写真右が高屋肇さん。昨年の毎日懇話会には、コメンテーターの岸井成格(写真左)さんも駆けつけた。「押し紙」問題を解決するためには、著名な識者がおおやけの場で
この問題を積極的に指摘することも大切だ。
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毎日新聞社の経営は、病気にたとえると末期だ。最新の「押し紙」データによると、搬入される新聞の実に7割が「押し紙」、という販売店もある。このような異常実態を招いた温床はなにか。「毎日懇話会」(毎日新聞の販売組織で役職経験がある販売店主の集まり)名誉会員で、みずから50年超にわたり毎日新聞の販売店を経営してきた大御所、高屋肇さん(83才)に、毎日新聞社の“病状”を率直に語ってもらった。
【Digest】
◇第1の危機--7割が「押し紙」
◇第2の危機--金銭への異常な執着
◇第3の危機--不良読者を育てた
◇「おい、月夜の晩ばかりと違うで!」
◇「押し紙」政策の中止を
◇第1の危機--7割が「押し紙」
販売店へ搬入される新聞の部数は1780部で、そのうち実際に配達される部数はわずかに453部だった。実に1327部もの新聞が店に余っていた。
これは毎日新聞・豊中販売所(大阪府豊中市)における2007年6月度のデータである。わたしが入手した毎日新聞・販売店における部数内訳の最新情報である。
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毎日新聞の「押し紙」。写真は高屋さんから提供されたもの。 |
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日本全国にある約2万店の新聞販売店に、毎朝、搬入される朝刊の部数は約4500万部。しかし、これら4500万部の新聞がすべて配達されているわけではない。新聞社が販売店に対して、ノルマ部数として買い取りを強制している新聞、「押し紙」があるからだ。豊中販売所の場合、搬入される新聞の実に75%もが「押し紙」だった。
もうひとつ最新の「押し紙」データを紹介しよう。豊中販売所と同じ今年6月におけるデータで、毎日新聞・蛍ヶ池販売所(大阪府豊中市)のものである。
それによると搬入部数は2320部で、実配部数は695である。これら2つの数字の差異にあたる「押し紙」は、1625部である。「押し紙」率は70%とやはり高い。
新聞社経営の健全度を測るひとつの目安は、「押し紙」率である。わたしは、
全国平均で3割から4割ぐらいが「押し紙」になっているのではないかと推定するが、ここで紹介した毎日新聞の二つの店では、なんと7割を超えている。
ちなみにこれら2店における今年1月から6月における新聞部数の月別比較データは、次のとおりである。7割超という「押し紙」率が決して、単月の例外的なものではないことが読みとれるだろう。
《豊中販売所》
月/分類 |
送り部数 |
実配部数 |
「押し紙」部数 |
1月 |
1790 |
450 |
1340 |
2月 |
1780 |
455 |
1325 |
3月 |
1780 |
450 |
1330 |
4月 |
1790 |
442 |
1348 |
5月 |
1780 |
447 |
1333 |
6月 |
1780 |
453 |
1327 |
《蛍ヶ池販売所》
月/分類 |
送り部数 |
実配部数 |
「押し紙」部数 |
1月 |
2340 |
699 |
1641 |
2月 |
2320 |
695 |
1625 |
3月 |
2320 |
694 |
1626 |
4月 |
2340 |
692 |
1648 |
5月 |
2320 |
693 |
1627 |
6月 |
2320 |
695 |
1625 |
これら2つの販売店を経営していたのは、関西地区の毎日懇話会(毎日新聞販売店組織において役職経験のある販売店主の集まり)の名誉会員・高屋肇さんである。「押し紙」について、高屋さんは次のように話している。
「ここ10年ぐらいで急激に『押し紙』が増えました。昔から『押し紙』はありましたが、経済状況が良好な時代には、営業努力でそれを実配部数に変えることができました。しかし、現在はビジネス環境が変わったうえに、新聞の情報に頼らない人が激増しています。
正直なところ、新聞が必需品になっているのは50代と60代の世代だけではありませんか。大企業に勤めている人も、新聞よりもインターネットで情報を収集することが多いようです」
新聞の購読者が激減しているのに、販売店への新聞の送り部数が調整されることはなかった。その結果、どんどん配達されない新聞が膨れあがり、「押し紙」率が7割を超えたのである。
高屋さんが経営していたこれら2店では、「押し紙」の赤字は、補助金を差し引いても、150万円から200万円ぐらいになっていた。その一部は折込チラシの水増しによるチラシ収入で相殺してきたが、インターネットなどの影響でチラシが減ってくると、それも難しくなった。そして6月末をもって、高屋さんは経営を断念したのである。50年を超える販売店経営に終止符を打ったのである。
◇第2の危機--金銭への異常な執着
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毎日新聞社は、環境保全のために、モッタイナイ・キャンペーンを展開してきた。しかし、「押し紙」政策とキャンペーンは矛盾している。
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「押し紙」の実態を検討するだけでも、毎日新聞社の経営は異常の一言に尽きる。癌の末期に等しい。「押し紙」商法に嫌気がさした高屋さんは、何度も販売局に改善を申し入れた。
これに対して販売局の答えはまことに奇妙なものだったという。普通の企業ではとても通用しないレベルの回答だった。
「それは感性の違いですな」
そこで高屋さんは、こんなふうに問うた。
「毎日新聞社の感性というのは、盗人のようなことをやることで、それを批判するぼくの感性がおかしいということか?」.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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毎日新聞・豊中販売所における2003年から2006年までの新聞部数の(月別)内訳。「注文部数(C)」は、予備紙として必要とされる実配部数の2%を加えた部数。
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