ウォール・ストリート・ジャーナル 8月29日(木)12時42分配信
研究者たちは幹細胞を使って、ヒトの発達途上の脳に似た豆粒大の組織を作り出すことに成功した。これまで研究が極めて困難だった脳の病気の解明に役立つとみられている。
ヒトの脳は最も精巧な自然の構造物の一つとして知られる。今回作製された「ミニ脳」は直径約4ミリ。まだ不完全で、本物に近づくには長い道のりがある。
それでも、このミニ脳は、ヒトの発達途上の脳のうち重要な三次元的な構造の一部を有している。各種の脳の部位が、必ずしも適切な位置にあるわけではないが、正常に相互作用しているという。
研究チームのリーダー、オーストリア科学アカデミー分子生物工学研究所のユルゲン・クノブリヒ博士は「それは乗用車に例えれば、エンジンが屋根の上、ギアボックスがトランクの中、排気管が前方に向いている――といったような状態だ」と述べ、「それでも、エンジンがどう機能するかの研究には使うことができる」と語った。この研究は28日、英科学誌「ネイチャー」に発表された。
今回の成功により、研究者たちはヒトの脳の病気を実験室で研究することが可能になる見込みだ。現在はこうした脳疾患の研究は極めて難しい。例えばアルツハイマー病など脳疾患は通常、ラット、マウス、その他の動物を使って実施されているが、ヒトの脳ははるかに複雑であるため、これら動物では不十分だ。
これとは対照的に、この新たなアプローチを使えば、科学者たちは実際の患者に由来する脳細胞を検査することによって、神経障害の研究が可能になるはずだ。
実際、クノブリヒ博士らのチームはネイチャー論文で、このミニ脳作製技術を使って、脳が生まれつき小さい「小頭症」の患者から作り出した脳細胞の働きを研究できたとしている。同チームの研究は、他の研究者が2008年以降発表した幾つかの研究を土台に構築されている。こうした過去の研究では、幹細胞を操作して、単なる神経細胞だけでなく、もっと精巧なニューロン(神経単位)を基礎にした組織も作り出せることを示していた。
オーストリアの実験室でクノブリヒ博士は、ヒトの胚性幹細胞(ES細胞)を使って実験した。また、ヒトの皮膚細胞のような成熟細胞をリプログラミング(再組み替え)してエンブロニック(胚様体)状態に戻した幹細胞(iPS細胞)を使って実験した。いずれのタイプの幹細胞も「多能性」で、体内の他のあらゆる細胞に変化させることができる。
研究者たちは、この幹細胞に成長ファクターとして知られる化学物質を加えた。すると中枢神経系を形成するとみられる組織が生まれた。この組織をヒトの胎生環境によく似たゼリー状の物質の中に入れて培養した。
そして、この混合物を、細胞の発達と成長を助ける回転培養機に置いた。20ないし30日後、神経細胞が組織化され、「脳のオルガノイド(組織構造体)」と呼ばれる極めて小さな構造組織になった。
この脳組織には既に脳の領域ができていた。ヒトの脳の最大部分を占める「大脳皮質」や、脳脊髄液を生産する「脈絡叢」などが認められた。ニューロンも活発だった。
クノブリヒ博士は「これは大きな驚きだった。自己組織化していた」と述べ、同博士のチームが何百もの「ミニ脳」を作製したと語った。
しかし、この構造組織内部で、さまざまな断片がごちゃ混ぜになっており、形も全体的な空間構成も、実際の脳と完全には合致しなかった。
またオルガノイドが直径4ミリに達すると、成長をストップした。研究者によれば、これは恐らく循環システムが欠如していたためだろうという。このオルガノイドは9週間経たヒトのエンブリオ(胚、受精卵)の発達途上の脳に似ていた。
最終更新:8月29日(木)13時27分
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