地域同和 第44回 〜子育てサ−クル初体験〜  じんけん/2003年4月号掲載


「うっ、うっ、うぇ−んっ!」
 口をへの字に曲げ、赤い顔をして、涙をポロポロと流す息子。息子も生後半年を過ぎて、人見知りを始めた。
ご近所の方が声をかけてくれる。
「大きくなったね」

せっかく笑顔を向けてくださっているのに、息子は顔をくしゃくしゃにして泣き出してしまう。なんだか申し訳なくなる。

銀行の窓口で、受付の女性と目が合う。たったそれだけのことなのに、やっぱり息子は泣き出してしまう。おそるべし、人見知り。普通のコミュニケ−ションがとれないのだ。こうした日常に困りながらも、息子の成長がちょっぴり嬉しくもある。だって、自分にとって大切な母親と、それ以外の人がわかるようになったということでしょ?しかし、いつまでも人見知りをしてしては、息子にとってもよくないだろう。やっぱり同年代の子供たちや、大人のいるなかで、コミュニケ−ションをとれるようにしないといけないのではないだろうか。

それに私自身、ママ友達がいたほうが何かと心強いに違いない。こう考えて、以前お誘いをうけていた子育てサ−クルに参加してみることにした。


私が参加したのは、八日市市に住むママたちがつくっている子育てサ−クル「どんぐりん」。「どんぐり」ではなく、「どんぐりん」である。専業主婦のママたち三人が立ち上げたばかりのサ−クルだ。ちなみにこの「どんぐりん」というネ−ミングは、某テレビ局が放送している子供向け番組の中に出てくるキャラクタ−からとったそうだ。子供でもわかりやすい名前を・・・ということで、名付けたという。

で、その「どんぐりん」は、八日市市の中央公民館の別館をかりて開催された。第一回目の参加者は、私と息子を含めて、ママ七人とその子供たち九人の総勢一六人だ。息子と私を誘ってくれたママの娘さんがそれぞれ六カ月。この子たちが最も小さく、上は三歳までの子供たち。畳の敷いてある部屋で走り回る元気な子供。もちろん息子は、まだ歩くことができないので、私の前で、ちょこんとお座りをして、ポケ−ッとあっけにとられている。初めての環境、初めての刺激。息子は、何を考え、何を感じているのだろう。息子の表情を楽しむ私。

サ−クルでは、まず最初に某テレビ局の体操のビデオにあわせて、それぞれが元気に歌って踊る。体操のお兄さんの隠れファン(別に隠れる必要はないのでしょうが・・・)である私は、ビデオに嬉しくなってしまい、息子を前に座らせて手を動かしながら、ついつい大きな声で歌ってしまった。あ〜っ恥ずかしい・・・。

次は、手遊び。私は「結んで開いて」とか「げんこつ山のたぬきさん」くらいしか知らないけれど、「キャベツの中から、お父さん青虫・・・」とか、初めて聞く歌も多い。「ひゃ−、この歌も知らないわあ。駄目なママでちゅねえ〜」

息子と一緒に、みんなが歌うのにあわせて、歌ったり手を動かしたりした。私にとっては、とてもいい勉強になった。息子も何だか嬉しそう。覚えて帰って、家でもやってみようと思って、一生懸命耳にメロディ−をインプット(実は、家に帰ったらもう忘れてしまっていたのだけれど。最近、物忘れが激しくて・・・)。

手遊びが終わると、今度は絵本の読み聞かせ。図書館で借りてきたというかわいらしい絵本を読んでくれた。子供たちは、絵本の前にちょこんと座って、じ−っと耳を傾けている。素人さんなのに、とても上手に本を読んでくれる。私の息子も、絵本は大好きなので、目をキラキラと輝かせている。私がいつも読んでいる「こぐまちゃん」シリ−ズや、松谷みよ子さんの絵本とはまた違う内容に、ワクワクしているみたい。

次は、紙芝居。これまた読んでくれるママが上手。どこかで習ったのかしらと思うほど、物語の登場人物になりきっている。地を這うような低い声や、子供のような高い声までを自在に操っている。お見事。私まで、紙芝居の世界に夢中になってしまった。

紙芝居の後は、折り紙。折り紙でかわいらしい箱を作った。まずは節分にちなんで、みんなで豆まき。「キャ−ッ」という歓声とともに、鬼に扮したママさんたちが登場。
「鬼は外!福は内!」
 元気な声が響く。子供たちは駆け回りながら、本気で豆をぶつけている。
「痛い、痛いってばぁ〜」
 と、鬼は早々に退散。子供たちのエネルギ−は凄いのだ。

豆まきが終わると、紙飛行機をつくったり、折り紙を切って輪にしてヒラヒラと落としたり・・・。上から下へと舞う折り紙の輪は、まるで水中を泳ぐ魚のよう。息子も、折り紙を取ろうと、手を伸ばしている。ママさんが青い折り紙を手渡してくれたのだけれど、息子は上から舞い降りる折り紙をつかみたいらしい。でも、ふわっと舞っているので、なかな
か簡単にはつかめない。もう少し大きくなったら、つかむことができるようになるだろう。

「もうちょっと、大きくなってからね」
 もどかしそうな息子。

サ−クルは、約一時間にわたっての開催だったのだが、本当にあっというまの一時間。息子にとって良い刺激になったことは間違いないだろう。そしてもちろん、私にとっても子供向けの歌や遊びを知ることができ、有意義な時間となった。子供をもつママたちとも知り合いになれたし。これから子育てについて、いろいろと語り合うことができそうだ。


その後、子育てサ−クルに誘ってくれたママと、行き来するようになった。そのママの娘さんは、なんと息子と誕生日がわずか五日違い。二十三歳という若いママなのだが、子供の誕生日が近いということで、とても親近感を覚えた。
 それにしても、わずか六カ月にして男の子と女の子は違う。

一緒にいると、息子は漬物石のように固まっている。三0分ほど経たないと、本領発揮とはいかない。いつもはベラベラと私に向かってしゃべっているのに、まるで借りてきた猫のようだ。それに比べて女の子はキャッキャッとよくしゃべる。声だって、息子よりも一オクタ−ブくらい高い。まるで私と弟のよう。おしゃべりな私と、余計なことは話さない弟。
 しかし、力は息子のほうが強いみたい。どんなに幼い子供であっても、やはり他人の持っているものが良く見えるのであろうか、一つのおもちゃを二人で取り合うということがある。初めはお互いに様子を見ながら、遠慮がちにひっぱりあっているのだが、えいっと力を込めて一気にひっぱるのは、息子のほう。おもちゃが自分の手に入ると、満足そうな顔を
する。大人の中だけにいると、ついつい子供の天下になってしまい、当然、おもちゃを取り合うというような場面は現れない。しかし、子供同士の空間では、そういった場面は当たり前に現れる。おもちゃをとったり、とられたり・・・。そうする中で、譲り合うということ、一緒に遊ぶということ、他人のものと自分のもの・・・いろいろなことを、子供自身、学んでいくのだろう。子供同士で一緒に遊ばせるということは、子供の成長過程で非常に重要な意味をもつのだと、実感している。             
話が少しそれてしまったが、一緒に遊んでいる子供たちの様子を見ていると、やはり男と女は生まれながらにして違うのだと、ひしひしと感じている。寡黙な男の子と、おしゃべりな女の子。力の強い男の子と、比較的力が弱い女の子。ジェンダ−フリ−が叫ばれる世の中にあって、流れに逆行しているようではあるが、やはり男と女の違いを感じずにはいられない。男らしさ、女らしさって一体なんだろう・・・と私自身、考えさせられている。

子育ては、私にいろいろなことを考えさせてくれるし、教えてくれる。

ところで、息子と前述した娘さんを仲良く並んで毛布の上に寝転がしたところ、なんと、なんろ、息子ったら、彼女のほうにそっと手を伸ばし、手を握ったのだ!さらに、さらに、その手にチュッとするではないか!積極的な息子。手とはいえ、彼女のファ−ストキスを息子が奪ってしまったのだ!いつも私が息子に、チュッッチュッとしているせいだろうか・・・。赤面する私。あらまあ!と私たちママは、顔を見合わせた。

今は、こうしたちょっとしたハプニングも『まあ、息子ったら積極的だこと!』と笑って見ていられる。でもいつまでも、こうしていられるだろうか。
いつの日か、息子が彼女を連れてくる日がくるだろう。
「ぼく、この女性と結婚しようと思うんだ」

そんなトホホなことを言われた日には、平常心ではいられない(と思う)。絶対、私はヤキモチを妬いてしまいそうだ。嫌なママゴンになってしまいそう。息子、ごめんね。あなたのママは手強いわよ。