このモデルの方の、ご遺体に対する尊厳を守ろうとする思いを表現したつもりです。「遺体」と「死体」という言葉があるのですが、「遺体」は「遺(のこ)す体」と書きます。その遺された体には必ず言いたいこと、伝えたいことがある。それを主人公の彼は聞き取ろうとして話しかけているわけです。実際、ご遺体に話しかけると表情が緩んでくるそうです。
地震、津波で亡くなられた方々は誰一人としてまさかその日、自分の命が終わるなんてことは考えていなかったと思います。大変理不尽な思いを抱えたまま亡くなられたわけです。そういう方々が言いたいことを、こちらが注意深く見ていれば伝わってくると。でも、彼だけではなく、そうやってご遺体の気持ちを受け止めようとする感性は日本人みんなにあるような気もしました。
これを劇化したことは間違っていなかった、日本人の持っている死生観を描いた映画になったなと思いました。
「人間にとって本当に大事なものは何なのか」「真の幸せって何なのか」と今まで以上に考えるようになりました。例えば、農業や漁業のような第一次産業の方々も、いろいろ工夫して自分の育てた作物や捕ってきた魚を、消費者の方々に「おいしい!」と食べてもらえることが喜びであり、幸せなんですよね。決してもうかることに幸せを感じているわけではない。何か人の幸せってそういうことなんだよな、みたいな気持ちにはなっています。でも、そういう幸せを一瞬にして奪ってしまうのは地震、津波、そして原発事故。そう考えると複雑です。とにかくいろんなことを改めて考えさせられましたね。
そうですね。こんなに僕は故郷を愛していたのかと分かりました。昔は「なんでこんなに真っ暗なんだろう、僕の田舎は」と思って上京し、東京のチカチカしているネオンや華やかさ、浮かれた感じを楽しんでいたのですが、今は逆に、故郷のあの暗さがいとおしくてたまらない。まあ年齢もあると思うのですが(笑)。
もちろん。福島という自然の中で少年期を過ごせたことが、今にして思えば実に幸運だったなあって。両親、友人、知人、学校の先生も含めて、福島での出会いの中で、間違いなく僕の情操は育まれたと思います。もちろん、喧嘩(けんか)もしたし、中には憎らしいと思ったヤツもいる。でも、そういう人たち全部ひっくるめて、自分の人生を彩ってくれているような気がします。
幕末期に会津藩の家老を務めた西郷頼母役です。会津戦争に関しても、維新を成す側からとらえて描かれたり、白虎隊の滅びの美だけを抽出されることが多かったのですが、このドラマでは会津藩のことをより深く理解してもらえるようになっていると思います。あの時代にこんなにも美しく生きた人たちがいたことを知ってもらえたら、それもまた東北復興への励みになると思っています。大河ドラマは1年とスパンが長いので大変なのですが、そういう気持ちもあって今回、このお仕事を受けさせて頂きました。
自分がブレそうになったり、モチベーションが少し落ちそうになった時には「なぜ僕は役者を志したのか」という初心に立ち返るようにしています。そして、その際、必ず振り返る芝居があります。22歳の時に劇団青年座で初主演させてもらった「写楽考」(矢代静一作)です。主人公はのちに東洲斎写楽になる男で、田舎から出てきて何とか立派な絵師になりたいと思ってうずうずしているわけです。野心満々で生意気。まさに、福島から出てきたばかりの自分と重なるわけです。それもあって、自分の気持ちのズレやブレを修正したい時にふと思い出すようにしています。
「植村直己物語」ですね。その名の通り、冒険家植村直己さんの半生を描いた映画で、極地での撮影を7カ月間ほど行いました。実際に大自然と対峙し、つくづく抗えないことがあるんだと痛感させられました。同時に、大自然の中に身を置いて芝居をするという経験が、僕に言葉にはならない、いろんなものを与えてくれたという意味で、エポックメーキングになった作品だと思います。
奥様の公子さんが当時「なぜ、あの人は冒険に行くんだろう」と話されていたのですが、撮影が進むにつれ、「おそらく植村さんは、自然に抱かれたいと思っていたんじゃないか」と思えてきました。また、山頂を征服したとか、北極点に到達したとかではなく、その途中のプロセスの方が大事だったんじゃないかと感じるようにもなりました。それから、公子さんに対する愛情表現も独特で、彼は物理的に距離が離れれば離れるほど、愛情が増してくるタイプだったんじゃないかなと。女性には理解されづらい心情かもしれませんが、男なら、分かりますよね(笑)。
映画「遺体〜明日への十日間〜」全国公開中
一人のジャーナリストが取材した事実を基に、報道が伝えきれなかった真実を描く作品。
国内観測史上最大規模の東日本大震災。最大40メートルの津波が東北地方と関東地方の太平洋沿岸部に壊滅的な被害をもたらした。舞台は岩手県釜石市にある廃校となった中学校の体育館。残された市民たちは津波の状況を把握できていない中で、同じ町の人々の遺体を搬送し、検死、DNA採取、身元確認を行わなくてはならない状況となった。
原作はジャーナリスト石井光太氏の著作。「災害や被災地への関心を薄れさせてはいけない」と語る君塚良一監督のもとに西田敏行さんをはじめ、日本を代表する俳優陣が集結し、後世に遺すべき作品が作られた。なお、本作の収益は被災地に寄付されることになっている。
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