発信箱:放射線を見る「目」=青野由利(専門編集委員)
毎日新聞 2013年09月13日 00時37分
画家のゴッホは三原色のうち緑と赤が見分けにくかった? そんな説があると脳科学者から聞いた。同じような色覚の人が普通の絵を見ると色あせて見える。だが、ゴッホの絵はほぼ同じか、より鮮明に見えるらしいのだ。
その真偽はともかく、世の中にはごくまれに4色の色覚の持ち主がいるとの話もある。では仮にその4色目が放射線だったらどうなるか。
安倍晋三首相が「状況は制御されている」と胸を張った福島第1原発は、あちこちがギラギラ輝いて見えるに違いない。除染がうまくいっていない場所もわかる。線量の高いところを避けて通ることもできそうな気がする。
幸か不幸か、人間は放射線を見る目を進化させる必要がなかった。代わりに今、注目されるのが個人線量計だ。福島県の一部で配られている新型線量計は1時間ごとの被ばく線量を知ることができる。いつ、どこに行った時に、被ばく量が増えたかわかり、行動に気をつけることもできる。国はさらに貸し出しを増やす予定らしい。
除染がうまくいかないから住民の自己責任で帰宅させるつもり?と疑心暗鬼になる人もいるだろう。でも、どんな判断をするにも、被ばく量は自分で知った方がいい。むしろ、線量計は最初からみんなに配るべきだった。配るだけでなく、その特徴をよく説明する。地域の人が集まって、線量計の値と行動の関係を確認しあう。「安全だ」「危険だ」と言葉でいわれるより、ずっと納得しやすいのではないだろうか。
もちろん、同じ絵を見ても感じ方が違うように、同じ線量をどう感じるかは人それぞれ。その気持ちも尊重したい。