後藤絵里 (GLOBE記者)
血のつながらない子どもを実子として育てる「特別養子縁組」。そのあっせん団体が、養子を迎える親から寄付などの名目で多額の現金を受け取っていたと報じられた。だが、問題は金額の大きさだけではない。こうした縁組は、子どもを健やかに育てる大事な手段であるにもかかわらず、日本ではルールがあいまいで、誰が費用を負うべきかの議論も欠けている。諸外国はどうしているのだろうか。
7月中旬、埼玉県の民間団体「命をつなぐゆりかご」の代表理事、大羽賀秀夫(62)に1本の電話がかかった。
「関東地方の妊婦さんから相談があった。出産が近いようです」
熊本市の慈恵病院の看護部長、田尻由貴子からだった。慈恵病院は、望まない妊娠をした女性らからの電話相談を、24時間体制で受け付けている。
田尻の話を聞いた大羽賀は、すぐにこの女性に電話した。話してみると、妊婦健診を受けておらず、しかも出産が近いようだ。すぐに本人とじかに会って病院へ搬送。女性は間もなく無事出産した。
ただ、経済的な事情などから子どもを自分の手では育てられないという。女性はスタッフと話し合い、子どもを特別養子縁組に託すことに決めた。
特別養子縁組は、実の親が育てられない6歳未満の子どもを、血縁関係のない大人が実の子として迎え、育てる制度だ。保護を失った子どもに、施設だけでなく、新しい家庭で育つ機会を与える手段でもある。
慈恵病院の田尻は、妊婦からの相談には、まず自らの手で育てるよう説得し、それが無理なときには、乳児向けの施設ではなく、特別養子縁組につないできた。過去6年間の相談で198人が説得に応じ、167件が縁組に至ったという。まず求められるのは一人親でも子育てを諦めずにすむ環境づくりだが、それが難しいケースがあるのも現実だ。
特別養子を迎えたい親と、保護が必要な子どもを結びつける「あっせん」は、公立の児童相談所と、「命をつなぐゆりかご」のような民間団体が担う。民間の場合は第2種社会福祉事業の届け出が必要だ。厚生労働省によると昨年度末時点では14団体が届け出ており、あっせん件数も増えている(右のグラフ参照)。
民間のあっせんの特徴は、「生みの親」とも接点を持つケースが多いことだ。冒頭に紹介した事例はその典型といえる。
民間団体を頼る妊婦は、未成年だったり、既婚者との子を妊娠したり、生活が苦しかったりといった事情を抱えていることが少なくない。家族にも相談できず、児童相談所を訪れるのもためらいがちだ。相談所側も、急増する児童虐待への対応に追われ、余力は大きくない。
「望まない妊娠」は最悪の場合、子殺しや遺棄に行き着く。あっせんを手がける民間団体は、こうした「穴」を埋める役割を果たしている。
ただ、民間のあっせんには統一された基準がない。児童福祉法は営利目的のあっせんを禁じ、厚労省の通知は、事業者が縁組希望者から受け取れるのは「実費又はそれ以下の額」とする。ただ、「実費」の範囲は、個々のケースごとの判断になるという。一方で、民間への公的な支援は、一部の自治体が事業委託のかたちで行っているぐらいだ。結果として、事業の中身や費用負担の実情はあまり明らかになっていなかった。
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