余録:普通のカレンダーは1月から
普通のカレンダーは1月から始まるが、9月に始まるカレンダーが売られているところがある。14、15両日の「だんじり祭」でにぎわう大阪府岸和田市である▲細密な彫刻が施された重さ4トンのだんじりを曳き回す豪快な祭りだ。約300年の伝統があり、かつてはだんじり同士がぶつかって死者も出る荒々しさで「けんか祭り」とも称されたが、近年は一方通行など安全運行のルールが定着した▲全国からたくさんの観光客が訪れるようになったのは高度成長期が一段落した1980年代だ。経済一辺倒だった市民の関心が足元の社会や文化に向くようになり、伝統ある祭りの魅力が再認識された。多くの町がだんじりを新調し曳行の技術を磨いた▲9月に始まるカレンダーは観光客用でさすがに一般家庭で使われることは少ない。それでも祭り好きの市民の1年はだんじりを中心に回る。町会には青年団や世話人会など世代ごとの組織が張り巡らされ準備と運営に当たる。だんじりが疾走しながら角を曲がる「やり回し」では曳き手の呼吸が一体となり、最大の見せ場を迎える▲秋祭りは収穫を感謝するものが多い。だんじり祭も五穀豊穣を祈願するために始まった。時代の変遷とともに意味合いは変わってきたが、祭りを支えるのは昔も今も住民のコミュニティーだ。祭りに熱心な町ほど廃品回収や盆踊りなど町内会活動も活発という▲これから秋が深まるにつれ、全国で本格的な秋祭りの時季を迎える。日本の祭りの多様さは四季に育まれた文化の豊かさの表れだ。さわやかな秋空の下、祭りばやしにしばし心と身を委ね、豊穣の季節を味わいたい。 続きを読む