(元)官僚ブロガーとして有名な宇佐美さんの手記を拝読。読書メモをご共有です。
元官僚・魂の提言
・事実、霞ヶ関からは若手官僚の大量離脱が起ころうとしています。毎年入省してくる新人官僚の多くは、決して権力志向などではなく、「この国をよくしたい」という純粋な想いを抱いて、数ある選択肢の中から官僚という道を選んでやってきます。ところが、現在の政治家やマスコミは、彼らの純粋な想いを疑い、踏みにじる方向を向いています。一方的な断罪を繰り返して票稼ぎや視聴率稼ぎに利用して、人を弄んだ末に失望させていきます。ここ数年、従来では辞めることなど考えられなかった若手のエース級官僚の転職が目立つようになりました。若手官僚の間には、かつてないほど政府に対する失望感が満ちています。
・「このままではいけない」。そう思い、公務員給与の一律引き下げが決まった2012年2月24日に、在職中の身でありながら、僕は官僚の給与実態や労働環境、政治に対する見解を伝えるブログを始めました。
・本来、官僚は黒子であるべき存在です。それにもかかわらず、世の中に実名で自らの主張を訴えることは、官僚としての自分の芽を完全に摘むことを意味しています。僕にとっても相当な覚悟がいることでした。どうしても最後の決断ができずに、紹興酒の瓶を一本飲み干し、酒の力を借りてから「投稿」ボタンを押したことを思い出します。
・官僚というと「受験エリートのトップ層が集まる職業」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、僕の実感から言うとそれは一昔前の話で、今は努力したものの本当のトップ層になりきれなかった「セカンド層」が中心に就く職業になっているのではと思っています。僕も、小学校から大学受験まで第一志望は落ちつづけ、浪人して東大に入った人間ですから、まさに「セカンド層」です。
・さて、まずは官僚の勤務実態ですが、いわゆる「9時〜17時」労働というイメージとはまったくかけ離れています。現実の官僚は、少なくとも40歳くらいまではボロぞうきんのように働かされます。若手の場合はだいたい100時間程度の残業が標準で、年度末や国会開会中といった繁忙期になると200時間残業。北朝鮮がロケットを発射したり、レアメタルの輸入が停止される可能性が浮上したり、重要部材企業が倒産の危機を迎えるといった緊急事態が発生すると、担当課は300時間を超える残業を余儀なくされます。
・こんなわけで、省庁の若手というのは本当に「ボロ雑巾」という言葉が似合うくらいよく働かされます。特に官僚1年目は、毎日怒鳴られながら馬車馬のごとく働かされ、残業代は出ないわ、政治家の秘書には小馬鹿にされるわ、試練の毎日です。
・そんな1年を耐えることができるのも、「次の年に後任がやってくればこの環境から開放される」という希望があるからなのですが、最近、高齢者公務員の再雇用を義務づける一方で新規採用を絞り込むという決断が政府内で下されたことは、若手にとって大いにショックだったと思います。
・格安公務員宿舎の存在も官僚の特権としてよく指摘されていますが、今は若手が入れるような都心の公務員宿舎はほとんどなくなってきています。けれども、冒頭で示したような激務を考えると霞ヶ関からあまり遠いところに住むことは難しく、この給料の中から都心での家賃や食費が消えていき、貯金はほとんど残りません。
・(天下りの)背景には「入省同期がほぼ同じペースで出世していく」というキャリア官僚制度が密接に関係しています。(中略)組織がキャリア官僚制度を維持するためには、出世争いに敗れた人たちに退職を求める必要が出てきます。退職を求めるとはいっても、彼らに落ち度があったわけではないので「懲戒免職」するわけにはいきません。そこで「自主退職を依頼する」というかたちをとらざるを得ず、その条件として再就職先を紹介する、というわけです。このように、天下りとキャリア官僚制度は一体不可分となっています。
・今の時代、喜んで天下りをするような人はいません。このような人たちは「天下り」というレッテルを貼り付けられるのがイヤで、自らが生きる道を自分で切り拓いたというところがあります。
・民主党の国家公務員制度改革の方向性は、こうした天下りの弊害をなくすためにすべての天下りを悪とみなすものでした。端的に言うと、「一度公務員になった人が民間企業に転職するのは『天下り』で悪いことなので奨励せず、年金を貰う65歳まで生涯公務員でいてもらう」という考えで、「生涯公務員主義」とでも言うべき制作です。それもひとつの考え方だとは思いますが、当然、高齢者公務員が増えるので人件費は膨らみますし、また、組織の新陳代謝がなくなって若者が力を発揮する場がなくなる、という現象が起きてしまいます。
・役所にいると強く感じますが、政府には利益や売上といった明確な目標がないため、行政改革と言うのは目的をはっきりさせなければ得てして議論が混乱してしまいます。そこで、本論に入る前に、ここで論じる行政改革の目的をはっきりしておきたいと思います。それは、経済的に持続可能な政府をつくるということです。
・①行政改革の目指す姿はインフレ誘導、殖産興業、歳入改革の一体的な推進を可能とする政府である。②縦割り行政の打破を目指すのではなく、むしろ縦割り行政を前提として、財政再建における重大な課題について行政機関同士の連携の必要性が最小限で済むような行政機構の再編を図る。③殖産興業の方向性は「社会保障関係費の削減に直接的に資する」ことを目指す。
・提言③:年金生活を支えるための副収入型高齢者向け農業を確立させるための省庁再編を行う。(中略)現状の日本の農業政策は「農業だけで食べていける専業農家を育てていく」という方向を向いており、民主党政権でも販売目的で農業を支援する「戸別所得保障制度」が創設され、7000億円近くが投入されています。それもひとつの方向性ではあると思いますが、日本の零細農家の現状を見ると、農業だけで食べていく専業農家を農政の中心に据えるのはかなり困難でしょう。
というわけで、タイトル通り熱の籠もった官僚本となっています。官僚という人たちを身近に感じることができるはず。盲目的に官僚は悪だと決めつけている人はぜひご一読を。この本はなによりそういう人が読むべきなのかも。
ちなみにうさみのりやさんのブログは、一旦終わりを迎え、移転しています。
辞めてからはしばらく学校にでもかようか放浪でもしようかな~、と思っていたのですが、成り行き上友人の起業を手伝わなければならなかったり、役人時代にお世話になった方から仕事をいただいたりとしているうちに、慌ただしくなってきました。
で、そのうち役人やめて小さくおさまってしまっては辞めた意味も無いな~、と思うようになり、「よしこの際だからチャレンジできる今のうちに夢を見てチャレンジしてやろう」なんて思い出一年発起して起業をすることにしました。4、5年くらいはなんとかしがみついてやろうと思っています。
今はトリリオン・クリエイションというコンサルティング会社を経営しているとのこと。岡山県立大学で客員准教授もやられているんですね。