みのもんたの次男は「懲戒解雇」になるか、それとも…
吉田 典史 | ジャーナリスト
読売新聞や産経新聞などの報道によると、タレントの、みのもんた氏の次男で、日本テレビ社員の御法川雄斗容疑者が警視庁に窃盗未遂容疑で逮捕されたという。御法川容疑者は、8月13日午前1時10分ごろ、港区新橋5丁目のコンビニの現金自動預払機(ATM)で、他人のキャッシュカードを使い、現金を引き出そうとした疑いで今月11日に逮捕された。
今後、警察の取り調べなどで状況は変わりうるが、現時点で報じられていることをもとに、この容疑者である会社員の扱いを考えてみたい。
社員が刑事事件を起こしたとき、会社の経営陣や人事部は「賢明な判断」をすることが求められる。警察による逮捕や拘留の事実だけで、懲戒解雇などの処分にはなかなかできない。本人が罪を認めた場合でも、えん罪の可能性はありうる。
刑事事件を起こした社員がいたときに、「会社としてこのように対応をしなければならない」といったルールや決まりはない。ケース・バイ・ケースの対応になるがゆえに、会社としては難しい対応を迫られる。
都内や埼玉、千葉県などの中堅・中小企業の労務コンサルティングをする、社会保険労務士の中村紳一氏(埼玉労災一人親方部会理事長)に取材を試みた。中村氏は、自らが顧問などとして関わる会社でも過去に同じような問題が起きたという。
ある中小企業に、相当に優秀な社員がいた。ある日、その社員が経歴詐称で入社したことがわかった。しかし、会社は処分にしなかった。
中村氏が、社長に理由を聞くと、「ものすごく優秀だから、解雇などにはできない。辞めさせるのは、惜しい人材」と答えたという。今も、その社員は在籍し、活躍しているようだ。
しかし、今回はキー局の雄・日本テレビが舞台である。本格的な大企業といえる。みの氏の次男が、相当に優秀な人材であったとしても、一人の社員にたよらないと会社が成立しないということはありえないだろう。一人の社員の力がそこまで強いならば、大企業にはなりえない。ある意味で、一人の社員の力が一定の枠の中で制限されているから、組織で稼ぐ体制になり、大企業になることができる。
中村氏は、大企業のその体制を説明した後、「これまでの相談事例をもとに導いた考えでしかない」と前置きし、こう話した。
「報道が事実ならば、日本テレビは、表向きは懲戒解雇にしたとしながら、実際のところは、本人に辞表を書いてもらう、依願退職という落としどころにするのではないか。
通常は懲戒解雇にはなかなかしないものだが、ここまで騒ぎが大きくなると、通常の辞め方では示しがつかないのかもしれない。
日本テレビとしては、この男性社員をさすがに、このまま在籍させることはできないと思う。退職金を支払うかどうかかはケース・バイ・ケースだが、今回は支給しないのかもしれない」
解雇には、懲戒、整理、普通の3種類がある。通常、就業規則にそれらのことが書かれてある。就業規則は、会社によりその内容は異なる。懲戒解雇のところは、「刑事事件などに該当した場合」と記載されるケースが多い。しかし、そこからさらに「逮捕されたとき」「起訴されたとき」「有罪が確定したとき」などと詳細には書かれていないものだ。
中村氏は、「解雇に限らず、就業規則ではそのようなあいまいな表現が少なくない」と言いながら、懲戒解雇をめぐる、過去の裁判の判決・判例をもとにこう説明する。
「今回は、業務上のことではなく、私生活でのこと。私生活上の行動を理由とした解雇については、刑事事件を理由とするものであっても、解雇事由に該当しないとして、解雇を無効とした判例はある。
法の場では、有罪が確定したとき、ととらえるのが常識的ではあるが、今回はテレビや新聞などで大量に報じられたことで、日本テレビの社会的な信用は大きく失墜したと思う。その意味では、懲戒解雇などが理論上は成立する可能性がある。
さらに、有罪が確定するまでは、刑事事件に該当したとはいえないとして、いつまでも籍を残し、いわば、さらし者にしておくことは、日本テレビにとっても、この男性社員にとってもメリットはない。ここまでを踏まえると、おのずと、日本テレビの落としどころは見えてくるのではないか」
さらに、こうも付け加える。
「テレビ局や新聞社などは日頃から、報道と称して、他人のプライバシーや、時には人権や人格を否定するようなことをしているケースもある。それでいて、身内の不祥事にはお咎めなしで、その後も社に残すようでは説得力がなくなるのではないか。懲戒解雇にするか否かは微妙なところだが、早いうちに辞めるようにするようには思う」
中村氏は法律実務家として自らが、「懲戒解雇にしたとしながら、実際は依願退職」という落としどころの相談を会社から受けたら、「妥当と思う」と答えるという。
「日本テレビとしては男性社員にもう、利用価値はない、と考えているのかもしれない。これまでは、みの氏との取引を重視し、配慮していたものがあったのかもしれない。しかし、ここまでの社会的な問題になれば、何らかの対応をせざるを得ない。みの氏も日本テレビに、なぜ、うちの息子を辞めさせたのか、とはさすがに言えないだろう」
この説明を受けると、会社とは冷徹な論理で成り立つことをあらためて実感する。中村氏は、「日本テレビのような、あくまで大企業でいえることであり、零細企業になると、(前述の事例のように)状況が変わる」と繰り返す。
中村氏は、こうも補足した。
「今回は、凶悪犯罪ではなく、微罪というレベル。もちろん、微罪であれ、許されるものではない。今後の状況しだいだが、これほどにマスメディアで騒がれ、挙げ句に表向きは懲戒解雇になれば、それなりの社会的な制裁を受けたとみることもできる。この男性社員が起訴され、裁判が進んだとしても、最後はそのあたりを考慮し、執行猶予付きになるのではないだろうか」
報道によると、みの氏は、マスコミ各社にファクスを送付し、「私の次男の逮捕に関し、世間を大変お騒がせした事について、大変申し訳なく思っております」と謝罪したという。
「父親として深く責任を感じております」とし、「報道に携わる人間として、その公正を守る意味でも報道番組への出演を自粛させていただくことにいたしました」と報告したようだ。
日本テレビは、この社員の扱いをどのようにするのだろうか。