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第106回

音楽のエネルギー

2013年9月12日

 お盆の時期に、中学時代の同窓会に行きました。
 小学校から一緒だった友人のA君としゃべっていたら、数年前にうつ病になった、という話を聞かせてくれました。
 仕事上のトラブルと、親の介護が重なったことが原因だそうで、だんだん会社に行くのがつらくなり、ふさぎ込み、死ぬことも考えるようになったそうです。

歌声が癒やしに

 そんな状態が数ヵ月続いたある日、娘さんと一緒にテレビの歌番組を見ていて、耳に飛び込んできたのが人気グループ・AKB48の歌声。
 友情の大切さを伝える歌詞が妙に心に浸みて、A君はアルバムを買ってみました。聴けば聴くほど、自分が励まされている思いになって、涙がこぼれ、すっかりファンになりました。そして、音楽を聴き続けるうち、だんだん気持ちが楽になり、会社に行くことも苦痛でなくなり、うつ病を克服できたのだそうです。

 A君の“推し”は、名古屋の姉妹グループ・SKEの松井玲奈さん。初めて握手会に出かけて、初めて松井さんの顔を見たとき、自分でも驚くほど涙が止まらなくなって「あなたは命の恩人です」とやっとの思いで伝えたとか。松井さんも目を丸くして、びっくりしていたそうです。その後も握手会などで自分の体験を話し、自分の娘ぐらいの年代のメンバーたちから「死んじゃだめよ」と励まされているとか。A君の携帯メールには、ファンクラブからの情報がずらりと並んでいました。

 昭和歌謡好きの私から見ると、AKB48って、歌も踊りもまだまだ未熟だし、歌詞もそつなくまとまっているけど、深みがないというイメージを持っていました。でも、かわいくて、元気で、根性のありそうな子たちが多くて、その「生のエネルギー」みたいなものがA君の心に伝わったのかな、と感じました。ちょうど治りかけの時期に、後押ししてくれるものに出会ったのかもしれません。
 こういう心の作用って、たぶん年齢に関係ないことで「いいトシして」と批判するのは誤りです。

 音楽って不思議な力があります。
 26歳になるうちの息子も、週末に私と一緒にカラオケに行く生活が、もう10年以上続いています。知的障害を伴う自閉症で、会話の力はきわめて乏しいけれど、知っている歌のストックはたぶん千曲以上ありそう。マイクを握るわけでもなく、ただ自分で選曲し、旋律を聴き、歌詞のテロップを眺め、気が乗ると歌に合わせてぴょんぴょん飛び跳ねる。そんな時間にとても安らぎを感じるようです。
 うつ病や発達障害に限らず、さまざまなストレスをかかえやすい現代社会。音楽を友達にして、心のバランスを保っていきたいものです。

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執筆

安藤 明夫

編集委員

生きがい、生活習慣病予防、心の健康・・・医療記者としての取材体験を自分自身の「これから」に重ねて、つづっていきます。