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【正論】評論家・屋山太郎 東京五輪を「武士道」で迎えたい
日本人の誠実さも遍(あまね)く世界に知られている。50年も前のことだ。ローマ駐在特派員を引き揚げるとき、家主から後釜に日本人を見つけて入れてくれと懇願された。その熱心さを見て、古くから日本人は信用されているのだなあと、祖先に感謝したものだ。
《父と剣の師から教わったこと》
武士道といえば、佐賀の「葉隠れ」を思い浮かべる人が多い。その神髄は「武士道とは死ぬことと見つけたり」で、戦時中、軍部がこれを戦意高揚に利用したため、「死に急ぎの哲学」ともいわれた。しかし、葉隠れの真髄(しんずい)は「武士はいつ死んでも悔いがないように日々立派に生きよ」ということにある。進駐軍はこの葉隠れの精神を嫌って剣道の競技まで禁じた。父は後年、「アメリカ人はもっと他に良い生き方があると教えてくれるのかと思ったよ」と笑っていた。
父は終戦の年の東京大空襲で顔面と手足を大やけどし、3カ月間も入院し、私も家が焼けて居場所がないから同じ病室に寝泊まりして看病した。終戦後、何カ月かたち、父に秘密を打ち明けた。「一発で何百万人も殺すような爆弾を作ってお父さんと広島でやられた20万人の仇(かたき)を取る」と。父は言ったものである。「米国との戦争は終わったんだ。勝負がついたからには諦めろ。仇を討(う)つよりは『潔い』ことの方が難しいんだよ」
大学生になって剣道が復活されたので、私は剣道部を創設し、夢中になった。団体戦で先鋒(せんぽう)に出て勝ったときのこと。席に戻って面を外したとき、嬉(うれ)しさがこみ上げてついにっこりと笑った。その時、監督の師範から竹刀で思いっきり背中を叩(たた)かれ、耳元で「笑うな! 負けた相手の心情を思いやれ」と言われた。惻隠の情である。私は以上、たった2つの出来事で武士道の心を悟った。この精神はあらゆる勝負事、立ち居振る舞いに通じるもので、克己心の深い意味も知るようになった。外国人が好む「クール・ジャパン」の本質も武士道ではないか。
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