違ったことを教えたらこの子たちがどこかで恥をかくんですよ」
なぜか突然上司にくってかかる僕。
「は?」
上司の目がギラリと光る。
「teenagerとは英語でteenがつく数字の年齢に使うものです。10、11、12はteenじゃないです。13歳から19歳までの年齢ですよ。この空間には誰一人ティーンエイジャーはいない。絶対にいない」
「さあ、みんなそれじゃあティーンエイジャーって言えるかなー?せーの」
「ティーンエイジャー!」
もう無視ですよ、完全に無視。なんか無視ってレベルじゃなくて、空間が歪められてパラレルワールドに飛んでしまい、僕の存在しない世界に来ちゃったのかしら、って錯覚するほどの無視。
それから2時間、僕はいなかったものとして仕事が進んでいったわけなんですが、帰りの電車の中でも上司と二人っきりで終始無言。うおーこえーとか思いつつどうしたものかと考えつつ、3駅くらい通過した時でしょうか。上司がポツリと言ったんです。
「絶対に許さないから」
できることならティーンエイジャーとか叫びたかったんですけど、電車の中なんでそういうわけにもいかず、許さないってことはこりゃあとんでもないことになるで!と訳のわからない確信と共に、恐怖にうち震えたのです。入学式の時の堀部君のように。今は会社員やってるみたいです。
人は許すことができる生き物です。どんなに怒り、許すことができないと思われた出来事でも月日が経てば色褪せ、きっと許せるようになる、そんなものなのです。そうであって欲しい。とにかく、上司には怒りを忘れて許して欲しい、あのバラモスみたいな奥さんをクンニでもなんでもするから、許して欲しい。
3/24 嘘をもうひとつだけ
もうひとつ、この存在は実に興味深い。何かが存在するところに、エクストラな感じでもう一つの物が存在する。もっと砕けた言い方をすれば「おまけ」であろうか。なんだか得した気分になるものだ。
まんじゅう食ってたら店の人がもう一つくれた。ピンサロで2回転を楽しんでいたらもう1回転追加された。おっぱいが3つあった。やはりなんだか得した気分がする。こういった「+1」という意味合いのこのお得感は、なんだかとっても日本人の心情にマッチしてるんじゃないかと思う。
しかしながら、こういった「+1」ではない、別の意味での「もうひとつ」も存在する。それが、AとB、カウンターで存在する二つの極の極性を打ち消すという意味で、中間的な「もうひとつ」が存在する事例だ。これは「もうひとつ」であっても厳密には「+1」ではない。いうなれば「±0」ではないだろうか。
その最たる例がユニセックスだろう。ホント今これを読んでるあなたたちは30代にもなって「セックス」っていう語感だけで発奮し、「セックスハフー」とかなってるかもしれないけど、どうか落ち着いてほしい。それじゃあいつまでたってもお母さんの心配の種が消えない。とにかく落ち着いて欲しい。
「ユニセックス」とは、そういういきり立った棒が濡れそぼった穴に出たり入ったりする儀式を指すわけではない。反省して欲しい。「ユニセックス」とは主にファッションの世界で使われる言葉で、男女どちらでも着られる衣服、髪型、ファッションを指すらしい。
つまり、衣服にしてもなんにしても、男用と女用に分かれているのが普通なのだけど、それだと色々と不都合があったり、不便であったりすることがあるわけだ。そこで両極端な男と女を中和する意味で「ユニセックス」が存在し、オールマイティーな役割を果たす、そういった意味での「もうひとつ」はとても重要な役割を果たす。
この世の中でもっとも極端でギャップが存在するものが性別で、男女の別というのはあらゆるものの基礎になっている。男用の店、女用の店、男用のもの、女用のもの、全ては性差に行き着くようにできている。そういった意味では、そんな極端な性別の世界を薄める意味でもユニセックスの存在が必要で、おねえキャラなどのどちらの性にも属さないような存在が重宝されるかもしれない。
街中を見回してみると、男と女の明確な区別、そして「もうひとつ」といった意味での「ユニセックス」これが明確にわかるものがある。それがトイレだ。駅のトイレや公衆便所、どこかかの店のトイレなどを眺めてみると分かると思うが、多くの場合でトイレは男女に区別されている。けれども、狭い雑居ビルのトイレなどは、そこまでトイレにスペースを取れない場合もあり、男女兼用のユニセックスなトイレが存在する。
これがまた興奮するもので、居酒屋なんかでトイレがユニセックスだったら大興奮、常にトイレに目を光らしておいて、別テーブルのカワイイ娘がトイレに行こうものなら不自然でないタイミングを見計らって後に続いてトイレニイン。あんなカワイイ娘がここでウンコしてたのかー、見たいな感じで森林浴みたいな感じで深呼吸を、ってそういう話がしたかったんじゃありませんでした。
この「ユニセックス」なトイレってのは明らかに男女別だとスペースをとるっていう問題を解決するために中性的なトイレにされたわけで、「±0」なわけで、それ自体は別に仕方がないのでいいのだけど、問題はトイレが「+1」の「もうひとつ」トイレだったら、今日はそんなお話です。
僕は電車に乗るのが大の苦手で、僕の習性として「今ウンコしたくなったらすげえ困るよな」って考えた瞬間に臨界に近い便意が襲ってきて身悶えながら電車に乗る羽目になるんですね。当然、電車に乗るたびにそんなこと考えるものですから、常に便意と戦いながら電車に乗ることになるんです。
さらに悪いことに、電車って不慮の事故で止まったりするじゃないですか。なんとか駅に辿り着いてもトイレはホームとは別の階にあったり、辿り着いても大便ブースが満員御礼ソールドアウト、そんな悲劇が巻き起こるじゃないですか。
でね、その日も当然の如くウンコ行きたくなりまして、なぜかその時だけ妙に駅間が長いんですよ。ぜんぜん駅に到達しない。変な汗をダラダラ流しながら身悶えていると、なぜか駅の直前で止まっちゃったりしてね「停止信号です」とか、もうその場でペロンと尻を出してやっちゃうことも辞さない構えなんですけど、何度かスピードの向こう側みたいな世界とこっちの世界を行き来しているうちに駅に滑り込みましてね、助かった、と安堵したのも束の間ですよ。
辿り着いたのが一度も利用したことのないマニアックな駅でしてね、どこにトイレがあるのか分からない。落ち着いて案内図を見ている暇もない、もうちょっと出てて表面張力みたいな力でかろうじて均衡を保ってますからね。とにかく、セオリーでは改札方面にトイレがあるはず、そう確信してあまり揺らさないように改札に走りました。
そしたらあんた、向かったのがマニアックな改札のほうでして、完全に亜流の流れ、閑散としていてトイレもない。今から引き返して間に合うか、否、たぶん違う改札に向かう階段の途中でボロボロいっちゃう。ここは改札を抜けて賭けに出るしかない。
たぶん、抜ける瞬間にピンポーンとかなって下腹部をゲートで通せんぼされたらその衝撃と驚きでブリブリブリブリブイリといいっちゃう。やめてくれと、祈りつつ改札を通過。こい、パチンコ屋でもなんでもいい。トイレがありそうな施設こい、と天に祈ったら、恐ろしいほどに何もない光景が広がっていました。そりゃマニアックな改札だもん。何もないに決まってる。
ただ、唯一の救いは、出口の目の前が公園だったこと。ある程度の大きさの公園には必ずトイレがありますからなんとかなるはず、小走りに公園内を走ってトイレを探します。
そしたらアンタ、ありましたよ。ちょっと小洒落た綺麗なトイレがありましたよ。一気にいったるって感じでガーンって駆け込んだんですけど、そこで大変な悲劇が巻き起こるわけなんです。
「故障、使用中止」
白い紙に赤のマジックで手書きされた衝撃の文字、死刑宣告が大便ブースに貼ってあるんです。なんの、一個が故障中でももう一個がある、って意気込みで隣の大便ブースを見ると、絶賛使用中。誰かがゴソゴソとウンコをしていました。
恐ろしい、ここまできて全ての大便ブースが塞がっている。これが意味するところはトイレで漏らすという衝撃の展開。そんなことが許されてたまるだろうか。トイレの入り口で世の理不尽を嘆きながら、すでにちょっと出てるっぽいウンコをなんとか吸い込もうと身悶えていると、光り輝く救いの糸が見えたのです。
「どなたでもご利用いただけるトイレです」
こういったトイレは、車椅子の方などが利用できるよう、男子用と女子用とは別に非常に広いスペースを持ったもう一つのトイレが用意されているのです。そのトイレが目の前にあるんです。昔は結構、こういうトイレはデーンと車椅子マークとか書かれていてそれ以外は使っちゃいけない雰囲気がしていたのですが、最近はやけに「どなたでもご利用できます」的なことを優しく教えてくれます。
ちなみに余談ですが、我が職場を新築する時にトイレを作ることになって、そういった車椅子の人も利用できるトイレを作ることになったのですが、名称をどうするかが会議で議論になりまして、なぜか「多目的トイレ」という訳の分からない名前になってました。トイレを多目的に使われてフェラチオとかに使われたらどうするんだ。
とにかく、こういったトイレ、「どなたでもご利用できます」と書かれているわけです。利用しない手はありません。早速、バーンと緑色でかなり大きな「開」ボタンを押してトイレのドアを開けます。やはりトイレの中はかなり広く、僕のアパートくらいありそうな広さの中にポツンと便器がおいてありました。
早速、中に入って赤の「閉」ボタンを押します。こういうトイレってすごい便利なんですが、自動で鍵がかかるんですよね。普通のトイレはドア閉めて内側から鍵をかけないといけないんですけど、この種のトイレはほぼ鍵がない。ボタンで開閉するシステムを利用して、中から「閉」でドアを閉めた場合は中から「開」を押さないと開かないシステムになってるんですね。
もう1秒でも惜しく、鍵をかける時間すら漏らす漏らさないのデッドラインに関わってくる僕には渡りに船ですよ。鍵をかける時間を短縮できて一気に便器にフライ。もうお母さんがバーモンドカレーを作るときにカレーのルーを入れる感じでボトボトとウンコしまくったんです。すげえ出る出る。全然終わらない。
「あ、マジで、このトイレだれでも使えるってあるじゃん!」
その時、トイレの外から明らかにセックスは挨拶代わり、みたいな感じの頭の悪そうな女性の声が聞こえてきました。
「まじ、こっちのほうがよくね?」
数人でこのトイレを使うか否かみたいなことをワイワイいってるんです。これもユニセックスで誰でも使えるトイレの特徴です。でも、残念ながら僕がもう先に使用しています。しかもすげえウンコ出てます。当分終わらないし、終わった後も多分目潰しぐらいのレベルで臭いです。フフフ、とても入れたもんじゃねえぞ、とドアのほうに視線を移すと、とんでもない物が視界に飛び込んできたのです。それはドアの裏側、急いでウンコをする人間には完全に死角の位置に張り紙がしてありました。
「カギを閉めるボタンを押さないとカギは閉まりません」
えー!ってウンコと一緒に目玉も飛び出る感覚、死という意識の濁流に流されながらボタン付近を見ると、「開」「閉」のボタンの横にけっこう小さめの「施錠」というボタンが。いやいやいやいやいや、おかしいでしょ、これおかしいでしょ、絶対おかしいでしょ。普通、こういうボタンのやつは自動でカギが閉まるもんです。
「これボタン押してあけるんだろ?」
「マジウケる!」
みたいな声が聞こえてきます。僕は絶対に「施錠」ボタン押してない。絶対に押したら開く。やめて!と大声で言おうとした瞬間。
ガー!
ドアの前に、ウンコみたいなギャル3人。便器の上にはウンコしてるオッサン一人。「僕等がいた」のCMで見詰め合う二人みたいになってた。その間もボトッ、ボトッってウンコでてたけど。
しかもひでえことにさ、あれって「閉」ボタンおさねえとドアが閉まらないのな。ギャルどもが
「ギャー!オッサンウンコ!」
みたいな、おそらく彼女たちがこの先80歳まで生きたとしても口にすることはないだろうなって言うセリフを叫んで逃げていっちゃってね、ドア開けたまんま。ウンコ止まらないし、もうブリブリとドア開放してこの後5分はウンコしてたよ。途中3人サラリーマン通って、二人目には二度見されたし。
こういった「誰でも利用できる」ユニセックスなトイレは大変便利でありがたいものです。こういった、もうひとつのトイレ「±0」のトイレは大変便利で、もちろん、車椅子のかたや必要とされる方々にも大変重要なトイレです。
しかしながら、ボタンを押せばカギが閉まるという従来のスタイルに加えてもうひとつ「カギボタンを押す」という行程を加えた「+1」のトイレは、僕のように合計6人にウンコを見られるという、大変な悲劇を巻き起こすのです。できればやめて欲しい。
ちなみに、さらに+1、トイレ出ると、すげえ離れた場所から先ほどのギャルたちが監視していて、「キモイ」みたいなこと言いながら逃げていきました。ウンコ見られるだけでなくこんな「おまけ」まで。うれしくない「おまけ」っていうのは悲しいものだ。
3/23 過去ログサルベージ
本気で、嘘とかブラフじゃなくて作者急病のため今日は過去ログサルベージしますわ。ほんとはAKBライブで精根尽き果てたからなんだけど。ということで、過去に別サイトで書いた短文ネタをサルベージしてお茶を濁しておきます。どうぞ
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とある清掃員さんとお話した際のこと、
その人はトイレなどを専門に清掃している人で、
いわゆる「トイレクリーナー」なのだ。
どんな職業にも悩みがあるもので、
トイレクリーナーさんの目下の悩みは、男性便所の尿らしい。
なんでも、最近の若者たちは、便器から離れて排尿をするらしいのだ。
小便器からかなりの距離をあけて排尿をする。
自分の飛距離やコントロールに自信があるのか、
自分のイチモツに自信があるのか。
昔の人なんかは小便器に下半身が入り込むぐらいの勢いで排泄したものだ。
隣の人に見られたくないから。
小便器から距離を開けて排尿をする人が多くなると、
便器周りに飛び散る尿もすさまじい量になってくるらしい。
自分では、ど真ん中ストライクと思っていても、
尿というのは意外と飛び散るものなのだ。
掃除する側としては、飛び散った尿は非常に厄介らしく
こすってもこすってもなかなか落ちないそうだ。
清掃員さん、困ってた。
そういえば、よく行く立体駐車場のトイレに、
「尿が飛びますので、便器に近づいてください」
と注意書きされているのを見たことがある。
手書きの紙に赤と黒のマジックで書かれた紙が、便器の上に貼ってあった。
多分、駐車場の管理人さんが掃除しているのだろう。
飛び散った尿に頭を悩ませているのが伺える。
それでも、距離をおいて排尿をする人は絶えないらしく、
しばらくすると
「1歩前に出てやれ!」
と喧嘩のような口調に変わっていた。
よほど怒っているのだろう。
それでも聞き分けのない駐車場ユーザーたち、
ロングディスタンスで小便をするのをやめない。
すると、張り紙による注意書きは
「前進しろ!」
に変わっていた。もはや意味が分からない。
それを読んだ僕は、なんだか妙に励まされたような気がした。
頑張って前進していこう。
3/22 シト新生
リアルでないからこそ、その言葉を使うのだろう。
先日、職場の女の子に「死ね」と吐き捨てるように言われた。別にそれを言われるに至った過程や、どうせまた僕が著しくセクハラチックな発言をしたとか、嫁入り前の娘がそんな言葉遣いなんて親の顔が見てみたいとか、そういったことは今はまったく問題ではなく、むしろ大切なのはその「死ね」という言葉を吐き出したという事実、その一点に集約される。
実は、この「死ね」という言葉、その心理を考えると非常に面白い。僕はこの日記上においても過去に何度となく、「死ね」という言葉について検証を行なってきた。そして、いわゆる一つの結論に達したのだ。
言葉とは力である。思っているだけでは何の効力もない言葉も、声に出して発することで初めてその効力が生まれる。「死ね」という言葉だって考えているだけでは何でもないが、言葉にして相手に伝えることで初めて相手にも不快な思いをお届けできるのだ。それは少なからず何らかの効果を相手に与えるものだ。
では、本当に死んで欲しい、できればこの言葉で相手が嫌な気分になり、自らゴールドクロスの修復作業をして欲しいと思って口にしている人がいるだろうか。答えは否である。ほとんどの人が、たぶん「死ね」って相手に言った瞬間に、愛に殉じた男シンになった場合、そんなつもりじゃなかった、まさか死ぬとは、と猛烈に後悔するすると思う。
つまり、日本においてはこの「死ね」が本来の意味では使われておらず、相手を軽く侮辱する時に使われることが多い。特にネットの世界では顕著で、「おはよう」「死ね」くらいの感覚で使われることがしばしばだ。僕自身も、本当に死んで欲しいなんて思ってないのに、死ねという言葉を日記に書いてしまう。職場の女子社員死ね、そんな風にね。
この「死ね」という言葉はよくよく考えると実はおかしい。本当に本来の意味で、相手が憎くて憎くて命がなくなって欲しいと望むならば、「殺す」という言葉が選択されるはずだ。僕は諸外国のことはよく知らないけど、アメリカとかではおそらく相手が憎い時は「キルユー」とか言うはずだ。ダイレクトアタックで「殺す」という感情を言葉で爆発させる。それには言葉に付随した行動を想起させる意味合いがあるのだ。
しかしながら、日本人は「死ね」である。もう、憎くても殺しもしない。自分では手を下さない。手を汚すつもりはないけど、できれば死んで欲しい。そんな覚悟のなさと卑怯さがこの二文字の言葉からプンプンに香り立ってくる。濡れそぼった人妻が溢れ出す色気を隠せないようにこの言葉は溢れ出る消極性と卑怯さを隠せていない。
つまり、殺人を犯す覚悟もないのに「死ね」と言っている。しかも、そこに本来の意味での「死」を意識した覚悟はない。ただただ軽口のように死ね、セクハラ死ね、もう職場に来るな死ね、栗拾いツアーにも来るな死ね、足が臭いから総務に来たときにスリッパに履き替えるな死ね、とそうなってしまうのである。クソッ。僕が何したっていうんだ。
ではなぜ、こうやって「死ね」という言葉を軽く扱えてしまい、何の覚悟もなしに言えてしまうのかを考えると、やはり今日の日本においてあまりに「死」がリアルでないことに起因する。僕らの周りにはあまりに死が少ない。
各種メディアは積極的に死を報道しない。テレビが死体を映すこともなければ、写真週刊誌が死体写真を掲載することもほとんどない。街中で死者が出る事故があったとしても迅速に片付けられてしまう。どんな状況にあろうとも、その辺に死体が転がっているなんて状況は生まれ得ない。さらには、昔はまるで与えられた使命のように家の爺さん婆さんがポンポン死んでくれていたのだが、核家族化が進みきった現代ではそれもあまり見られない。
もし、死というものが隣にあって、自分が、家族が、大切な人がいつ死ぬか分からないといった状況だったらどうだろうか。ここが戦場だったらどうだろうか。さすがに軽はずみに「死ね」なんて言えない。この戦争終わったら結婚するんだって言ってペンダント見つめてるライアンにそんなこと言えない。
じゃあ、そうやって軽はずみに口にすることが悪いのか、というと別にそうではない。ガンガン言えばいい。平和なんだから仕方がない。思いっきり平和を謳歌し、俺たち全然死をリアルに感じてませーん!と軽はずみに「死ね」と言えばいい。日本は平和なんだ。それを謳歌しないでどうする。
けれどもね、何度も言うように、言葉とは力なんですよ。文字とは力なんですよ。皆さんが思ってる以上に、皆さんが実感しようがしまいが、「死」という言葉と文字にはネガティブな力があるんです。いくら平和を謳歌しようと自由だけど、そんなネガティブなものを相手に投げつけるのはいささか頂けない。
でもね、「死ね」って言葉の使い勝手の良さは痛いほど分かるんです。これってさっきも出てきましたけど極めて日本人的でいいんですよね。「殺す」だとすごい殺意でシャレにならないけど、「死ね」だと殺意がなくて非常にシャレが効く。消極的でありながら卑怯でシャレが効く、そんな立ち位置になれるってのは結構大切なことなんです。
だからね、こういった使い勝手のよい「死ね」を使いつつ、「死」というネガティブワードを使わない。これはもう別の表現を考えるべきなんです。例えば
・息を引き取ってください
・肉体を持たない高度な精神構造体になってみませんか?
・この世も良いですが、そろそろあの世も検討するべきでは?
・これが仏様の喉仏です。こちらを壷の中心にお座りになるように……。
・君のいなくなった世界を見てみたい
・来年の今日この日、君の墓の前で思い出を語りたいねぇ
・来年の甲子園は君の白黒写真を持ってベンチ入りするつもりだ
どうですか、ええ、そうですね、全然伝わりませんね。なんかすげえ主人公グループと対立してて、ラスボスとの対戦前、そのマンガのクライマックスみたいな場面ではちょっといいやつになって主人公を助けるキザなキャラみたいな台詞回し。これでは嫌味なだけで「死ね」という言葉が持つ本来の使命を果たせるとは思えません。
やはり「死」ってネガティブな言葉ですけど、それは裏をかえせばすごいインパクトがあることばってことですから、その言葉なしに同じような効用を得ようとするのは無理な話です。ではどうしたら良いでしょう。そうですね、少しでも綺麗な言葉で「死」という言葉のネガティブさを打ち消せばいいのです。
・梅の花が満開ですね、死ね
・桜前線はやってくるのに、あの人はいってしまう死ね
・花の色はうつりにけりないたつらに わか身よにふるなかめせしまに死ね
・久方の光のとけき春の日に しつ心なくはなの散らん死ね
・愛のままにわがままに僕は君だけを死ね
・三代目J Soul Broth死ね
・「バカヤロー!しにてーのか!」大きなブレーキ音と共にトラックが止まり、運転手の怒号が響いた。横断歩道の上には体の小さな女の子が倒れていた。
「すいません」
必死で謝る彼女になおも運転手は怒鳴りつける。その光景を信号待ちをしながら見ていた高志はなんだか無性に腹が立った。別にあの子がカワイイとか線の細い感じがタイプだとか関係ない、自分の中の正義と照らし合わせて間違っていると感じるからいくのだ。下心はない。そう言い聞かせると一呼吸し、まだ赤信号の横断歩道の上を走り、倒れている女の子に寄り添った。
「大丈夫ですか?」
近くで見るとますますタイプだ。自分でも頬が赤らんでいることが分かった。
「自動車は歩行者の安全に配慮する義務があるんですよ!確かに信号無視した彼女も悪い。でもそんな言い方はないでしょ!」
高志は2歩だけトラックに近寄り、エンジン音にかき消されないように大声で言った。バツの悪そうな顔をした運転手はハンドルを切り、高志と女の子を迂回して走り去っていった。
「大丈夫ですか?さあ、立って」
彼女の手をとるとまだ赤の横断歩道を手を繋いで走り去る。そのまま向かいの公園まで行き、二人でベンチに座った。
「あっ、すいません、つい」
また高志の顔が赤らみ、サッと握っていた手を離して腰の後ろに組みなおす。
「ありがとうございます。私、芳江といいます。本当に危ないところをありがとうございました」
深々とお辞儀をする彼女。シャンプーの匂いだろうか、ムワンと良いにおいが一陣の風のように高志の脇を通り過ぎた。
「僕は高志といいます」
「高志さんですね、ありがとう」
「それにしても危ないよ。赤信号で飛び出すなんて。下手したらはねられてたよ」
そう言いながらも彼女が赤信号で飛び出したからこそこうして知り合いになることができた。そう考えると強い口調で注意できない自分がいて、また顔が赤くなっていくのを感じた。
「そうですか、またやってましたか……」
そう言って彼女は俯いた。彼女の急なトーンダウンに狼狽し、なんだかその落ち込みぷりに、自分がすごく悪いことを言ってしまった気がして高志は急に取り繕った。
「ほら、俺の顔見て、真っ赤でしょ?別に照れてるとかじゃなくて走ったからだよ、ハハハハハハ」
そう笑うと、彼女は少し不思議そうな顔をして笑ったあと、思い出したかのように一緒に笑い始めた。
これがきっかけで高志と芳江は付き合い始める。高志にとって芳江といる時間はなによりも楽しく尊いものだった。この子の全てを包みこみ、いつまでも一緒にいたい。高志はそう思っていた。
「すげえ綺麗な芝生、天気も良くて青い空!」
芳江と牧場に行った時、高志は大はしゃぎだった。
「うわー、なんでこんなグロい色してるんだろう」
水族館で深海魚を見て高志が大声を上げる。
「エメラルドグリーンの海!」
沖縄にだっていった。
本当に楽しく、このまま芳江とずっと共に生きる、彼女を失うなんて考えられない、高志はそう確信していたし、溢れるばかりの幸せを感じていた。けれども、ただひとつ、時折見せる芳江の浮かない表情、それだけがレンズについた汚れのように高志の心の中に存在していた。言い知れぬ不安、焦り、焦燥、高志は勝負に出る。
「え、なにこれ?」
付き合いだして1年経っていたある日、繁華街の外れにある喫茶店に芳江を呼び出した。芳江の前にはレモンスカッシュと大きな赤い箱が白いリボン付で置かれている。
「プレゼント」
また顔を真っ赤にしてそっぽを向きながらぶっきらぼうに答える。
「え、ほんとに?うれしいな!あけてもいい?」
芳江は無邪気な笑顔で笑い、はにかみながら高志の顔を覗き込んだ。
「もちろん。ってか開けずに持って帰られたら困る(笑)」
「なんだろー」
ごそごそとリボンを開封する芳江にお構いなしといった感じで、顔を真っ赤にしながら話し出す高志。
「俺が子供の時、テレビで芸能人の結婚式を観たんだ。女優さんと俳優さんだったかな。そりゃ花嫁さんが綺麗でね、いつか自分もこんな嫁さんもらいたいなって思ったんだ」
芳江はほどいたリボンを丁寧にまとめてテーブルの脇に置くと、ゆっくりと箱を開けた。構わず高志が話し続ける。
「世間一般的にはウエディングドレスって白いじゃん、でも、その時の女優さんのドレスは違ったんだ」
芳江が箱を開ける。そこには真っ赤な真紅のウエディングドレスが入っていた。
「その女優さんが着ていたのが真っ赤なウエディングドレス、だから俺もそんな赤が似合う嫁さんが欲しいと思ってたんだ」
箱を開けたままの体勢で呆然とする芳江。高志は続けた。
「結婚してくれ、芳江」
「え……」
沈黙が流れる。どれくらい時間が経っただろうか。芳江の表情を覗き込む高志。全く感情の読み取れない、何を考えているのかすら分からない芳江の表情に、必死で答えを読み取ろうとする。当然、芳江の両の瞳に涙が溜まり、表面張力が耐え切れずに頬を伝って流れ落ちた。
「芳江…!?」
ハッと我に返ったように芳江が向き直った。そして、高志の顔をジッと見つめると、落ち着いて箱の蓋を閉め、その上に先ほど畳んだリボンを置くと、すっと立ち上がった。
「ごめんなさい、私はこのドレスを貰う資格がありません」
そう言うと、芳江は何かの栓が壊れたかのようにさらに大量の涙を溢し、店の出口へと歩いていった。
「え…?」
何が起こってのかわからない高志。呆然と芳江の後姿を見送ることしかできなかった。しかし、ハッと我に返ると急いで走り出し芳江を追いかけた。
「芳江…!」
芳江はすぐに捕まった。まだ、200メートル先の交差点の横断歩道の前で立ちすくんでいた。高志の足ならすぐに追いつく。
「芳江、急にどうしたんだ!?」
肩に手をかけこちらを向かせる。芳江はさっきより大量の涙を目に溜めていた。
「初めて会ったのも横断歩道だったね。どうして私が信号無視したか分かる?どうして今もここから進めないのか分かる?」
芳江は声を絞り出すようにとつとつと語った。高志はなぞなぞのような問いかけにしばし考える。けれども芳江が何を言いたいのか分からなかった。
「わからな…」
言い切る前に芳江が続ける。
「高志といった牧場の緑も、空の青さも深海魚の色も沖縄の海のエメラルドグリーンの緑も…あなたの夢だって言う赤いドレスも…」
「芳江、まさか…」
「私は色が認識できないの。生まれつきだった。青って言われてもその色が分からない。赤って言われてもその色が分からない」
「……」
あまりの出来事に高志は押し黙ってしまう。
「それでもいいって思ってた。色のない世界でいいって思ってた。だって私は華やかでカラフルな世界を知らないから。知らないものに憧れることなんてできない。でもね、でもね…高志と出会って一緒にいて、私だってカラフルな世界を見たいって思ってしまったの…」
「芳江…」
「一緒に空の青さを喜びたいよ、深海魚の色を笑いたいよ、綺麗な海を見て感動したい。そして、そして…高志が選んでくれた赤いドレスを喜びたいよ…」
高志はなんて言葉をかけていいのか分からなかった。どうすることもできなかった。
「ごめんね、高志といると、わたし、この色のない世界が辛い…」
離れていく二人、その中心には歩行者信号の青が点滅していた。
数週間が経過した。あれから高志のもとに芳江から何も連絡はない。高志の手元にはあの日、あのままの赤いドレスが置かれている。部屋でボーっとして空を眺める。
「空の青か……」
ふいに携帯電話がなメールの着信を知らせた。芳江からだ。
「今日、石川の実家に帰ります。もう大阪には戻りません」
とだけ書かれていた。
「芳江…!」
高志はドレスの箱を持って飛び出す。今から駅に向かったとしても間に合わないだろう。けれども、走らなければいけないような気がした。地下鉄に乗って乗り換えてそこから環状線。絶対に間に合わない。駅へと向かう道中、横断歩道の信号が点滅をする。
「間に合わないか!」
赤になった瞬間、横断歩道に足を踏み入れて走りぬけようとする。その瞬間、トラックが急ブレーキをかけて高志の真横に止まった。
「ばかやろーしにてーのか!」
運転手の怒号が響き渡る。
「あれ、お前は?」
「え!?」
「あんときの威勢のいい兄ちゃん」
「お願いがあります!」
運転手の返事も聞かず、高志はトラックの助手席に乗り込んだ。
――大阪駅。
サンダバードの出発を告げるアナウンスがホームに流れる。芳江は名残惜しそうにホームの先に見える町並みを見た後、何かを決意したようにキュッと唇を噛み締めると、サンダーバードのドアをくぐった。
「芳江!」
階段を勢い良く高志が駆け上ってきた。
「高志!」
高志は乱れる呼吸を必死で整えながら、必死で言葉をつむぎだす。
「俺には正直、色のない世界で生きてきた芳江の辛さはわからない。けれども、見える俺がこういっては何なんだけど、本当に、芳江を失ってから毎日、世界に色がないんだ。全てのものが色が抜け落ちてしまったみたいに味気なく見えてしまう。俺なんかが言っていいのか分からないけど、芳江はこんな世界を生きてたんだって思うと、ずっと俺の海や空の色の話に心を痛めてたと思うと、俺、俺」
「高志……」
「俺、芳江が少しでもカラフルになれるようにいくらでも説明する。何時間でも何日でも、ずっとずっと色を説明するよ、どんな色か、どんな感じか、例えたらどんあものか、いくらでも説明する。言葉で説明する。言葉には力があるから。きっと伝わる。一緒に色を……」
芳江は高志の服の裾を掴み、ボロボロと涙を流している。
「ほら、このサンダーバードのここのラインの色は青色で、青色って言ってもそんなに青じゃなくて、ちょっと薄い青かな、でも水色まではいかない。イメージはさわやか、涼しい感じかな。うん、青は涼しい感じがする色で…」
けたたましく発車音が鳴り響き、サンダーバードは走り出していった。ホームに高志と芳江、赤いドレスを残して。
――大阪城公園
「綺麗だね、桜」
満開の桜の中を優雅に歩く高志と芳江。大騒ぎしている花見客の敷物の間を縫って歩く。
「桜は基本的にピンク色なんだけど、桜色って色もあるくらいで、ピンクはけっこう女の子が好む色かな。それの極めて薄い感じ。いずれにせよ春のイメージにぴったりの色で、桜のそれは和風、日本的な色の象徴にもなってて……」
延々と説明する高志の顔を芳江は笑顔で見ている。
「すごい綺麗だよ、桜の色」
「なっ」
たこ焼きの屋台の前に立つ二人、屋台の台の上に敷かれた赤い布を指差し、芳江が口を開く。
「これ、赤でしょ」
「え…!?」
驚く高志。
「私、赤だけはなんとなく分かるよ。りんごの色、トマトの色、私が結婚式で着たドレスの色、情熱的で燃え上がるイメージのある暖かい色、そうとってもとっても暖かい、高志みたいな色。そして、高志が照れてるときになる顔の色、これだけわかったら十分だよ。カラフルだね」
「芳江…!」
手を繋ぎ歩く二人を、舞い散る桜色の花びらが左右に揺らめきながら見守っていた。死ね。
あ、いいね、これいいね、死ねネガティブさを薄める表現として実にいい。さっそくこれはしめたアイデアだと、いつも死ねって言ってくる職場の女の子に提案したところ、話の十分の一も聞かずに
「意味分からん、死ね」
って言われました。さすがに僕もちょっとイラッときて
「あのね、そんな思ってもないのに軽い気持ちで「死ね」って言っちゃだめ、それに本当にそれで僕が死んだら後悔するんだから」
って言ったら、修羅の形相で
「軽くありません。本気で死ねって思ってますし、それで死んでも全く後悔しません。死ね」
っていわれました。まあ、本気ならいいわ。
3/21 たんけんぼくのまち-山谷ドヤ街後編-
前回までのあらすじ
山谷のドヤ街に降り立ったpatoは、訳の分からないバンに乗せられたり銀河系軍団と戦ったりしつつ、駐車料金よりも安い4畳の宿に宿泊するのだった。よくわからないと思うので詳細は昨日の日記で
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そりゃあ1200円で人並みの部屋に泊まれるとは思ってませんよ。きょうびちゃんとしたホテルに宿泊しようと思ったら田舎でも五千円から六千円くらいはしますから。こんな東京の真っ只中だったら一万円弱くらいはするんじゃないですか。それを1200円っすわ。色々と耐え忍ばないといけないに決まってる。
僕の宿泊したドヤについてもう一度おさらいすると、まず、フロントのジジイが不気味。いや、フロントなんて言葉を使うべきではないんですけど、どう見ても一般家庭みたいな玄関をくぐると銭湯の番台みたいになってるところに不気味なジジイがいましてね、で、こいつがビタイチ喋らない。こちとらドヤ初心者ですから「あのすいません」とか下手に出て教えを乞おうとしてるのに、完全無視。
仕方なくお金出したら、無言でルームキーを差し出してくるんですけど、これがまた今時こんな鍵ってあるんだろうかっていう。金持ちが集まる洋館の密室トリックに使われそうな鍵ですよ。それ受け取って鍵に貼ってある手書きの番号の部屋に行くんですけど、どうにもこうにも建物の造りがおかしい。明らかにはるか太古の時に別の目的で造られた建物を無理やりドヤに流用したとしか思えない造り。
部屋までの通路の脇に共同のトイレがあるんですけど、これがモロ一般家庭用で、おまけに使わなくても死ぬほど汚いってことが想像できる感じで、前を通るだけでモワンとアンモニア的なスメルが漂ってくるわけなんですよ。怖くて共同風呂なんて入れなかったんですけど、たぶん未知の深海生物とかいるんじゃないのかな、風呂に。
部屋に入るとこれまたすごくて、大方は予想してましたけどまず壁紙がすごい。たぶん昭和から替えてないどころか拭いてない。最初はそういう柄なのかなって思ってたんですけどどうやら汚れだった様子。その汚れをじっと見てると、苦しんで死んでいった人たちの怨念のようでなんとも不気味でした。
いざ部屋でまったりくつろぎ、夜も深まってきたので眠ろうとするんですけど、まあ、これが眠れない眠れない。なぜ眠れないかっていいますと、防音力の脆弱さですよ。もともと違う造りだったのをベニヤで仕切って壁紙張って誤魔化してるみたいなお茶目なところがありますから、音が漏れやすいとか少し壁が薄いかなとかそんなレベルじゃない。防音意識皆無。隣の人の息遣いすら聞こえる。
別に僕は神経質なたちじゃないので、少しくらい音が聞こえてきても平気なのですが、なんとまあ、隣の部屋の人、朝までずっとお経みたいな念仏みたいなの唱えてましてね、最初はドヤ側の粋なBGMかと思ったら、たまに間違えて最初からやり直しみたいになってるところとかありましたから臨場感あふれる生ライブだったんだと思います。
本当に洗ってないんだろうなって感じの布団に包まりつつ、延々とお経を聞きながら、壁の怨念みたいなシミを眺め、ドヤでの夜は更けていったのでした。ちなみに、暖房器具とかそもそも設置すら考えてないみたいな潔さがあった。
これはまあ、ドヤの中でもかなりリーズナブルな宿らしく、ドヤ街全体をくまなく回って調べてみたところ、標準的なドヤで相場が一泊2200円程度、かなりきれいなドヤと呼ぶよりはホテルみたいな造りのドヤも最近できたらしいのですが、こちらは設備もすばらしく、一泊3500円程度。下は1000円台前半から3500円くらいまで、ご予算に応じてかなり幅広く宿を選定できるシステムになっております。
朝5時。あまりの寒さにチェックアウトを決意する。ちなみにまだお経は聞こえていた。ここドヤ街の朝は早い。なにせ基本は日雇い労働者の街なのだから、その日の仕事にありつくためにオッサンたちは早朝から行動を開始する。まだ暗い朝5時のドヤ街に繰り出してみたのだけど、まあ、この時間から活気がすごい。
あの立ち飲み屋なんかキッチリ営業開始してて、朝から銀河系軍団が酒かっ食らっているし、雑貨屋とかも普通にオープンしてる。通りも沢山のオッサンが歩いていて活き活きとしている。間違いなく早朝こそがこの街のゴールデンタイムだ。
まだ薄暗い街を、このドヤ街のランドマークともいえる城北労働福祉センターに向かって歩く。日雇い労働者の労働と福祉に関して様々な補助を行う場所だ。なんでも時にはここで炊き出しが行われたりするらしい。
城北労働福祉センターに近づくにつれて、路上に座って飲んだくれているオッサンが増えてくる。また、座らないまでも3人ぐらいで固まって立ち話をしているオッサンもかなりの数に。センターに到着すると、結構な人数のオッサンが何も目的がない感じでたむろっていた。おそらくギャルがセンター街にたむろするの同じく、無意識にここに集まってくるのだろう。
センターには所在無くたむろするオッサンもいるが、千円程度の宿代も払えず、センターの軒先で寝泊りするオッサンたちの姿もチラホラみられる。春の足音が聞こえてきたとはいえ、早朝はかなり寒いこの時期、上半身素っ裸で体を拭き、体操をしているオッサンの姿、その横でアジアっぽい柄の意味不明な布に包まれてミイラみたいになって眠っているオッサン、その隣にはどこかから集めてきたっぽい空き缶の山が積みあがっているというシュールな光景が展開されていた。
日が昇りきり、ある程度良い時間、一般的に朝と呼ばれる時間になると、急速に街の活気がなくなる。おそらく、活気のある人は手配師の車に乗って日雇いの仕事に行ってしまうのだろう。残るのは仕事にあぶれた人、そもそも働く気がない人、飲んだくれた人である。そりゃあ活気がなくなる。
前回も述べたようにここドヤ街は完全にドヤだけで形成されているわけではなく、一般的な住宅やマンションも混在する。その一般的な住宅の人たちが通勤通学で颯爽と通りを歩く中、通りの端では飲んだくれがベロベロになっているというかなりシュールな光景を至る場所でみることができる。
センターから少し移動すると、薄暗いアーケードを構えるいろは会商店街にでる。こちらは明日のジョーを強烈にフューチャーしているらいく、あちこちにポスターが張ってある。中の商店は意外と普通で、古き良き商店街といった趣だが、中には350円弁当を筆頭に、200円弁当など、違う国に来てしまったのではないだろうかというデフレ弁当屋があったりする。
鳥取県境港市の商店街は多くの店が潰れ、シャッター商店街として虫の息だったが、ある奇策によって息を吹き返した。商店街に等間隔で妖怪のオブジェを置くことにより、「水木しげるロード」として多くの観光客を引き寄せ、瞬く間に息を吹き返したのである。
ここ、いろは会商店街も不景気の波かシャッターを閉じた店を多く見ることができる。しかしながら、通りには飲んだくれたオッサンが等間隔でベロベロになっており、オブジェと化している。この商店街の復興も近い。
商店街を歩いていると、時折、パカン、パカンという小気味の良い音を聞くことがある。なんだろうと辺りを見回しても何の音か分からない。注意してみていると、オブジェのオッサンたちがワンカップの蓋を開ける音だった。ちょっと感覚が麻痺していたけど、よくよく考えたら昼間から商店街の通りの脇に座りワンカップを飲んでいるってのは結構とんでもないことだ。
いろは会商店会を左に折れてまたドヤ街に入ると、またオッサンたちが人垣を作っている現場に出くわした。何事かと近づいてみると、どうやら喧嘩らしい。酔っ払いオッサン二人が大声を張り上げて喧嘩している。
「ワーガーケンタケルソ!」
もう酔っ払いすぎて異国の言葉みたいになってるんですけど、大声を張り上げるオッサンA。自分の言葉に自分で興奮し、セルフヒートアップしてるみたいな感じだった。対するオッサンBは大声は張り上げないものの、挑発的な仕草で応戦。周りのオッサンたちも口々に囃し立てて二人を煽る。なんかストⅡのブランカの面みたいになってた。
結局、殴り合いの喧嘩は始まらず、ベロベロのオッサンAのほうが酔拳みたいな動きになって、そのまま倒れてしまったので喧嘩はそのまま終了。オッサンBが何もしてないくせにやってやった、みたいなドヤ顔になった瞬間、これこそがドヤ街の真髄だと思った。
今回、山谷のドヤ街を巡り普段では体験できない様々なことに遭遇した。小奇麗なドヤが建設されたり、日雇い労働者ではなくバックパッカーの宿泊が増えてきたり、おまけに女性も来るようになったりと、山谷のドヤ街も変わりつつあるらしい。変わりつつある山谷ドヤ街。しかし、街は変われど、路上にたむろする愛すべきオッサンたちはいつまでも変わらないで欲しい。そう願ってやまなかった。
ということで「たんけんぼくのまち-山谷ドヤ街編-」はおしまい。次回はニューヨークハーレム編でお会いしましょう。
3/20 たんけんぼくのまち-山谷ドヤ街前編-
ドヤ街、ちょっと育ちの良いお嬢様、バイブとか見たことなくてウィンウィン左右に動くバイブを持ちながら「何かしら、これって調理器具かしら?」とパールみたいなもんが埋め込まれているバイブ片手に首をかしげているようなお嬢様なら聞き覚えがない言葉だと思いますが、どうか落ち着いて聞いてください。
ドヤ街のドヤとは、宿を逆さにした言葉であり、簡易宿泊所のことを指します。戦後の高度成長期に日雇いの仕事を斡旋する「寄せ場」が作られ、日雇い労働者が多く集まる場所が作られました。そうなるとその日雇い労働者が寝泊りする場所が必要となるわけで、低料金で手軽に利用できる簡易宿泊所が多数立ち並ぶようになっていったのです。
海外などでよく見るスラム街とは異なり、完全にその地域がドヤで占めらているわけではなく、いわゆる普通の住宅や商店、事務所なども混在するのが特徴である。(参考:wikipedia)
このドヤ街は、大阪のあいりん地区と東京の山谷が二台ドヤ街として有名である。特にあいりん地区の方は2008年に大規模な暴動を起こしており、やはりいくら普通の施設も混在している、と言ってもやはり他所の地区とは違う何かがあると感じるのだ。
以前、僕はこのNumeriの日記において、西の横綱であるあいりん地区を闊歩してみたのだが、ちょっと歩いただけで道路のど真ん中に大量の家具が置かれている意味不明な場面に遭遇したり、4つタイヤを盗まれた車が放置してあったり、何でもない普通の通りからパンツ一丁のオッサンがベロベロに酔った状態で出てきたり、それに面食らっているとそのオッサンが綺麗に研がれた出刃包丁を持っているのに気がついて脱兎の如く逃げたりと、途方もないカルチャーショックを受けたものだった。
ドヤ街は昔ほどじゃない、今はマイルドになったもんさ、他の場所と変わらんよ。とか現地のオッサンは言っていたけど、絶対にそんなことはない。渋谷のセンター街をパンツ姿のオッサンが包丁もって歩いているわけがない。絶対に違う。
さて、大阪のドヤ街のことを思い出すと、ついでにホモが集まるポルノ映画館に入って死ぬ目にあったこともフラッシュバックしてくるのだけど、そんなことは遠い過去に置き去って、今現在の話をします。実は僕、この文章をいま、東の横綱であるドヤ街、山谷の簡易宿泊所で書いています。そう、西の横綱を攻めたなら東の横綱も攻めなければいけない。ということで、「たんけんぼくのまち-山谷ドヤ街編-」はりきっていきましょう!
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JR常磐線、東京メトロ日比谷線、つくばエクスプレス、これらの路線が乗り入れる南千住駅に山谷のドヤ街は存在する。ドヤ街へは東京メトロが最もアクセスが良く便利であるが、今回はJRを使っていってみた。
日暮里駅からE233系に揺られること数分、たったの二駅で南千住駅に到着する。駅のホームに降り立つと、高架駅のため眺めが良く、正面に東京スカイツリーがそびえたっている光景が目に飛び込んでくる。その脇には何棟かの綺麗なタワーマンションが立っており、おしゃれなショッピングセンターらしき建物まで確認できる。
駅舎自体も綺麗で面食らう。駅を出ても目に入る光景は意外そのもので、3路線が入り乱れる線路が綺麗に、そして立体的に整理されている。あいりん地区に見られたような、いかにも、といった雰囲気は感じられない。駅前を少しブラブラと歩いてみたが、見るからに勝てそうにないパチンコ屋があったり、小さな定食屋があったり、中学生が良くわからない水色のジャージを着ていたり、至って普通の駅前風景が広がっていた。
東京メトロ日比谷線の方に行くと、出口の前の大きな歩道橋が目に飛び込んでくる。この歩道橋の向こうが山谷になるわけだが、これがまた大きい。自転車でも登れるよう螺旋状のルートと普通の階段ルートが併設されており、さらには登ってからもかなり距離が長い。駅のこちら側には普通の路線以外にもJR貨物の隅田川駅、東京メトロの車両基地があるため、かなり線路が密集しており、それらをこの歩道橋で一跨ぎするため、このような構造になっているのだと思う。ちなみに歩道橋の看板には「あそぼう!」と赤のスプレーでラクガキがなされている。ちょっと良くわからない。
歩道橋を渡るとそこはもうドヤ街のテリトリーだ。時間帯にも夜が、相手のテリトリーに入ったことはすぐに実感できる。すれ違う人のオッサン率が8割以上に跳ね上がるのだ。それもブラウンか紺系でコーディネートしたオッサンが多い。とにかく、競馬場でもないのに競馬場に来てしまったような雰囲気になる。
歩道橋からまっすぐ行くと、かの有名な「泪橋」がある。正確には川も橋もなく、交差点の名前で「泪橋」と表記されている。あしたのジョーに登場する有名すぎる地名だ。この泪橋交差点の一角には「セブンイレブン 世界本店」という途方もないスケールのコンビニがある。中の客は一見しただけでオッサン率が高いのがわかる。利用客の大半はドヤ街関係者じゃないだろうか。現に、オッサンは買わないのか、ちょうどキャンペーン中のモンスターハンターの一番くじが全く売れてなかった。
セブンイレブンを右手に見てさらに奥に進むと、コインパーキングの看板が目に入る。24時間連続駐車で1400円と、なかなかの料金設定。このあたりからは右に行っても左に行ってもドヤが立ち並ぶ完全無欠のドヤ街だ。とりあえず左側に行くと、11人ほどのオッサンどもが路上でたむろしている場面に出くわした。
どのオッサンも見るからにドヤ街で、ドヤ街のファッション雑誌があったら絶対にスナップ撮られるといった風貌。僕はこの完全無欠のドヤ11人のオッサンをドヤ界の銀河系軍団と命名して崇拝することに。そんな11人も集まってなにやっているのかというと、ほぼ路上で営業しているとしか言えないような立ち飲み屋で競艇を見ながら大ハッスルだった。ちなみにこの立ち飲み屋、競艇が終わる午後四時には閉店し、銀河系軍団も解散していた。閉店早すぎるだろ。
さらに奥へ奥へと進むと、様々なドヤが立ち並んでいる。一見すると普通の民家っぽい門構えをしているのに、ガラス戸には「冷暖房完備、カラーテレビあります」と書かれている。自動販売機は基本100円で、中には80円の自動販売機も、どうもこの街は看板は基本的に手書きらしく、これらの表示がすべて紙に手書きをして貼り出されていた。
しばらく進むと、ドヤに紛れて小さなパチンコ屋がポツンと佇んでいる。「新台入れ替え!」という勇ましい看板に惹かれて入ってみると見たことないマニアックな台が多数並んでおり、客も3人くらいしかいなかった。全部で50台くらいの小さな店だが、すごい貴重なマニア台とか普通に置いてあってビックリした。
さて、さらに周囲を徘徊していると、確かにドヤが多く、さらには福祉系の建物、おまけに荷物を入れるのか普通の街角にいきなりコインロッカーがあったりと、普通の町並みではないのだけど、確かに民家やオシャレなマンションなどが混在している。大阪のあいりん地区のような、近づいてはいけないようなオーラも感じない。パンツ姿のオッサンもいない。
今度は道路を挟んだ向かいのエリアを散策しようと移動を開始する。反対側にも山谷の象徴とも言える城北労働・福祉センターや、いろは会商店街など見所が多い。もちろん、かなり濃厚なドヤも多数存在する。反対サイドに行くべく、吉野通りを横断しようと信号待ちをしていると、目の前にバンが止まった。何事かと見ていると、その助手席からカリフラワーみたいな頭をしたオバサンが降りてきてキッと僕を睨みつけると
「イモダさんでしょ?」
と話しかけてくるではないか。なんか怖い。目がいっちゃってる。
「イモダさんでしょ?」
よく分からないけど、どうもイモダって人と勘違いされているらしく、まったく要領を得ない。
「いいえ、違います」
と言うと、なぜかババア大激怒。
「あんたはいつもそうやってとぼけるから面倒くさい!わたしゃしってる。あんたはイモダ!」
全く話が見えないのだけど、ここまでい言われるともしかしたら自分はイモダなる人物だったんじゃないかと思えてくる。
「はい、イモダかもしれません」
と答えると、ババアは再度激怒し、
「最初からそういいなさい!めんどうくさいわ!ほれ、乗った乗った!」
と、スライドドアを開けて僕を車に押し込めようとする。怖い。何されるんだ。とりあえずバンの中に入ると、虚ろな目をしたオッサンが3人、後部座席に押し込められており、2人は寝てた。一人は外を見ていて僕の存在にすら気づいていない様子。どこに連れて行かれて何をされるのか分からないけど、とりあえず挨拶をと思った僕は
「すいません、イモダと申します」
と挨拶すると、バン!とすごい音でババアが助手席に乗り込み、車が走り出しました。怖い、どこ行くんだ、とか思ってるとババアが
「止めて!」
と車を止めさせ、後部座席、つまり僕の顔をマジマジと見て
「あんた、イモダじゃないわ!降りな!こんなデブじゃねえわ」
と、大変な失礼なことを言われてしまい、僅か数秒で降ろされてしまいました。なんだったんだ、イモダ。
降ろされたのが「ポプラ」というコンビニの前で、ポプラは赤が目印の、広島を中心にチェーン展開をするコンビニで、関東ではかなりレアな存在なのだけど、ここ山谷には至近距離に2軒のポプラがあります。ポプラは弁当を買うとホカホカのご飯を詰めてくれるスタイルなので、その辺が山谷では人気なのかもしれません。弁当おいしいので、お近くにポプラがあるかたは是非!ちなみにここのポプラは夜23時に閉店します。
とりあえず、予定が狂ったというか、もう暗くなってきたので散策は明日に持ち越すことにして、今日泊まるドヤを選定することに。適当に歩き回り、吟味に吟味を重ねた結果、1泊1200円、女性お断りというかなり硬派なドヤに宿泊することに。3泊したら4泊目が無料という訳の分からないシステムでしたが、とりあえず1泊することに。
ちなみに、人間が一晩泊まって1200円、冒頭に登場したコインパーキングに思いを馳せてみると、一晩車を止めて1400円です。もはや車の方が上等なところに泊まってる。
そんなこんなで部屋に通されると、4畳の部屋で異様に狭く、風呂とトイレは共同、布団を敷いたら他に何のスペースもないという状態に。ちなみに隣との仕切りがベニヤっぽかった。すげえな、こんなギリギリな場所に寝るんだ。と思ってドアを見ると手書きの紙に
「定員2名」
って衝撃のキャパシティが記述してありました。この場所でどうやって2人寝るんだよと戦慄し、ドヤ街の夜は更けていくのでした。
つづく
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