来年4月に消費税率を予定通り5%から8%へ引き上げる政府の方針が固まった。
経済指標が改善し、東京五輪の開催決定も追い風となって、税率引き上げの条件である「経済状況の好転」をクリアできる環境が整ってきたからだ。
安倍晋三首相は増税による景気の腰折れを防ぐため、10月1日の最終判断までに経済対策を取りまとめるよう担当閣僚に指示した。
政府内には5兆円規模の経済対策案が浮上している。3%の増税のうち2%分を還元し、ショックを和らげようというのだ。
本年度の補正予算案と来年度の予算案を一体的に編成して財政出動を行うほか、減税を柱とする税制改正では、法人税減税や設備投資減税も検討されている。
ここで忘れてならないのは、何のための増税か、ということだ。国の借金は1千兆円を超え、増税しても「焼け石に水」の状態である。破綻寸前の財政を立て直し、持続が危ぶまれる社会保障制度に希望が持てるようにする―。経済対策は、その目的を踏まえたものでなくてはならない。
増税で景気が腰折れしては元も子もない―という心配はもっともだが、だからといって各省庁の大盤振る舞いを許してはならない。先の復興予算では、被災地と関係のない事業に巨額の税金をつぎ込む乱脈ぶりが目に余った。
増税を錦の御旗にしたバラマキを再び繰り返さぬよう、厳しく目を光らせる必要がある。建設資材が上がり人手の確保も難しくなっている今、補正予算で公共事業費を積み増しても、景気の下支え効果はそう期待できないだろう。
誰にも同率にかかる消費税の欠点は、低所得者層ほど負担感が重くなり、格差の拡大につながりかねないことだ。増税の際は、所得の低い人に臨時的に現金を支給する「簡素な給付措置」が法律で決まっている。公平な運用になるよう工夫が求められる。
賃金アップ、雇用拡大を名目とした安易な企業減税も認めることはできない。減税で利益が増えても内部留保や海外投資に向かい、賃金上昇につながるとは限らないからだ。法人税を納めていない大半の企業には無縁の対策になる。消費税増税の一方での企業減税では国民の理解は得られまい。
金融機関の破綻とも重なった1997年の増税でも、大規模な財政出動や特別減税が行われた。それが国の借金を急増させる結果となり、今度の増税につながっている。過去に学ぶべき教訓は多い。