民間銀行に融資を迫る金融庁の不合理

小笠原 誠治 | 経済コラムニスト

金融庁が4月30日に、金融機関にもっと貸し出しを増やすように求めたのだ、とか。しかも、口頭で要請したのではなく、文書で。

どう思います?

私、金融庁の幹部の頭がどうなっているのか、中を覗いてみたい気がします。だって、そうでしょう? 何故、民間金融機関は貸し出しを行うのか? それは貸し出しによって利益を増やすことができると考えるから。では、何故民間金融機関は貸し出しに積極的になれないのか? それは貸し出しによって利益を増やすことができないと考えるから。

要するに、利益を最大化するために行動した結果が今のような状況になっているだけなのです。

では、金融庁は、そんな基本的なことも分かっていないのか?

そんなことはありません。十分分かり過ぎるくらい分かっている。では、何故、そんな介入をするのか?

そうしないと、政治家から怒られるからですよね?

違いますか? まあ、いいでしょう。

いずれにしても、金融庁は、金融機関に貸し出しに積極的になってもらうために、金融機関に対する検査・監督方針を次のように改正したのだ、とか。

「日本経済がデフレから脱却し、力強い成長を実現していくため、金融機関は、顧客企業と向き合い、顧客企業の経営改善や事業再生に向けた支援のみならず、適切にリスクを管理しつつ、新規融資を含む積極的な資金供給を行」うべきだ、と。

まあ、大銀行の経営陣なんて慇懃無礼な人々が多いので、このような要請がなされても、屁とも思わないというかカエルの面に水みたいなものでしょうが、でも、中小の金融機関の中には地域経済の発展を誰よりも真剣に考えているところがあると思うのです。

そのような真摯な姿勢の経営者が、今更金融庁からそんなことを言われたら、どんな気持ちになるでしょう?

だって、金融機関は顧客企業と向き合え、なんて言われている訳ですから。何と失礼な発言か、と。

金融庁は、本来果たすべき役割を果たせとも言うのです。

顧客と向き合えと言われるだけならまだしも‥ご丁寧に金融庁は、金融機関の検査に入って、例えば、「資金需要の高まりが期待できる事業分野や地域について、定期的に分析を行い、当該分析結果に基づき新規融資の戦略・方針・具体的な目標等を立てているか」など13の項目について、あれこれ細かくチェックするのだとか。

どうしてそこまでするのでしょうね。政治家の圧力があるのは分かっていても‥

それは幾ら黒田総裁にバズーカ砲を撃たせても、その後が続かないからなのです。

つまり2年で2倍もマネタリーベースの量を増やすと言っても、民間銀行が貸出を増やさないと、世の中に出回るお金の量が増えないから、それで金融庁が民間銀行をプッシュし、無理やりにでも貸出を増やそうという作戦のようなのです。

では、民間銀行の行動はおかしいのか? どんどんお金を貸しつけるべきなのか?

とは言っても、リスクが高すぎればとてもお金を貸すことはできないのです。リスクに見合った担保を取れるならまだしも‥そんなことをすれば、鬼のように言われるのは必至。そしてまた、リスクに見合った金利を取ろうとしても、このゼロ金利の時代に、何故金利がそんなに高いのかと言われるのがオチ。

それにも拘らず、民間金融機関にリスクを取ることを強制して、その結果、民間金融機関の経営が傾いた時には、誰がどのような責任を取るのか?

金融庁が取るのか?

決してそんなことはないのです。仮に、そのような事態になっても、ちゃんと言い訳が用意されているのです。自分たちは何が何でも融資をしろと言った訳ではない、と。可能性のある融資先に対し、融資を閉ざすようなことをするなと言っただけだ、と。

結局、誰も責任を取らないのです。最後はいつものように、国民に負担が押し付けられて、そして、また増税の原因を作り上げる、と。

それに、そもそも民間金融機関がお金を貸さないというのなら、その時には政府系の金融機関が対応するのが昔からの習わしではなかったのでしょうか?

国民金融公庫や中小企業金融公庫などの金融機関があったかと思うのですが、今はどうなっているのでしょう?

そうそう、今は、名前も組織も変わってしまっているのですよね。

日本政策金融公庫というのが今の名称。略して日本公庫だとか。株式会社日本政策金融公庫法に基づいて2008年10月1日に設立され、国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫の業務を受け継いでいる、と。

何故、かつての政府系金融機関がこうして一本化されてしまったのか? ご存知ですか?

民業を圧迫してはいかんというので、政府系金融機関の役割を見直した結果がそうなったというのです。民間の活動の邪魔にならないように、おとなしくしていろ、と。

しかし、民間金融機関の活動が不十分だから、今回、金融庁が不適切にもお金をもっと貸し出せとまで言っているのでしょう? おかしいではないですか?

本当に民間の活動が十分でないというならば、この日本政策金融公庫などが積極的に対応すれば済む話。

本当にリスクを取ることを怖がって民間金融機関が避けているというのであれば、日本政策金融公庫が少しくらい目立った動きをしたところで、民間金融機関から不平や不満が出ることはない筈です。

何故、政府は、先ず自分たちの監督下にある日本公庫を動かさないのか? でしょう?

でも、日本公庫だって簡単には融資に応じない。だって、不良債権を作って赤字になってしまえば、結局、自分たちの存続が危うくなってしまうからなのです。

それでも貸し出しを強要しますか?

で、そんなことをしていると、かつて石原都知事がやったことと同じようなことになってしまうでしょう。

岩田副総裁が民間銀行に圧力をかけているとか
岩田副総裁が民間銀行に圧力をかけているとか

民間金融機関に無理強いしているのは、何も金融庁だけではないのです。あの日本銀行も民間金融機関に圧力をかけているのだ、と。

そこまでするのであれば、それこそ異次元緩和策の名の下に、日銀が直接一般企業にお金を貸したら如何か、なんて思ってしまいます。これ、冗談ですよ。

いずれにしても、日銀だって、そんなこと怖くてできないでしょう?

自分たちができないことを民間にやれと言う。どう考えてもおかしい。

政治家は、企業に賃金を上げろと言う。だったら、その前に、公務員の給料を上げればいい。公務員はまだ恵まれ過ぎているからダメだというのであっても、例えば、アルバイトの人々の給料位上げてもいい筈。

でも、それが絶対にできない。できないでいて民間企業の賃金を上げろと言う。

金融庁の役人は、政治家からの指示だから断れなくて、そのような行政指導を行っていると推測されますが、それだったら金融庁の存在意義はどこにあるのか、と言いたいですね。監督部門が銀行に声をかける程度だったらまだしも、検査官が検査に入って、ちゃんとお金を貸しているだろうな、なんて調べるなんて、世の中おかしくありませんか?

以上

小笠原 誠治

経済コラムニスト

小笠原誠治(おがさわら・せいじ)経済コラムニスト。1953年6月生まれ。著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」「経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(いずれも秀和システム)など。「リカードの経済学講座」を開催中。難しい経済の話を分かりすく解説するのが使命だと思っています。

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