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細かいことが気になる ~辟易と・二の舞~


Webで娯楽小説を読むのに細かいことを気にするのは、楽しもうという姿勢の欠如であるやも知れません。
重箱の隅? そうかも知れません。すみませんね。
でも気になるんです。しかもそういう語に限って作者のお気に入りだったりして、繰り返し繰り返し文中に出てくるもんだから、もう、そればっかり気になって内容なんか頭に入りません。
頼む ちょっと 勘弁して……。


1)辟易「と」しないで

    【誤】            【正】
 うるさく言われて辟易とした。→ うるさく言われて辟易した。
 彼は辟易とした顔になった。 → 彼は辟易した顔になった。

「辟易」を辞書で引いてみてください。見出し語の後に何がついていますか?
辞書によって様々ですが、“[名]スル”とか“名詞・自動サ変”とかになっているはずです。

つまり意味するところは、「辟易」という語は 名詞 or スルをつけてサ変自動詞 になる、ということです。
勝手にトをつけて副詞にしないでください……。あと、タルをつけて形容動詞や連体詞にするのもダメです。

状態や感情の様子を表す言葉に「ト・タル」をつける例はたくさんありますが(平然とする、かくしゃくとしている、等)、そうした語は見出しの後に“ト・タル”とか“-たる〈連体〉”“形動タリ”とかついております。「辟易」はついてません。
――えっ、でも「辟易」だって心情や態度を表しているじゃないか、いちいち辞書引いて確かめないといけないなんて、そんなのおかしくない?……と思われるかも知れませんが、ちゃんと理由があります。

そもそも「辟易」という言葉は本来「道をあけて場所をかえる意」(goo辞書)つまり行為を表すのであって、心情を表す言葉ではありません。

辞書によってはまだ一番目に「相手の勢いにおされてしりごみすること」といった意味を記しているものもあるほどで、現在よく使われる「うんざり」「閉口」の意味は比較的新しいものなわけです。
そのうちじわじわ副詞・形容動詞化していってしまうような気もしますが、今はまだ辞書にはそのように記載されていません。“と・たる”をつけるのは間違いです。
“辟易とする”で文節検索してみたら、それこそ辟易する(・・・・)ほどに沢山ひっかかるので、かなり氾濫している使い方のようですが、同時に、やはりこれはおかしいと感じる人もまだまだ大勢います。
こだわりがない限りは、正しく使って頂きたいと思うのです。

なお、話し言葉でたまに「へきえき」を「へきへき」と言ってしまう方もいるそうですが、覚え間違いのありませんように。
なんか軍船がたくさん燃やされた場所みたいじゃないですか……。(それ赤壁)


2)ネバーアゲイン

  【誤】             【正】
 奴の二の舞は踏むなよ。 → 奴の二の舞を演じるなよ/奴の二の舞にはなるなよ。

二の舞は「演じる」または「-になる」、踏むのは「轍」(同じ轍、前車の轍)です!

……と言いたいんですが、昨今は「二の舞を踏む」を誤用とするのは間違いだという流れになっている様子。
「二の舞を踏む」があまりに広汎に使われていること、また経験する意味での「場数を踏む」などの用法もあるし、そもそも舞は拍子を踏んで合わせることから「踏む」でもいいじゃないか、と。

とは言っても、検索するとやはり結構な数、「“踏む”は間違いです」とする最近の記事もヒットしますので、違和感をもつ読者も相応の数いるし、中には「それ間違いですよ」と指摘する方もいらっしゃるかも、ということは知っておいて欲しいですね。

よく似た言葉に「二の足を踏む」というものがあるので、混同から誤用になったのか、という説もよく見かけますが、意味は全く違いますのでご用心。

  二の足を踏む=一歩目は進みながら、二歩目はためらって足踏みする。思い切れずに迷う。(goo辞書)



3)数値化出来るか出来ないか

こういうエッセイを書いていると、細かいことが気になる方は筆者以外にも大勢いらっしゃるようで、色々と“引っかかる言葉”を挙げられます。
その例のひとつが、「~~度」「~~値」といった言葉。

【例】
 ・人生の経験値が足りなくて面倒事をうまくさばけない。
 ・好感度がアップした手応えを感じた。

ゲームの世界にトリップしたのならともかく、異世界であってもそれが“現実”であるなら、こういう数値化した表現はおかしい。
……というのが、引っかかる理由です。

確かに「~~度」「~~値」という言葉が出てくると、何でも数値化するシステマティックでデジタルな現代風味を加えることになり、読者に違和感を抱かせることもあるでしょう。
普通に「人生経験が足りない」「好意が増した」ではいけないのか、と苛立ちを覚える読者さんも、稀ではないように思われます。

ですから、作品の舞台や雰囲気によっては、何でも「~~度」「~~値」にしないよう気をつけることをおすすめします。
ゲームでない重厚で泥臭い雰囲気のファンタジーで強敵と対峙している場面で、いきなり「経験値が」云々と言い出されたら白けますよね。数字を稼げば勝てる相手なのか、それしきのことなのか、と。
そういうことです。


ただ、ここからは個人的な見解ですが、表現としての可否を問うなら「~~値」「~~度」は決して間違いではないと考えます。
なぜなら現実にも「満足度」「幸福度」「有用度」などといった言葉が使われているから。

好意や経験といった計測不可能なものでも、恋人の数やこなした仕事の数で漠然と数量化したり、目標とする状態を100としたら現在どのぐらいか、という形で数字にしたりすることが可能です。
それが主観的でまったく正しくないとしても、数値や度合いにして測る事は可能なのです。

あるいは、幸福度なんて計りようもなさそうだというのに「都道府県別幸福度ランキング」なんて調査結果が出されて、それを基にしてあーだこーだ論じられていたりもします。

“目に見えないもの”“数字や言葉で表せないもの”を、無理やりにでも可視化し、数字や言葉に置き換え、それに基づいて色々な物事を動かすというのは、現実に行われていることなのです。
そのものの本質を、その数字が表しているか否かは、表現としての正否とは関係ありません。

――とはいえ、上で述べたように、細かいところに引っかかる人は様々です。
「これおかしいんじゃない?」と言われたくない、あるいは作品を「ゲームっぽい」「軽い」と見られたくない場合は、使用に気をつけた方がいいかも知れません。
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