主 文
一 甲事件、乙事件及び丙事件原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、甲事件、乙事件及び丙事件原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求 一 甲事件 二 乙事件及び丙事件
第二 事案の概要 (甲事件) (乙事件及び丙事件)
一 争いのない事実等 二 争点
第三 争点に対する判断
一 甲事件について 二 乙事件及び丙事件について
第四 結論
判決文
平成一二年三月二一日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成五年(ワ)第二三八二一号 謝罪広告等請求事件(甲事件)
平成七年(ワ)第二三二八九号 謝罪広告等請求事件(乙事件)
平成一○年(ワ)第八号 選定者に係る請求の追加事件(丙事件)
口頭弁論終結の日 平成一一年一二月七日
判 決
静岡県富士宮市上条二〇五七番地
甲事件、乙事件及び丙事件原告 日 蓮 正 宗
右 代 表 者 代 表 役 員 阿 部 日 顕
右同所
甲事件、乙事件及び丙事件原告 大 石 寺
右 代 表 者 代 表 役 員 阿 部 日 顕
甲事件、乙事件及び丙事件原告ら訴訟代理人弁護士
井 上 治 典
同 樺 島 正 法
同 菅 充 行
同 有 賀 信 勇
同 大 室 俊 三
同 荘 司 昊
同 川 下 清
甲事件及び乙事件原告ら訴訟代理人弁護士
小 長 井 良 浩
同 藤 田 泰 弘
同 田 村 公 一
同 西 村 文 茂
甲事件原告ら小長井良浩訴訟復代理人弁護士
尾 崎 高 司
右同所
丙事件原告ら選定者 阿 部 日 顕
東京都新宿区信濃町二三番地
甲事件、乙事件及び丙事件被告 池 田 大 作
東京都新宿区信濃町三二番地
甲事件、乙事件及び丙事件被告 創 価 学 会
右 代 表 者 代 表 役 員 森 田 一 哉
甲事件被告ら訴訟代理人弁護士 倉 田 卓 次
同 宮 原 守 男
同 倉 料 直 文
同 佐 藤 博 史
同 浜 四 津 尚 文
東京都新宿区左門町一五番地三号
乙事件及び丙事件被告 創価学会インターナショナル
右 代 表 者 理 事 長 和 田 栄 一
乙事件及び丙事件被告ら訴訟代理人弁護士
福 島 啓 充
同 若 旅 一 夫
同 新 堀 富 士 夫
同 桝 井 眞 二
同 熊 田 士 郎
同 谷 口 亨
同 井 田 吉 則
同 成 田 吉 道
同 海 野 秀 樹
同 澤 田 直 宏
同 松 村 光 晃
同 築 地 伸 之
同 山 下 幸 夫
主 文
一 甲事件、乙事件及び丙事件原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、甲事件、乙事件及び丙事件原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 甲事件
1 甲事件被告らは、甲事件原告らに対し、聖教新聞社の発行する聖教新聞及び創価新報の各第一面最上段並びに大白蓮華及びグラフSGIの各表紙裏全頁を使用して、全四段で、別紙一記載の謝罪広告を、別紙二記載の条件で、各三回掲載せよ。
2 甲事件被告らは、甲事件原告らに対し、連帯して、各金一○億円及びこれに対する平成五年三月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 乙事件及び丙事件
1 乙事件及び丙事件被告らは、乙事件原告ら及び丙事件原告ら選定者阿部日顕に対し、聖教新聞社の発行する聖教新聞及び創価新報の各第一面全頁並びに大白蓮華及びグラフSGIの各表紙裏全頁を使用して、別紙三記載の謝罪広告を、別紙四記載の条件で、各三回掲載せよ。
2 乙事件及び丙事件被告らは、乙事件原告ら及び丙事件原告ら選定者阿部日顕に対し、連帯して、各金一億円及びこれに対する平成七年一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
(甲事件)
本件は、甲事件原告らが、甲事件被告創価学会は、平成四年六月一七日から、創価新報及び聖教新聞上に、甲事件原告らの代表役員である阿部日顕(以下「阿部」という。)が、昭和三八年に甲事件原告日蓮正宗の教学部長としてアメリカ合衆国へ第一回海外出張御授戒に赴いた際、同年三月二〇日深夜、ワシントン州シアトル市で買春を行い、買春婦と金銭トラブルを起こして警察の厄介になったこと等の内容の記事を掲載したことにより甲事件原告らの名誉を毀損し、また、甲事件被告創価学会の名誉会長である甲事件被告池田大作は、右名誉毀損行為の指導等を行ったとして、甲事件被告らに対し、不法行為に基づいて、謝罪広告の掲載及び損害賠償を求めている事実である。
(乙事件及び丙事件)
本件は、乙事件及び丙事件原告らが、乙事件及び丙事件被告創価学会は、創価新報及び聖教新聞上に、丙事件原告ら選定者阿部が昭和三八年三月にシアトル市で売春勧誘の嫌疑で警察から職務質問を受けたという記録がアメリカ連邦政府に存在するなどの趣旨の記事を掲載したことにより、乙事件原告ら及び丙事件原告ら選定者阿部の名誉を毀損し、乙事件及び丙事件被告創価学会インターナショナルは、創価学会インターナショナルーUSAニューズレター上に同趣旨の記事を掲載するなどして、右名誉毀損行為に協力するなどし、また、乙事件及び丙事件被告池田大作は、右名誉毀損行為を指導したとして、乙事件及び丙事件被告らに対し、不法行為に基づいて、謝罪広告の掲載及び損害賠償を求めている事案である。
一 争いのない事実等
以下の事実は当事者間に争いがないか、証拠上明らかに認められる。
1 当事者等
(一) 原告ら
(1) 甲事件、乙事件及び丙事件原告日蓮正宗(以下「原告日蓮正宗」という。)は、宗祖日蓮大聖人の立教開宗の本義である弘安二年の戒壇の本尊を信仰の主体とし、法華経及び宗祖遺文を所依の経典として、宗祖により付法所伝の教義を広め、儀式行事を行い、広宣流布のため信者を教化育成し、寺院及び教会を包括し、その他この宗の目的を達成するための業務及び事業を行うことを目的とする宗教法人である。
(2) 甲事件、乙事件及び丙事件罪告大石寺(以下「原告大石寺」という。)は、多宝富士大日蓮華山大石寺と称し、正応三年一〇月、宗祖日蓮大聖人の法嫡第二祖日興上人によって開創された全国に七〇〇以上の末寺を有する原告日蓮正宗の総本山であり、宗祖日蓮大聖人所顕十界互具の大曼茶羅(右(1)の弘安二年の戒壇の本尊)を本尊として、日蓮正宗の教義を広め、儀式行事を行い、広宣流布のため信者を教化育成し、その他正法興隆、衆生済度の浄業に精進するための業務及び事業を行うことを目的とする宗教法人である。
(3) 阿部は、原告日蓮正宗及び原告大石寺の代表者代表役員である。
(二) 被告ら
(1) 甲事件乙事件及び丙事件被告創価学会(以下「被告創価学会」という。)は、日蓮大聖人御建立の本門戒壇の大御本尊を本尊とし、日蓮正宗の教義に基づき、弘教及び儀式行事を行い、会員の信心の深化、確立を図り、もってこれを基調とする世界平和の実現と人類文化の向上に貢献することを目的とし、これに必要な公益事業、出版事業及び教育文化活動等を行う宗教法人である。
(2) 甲事件、乙事件及び丙事件被告池田大作(以下「被告池田」という。)は、昭和三年一月二日に生まれ、昭和三五年五月三日、被告創価学会第三代会長に就任し、その後、昭和五四年四月二四日、被告創価学会の名誉会長に就任し、被告創価学会における最高指導者である。被告池田は、乙事件及び丙事件被告創価学会インターナショナル(以下「被告SGI」という。)の創立以来、被告SGIの会長をも務めている。
(3) 被告SGIは、昭和五〇年一月二六日に創立され、日蓮正宗の教義に基づき、日蓮大聖人の仏法を根底とする個人の幸福、その国や社会の繁栄及び世界平和の実現の達成に寄与することを目的として、これと目的を同じくする各国の団体で構成する団体であり、その本部は、日本にある被告創価学会本部内に置かれている。
(4) 被告創価学会は、昭和五年二月一八日、牧口常三郎を会長とする創価教育学会として発足し、その後、原告日蓮正宗を外護する信徒団体であったが、平成三年一一月二八日、原告日蓮正宗より破門され(乙一四二)、被告池田も、平成四年八月一一日、原告日蓮正宗より信徒除名処分を受けた。
(5) 聖教新聞及び創価新報は、被告創価学会が発行する機関紙である。
2 被告創価学会による本件第一記事の報道等
(一) 被告創価学会は、平成四年六月一七日付け創価新報、同年六月二二日付け聖教新聞、同月二九日付け聖教新聞、同年七月一日付け創価新報、同月一五日付け創価新報、同月一八日付け聖教新聞、同月二三日付け聖教新聞、同年八月五日付け創価新報の各紙上において、阿部が、昭和三八年三月、アメリカ合衆国へ第一回海外出張後授戒に行った際、ワシントン州シアトル市において、深夜、売春婦と金銭をめぐってトラブルを起こし、警察沙汰になったとの事件(以下、この事件のことを総称して「本件事件」という。)等に関する報道を行った(甲一ないし八の三。以下、これらの八回にわたる記事をそれぞれ「本件第一記事(一)」ないし「本件第一記事(八)」といい、これらを合わせて「本件第一記事」という。)
(二) 被告創価学会は、平成四年八月二六日付け聖教新聞に、「熊田士郎弁護士″シアトル地獄″で断末魔の日顕」との見出しを付した記事を掲載した(甲三〇九の四二枚目)。被告創価学会は、平成四年八月二七日付け、同月二九日付け、同年九月一日付け、同月四日付け、同月八日付け及び同月一二日付けの各聖教新聞に、「法主日顕 その異常性を診る」との見出しを付した記事を掲載した(甲一四〇の一ないし六)。
3 被告池田によるスピーチ等
(一) 被告池田は、平成四年九月一二日、東京都豊島区所在の東京戸田記念講堂での青年部男女幹部会、学生部第三六回総会、未来部第五回総会において、スピーチを行った(甲九のー、二。同スピーチは同月一四日付け聖教新聞に掲載されている。以下「本件スピーチ等(一)」という。)。
(二) 被告創価学会発行の平成四年九月一六日付け聖教新聞に、「池田名誉会長 青年との『つれづれの語らい』」と題する連載対談記事(第一〇回)が掲載されており、その中に被告池田のコメントが掲載されている(甲一○。以下「本件スピーチ等(二)」という。)。
(三) 被告池田は、平成四年一○月二二日、兵庫県氷上町所在の関西池田記念墓地公園内池田講堂での本部幹部会、婦人部幹部会、関西常勝総会、兵庫県総会において、スピーチを行った(甲一一の一、二。同スピーチは同月二四日付け聖教新聞に掲載されている。以下「本件スピーチ等(三)」という。)。
(四) 被告池田は、平成五年三月一三日、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ市でのアメリカ最高会議において、SGI会長として、スピーチを行った(甲一二。同スピーチは同月一五日付け聖教新聞に掲載されている。以下「本件スピーチ等(四)といい、本件スピーチ等(一)ないし(四)を合わせて「本件スピーチ等」という。)。
4 被告創価学会による本件第二記事の報道
被告創価学会は、平成七年一月八日付け聖教新聞、同月一八日付け及び同年二月一日付け創価新報の各紙上において、本件事件に関する決定的な証拠(阿部が買春勧誘の嫌疑で警察から職務質問を受けたという記録)がアメリカ連邦政府内にあるという報道を行った(甲A五ないし八。以下、これらの三回にわたる記事をそれぞれ「本件第二記事(一)」ないし「本件第二記事三)」といい、これらを合わせて「本件第二記事」という。)。
5 一九九五年一月九日版(一月六日発行)ワールド・トリビユーンの別冊ないし付録である創価学会インターナショナルーUSAニューズレターに、本件事件に関する記録(阿部が売春勧誘の嫌疑で警察から職務質問を受けたという記録)がアメリカ連邦政府内に存在するという記事が掲載された(甲A九。以下「本件第三記事」という。)。
二 争点
1 甲事件について
(一) 謝罪広告の掲載を求める訴えの適法性
(被告らの主張)
原告らの謝罪広告の掲載を求める訴え(前記第一請求一1)は、次のとおり、不適法な請求であり却下されるべきである。
(1) 本件訴えにおいて原告らの求める謝罪広告は、広告方法の相当性もさることながら、その内容において、名誉回復処分に名を借りて、被告らに対し、原告ら及び阿部に対する宗教的尊崇その他の特別な人格的・宗教的評価の表明を求めるものであり、裁判所が介入判断すべきでない事項に関する請求であつて、明らかに不適法である。
(2) また、原告らの求める謝罪広告は、いたずらに感情的な表現を羅列した上、被告創価学会の本件報道目的等について原告らの的外れな邪推の表明を求めるものであり、事態の真相を述べ、これについて陳謝の意を表明する程度をはるかに凌駕し、謝罪広告として認められる限界を逸脱するものであって、憲法一九条及び一三条に反する不適法な請求である。
(3) しかも、原告らの求める謝罪広告は、実質的には原告らとは別の主体である阿部に対する謝罪を求めるものである。このような請求は原告らのすべき謝罪広告請求としてその利益を欠くものであるから不適法である。
(原告らの主張)
被告らの主張の実質は、原告らの求める謝罪広告の表現が過大であるとする実体に関する主張に過ぎず、本案前の抗弁とはなりえない。また、原告らの求める謝罪広告は、事実を告白し陳謝の意を表明する程度を超えるものではなく、謝罪広告請求の限界を何ら逸脱するものではない。
(二) 本件第一記事の報道の内容及びこの報道による原告らの名誉の毀損
(原告らの主張)
(1) 被 (告創価学会は、被告池田の指示を受け、被告池田と共同して、本件第一記事(本件事件に関する部分に限る。)を報道して、後記(2)の各事実を摘示し、これによって後記(3)のとおり、宗教法人である原告らの名誉及び信用を毀損した。よって、被告創価学会は、被告池田と共に共同不法行為責任(民法七〇九条、七一九条)を負う。また、被告創価学会は、宗教法人法一一条一項に基づき、代表者である被告池田の行った不法行為(後記(三)(原告らの主張))について責任を負う。
(2) 本件第一記事の報道により摘示された主要な事実は、次のとおりである。
(ア) 原告らの代表者である阿部は、原告日蓮正宗の教学部長として第一回海外出張御授戒のためアメリカに赴いた際、昭和三八年三月一九日から二〇日にかけての深夜、シアトル市ダウンタウンの路上で、売春婦に身振り手振りで、「金を払うから、是非ともヌード写真を撮らせてくれ」と頼み、売春宿に入って、一人の売春婦にヌード写真撮影を要求し、もう一人の売春婦と性行為をした。
(イ) 阿部は、買春料をきっちり支払わず、買春婦とトラブルを起こし、現場パトロール警官の介入を受け、事情聴取・買春犯罪捜査の対象とされて泣き崩れていた。
(ウ) 阿部は、警察署への出頭を求められたのに、女性であるヒロエ・クロウ(クロウ宏枝。以下「クロウ」という。)を身代わりに立て、自らは難を逃れた。
(エ) 警察は、売春婦から事情を聴取し、ヌード写真撮影の要求及び性行為が終わった旨の供述を得て、その顛末が警察調書に記録された。
(3) 右(2)の本件第一記事において摘示された各事実及び次の諸事情によれば、本件第一記事が、原告らという法人の名誉及び信用を毀損するものであることは明らかである。
(ア) 原告日蓮正宗は、包括宗教団体として、原告大石寺を包括し、原告大石寺は、原告日蓮正宗の総本山として、その根本に位置しており、一般には、原告日蓮正宗と同一のものと観念されている。また、本件第一記事などによる一連の報道において、「宗門」又は「日顕宗」等の言葉が用いられているが、これらは、原告らを一括して指すものとして用いられており、右報道は、原告らに向けられた攻撃である。
(イ) 本件第一記事において、本件事件は、阿部が原告日蓮正宗の教学部長として渡米した際の行動に関するものであることが明記されている上、阿部は、原告らの代表者であるのみならず、原告らの全僧俗から優れて高い尊崇を受け、特別な権能と権威を有し、原告らという宗教法人を代表する最高位聖職者の地位にあることからすれば、阿部の法主としてのあり方や名誉及び信用は、原告らの名誉及び信用に深く関わっているのであって、原告らの信仰の中心であり、宗教上の指導者である阿部の名誉を毀損することは、原告らの名誉を毀損することになる。
(被告らの主張)
(1) 本件第一記事により摘示した主要な事実は、「阿部が、一九六三年三月一九日から二〇日にかけて、第一回海外出張御授戒のために訪れたアメリカ合衆国ワシントン州シアトル市において、深夜単身で歓楽街に繰り出し、買春をめぐり売春婦と金銭トラブルを起こして警察沙汰になるという大破廉恥行為をした。」というものである。
(2) 本件第一記事の報道は、いずれも、原告日蓮正宗の僧俗に対し、阿部が、その信心、人格及び振舞いにおいて原告日蓮正宗の法主としてもともと不適格であり、同人に従うことが信仰上誤りであることを示すために掲載したものである。また、被告創価学会及びその会員は、現在もその構成員のほぼ全員が日蓮正宗の信者であり、原告らの健全な発展を強く祈っているものである。被告創価学会は、むしろ、原告らの健全な発展を妨げている元凶が阿部であり、原告らの健全な発展のためには、阿部を法主から退座させることが必要不可欠であるため、同人の法主就任後の腐敗堕落の姿を報道してきたものであり、その過程において、法主就任以前においても、教学部長という要職にありながら、しかも第一回海外出張御授戒という歴史的意義ある重要な行事の際に、信じがたい破廉恥行為を行っていたことが判明したため、本件第一記事を報道したのである。したがって、本件第一記事は、阿部個人を批判の対象として糾弾しているものであって、原告ら法人に対して向けられたものではなく、原告らに対する加害行為の実質を有するものではないから、本件第一記事は、原告らの名誉を毀損するものではない。
(三) 被告池田が、被告創価学会による名誉毀損行為の指導等を行ったかどうか。
(原告らの主張)
(1) 被告池田は、被告創価学会による本件第一記事などの名誉毀損報道を指導したが、その後も、次のとおり、手段を選ばず、被告創価学会の全組織を挙げ、原告らに対する攻撃を累行した。
(ア) 被告池田は、弁護士を動員し、本件事件がいかにも真実であるかのごとく演述させた(平成四年八月二六日付け聖教新聞に掲載された「熊田士郎弁護士。″シアトル地獄″で断末魔の日顕」と題する記事。前記一2(二))。
(イ) 被告池田は、精神科医を動員し、本件事件を診断の根拠として、阿部の精神異常の所見なるものを公表せしめた(平成四年八月二七日付け、同月二九日付け、同年九月一日付け、同月四日付け、同月八日付け、同月一二日付け聖教新聞に掲載された「法主日顕 その異常性を診る」と題する記事。前記一2(二))。
(2) 被告池田は、平成四年九月一二日、本件スピーチ等(一)において、本件事件のデマ宣伝に言及し、「さて、現在、青年部は機関紙の『創価新報』等で、正義のための言論戦を展開している。」、「仏法においては、仏敵に対しては容赦なく手厳しく追及していくのが、根本精神なのである。」などと述べて、被告創価学会に、原告らに対し本件事件をもって容赦なき攻撃を加えるよう指導し、名誉毀損行為を指導した。
(3) 被告池田は、平成四年九月一六日付け聖教新聞における本件スピーチ等(二)において、本件事件のデマ宣伝に言及し、「そうしたご苦労の結晶である意義ある第一回海外出張御授戒の時に、日顕はシアトル事件という破廉恥罪を犯しているのですから、絶対に許せません。骨の髄まで腐り、ただれた人間です。億万分の一の『信心』のかけらでもあれば、起こりえない事件です。」というコメントに対し、「『信心』ほど偉大なものはない。『信心』ある人は必ず最後は勝つ。『信心』の世界を利用 して泳いでいるだけの人間は、最後は地獄です」と述べて、被告創価学会に対し、あたかも本件事件が真実であるかの如く強調し、原告らの宗教活動を妨害するように指導し、名誉毀損行為を指導した。
(4) 被告池田は、平成四年一〇月二二日、本件スビーチ等(三)において、「現在、『創価新報』などで日顕宗の悪行を徹底して糾弾している。『正法と民衆の敵』日顕宗を、言葉を尽くして追及することは、大聖人の教えにかなった実践なのである。私どもは、いよいよ堂々たる言論戦を繰り広げてまいりたい」などと述べて、本件事件のデマ宣伝を徹底して、言葉を尽くして、操り広げるよう、被告創価学会に対し指導し、名誉毀損行為を指導した。
(5) 被告池田は、平成五年三月一三日、本件スピーチ等(四)において、「シアトル事件の日顕とは天地雲泥の違いであられた。また日達上人も日顕の海外での醜態を憂慮しておられた。」などと述べて、被告創価学会及び被告SGIに対して、本件事件を真実と鼓吹する名誉毀損行為を指導した。
(6) 以上のとおり、被告池田は、本件スピーチ等により本件事件に関し原告らの名誉を毀損したのであるから、不法行為責任を負う。また、被告池田は、被告創価学会の最高指導者として、被告創価学会による本件事件に関する名誉毀損報道を制止する義務があったにもかかわらず、これを怠り、本件事件に関する名誉毀損報道を積極的に容認した上、被告創価学会による本件第一記事などの名誉毀損行為を指導したのであるから、被告創価学会と共に共同不法行為責任(民法七〇九条、七一九条)を負い、また、同法七一五条二項に基づく責任も負う。
(被告らの主張)
被告池田が、本件第一記事などによる名誉毀損の敢行を反復指導したことはない。また、原告らの主張に理由がないことは、本件スピーチ等の内容自体から明らかである。
(四) 原告らの損害及び謝罪広告
(原告らの主張)
(1)
損害
(ア) 非財産的損害
(あ) 原告らの社会的評価、信用の低下
原告日蓮正宗は、昭和二七年一二月、宗教法人法に基づき前記のとおりの目的を掲げる宗教法人となった教団であるが、教団自体の歴史は七〇〇年を超え、現在、総本山である原告大石寺の傘下に七〇〇か寺を超える末寺を包括し、信者数は約七〇〇万人にも及ぶ。その信徒組織には、法華講支部及びその全国連合体としての法華講連合会があるが、破門以前は被告創価学会も信徒組織であり、被告創価学会の会員は、現在も日蓮正宗の信者である。このようにして原告らは信仰の面において多くの信頼を得てきたところ、被告らによる本件第一記事の報道等によって、原告らが長年にわたり築いてきた社会的信用は著しく傷つけられた。
(い) 原告らの事業目的の遂行に対する阻害
原告らは、一人でも多くの人に原告日蓮正宗の正法を知らしめ、信仰の道に導くため、布教に力を尽くしてきたが、布教の前提となるのは原告らに対する信頼であるところ、被告らの本件第一記事の報道等により、原告らの宗教的信用は著しく失墜し、今後の布教に大きな障害となった。
(イ) 財産的損害
原告らは、低下した信用を回復するため、本件訴えの提起のほか、反論のための各種活動を行わざるをえず、多大な出費の負担を余儀なくされた。
(ウ) 損害額
原告らの受けた右損害を金銭に評価すると、非財産的損害と財産的損害を総合して、原告らそれぞれにつき各一○億円を下らないものであり、実質的には一部請求にとどまる。
(2) 謝罪広告
本件第一記事などによる名誉毀損の程度は極めて大きいことからすれば、謝罪広告を掲載して早急に原告らの名誉を回復することが必要である。また、右名誉毀損は、被告創価学会の会員らに向けて発行される被告創価学会の機関紙によって行われたものであることからすれば、右機関紙に謝罪広告を掲載させることが必要である。そして、右名誉毀損は、被告らの悪意に基づくものであることからすれば、謝罪広告の掲載を命ずることが相当性を欠くこともない。よって、原告らの社会的評価及び信用を回復し、布教活動に対する阻害を排除するためには、少なくとも、前記第一、一1の謝罪広告を掲載することが必要である。
(3) よって、原告らは、被告ら各自に対し、共同不法行為に基づき、前記謝罪広告の掲載並びに損害賠償として原告らに対して各一〇億円及びこれに対する不法行為の日である平成五年三月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(五) 本件第一記事の報道等による名誉毀損につき、違法性が阻却され、又は故意、過失が否定されるかどうか。
(被告らの主張)
被告創価学会が本件第一記事などにおいて摘示した事実は、公共の利害に関する事実にあたり、専ら公益目的で報道したものであって、かつ、摘示事実は真実であるから、違法性はなく、又は摘示事実を真実と信ずるについて相当の理由があるから、故意若しくは過失がなく、不法行為は成立しない。
(1) 公共の利害に関する事実について
(ア) 原告日蓮正宗において、法主は宗教上の最高指導者であるから、原告日蓮正宗の関係者にとつて、法主と称する者、すなわち阿部がそれに相応しい適格性を有するか否か、宗祖日蓮大聖人及び大石寺開祖日興上人の教えを自ら体現しているかどうか、全人格的な言動において全僧俗の模範となるべき適格者であるかどうかなどは、重大な関心事るところ、本件事件は、第一回海外出張御授戒という原告日蓮正宗の歴史上でも画期的な宗教行事の際に、当時、原告日蓮正宗教学部長という要職にあった阿部が、当時の日達法主から宗門代表として選ばれてアメリカに派遣された際に起こした事件であり、その内容は、深夜、単身で歓楽街に繰り出し、売春婦とトラブルを起こして警察沙汰になるという極めて破廉恥なものであったこと、そもそも売春婦と関わりトラブルを引き起こすなどということは聖職者にあるまじきことであること、阿部は、当時、平僧などではなく、原告日蓮正宗教学部長という宗内序列で上から三、四番目という要職にあったのであり、さらに、現在では、一千万信徒を擁する宗教団体の法主であることなどからすれば、本件事件は、阿部の宗教指導者としての正当性及び法主としての資格などを判定する上で極めて重要である。また、阿部は、一方的に信徒の団体である被告創価学会そのものの信仰、信心の在り方を、正当ではなく間違っていると断じ、被告創価学会の指導者たる被告池田や被告創価学会を除名、破門するという措置をとったものであるが、この問題を正しく理解するには、こうした措置をとった阿部はその僧俗の信仰を正しく判断できる存在であったのか否か、すなわち阿部そのものの宗教性及び信仰の正当性を解明することが必要である。したがって、その意味でも、阿部の宗教者、信仰者としての資格及び根本などを問う本件事件は、まさしく今回の原告日蓮正宗と被告創価学会との問題を正しく理解する上で道要な事柄であり、阿部の法主としての適格性の有無等を判断する上で重大な意味を有する。したがって、原告日蓮正宗の関係者にとって、本件第一記事の報道等が公共の利害に関する事実についてされたことは明白である。
(イ) そして、被告創価学会が、本件事件についての報道を行った平成四年五月当時、原告日蓮正宗は、創価学会員を含め、全世界で一千万を超える信徒を擁する巨大な宗教団体であり、被告創価学会を通して日本のみならず、国際社会への影響力も強く、その最高位聖職者たる阿部がその地位にふさわしい人物かどうかは一般社会にも大きく影響する。したがって、本件第一記事の報道等が、公共の利害に関する事実についてされたことは明白である。
(2) 公益目的について
(ア) 公共の利害に関する事実かかる報道は、公益目的に基づくものであると推定されるところ、右(1)のとおり、本件第一記事の報道等は、公共の利害に関する事実について報道したものであるから、公益を図る目的により報道されたと推定される。
(イ) 本件第一記事などは、原告日蓮正宗の僧俗に対し、阿部がその信心、人格及び振舞いにおいて、同宗の法主として全く不適格であり、同人に従うことが信仰上誤りであることを示すための報道の一環として掲載したものであるから、被告創価学会が行った本件第一記事の報道等は、専ら公益を図る目的に出たものである。
(ウ) さらに、被告創価学会は、クロウから本件事件を聴取したものであるが、本件第一記事などを報道するに際し、クロウの供述の信用性を確認し、クロウの供述を裏付ける資料を調査、確認するなど、真摯な事実調査を行ったのであるから、何ら公益目的を欠くことはない。
(エ) また、本件第一記事の報道等は、宗教教義上の批判、論争の一環であるところ、一般的に宗教論争は激しい表現を用いて応酬されるのが通常であって、現に、原告日蓮正宗側も、その機関紙である「大日蓮」や、その信徒団体たる法華講連合会が発刊している「大白法」、妙観講が発行している「妙観(慧妙)」などにおいて、極めて激烈又は揶揄的な表現を用いて繰り返し被告創価学会や被告池田を批判しているのであり、同程度の表現方法を用いて応酬されている論争について、その一方の表現のみをとらえて侮辱的、誹謗的、差別的な表現方法と評することができないことは明らかである。そして、本件第一記事などにおいて使用されている表現は主題と密接な関連性を有し、かつ宗教団体の論争として通常用いられている範囲の表現であることは明らかであるから、本件第一記事の報道等が公益目的を欠くことはない。
(3) 真実性について
(ア) 本件第一記事などで報道した本件事件は真実である。
(イ) ある報道が名誉毀損にあたる場合、違法性が阻却されるためには、その報道の記事内容の真実性が要求されるが、当該記事の内容の全てについて細大漏らさず真実であることを要求するのは相当ではなく、その重要な部分ないし主要な部分について真実であることの証明がされれば足りる。本件第一記事の報道等の主要な部分は、前記(二)(被告らの主張)(1)のとおりである。売春宿内での出来事、すなわち、阿部が売春婦にヌード撮影を要求し、売春婦と実際に性行為に及んだ事実及び売春婦とのトラブルに関し、クロウが警察署に出頭し事情聴取を受けるなどの捜査手続がされた事実は、いずれも主要部分に含まれるものではない。
(ウ) 本件事件の経緯等は、次のとおりである。
(あ) 昭和三八年三月、原告日蓮正宗として初めて海外出張御授戒(僧侶による信者の入信の儀式)がアメリカ合衆国において行われることになり、原告日蓮正宗の当時の教学部長であった阿部と大村寿顕(以下「大村」という。)の二名が派道された。阿部らは、同月二八日、日本を出発し、ハワイ、ロサンゼルスで順次御授戒を行った後二手に分かれ、阿部はシアトル、シカゴなどアメリカ合衆国内を北回りで移動して御授戒を行い、南回りで移動する大村と二ューヨークで再度合流することになっていた。
(い) 当時、被告創価学会のシアトル支部長はクロウであり、同人は、シアトルでの御授戒の運営等の一切の責任者である上、阿部をシアトルから次の滞在地であるシカゴまで送り届け、同地での御授戒の運営も応援するものとされていた。
(う) 阿部は、同月一九日(現地時間,以下、アメリカ合衆国で起こったことについては全て現地時間で表示す。)、ロサンゼルスからシアトルに移動し、同日、被告創価学会の当時のシアトル支部婦人部長であるカワダ・ケイコ (以下「カワダ」という。)の自宅で、約一〇〇人の新入信者に対し御授戒の儀式を挙行した。クロウは、右御授戒の終了後、阿部に対し、クロウは同夜カワダ宅に宿泊するので、何かあれば同宅に電話するように伝え、クロウの名前とカワダ宅の電話番号を書いたメモを渡した上、同日午後一○時ころ、阿部を宿舎であるシアトル市内のダウンタウンにあるオリンピックホテルに自動車で送った。
(え) 同月二〇日午前二時ころ、シアトル市警察の警察官からカワダ宅に宿泊していたクロウ宛てに電話が入り、日本の男性で英語のできない人がクロウの電話番号を持っていたので電話したが、その人が女性とトラブルを起こしており、言葉が分からなくて要領を得ないので七番街の現場まで来て欲しい旨の要請があった。
(お) クロウは直ちに現場に駆け付けたところ、現場には阿部のほか、二人の警察官がおり、阿部は、一人の警察官の胸によりかかるようにして泣き崩れていた。クロウは、阿部に対し何事があったのか尋ねると、同人は、夜景が美しいので表に出て道に迷っているうちに警察の人が来てしまったと答えた。しかし、警察官がクロウにした説明によると、パト口ール中、阿部が背後の建物から飛び出して来て、それを追いかけるように売春婦が二人大声で叫びながら出て来て、阿部は手に持っていたカメラを振り回して女たちを遠い払おうとしていたとのことであった。さらに警察官によれば、阿部が売春婦に金を払うからヌード写真を撮らせてくれと頼み、案内された部屋に行ったが、その後、金銭のことでトラブルになったらしいといのことであった。クロウは、警察官に対し、阿部は日本から来た偉い僧侶でおり、法を犯すような人でなく、言葉が通しなかったための誤解である旨抗議したが、警察官は、阿部からも事情を聞きたいので一緒に警察署まで来てもらいたい旨要求した。クロウは、阿部は法主の名代として宗教儀式のためにアメリカ合衆国へ来たのであり、その日もシアトルで儀式を行ったばかりで、翌日はシカゴに行くことになっていることなどを説明して、阿部の連行を阻止するため努力した。その結果、警察官は、クロウに対し、クロウが阿部について責任を持つならば阿部は帰ってもよいが、同人を宿泊先のホテルに送り届けてからクロウが出頭するように要求したので、クロウはこれを約束した。
(か) 阿部は、警察官から解放されてホテルヘ向かう車の中で、クロウに対し繰り返し礼を述べていたが、クロウが事情説明を求めると、現場での話と同様のことを繰り返し、女性とのトラブルの内容についてはロを濁すばかりであった。クロウは、阿部をホテルの部屋まで送り、もう絶対に部屋から出ないようにと念を押し、警察署に向かった。
(き) クロウが警察署に出頭すると、現場にいた警察官が待っており、その二人よりも年配の上司らしい私服の警察官の下に案内された。そこで、現場にいた警察官から上司に対して事情が説明された。その中で、売春婦とのトラブルであるとの話に対して、クロウは現場でしたのと同様の抗議をしたが、現場にいた警察官から、売春婦は阿部と既に行為をしたと証言しており、それについての金銭のトラブルであるとの話がされた。クロウは、これを聞いて大変な衝撃を受け、それ以上の抗議はできなくなった。クロウは、阿部をシカゴに送っていけなくなるのではないかと不安になり、クロウの身分が確かなものであり、いい加減な話をする人物ではないことを分かってもらうため、警察官に対し、IDカードや免許証を示し、さらに海軍軍人であった亡夫の軍関係の説明をするなどした。上司の警察官は、クロウの話の裏付け確認をした様子であったが、その後、一切のことについてクロウが責任を持つという趣旨の書類に署名するよう求めてきた。クロウは、その書類の空白部分に阿部の名前を記入するように求められたため、ローマ字で「ノブオ・アベ」と書き入れた。そのほか、クロウは、右書類に自己の氏名や住所、亡夫の身分関係などを記入した。その結果、阿部もクロウも以後警察署に出頭する必要はないということになり、クロウは、同日午前四時すぎにカワダ宅に帰宅した。
(く) 同日朝、クロウは、阿部の部屋に朝食を届けたが、その際、警察署で一切を済ませてきた旨話すと、阿部は無言で頭を下げた。クロウと阿部は、同月二二日にシカゴで別れたが、阿部はホテルのチエックアウトをした際にもクロウに深々と頭を下げていた。
(け) なお、クロウは、同月二〇日夜、被告創価学会の当時のアメリ力総支部長で、大村に付き添って南回りのコースを移動していた貞永昌靖(その後アメリカ合衆国に帰化し、帰化後の氏名は「ジョージ・M・ウイリアムス」。以下「ウイリアムス」という。)からシ力ゴのホテルで電話を受け、状況報告をした際、阿部がシアトルで道に迷い、警察官から電話があってホテルに連れ戻した旨の報告をしたが、真実は伝えなかった。
(こ) また、阿部は、本件事件以後、長年にわたり、クロウに対し、個人的に贈り物を贈り続けたり、食事の場所に招待したり、また、クロウの長女ジュディの結婚式の際に、星月菩提樹及びインド翡翠の念珠を贈るなど他の信徒に対するとは異なる特別な待遇を行っており、これは、阿部がシアトルでクロウに助けられたことに対する返礼であるとともに、暗に口止めを要請するものであった。
(エ) なお、原告らは、阿部が昭和三八年三月一九日にシアトルにおいて宿泊したホテルはオリンピックホテルであることを認めていたにもかかわらず、平成一○年六月三〇日付け準備書面(平成一一年九月二八日の本件口頭弁論期日において陳連)で、これを撤回し、右事実を否認するに至ったが、右事実は、主要事実の一部でありこれを認めることは裁判上の自白にあたる。仮に、主要事実ではないとしても、右事実は重要な間接事実であり、これについての自白は原告らを拘束する。
(4) 相当性について
被告創価学会は、本件第一記事の報道等にあたり、クロウという極めて信頼度の高い情報原に対する取材を基本にして、クロウ供述の検証のために客観的な証拠や資料を調査、確認した上、本件事件当時の事情を知る複数の証人(ウイリアムス、カワダ等)に対して取材を行うなどの慎重な裏付け取材を行ったほか、阿部はクロウに贈り物をするなど、クロウに対し異例な配慮を示していたことを裏付ける物証等も確認したのであり、本件第一記事等の報道により摘示した事実を真実と信ずるにつき相当の理由がある。
(原告らの主張)
(1) 公共の利害に関する事実について
本件第一記事の報道等は、公共の利害に関する事実にかかるものではない。本件第一記事などで摘示された事実は、昭和三八年三月に起こったとされる事件であり、これは本件第一記事等が報道された時期から見れば、約三〇年も前の連い過去の出来事であり、阿部の執務外の時間に起こった私事である。したがって、阿部が宗教者として全人格的評価を問題とされる立場にあるとしても、右のような本件事件が、法主としての現在における資質や適格性に関連性を有するものとは到底認めることはできず、そのような遠い過去の不祥事は、社会の関心事(特に、主要読者である被告創価学会会員の阿部に対する敵愾心に媒介された低劣な関心の対象)ではあっても、社会の正当な関心事であるということはできない。
(2) 公益目的について
本件第一記事の報道等は、公益を図る目的に出たものではない。本件第一記事の報道等は、何ら客観的裏付けのないクロウの一方的な言い分をそのまま報道する点において、真摯な事実調査に欠けるものであり、しかも、表現方法において、下品で侮辱的な言辞による人身攻撃に満ちており、敵対関係にある原告らに対する加害の意思及び目的のもとに遂行されたものであって、公益を図る目的に出たものということはできない。
(3) 真実性について
(ア) 阿部は、昭和三八年三月、第一回海外出張御授戒のため、アメリカ合衆国へ行き、同月一九日、ロサンゼルスからシアトルに移動し、同日、カワダ宅で、約一〇〇人の新入信者に対し御授戒の儀式を挙行した。阿部は、右御授戒が終了した後、宿泊先のホテルの自室に戻った。その後、阿部は、一人でホテルの外に散策に行き、飲酒をした後、宿泊先のホテルの画室に戻り、同月二〇日午前一時には就寝した。阿部は、それ以後、ホテルから一歩も外に出ないまま、同日午前一〇時に起床した。したがって、被告らの主張する本件事件は存在せず、虚偽である。
(イ) 被告らが立証すべき事実の内容は、あくまでも、本件第一記事の報道等で摘示した事実そのものであり、右記事等の内容の全部である。仮に、主要な部分を立証すれば足りるとしても、右記事等の報道における主要な部分は、前記(二)(原告らの主張)(2)のとおりである。
(4) 相当性について
被告らは、クロウの供述について、何ら具体的、客観的な裏付け調査をせず、かつ、クロウの供述が虚偽であると知りつつ、本件第一記事の報道等を行ったものであり、右記事の報道等において摘示した事実を真実と信ずるに足りる相当な理由はない。
2 乙事件及び丙事件について
(一) 本件第二記事の報道の内容及びこの報道による原告ら及び阿部の名誉の毀損
(原告らの主張)
(1) 被告創価学会は、被告池田の指示を受け、被告創価学会及び被告SGIと共同して、本件第二記事を報道して、一般読者に対し、本件事件はアメリカ連邦政府の記録が存在し真実である上、三〇年以上も経過した後にも連邦政府が記録に残すほどの一大事件であり、また、到底争いようのない事実であるにもかかわらず、ことさらにこれを争う阿部は嘘つきで、同人を法主とする原告日蓮正宗及びその総本山である原告大石寺は、性的醜聞にまみれた宗教団体であるとの印象を与えて、阿部の名誉及び信用を毀損したほか、後記2のとおり、原告らの名誉及び信用を毀損した。よって、被告創価学会は、被告池田及び被告SGIと共に共同不法行為責任(民法七〇九条、七一九条)を負う。
(2) 右(1)の本件第二記事の内容及び前記(1)(二)(原告らの主張)(3)(ただし、本件第一記事」を「本件第二記事」とする。)の諸事情によれば、本件第二記事が、阿部のほか、原告らという法人の名誉及び信用を毀損するものであることは明らかである。
(被告創価学会の主張)
(1) 本件第二記事の報道は、本件事件が存在したことを裏付ける新たな証拠が発見された旨の客観的事実の報道であり、アメリカ連邦政府の記録の存在に関する本件第二記事の報道は、一般読者に対し、本件事件が真実であるとの印象を与えるものであり、本件事件が存在することを摘示したものである。
(2) 本件第二記事によって、一般読者に対し、原告ら法人が性的醜聞にまみれた宗教団体であるとの印象を与えることはなく、本件第二記事は、原告ら法人の名誉を毀損するものではない。
(二) 本件第三記事が、被告SGIの関与によるものかどうか、また、原告ら及び阿部の名誉を毀損するかどうか。
(原告らの主張)
(1) 被告SGIは、被告池田の指示を受け、被告池田及び被告創価学会と共同して、本件第三記事において、「クロウ夫人の弁護士であるバリィー・B・ラングバーグ氏が、ワールド・トリビューンに、阿部のI963年シアトル滞在中の行為に関して、同弁護士の調査によって発見された証拠のことを語ってくれた。その証拠は、ノブオ・アベという人間が、売春勧誘の嫌疑で1963年3月にシアトル市警察に停止(職務質問のため一時停止)させられたという記録からなっている。」との報道を行うことによって、一般読者に対し、本件事件はアメリカ連邦政府の記録が存在し真実である上、三〇年以上も経過した後にも連邦政府が記録に残すほどの一大事件であり、また、到底争いようのない事実であるにもかかわらず、ことさらにこれを争う阿部は嘘つきで、同人を法主とする原告日蓮正宗及びその総本山である原告大石寺は、性的醜聞にまみれた宗教団体であるとの印象を与えて、原告ら及び阿部の名誉及び信用を毀損した。よって、被告SGIは、被告創価学会及び被告池田と共に共同不法行為貴任(民法七〇九条、七一九条)を負う。
(2) 本件第三記事が、阿部のみならず、原告ら法人の名誉をも毀損することについては、前記(一)(原告らの主張)(2)で述べたのと同様である。
(被告SGIの主張)
本件第三記事は、ワールドトリビューンの付属刊行物として発行されているSGIーUSAニューズレターに掲載されているが、ワールドトリビューンは、独立したアメリカ合衆国の法人である創価学会インターナショナルUSA(以下「SGIUSA」という。)が発行しているものであり、被告SGIが発行しているものではない。したがって、被告SGIが不法行為責任を負うことはない。
(三) 被告池田が、被告創価学会及び被告SGIによる名誉毀損行為を指導したかどうか。
(原告らの主張)
被告池田は、被告創価学会及び被告SGIの最高指導者として、被告らによる本件第二記事及び本件第三記事の名誉毀損報道を制止する義務があったにもかかわらず、これを怠り、右名誉毀損報道を積極的に容認した上、これを指導したのであるから、被告創価学会及び被告SGIと共に共同不法行為責任(民法七〇九条、七一九条)を負う。
(被告池田の主張)
被告池田は、被告創価学会による本件第二記事の報道等とは全く無関係であり、不法行為責任を負わない。
(四) 被告らが、原告らの教団蓮営権に対し不当な支配介入を行ったかどうか。
(原告らの主張)
被告創価学会らは、本件事件に関する虚偽のアメリカ連邦政府の記録をもって、本件事件の決定的証拠であると決めつけ、その虚偽の事実をもって、本件事件の真実が証明されるとして、「日顕よ!即刻、退座せよ」(本件第二記事(一))、「もはや還俗しか道なし」(本件第二記事(二))などの大報道を行った。すなわち、被告らは、原告日蓮正宗により、破門又は信徒除名処分に付されているにもかかわらず、本件第二記事の報道により、原告らの代表役員であり一宗を統率する法主かつ最高指導者である阿部と信徒を離反させ、阿部に対し、不当にその退座、還俗を要求し、かつ、退座せざるをえない状況を作出しようとした。これは、原告らが自律的に決定すべき教団運営権に対する不当な支配介入であり、原告らの信教の自由及び結社の自由を侵害するものであるから、被告らは共同不法行為責任(民法七〇九条、七一九条)を負う。
(被告らの主張)
被告らは、原告らの教団運営に対して法的に何らの権限も有していないのであるから、原告らの人事に介入することはありえず、本件第二記事及び本件第三記事の報道は、原告らの教団運営権に対する不当な支配介入となるものではない。また、右記事は、宗教的正当性をめぐっての日蓮正宗内部における宗教的批判、論争の応酬の一つであり、こうした言論の応酬行為は、原告らの教団運営権に対する不当な支配介入とはならない。
(五) 原告ら及び阿部の損害及び謝罪広告
(原告らの主張)
(1) 損害
(ア) 非財産的損害及び財産的損害
被告らの名誉毀損行為等によって、原告ら及び阿部に非財産的損害及び財産的損害が生じていることは、前記1(四)(原告らの主張)(1)(ア)及び(イ)のとおりである。
(イ) 損害額
被告らの名誉毀損行為等は、先行する本件第一記事の報道等による打撃を増幅拡大させたのであり、したがって、甲事件における賠償請求額(各原告らにつき金一〇億円)の少なくとも一割の賠償額が認められるべきであり、原告ら及び阿部の受けた損害を金銭に評価すると、非財産的損害と財産的損害を総合して、原告ら及び阿部それぞれにつき各一億円を下らない。
(2) 謝罪広告
前記第一、二1の謝罪広告を掲載することが必要かつ相当であることは、前記1(四)(原告らの主張)(2)で述べたのと同様である。
(3) よって、原告らは、被告ら各自に対し、共同不法行為に基づき、前記謝罪広告の掲載と、損害賠償として原告ら及び阿部に対じ各一億円並びにこれに対する不法行為の日である平成七年一月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(六) 本件第二記事による名誉毀損につき、違法性が阻却され、又は故意、過失が否定されるかどうか。
(被告らの主張)
被告創価学会が本件第二記事において摘示した事実は、公共の利害に関する事実にあたり、専ら公益目的で報道したものであって、かつ、摘示事実は真実であるから、違法性はなく、又は摘示事実を真実と信ずるについて相当の理由があるから、故意若しくは過失がなく、不法行為は成立しない。
(1) 公共の利害に関する事実について
前記1(五)(被告らの主張)(1)と同じ。
(2) 公益目的について
(ア) 本件第二記事の報道は、被告創価学会による本件事件の公表以来行われてきた本件事件に関する原告日蓮正宗との間の論争の一環であり、その目的は、本件事件に関する報道(本件第一記事など)の目的と基本的には同じであり、原告日蓮正宗や阿部の否定にかかわらず、本件事件が存在することを示す新たな証拠の存在を公にすることにより、阿部の法主としての適格性を問い、原告日蓮正宗の僧俗に対して、同人に従うことが信仰上誤りであることを事実の上で示すことにあり、専ら公益を図る目的でされたものである。
(イ)(あ) クロウは、平成四年九月一七日、阿部らを相手方として、カリフォルニア州ロサンゼルス地方裁判所に名誉毀損訴訟を提起したが、同地方裁判所は、平成五年二月二三日、同州の裁判管轄権を否定する決定を下し、さらに、平成六年一一月二一日、右訴訟に関連してクロウが提起した別訴の裁判手続も停止する決定を下した。しかし、原告らは、右決定に対して、機関紙等を利用して、本件事件は虚偽であり、クロウは嘘をついており、阿部が正しいなどと実体審理で勝訴したかのような虚構の事実を大宣伝した。そこで、被告創価学会としても、本件事件は真実であり、本件事件を起こした阿部には法主の資格はないことを再度明らかにする必要があると判断し、バリィー・B・ラングバーグ弁護士(以下「ラングバーグ弁護士」という。)が、ワールド・トリビューンのインタビューに応じ、本件事件の真相を述べ、阿部に関する連邦政府の記録の存在についても言及するのであれば、その内容をこの時期に日本の会員にも伝えるべきと考え、本件第二記事を報道した。このように、右報道は、原告らのアメリカにおける訴訟の結果について大々的な虚構の宣伝がされたことに対応して行われたものであり、本件事件の有無をめぐり、法主である阿部の適格性を問う被告創価学会と原告日蓮正宗の宗教論争の一環である上、この時期に公表する必要性があった。
(い) アメリカの連邦政府の記録に関する情報は、クロウの代理人であるラングバーグ弁護士が調査を依頼したスティール・ヘクター・&・デービス法律事務所、調査の担当者であるレべッカ・J・ポストン弁護士(以下「ポストン弁護士」という。)及び同事務所が使用しているフィリップ・マニュエル・リソースグループ(以下「フィリップ・マニュエル事務所」という。)などの信頼できる専門家らによる真撃な調査活動の結果得られたものであることから、被告創価学会は、記録の存在を確信し、本件第二記事において、確実な情報を報道したのである。
(う) 以上のとおり、本件第二記事の報道は、その報道目的、報道の経緯、情報の確実性、報道の態様及び内容から見て、私利私欲を追求するとか、私怨を晴らす等の不当な目的は一切なく、真撃な事実調査に基づき、宗教論争の一環として阿部の原告日蓮正宗の法主としての適格性を問うているものであり、専ら公益を図る目的に出たことは明らかである。
(3) 真実性について
本件第二記事の報道は、前記(一)(被告創価学会の主張)(1)のとおり、本件事件が存在することを摘示したものである。したがって、真実性の立証対象は、本件事件の存在であり、アメリカ連邦政府の記録の存在ではない。本件事件の存在が真実であることは、前記1(五)(被告らの主張)(3)のとおりである。仮に、真実性の立証対象がアメリカ連邦政府の記録の存在だとしても、同記録が存在していたことは真実である。
(4) 相当性について
前記(2)(イ)(い)のとおり、アメリカの連邦政府の記録に関する情報は、信頼できる専門家らによる真摯な調査活動の結果得られたものであり、被告創価学会は、記録の存在を確信し、本件第二記事において、確実な情報を報道したのであり、アメリカ連邦政府の記録の存在を真実と信ずるについて相当な理由がある。
(原告らの主張)
(1) 公共の利害に関する事実について
前記1(五)(原告らの主張)(1)と同じ。
(2) 公益目的について
前記1(五)(原告らの主張)(2)と同し。なお、被告創価学会は、連邦政府の記録の所在場所も種類も特定することができず、また、被告らによれば、被告らは、情報源、調査会社、弁護士及び被告らという三重の伝聞過程を経た情報のみを根拠に本件第二記事等の報道を行った上、さらに、被告らは、本件第二記事等の報道を行うに先立って、記録が除去されてしまったとの報告を受けていたにもかかわらず、現に存在すると故意に虚偽報道を行ったものであり、この点でも、公益目的を欠くことは明らかである。
(3) 真実性について
(ア) 本件第二記事等の報道は、本件事件とは別個に、本件事件に関して、シアトル市警が、阿部を売春勧誘の嫌疑で取り調べを行い、何らかの照会又は捜査を行った事実を示す記録が、三〇年を経過して、なおもアメリカ合衆国連邦政府内に保管されているという事実を公然摘示することによって、一般読者に対し、本件事件の存在が間違いないとの印象及びそれが極めて道大な事件であったとの印象を与えるものであり、本件第一記事の報道等によって毀損された原告ら及び阿部の名誉を、さらに大きく毀損したものである。すなわち、本件第二記事等の報道において、被告らが摘示した事実は、本件事件そのものではなく、本件事件の存在を示す決定的証拠、すなわち本件事件に関してシアトル市警が、阿部を売春勧誘の嫌疑で取り調べ、何らかの照会又は捜査を行った事実を示す記録が、アメリカ合衆国連邦政府内に保管されているという事実であり、これが被告らの真実性の立証対象である。
(イ) アメリカ合衆国連邦政府機関は、本件事件についての決定的証拠としての記録について、明確にその存在を否定し、かつ、過去にそのような記録が存在した形跡すらないと回答している。また、被告らによれば、被告らが本件第二記事等の報道を開始した平成七年一月八日以前である平成六年一二月二二日の時点において、被告らの情報源自身が、決定的証拠としての記録は現存していない旨の情報を提供しているのであり、その時点以後、右記録を見た者も、コンピュータ端末で確認した者もいない。したがって、本件事件の決定的証拠としての記録が存在するという事実は真実ではない。
(4) 相当性について
前記(2)のとおり、被告らは、故意に虚偽報道を行ったものであり、本件事件の決定的証拠としての記録が存在することが真実であると信ずるにつき相当の理由がないことは明らかである。
第三 争点に対する判断
一 甲事件について
1 争点(1)(謝罪広告の掲載を求める訴えの連法性)について
被告らは、原告らが求める謝罪広告(前記第一請求一1)は、原告ら及び阿部に対する宗教的尊崇等の表明を求めるものであり、裁判所が判断すべきでない事項に関するものであること、謝罪広告として認められる限界を逸脱し、憲法一九条及び一三条に反すること、実質的には阿部に対する謝罪を求めるものであることを根拠に、右謝罪広告を求める原告らの訴えは不適法であると主張する。しかし、被告らが指摘する右の各事情は、原告らの求める謝罪広告の内容が名誉回復処分として許されるかどうか、又は相当なものかどうかという点に尽きるものであり、原告らの求める謝罪広告の内容が名誉回復処分として許される限度を超えていたり、内容において相当なものではないとしても、それは、そのような謝罪広告を求める私法上の請求権が否定されるにすぎないのであって、そのような謝罪広告の掲載を訴えをもって請求すること自体が許されないものではなく、訴え自体の適法性に影響を及ぼすものではない。したがって、被告らの前記主張は採用することができない。
2 争点(二)(本件第一記事の内容及び原告らの名誉の毀損)について
(一) ある記事等が、他人の名誉を毀損するかどうかについては、一般読者の注意と読み方を基準として、当該記事等の意味内容を解釈し、その内容が、他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかによって判断すべきであるところ、原告らは、本件第一記事(本件事件に関する部分)が名誉毀損にあたる旨主張するので、以下検討する。
証拠(甲一ないし八の三)によれば、以下の事実が認められる。
(1) 本件第一記事(一)
(ア) 本件第一記事(一)、すなわち平成四年六月一七日付け創価新報の第一面には、「1963年3月 第1回海外出張御授戒」、「日顕、アメリカの歓楽街で大破廉恥行為」、「深夜のシアトルで警察沙汰に」、「ああ!この聖職者失格の卑猥な人格」、「売春婦と金銭めぐりトラブル」、「こんな法主を世界は永遠に『ノー』」などの見出しのもと、リード文において、「一九六三年(昭和三十八年)三月、当時、教学部長だった日顕は、海外出張御授戒のためにアメリカの各都市を訪問した。ところが、記念すべきこの出張御授戒が、実はとんだ″買春ツアー″であつたことが発覚した。日顕は深夜に単身で歓楽街に繰り出し、売春婦とトラブルを起こし、果ては警察の厄介にまでなっていたのである。」などの記載がされており、さらに、本文には(イ)のような記載がされている。
(イ)(あ) 事件は三月十九日、アメリカ西海岸の風光明美な都市シアトルで発生した。ハワイを振出しに御授戒の旅を始めた日顕と大村は、ロサンゼルスで北回りと南回りに分かれ、それぞれ東海岸に向かった。北回りの日顕は大村と別れた直後、シアトルを訪問した。この日、出張御授戒を終えた日顕は、午後十時に宿舎となった市内のオリンピックホテルにチェックイン。ところがである。数時間後、彼を送り届けた地元の婦人部員に警察から電話が入ったのである。「売春宿と思われる建物の前で、坊主頭の日本人が売春婦とトラブルを起こしたようだ。本人に事情を聞いても、英語が通しなくて要領を得ない。彼があなたの電話番号を持っていたので連絡した。すぐに来てくれ」時計は深夜の二時を指している。仰天した婦人部員は、取るものも取りあえず現場へ直行した。見ると場末の娼婦街の一角で二人の警察官を前に、坊主頭の男が泣き崩れているではないか。彼女はわが目を疑った。紛れもなくさっき自分がホテルに送り届けた日顕その人だったのである。高僧と売春婦。どう考えても結び付かない組み合わせに、しばし頭脳は思考停止してしまった。警察官によれば、パトカーで通り掛かったところ、ちょうど日顕が売春宿から飛び出してきて、それを追い掛けるように売春婦が二人、大声で叫びながら出てきたのだという。表に出るや日顕はカメラを振り回して必死に抗議している様子であった。二人の売春婦は、警察からの事情聴取に対して、次のような事実を証言した。一人は、日顕から「お金を払うから、持参したカメラでぜひともヌード写真を撮られてくれ」と熱心に懇願された。初の海外旅行の日顕は、お上りさんよろしく、どこに行くにもカメラをしっかりと抱えていた。英語ができない彼は、身振り手振りのジェスチャーで頼んだという。もう一人の売春婦の証言はさらに露骨で、実際に日顕と行為の後、トラブルはその料金をめぐって起こったらしい。近年、日本人による海外での買春ツアーが国際的な非難にさらされているが、日顕は、はるか以前にその先鞭(せんべん)をつけていたことになる。
(い) 売春事件にかかわった人物として、警察へ連行される直前の日顕であったが、駆け付けた婦人部員の機転と懇願によって、何とか事情聴取だけは免れた。その代わり、彼女が日顕の身元保証人として警察に出頭したのである。「ノプオ・アベ」。これが警察に報告された日顕の名前である。この事件に関して四枚の調書が作られ、彼女は日顕の代理としてサインした。日顕は彼女に対し「金髪女性とコーヒーを飲んで、一緒に写真を撮ろうと思っただけです」と弁解したが、これが虚偽であることは警察側の説明により明白であった。繰り返すが、この時、日顕は観光旅行でアメリカに来ていたのではない。歴史的な第一回の海外出張御授戒のために渡米していたのである。しかし、彼が踏み出した。″第一歩″とは、光輝な「世界広布の道」ではなく、あやしげなネオン輝く「売春街への道」だったとは、何とも語るに落ちた話ではあるまいか。
(2) 本件第一記事(二)
本件第一記事(二)、すなわち平成四年六月二二日付け聖教新間の第四面には、「世界広布に嫉妬する破廉恥法主は即刻退座を」、「また露見御本仏冒涜の悪行」、「=初の海外出張御授戒―昭和38年3月、米・シアトル―で前代未聞の不祥事=」などの見出しのもと、被告創価学会の秋谷会長の千葉県支部長会における話として、「だいたい日顕は、海外に行って何をしていたのか。ご承知の通り、言うも恥ずかしい乱行であり、日顕のみだらな振る舞いを世界にまき散らされたのでは、たまったものではない(爆笑)。詳しくは、『創価新報』の最新号(六月十七日号)に報じられているが、昭和三十八年三月、初の海外出張御授戒で、教学部長時代の日顕がアメリカに行ったときのこと。深夜のシアトルの歓楽街にこっそり出掛けて、考えられないような破廉恥(はれんち)行為をし、警察沙汰(ざた)になっていたというのである。それが、売春婦とのトラブルだというのだから、語ることすらはばかられる(笑い)。自業自得とはいえ、あまりの恥ずかしい出来事は、″これが本当に僧侶なのか″。″こんな男が法主の座にいる宗門は、何を修行しているのか″と、世界中の物笑いになっている。そんな日顕宗の広宣流布はお断りである(拍手)。しかも、日顕は、自分の破廉恥行為の露見(ろけん)をひた隠しに隠そうと、シアトルの歓楽街で窮地(きゅうち)を救った婦人部員に、これまで贈り物をしたり、たくみに、″口止め″を策してきたというのだから、いかに卑劣な男かわかる。何が″世界広布はワシが許可した″か。日顕宗の坊主には、遊びの許可を出していたのか(笑い)。冗談(しょうだん)も休み休み言ってもらいたい(笑い、拍手)。」、「あの初の出張御授戒も、世界広布の道を命懸けで切り開いた池田名誉 会長と、その渾身(こんしん)の激励に立ち上がった草創のアメリカのメンバーの、止暇断眠の戦いがあって実現したものである。大聖人の仏法が、いよいよ世界へと広まる先駆けとして、それこそ歴史に輝く初の海外出張御授戒を、僧侶が破廉恥行為で泥にまみれさせるなど、前代未聞の大不祥事(ふしょうじ)といわねばならない。それを今日まで、ひたすら隠して聖職者づらをしていたとは、日顕という男は、まさに提婆(だいば)の化身である。絶対に許してはならない。この一事をもっても、即座に退座すべきである(拍手)。」、「日顕こそ、まずアメリ力出張御授戒のときのことについて、自ら正直に事実を明らかにし、その罪を悔い改め、大御本尊の御前にひれ伏して懺悔(ざんげ)すべきである。全世界の信徒にひれ伏して謝罪すべきである(大拍手)。」などの記載がされている。
(3) 本件第一記事(三)
本件第一記事(三)、すなわち平成四年六月二九日付け聖教新間の第四面には、「現宗門は広宣流布の毒茸」「シアトル破廉恥事件 日顕よ!世界に釈明せよ」などの見出しのもと、和泉最高指導会議議長の話として、「とくに遊蕩三昧(ゆうとうざんまい)どころか、聞くも恥ずかしいシアトルなどでの邪婬(じゃいん)ぶりを知ると、だれも、側にも来てもらいたくなくなるよ(大笑い)。それも、全部、自分自身のせいではないか。」などの記載がされている。
(4) 本件第一記事(四)
本件第一記事(四)、すなわち平成四年七月一日付け創価新報の第一面には、「シアトル不祥事 第2弾」、「破廉恥日顕よ、去れ!!」、「世界がブーイング―非難の声―」などの見出しの下、リード文中には「前回、本紙が報したl963年3月のアメリカ・シアトルでの出張御授戒の美名に隠れた″買春旅行″の恥ずべき実態は、日顕という男がいかに品位下劣な好色漢であるかを暴露した。この″破廉恥法主″に対し、各国から続々寄せられた『汚らわしき日顕よ、去れ』の激しいブーイング(非難の声)を紹介する。」との記載がされており、また、本文中にも「ウソなら法廷で″潔白″示せ」、「致命的!『聖職者の女遊び』」などの見出しのもと、各国からの非難の声としてのコメントが記載されおり、さらに、日顕がトラブルを起こしたシアトルの裏街のホテルであるとして、そのホテルの写真が掲載されている。
(5) 本件第一記事(五)
本件第二記事(五)、すなわち平成四年七月一五日付け創価新報の第一面には、「日顕のシアトル・スキヤンダル第3弾!!!」、「僧侶から糾弾の声ぞくぞく」、「激震が続くシアトル事件についに新局面がー。去る六月二十八日、現職の宗務支院長である小板橋明英さん(京都市伏見区・能栄寺住職)が、憂宗護法同盟に加わり、宗門から離脱、宗門改革に立ち上がった。同住職は日顕にあてた『通知書』の中で離脱の動機としてシアトルでの不祥事を法主失格と指摘。足元から火が上がった日顕宗はいま、崩壊の危機に瀕(ひん)している。ここではアメリカ生活の経験をもつ改革派の工藤玄英住職に、緊急に登場していただき、この問題の本質を語ってもらった。」、「離脱の理由について小板橋住職は、日顕にあてた『通知書』の中で、聖職者失格の破廉恥事件となったシアトル事件を挙げている。『このような厳しい状況の中で、さらに取り沙汰(ざた)されている修善寺での件、またシアトル事件は、一体どのように説明したらよいのでしようか。これがもし事実無根であるなら、その旨を宗内に通知徹底すべきであります。それをしないことは、事実を認めたも同様であり、宗内僧侶、信徒に対する重大な背信行為であります』事は一宗の最高責任を担う法主にかかわることである。法的問題なら時効で逃げることもできよう。しかし、アメリカ大統領候補としての適格性の厳しい審査を見ても分かるように、高い立場になればなるほど、連格性は厳しく問われなくてはならない。世界中が問題にしているのは日顕の法主としての適格性にほかならない。」、「日顕に突き付けられているのは、シアトル事件に関する宗門内外への明確な釈明である。それこそが自らの潔白を証明するのであり、それなくして法主の座にしがみつくことは、むしろ猊座をけがすことにほかならない。これに対し、日顕は現在、″貝″のようにかたくなに沈黙を守っている。彼の心には一体何が去来しているのか。慙愧(ざんき)の念か、悔恨の心か。はたまたあきらめと開き直りの強がりか。」との記載がされており、さらに、「昔から変わらぬ好色ぶり」、「あの法主なら破廉恥事件は当然」との見出しのもと、工藤玄英住職(元ロサンゼルス妙法寺住職)の話として、「今回の報道でようやく分かりましたが、その婦人とは、シアトルで警察に連行される寸前の日顕を助けた人だったんです。この婦人を抱き込み、口止めしようと、彼は必死に工作していたわけだ。シアトル事件が日顕にとって、どれだけ痛いものであるかという動かぬ証拠です。」。「ここまでひどくなると、にわかには信しられない人もいるかも知れません。しかし私に言わせれば、日顕がこの程度の事件を起こすことは十分考えられる。」、「このようにシアトル破廉恥(はれんち)事件は起こるべくして起こったものなのです。決して突発的な事件とか、偶然の産物というものではなく、もっと根の深い問題なのです。」などの記載がされている。また、同日付け創価新報の第二面には、「シアトル不祥事」、「『日顕は狗肉和尚(禁を犯した僧侶)だ!』」との見出しのもと、世界から憤怒の声としてのコメントが記載されている。
(6) 本件第一記事(六)
本件第一記事(六)、すなわち平成四年七月一八日付け聖教新聞の第六面には、「日顕宗は悪世末法の『天魔宗』」、「シアトル事件で醜い正体暴露」、「乱行・乱心法主は自滅寸前」との見出しのもと、辻参議会議長の話として、「あの凶暴な日顕のことだから、シアトル事件とかで行き詰まって、いずれ馬鹿(ばか)なことをしてくるだろうと思っていたら、案の定やってきた(笑い)。」、「おまけに、破廉恥(はれんち)事件が世界的に有名になった日顕の名前が出ると、イメージがどんどん悪くなって、坊主たちも嫌がっているんだろう(笑い)。」、「ところが日顕は、謗法を寄せ付けないどころか、謗法の禅寺に入って墓を建て、遊女を寄せ付けないどころか、シアトルでは自分から近付いて警察ざたを起こしているのだから、御本尊も助けようがないではないか(笑い)。」などの記載がされている。
(7) 本件第一記事(七)
(ア) 本件第一記事(七)、すなわち平成四年七月二三日付け聖教新間の第三面において、「シアトル事件新段階へ」、「現場に立ち会った婦人が真実を証言」、「法主宛てに供述書を送付10日以内の回答迫る」、「日顕苦境にー押し通せぬ″事実無根″の逃げ」との見出しのもと、「この供述書は、アメリカ・カリフォルニア州在住のアメリカSGI婦人部ヒロエ・クロウ夫人から出されたもので、当時シアトルの中心幹部だったクロウ夫人は、警察官の通報により、問題の昭和三十八年三月十九日深夜から二十日未明にかけて日顕が売春婦とトラブルを起こしている現場にかけつけ、英語のできない日顕のために警察官に状況の説明をしたり自分が代わりに警察に出頭して日顕が連行されるのを防いだりしている。」との記載がされており、さらに、「シアトル事件の現場に立ち会ったヒロエ・クロウさんの供述書」、「日顕法主、あなたは!ー1963年3月20日ー深夜の7番街で泣き崩れていた」、「代わりにクロウ夫人が警察に出頭『事情聴取』で明るみに出た衝撃の事実」との見出しのもと、クロウの供述書を翻訳したものとして、(イ)の記載がされている。
(イ)(あ) 私、ヒロエ・クロウは次のように供述します。
(い) 一、 一九六三年三月二十日午前二時頃、私は、シアトル市の警察官から「売春宿と思われる建物の前で、日本人男性が売春婦とトラブルを起こしたようだ。本人に事情を聞いても、英語が通じなくて要領を得ない。彼があなたの電話番号を持っていたので連絡した。すぐに来てくれ」との通報を受けました。私がシアトルのダウンタウンの七番街ーその頃は相当いかがわしい地域でしたがーその一角に急いで駆け付けてみると、そこにあなた(阿部日顕)は、二人の警察官の前に泣き崩れ途方に暮れていました。日蓮正宗教学部長として、海外初の出張御授戒の旅に出、しかもシアトルでの御授戒を終えたばかりのその夜、あなたがこのような吠況に置かれているのを目の当たりにして、私は大変なショックを受けました。
(う) 二、二月十九日午後十時頃、私はあなたを、オリンピックホテルまで送り届けました。その前に私は、御授戒前の夕食の際に、何か緊急のことがあった場合のための連絡先として、私の電話番号をあなたに教えました。私は、あなたが翌日のシカゴ行きの準備をした後、休んだものとばかり思っておりました。まさか、売春婦を求めて街を徘徊しているとは夢にも思いませんでした。
(え) 三、その警察官が言うには、あなたは、売春宿から飛び出してきて、それを追いかけるように売春婦が二人、大声で叫びながら出てきたとのことでした。そして、あなたは手に持っていたカメラを振り回してその女たちを追い払おうとしていたとのことでした。
(お) 四、あなたが、売春婦とのトラブルで、まさに警察に連行されようとしていたため、私は、記念すべき第一回の海外出張御授戒が台無しになってはいけないと思い、全力を尽くしてあなたを守りました。私は警察官に「この方は日本から来られた偉い僧侶であり、法を犯すような人ではありません。言葉が通しなかったための誤解だと思います」と説明しました。私があなたのことは責任を持つからと約束したため、警察官も私の説明を受け入れてくれました。そして、あなたの代わりに私が後で警察署に出頭し、あなたのために書面に署名することを条件として、あなたをホテルに連れて帰ることを許されました。
(か) 五、警察官によると、シアトル警察での事情聴取に対して、二人の売春婦の一人は、あなたから「金を払うから、是非ともヌード写真を撮らせてくれ」と頼まれたと供述し、もう一人は実際にあなたと性行為をし、その料金についてトラブルが起こったと供述しているとのことでした。それからしばらくして、同じ三月二十日の朝ホテルにおいて、私が警察で問題の始末をつけてきたことや、あなたのために四通の書面に署名しなければならなかったことをあなたに伝えたところ、あなたは私にお辞儀をするのみで一言もありませんでした。
(8) 本件第一記事(八)
(ア) 本件第一記事(八)、すなわち平成四年八月五日付け創価新報の第一面には、「ウソつき日顕」、「シアトル事件でついに断末魔へ」、「″事実無根″発言が命取りに」、「追い詰められ、いつもの泣き言」との見出しが記載されており、さらに、「事件現場はここだ!」との見出しのもと、シアトル市街地図を掲載した上、日顕が売春婦とトラブルを起こした現場と宿舎のオリンピックホテルの位置を示して、その間が三〇〇メートルしか離れていない旨の記載がされている。また、同日付け創価新報の第二面には、「日顕という男の正体を」、「不祥事が明るみに出れば、正宗の歴史に一大汚点を残す。そう思って口を閉ざしてきました。しかし、元凶・日顕の真実を語らねば今世の使命は果たせないと思い、証言することを決意しました。」、「2人の警官の前で泣きふるえていた日顕」との見出しのもと、クロウの上半身写真や「H作戦」失敗とのイラストとともに、クロウのインタビュー記事が掲載されており、同記事中には(イ)のような記載がされている。
(イ)(あ) シアトル7番街で(見出し)
―ところが日顕は、そうしたアメリカ・メンバーの純真な信心と真心を、あのシアトル・スキャンダルほか一連の破廉恥行為で、無残(むざん)にも裏切ったわけですか。クロウ そうなんです。御授戒が無事、大成功に終わりー当日は、九十八人もの人が御授戒を受けましたー日顕を夜十時ごろ、ホテルに送り届けました。ホテルはシアトルで最も格式の高いとされるオリンピックホテルです。ダウンタウンの中心部で、四番街と五番街の間に位置しています。御授戒会場からは、車で十分ぐらいだったと思います。ホテルから戻った私は、翌朝はシカゴ同行ですから、御授戒後の整理やら荷物の準備などをして、深夜をとうに回っていました。その時、突然、電話のベルが鳴ったのです。それがポリス・オフィサー(警官)からなので、びっくりしました。−警官から電話を受けた時の状況は如何でしたか。クロウ もう午前二時でした。「ミセス・クロウですか」と聞かれ、「はい、そうです」と答えました。「ジャパニーズ・マン(日本人男性)があなたの電話番号を持っていて、英語が分からなくて要領を得ないから、連絡をしました」というのが最初の会話でした。私の電話番号を持っている日本男性といえば、「ミスター・アベ」しか私の頭にはありませんでしたから、「その人は私のゲストに違いありません」と言ったのです。警官の次の言葉を聞いた時は、胸がはりさけるほどビックリしました。「その日本人が売春婦とトラブルを起こしたようだ」「セブンス・アベニュー(七番街)を知っていますか」と、警官はその場所を言い、「そこに日本男性といますので、すぐ来れますか」と聞くのです。当時、七番街といえば悪名高い歓楽街でした。私は、何がどうなったのか混乱してしまいましたが、気を取り直し「その人の名前は、アベというのか聞いてください」と言いました。「アベ」という名前に間違いないと分かったので、私の頭の中は、″ホテルにいるはずの人がなぜ?″と、気が動転しましたが、すぐに飛び出したわけです。―七番街の現場に駆けつけた時、どのような光景を目にしたのですか。クロウ 現場にはパトカーが停車しており、路上に二人の警官が立っていたので、すぐ分かりました。私の車はシボレーのインバラという大型車でしたが、パトカーの後ろに停車するやいなや、車のドアもろくに閉めずに飛び出しました。警官の前でふるえて泣き崩れているのは、まぎれもなく日顕その人でした。二人の警官のうちの一人が説明するには、パトロール中に、あるビルから日顕が出てきて、その後ろを二人の女性が追いかけてきた、と。女性は大きな声をあげているし、日本人男性は二人の女性に向けてカメラを振り回している。そこでパトカーを現場に停(と)めたのだ、と言うのです。女性はいろんなことを言うのだけれど、日顕は英語も分からないし、どうにもらちがあかないようでした。更に警官が説明するには、日顕はお金を見せて一人の女性に、ヌードの写真を撮らせてくれと、身ぶり手ぶりで頼んで、その建物に入ったと言うのです。
(い) 調書には売春婦との顛末が克明に(見出し)
―もう一人の女性とはどんなかかわりがあったと、警官は言ったのですか。クロウ それは、日顕の代わりに私が警察に出頭してから、分かったのです。警官の一人は二十五、六歳の若い人、もう一人は四十歳代の中年でした。若い方の警官が事件を説明してくれたのですが、私は額に青筋を立てて、あの日本人男性はそんなことをする人でない、英語が分からなくて何か誤解されたのだ、等々、必死で弁護したのです。ところが、その間ずっと黙って聞いていた中年の警官が、ぽつんと最後に言ったのです。「もう一人の女性がもう行為を終えていると証言しているんだよ」と。私は、ショックで手も足もふるえて、どうし ていいか分かりませんでした。警官によると、もう一人の女性は、性行為後に金銭にかかわるトラブルが起きたと証言している、とのことでした。―大変に恥ずかしい話で、情けない限りですね。日顕にしてみれば、クロウさんのお陰で警察署に出頭せずにすみ、いくら感謝しても感謝しきれない思いだったでしょう。クロウ 私の姿を見て、まさに「地獄に仏」と思ったのでしょうか、日顕は泣き顔にも安堵(あんど)の表情を見せ「クロウさん、ありがとう、クロウさん、ありがとう」と連発していました。警官が差し出した書類に私がサインをしたあと、彼を私の車に乗せて、ホテルまで送り届けました。決して外出しないよう厳重に念を押してから、午前三時前、日顕の代わりに三番街のシアトル警察署へ行ったのです。そこで、先程の二人の警官から事情聴取を受けました。―クロウさんは、現場でサインをした書類も含め、合計四通の書類にサインをしたということですが。クロウ はい。約束通り日顕の代わりに警察署に出頭したという書類、七番街の現場で見聞きしたことと、署で警官から説明を受けた内容が一致していると述べた書類、また、私自身の身上経歴や海軍中佐だった私の主人の階級・経歴などを記述した書類などです。その書類の一枚に、事件の中心人物の名前を記入する欄があり、そこに私は「ノブオ・アベ」と書きました。私がアメリカ本部から受けた書類には、「阿部信雄」とあり、読み方がついていなかったものですから、これを「シンノウ」と読むなど、思いもよりませんでした。私が署名した書類には、日顕が一人の売春婦にヌード撮影を要求したことと、もう一人と性行為のあと金銭をめぐるトラブルになったことが明記されておりました。
(う) その朝、ホテルで(見出し)
―翌朝、いえ、正確にはその朝、日顕に会ったとき、警察で聞いた事件の詳細を伝えましたか。クロウ はい。私はホテルに朝食を届けました。みそ汁をポットに入れて、彼は食事をしながらも、顔を上げませんでした。「どうも」のひと言だけです、私は「あれから署へいって、全部、済ませてまいりました、必要上、お名前も記入し、書類にサインをしてきました」と言いました。「一切、済みましたのでご心配なく」と言ったのですが、彼は深く頭を下げるだけで、何も返事をしませんでした。
(二) 以上の本件第一記事(一)ないし(八)の各記載によれば、本件第一記事は、一般読者に対し、阿部は、昭和三八年三月、原告日蓮正宗の教学部長として、アメリカ合衆国へ第一回海外出張御授戒に行った際、同月一九日から二〇日にかけての深夜、シアトルにおいて、売春婦に対しヌード写真を撮らせてくれるように頼み、売春婦と性行為を行った後、その料金をめぐって売春婦らとトラブルを起こし、警察沙汰になったとの印象(以下「本件印象」という。)を与えるものであるということができる。なお、本件第一記事(一)、(七)及び(八)は、その各記載から直ちに読者をして本件印象を与えるものであるが、その余の本件第一記事には、本件印象のうち、阿部が売春婦に対しヌード写真を撮らせてくれるように頼み、売春婦と性行為を行ったことなどにつき具体的な記載はない。しかし、本件第一記事(二)には同(一)の記事を引用して阿部がシアトルで売春婦とトラブルを起こす破廉恥行為をしたとの記載、同(三)には「シアトル破廉恥事件」、「シアトルなどでの邪淫ぶり」との記載、同(四)には「シアトル不祥事 第2弾」、「買春旅行」との記載、同(五)には「シアトル・スキャンダル第3弾」、「シアトル破廉恥事件」などの記載、同(六)には「シアトル事件」、「破廉恥事件」などの記載があるところ、本件第一記事が掲載された創価新報((一)、(四)、(五)、(八))及び聖教新聞((二)、(三)、(六)、(七))は、いずれも、被告創価学会の発行する機関紙であり、その主な読者は被告創価学会の会員であって、本件第一記事(一)ないし(二)を前提にその余の本件第一記事が続報されたということができる上、創価新報((一)、(八))及び聖教新聞((七))のいずれの機関紙にも、阿部が売春婦に対しヌード写真を撮らせてくれるように頼み、売春婦と性行為を行ったことなどが記載されているのであるから、本件第一記事は、本件印象を与えるものであるということができる。
(三) また、前記第二、一争いのない事実等、証拠(乙A一一)及び弁論の全趣旨によれば、阿部は、昭和五四年七月に原告日蓮正宗の代表役員に、同年八月に原告大石寺の代表役員にそれぞれ就任し、同年九月に氏名を「阿部信雄」から「阿部日顕」に氏名が変更された旨の登記手続をして現在に至っていること、原告日蓮正宗の法主は、原告日蓮正宗の全僧俗から優れて高い尊崇を受け、特別な権能と権威を有する最高位聖職者であって、原告日蓮正宗の代表役員及び原告日蓮正宗の総本山である原告大石寺の代表役員も兼ねることとされているところ、阿部は、第六七世の法主であり、原告日蓮正宗ないし原告大石寺の信仰の中心ないし宗教上の最高指導者であること、創価新報及び聖教新聞の読者は主に被告創価学会の会員であるが、創価学会員らにとって、原告日蓮正宗及び原告大石寺の代表役員が阿部であることは明らかであることが認められる。これらの事情に加えて、一般的にも、宗教法人に対する社会的評価と、その宗教団体における信仰の中心である最高指導者に対する社会的評価とは密接不可分の関係にあり、最高指導者に対する社会的評価が低下すれば、通常、その宗教団体に対する社会的評価も低下するという関係にあるということができ、しかも、本件事件は、阿部が、原告日蓮正宗の教学部長として、原告日蓮正宗の第一回海外出張御授戒に赴いた際に起こった事件とされていることも考慮すれば、一般読者に対し、原告らの最高指導者である阿部が、第一回海外出張御授戒の際、シアトルにおいて、売春婦に対しヌード写真を撮らせてくれるように頼み、売春帰と性行為を行った後、その料金をめぐって売春婦らとトラブルを起こし、警察沙汰になったとの本件印象を与える本件第一記事は、原告らの社会的評価をも低下させるものであると認めることができる。また、前記(一)で認定した事実及び証拠(甲一ないし八の三)によれば、本件第一記事には、「宗門」、「日顕宗」、「天魔宗」などと指摘して非難を加える部分があることが認められ、創価新報及び聖教新聞の主な読者である創価学会員にとって、これらの文言が原告らを指すことは明らかであるから、このことからも、本件第一記事は原告らの名誉を毀損するものであるということができる。
(四) したがって、本件第一記事は、原告らの名誉を毀損するものであるというべきであり、本件第一記事は阿部個人を非難しているものであり原告らの名誉を毀損するものではないとの被告らの主張は採用することができない。
3 争点(三)(被告池田の名誉毀損指導の有無及び本件スピーチ等による名誉毀損の成否)について
(一) 原告らは、被告池田が、本件第一記事等による名誉毀損行為を容認して、指導したと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(二) そこで、次に、被告池田が行った本件スピーチ等が本件事件に関して原告らの名誉を毀損するものであるかどうか検討する。
(1)
証拠(甲九の「一、二、一〇、一一の一、二)によれば、被告池田は、本件スピーチ等(一)において、「さて、現在、青年部は機関紙の『創価新報』等で、正義のための言論戦を展開している。それについて『余りにも激越すぎるのではないか』という意見もあって、私も青年部にその意見を伝えたのだが、全然、聞いてくれない(爆笑)。実は、仏法においては、仏敵に対しては容赦なく手厳しく追及していくのが、根本精神なのである。」との発言を行ったこと、本件スピーチ等(二)において、「『信心』ほど偉大なものはない。『信心』ある人は必ず最後は勝つ。『信心』の世界を利用して泳いでいるだけの人間は、最後は地獄です」との発言を行ったこと、また、被告池田は、本件スピーチ等(三)において、「現在、『創価新報』などで日顕宗の悪行を徹底して糾弾している。『正法と民衆の敵』日顕宗を、言葉を尽くして追及することは、大聖人の教えにかなった実践なのである。私どもは、いよいよ堂々たる言論戦を繰り広げてまいりたい」との発言を行ったことが認められる。しかし、右各発言には、本件事件に関する指摘は何ら見受けられないのであるから、本件スピーチ等(一)ないし(三)は、本件事件に関し、原告らの名誉を毀損するものではないというべきである。
(2) 証拠(甲一二)によれば、被告池田は、本件スピーチ等(四)において、「シアトル事件の日顕とは天地雲泥の違いであられた。また日達上人も日顕の海外での醜態を憂慮しておられた。」との発言を行ったことが認められるところ、同発言中には右「シアトル事件」の内容について、具体的に述べる部分はない。しかし、前記第二、一争いのない事実等3(四)のとおり、本件スピーチ等(四)は、平成五年三月一三日に創価学会員に対してされ、同月一五日付け聖教新聞に掲載されたものであり、前記2のとおり、被告創価学会は、その機関紙である創価新報及び聖教新聞において、平成四年六月から八月まで本件第一記事(阿部のシアトルにおける本件印象を与える記事)を報道していたのであるから、創価学会員は、既に、本件第一記事を読むなどして、阿部がシアトルで、売春婦にヌード写真を撮らせてくれるように頼み、売春婦と性行為を行った後、その料金をめぐって売春婦らとトラブルを起こし、警察沙汰になったという本件事件について知っているということができ、そのような創価学会員にとって、「シアトル事件」とは、本件事件を指すと容易に理解することができるというべきであり、したがって、本件スピーチ等(四)を聞けば、本件事件は真実であったとの印象を受けるということができる。そうすると、本件スピーチ等(四)は、一般読者に対し、本件第一記事と同様、本件印象を与えるものであるということができる。
(三) 以上によれば、本件スピーチ等のうち、本件スピーチ等(四)は、原告らの名誉を毀損するものであるということができる(なお、原告ら法人の名誉を毀損すると認められる理由は、前記2(三)のとおりである。)。
4 争点(五)(真実性及び相当性の抗弁の成否)について
不法行為たる名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることが証明されたときは、右行為には違法性がなく、仮に右事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されるところ、以下、この点について検討する。
(一) 争点(五)(1)(公共の利害に関する事実)について
まず、本件第一記事及び本件スピーチ等(四)(以下、これらを合わせて「本件第一記事等」という。)において摘示された事実が、公共の利害に関する事実かどうかについて検討する。前記2及び3のとおり、本件第一記事等は、阿部は、昭和三八年三月、原告日蓮正宗の教学部長として、アメリカ合衆国へ第一回海外出張御授戒に行った際、同月一九日から二〇日にかけての深夜、シアトルにおいて、売春婦に対しヌード写真を撮らせてくれるように頼み、売春婦と性行為を行った後、その料金をめぐって売春婦らとトラブルを起こし、警察沙汰になったという事実を摘示するものであると認めることができるところ(後記(三)参照)、前記のとおり、本件第一記事等において、右トラブルは、阿部が、昭和三八年三月、原告日蓮正宗の教学部長として、アメリカ合衆国へ原告日蓮正宗の第一回海外出張御授戒に行った際、深夜のシアトルで起こった出来事として記載されていること、阿部は、本件第一記事等の報道等の当時、原告らの代表役員であり、かつ、原告日蓮正宗の法主であって、原告日蓮正宗の全僧俗から優れて高い尊崇を受け、特別な権能と権威を有する最高位聖職者とされ、信仰の中心ないし宗教上の最高指導者であるとされていること等の諸事情からすれば、右摘示事実は、阿部の原告らの宗教上の最高指導者としての適性を判断するための一資料として、公共の利害に関する事実にあたるというべきである。この点、原告らは、本件第一記事等で摘示された事実は、昭和三八年三月に起こったとされる事件であり、本件第一記事等が報道された平成四年ないし五年から見れば、約三〇年も前の出来事であり、かつ、阿部の執務外に起こった私事であるから、公共の利害に関する事実にはあたらない旨主張する。しかし、前記のとおり、本件事件は、阿部が原告日蓮正宗の教学部長として原告日蓮正宗の第一回海外出張御授戒の際に起こった事件であり、しかも、阿部は、原告日蓮正宗の信仰の中心であって、その最高指導者であるところ、本件事件の有無は、その最高指導者としての適性の有無に密接に関連するということができるし、さらに、証拠(乙二一、 二〇六の二、原告ら代表者阿部)によれば、阿部自身、本件事件が真実であれば直ちに法主を辞めると述べていること、原告日蓮正宗の僧侶の中にも、本件事件が真実であれば僧侶を辞めると述べている者もあることが認められること等の事情からすれば、本件事件は約三〇年前の事件であっても、公共の利害に関する事実にあたるというべきである。したがって、原告らの前記主張は採用することができない。
(二) 争点(五)(2)(公益目的)について
(1) 右(一)のとおり、阿部は、原告日蓮正宗の法主であって、原告日蓮正宗の全僧俗から優れて高い尊崇を受け、特別な権能と権威を有する最高位聖職者とされ、信仰の中心ないし宗教上の最高指導者であるとされており、本件第一記事等で摘示された事実は、阿部の原告らの宗教上の最高指導者としての連性を判断するための一資料となると認められる上、証拠(乙一二三ないし一二六、一九六、証人野崎勲(以下「野崎」という。))及び弁論の全趣旨によれば、被告創価学会は、阿部が売春婦とトラブルを起こしたという本件事件は、阿部の宗教者としての適格性及び法主としての資格などを判断する上で、極めて重要なものであると考え、阿部が法主、聖職者及び信仰者として失格であることを明らかにするために、本件第一記事の報道を行ったこと、被告池田も、同様の目的で、本件スピーチ等(四)を行ったことが認められ、したがって、本件第一記事等の報道等は、専ら公益を図る目的に出たものというべきである。
(2) この点、原告らは、本件第一記事等は何ら根拠のないクロウの供述をそのまま報道等したものであり、真摯な事実調査に欠け、公益目的はない旨主張する。しかし、前記第二、一争いのない事実等、証拠(乙一、七、八、四八、一九六、二一六、証人クロウ、証人野崎)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 平成二年末から、原告日蓮正宗と被告創価学会との間に、紛争が起き、その後、両者との間で、宗教論争が行われるようになった。原告日蓮正宗は、平成三年一一月二八日、被告創価学会を破門し、さらに、平成四年八月一一日、被告池田に対し、信徒除名処分を行った。
(イ) 横田政夫(以下「横田」という。)は、昭和五七年から、聖教新聞社のロサンゼルス特派員として勤務していたが、平成四年四月末から五月初めにかけて来日し、被告創価学会の宗門問題研修を受けた。なお、宗門問題研修とは、原告日蓮正宗と被告創価学会との間の紛争の本質を理解するために行われたものであった。その際、横田らから、アメリカ合衆国における布教拡大の歴史上からも、原告日蓮正宗と被告創価学会のどちらに正当性があるかについて、論証できないかどうかとの話題が出た。その話の中で、昭和三八年に行われた第一回海外出張御授戒に関する苦労談等も話題に出て、ウィリアムスが阿部から直接聞いた話として、シアトルでの御授戒終了後、夜、阿部が一人で宿舎のホテルから外出したところ、道に迷ってしまい、クロウに助けられたことなどが話題に上った。そこで、横田は、アメリカヘ帰国後、これらの話を含め、直接、草創期の幹部らから、アメリカで、創価学会員はどのような苦労をしてきたのかなどについて取材することにより、アメリカでの広布についての真実の歴史を明確にすることとなった。
(ウ) 横田は、日本からの帰国の途中、ハワイに立ち寄り、右取材を行い、その後、平成四年五月一〇日、当時、アメリカのカリフォルニア州ガーデナー市に住んでいたクロウにも電話をかけ、ウイリアムスから聞いた話、すなわち第一回海外出張御授戒の際、阿部が道に迷ってクロウに助けられたことについて話したところ、クロウは、一瞬沈黙した後、「横田さん、実はそうではないのです。道に迷ったのを助けたのではなく、売春宿らしいところで、売春婦とトラブルを起こし、それで警察から電話があって、来てくれないかと言われたのです。」との話を始めた。そこで、横田は、電話で済ますことはできないと考え、直接会って取材をする約束をした。
(エ) 横田は、平成四年五月一一日、ウィリアムスと同席の上、クロウに対し、取材を行ったところ、クロウは、本件事件についてその概要を話した。その中で、クロウは、本件事件について話すことにした心情について、「人にはとても言えないことでずっと悩んできました。私は、出張御授戒直前の昭和三七年一二月、夫を失い、生まれたばかりの長男と幼い長女をかかえながら、シアトル支部の責任者として必死の思いで準備を行い、御授戒当日を迎えました。そして、シアトル支部の創価学会員たちも、生活するだけで大変な中を、歴史的な出張御授戒の成功を祈り浄財を持ちよって、真心から阿部を迎えたのです。しかし、阿部は、本件事件を起こし、その真心を完全に踏みにじったのです。私としては、このことを人に相談すれば必ず事が公になってしまい、大切な広宣流布の歴史に取り返しのつかない疵をつけることになってしまうのではないかと思い悩みました。そして、阿部の将来も案し、自分一人の胸にしまい込めば済むことだと決めて、今日まで沈黙を通してきました。しかし、法主としての権威を振りかざし、創価学会を破門した阿部の現在の姿を思うにつけ、本件事件について沈黙していることは誤りではないかと思い悩むようになりました。そして、阿部の真実の姿を明らかにすることこそ、信仰者としての自分の使命ではないかと考えるようになっていたところ、横田さんからの取材があったことを機会に二九年間の沈黙を破ることにしました。」旨を話した。
(オ) 横田は、クロウから聴取した本件事件の内容等を日本の被告創価学会の聖教新聞社編集局特別企画室(以下「特別企画室」という。)に一報し、その後、取材内容を一旦、ウィリアムスの手記の形にまとめ、平成四年五月中旬ころ、日本の創価新報編集部に送稿した。
(カ) 被告創価学会の副会長であり、かつ、原告日蓮正宗との論争を担当していた特別企画室の室長である野崎は、平成四年五月二〇日ころ、横田から送付された原稿を読み、特別企画室副室長の本村芳孝(以下「木村」という。)及び記者である岡部高弘に対し、本件事件に関する担当を命じ、横田と連携を取って、裏付けを取るように指示した。木村らは、以下の裏付け取材を行った。
(あ) 木村らは、まず、聖教新聞等の機関紙等を調査し、第一回海外出張御授戒が昭和三八年三月にアメリカにおいて実施された事実や、阿部と大村の二人が派遣され、北と南に別れてアメリカを回り、シアトルには阿部一人が行き、シアトルでの御授戒は三月一九日に行われた事実などを確認した。
(い) 木村らは、クロウの経歴や周辺を取材し、クロウが、当時、シアトル支部の支部長として、シアトルでの御授戒の責任者であったこと、クロウはアメリカ創価学会の草創期の幹部であり、取材当時も、ロサンゼルス地域の幹部の一人として真面目に信仰活動に励んでいる人物であることを確認し、また、横田も、クロウと何度も会い、クロウは嘘の話を作り上げる人物ではなく、信用できると確信し、その旨木村らに報告した。
(う) 本村らは、クロウの供述の裏付けをとるために、現地シアトルの職員に、本件事件当時のシアトルのダウンタウンを調査してもらったところ、右ダウンタウンの一角に売春婦が徘徊する場所があったことを確認した。
(え) 木村らは、出張御授戒の際、南回りの大村に同行したウィリアムスに対し、取材を行い、ウイリアムスが、ロサンゼルスで阿部と別れ、大村と共にアメリカ南部を回った後、二ューヨークで阿部と合流した後、阿部から直接、「シアトルでは、夜、道に述い、クロウに助けられた。」との話を聞いたことが判明した。
(お) 本村らは、現地での取材を行い、本件事件当時シアトル支部の婦人部長であったカワダが、シアトルでの御授戒は自分の自宅で行われたこと、その夜、クロウがカワダ宅に宿泊したこと、また、その夜、カワダ宅に電話がかかってきたこと、その後、クロウが一人で外出したこと、その翌朝、クロウはカワダに対し阿部が道に迷った旨の話をしていたことを記憶していることを確認した。
(キ) 被告創価学会の特別企画室は、平成四年八月五日ころまでの間に、右のような裏付け取材ないし調査を行い、同月下旬ころ、取材等により得られた資料等をもとにして最終のプラン会議を行った。そして、右会議の結果、特別企画室としては、クロウの供述の信用性は極めて高く、本件事件が実際に発生したことは間違いないとの結論に連し、記事として掲載することを決定した。以上によれば、被告らは、本件第一記事等の報道などを行う際、本件事件についてクロウから供述を得た上、その供述について裏付け取材等を行ったということができ、したがって、真摯な事実調査に欠けるので公益目的がない旨の原告らの前記主張は採用することができない。
(3) また、原告らは、本件第一記事の報道は下品で侮辱的な言辞による人身攻撃に満ちており、加害目的をもってされたものであるから、公益日的はない旨主張する。しかし、証拠(乙一九六、証人野崎)及び弁論の全趣旨によれば、被告創価学会は、一般的に宗教論争は激しい表現を用いて応酬されるものであり、特に、報道する紙面で取り扱う内容が宗開両祖の教えないし日蓮正宗の教道にかかわり、いずれが正でいずれが邪であるかを厳然と主張すべき宗教論争のような場合には、その表現は厳しくなり、その中でも聖職者の堕落を批判する言論については、信仰心からほとばしり出た批判ないし怒りの言論となることから、その表現が痛烈になるものであると認識していたところ、本件事件、すなわち阿部がシアトルで売春婦と金銭トラブルを起こしたことについての本件第一記事の報道は、信徒の側から行われた阿部が法主、聖教者及び信仰者として失格である旨の信仰上の批判であり、このような批判において厳しい表現方法を用いることは、そもそも、僧侶の堕落を痛烈に批判した日蓮正宗の宗祖日蓮大聖人、開祖日興上人の教え及び精神に適うものと判断して、本件第一記事において「大破廉恥行為」等の表現方法を用いたことが認められる。また、証拠(乙一八五の二、一八七の二、一九七ないし二〇二)によれば、原告日蓮正宗側も、「妙観」、「慧妙」等において、「ウソカシンポー」、「全てを灰燼に帰した大作天魔王」、「見よ!池田の詐欺師ぶり」、「『池田は頭が宗教屋・胴が政治家・腰下が漁色家』こんなヌエ男に世界は『永違にノー!!』」、「池田を『日本の柱』という学会歌があったが これじや日本の恥だ、国辱だ」、「この異常者を国外へ出すな!」、「狂ったか池田大作!」、「宗教者失格の大暴言」、「平和冒涜のハレンチ発言」、「池田大作異常発言」、「破廉恥人作よ、去れ!!」、「『改竄証人』の蔑称は池田にピッタリ」、「嘘つき池田創価学会の史実改竄を笑う」などの表現方法を用いて、被告らを批判していることが認められ(なお、このことからも、原告らと被告らは、互いに、相手方の最高指導者を批判することにより、自己及び相手方の正当性等について論争していることが窺え、宗教諭争であるとの被告らの認識が裏付けられるというべきである。)、したがって、論争の一方当事者である被告創価学会の本件第一記事における表現方法をもつて、公益目的を欠くということはできず、被告の前記主張は採用することができない。
(三) 争点(五)(3)(真実性)について
(1) 真実性の立証対象について
前記2(2)及び3(二)(2)のとおり、本件第一記事等は、一般読者に対し、本件印象を与えるものであり、本件第一記事等は、右事実を摘示したものである。そうすると、被告らが、真実であることを証明すべき事実は、本件第一記事等において摘示した右事実、すなわち、阿部が、昭和三八年三月、原告日蓮正宗の教学部長として、アメリカ合衆国へ第一回海外出張御授戒に行った際、同月一九日から二〇日にかけての深夜、シアトルにおいて、売春婦に対しヌード写真を撮らせてくれるように頼み、売春婦と性行為を行った後、その料金をめぐって売春婦らとトラブルを起こし、警察沙汰になったことであるというべきである。この点、被告らは、本件第一記事等の報道等の主要な部分は、「阿部が、一九六三年三月一九日から二〇日にかけて、第一回海外出張御授戒のために訪れたアメリカ合衆国ワシントン州シアトル市において、深夜単身で歓楽街に繰り出し、買春をめぐり売春婦と金銭トラブルを起こして警察沙汰になるという大破廉恥行為をした。」という部分であり、これについて真実であることの証明がされれば足りる旨主張する。しかし、前記のとおり、本件第一記事等において、阿部が売春婦に対しヌード写真を撮らせてくれるように頼んだこと及び阿部が売春婦と性行為を行ったことが具体的事実として明示されており、これらの事実は原告らの社会的評価を低下させる重要な事実ということができるのであって、これらの事実の摘示により、原告らの名誉が毀損されている以上、これらの事実を真実性の立証対象から除外して、真実性の立証対象を被告らの主張するような内容に抽象化することは相当ではないというべきである。したがって、被告らの前記主張は採用することができない。
(2) 当裁判所の認定事実
証拠(甲六一の一ないし六三の二、一一〇の一ないし一一一の二、一五六の一ないし一五七、一六〇の一ないし二二、一六二、乙一ないし四の一、五の一ないし八、二六の一ないし二七の二、二九の二、三〇の四、三一の四、三二の一、三三の一、三四の一、三五の一ないし三六の二、三八の一、二、四八ないし五〇、五三の一ないし五六の二、一○九、一一一の一、二、一一三の一、二、二一一の一、二、二一六、二一八の一ないし二二二の二、二二五ないし二二六の二、二三三の一、二三八の一、
二、二四〇の一ないし二四一の二、二四三の一、二、二四五のーないし二四六の二、二四八のー、二、二六七の一、二、二七六の一、二、二九六の一、二、証人クロウ、同ロナルド・C・スプリンクル(以下「スプリンクル」という。)、原告ら代表者阿部、検証の結果)によれば、以下の事実が認められる(なお、以下、検証にかかるアメリカのデポジションにおけるスプリンクルの供述内容を証拠として引用する場合には、便宜上、乙五四の一ないし五六の二のみを摘示することとする。)。
(ア) 御授戒とは、新入信者が、原告日蓮正宗の信者となるための儀式のことをいい、原則として、原告日蓮正宗の寺院で行われるが、そのうち、出張御授戒とは、原告日蓮正宗の僧侶が寺院のない地域に出向き、会員の家などで行われる御授戒のことをいう。アメリカでも、出張御授戒を行ってほしいとの要望が強まってきたため、昭和三八年三月一六日から三〇日にかけて、原告日蓮正宗の第一回海外出張御授戒が、アメリカで行われた。右出張御授戒には、当時、原告日蓮正宗の教学部長であった阿部と、当時妙海寺住職であった大村が派道され、阿部及び大村は、同月一六日、日本を出発し、ハワイ及びロサンゼルスで御授戒を行った後、二手に分かれ、阿部がシアトル、シカゴなど北回りで、大村がコロラドなど南回りで御授戒を行い、最後に、二ューヨークで合流することとなっていた。
(イ) 出張御授戒のための運営は全てアメリカの被告創価学会が行うこととなったが、クロウは、当時、被告創価学会のシアトル支部長であり、シアトルでの出張御授戒について責任を持つとともに、シアトルの次に御授戒が行われるシカゴまで阿部と同行し、シカゴでの御授戒の運営を手伝うこととなっていた。また、ウィリアムスは、当時、被告創価学会の北アメリカの総支部長であり、大村の南回りの御授戒に同行することとなっていた。
(ウ) 阿部は、大村と別れて、ロサンゼルスを出発した後、同月一九日正午過ぎころ、シアトルの空港に到着した。その後、阿部は、クロウらと共に、車でシアトル市のダウンタウンにある宿舎であるオリンピックホテルヘ行き、荷物を置いた後、クロウらと共に、御授戒の会場であるカワダ宅へ行った。カワダは、当時、被告創価学会のシアトル支部婦人部長であった。
(エ) 阿部とクロウらは、カワダ宅に到着し、阿部は、背広から法衣に着替え、その後、夕方から、合計九八名に対し、御授戒を行った。御授戒は、同日午後八時ないし九時までの間に、終了した。
(オ) クロウは、翌日阿部をホテルに迎えに行ってシカゴまで同行しなければならなかったところ、クロウの自宅はホテルから遠く不便であったため、その日は、カワダ宅に泊まることになっていた。そこで、クロウは、御授戒終了後、阿部に対し、「私は今晩は自宅に帰らないでここにいます。」と述べ、さらに、阿部がクロウに対し何か用事があるときに備えて、小さいメモ用紙に「CLOW」と書き、その上にカタカナでクロウとふりがなを付した上、カワダ宅の電話番号を書いて渡した。阿部は、これを受け取り、クロウに対し、「クロウさんは本当に何から何までよく気がついて。」と述べた。また、クロウは、その際、阿部に対し、翌朝の朝食をどうするか尋ねたところ、阿部は、「さっきのご飯がおいしかった。」と答えたので、クロウは、翌朝、ホテルに日本食を届けることになった。
(カ) その後、クロウは、連転手らと共に、阿部を、宿舎であるオリンピックホテルまで送った。クロウや阿部らは、同日午後一〇時ころ、同ホテルに到着し、クロウは、阿部と共に、阿部の部屋まで行き、お湯を入れたポット、急須、湯飲み、お茶及びお菓子などを部屋に置き、お茶を入れることができる準備をした後、「お休みなさい。」と挨拶をして部屋を出た。その後、クロウらは、カワダ宅へ帰り、カワダらと打ち合わせなどを行い、一段落した後、腰を伸ばすため、床の絨毯の上に横になった。
(キ) 一方、阿部は、オリンピックホテルに帰った後、間もなく、一人で外出し、メイフラワーホテル内にあるカルーセルルームに入り、飲酒をした。カルーセルルームのウェイトレスは、肩や太ももを露出した水着スタイルの服を着て働いており、また、当時、カルーセルルームには、売春婦が来ることがあった。
(ク) 阿部は、カルーセルルームを出た後、セブンスアベニューとパイク通りの交差点の南東角にあるマッケイ・、アパートメント又はその付近にあるホテル等において、売春婦に対し、ヌード写真を撮らせてくれるように頼み、売春婦と性行為を行った。なお、マッケイ・アパートメントは、当時、売春婦が、売春をするために利用するホテルとして知られていた。その後、阿部は、翌二〇日午前二時ころ、セプンスアベニューとパイク通りの交差点の南東角の路上付近において、売春婦らと、右ヌード写真撮影ないし性行為の料金の支払について、トラブルになった。
(ケ) シアトル市警察署のスプリンクルは、バーナード・ビクター・メイリー(以下「メイリー」という。)と共に、パトカーに乗って、パトロール中、セブンスアベ二ューとパイク通りの南東角の路上において、売春婦らが、マッケイ・アパートメントを後ろにして立つ阿部に対し、手を振り回すなどして、激しい口調で迫っているのを発見した。なお、セブンスアベニューとパイク通りの交差点付近は、当時、売春婦がたむろするような場所であった。そこで、スプリンクルとメイリーは、パトカーから降り、阿部と話をしようとしたが、言葉が通しなかったため話すことができなかった。また、売春婦らは、阿部に対し、あなたは私に払わなければならないなどと大声で叫んでおり、スプリンクル又はメイリーは、売春婦らから、阿部とのトラブルは、ヌード写真撮影ないし性行為の料金に関するものである旨聞いた。阿部が、スプリンクルらに対し、クロウから渡されていたカワダ宅の電話番号が書かれてあるメモを差し出したので、スプリンクルは、メイリーと相談して、そこに書かれてある電話番号に電話をすることとした。スプリンクルは、阿部をパトカーに乗せ、売春婦らに対し、その場から立ち去るように言った。スプリンクルは、パトカーを八番通りとパイク通りの交差点の南西に移動し、ラリーズ・グリーンランド・カフェの前に停めた。
(コ) スプリンクルは、パトカーから降り、右カフェに入り、カワダ宅ヘ電話をした。クロウは、右(カ)のとおり、床の上に横になっていたが、電話が鳴ったので、電話に出たところ、その電話はスプリンクルからであった。スプリンクルは、クロウに対し、「こちらはシアトル市警察の者だが、日本人の男性で英語のわからない人があなたの電話番号を書いたメモを持っていたので、電話をした。その日本人男性は、売春宿の前で売春婦とトラブルを起こしているが、英語がわからなくて要領を得ないので、セブンスアベニューの現場まで来てほしい。」旨述べた。クロウは、スプリンクルから、現湯の場所を聞き、すぐに行く旨述べて、電話を切った。クロウは、セブンスアベニューは、昼間から売春婦がたむろしているような場所であったため驚き、カワダに対しては、阿部がホテルから外に出て道に迷ったようだから行って来る旨だけ述べて、車で右現場に向けて出発した。クロウは、ボーレン通りを北へ向かい、パイン通りに出たところで左折し、さらに、セブンスアベニューに出たところで左折し、パイク通りに出たところで左折したところ、パトカーが停まっているのが見えたので、停止した。
(サ) スプリンクル又はメイリーは、車を降りてきたクロウに対し、阿部が売春婦らに対しお金を払うからヌード写真を撮らせてくれるように頼み売春婦らと共に部屋に入ったことをジェスチャーを交えて述べた。また、スプリンクル又はメイリーは、クロウに対し、阿部が売春婦らと部屋にいたこと、阿部と売春婦らとのトラブルは金銭上のトラブルであることを説明した。そして、スプリンクル又はメイリーは、クロウに対し、阿部と共に警察署まで来てほしい旨頼んだが、クロウは、阿部が警察署に連れて行かれるのを阻止するために、阿部が日本の僧侶を代表してアメリカに来た人であることなどを説明したところ、スプリンクル又はメイリーは、クロウに対し、阿部を解放するが、その代わり、阿部の身元を保証するための書類を作成するために警察署に来るように言い、クロウが阿部の身元を保証し、警察署に出頭する旨書かれた書面に署名するように求め、阿部の名前を聞いた。これに対し、クロウは、「ノブオ・アベ」と言って、そのスペルを述べ、さらに、右書面にクロウの名前を署名した。
(シ) その後、クロウは、自分の車の助手席に阿部を乗せて、オリンピックホテルヘ向かった。阿部は、車の中で、クロウに対し、礼を述べた。クロウは、阿部に対し、阿部をホテルまで送った後に警察署へ出頭して書類を作成することになっている旨説明するとともに、一体どうしたのかと尋ねた。阿部は、道に迷った旨答えたが、クロウが、さらに、女性とは何があったかについて尋ねたところ、阿部はこれには答えずに無言だった。
(ス) クロウは、阿部をオリンピックホテルに送り届けた後、阿部に対し、部屋から出ないように念を押して、シアトル市警察署へ向かった。クロウは、同日午前三時ころ、シアトル市警察署に到着し、スプリンクル及びメイリーと、その上司二人がいる部屋に入り、警察の要請に応じて出頭した旨書かれてある書類に署名した。また、スプリンクル又はメイリーは、クロウに対し、阿部は、売春婦との性行為を終えており、その料金について売春婦とトラブルになったことを説明した。また、クロウは、ヌード写真撮影や売春婦との金銭トラブルについて書かれてある書類にも署名した。
(セ) クロウは、同日午前四時ころ、警察署を出て、カワダ宅へ戻った。クロウは、カワダに対しては、阿部が道に迷ったと話した。クロウらは、同日朝、オリンピックホテルの阿部の部屋に行き、朝食を届けたが、その際、クロウは、阿部に対し、耳元で、警察で全部済ませてきた旨を伝えた。すると、阿部は、無言で深く頭を下げた。その後、クロウらは、阿部と共に、オリンピックホテルを出て、シカゴヘ行くためにシアトル空港へ向かった。
(3) クロウの証言の信用性について
(ア) 供述の動機等
前記(二)(2)(エ)認定事実及び証拠(証人クロウ)によれば、クロウは、昭和三七年一二月、夫を失い、生まれたばかりの長男と幼い長女をかかえながら、シアトル支部の責任者として、無事故で記念すべき第一回海外出張御授戒を遂行したいとの思いで一杯であったこと、その記念すべき御授戒の際、原告日蓮正宗の教学部長である阿部が本件事件を起こしたことについて非常に大きな衝撃を受け、誰かに本件事件について話すべきかどうか悩んだが、本件事件は歴史的な第一回出張御授戒の際に起こったことであり、もし、本件事件が公になれば、一大汚点を残し、原告日蓮正宗及び被告創価学会に傷がつくところ、日蓮正宗の信徒としては、何としても原告日蓮正宗を守り抜くように教えられていたので、阿部の将来のことも考え、本件事件について口外しないと決めたこと、しかし、クロウは、その後、法主としての権威を振りかざし、被告創価学会を破門した阿部の現在の姿を思うにつけ、本件事件について沈黙していることは誤りではないかと思い悩むようになり、阿部の真実の姿を明らかにすることこそ、信徒としての自分の使命ではないかと考えるようになっていたところ、平成四年五月、横田からの取材の申込みを機会に本件事件について話したことが認められる。右認定事実によれば、クロウが、本件事件について話すことにした動機は自然であるというべきである。また、右認定事実によれば、クロウは、記念すべき第一回海外出張御授戒を無事に遂行したいと強く思っていたところ、阿部が本件事件を起こしたことにより、非常に大きな衝撃を受けたものであって、本件事件は、クロウにとって、非常に印象的かつ衝撃的な事件であるということができ、したがって、クロウが、昭和三八年三月に発生した本件事件を、平成四年五月に横田に話すまで、又は本件において証人として証言するまで、具体的な事実についてまで詳細に記憶していたことは、何ら不自然ではなく、合理的な理由があるというべきである。
(イ) 証言内容の具体性等
クロウは、証人尋問において、第一回海外出張御授戒の様子、阿部にカワダ宅の電話番号が書かれたメモを渡した状況、御授戒終了後に阿部をオリンピックホテルに送りカワダ宅に戻って懇談をしたときの状況、警察官から電話がかかってきた状況、本件事件の現場に行くまでの状況、現場での警察官らや阿部の様子、警察官らとのやり取り、阿部を解放してもらいオリンピックホテルに送つているときの状況、警察署へ出頭したときの伏況、その際の警察官らとのやり取りなどを詳細かつ具体的に証言しているものであり、その内容は迫真性に富んでおり、実際に経験した者でなければ語ることのできないものであるということができるし、供述内容は終始一貫しており、特段の矛盾変遷等はないということができる。
(ウ) 証言と客観的状況との一致
証拠(乙三、二九の二、三〇の四、三一の四、三二の一、三三の一)によれは、クロウが証言するところの警察官から電話を受け本件事件の現場に行く際に通った道路の状況は、昭和三八年三月当時の道路の客観的伏況ないし地図と一致していると認められる。この点、原告らは、当時、高速道路の工事中であって、クロウが証言するような行き方では本件事件の現場に到着することができないかのような証拠(甲四五ないし五二)を提出するが、右各証拠に照らし、信用することができない。また、クロウの証言は、セブンスアベニューとパイク通りの交差点付近は、当時、売春婦がたむろするような場所であったという客観的状況にも一致するものであるというべきである。この点、原告らは、右交差点付近は、当時、売春婦がたむろするような場所でなかったと主張し、これに沿うかのような証拠(甲二四七の一ないし二四九の二、二六八の一、二、二七三の一、二、二七五の一、二、二七九の一、二、二八九の一ないし二九四の二)を提出するが、前記(2)に掲記した証拠に照らし、信用することができない。
(エ) 証言の裏付け
クロウの証言は、後記(3)及び(4)のとおり、本件事件の現場に立ち会った警察官であるスプリンクル及びメイリーの供述によって裏付けられるということができる(なお、証人スプリンクルは、クロウに対し、阿部が売春婦にヌード写真を撮らせてくれるように頼んだと言ったことを否定する旨の証言をしているが、この点に関しては、後記(3)のとおり、クロウの証言の方が信用性が高いというべきである。)。また、カワダは、宣誓供述書(乙四八)において、御授戒が行われた日の夜中に、クロウが一人で外出したこと、クロウは帰ってきた後に「御導師が道に迷われてねえ。」と話していたこと、翌朝、阿部の朝食を準備しているとき、クロウがジャーに味噌汁を入れていたことを供述しており、この供述も、クロウの証言を裏付けるものであるということができる。さらに、クロウの陳述書(乙八)には、シカゴで、ウィリアムスから電話があり、その際、同人に対し、阿部がシアトルで違に迷った旨話したとの陳述記載があるが、ウィリアムスは、宣誓供述書(乙二一六)において、シカゴにいるクロウに電話をして、その際、クロウから阿部がシアトルで道に迷った旨聞いたと供述をしている。したがって、ウイリアムスの右供述は、クロウの陳述書における右陳述記載を裏付けるとともに、後記(6)の阿部の供述の信用性を減殺するものであるということができる。なお、原告らは、ウィリアムスが阿部と別れて同人の様子を初めて聞いたのはリーブマン支部長からであり、その前にクロウからは聞いていないと主張して、それに沿うかのような証拠(甲二〇八)を提出するが、ウィリアムスの宣誓供述書(乙二一六)によれば、ウィリアムスは、阿部がシアトルで道に迷ったことについては新聞記事にするのがふさわしくないと考えたので、そのことについては話さなかっただけであることが認められ、原告らの提出する右証拠は、クロウの陳述書における右陳述記載及びウイリアムスの右供述の信用性を減殺するに足りないというべきである。
(オ) 重要部分につき反対尋問を受けていないことについて
なお、原告らは、クロウは、証人として、平成七年一〇月二日及び九日の本件口頭弁論期日において、主尋問を受け、平成八年二月七日の本件口頭弁論期日において、経歴及び導入部分についての反対尋問を受けたのみで、同年四月以降に予定されていた本格的な反対尋問を受ける前に、同年三月二三日、死亡したため、クロウの証言の信用性は乏しい旨主張する。しかし、クロウの証言及び同人作成の陳述書は、本件事件の重要な部分について反対尋問を受けていないことを考慮しても、前記(ア)ないし(エ)の事情に照らし、その信用性は高いというべきである。
(カ) 以上によれば、クコウの証言の信用性は高いというべきである。
(4) スプリンクルの証言の信用性について
(ア) スプリンクル発見の経緯及び供述の動機等
証拠(甲八五の一ないし八六の二、八八の一ないし八九の二、乙三六の一、二、五五の一ないし五六の二、二六六の一、二、二七四のー、二、証人スプリンクル)及び弁論の全趣旨によれば、以下(あ)及び(い)の事実が認められる。
(あ) 本件第一記事の報道がされた当時、本件事件に立ち会っていた二人の警察官は発見されていなかった。クロウは、平成四年九月、アメリカにおいて、原告らに対し、名誉毀損の裁判を提起し、その手続をラングバーグ弁護士に依頼していたが、ラングバーグ弁護士は、その一環として、本件事件関係の調査活動を行っており、パラディノ・アンド・サザランド調査事務所を雇っていた。同事務所は、ポール・パラディノ(以下「ポール」という。)に右調査を依頼した。ポールらは、本件事件を処理した警察官を発見するため、警察の名簿等を調査、検討するとともに、シアトル警察の警察官組合が発行する月刊紙である「ザ・ガーデイアン」に広告を掲載するなどした。なお、スプリンクルは、右「ザ・ガーディアン」を購読していなかった。また、ポールは、一九六〇年代にシアトル警察に所属していた一○○名以上の現役及び退職した警察官を見つけ出し、事情聴取を行ったところ、本件事件が起きた地域を担当していたのは、パトカー一二三号であることが判明した。さらに、ポールは、昭和三八年春ころパトカー一二三号に配属されていたのはスプリンクルかもしれないとの情報を得た。
(い) そこで、ポールは、平成五年七月六日、スプリンクルに電話をして、同人に対し、昭和三八年にセプンスアベニューとパイク通りの交差点付近で発生した頭のはげたアジア人の男性と何人かの売春婦との間の口論を処理したシアトル警察の警察官を探していると説明した。これに対し、スプリンクルは、その事件を記憶していること、その男は英語を話すことができず、女達には立ち去るように言ったこと、その事件はラリーズ・グリーンランド・カフェの側で発生したこと、その男は英語を話すことができなかったためそのアジア人を知っている人に電話をしなければならなかったについて話した。そして、スプリンクルは、その事件についてそれ以上話したくはないこと、訴訟に関わり合いになりたくないことなどを述べた。しかし、スプリンクルは、その後、ラングバーグ弁護士から説明を受け、クロウが真実を証明するためにスプリンクルを必要としていること、クロウの名誉を回復することが重要であることを理解し、本件事件について証言することを決意した。
(う) 以上によれば、スプリンクルを発見した経緯及び同人が本件事件について供述するに至った動機は、自然であるということができる。また、本件事件について話すことを躊躇していたなどの当初のスプリンクルの供述態度からしても、スプリンクルは、自らの記憶のとおり証言ないし供述していることが窺えるというべきである。
(イ) スプリンクルが本件事件について証言していること
(あ) 証人スプリンクルは、男性の特徴として、背の高さは相対的に背の高くなく、ダークスーツ及び黒又は濃い灰色のコートを着て、ダークの帽子をかぶり、眼鏡を着用し、頭は剃っているか短く切っていたと証言しているところ、証拠(甲八の三、一一九、乙四八)によれば、スプリンクルが証言する男性の特徴は、第一回海外出張御授戒当時の阿部の特徴とほぼ一致すると認めることができる。
(い) また、証人スプリンクルは、セブンスアベニューとパイク通りの交差点である本件事件の現場で、昭和三八年三月の午前二時ころ、クロウと会ったと証言し、証人クロウは、同月二〇日午前二時ころ、警察官から電話があり、その後、一○分後くらいに右交差点にある本件事件の現場に到着した旨証言しており、証人スプリンクルの証言する場所及び午前二時ころという時刻は、クロウの供述とほぼ一致しているということができる。
(う) また、証人スプリンクルの証言にょれば、同人は、平成七年三月上旬ころ、本件事件後初めてクロウと再会したとき、クロウが本件事件の際に会った女性であるとすぐに認識することができたと認められる。
(え) 以上によれば、証人スプリンクルが証言しているのは本件事件についてであり、また、売春婦らとトラブルを起こしたとされる男性は阿部を指しているということができる。
(ウ) スプリンクルの記憶等
また、証拠(乙二六及び三六の各一、二)によれば、スプリンクルは、パイク通りの地域で身なりの良い東洋人を見ることや日本人男性が関係する事件は珍しかったため、本件事件を覚えていることが認められ、したがって、スプリンクルが昭和三八年三月当時の本件事件について記憶していたことは何ら不自然ではなく、合理的な理由があるというべきである。そして、そのことは、スプリンクルが、アメリカでのデポジション(乙五六の一、二)において、本件事件が起こった現場で、午前二時ころに、日本人又は東洋系の男性を見るのは通常のことではなかったこと、しかもその男性は壁を背にして、売春婦らが腕を振り回しながら立っており、男性は完全に恐れおののいており、男性の手には負えない状況であったことが滑稽に思えたことについて供述していることからも裏付けることができるというべきである。もっとも、証人スプリンクルは、売春婦らは、阿部に対し、提供されたサービスに対して支払がされていないことに関して大声で話していたことは覚えているが、売春婦らや阿部の具体的な発言内容等は覚えていない旨証言する。しかし、前記(2)認定事実に照らして考えると、スプリンクルは、売春婦らに迫られていたのが日本人の男性であり珍しかったこともあって、提供されたサービスに対して支払がされていないことに関して口諭していたという結論だけは印象に残り覚えていたが、具体的な発言などの詳細については昭和三八年三月の出来事であり、かつ、通常のパトロール時に遭遇した事件であったため、記憶に残っていないというものであつて、右証言内容は、何ら不自然なものであるということはできない。
(エ) クロウの証言との不一致等について
また、スプジンクルは、証人尋問及びアメリカにおけるデポジション(乙五四の一ないし五六の二)において、阿部が売春婦らに対しヌード写真を撮影させてくれるように頼んだことについて特に明確な供述をせず、また、クロウに警察署に出頭するように言ったこと、書類等を作成したことについても記憶がない旨供述しており、この点、クロウの証言と合致しないようにも思える。しかし、右(ウ)のとおり、スプリンクルが、右のような具体的なやり取りまで詳細に覚えていないことは何ら不自然ではなく、提供されたサービスに対して支払がされていないことに関する口論であったという結論だけが記憶に残り、ヌード写真撮影の点については記億に残らなかったのも十分理解することができるところである。また、特に、書類等の作成などの警察実務における手続については、警察官であったスプリンクルが日常業務の中で数多く行っていると考えられ、この点について明確な記憶がないのは自然であるということができる。したがって、スプリンクルが右の点について記憶がない旨供述しているという事情をもって、同人の供述の信用性が低いということはできず、述に、自然なこととして、その信用性を高めるものであるというべきである。むしろ、本件事件の起こった時刻、場所、電話をかけたときの状況、売春婦らが二名又は三名という複数であったこと、提供されたサービスに対する料金に関するトラブルであったこと等、主要な部分については、スプリンクルの証言は、クロウの証言と一致しており、信用性が高いというべきである。なお、本件事件における具体的な状況(阿部が売春婦に対しヌード写真を撮らせてくれるように頼んだことも含む。)については、前記(3)のとおり、本件事件によって大きな衝撃を受けたことから具体的な言動等の詳細な部分まで記憶していたクロウの証書によって認定することができるというべきである。
(オ) マリオンの供述による裏付け
エドウィン・カーティス・マリオン(以下「マリオン」という。)は、宣誓供述書(乙二一一の一、二、二三四の一、二、二九六の一、二)において、一九六二年一二月に警ら隊に配属されてから数か月後、スプリンクルから、複数の売春婦と仏教の僧侶がお金のことで喧嘩になったという事件のことを聞いた旨供述しており、スプリンクルの証言は、マリオンの右供述からも裏付けられる。
(カ) 以上によれば、スプリンクルの証言の信用性は高いというべきである。なお、原告らは、スプリンクルは昭和三七年一〇月三〇日から昭和三八年五月六日まで、軍務休職中であり、同年三月に起こったとされる本件事件の現場にはいなかったと主張し、これに沿うかのような証拠(甲二一二の一ないし二四四の二、二五六のーないし二六四の二、二七三の一、二、二七五の一、二、二七六の一ないし二七八の二)を提出する。しかし、証拠(乙二二七の一ないし二三一の二、二三八の一、二、二四九の一ないし二五八の二、二六七の一、二、二六九の一ないし二七三の二、二九七の一、二)によれば、スプリンクルは、同月当時、軍務休職中であり、予備役として、ワシントン州のペインフィールド基地に配属されていたが、勤務時間に任務に就く時以外は、基地にいることは義務づけられておらず、予備役兵の多くは軍務以外の仕事をしていたこと、スプリンクルも予備役の給料が低く、シアトル市警察の警察官として現場に戻りたかったことから、本件事件当時には、シアトル市警察のパトロール部門を担当させてもらっていたことが認められるほか、前記(2)で認定した事実及びスプリンクルの証言の信用性が高いこと等の事情に照らし、原告らの右主張は採用することができず、軍務休職中であったという一事をもって、スプリンクルが本件事件の現場にいなかったということはできない。
(5) メイリーの供述の信用性について
(ア) メイリー発見の経緯等
証拠(乙二三五、二七八、証人スプリンクル)によれば、スプリンクルとパラディノ・アンド・サザランド調査事務所の私的調査員であるメレディス・ブルベックと共に、平成七年初めに、本件事件当時、スプリンクルと一緒に働いていた記憶のある者をリストアップし、順次、電話をかけていったところ、同年五月、メイリーに電話が通じ、スプリンクルが、メイリーに対し、一九六三年(昭和三八年)に、東洋人男性が関わった事件に関しスプリンクルと共に仕事をしたことを記憶していないかどうか尋ねたところ、メイリーは記憶している旨答えたことが認められ、したがって、メイリーを発見するに至った経緯は自然であるということができる。
(イ) メイリーが本件事件について供述していること
メイリーは、本件事件の男性の特徴として、よい服を着て、オーバーを羽織っており、髪を非常に短く切っていた旨供述するが(乙二七の一、二、二二五ないし二二六の二)、前記(4)(イ)(あ)のとおり、メイリーが供述する男性の特徴は、第一回海外主張御授戒当時の阿部の特徴とほぼ一致すると認めることができる。また、メイリーは、本件事件の現場についてセブンスアベニューとパイク通りの交差点であり、本件事件発生の時刻は午前一時以降であると供述しており(乙二七の一、二、二二五ないし二二六の二)、これは前記(4)(イ)(い)のとおり、クロウ及びスプリンクルの証言とほぼ一致するところである。さらに、メイリーの供述(乙二七の一、二、二二五ないし二二六の二)によれば、メイリーは、平成七年九月、本件事件後初めてクロウと再会したとき、クロウが本件事件の際に会った女性であるとすぐにわかったことが認められる。以上によれば、メイリーが供述しているのは本件事件についてであり、また、売春婦とトラブルを起こしたと供述する男性は阿部を指すということができる。
(ウ) メイリーの記憶等
また、証拠(乙二七の一、二)によれば、メイリーは、深夜にセブンスアベニューとパイク通りの交差点のような場所で東洋人の男性を発見するのは珍しかったため、本件事件を覚えていることが認められ、したがって、メイリーが昭和三八年三月当時の本件事件について記憶していることは何ら不自然ではなく、合理的な理由があるというべきである。なお、メイリーも、ヌード写真撮影について特に明確な供述をせず、書類を作成したことについても覚えていない旨供述する(乙二七の一、二、二二五ないし二二六の二)。しかし、これは、前記(4)(エ)のとおり、スプリンクルと同様、何ら不自然なものではない。
(エ) クロウ及びスプリンクルの証書との一致
また、メイリーの供述(乙二七の一、二、二二五ないし二二六の二)は、本件の起こった時刻、場所、売春婦らが二名又は三名という複数であったこと等、主要な部分において、クロウ及びスプリンクルの証言と一致しており、信用性は高いというべきである。
(オ) 以上によれば、メイリーの供述の信用性は高いというべきである。
(6) 阿部の供述の信用性について
阿部は、本人尋問において、本件事件の存在を否定する旨の供述をするので、以下、阿部の右供述の信用性について検討する。
(ア) ホテルから一歩も出ていない旨の供述ないし主張の変遷
(あ) 証拠(乙二〇、二二ないし二四、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、阿部は、平成四年八月二八日に総本山大講堂で行われた全国教師指導会などにおいて、シアトルのカワダ宅での御授戒が終了してホテルに戻った後は、翌朝までホテルから一歩も出ていない旨供述していたこと、当庁平成四年(ワ)第二一〇三二号謝罪広告等請求事件の平成五年六月二五日付け準備書面においても、シアトルでは宿泊したホテルから一歩も出ていない旨主張していること、原告ら訴訟代理人らも、平成六年五月二三日及び平成七年六月二六日の本件口頭弁論期日において、ホテルから一歩も出ていない旨述べていたことが認められる。しかし、原告らは、平成七年九月二九日付け準備書面(平成八年六月一二日の本件口頭弁論期日において陳述)において、阿部は、カワダ宅で挙行された御授戒を終了して、宿舎であるオリンピックホテルの自室に戻り、一人で散策して帰室し、午前一時には就寝して、以後、ホテルから外に一歩も出ないまま、翌朝午前一〇時に起床したと主張して、従来の阿部の供述ないし原告らの主張を変更するに至った。また、宗内各位宛の平成七年九月二九日付け「お知らせ」と題する書面(乙二五)にも、同趣旨の内容が記載された。
(い) この点、阿部は、本人尋問において、シアトルでの外出を認めるに至った理由につき、シカゴで外出したことについては、非常に印象が強かったため、二ューヨークで再会したウィリアムスに話をしたり、日本に帰国した後、僧侶仲間に話をしたりしたが、シアトルでの外出については話をしなかったうちに、シアトルでの外出を失念し、手帳の存在さえ忘れていたが、平成七年三月、シアトルでの外出が記載されている手帳を発見し、シアトルで外出した記憶を喚起した旨供述する。しかし、証拠(甲「原告ら代表者阿部)によれば、平成四年六月一七日に既に本件第一記事(一)において本件事件に関する報道がされていること、阿部は、右報道がされてから間もなく、本件第一記事(一)を読んでいること、原告日蓮正宗では、右報道に関する調査を行い、阿部も事情聴取を受けていることが認められるのであり、仮に、阿部が、右記事を読み、事情聴取を受けた際に、シアトルでの外出を思い出すのが通常であるというべきである。また、証拠(乙七七の一ないし三、原告ら代表者阿部)によれば、実修寺住職である細井琢道(以下「細井」という。)は、阿部に対し、平成四年一○月一八日付け「宗風刷新への進言」と題する書面を送付し、同書面は、同月二〇日に阿部に対し配達されたこと、同書面には、「学会でいうところの『シアトル事件』についても、私は、猊下に言われているような売春行為があったかどうかについて、もとより知る立場にありませんが、猊下は帰国後、シアトルで夜外出し、酒を飲み、道に迷ったところを、現地の婦人部の人に助けられたと、他言されていたではありませんか。それにもかかわらず、猊下は『ホテルから一歩も出なかった』と強弁され、クロウ夫人を気違いよばわりされました。事実は事実として認められた上で、事実とは違っているところがあると、率直に対応されておられれば、私自身何の疑問も持たなかったと思います。猊下のこのような対応に、かえって私の胸の内に疑念が広がるのを禁じ得ません。実に残念でなりません。」と記載されていること、阿部は右書面を読んだことが認められ、したがって、阿部は、このような書面を受領して読んだのであれば、シアトルで外出したことを思い出すのが通常であるというべきである。したがって、手帳を発見して初めてシアトルで外出した記憶を喚起した旨の阿部の供述は不自然かつ不合理であり、信用することができない。また、阿部は、シカゴで外出したことは非常に印象が強かった旨供述するが、証拠(甲一五六の一ないし一五七、原告ら代表者阿部)によれば、シカゴでの外出については手帳に記載がなく、逆に、シアトルでの外出については手帳に記載があり、しかも、カルーセルルームの店の名前まで記載されていること、第一回海外出張御授戒において初めて飲酒のために外出したのはシカゴではなくシアトルであったことが認められ、以上の事実に照らすと、シアトルよりもシカゴで外出した方が非常に印象が強かったとの阿部の供述は合理的ではなく、不自然なものである。さらに、阿部は、シアトルで外出したことについてクロウ以外の者に対しては話さなかったと供述するが、証拠(乙二二六)によれば、阿部は、第一回海外出張御授戒において、二ューヨークでウィリアムスと合流した際、ウイリアムスに対し、シアトルで外出して飲酒し、道に迷ったがクロウに助けられた旨話したこと、ウィリアムスは、そのことを学会員の幹部や会員に何回か話したことが認められ、右細井作成の書面(乙七七の一ないし三)はこれを裏付けるものであるということができる(なお、右細井作成の書面は、阿部が、直接、細井に対し、シアトルで外出したことを話したことを推認させるものであるということもできる。)。したがって、シアトルで外出したことについてクロウ以外の者に対し話さなかったとの阿部の供述部分も信用することができない。
(う) 以上によれば、阿部が、シアトルではホテルから一歩も出ていないとの供述を、シアトルで飲酒のため外出したとの供述に変更したことについては、何ら合理的な理由がなく、不自然であるということができる。
(イ) 宿泊したホテルがオリンピックホテルである旨の供述ないし主張の変遷
(あ) 原告らは、平成六年四月八日付け準備書面(同年五月二三日の本件口頭弁論期日において陳述)において、本件第一記事について、シアトルを訪問し、宿舎であったオリンピックホテルにチエックインしたとの点以外は全て虚偽であると主張し、平成七年九月二九日付け準備書面(平成八年六月一二日の本件口頭弁論期日において陳述)において、阿部は、カワダ宅で挙行された御授戒を終了して、宿舎であるオリンピックホテルの自室に戻り、一人で散策して帰室、午前一時には就寝し、以後、ホテルから外に一歩も出ないまま、午前一〇時に起床したと主張するなど、阿部がオリンピックホテルに宿泊したことを自ら主張して認めていた。しかし、阿部は、平成九年一二月二二日の本件口頭弁論期日での本人尋問において、シアトルで宿泊したホテルはオリンピックホテルではないと供述し、原告らは、平成一〇年六月三〇日付け準備書面(平成一一年九月二八日の本件口頭弁論期日において陳述)において、従前の主張を撤回し、シアトルにおける宿泊先がオリンピックホテルであることを否認するに至った。
(い) この点、阿部は、平成八年二月、オリンピックホテルの写真を見せられて初めて、宿泊したホテルがオリンピックホテルではないとわかった旨供述する。しかし、証拠(甲一、原告ら代表者阿部)によれば、最初に報道された本件第一記事(一)、すなわち平成四年六月一七日付け創価新報の第一面には、「深夜、単身で抜け出したシアトルでの宿舎・オリンピツクホテル」との記載がある上、オリンピックホテルの写真が掲載されており、右記事の報道後、間もなく、阿部はこれを見たことが認められ、したがって、阿部は、宿泊したホテルがオリンピックホテルでないというのであれば、本件訴訟の当初からその旨主張するのが通常であるというべきである。なお、この点について、阿部は、本人尋問において、本件第一記事は「全部インチキだと思っていました」、「全部嘘だと思っていましたから」、「それは全部創価学会側の発表をそのとおりこっちが信じちやったわけです」などと曖昧かつ不合理な供述に終始する。しかも、阿部は、本人尋問において、自分が宿泊したホテルの特徴について、二階か三階連てくらいの極めて小さな旅館といってもいいホテルであり、部屋は、入っていったところに日本式の畳のようなものも部分的に敷いてあるようなものであるなどと曖昧な供述をするのみである。
(う) 以上によれば、阿部は、本件訴訟の当初から、シアトルで宿泊したホテルはオリンピックホテルであることを自ら認識して、認めていたにもかかわらず、その後、本人尋問において、何ら合理的な理由がなく、シアトルで宿泊したホテルがオリンピックホテルであることを否定するに至ったというべきである。
(ウ) カルーセルルームに関する阿部の供述
前記(2)認定事実及び証拠(甲一五六の一ないし一五七、一六二、乙九二の一ないし九五、一一一の一、二)によれば、阿部が外出して飲酒した店はカルーセルルーム(甲一六二)であることが認められるにもかかわらず、阿部は、本人尋問において、原告ら訴訟代理人から、原告らが「手帳記載の『ウイスキーを飲んだ家』と思われる店の存在」を立証趣旨として提出した甲第一六二号証を示されながら質問されたのに対し、「ちょっと違っていたような感じもございます。これだとは、はっきり言い切れません。」などと、カルーセルルームで飲酒したことを否定するかのような供述するが、その内容は極めて曖昧である。また、阿部は、主尋問において、シアトルで飲酒した店の中の様子について、「明るく白いような感じで全体があったように思いますが、入ってすぐカウンターがあって、手前にもちろん腰掛けがあって、そこへ腰掛けて」などと供述していたが、肩や太ももを露出した女性が写っている写真が掲載されているカルーセルルームのパンフレット(乙一一一の一)を示されながらの反対尋問においては、突如、「私の飲んだところは、こういうふうに中に入らなかったんです。」と中に入ったことを否定する供述を始め、さらに、右写真を拡大したもの(乙一一一の二)を示されながらの反対尋問においては、「店に入らなかったとさっきから言っております。」などと中に入ったことをことさらに強く否定する供述をするに至っており、供述内容が変遷しており、右変遷には何ら合理的な理由があるとは認められない。
(エ) 以上によれば、本件事件の存在を否定する旨の阿部の供述は、重要な点において、その内容が変遷しており、その変遷には何ら合理的な理由が認められず、また、供述内容も曖昧で不自然かつ不合理な点が多いというべきであり、前記クロウ、スプワンクル及びメイリーの供述(特に、クロウの供述)に比べて、阿部の右供述の信用性は著しく低いことは明らかである。よって、阿部の供述は信用することができない。
(7) 手帳について
原告らは、阿部作成の手帳(一五六の一ないし一五七)を提出し、その手帳には、「さあねよう 午后1時」(なお、午后1時については午前一時の誤記であるとする。)との記載があるから、本件事件が発生した午前二時に阿部は本件事件の現場にはいなかった旨主張する。しかし、阿部は、右「午后1時」(午前一時)との記載について、外出から帰ってきて一旦眠ったが、夜中に一度目が覚めて、そのとき、右「午后1時」(午前一時)の記載の下にある「Mrs クロウ・ヒロエの例」とともに記載したものである旨供述していたが、反対尋問において、その点の記憶の有無について質問されると、はっきりしないなどと
供述するに至っているなど、右「午后1時」(午前一時)の記載についての阿部の供述は不自然かつ曖昧であり、信用することができず、したがって、手帳の右記載の正確性についても疑問があるというべきである。また、証拠(乙一二〇の一ないし一二二の二、二三七)によれば、手帳の「午后1時」の記載は、裏面の翌二〇日についての記載の後に書かれたものであること、「午后1時」を記載する際使用されたインクは、その下の「Mrs クロウ・ヒロエの例」を記載する際使用されたインクとは異なる蓋然性が高いことが認められ、したがって、この点でも、「午后1時」(午前一時)の記載の正確性には疑問があるというべきである。以上によれば、手帳の「午后1時」(午前一時)の記載は信用することができず、同記載が存在することをもって、阿部が本件事件の現場にいなかったということはできない。なお、原告らは、「午后1時」の文字が、裏面の記撤よりも後に書かれたものとは認められず、「午后1時」の文字とその下側の文字は同じインクで記載されたものである旨の奥田豊作成の鑑定書ないし意見書(甲二五五、三〇八)を提出するが、右の諸事情及び証拠(乙二八〇の一ないし二八三)によれば、奥田豊作成の鑑定書ないし意見書は信用することができないというべきである。
(8) 以上によれば、阿部は、昭和三八年三月、原告日蓮正宗の教学部長として、アメリカ合衆国へ第一回海外出張御授戒に行った際、同月一九日から二〇日にかけての深夜、シアトルにおいて、売春婦に対し、ヌード写真を撮らせてくれるように頼んだこと、売春婦と性行為を行ったこと、その後、その料金をめぐって売春婦らとトラブルを起こし、警察沙汰になったことが認められる。したがって、本件第二記事及び本件スピーチ等(四)において摘示された事実は真実であるというべきである。
(四) そうすると、本件第一記事及び本件スピーチ等(四)の報道は、公共の利害に関する事実に係り、その目的は専ら公益を図ることにあり、摘示事実は真実であると認められるので、右報道には違法性がないというべきである。
5 したがって、原告らの甲事件の請求はいずれも理由がない。
二 乙事件及び丙事件について
1 争点(一)(本件第二記事の内容及びこの報道による原告ら及び阿部の名誉の毀損)について
ある記事等が、他人の名誉を毀損するかどうかについては、一般読者の注意と読み方を基準として、当該記事等の意味内容を解釈し、その内容が、他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかによって判断すべきであるところ、原告らは、本件第二記事が原告ら及び阿部の名誉を毀損する旨主張するので、以下、検討する。
証拠(甲A五ないし八)によれば、以下の事実が認められる。
(一) 本件第二記事(一)
(1) 本件第二記事(一)、すなわち平成七年一月八日付け聖教新聞の第一面には、「日顕の『シアトル事件』に決定的証拠」、「『ワールド・トリビューン』紙のインタビューでラングバーグ弁護士重要記録を公表」、「1963年3月 シアトル市警察の取り調べの事実」、「全面否定の日顕、最大の窮地に」との見出しのもと、リード文において、「聖職者の前代未聞の破廉恥(はれんち)事件として世界を驚かせた日顕の″シアトル事件″について、『事実』を動かぬものとする決定的な新証拠が明らかになった。これは、六日(現地時間)発行されたアメリカSGIの機関紙『ワールド・トリビューン』(一月九日付)と同時に発刊の『ニュース・レター』に掲載された、ラングバーグ弁護士(ヒロエ・クロウ夫人の代理人)のインタビューで明らかにされたもの。それによると、一九六三年三月に、シアトル市警察が『ノブオ・アべ』すなわち日顕(当時の名前は阿部信雄)に対し、『売春勧誘の嫌疑(けんぎ)』で取り調べをし、何らかの照会または捜査を行った事実を示す記録を、アメリカ政府が保管していることが判明した。これにより、同事件を全面否定してきた日顕は、最大の窮地(きゅうち)に立たされることになった。」との記載がされており、さらに、本文には「今回明らかになった新証拠は、日顕のシアトル事件が、アメリカSGIのメンバー、ヒロエ・クロウ夫人が証言した通りのまぎれもない真実であったことを明白に裏付けるものとなった。」、「三十二年前の同事件を立証する明確な証拠を確保していると強調」、「とくに、事件立証の決定的な証拠として、『スティール・ヘクター・アンド・デービス法律事務所』に依頼した調査の結果、『クロウ夫人が警察に申告した通りの『ノブオ・アベ』という名前で、一九六三年の事件が、政府が保管する記録の中に存在していることを確認した』と衝撃的な事実を公表した。そして、『当時警察官によって作成されたであろう何らかの書面に基づくその記録には、ノブオ・アベと売春婦たちとのかかわり合いの事実が記録されている』とし、同事務所の報告書の内容の一部を公開している。そこには、『ワシントンDCの連邦政府内の、ある情報源』からの確認で、『ノブオ・アベ』に関する事件として、次のような記録が存在していることが示されている。『売春勧誘の嫌疑 シアトル市警 一九六三年三月』ラングバーグ弁護士は、クロウ夫人の証言に加え、その後の裏付け調査によりシアトル事件の真実性は明白であり、今回発見されたアメリカ政府の記録の存在も、その証拠の一つであると述べている。『シアトル事件』とは一九六三年、宗門初の海外出張御授戒で渡米した当時教学部長の日顕が、三月十九日の深夜から二十日未明にかけて、あろうことか、シアトルで売春婦とトラブルを起こし、警察ざたになったところを、現地の会員であったヒロエ・クロウ夫人に助けられたという破廉恥極まりない事件。」、「しかし、今回の新証拠でシアトル事件は、『事実』であることが一層明確になり、もはや弁解の余地はなくなったといえよう。日顕は、これで退座寸前の状況に追い込まれたことになり、今後の動向が注目される。また、宗門はシアトル事件を事実無根の捏造(ねつぞう)であるなどとして、逆に、不遜(ふそん)にも学会を名誉毀損で提訴しているが、今回の新証拠の判明は、この日本における裁判にも重大な影響を与えるものとなろう。」などの記載がされている。
(2) また、その第二面には、「″日顕よ!即刻、退座せよ″」、「『正義』の我らは″威風堂々″」、「シアトル事件の真実証明される」との見出しのもと、第六回埼玉総会における秋谷栄之助会長の話として、以下の記載がされている。
(ア) 一、私からは、あの極悪・日顕のシアトル事件について、重大な進展がありましたので、ご報告させていただきます。アメリカSGIの機関紙であるワールド・トリビューンが、過日、ヒロエ・クロウさんの代理人であるラングバーグ弁護士にインタビューし、シアトル事件について報道しております。その中で、ラングバーグ弁護士は、クロウさんは、絶対に嘘(うそ)を言わない人であり、この件で嘘を言う必要もない、本当に信用できる人であると述べたうえで、実は、クロウさんの証言にある日顕の破廉恥(はれんち)行為を裏付ける決定的な証拠(しょうこ)がこのほど、判明したと発表しました(大拍手)。これが、そのワールド・トリビューンというアメリカSGIの機関紙です。これに付随してニュース・レターというのがついています。 このニュース・レターにそのインタビューの全文が載っています。このニュース・レターの中には、シアトル事件の裁判の経過の報告とともに、ただ今申し上げた重大な証拠となるものを、ラングバーグ弁護士が調査を依穎した法律事務所が発見しているという報告書がございます。その報告書は以下のようになっています。
(イ) 拝啓
貴殿は、当事務所に対して、一九二二年十二月十九日生まれの外国人であるノブオ・アべという名称の人物に対する捜査についての記録が、アメリカ合衆国政府に保存されているかどうかについて調査するよう依頼されました。この依頼に基(もと)づいて当事務所は、極めて高い信頼を得ている調査事務所に調査を委託しました。同調査事務所は、一九九四年十一月十七日、当事務所に対し、ワシントンDCの連邦政府内の、ある情報源に連絡を取ったところ、その情報源がノブオ・アべに関する記録の存在を確認したという報告をしてきました。同調査事務所の当事務所に対する報告によれば、その記録には、以下の事実が記載されています。
売春勧誘の嫌疑
シアトル市警
一九六三年三月
私は、一九七四年から一九七九年までの間、アメリカ合衆国検事及び同国司法省の特別検事の立場にありました。公職を辞した後は、主として、刑事弁護の分野で弁護士として活躍してまいりました。私のこれまでの経験から申しますと、同調査事務所によって報告されたノブオ・アべに関する記録の内容は、一九六三年三月にシアトル市警がノブオ・アべに関する記録の内容は、一九六三年三月にシアトル市警がノブオ・アべに対し、売春の勧誘の嫌疑で何らかの照会または捜査を行った事実を示しております。この手紙の内容について、私は、その真実性と正確性について、証言することができます。
敬具
顧問弁護士 レべッカ・J・ポストン(署名)
(ウ) 一、ただ今読み上げました通り、この中に記載されているのは、アメリカ合衆国連邦政府の保管する記録の中に、日顕のシアトルでの行状(ぎょうじょう)についての記録が存在することが確認された、ということです。これは、ラングバーグ弁護士が、スティール・ヘクター・アンド・デービス法律事務所に依頼して、調査をしてもらったところ、確かに間違いなくそういう記録が存在するという報告書が回答として寄せられたというものです。ここには、間違いなくノブオ・アべという名前で日顕が売春勧誘の嫌疑で、一九六三年(昭和三十八年)三月にシアトル市警察の取り調べを受けたという記録が厳然と残っております。日顕がいかに弁明しようとも、もはや逃(のが)れられない証拠が明確に出てきたのであります(大拍手)。ご承知の通り、シアトル事件というのは、日顕が、昭和三十八年の第一回のアメリカ出張御授戒の際に、シアトルで、深夜、ホテルから抜け出して、売春婦とトラブルを起こしたという、とんでもない事件であります。このことを勇気をもって公表したヒロエ・クロウさんを日顕は嘘つき呼ばわりして名誉を毀揖(きそん)したことから、クロウさんが敢然と戦っているのが、現在、アメリカにおけるシアトル名誉毀損裁判です。今回明らかになった資料は、まさに昭和三十八年三月、ノブオ・アべという人物が、売春勧誘の疑いでシアトル市警察の調べを受けたということを示す動かすことのできない決定的な証拠なのであります。日顕は、法主登座以前は、阿部信雄(のぶお)と書いて「アべ・シンノウ」と読ませていたのですが(笑い)、当時のクロウさんはそのような読み方は知らず、警察官に対して「ノブオ・アべ」と読んで一生懸命説明したのであり、このことも、クロウさんが最初から述べていた通りなのであります。まさしく、クロウさんが公表した事実は、一から十まですべてが真実であり、全く間違いのないことが裏付けられたわけであります。
(エ) 一、このシアトル事件は、小説『新・人間革命』で皆さまもご承知の通り、昭和三十五年、池田先生が会長就任直後、血のにじむような思いでアメリカ広布の道を開かれ、その直後、初めて行われた海外出張御授戒という重要な行事の時のことでありました。その記念すべき行事の最中に、夜中にホテルを抜け出して売春婦とトラブルを起こすなど、前代未聞の裏切り行為であり、断じて許すことはできません。
(二)本件第二記事(二)
本件第二記事(二)、すなわち平成七年一月一八日付け創価新報の第一面には、「シアトル事件 決定的証拠に日顕絶体絶命!」、「アメリカ連邦政府に『記録』が存在」、「=『ノブオ・アべ』に関し『売春勧誘の嫌疑』『シアトル市警』『63年3月』と=」、「『本当なら辞める』(昨年8月の言)もはや還俗しか道なし」との見出しのもと、リード文において、「シアトル事件で衝撃的な新事実が!―聖職者にあるまじき前代未聞の破廉恥(はれんち)行為、日顕のシアトル事件が真実であったことを裏付けるアメリカ連邦政府の記録の公表は、年明け早々の世界を電撃の如く駆け巡った。一九六三年三月、シアトル市警察が『ノブオ・アべ』つまり日顕(当時の名前は阿部信雄)を『売春勧誘の嫌疑(けんぎ)』で取り調べをし、何らかの照会または捜査を行った事実を示す記録がアメリカ連邦政府内に保管されているというのだ。これに衝撃を受けた日顕は大慌てで、何と深夜に『お知らせ』と称する宗内通達を出し、必死に弁明。″シアトル事件が本当だったら即座に辞める″と大見栄をきってきた日顕、今度ばかりは逃げられない。さあ、即刻責任をとれ!」との記載がされており、さらに、「超ド級の新証拠」との見出しのもと、「今回、衝撃的な新証拠が明らかになったラングバーグ弁護士のインタビューは、アメリカSGIの機関紙『ワールド・トリビューン』一月九日付と同時に発刊された『ニュース・レター』に掲載された(抜粋は二面に掲載。)。その中で同弁護士は、シアトル事件について、『日顕が真実を語っているのではなく、クロウ夫人こそが真実を語っていることを証明する非常に強力な証拠があります』と前置きし、次のように注目すべき発言をした。『我々は、スティール・ヘクター・アンド・デービス法律事務所という、マイアミにある別の大きな法律事務所の助けを得ました。そして、この事務所の関係者や情報源を通じて、クロウ夫人が警察に申告した通りの『ノブオ・アべ』という名前で、一九六三年の事件が、政府が保管する記録の中に存在していることを確認することができました』つまり、三十二年前のシアトル事件が真実であったことを裏付ける『記録』が、何とほかならぬアメリカ連邦政府に保管されているというのである。それもこの記録は驚くべきことに、日顕が犯した破廉恥行為にまで言及しているという。『当時、警察官によって作成されたであろう何らかの書面に基づくその記録には、ノブオ・アべと売春婦たちとのかかわり合いの事実が記録されている』このように述べた同弁護士は、その具体的な記録内容をスティール・ヘクター・アンド・デービス法律事務所からの報告書をもとに次のように明らかにしている。シアトル市警 一九六三年三月』この記録は、これまでシアトルでの破廉恥行為をヒタ隠しにし、ノラリクラリと追及から逃れようとしてきた日顕の心臓を刺し貫く、まさに超弩(ちょうど)級の一撃でなくてなんであろう。驚くべきは、この記録とクロウ夫人の証言が寸分違わず見事に一致していることである。クロウ夫人は当初から自分がシアトル市警の警官に申告した日顕の名前は『ノブオ・アベ』であったと主張してきた。連邦政府の記録もその通りの名前で記録が残っていたわけである。この一点をもってしても、クロウ夫人の証言がいかに正確であるかが裏付けられたというべきである。」、「それにしても日顕にしてみれば、まさか三十年も前の事件がこんな形で完璧に証拠が出てくるとは、夢にも思わなかっただろう。その慌てぶりがどれほどのものだったかは、日顕の動きに表れている。」、「今回の新証拠により、聖職者の仮面に潜む日顕の卑しい本質が満天下に明らかになる瞬間が近づいてきた。事件発覚以来、真実を証言したクロウ夫人を『偽証』と断じて誹謗中傷したばかりか、『私の顔が、シアトルのようなことをした顔に見えますか』『そういうことは全然ない』とシラを切り通し、必死になって否定してきた日顕。昨年八月の本山・大講堂での第一回講頭・副講頭指導会では、満座の法華講を前に『あれが本当でしたら、私は即座にやめます。また、あれが本当だったら、初めからこういう立場にも就きません』(『大白法』平成六年九月一日付二面)とまで大見栄をきった。今回のアメリカ連邦政府に保管された記録資料は、シアトル事件が紛(まぎ)れもない事実であったことを決定的に証明した。日顕が釈明する余地は全く残されていない。この期に及んで猊座にしがみついているのは見苦しさを通り越して醜悪である。退座寸前に追い込まれた日顕は自ら一刻も早く衣を脱ぎ、欺瞞(ぎまん)と虚飾で塗り固められたその本質を率直に認め、五体投地して全信徒に謝罪すべきである。」などの記載がされており、また、「シアトル事件とは」との見出しのもと、「一九六三年三月十九日の深夜から二十日の未明にかけて、当時宗門教学部長だった日顕が初の海外出張御授戒に訪れていたアメリカ・シアトル市で、宿舎のホテルから抜け出し、ひそかに売春婦と破廉恥行為に及び、その後、金銭をめぐるトラブルを起こし、警察ざたになったというもの。」などの記載がされており、シアトル事件についての説明がされている。
(三)本件第二記事(三)
本件第二記事(三)、すなわち平成七年二月一日付け創価新報の第三面には、「シアトル新証拠」、「日顕よ 逃げ口上はもう通用せぬ!」、「今ごろ『御本尊に誓って…』と言っても後の祭」、「『やっばり事実』高僧も不信強める」、「嘘つきが『正直』を説くとは」、「あの『お知らせ』が裏目、疑心暗鬼呼ぶ」、「『次は何が…』戦々恐々の宗内」、「隠せぬ動揺、広がる波紋」などの見出しのもと、リード文において、「アメリカ連邦政府に保管されていたシアトル事件の新証拠が明るみに出たことは、ウソにウソを塗り固めてきた日顕を絶体絶命のところまで追い詰めた。一月八日の衝撃の公表から二日たった一月十日、初めて宗内僧侶の前に姿を現した日顕は、″シアトルは御本尊に誓って、ない、仮に世間が誤解しようと平気だ″と相も変わらぬ大ウソを重ね、精いっばい強がって見せた。ところがこの猿芝居が完全に裏目。これまでにない日顕の切羽詰まった表情を見て、″ない″と洗脳されてきた僧侶たちまでもが『やっばりシアトルは″あった″のではないか』と動揺し始めている。衝撃が広がる緊迫の宗内情勢を追う。」との記載がされており、さらに、本文において、「そして、今回明らかになったシアトル事件の新証拠、すなわちアメリカ連邦政府に保存されていた『ノブオ・アべ』に関する『売春勧誘の嫌疑』『シアトル市警』『一九六三年三月』という記録をすべてウソであると断定して次のように語ったのである。」などの記載がされている。
(四)以上の本件第二記事(一)ないし(三)の各記載及びこれらにおいて前提とされているクロウの供述(本件第一記事(七)及び(八))によれば、本件第二記事は、一般読者に対し、阿部は、昭和三八年三月、原告日蓮正宗の教学部長として、アメリカ合衆国へ第一回海外出張御授戒に行った際、同月一九日から二〇日にかけての深夜、シアトルにおいて、売春婦に対しヌード写真を撮らせてくれるように頼み、売春婦と性行為を行った後、その料金をめぐって売春婦らとトラブルを起こし、警察沙汰になったとの印象を与えるものであるということができる。なお、阿部の本件事件についての記録がアメリカ連邦政府内に保管されているということは、本件事件を離れて考えると、何ら原告らや阿部の名誉を毀損するものではなく、本件第二記事は、本件事件(阿部が、売春婦に対し性行為を行い、売春婦とトラブルが起き、警察沙汰になったという事実)を裏付ける一つの証拠(記録)がアメリカ連邦政府内に保管されていることを記載することにより、本件事件が真実であるという印象を一般読者に与え、これによって、原告らや阿部の名誉を毀損したというべきである。したがって、本件第二記事によって原告らや阿部の名誉を毀損し、一般読者に与えた印象は、本件印象だけであつて、阿部の本件事件についての記録がアメリカ連邦政府内に保管されているということは、本件印象を補強する記載にすぎず、本件印象と異なる内容の印象を与えたものではないというべきである(なお、右記録の存在及びそれに関する調査の程度等は、公益目的又は相当性の有無を判断する一事情として、また、記録が存在する旨の報道を行ったことは、一般読者が受ける印象の強弱、すなわち、社会的評価の低下の程度や損害額を考慮する一事情として、それぞれ考慮されることとなる。)。
(五) そして、一般読者に対して本件印象を与える本件第二記事は、阿部の社会的評価を低下させるものであることは明らかであるということができる。また、前記一2(三)のとおり、本件第二記事は、阿部の社会的評価を低下させるのと同時に、原告らの社会的評価をも低下させるものであると認めることができる(なお、証拠(甲A五ないし八)によれば、本件第二記事にも、「宗門」、「日顕宗」など、原告らを指すことが明らかである文言が用いられていることが認められる。)。
(六) したがって、本件第二記事は、原告ら及び阿部の名誉を毀損するものであるというべきであり、本件第二記事は原告らの名誉を毀損するものではないとの被告らの主張は採用することはできない。
2 争点(二)(本件第三記事が被告SGIの関与によるものかどうか、また、原告ら及び阿部の名誉を毀損するかどうか)について
前記第二、一争いのない事実等5によれば、一九九五年一月九日版(一月六日発行)付ワールド・トリビューンの別冊ないし付録である創価学会インターナショナル―USAニューズレター(本件第三記事)が発行されたことが認められるが、証拠(甲A九、証人福島)によれば、右ニューズレターは、被告SGIとは別個のアメリカ合衆国法人であるSGIUSAが発行したものであることが認められ、被告SGIが、右ニューズレターの発行に関与したことを認めるに足りる証拠はない。したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの被告SGIに対する請求は理由がない。
3 争点(三)(被告池田は、被告創価学会及び被告SGIによる名誉毀揖行為を指導したかどうか)について
原告らは、被告池田が、本件第二記事及び第三記事の報道に関し、被告創価学会及び被告SGIによる名誉毀損行為を指導したと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。したがって、原告らの被告池田に対する請求は理由がない。
4 争点(四)(被告らが、原告らの教団運営権に対し不当な支配介入を行ったかどうか)について
原告らは、被告らが、本件第二記事を報道することによって、原告らの教団運営権に対する不当な支配介入を行ったと主張するが、本件第二記事の報道を行っただけでは、原告らに対して不当な支配介入を行ったと認めることはできず、原告らの主張は採用することができない。
5 争点(六)(真実性及び相当性の抗弁の成否)について
不法行為たる名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることが証明されたときは、右行為には違法性がなく、仮に右事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されるところ、以下、この点について検討する。
(一) 争点(六)(1)(公共の利害に関する事実)について
まず、本件第二記事において摘示された事実が、公共の利害に関する事実かどうかについて検討するに、本件第二記事は、前記1のとおり、一般読者に本件印象を与えるものであり、本件印象に係る事実を摘示したものであるところ(後記(三)参照)、前記一4(一)のとおり、右摘示事実は、公共の利害に関する事実にあたるというべきである。
(二) 争点(六)(二)(公益目的)について
(1) 前記一4(一)、(二)認定事実、右(一)認定事実、証拠(乙A一〇、証人福島)及び弁論の全趣旨によれば、阿部は、原告日蓮正宗の法主であって、原告日蓮正宗の全僧俗から優れて高い尊崇を受け、特別な権能と権威を有する最高位聖職者とされ、信仰の中心ないし宗教上の最高指導者であるとされているところ、本件第二記事で摘示した事実は、阿部の原告らの宗教上の最高指導者としての適性を判断するための一資料となること、被告創価学会は、阿部が売春婦とトラブルを起こしたという本件事件は、阿部の宗教者としての適格性及び法主としての資格などを判断する上で、極めて重要であると考え、阿部が法主、聖職者及び信仰者として失格であることを明らかにするために、本件第二記事を報道したことが認められる。したがって、本件第二記事の報道は、専ら公益を図る目的に出たものというべきである。
(2) なお、本件第二記事の表現方法をもって、公益目的を欠くということができないことは、前記一4(二)(3)のとおりである。
(3) また、原告らは、被告創価学会は、アメリカ連邦政府の記録の所在場所等を特定できず、三重の伝聞過程を経た情報のみを根拠に、本件第二記事を報道したのであつて、しかも、記録が除去されてしまったとの報告を受けていたにもかかわらず、現に存在すると故意に虚偽報道を行ったのであり、公益目的を欠くと主張する。しかし、証拠(甲二一一の一、二、乙A一の一ないし二の二、五の一二、八の一ないし一〇、証人福島)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 平成六年一〇月下句ころ、SGIUSAに対し、連邦政府関係者からの情報として、連邦機関の記録中に、一九六三年のある深夜に発生した事件に関し、シアトル市警が記録したもので、頭の禿げた東洋人男性について複数の女性が訴え出たため、警察官がその東洋人男性に話しかけようとしたが、その男性は英語ができなかったので、東洋人男性は一時拘束され、売春勧誘の疑いで質問を受け、その後、釈放されたという内容の「ノブオ・アべ」に関する記録が存在し、コンピューターの端末で確認できるという情報が寄せられた。そこで、被告創価学会は、ラングバーグ弁護士に右情報に関する調査を依頼した。
(イ) ラングバーグ弁護士は、右情報は、FBIが管理する有名なNCIC(全米犯罪情報センター)というデータベースを含む連邦記録の中に存在する可能性があると判断し、司法省等に対し、情報公開請求を行った。また、ラングバーグ弁護士は、スティール・ヘクター・&・デービス法律事務所に対し、阿部の本件事件に関する記録の調査を依頼した。同事務所の担当弁護士はポストン弁護士となった。ポストン弁護士は、フィリップ・マニュエル事務所を使って調査を行った。
(ウ) フィリップ・マニュエル事務所は、平成六年一一月一一日付けで、ポストン弁護士に対し、シカゴの情報源に「ノブオ・アベ」という氏名と同人の誕生日を提供したところ、その情報源は、「売春勧誘 シアトル市警 一九六三年三月」との記載があると伝えてきた旨の報告書を提出した。ポストン弁護士は、当初SGIUSAに寄せられた情報と、右情報の情報量に差があったので、さらに、フィリップ・マニュエル事務所に、情報の確認を依頼した。これに対し、フィリップ・マニュエル事務所は、平成六年一一月一七日付で、ポストン弁護士に対し、ワシントン・D・Cのアメリカ連邦政府内の情報源からの情報であるとして、阿部の記録が存在し、「売春勧誘の嫌疑 シアトル市警 一九六三年三月」と記載されていること、コンピューターの追跡システムによれば、過去二週間にアメリカの各所から「アべ」に関する六回以上の照会があり、こうした照会はワシントン・D・CのFBI本庁の懸念するところとなっていること、記録されている情報は最初から入力されるべき筋合いのものではなかったこと、もし本人が正式に記録を抹消するように要求すれば、当該情報は記録から除去されること、最近、多数の第三者がこの記録に関心をもっており、記録に記載された事件の古さや疑問の余地のある入力であることから記録の除去が検討されていることなどを記載した報告書を提出した。
(エ) ラングバーグ弁護士とポストン弁護士は、記録が除去されることを心配し、フィリップ・マニュエル事務所に対し、再度の調査をさせたところ、平成六年一二月二二日ころ、同事務所から、ポストン弁護士に対し、以前存在していた「アベ」の記録が除去されてしまった旨の報告を支けた。そこで、ラングバーグ弁護士は、FBIのコンピューターシステムの専門家に相談したところ、一旦、データベースに入力された情報は、それが除去された場合でも、その情報内容や、いつ誰が除去したか等が記録されて残る可能性があり、したがって、除去の痕跡をたどることが可能であることが判明した。
(オ) 被告創価学会は、連邦政府の情報源に与えられた情報源は、「アべ」の名前と誕生日だけであり、これに対して情報源からは「売春勧の嫌疑 シアトル市警 一九六三年三月」との内容が報告されたこと、これらの情報はシカゴとワシントン・D・Cとの異なる二つの情報源から別々に確認が行われたにもかかわらず、ほぼ同じ内容の情報が確認されたことから、フィリップ・マニュエル事務所の報告は十分信頼に値すると判断した。また、被告創価学会は、ラングバーグ弁護士から、記録が除去されたとしても、その記録が存在したという事実に何の変わりもないことは明らかである上、記録が除去された場合でもその痕跡が残る可能性が高く、端末で検索することができなくなったとしても、必ず見つけることができる旨の報告を受け、情報が真実であると確信して、本件第二記事の報道を行った。以上によれば、被告創価学会は、本件第二記事の報道を行う際、阿部(★原本に行文字数変化を確認)の本件事件に関する記録の存在について相当な調査を行ったということができ、したがって、この点において、公益目的を欠くということはできない。また、右認定事実によれば、被告創価学会は、記録が除去されたことの報告を受けていたが、同時に、その痕跡が残る可能性が高く、発見することができる旨の報告を受けていたことが認められ、したがって、記録が除去されたという報告を受けていた状況で本件第二記事を報道したからといって、直ちに公益目的を欠くということにはならないというべきである。したがって、原告らの前記主張は採用することができない。
(三) 争点(六)(3)(真実性)について
(1) 本件第二記事は、前記1のとおり、一般読者に本件印象を与えるものであり、本件印象に係る事実を摘示したものである。したがって、被告らが、真実であることを証明すべき事実は、阿部が、昭和三八年三月、原告日蓮正宗の教学部長として、アメリカ合衆国へ第一回海外出張御授戒に行った際、同月一九日から二〇日にかけての深夜、シアトルにおいて、売春婦に対しヌード写真を撮らせてくれるように頼み、売春婦と性行為を行った後、その料金をめぐって売春婦らとトラブルを起こし、警察沙汰になったことであるというべきである。なお、この点、原告らは、被告らの摘示した事実は、本件事件そのものではなく、阿部の本件事件についての記録がアメリカ連邦政府内に保管されているとの事実であり、これが被告らの真実性の立証対象である旨主張するが、被告らが本件第二記事により摘示した事実は、前記1(四)及び右のとおり、本件印象に係る事実だけであるから、原告らの右主張は、採用することができない。
(2) そして、前記一4(三)のとおり、本件第二記事によって摘示された事実(本件印象に係る事実)は、真実であると認めることができる。
(四) よって、本件第二記事の報道は、公共の利害に関する事実に係り、その目的は専ら公益を図ることにあり、摘示事実は真実であると認められるので、右報道には違法性がないというべきである。
5 したがって、原告らの乙事件及び丙事件の請求はいずれも理由がない。
第四 結論
以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第一二部
裁判長裁判官 下田文男
裁判官 田代雅彦
裁判官 檜山 聡
別紙一
謝罪広告
創価学会は、その機関誌である創価新報平成四年六月一七日号、聖教新聞同年七月二三日号などにおいて、阿部日顕上人が一九六三年三月一九日教学部長として第一回海外出張御授戒のためアメリカ合衆国ワシントン州シアトル市に赴かれた際、売春宿にて買春したあげく、売春婦と金銭トラブルを起こして警察沙汰となったなどという虚偽の事実を、あたかも事実であるかのように記載して、創価学会組織内外に大々的に悪宣伝し、その後も、同様の報道を繰り返しました。
池田大作は、創価学会の最高責任者として、右虚偽報道を止めなかったばかりでなく、これを指導しました。
ここに謹んで右虚偽報道を取り消すとともに、今後再びかかる悪質な行為には絶対に及ばないことを固く誓約致します。
当時、創価学会は、日蓮正宗および大石寺の信徒団体として非違を問責され、御宗門より団体破門を受け、創価学会員が動揺して組織的に重大な危機にさらされておりましたので、最も効果の大きい、阿部日顕上人をターゲットとする虚偽をフレームアップして、かかるキャンペーンに走ってしまったものであり、七百有余年の伝統ある御宗門、わけても阿部日顕上人には、大変なご迷惑をお掛けしましたことを、心よりお詫び申し上げます。
年 月 日
池田大作
創価学会
日蓮正宗
大石寺
右代表者代表役員 阿部日顕殿
別紙二
文字の大きさ
1 見出し「謝罪広告」
六六級活字
2 本文
二〇級活字
3 氏名
二八級活字
別紙三
謝罪広告
創価学会及び創価学会インターナショナル(SGI)は、その加盟団体である創価学会インターナショナル―USAの機関紙ワールド・トリビューン一九九五年一月九日版(一月六日発行)の附録SGI―USAニューズ・レターに「ノブオ・アベ(御法主日顕上人のこと)という人間が、売春勧誘の嫌疑で1963年3月にシアトル市警察に停止(職務質問のため一時停止)させられたという記録」が存在するとの虚偽の記事を発表報道し、それを平成七年一月八日付聖教新聞及び同月一八日付創価新報に翻訳転載して、反復報道しました。また、池田大作は、御法主日顕上人猊下に対する右の国際的虚偽報道及びデマ宣伝を容認指導しました。しかし、右報道宣伝にかかる米国連邦政府記録なるものは全く存在しません。私どもは、御法主日顕上人猊下が、シアトルで売春勧誘の容疑で検挙されたことを示す連邦政府の記録が存在するとの虚偽報道をしたことによって、これがあたかも事実であるかのように世人の誤解を招き、御法主日顕上人猊下の名誉を毀損し、七百有余年にわたる清浄な宗風を旨とし、社会的信頼を確立されてきた日蓮正宗及び大石寺に対し多大な迷惑をおかけしました。 よって、ここにこの件に関する一切の報道、発表、報告を取り消すとともに連名にて各位に対して、深くお詫び申し上げます。また、創価学会インターナショナルUSAに対し、ワールド・トリビューン紙上で、右の虚偽記事を取り消すよう厳重に指導致します。
年 月 日
池 田 大 作
創 価 学 会
創価学会インターナショナル
代表者会長
池 田 大 作
阿 部 日 顕 殿
日 蓮 正 宗
大 石 寺
右各代表役員
阿 部 日 顕 殿
別紙四
文字の大きさ
1 見出し「謝罪広告」
六六級活字
2 本文
二〇級活字
3 氏名
二八級活字
4 謝罪広告に至る経緯等についての説明
一六級活字
右は正本である。
平成一 二年 三月二一日
東京地方裁判所民事第一二部
裁判所書記官 後藤忠賢(印)