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【社説】

2020年東京五輪・成功の条件 原発事故を封じ込めよ

 二〇二〇年の五輪開催を勝ち取ったとはいえ、成功に導くまでのハードルは高い。東京勢が売り込んだ「安心、安全、確実」。世界から後ろ指をさされないよう原発事故の封じ込めが欠かせない。

 「財布が潤うかな」「子どもの夢が膨らみそう」。アルゼンチンから朗報が届き、東京の街角には笑顔があふれた。日本世論調査会の六月の調査では八割強が招致に賛成していた。多くの人々が歓喜に沸いただろう。

 五輪の開催にはさまざまな面で大きな期待が寄せられている。

 二〇年までの経済波及効果は三兆円近くに上り、十五万人を上回る雇用が生み出される。昨年六月に東京都が公表した試算だ。十五年に及ぶデフレの克服と景気の上昇に弾みがつくかもしれない。

 トップアスリートの勇姿は閉塞(へいそく)感が漂う日本の社会に夢と希望を与えてくれるだろう。激しい競争と貧困、残酷なまでの就職難、少子高齢化に伴う負担の増大。先行き不透明な時代を生き抜く元気と勇気が湧くに違いない。

 その半面、もろ手を挙げて喜ぶ心境になれない人も多いのではないか。最大の気がかりはほかでもない、福島の原発事故の行方だ。

 とりわけ汚染水漏れの問題には、海外メディアから厳しい視線が注がれている。国際オリンピック委員会(IOC)の総会本番でも案の定、委員から質問が出た。

 国内ではともすると日常の風景に埋没しがちだが、世界は不安を覚えている。安倍晋三首相は「状況はコントロールされている。決して東京にダメージを与えない」と強調したが、説得力を欠く。

 原発の敷地内では刻一刻と大量の汚染水が発生し、海に流出しているのだ。政府が前面に立って対策に乗り出す方針を打ち出したのはIOC総会の直前だった。

 招致を有利に運ぶための方便だったのではないか。疑念を晴らすには情報を公開しつつ有効な手だてを素早く講じることだ。国の信用が懸かった国際的な約束だ。

 東京さえ安泰であれば事足りると響く発想も戒めたい。福島をはじめ東日本大震災の被災地の切り捨てにつながりかねない。

 選手が落ち着いて競技に集中でき、観衆が安心して泣き笑いできる環境は被災地の復興抜きには成り立たない。立ち直った東北と首都東京の健在ぶりを示すことこそが最善のおもてなしになる。

 

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