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2013-09-09 17:00
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    七つの罪と四つの終わり 第九話

    ―――――――――


    「――まず、レヴィを直したい。ごめんね……クラィ」
     第二層での方針をベルに訊ねられた私は、自分の意思を告げてクラィに謝る。たぶんクラィは、ワーカーたちのことを気にしているだろうから。
     けれど予想に反して、クラィは私に優しい視線を向けた。
    「いいわよ、別に。彼女には助けられた借りもあるしね」
    「ワーカーのこと心配じゃない?」
    「もちろん心配だけど……皆を置いて上へ向かったあたしが、どの口でワーカーの事を第一に考えてってミリィに言えるのよ。だから、気にしないで」
     肩を竦め、苦笑を浮かべるクラィ。
    「……ありがとう、クラィ。でもレヴィを直したら、次は発電所に向かうって約束する。そして最下層への送電停止を食い止めるから」
    「全く――本当にお人好しね、ミリィは」
     クラィは呆れた表情を浮かべながらも、声には嬉しそうな色を滲ませる。
    「話は纏まったようですね。それでは――第二層への抜け道に案内します」
     様子を見ていたベルが口を開く。
     私とクラィは一度視線を合わせてからベルに向き直り、こくんと頷いた。
    「出発っすね! ああっ……おっぱい天国との別れは名残惜しいっすが、マスターのために頑張るっす!」
     ラダーも尻尾をピンと立て、気勢を上げる。
    「そんなに名残惜しいなら、あんたはここに残ってもいいのよ?」
     しかしクラィは冷たくラダーを見下ろした。
    「そ、そんなっ!? 姐さんっ、見捨てないでくださいっす! ボクは天国より姐さんたちの方が大切っすよ!」
    「ああもう、纏わりつかないでよ!」
     足元に寄ってくるラダーを、つま先で転がすクラィ。
     ベルはそんな二人を見つめ、楽しそうに笑った。
    「ふふ、お気持ちは分かりますが。そのマシンは連れて行った方がいいですよ。第二層に着いたら、まずはコンピューター端末を探して、そのマシンと接続してください。そうすれば道は開けるはずです」
     ラダーの尻尾を摘み、そこから接続用コードを引き出して見せるベル。
    「はうんっ!?」
     妙な喘ぎ声を上げるラダーを見下ろし、クラィは眉を寄せた。
    「どういうこと? そのエロ犬に何かすごいプログラムでも仕込んでくれたの?」
    「そうですね――まあそういう感じです」
     何故かベルは少しはぐらかすような笑みを浮かべ、ラダーに意味ありげな視線を向けた。


     ベルに案内された抜け道は、第三層の湖から上層へ伸びる水道管に沿って作られた、メンテナンス用の縦穴だった。
     階段はなく、上層まで梯子が延々と続いている。
     私は肩にラダーを乗せ、クラィは背負ったレヴィを紐で固定し、先の見えない長い梯子を上っていく。先を行くのはクラィだ。
    「――ミリィ、気を付けて」
     ベルは梯子の下で、私たちを見送ってくれた。本当はベルも一緒に来て欲しかったが、彼女がこの層を離れると〝塔〟の水源はサタンたちの手に落ち、彼らの計画を早めることになってしまう。そのため彼女は第三層に残らざるを得なかった。
     ベルの姿が見えなくなるまで、私は何度も振り返りながら梯子を上る。だがやがて下方は闇の帳に覆われ、そこからは前だけを見て手足を動かした。
    途中で何度か休憩を挟み、数時間かけて私たちは第二層へと辿り着く。
     突き当たりにあった重いマンホールの蓋を持ち上げ、外の様子を窺うクラィ。蓋の隙間から光が射し込み、私は目を細める。
    「――大丈夫そうね。誰もいないわ」
     クラィはそう言うと蓋を完全に開き、外へ出た。私も後に続く。
     そこは左右に高い塀が聳える路地のようだった。塀の向こうには工場らしき大きな建物が見える。天井の照明はどこか白々としており、空には無数の電線が張り巡らされていた。
     自然が多かった第三層とは正反対の場所だ。
    「クラィ……ここからどうする?」
     道の左右を見回し、私は問いかける。今のところ人影はないが、あまり一か所に留まらない方がいいだろう。
    「とりあえず、どこかの建物に忍び込みましょう。ベルに言われた通り、まずはコンピューター端末にエロ犬を繋いでみるわよ」
     クラィはそう答えると、私の肩から飛び降りたラダーに視線を向ける。
    「ふっふっふ、期待していてくださいっす! まあボクにも何が起こるのか、さっぱり分からないっすけどね!」
     妙に自信ありげな様子で応じるラダーに、クラィは深々と嘆息する。
    「……めちゃくちゃ不安だわ」
     そうして私たちは街の外周方向へと歩き始める。中心部の方が誰かと出くわす可能性は高いと判断したからだ。
     しばらく歩くと塀の切れ目が見えてきた。いざというときにクラィが自由に動けるよう、私はレヴィを代わりに背負う。胸に穴の開いたレヴィの体はだらんと弛緩しており、小柄な割に重く感じた。
     ――早く、直してあげないと。
     レヴィが撃たれた瞬間に脳裏を過ぎった記憶は、夢のように薄れてしまっている。だけど、彼女が自分にとって大切な存在であるという認識は揺るぎない。
    「……ここは、無理そうね」
     クラィは塀の角から敷地の中を覗き込み、小さく呟く。手招きをされたので、私もそっと顔を出してみた。
     大きな建物へと資材を運び込む人たちが見える。そして彼らを監視するように、銃を持った銀色のドール――レヴィを撃ったのと同じ戦闘用マシンが立っていた。
    「ワーカーはここでも酷使されているみたいね。ベルの話が本当なら、じきに解体されて戦闘用マシンの材料にされるっていうのに……」
     歯がゆそうな面持ちで呟くクラィ。本当は今すぐ飛び出したいのだろうが、それをぐっと堪えて私に言う。
    「――引き返しましょう。反対方向に進んで、人気のない施設がないか探した方がいいと思うわ」
    「うん……そうだね」
     レヴィが壊された時の激しい感情がこみ上げてきそうになっていた私は、奥歯を噛み締めて頷く。またあの時のように命令一つで戦闘用マシンを壊せる保証はない。仮にできたとしても、それをクラィに見せたくはなかった。あの時のクラィは――まるで化け物を見るような目を、私に向けていたから。
     私たちは足音を忍ばせながらその場を離れ、反対方向へ向かう。するとすぐ十字路に出て、私たちは右に曲がった。この辺りは裏路地のようで、扉が異様に少ない。あったとしても完全に施錠された裏口ばかりだ。
     しばらく進むと再び塀の切れ目が見えた。先ほどと同じようにクラィが先行し、私は様子を見守る。
    「ぱっと見た感じ……誰もいないわ。何の施設かは分からないけど、今は使われてないみたい。いい感じに狙い目ね」
     クラィは私を呼び寄せ、二人で敷地の中へと入る。何となく平べったい印象のある一階建ての四角い建物だ。入口はきっちりロックされており、押しても引いても開かない。
    「……どうしよ、私が命令したらエレベーターの扉みたいに開くかな?」
     私はクラィに問いかける。
    「たぶん開くとは思うけど……それはこの場所にミリィがいることを知られることになりかねないわ。下手に上位権限を使うより、もう少し原始的な方法でいきましょう」
     クラィは思案した後、建物の外周に沿って移動した。裏手に窓を見つけたクラィは、機械の腕で躊躇いなくガラスを叩き割る。大きな音が響き、私はびくっと体を固くした。
    「く、クラィ、こんなことして大丈夫なの?」
     焦って問いかけると、クラィは開き直った笑みを浮かべる。
    「まあ誰かが侵入したことは気付かれるかもしれないけど、ミリィがいるってことまでは伝わらないわよ。とにかくコンピューター端末がないか探しましょう」
     割れた窓の手を突っ込んで内側から鍵を外し、窓を開けるクラィ。軽々と中へ飛び込み、私からレヴィを受け取った後、私が中へ入るのも手伝ってくれる。最後に外のラダーを私が引っ張り上げ、私たちは内部の探索を始めた。
     埃の積もり具合から見ると、結構前から誰も立ち入ってない場所らしい。部屋は真っ暗で電気が来ているかも怪しく思える。
     これでは望み薄だろうと私は考えるが、意外にも目的のものはあっさり見つかった。
     そこは恐らく、施設内の監視を行う部屋。たくさんのモニターとそれを制御するコンソールがある。だがモニターは真っ暗で、コンソールに触っても反応はなかった。
    「電源を入れないとダメね。どこかにそれっぽいボタンはないかしら」
     クラィは難しい顔で呟き、適当にボタンを押し始める。だが全てのボタンを押しても、反応はなかった。
    「……ダメね。ケーブルを接続する端子はあるみたいだけど、電源が入らないんじゃ、どうにもならないわ。やっぱり生きた施設に行かないとダメみたい」
    「ちょっと待ってくださいっす! その前に、試しでケーブルを繋いでみないっすか?」
     ラダーはそう言って、ケーブルが格納されている尻尾を振る。
    「……意味があるとは思えないけど、まあいいわ」
     全く期待していない様子でクラィはラダーのケーブルを引き出す。
    「あふんっ」
    「だから変な声を上げないでよ!」
     喘ぐラダーを軽く蹴飛ばし、クラィはケーブルを部屋のコンピューターと接続する。
     だがその途端――部屋が明るくなった。
     モニターが一斉に点灯したのだ。コンソールのボタンも縁が輝き、薄らと浮き上がって見える。
    「あ、あんた何したの?」
     驚いてラダーに訊ねるクラィ。
    「わ、分からないっす! 動けって思ったら動いたっす! あ――な、何か色々分かるっすよ! とりあえずレヴィ姐さんを直せそうな施設を探してみるっす!」
     ラダーがそう言うとモニターに表示された画像が目まぐるしく切り替わる。
    「すごい……」
     正直、何をやっているのかは理解できないが、私は画面に表示される情報を見て感心する。
    「――んー、ここは中央のネットワークからは切り離されてるっすね。更新時期が古くて不安っすが、一応第二層のマップはダウンロードできたっす。狙い目は工場よりも、メンテナンス用の施設っすよ。近くにあるみたいっすから、付いてきてくださいっす!」
     ラダーはそう言うとケーブルを引き抜き、部屋を飛び出す。
    「あっ、待ちなさいよエロ犬!」
     クラィが声を上げ、私たちはラダーの後を追う。割った窓から私たちは外に出て、先導するラダーについて行った。
     そして、先ほどの建物より比較的新しい施設に辿り着く。
    「ここがメンテナンス施設っす! 工場よりも重要度は低いっすから、たぶん警備はないはずっす」
    「メンテナンス施設でレヴィは直せるの?」
     私はラダーに問いかける。
    「たぶん大丈夫っす。必要な部品があった場合、この施設は付近の工場から自動でそれを取り寄せる仕組みになってるっすから」
     すらすらと答えるラダーに、クラィは訝しげな視線を向けた。
    「あんた……いったいどうしちゃったのよ? どうしてそんなことが分かるの?」
    「分かるものは分かるっすよ! たぶん中央のネットワークに接続できれば、もっと色々分かると思うっす。姐さんのために、発電所の制御施設も探し出してみせるっす!」
     自信ありげに請け負うラダー。
     私たちは周囲を確認しながら、メンテナンス施設へ入っていく。現在、施設を利用している者はいないようだ。ラダーの言う通り、警備をしている戦闘用マシンも見当たらない。
    「こっちっす!」
     ラダーは奥の施術室へ私たちを導いた。
     天井には複雑な機器が設置され、奥には操作パネルらしきものが見える。部屋の中央には大き目の施術台があり、私たちはその上にレヴィを横たえた。
    「レヴィ……」
     顔に掛かった髪を指先で払ってから、私は部屋を見回す。
    「……ここから、どうすればいいんだろ? 私たち、施設の使い方なんて分からないけど……」
    「大丈夫っす! ここもボクに任せて下さいっす! さあ姐さん、また接続してくださいっす!」
     そう言ってラダーはクラィに尻を向ける。
    「またやるの……? 正直、もうヤなんだけど」
     顔を顰めながらもクラィはラダーの尻尾からコードを引き出す。
    「あうんっ」
    「いい加減にしなさい!」
     体を震わせるラダーの頭を軽く叩き、クラィは操作パネルにコードを繋げた。
     すると先ほどと同様に画面が明るくなる。
    「この施設はネットワークに繋がってるっすね。あ――」
     だがそこで、ラダーは突然体をびくりと硬直させた。
    「え、エロ犬? どうしたの?」
     クラィが慌ててラダーの体を揺する。
    「そういうことだったんすね――全部、分かったっす。思い出したっす!」
     ラダーはそう呟くと、私の方に視線を向けた。
    「マスター、ボクの〝オリジナル〟が話したいって言ってるっす」
    「え――?」
     私は意味が分からず間の抜けた声を上げる。
     ブンッと画面が一斉に切り替わった。複数のモニターが全て同じ映像を映し出す。
     そこに現れたのは、髪の長い男性の顔。顔立ちはとても整っており、瞳は左右で色が違った。
    「だ、誰よ、この気取った感じの男は――」
     突然のことに驚くクラィ。彼は切れ長の目を細め、私たちに微笑む。
    「おお、ミリィ――百年ぶりだな」
     そのよく通る声音は初めて聞く気がしない。ベルと会った時に抱いた既視感と同じものを抱く。
    「あなたは……誰?」
     躊躇いがちに問い返すと、彼は少し寂しそうな表情を浮かべた。
    「ああ、やはり分からないのか。俺はルシファー。かつて第二層の魔王だったドールだ」
     その言葉にまず反応したのはクラィだ。画面に詰め寄り、彼――ルシファーを睨む。
    「う、嘘! あんたはサタンに壊されたってベルに聞いたわよ!?」
    「その情報は正しい。俺は確かに、完膚なく破壊された。ここにいるのは、ただの亡霊みたいなものだ」
    「亡霊……?」
     眉を寄せるクラィに、ルシファーは自嘲気味な笑みを向ける。
    「電子頭脳が壊される寸前に、ネットワークを通じてパーソナルデータのバックアップを取ったのさ。とは言っても、下手な所へ隠せばすぐに見つかる。そこで俺が選んだのが工場で生産中の、マシンの電子頭脳だった」
     ケーブルで接続されたラダーに視線を向け、ルシファーは言葉を続ける。
    「マシンに用いられている電子頭脳は、ドールの電子頭脳にリミッターを掛けただけのものだ。ゆえに使われていないデータ領域が多くあり、私はそこに己を潜ませた。君たちがラダーと呼んでいるマシンは、その一つというわけだ」
    「……最初に会った時から変なマシンだとは思っていたけど、それはあんたのせいだったのね」
     クラィは納得した様子で腕を組む。
    「ああ、私のデータが影響を与えていたのだろう。そしてさらにミリィがマシンとしての機能制限を解除することで、私はマシンの自我と半分混じり合ったのだ」
    「……ちょっと待って。つまりラダーがエロ犬化したのは、あんたの影響ってこと?」
    「まあ、そうなるな。ふふ、私も男性型ドールだからね。魅力的な女性には弱いのだよ」
    「って、さわやかな表情で流してるんじゃないわよ! ミリィ、こいつ本性はとんでもない変態よ。気を付けなさい」
     クラィは真剣な表情で私に言う。

    7tsumi_009.jpg

    「あ、あはは……で、でも、私のお父さん代わりだったってベルは言ってたし、悪い人じゃないと思うよ」
    「おお、さすがは俺の娘だ。この手で抱きしめられないのがとても残念だよ。今の私では一緒に風呂へ入ってやることもできん。すまないな」
     申し訳なさそうに頭を下げるルシファー。
    「やっぱり間違いないわ! こいつやっぱりエロ犬と中身は一緒よ!」
     クラィの言葉にルシファーは余裕の笑みを浮かべた。
    「はは、君の罵倒は心地よいな」
    「しかもドMだし!」
     私を庇うようにクラィは手を広げる。
    「――だが、歓談はここまでにしておこう。あまり時間は無駄にできない。まずはレヴィの修理に掛かるとしようか」
     苦笑を浮かべたルシファーは急に真面目な口調で呟いた。すると部屋の機器が一斉に動き出して施術台のレヴィを取り囲む。
    「直して……くれるの?」
     私が問いかけると、ルシファーは真剣な表情で頷く。
    「もちろんだ。ただしオリジナルセブンの規格に合う部品を調達するには、工場のラインにも干渉しなければならない。時間も掛かるし、ハッキングに他の魔王が気付く恐れもある。無事に施術を終えられるかは、運次第だな」
    「じゃ、じゃあ――レヴィが直るまで、私はここを守るよ!」
    「……いいのか? ここに留まれば留まるだけ、状況は厳しくなる。上層を目指すなら、レヴィのことは俺に任せて先を急いだ方がいいと思うが」
     ルシファーは心配してくれるが、私は首を横に振る。
    「ううん、私はここにいる。まずレヴィを直すって決めてきたから! もしピンチになっても力を合わせれば何とかなるよ」
     私の言葉にクラィも頷く。
    「――そうね。私も、そんなミリィに付き合うって決めてる。だから無駄口叩いてないで、とっとと修理を進めなさい!」
     それを聞いたルシファーは愉快そうに笑った。
    「はっはっは――力を合わせれば何とかなるか。その楽観、その慢心、悪くない。人間らしく、そして心地いい〝傲慢〟さだ。分かった、できるだけ早く施術を終わらせよう」
    「ボクも頑張るっす! 効率的な修理プロセスの演算を手伝うっすよ!」
     ラダーも声を上げる。それを聞いたクラィは、ラダーに問いかける。
    「えっと……あんたは、ルシファーと同一人物ってこと?」
    「ボクはボクっすよ! オリジナルとはまた別っす。二重人格みたいなものっすね」
    「ふぅん……まあいいわ、じゃあ頑張りなさい。後で踏んであげるから」
    「了解っす! 燃えてきたっすよ!」
    「……やっぱりドMなのね」
     クラィは呆れたように嘆息する。
     それから私たちは、施術の邪魔にならないようモニターの前でじっとしながら、レヴィの修理が終わるのを待った。
     専用のアームが目まぐるしく動き、コンベアに乗って運ばれてきた部品が瞬く間に消費されていく。
     だがそれでも施術は数時間に渡った。途中から私はクラィの手を握り、このまま無事に終わることを祈る。
     しかし現実は甘くなった。モニターに映し出されたルシファーが、固い声で警告する。
    「――どうやら、俺たちの存在が察知されたようだ。手勢を引き連れて、こちらへ向かってくる者がいる」
    「だ、誰!? まさか、サタン?」
     クラィが問い返すと、ルシファーは首を横に振った。
    「いや、違う。敵は〝暴食〟のベルゼブブ。第五層の魔王だ」
    「ベルゼブブ――第六層で城の爆破に巻き込んだはずなのに……生きていたのね」
     私はクラィの呟きを聞き、崩落するレヴィの城を思い出す。
    「防衛戦をしなければならない今の状況では、最悪の敵だな。単純な戦闘能力で言えば、奴はオリジナルセブン最強だ。まともに戦っては勝ち目がない」
    「そんなにヤバい相手なの?」
     緊張した声でクラィは訊ねる。
    「ああ、奴はあらゆるものを〝食べる〟。食欲に憑かれ、そのために己を極限まで強化した魔王。獲物を捕らえ、喰らうには、力がいる。圧倒的な暴力こそが、絶えぬ食を支えるものなのだ。奴にミリィを認めさせるには、力でねじ伏せるしかない」
    「ち、力って、そんなの無理に決まってるでしょ!」
    「そうだな。だが――君が協力してくれれば、わずかに可能性は生まれる」
     真剣な眼差しをクラィに向けるルシファー。私は何となく、嫌な予感を覚えた。
    「あたしにできることなら何でもするわよ。だからさっさと言いなさい」
    「――返事はよく考えてからしてくれ。何故なら俺の提案とは……君を改造することなのだから」
    「な……」
     絶句するクラィ。私もその言葉には黙っていることなどできなかった。
    「どういうこと? クラィにひどいことをするのはダメだからね!」
     私がそう言うと、ルシファーは説明する。
    「俺は彼女に、ある機能を移植したいと考えている。それはかつて私が有していた力だ。パーツの予備はあるので、時間は短くて済む。外見が醜くなることもない。この改造を施せばベルゼブブとの戦いで有利に立ち回ることができるだろう」
    「…………」
     クラィは考え込むように、顔を伏せた。
     その様子を見て、私は言う。


    → 無理しないでいい。何か他の方法を考えよう。

    → 改造を受けるのは、私じゃダメなの?

    → この施設を離れ、他の場所でレヴィの修理を行おう。


    投票は終了しました。


    ―――――――――――――――
    籠村コウ 著
    イラスト ゆく

    企画 こたつねこ
    配信 みらい図書館/ゆるヲタ.jp
    ―――――――――――――――

    この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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    ライトノベル・ゲームノベルポータル「みらい図書館」
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