【ヤクルト】バレ惜しい！５６号まであと１メートル

３回２死一塁、マートンの左飛を好捕し、おどけた表情を見せるバレンティン

　◆ヤクルト２―３阪神（１３日・神宮）　大歓声とともに満員の観客が総立ちになった。初回２死一塁、カウント２ボール１ストライクからの４球目。バレンティンがスタンリッジの外角の１４７キロ直球をはじき返すと、打球は中堅方向に一直線に伸びていった。５６本塁打の新記録を確信したかのように両手の人さし指を天に向けたが、打球はフェンス手前で失速した。「バットの先だった。とらえきれなかった」。伝説達成の瞬間まで、あと１メートル足りなかった。

　阪神バッテリーに徹底して外角を攻められ、その後は空振り三振、右飛、投ゴロで４打数無安打。２戦連続アーチなしで、連続試合安打も７で止まった。「アウトコースばかりで、ホームランにできる球がなかった」。８月６日の中日戦以来の出塁ゼロだった。

　新記録誕生はならなかったが、周囲の期待は高まる一方だ。スタンドには約３万人の大観衆が詰めかけ、外野席後方は立ち見客であふれかえった。背番号４がスイングするたびに、どよめきが起こった。球団はバレンティンのお面型うちわを作製し、一塁側、右翼側の入場者１万人に無料配布。ファンも打席ごとにうちわを掲げ、声援を送った。母国オランダの駐日大使も激励に訪れた。

１回２死一塁、ホームランの手応えでポーズをとるも、中飛に倒れたバレンティン（投手・スタンリッジ）

　１２日朝に、母・アストリットさん（６４）がオランダ・アムステルダムから初来日。前夜は都内の自宅マンションで久しぶりに親子水入らずの時間を過ごした。手料理こそ時差ボケが残るとあってお預けとなったが、この日、自宅を出る際に母にこう言われた。「神のご加護があるから、今日は打てるわよ」。だが、結果はついてこなかった。

　試合前練習終了後の恒例となっていた囲み取材をキャンセルした。「今日（１３日）は試合に集中したい。質問は打った後にしてほしい」。ふだんは陽気なバレンティンも、さすがにナーバスになっている。記録は１４日以降に持ち越しとなったが、“バレ狂騒曲”は、歴史的瞬間まで続きそうだ。