宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、小型ロケット「イプシロン」1号機の打ち上げに成功した。ITを駆使するなどコストを大幅に減らした革新的な打ち上げ方式の成功で、日本の宇宙技術開発は新たな一歩を踏みだしたといえよう。
イプシロンは、日本にとって12年ぶりの新型ロケットだ。固体燃料型としては、高性能ながらコスト高を理由に2006年に引退したM5ロケットの後継機に位置付けられている。
低コスト化を図るため採用した革新技術の一つが「人工知能」による機体の自動点検である。各種の制御や通信の機器ごとに、人手をかけて点検していた従来の仕組みを一新した。知能を備えたロケット自身が打ち上げ前に自らを点検し準備完了を知らせる。
これにより、作業員を減らし、発射場での組み立てから打ち上げまでにかかる期間を、これまでの6分の1となる約1週間に短縮した。ネットワークにつなげたパソコンで機動的に運用する「モバイル管制」システムも構築することで、少人数による管制を実現している。
開発費も既に実績のある既存技術を積極的に取り入れるなどして抑制に努めた結果、打ち上げ費は約53億円となり、約75億円だったM5の7割に抑制された。
JAXAは将来的には、M5の半分以下の30億円を目指すという。打ち上げの低コスト化はロケットの利用拡大につながることが期待でき、意義は大きい。
ただ一方で、トラブルで打ち上げ日が2回も延びたことは大いに反省すべきだろう。2回目の8月27日はロケットと地上管制装置の通信がわずかにずれ、見守っていた多くのファンもがっかりさせた。これらの経験で得られた知見や教訓を、今後の打ち上げにも十分生かしてほしい。
日本は従来、宇宙に関する事業では研究開発に重点が置かれ、人工衛星の打ち上げ実績や価格競争などでは欧米勢に後れを取ってきた。イプシロンで開発した低コストで機動的な打ち上げ方式を、日本の宇宙産業育成の強力な“武器”にすることが重要だ。
イプシロンが打ち上げる小型衛星をめぐっては新興国の需要が注目されている。こうした国からの宇宙ビジネスの受注拡大に向け、日本は官民が緊密に連携することが欠かせない。
昨年5月には、国産の主力ロケット・H2Aが初めて海外衛星の商業打ち上げに成功した。人工衛星の大型化への対応などが課題となっていることから政府は、H2Aの後継となる大型の「H3(仮称)」開発も決め、20年度の打ち上げを目指している。
一層の技術力の向上やコスト削減を進めるとともに、大型、小型の二つのラインアップを生かして、宇宙産業の国際競争力を高めることが求められる。