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“異常気象”カキ養殖に異変
9月13日 18時50分
養殖カキの生産量日本一を誇る広島県では今、この夏の異常気象で、カキの養殖に異変が起きています。
秋以降に出荷するカキの成長が遅れているほか、これから育てるカキの稚貝も十分に確保できない状態が続いています。
穏やかな瀬戸内海にもたらされた異常気象の影響について、広島放送局の島田尚朗記者が解説します。
猛暑にカキも「参った」
例年10月に水揚げの解禁を迎える広島の養殖カキ。
シーズンを迎えると、広島県内には新鮮なカキを焼いて食べさせるカキ小屋がオープン。
多くの人たちがそのプリプリした身を味わうのを楽しみにしています。
ところがそのカキに今、異常気象の影響が出ています。
1つは夏の猛暑。
広島市では、7月からの2か月間、日中の最高気温が30度を超える真夏日が52日に上る記録的な猛暑となりました。
この暑さに参ったのがカキで、成長が遅れているのです。
県内のカキ養殖業者らで作る「広島かき生産対策協議会」は、十分に身の太った良質なカキを市場に出荷しようと、水揚げの解禁日を、例年よりも10日間遅らせ、10月11日に決めました。
稚貝にも異常気象の影響が
猛暑だけでなく、7月に少なかった雨もカキ養殖に影響を及ぼしています。
瀬戸内海のカキの養殖に使う稚貝は、7月にピークを迎える親貝の産卵に合わせ、卵からふ化した大きさ0.3ミリほどの幼生を、海に沈めたホタテの貝殻に付着させて採取します。
この作業は、例年8月中には終わりますが、ことしはカキの稚貝が十分確保できず、一部の養殖業者が9月に入っても採取を続ける異例の事態となっているのです。
瀬戸内海で10年余りにわたってカキの養殖を行っている森尾龍也さんは、9月に入っても稚貝の採取を続けましたが、結局、例年の7割程度しか確保できませんでした。
森尾さんは、「稚貝の採取はこれで一段落というか、見切りをつけた。もう時期が時期なので、稚貝がとれるチャンスはないと思うので、現状で妥協するしかない。残り3割は来年、なんとかとれることを願っています」と話していました。
少雨と稚貝減少の関係は
なぜ、雨が少ないと稚貝の採取がうまくいかないのか。
広島県立総合技術研究所水産海洋技術センターの平田靖副部長は、「カキは、梅雨明けの時期に雨が多く降り、海水の塩分濃度や温度が低下することなどが刺激となり、一斉に産卵する。しかし、ことしは梅雨が早く明けたために雨が少なく、産卵数が減少したと考えられる」と分析しています。
さらに、「雨が少ないと川から海に流れる栄養分が減り、卵からふ化したばかりのカキの幼生の栄養となる植物プランクトンが増えないので、幼生も育たなかったのではないか」と指摘しています。
広島県ではことし7月の1か月間の雨量は例年の70%以下でした。
その原因は、早々に本州付近にせり出し、猛暑をもたらした太平洋高気圧。
広島県では梅雨明けが平年より2週間近く早く、カキの産卵を促す雨が降らなかったのです。
カキ養殖今後への影響
私たちが口にするカキへの影響は、どうなるのでしょうか。
広島県漁業協同組合連合会によりますと、カキの養殖業者の中にはすでに必要な量の稚貝の確保を終えている業者もいるということで、今回の稚貝不足が来年以降にどの程度影響するのか現段階では分かっていません。
ただ、温暖化などが原因でこうした異常気象が続けば、日本一のカキの産地広島県にとっても重大な問題です。
広島県立総合技術研究所水産海洋技術センターでは、「海の状況も長期的に見ると変わってきているので、それに合わせた養殖を行う必要がある」と指摘しています。
全国一の生産量を誇る広島の養殖カキを、全国の人たちがいつまでもおいしく味わえるよう、今後の気候の変化も視野に入れた産地の対応が求められていると思います。