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【北朝鮮拉致事件】
 
「平壌まで家族を迎えに来て」 北朝鮮側、平沢議員らに

「かえす意思はある。子どもたちが平壌にいても困る」

 昨年12月20日夕、北京市内の京倫ホテル。拉致被害者5人の家族をかえすよう求める日本側に、北朝鮮の日朝交渉担当の鄭泰和(チョン・テファ)大使はそう明言した。非公式の会談の場で、北朝鮮側は、本音ともとれる様々な意見や解決策を示していた。

 「5人に平壌まで迎えに来てほしい」「飛行場まで来て」と語り、それでメンツが立つことも示唆。その際、議員や報道関係者の平壌への同行を認める案まで出した。

 テーブルをはさんで「拉致議連」(北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟)事務局長の平沢勝栄衆院議員が座る。会談は、実は激しいやりとりも相当あった。

 冒頭、「あなた方が会いたいというから来たんだ。どんな発言をするか楽しみだ」と切り出した大使に、平沢氏は「なぜ日本政府と公式に協議しないのか」と問うた。大使は「日本政府は5人を2週間で戻すという約束を破った。だから信用できない」と答えた。

 約束した相手について、大使の脇にいた宋日昊(ソン・イルホ)外務省副局長が、中山恭子内閣官房参与を名指しして、「(02年10月に)5人を平壌に迎えに来たとき、中山氏は空港で曽我ひとみさんの家族に『2週間で戻る』と説明した。彼女はうそをついた」と主張した。

 だが、けんか腰のやりとりの中、大使は何度も席を立とうとしながらも、繰り返し言った。

 「家族をかえしたい。話し合いを続けよう」

    ◇

 拉致被害者家族を支援する国会議員らが12月20、21の両日、延べ数時間、北朝鮮高官と会談した内容が、日本側の出席者の話から判明した。日朝両政府の交渉が途絶えて以後、交渉のかぎを握る人物の一人といわれる鄭大使が、これだけの時間、日本側の国会議員らと話した例はない。

 証言から会談内容をたどる。

    ◇

 拉致問題について昨年12月20、21の両日、計3回にわたって北京で開かれた会談に出席したのは、北朝鮮側から鄭泰和大使ら5人、日本側からは平沢勝栄氏と「救う会」の西岡力・副会長、ベニグノ・アキノ比元上院議員の友人だったというジャーナリスト若宮清氏ら。

 初日、8人はスイートルームで、テーブルを挟んで話を始めた。白いテーブルクロスの上にミネラルウオーターの瓶とメモ帳が置かれた。

 鄭大使は硬と軟を使い分けるように態度を変えた。

 西岡氏が「加害者の国が約束を守れというのはおかしい」と言うと、鄭大使は「被害者は朝鮮だ。日本は同胞840万人を強制連行した」と主張。席を立とうとした。

 平沢氏が「拉致は犯罪行為。キム・ヘギョンさんを含む被害者の家族9人をかえせ」と要求すると、大使は「子どもたちが平壌にいても困るんだ」と語り、逆に提案するように「5人が平壌の飛行場に来てくれればいい」と主張。再び拉致状態にされかねないという日本側の懸念には、「心配なら拉致議連の議員やマスコミを立ち会わせてもいい」とまで述べた。

 平沢氏らが「では絶対家族もかえるのか」と問うと、「100%の保証はない。共和国の教育を受け恋人がいる子もいる。北朝鮮は個人の意思を尊重する」と言った。

 一方で、大使は「共和国にも民意がある」と語った。若宮氏が笑うと、「静かに」とぴしゃりと制して言った。

 「一方的に子どもを送ったら世論が怒る」

 何度も決裂させようというそぶりを見せる一方で、「家族をかえしたい。話し合いを続けたい」と解決の意思を繰り返し強調したという。

 鄭大使は、02年10月の日朝国交正常化交渉では「拉致問題は解決済み」との強硬姿勢を貫いた。それが今回、約束を守るという形式さえ整えれば要求に応じる態度を示したことに、出席者は相手の焦りも感じたという。

 翌21日午前の会談には鄭大使は参加せず、宋日昊氏が日本語で話した。

 「何とかまとめたい。このままではメンツが立たない」

 平沢氏が「官房長官や外相が約束問題について『遺憾だ』と談話を発表すれば、5人が迎えに行かなくてもいいのでは」と水を向けると、北朝鮮側は「持ち帰って検討する」と答えた。

 午後の最後の会談。出席した鄭大使は「日朝間のギャップを縮めたい。協力してほしい」と求めた。最後は双方、握手をして別れた。

   ◇

 会談は、国際医療支援活動を通じ北朝鮮とのパイプがあった若宮氏が平沢氏に話を持ちかけたのがきっかけとされる。

 若宮氏は83年にアキノ議員が暗殺された時に同じ飛行機に乗っていて、フィリピンや台湾などアジア各地の政界に人脈をもっていると言われる。

 北朝鮮側は「外務省ルートではらちがあかない。反共和国の人たちと虚心坦懐(きょしんたんかい)に話し合いたい」と、当初は安倍晋三・自民党幹事長との面会を希望。「無理だ」と伝えると平沢氏を指名した。

 12月上旬、北朝鮮側は、鄭大使ら5人の参加を伝えてきた。平沢氏が救う会を同行させたいと伝えると、北朝鮮側は西岡氏や家族会の蓮池透事務局長の名をあげ、「出席は困る」と主張。「横田滋・家族会代表ならいい」と答えた。平沢氏は「家族会が出る話ではない」とし、西岡氏の同行で折り合ったという。

 会談は、北朝鮮側が日本政府を動かそうと必死で促したようにも見える。昨年末に会談内容の一部が明らかになった直後、宋副局長は電話で「平沢氏は本当のことを話していない。そちらが約束を守るなら、我々は120%家族をかえすといったはずだ」と平沢氏に伝えてきたという。

 10日、若宮氏に北朝鮮側から連絡があった。「日本は我々の動きを『二元外交だ』と言っているが、そんなことはない。私たちは真剣だ」との内容だったという。

(01/11 06:46)


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