現場発:日台漁業協定 沖縄の怒り深く
2013年09月11日
沖縄県石垣市の尖閣諸島周辺海域は昨年9月の国有化以降、領海侵入を繰り返す中国当局船に海上保安庁の巡視船が対峙(たいじ)する「あつれきの海」と化した。だが、沖縄の漁業者の不満や怒りは、国有化に絡み日本政府が台湾と4月に合意した日台漁業協定にも向いている。協定により、日本側が尖閣周辺の排他的経済水域(EEZ)で台湾船の操業を認めたからだ。沖縄側に事前の打診なく、マグロの好漁場を台湾側に開放した政府への不信は深い。【井本義親】
「領土問題は大切だが、国有化のあおりで沖縄が不利益をこうむったのは事実だ」。八重山漁協(石垣市)の上原亀一組合長は言い切った。
発端は沿岸国が200カイリ(約370キロ)のEEZで生物資源を管理することを定めた1994年発効の国連海洋法条約。96年に批准した日本は、漁業権の範囲で主張が重なる台湾ともEEZ線引きで協議を始めたが、決着がつかなかった。グレーゾーンとなった尖閣周辺海域で台湾漁船が操業する度、日本側はだ捕せず退去を求めてきた。
ところが政府は4月、日台漁業協定に調印。尖閣国有化後、領有権を主張する中国と台湾の連携を阻止する狙いから、日本が漁業権で台湾側に譲歩した。双方の主張が重なる範囲に加えて、台湾が主張していなかった八重山諸島北側や久米島西側のマグロの好漁場でも台湾船の操業を認めた。沖縄県や沖縄県漁連はこの好漁場を水域から除外するよう求めているが、政府は応じない姿勢だ。
クロマグロ漁のピーク時の4〜6月、台湾漁船はこの漁場で40〜50隻が操業したとみられている。一方、沖縄の漁業者の多くは漁具の破損などを警戒し、この漁場での操業を自粛している。
沖縄のマグロはえ縄漁は長さ数十キロにもなるはえ縄を、複数の漁船が約5〜8キロ間隔に並んで航行して流していく。はえ縄がからまないようにするためだ。だが、台湾船の間隔は狭く、約4キロしか離れないのだという。実際に数百万円する高価なはえ縄が切れる被害も出ている。
更に、水域付近に点在する沖縄側が設置した浮き魚礁にも台湾船のものとみられるはえ縄が絡まったケースも報告されている。
上原組合長は「好漁場に行けないこと自体が大きな被害だ」と協定から好漁場を除外するよう求める考えだ。