なぜ若者は安倍を支持するのか

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WiLL 2013/1月号

なぜ若者は安倍を支持するのか

小川榮太郎(文藝評論家・創誠天志塾塾長)

数字が語る安倍人気

今、若者たちの間で安倍晋三へのラヴコールが熱い。

それも圧倒的に、だ。

十代から三十代が多数を占めるYahoo!での世論形成を見れば、それは一目瞭然である。

今年六月二十八日、自民党が配信するネットテレビ「自民党Cafesta」の開局一周年記念「12時間ぶっ続けまるナマ自民党」では、視聴率がピークになる二十時三十分からの一時間枠は安倍氏と評論家の金美齢氏の対談だつたが、会場参加者は約六百人で立ち見が溢れ、ネットでの視聴者も二十二万人を集めた。日頃、厳しい書き込みが入りがちなニコ生では、次のやうな好意的なものが否定の声を圧倒してゐる。

・なんとしても、安倍さんを総理大臣にせねばならん。
・安倍さんを次の総理に!!
・この時間帯に安倍元総理が出るという事は、自民党の意志に第二次安倍内閣という頭があるのかな。
・たぶん自民党政権が続いていたら、これだけ日本の領土を守る、主権を取り戻すという意識が国民に芽生えなかったかもしれない。そういう意味で民主党は貢献したかもしれないな。ポジティブに考えよう。

それから二カ月後に行はれたYahoo!世論調査「任期満了に伴う自民党総裁選(九月二十六日開票)に五名が立候補。立候補者のうち、誰がもっとも自民党総裁にふさわしいと思いますか?」の数字は次の通りだ(実施期間 九月十四日~二十六日)。

合計:一〇三二六二票
安倍晋三:四六% 四六五三九票
石破茂:四二% 四三三一五票
石原伸晃:六% 五八六八票
林芳正:五% 四一五三票
町村信孝:四% 三三八七票

野田首相が突如、解散表明した十一月十四日の安倍総裁との党首討論後、安倍氏について民主党の岡田克也副総理が「安倍氏は器が小さい」と述べた記事に対しては、Yahoo!では四千六百五十件ものコメントが書き込まれたが、その上位は次のやうなコメントばかりが並んでゐた。

《岡田、おまえ本当のバカだろ? 無責任なことを言い続けたお前が言うな。民主、社民は消滅するから安心して》
 私もそう思う 三一九七七点
 私はそう思わない 二四五五点

《と、器が無いやつが申しております》
 私もそう思う 二七九二二点
 私はそう思わない 一三八二点

ネット世論はダブルスコア

一方、同じ十一月十六日、石原慎太郎氏の太陽の党と、橋下徹氏の日本維新の会との合流への模索についても手厳しい。何よりも、コメント数も賛同者数も、岡田氏の安倍氏への言及とは比較にならず、数が少ない。

《選挙のための野合の結果がどうなるかは、今、まさに民主党が証明しているじゃないか》
 私もそう思う 一〇二三点
 私はそう思わない 四七点

《橋下ってただの市長でしょ? 仕事しろよ(笑》
 私もそう思う 八八三点
 私はそう思わない 七九点

岡田氏が自民党に言及したら、これだけのコメントや賛否のクリック数にはならなかつたのは間違ひない。Yahoo!の投稿や投票者は、「安倍」に反応したのである。

自民党総裁選では多くの世論調査で、石破氏が安倍氏よりも高い支持を集め、党員による地方票でも石破氏が安倍氏を大きく上回つたのは周知の通りだ。安倍氏の病気による首相辞任が、政権投げ出しとひ弱さのイメージを定着させてしまつてゐた。今回の立候補後も、マスコミ世論は安倍氏にはかなり厳しかつた。

ところが、ネット世論では、その石破氏を抑へて、安倍氏が一位である。今回、出した数字は寧ろ安倍支持が低めのもので、調査によつては安倍支持が石破氏のダブルスコアになる例もあつた。

一方、無党派層の支持を集めてゐるかのやうにマスコミが大きく喧伝する橋下氏も、若者のネット世論を全く味方に付けられてゐない。

橋下氏は、常にマスコミの注視を集めてきた。客寄せパンダとしては第一級の芸当の持主である。メディアでの発言はいつでも過大に報道される。政策や見解でぶれながらもその都度、大胆に開き直り、攻撃とジョークを取り混ぜての丁々発止は、閉塞した現代の若者にはいかにも受けさうだ。

「格が違う討論だった」

ところが、ネット世論から見えてくるのは、寧ろ、さうした橋下氏の手法への警戒心と共に政治家としての信条への疑惑であり、最近、さうした橋下氏に心弱く妥協してゐるとしか映らない石原氏への失望感である。

ここからは、最近の政治意識の高い若者達の極めて明確な姿が浮き彫りになる。

それは、マスコミが売り込み、またマスコミへの効果を計算するタイプのポピュリストには、彼らはもう騙されないといふことである。小泉純一郎元首相が最大限効果的に使つた劇場型政治は、靖國参拝や不良債権処理など、小泉政治に実質的なパワーが──評価には賛否両論あるにせよ──あつたがゆゑに有効だつた。国政といふ険しい本舞台で成果を出した小泉氏の劇場型政治と、責任の軽い場所から、国政について勇ましい発言を繰り返す橋下氏の胡散臭さとの差異を、若者達は非常に正確に目測してゐるのである。

だが、それでは逆に、何故今、若者世論は安倍晋三なのか。ナショナリズムの風を言ふ向きもあるが、それならば、国防のスペシャリストとされる石破氏に風が吹きさうなものだ。対外強硬論者の石原慎太郎氏が一層強い支持を受けてもをかしくあるまい。だが、ネット世論は明らかに安倍氏支持に強く、しかも安定的に傾斜し続けている。

それは何故なのか。

安倍氏を支持する若者達の声を聞けば、その間の機微が何か見えてくるのではないだらうか。

例へば、安倍氏のフェイスブックへのコメントから拾ふとどんな若者達の世論が見えてくるか。総裁選当日、安倍氏の戦勝御礼報告には、実に二万六千三百三十八人が「いいね」ボタンを、三千五百九人もの人がコメントを寄せてゐる。

《生まれて初めて、自民党総裁選の結果を聞いてうれし泣きしました。日本、やり直せるかもしれないっていう光が見えた》

《本当におめでとうございます。就任挨拶で五年前のことを謝罪されてましたね。こちらこそごめんなさい。あの時、私たち国民は安倍さんを守ることができませんでした。しかし今なら、私たち国民はマスコミに騙されることはありませんから》

十一月十四日の党首討論に関するコメントには、次のやうなものがあった。

《党首討論においても政治言語に習熟した正論の安倍総裁と素人集団私利私欲の野田さんとでは説得力は歴然、明らかに格が違う討論だったと思います》

《安倍内閣と麻生内閣は戦後最良の内閣でした。お二方とも日本の正しい歴史を受け継いだ政治家だからです。(略)「自由」という思想は正確には「規則の範囲内での自由」です。報道機関はそれを理解していません。「多数決」という共同体の意思決定の方法は「個人の利益より集合体の利益を優先する多数決」です。民主党の支持母体はそれを理解していません》

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