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(11時間25分前に更新) |
安倍晋三首相は、消費税率を来年4月に現行の5%から8%に予定通り引き上げる方針を固めたという。
首相が月内にまとめるよう指示していた経済対策は、5兆円規模になる方向だ。税率の上げ幅3%のうち2%分に相当する規模だ。住宅ローン減税の拡充や住宅購入者への現金給付のほか、法人税減税、低所得者への現金給付などが柱となる見込みだ。
首相は10月1日に日銀短観の結果などを受けて最終判断を示す。しかし、巨額の支出を伴う経済対策と財政再建との整合性をどう図るのか、国民への明確な説明が必要だ。
そもそも、消費税増税は、社会保障の安定財源を確保することを目的としている。
だが、社会保障と税の一体改革関連法案が民主、自民、公明の3党合意を経て成立する過程において、国民を巻き込んだ増税論議が十分になされたとはいえない。
付則としての「景気条項」があったとはいえ、その後の解散総選挙、参院選でも争点化を回避しており、増税への国民の理解が十分に得られているとはとても思えない。
共同通信の世論調査では、増税を予定通り実施すべきだとの回答は22・5%にとどまっている。最も多いのは現行税率5%の維持29・1%で、時期の先送り、引き上げ幅の縮小は合わせて44・7%と、国民の意見は割れている。
肝心の社会保障制度改革は、現行制度の手直しにとどまり、将来にわたって持続可能な抜本的改革は示されてはいない。
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国の借金は1千兆円を超えた。財政再建が急務であることは論をまたない。
しかし、2014年度の政府予算(一般会計)の各省庁からの概算要求は、総額が過去最大の99兆円に膨らんだ。
政府は中期財政計画で、基礎的財政収支の対GDP比赤字割合を、15年度までに10年度と比べ半減させる財政健全化目標を打ち出したが、その実効性には疑問符が付く。
消費税増税の判断材料の一つとなる13年4~6月期の国内総生産の改定値は、年率換算で3・8%増と高い伸びを示した。ただ、景気回復をけん引してきた個人消費は下方修正された。
7月の毎月勤労統計は基本給など所定内給与が14カ月連続で減少。8月の景気ウオッチャー調査は、街角の景気実感を示す現状判断指数が5カ月連続で悪化している。
賃金や個人消費で見ると、景気の改善は実感として得られていないのが現状だ。
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消費税率が8%になった場合、1世帯当たり年間10万円の支出増になるとの試算もある。所得の少ない世帯ほど負担は重くなる。
12年の就業構造基本調査で非正規労働者の総数が初めて2千万人を超えた。雇用者全体に占める割合は約4割に達している。
政府が目指す物価上昇に消費税増税が加わる一方で、賃金が上昇しなければ「悪い物価上昇」を招きかねない。その懸念を踏まえた上で、国民への説明責任を果たし、理解を得られるような判断を首相は示さなければならない。